【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ 作:12club
side:ユーリ・ベオルブ
まだ日も浅い暗がりの中。
ドグーラ峠に駐留している南天騎士団に動きが見えた。
さっそく囮――ラムザたちに食い付いたか。
狼煙を一本上げる。
ラムザたちに遅れて、オレたち北天騎士団が出撃する合図だ。
オレは口数少なく、整列する騎士団に向けて大声で出陣の音頭を取る。
「ドグーラ峠を占拠する南天騎士団が動いた! 北天騎士団の精鋭たちよ! 今こそかの要衝を打ち崩す時! 進めッ!!」
ザッと足音を立てて進軍する北天騎士団。
ドグーラ峠の最前線は既に、ほぼ崩壊の様相を示していた。
ラムザたち、オレたちと南天騎士団が全面対決にならないよう、わざと派手に動いてくれたな。
ここは恩に着るとしよう。
だがあいつも、いつまでもこの近辺でグズグズしているわけにはいくまい。
オレたちはその後に残った南天騎士団を片付けて、ドグーラ峠の所有権を奪うまでだ。
もうひとつ言えば、それだけでオレたちの勝ちだ。
アイリたちもそれを見れば無理強いせずに飛燕騎士団を退くことだろう。
ここはオレも無理に攻めることはしない。
ドグーラ峠の前線に改めて陣を張り、慎重に攻め上げる。
一気に攻め立てれば、大雑把な計算だが敵軍の思うつぼだ。
敵の援軍に、アイリの飛燕騎士団がすぐにでも動けるよう、来ているはず。
敵陣を突破するのは、連中がどう動くのかを見てから決めても遅くはない。
攻め上がってくるなら守る。事態を静観するようなら攻める。
戦場の妙はいかにイニシアティブを取るかによって決まる。
まずはオレたちの勝ちだ、アイリ。
side:アイリ・サダルファス
狼煙が上がったのを見て、私たち飛燕騎士団はさっそく動き始める。
今の狼煙は多分、北天騎士団出撃の報を知らせる合図だ。
となると、ラムザたちがドグーラ峠の前線部隊とぶつかった頃合いだろう。
悪いけど、ここではラムザの邪魔はしない。
ドグーラ峠の駐留軍には少し気の毒だけど、いつでも部隊を後退することが出来るよう、準備の時間が必要だ。
それは駐留軍も同じだ。
彼らがひとりでも多く戦場から離脱できるよう、少しでも多く根回しをしておく。
私は飛燕騎士団の指揮を部下のひとりに預けて、単身、黒チョコボで戦場を俯瞰する。
技は必要ない。
空高くから見下ろせば、それだけで戦闘の全てが見えた。
敵の陣地、進軍経路。
自軍の離脱経路、敵軍の撤退時期。
「……よしっ」
私はパシンと両の頬を張った。
戦闘開始だ。
飛燕騎士団の妙技である、撤退戦だ。
狼煙を三本上げるよう、自軍陣地に向けて合図する。
間もなく、青、赤、黄色の三本の狼煙が上がった。
北天騎士団の戦線を見やる。
予想通り、狼煙を見た前線の動きが鈍った。
私はその隙を縫って自軍陣地に舞い戻る。
「状況は!?」
私の姿を見止めた部下のひとりが敬礼で迎えた。
「はっ! 団長の号令ひとつでいつでも実行可能です!」
「オッケー! 今よ!」
「承知しました!」
伝えて、私は再び黒チョコボで空へと舞い戻る。
合図と共に、峠に爆音が響いた。
もうもうと土煙を上げて、峠道が大きく土砂崩れを起こしたようにふたつに割れる。
私はグッとガッツポーズを決めた。
「峠道を封鎖して、北天騎士団の追撃を防ぐと同時に南天騎士団の撤退路を確保……、初撃はまずまずってとこかしら。どうだ、ユーリ!」
これで北天騎士団の進軍経路は封鎖した。
同時、南天騎士団も余裕を持って東側――ベルベニア方面に離脱することが出来る。
もちろん、私はこれで手を緩めるつもりはない。
第二幕の始まりだ。
side:ユーリ・ベオルブ
「状況は!?」
「爆発です! 峠道の一本が土砂崩れを起こして封鎖されました! これではまともな陣形を保ったまま進軍も出来ません!」
「くそッ、定石通りなら隊列を細めて、縦列陣形に組み替えて進軍すべきだが……」
落ち着け……。
定石を踏まえたなら相手の思うつぼだ。
だが、ここは。
「……陣をここで改めて構築、少数の部隊に分けて裏道を迅速に行軍させろ! 敵部隊を後背から叩け!」
と。
「大変です!」
「どうした!?」
指示を飛ばすのも束の間、大慌ての様子で斥候が戻ってくる。
「奇襲です! 我が軍の後方部隊が敵騎士団の攻撃を受け、既に潰走中! 被害は少ないものの、戦線はまともに機能していません!」
「……やってくれる!!」
ダン、とテーブルを叩く。
今になって思い知る。
オレはどうにも団体の指揮とやらにはとことん向いていないらしい。
どこでアイツとこんな差が出来たのか。
頭の中身を取っ換えてみなけりゃわからんと思うほどだ。
「いかがいたしましょう!」
深呼吸する。
まだだ。
まだ負けたわけではない。
ただ相手に裏をかかれただけで、自軍が不利に陥ったと思い込んでいるだけだ。
「……本陣はこのまま、ここに再構築! 奇襲された部隊も、戦闘可能なモノもこちらに呼び寄せてしまえ! ここを中心に、防御陣形を維持せよ!」
こうなったら意地の張り合いだ。
幸運にも、自分の部隊は百戦錬磨の北天騎士団。
どのような運用にでも耐えうる軍勢だ。
敵が奇襲で来るなら、こちらは動きを見せずに防衛に徹する。
"亀の甲羅"作戦だ。
もっとも、こんな作戦を取らされている時点でこちらの軍はジリ貧なわけだが。
「早馬を用意しろ! 充分な防衛部隊をここに残して、最低限の兵は自分に続け!」
「いかなるおつもりで!?」
「自分が出る! 敵軍がこれ以上こちらに被害を及ぼすようなら、敵本陣を奇襲する!」
「将軍自らですか!?」
「そうだ!」
「危険です! 将軍といえど、最低限の部隊では!」
「構わん! 自分の身を案じる前に、まずは本陣を死守せよ!」
言い合って、こちらに届いたチョコボに即座に騎乗する。
数人の兵を伴って、オレは本陣を後にした。
チョコボを駆けさせながら、兵がオレに言葉をかけてくる。
「急いておられますな」
「この眼で見ておかなければならない顔がいるのでな」
「知己、ということですか?」
「どうにも解せない。ヤツにこんな用兵が出来るということが……。どこでこんな差が出たのやら……」
後半の言葉は独り言のように、オレの口の中でもやもやするように溶けて消えていった。
side:アイリ・サダルファス
モシャモシャ。
乾パンを口にしながら、私は改めて空から戦闘の状況を見極める。
峠道の一番大きなモノを爆砕して、敵軍の動きを遮断することに成功。
さらに先んじて、本陣の後方に展開している部隊を奇襲することにも成功。
結果として数個の部隊は潰走し、中には戦線を散り散りに離脱するする兵もいるだろう。
一槍して二にも三にも突き崩す、といった感じだ。
ここまでは十分な成果と言えた。
もう一押ししたいところだけど……。
「……ああまで閉じこもられたら手の出しようがないわね……。早いけど、ここが引き際かしら」
ドグーラ峠の前線自体はあちら側に許してしまったけど、結果として負けではない。
向こうが持久戦を選ぶなら、こちらも軍を再編して最前線に陣を築いて同じく、防御に手を尽くすまで。
そして向こうがやがて撤退してくれれば、改めてこちらから攻めかけるまで。
これで差し引きゼロだ。
それにしても。
「……ユーリ、弱いなあ」
ちょっと拍子抜けしたというのが、正直なところだ。
確かにユーリは武芸に秀でていたし、直感も冴えている。
それがこういった戦場の部隊指揮という場面では、生きなかったということだろうか。
さてそれでは、と。
こちらも軍を後退させようとしたところで。
「ん?」
少し南天騎士団の後方が慌ただしい。
というか、飛燕騎士団の後背のようだけど。
「なに、アレ……?」
黒獅子の旗をひらめかせる軍隊が、飛燕騎士団を攻撃しているように見えた。
side:ディリータ・ハイラル
「まずは一当て、といったところか」
「やってしまった後で聞くのも何だけど、本当にこの指示で良かったの?」
バルマウフラがオレに怪訝な表情で問いかける。
「北天騎士団はドグーラ峠に防御陣形を敷いて領地を占領している。だがその奪還のために援護に来た飛燕騎士団は逃げの一手だ。これではオレの黒羊騎士団は動けない」
「邪魔だから、無理矢理退かせた、と」
「黒羊騎士団の軍法に敵味方の別はない。邪魔者は排除して最良の結果を得る。ゴルターナ公も結果さえ出せば納得するだろう」
会話がてら、戦闘の方向へと眼を向ける。
黒羊騎士団の予想し得なかった攻撃に飛燕騎士団は多少うろたえはしたものの、撤退路自体は確保していたのだろう。
突然の味方からの強襲にうろたえるも、その逃げ足は速い。
「初手はこんなものでいいだろう。後は想定通りにいけば合図が来る頃だ」
と、オレが独り言を繰っている合間に、斥候が駆け付けてきた。
「団長、準備は完了です」
「よし、やれ」
斥候がその場を去って、間もなく赤い狼煙が立ち昇った。
爆音が、峠を支える崖からいくつも響いた。
崩された崖が岩崩れとなってそこかしこから大きな音を立てて峠道を砕き、崩していく。
そう、今なお亀のように引きこもっていた北天騎士団の本陣を巻き込んで。
斥候が戻ってくる。
「結果は?」
「想定以上です。敵軍の本陣は壊滅、西側からの峠道も完全に塞がれました」
「飛燕騎士団を囮に使った甲斐があったな。黒羊騎士団全軍に通達、残された峠道の最前線に駐留部隊を送れ」
「はっ!」
斥候が去っていく。
もう間もなくすれば、ドグーラ峠は南天騎士団のモノとして戻ってくるだろう。
北天騎士団を駆逐して、南天騎士団の手に落ちる。
峠道などで相争うなど愚の骨頂だ。
こうして地盤を砕いてやれば一息で崩れる。
「こちらの出番は終わりだ。ゼルテニアに戻るぞ」
「ええ」
バルマウフラを伴って、黒羊騎士団の本陣に戻る。
が。
「ディリータ!!」
怒声に振り向く。
チョコボに乗って高速で走ってきたのだろう。
「なんだ、ユーリか」
「ご挨拶だな……。やってくれたな、ディリータ」
「戦争だ。挨拶も何もあるか」
「おまえのおかげで北天騎士団の本陣は壊滅だ。さぞかし満足だろうな」
「そう言うおまえは数人だけでオレの本陣に強襲か? 偶然、本陣を離れていたのはラッキーだったな」
「おまえのそう言う顔が見たいわけではなかったんだがな……。これも運命か」
「オレを殺すか? おまえも大概、時代の波に流されて生きているんだな」
「おまえは違うのか?」
「さあな」
ヒュっと指笛を吹く。
崖崩れを起こした辺りに待機させておいたチョコボが二頭、オレたちの傍に駆け寄ってきた。
「逃げるのか、ディリータ」
「これは貸しにしておいてやるよ。いい機会だ、この戦乱が一体どういう意味を持つのか、無い頭で少しは考えてみろ」
「おまえには見えているのか? この流れの果てが」
「オレは……、いや、今はいい」
チョコボに腰を跨いで乗り付ける。
これ以上ユーリにかかずらう必要もない。
「待て!!」
ユーリの台詞を背中に受け、そのまま受け流してオレとバルマウフラは黒羊騎士団の本陣へと向かった。
side:アイリ・サダルファス
飛燕騎士団が黒羊騎士団に攻撃された。
その事実に困惑する。
「黒羊騎士団……、ディリータの差し金か……」
事態は深刻だ。
北天騎士団が亀のように縮こまっていたのが仇となった。
ディリータは、私たちがそう仕向けることを狙って北天騎士団と、飛燕騎士団に大打撃を与えたのだ。
アイツのやることは合理的だ。
南天騎士団が勝つには、ドグーラ峠に駐留した北天騎士団を諸共に峠道を完全封鎖すれば良い。
しばらくは峠道の通行も不可能だろう。
私は飛燕騎士団の本陣へと、黒チョコボで舞い降りて部下を呼んだ。
「アイリ副官、ご無事でしたか!」
「労いの言葉はありがたく頂いておくわ。それよりも、即座に飛燕騎士団の本陣を解散させて!」
「次なるご指示は!」
「部隊をいくつかのグループに再編! 崖崩れに巻き込まれた隊員をひとりでも多く救助して! 投降を示している北天騎士団も受け入れて!」
「了解しました!」
部下が斥候を呼びに走り去っていく。
斥候からの指示が間に合えばいいんだけど……。
ともかく、今はディリータの無法に巻き込まれた数少ない生存者を助けるのが先だ。
念のためにいくつか脱出ルートを用意しておいてある。
峠道の崩壊は主に西側だ。
東側はとりあえず無事だし、ディリータもこれ以上の無体は働かないだろう。
それにしても。
「……やってくれたわね、ディリータ」
すぐさま本陣の天幕が片付けられ始める。
戻ってきた部隊もさらに複数のグループに編成し直して、要救助者たちの支援に向かわせる。
と。
「無事か、アイリ!」
遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。
「ユーリ?」
チョコボで疾走してくるユーリが、私の傍に寄るとチョコボから降りる。
口先を尖らせて話しかける。
「北天騎士団の将軍サマが何か用? 今、アンタにかかずらっている余裕は無いんだけど」
「オレだって同じだ。だがおまえに会う必要があると思って、わざわざ来た」
「わざわざなら来る必要ないでしょ」
「雑談はいい。それよりも、今回の戦闘はどういうことだ?」
「北天騎士団の本陣が全滅したってこと? 言っておくけど、飛燕騎士団はそこまで徹底するつもりはなかったわよ」
「わかってる。おまえが誰よりも人死にを嫌っているのはな」
「それが分かってるんなら……」
「だからこそだ。これはディリータの差し金なんだろう」
私は口の中で、へぇーと呟いた。
戦場での駆け引きが苦手なユーリでも流石に分かるか。
「アイツは戦争の長期化を狙っている。もちろん、おまえたち飛燕騎士団もだ。ディリータはおまえたちの存在を利用しようとしている。だからこれ以上、騎士団同士のいざこざを起こすのは止めてもらいたい」
「なるほど。物理的な戦闘では勝てないと悟って、精神的に篭絡しに来たってわけね」
「ディリータのいいように利用されるだけだぞ」
「ユーリの言いたいことは分かってる」
ふむ、と顎に手を当てて思案する。
ユーリの言うことは、正しい。
だけどむやみに戦闘行為を起こされるのは困る。
こっちだって遊びで戦闘を長期化させているわけではないのだ。
西側からはラムザが。
東のゼルテニア本城ではオーラン、そしてオルランドゥ伯が。
それぞれ戦争の早期終結に向けて頑張っている。
そんな状況に、北天騎士団の無体を許すわけにはいかない。
ともあれ、そんな戦況にあって最も茶々を入れてくるのが。
「私たちが相争っている場合じゃないわね。北天騎士団の手綱はユーリが握っていて。ザルバッグさんたちにはまだ信頼されているんでしょ? 私はディリータの動きを注視しておく」
「任された。おまえのいいように転がされるのは癪だが、それが一番の最善だろう」
「ま、出来るなら手加減してくれるとありがたいんだけど」
「そこまで加減できるかどうかは分からん。あんまり期待するなよ」
「ええ、分かってる」
私たち、双子の敵は見定まった。
ディリータ・ハイラル。
これ以上アンタの好きにはやらせない。