【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ 作:12club
side:アイリ・サダルファス
「……サダルファス卿、ただ今、戻りましたー」
へとへとになりながら、サダルファス領に戻った私を待っていたのは、書類仕事に従事するアルガスの仏頂面だった。
相変わらずの不愛想で嫌味の一言でも言いたそうだけど。
「……ドグーラ峠の北天騎士団を殲滅したそうだな。よくやった」
「相手の抵抗が予想以上に厳しくなかったので」
「だが飛燕騎士団の価値は下がったな。常勝無敗には間違いないが、両騎士団が受けたダメージも甚大だったと聞いている」
「ああ、それについてですけどね」
私は居ずまいを正し、口元を引き締めて直立した。
「サダルファス卿、黒羊騎士団とは一体何なんでしょうか」
「何、と言うと?」
「飛燕騎士団は黒羊騎士団に背後から襲撃されました。私は適当に北天騎士団をちょろまかして撤退まで睨み合いを続けるつもりだったのですが、黒羊騎士団はそれを許さずとしてか、我が軍に対して強襲。結果、飛燕騎士団はバラバラになりました。しかもその上、ドグーラ峠の完全爆破です。おかげで飛燕騎士団も北天騎士団も甚大な被害を被りました。といった次第です」
「……黒羊騎士団は完全にディリータの手の平の上だな。ラムザも言っていただろうが、ヤツはグレバドス教会のエージェントだ。戦争の長期化、流血の増大化が狙いらしい。それに業を煮やした両軍がベスラに集結中だ」
「……その調停役を教会が担う、というわけですか」
「正解だ。それには両軍が壊滅的な打撃を受ける必要がある。戦場で戦える兵がいなくなれば、誰も嫌とは言えまいよ」
……結局、今の状況は教会の手の平の上の出来事というわけか。
でも、それだけでこの戦争は終わるのだろうか。
「ねえ、アルガス」
「なんだ」
タメ口になった私への不平はおくびにも出さず、アルガスは書類仕事を片付けながら返す。
「この戦争がどこかおかしいことは、ディリータのことを抜きにしても、きっと誰か知っているはずよね」
「馬鹿馬鹿しい、それを知ってどうする」
「伊達にあちこち見て回ってきたわけじゃないわよ、私も。ラムザなんかその筆頭だし、オルランドゥ伯も教会の陰謀に気が付いているはず。ラーグ公陣営でもダイスダーグさんなんかがそれを見逃しているとは思えないもの」
「だからどうした。これだけの大乱だ、爵位持ちのオレたちだって戦場ではただの一兵卒に過ぎん。上がやれと命じれば
「その状況がヤバいからラムザたちが動いているんじゃない」
アルガスがつと、書類仕事から手を離す。
ペンをデスクに置いて、初めて彼は私の眼を見た。
「おまえはいつも疑問があれば、小難しいことを延々と遠回しにモノを言う。何が言いたいのか、ハッキリしろ」
私は言ってしまってもいいのか、逡巡していた。
これは流石に不敬だと、自分でも分かっている。
でもアルガスは、言え、と命令している。
押し黙ることは出来なかった。
「私、オヴェリア様に会いたいわ」
ガタン、と明らかに不機嫌な音を立ててデスクの椅子が転がった。
アルガスが青筋を立てている。
「貴様というやつは……我が侭も大概にしろ! 言って分かることと分からんことがあるだろうが!!」
分かる分からないはこの際、問題じゃない。
アルガスから得た言質は、言ってもいい――つまり、理由を話せということだ。
「私にはディリータの狙いがいまいち分からない。教会のエージェントとして働いているっていうのは分かる。でもそれ以上に、業の深い何かを企んでいる節が感じられるのよ」
「オヴェリア様なら知っているって言うのか? オヴェリア様もこの戦争に流されて女王を演じているだけだろう!」
「それが分からないからオヴェリア様に直接聞きたいのよ。オヴェリア様は本当にこの戦争の長期化を望んでいるのか、ディリータにただ操られているだけなのか。ディリータが何を狙っているのか、戦争を引き起こしたアイツの魂胆を知りたいの」
「つまりおまえは、オヴェリア様がご自身の意思で女王の座に就いているのか確かめたい。そういうことだな?」
「そういう直感の鋭いアルガスは好きよ」
「馬鹿も休み休み言え」
デスクを立って、書類はそのままにアルガスはハンガーから赤い毛皮のマントをむしり取った。
私はデスクとアルガスを交互に見やって口を開いた。
「行ってくれるの?」
「オレもディリータの動きは気になっていたしな。何よりオレの騎士団を傷つけやがったアイツのドヤ顔を拝んでみたいと思っただけだ」
「この書類仕事の山は?」
「秘書官にやらせる。給金を弾んだらよく働いてくれるからな」
そう言って、そそくさと執務室から出ていった。
さて、私も準備しないと。
こういう時にアルガスに先んじて済ませておくと、彼も少しは上機嫌になることは知っていた。
side:ユーリ・ベオルブ
王都ルザリア。
ザルバッグ将軍の執務室にて、オレは将軍のお叱りを賜ろうとしていた。
だが。
「……ドグーラ峠は崩壊。派遣した騎士団も全滅した、と。そういう言い分で良いのだな?」
「……はっ、全ては自分の責です。どのようなお叱りでも受ける覚悟です」
「いや、ご苦労だった」
「は?」
思いもよらぬ将軍の仰りように、オレは間の抜けた感嘆符を上げていた。
「騎士団の全滅は、差配した私のミスだ。それにドグーラ峠は南天騎士団の要衝。それを完全に崩落させたということは南天騎士団側からもそこから攻め上げることは出来なくなったということ。それによもや自軍も巻き添えにする無体なマネをするとは誰が予測できよう。労いはすれど、おまえが責に負う必要はない」
「……お言葉ですが将軍、軍を預かった身としては任務失敗の上、戦力の多大な被害。何らかの罰を受けなければ身内人事と揶揄されることかと」
「それは心配する必要はない。……ちょうど見えたようだしな」
「見えた? どのような御方が」
その言葉に反応したように、執務室の扉が開く。
オレはすぐさま、その方に向けて膝を突いた。
「お待ちしておりましたぞ、ダイスダーグ兄上」
「久しいな、ザルバッグよ」
言って、ダイスダーグ卿がオレに視線を流す。
「おまえとももう随分と久しくなるか、ユーリ」
「はっ、ご無沙汰しております。ダイスダーグ卿」
本当に、随分と久しぶりだ。
ダイスダーグ卿から受けた裏仕事が脳裏によぎる。
「ダイスダーグ卿がこちらにいらしたということは、もしやラーグ閣下も……?」
「うむ、後に戦場にも叱咤激励のため参られるだろう」
オレはザルバッグ将軍に向き直って、問う。
「ザルバッグ将軍、これはいかなる仕儀で……?」
「今これを以て貴官には将軍職を辞してもらう。代わりにダイスダーグ兄上の補佐を務めるのだ」
すなわち、こういうことなのか。
オレは表舞台から姿を隠し、再びダイスダーグ卿の手駒となれ、と。
「拝命、仕りました」
「よろしい。私はまだ兄上と以後の作戦計画を練る必要がある。おまえは充分に休みを取ると良い。ご苦労だった」
「はっ」
再び、ダイスダーグ卿に向き直る。
「ダイスダーグ卿、再びお目に掛けてくださり光栄至極に存じます」
「よろしく頼んだぞ、ユーリ。下がるがよい」
「かしこまりました」
立ち上がり、オレは執務室を後にした。
今になってダイスダーグ卿がオレを手駒に使うということは、何かしら後ろ暗い計略を練っているということか。
ということは、もしも無事ならガフガリオンも。
いや、もしかしたら、それ以上かもしれない。
オレは再び裏仕事に従事することになる。
それはきっと、ラムザの理想とは相反することになるだろう。
さっき、北天騎士団の手綱を掴んでおいてくれと頼んできたアイリにも。
許せとは言わない。
だが、伝えなければ。
ダイスダーグ卿もまた、この戦争の早期終結を求めているのだろうから。
"ベオルブ家の正義"は、確かにオレの中に根付いていた。
side:ディリータ・ハイラル
ドグーラ峠の仕置きは上々だ。
もはやここから北天騎士団が攻め上がってくることは出来まい。
同時に、南天騎士団もこちらのルートから攻め上がることは出来なくなったが。
だが好都合だ。
これで両軍がベスラに集結する確率がより高まる。
ゼルテニアに戻って、ラムザに会ってやるとするか。
「黒羊騎士団全軍に通達。最低限の兵をドグーラ峠に駐留させ、残りはゼルテニアに戻るぞ」
オレの指示で、騎士団が準備に取り掛かる。
もうこれ以上、部隊指揮する必要もなかろう。
後はゴルターナ公の命令一下で動いてもらえばそれでいい。
「ディリータ」
天幕の外に出たところを、バルマウフラが話しかけてくる。
「どうした」
「両軍がベスラに集結次第、教会に調停工作を仕掛けるよう、準備を督促してくるわ。私がいない間、貴方も遺漏なく準備を進めておいて」
「ここまで来て単独行動か? オレは好きに動くぜ」
「ラムザに会うのでしょう? なら私はお邪魔虫じゃないかしら」
「……まあ教会関係者なら、あんまりいい顔はしないだろうな。あいつは」
「頼んだわよ」
「ああ」
ここまで計画は上々の成果だ。
後はベスラに集結しつつある両騎士団を締め上げながら、隙を伺う。
大きな動きになる。
その中でオレの目的が果たせれば晴れてミッションコンプリート。
それからがオレのスタートラインだ。
待っていろ、オヴェリア。
もう誰にも利用されたりはしない。
オレがヤツらを利用し尽くして、オレたちの人生が輝かしく立ち昇る王国を築き上げてやる。
ヴォルマルフにも、教会にも好きにはさせない。
ヤツらがオレの邪魔をするのなら、たとえ相手が神殿騎士団だろうが容赦はしない。
だから、もう少しだ。
もう少しだけ待っていてくれ。
誰に言うでもなく、オレは独り言ちる。
真昼の晴天は、そんなオレの行く先を占うかのように燦々と地上を照らしていた。
オレの道はそれとは真逆の、奈落のように深い闇だったが。
side:アイリ・サダルファス
チョコボを走らせて幾日か。
私とアルガスはゼルテニア城を目指していた。
「あんまりディリータはいい顔はしないだろうね」
「オヴェリア様に余計な奴と顔合わせさせたくはないだろうからな」
「だからこそ、私たちが会わないといけないって、そう思うのよ」
「前線にヤツがかかずらっている今がチャンスだ。さっさと用を済ませるぞ」
「慌てないでよ。今だってオヴェリア様に、なんてお声がけすべきか考えているんだから」
「そんなのは出たとこ勝負だ。それにこれはいい機会でもある」
「機会?」
「これでオヴェリア様に覚え目出度ければ出世の足掛かりになるだろ?」
はぁ~、と私は大きくため息をつく。
そんな私を見て、アルガスは野心めいたニヤケ面を崩すことは無かった。
「そう景気の悪い顔をするな。これでもおまえには期待しているんだぜ?」
「何をさ」
「オレじゃオヴェリア様にお目通り叶うようなマネは思いつかん。だがおまえは欲望に忠実だ。オレに出来ないことをおまえは出来る、それは数少ないおまえの美点だ」
「……誉め言葉として受け取っておくわ」
――さて。
そんな会話を交わしているのもそこそこに。
ゼルテニアの城塞に辿り着いた。
チョコボから降り、それを引きながらゼルテニア城を目指す。
「で?」
「ん?」
アルガスが私に何か促そうとしている。
何のことやらさっぱりな私は間抜けな声で応えていた。
「どうやって城内に進入するつもりなんだ?」
「あー……」
そこまでは考えていなかった。
とは、なかなか言えなかった。
アルガスがひとつため息をつく。
やっぱりな。
そう言いたげに。
慌てて言い繕う。
「それこそ出たとこ勝負のつもりだったんだけどねぇ……。どうしようかしら」
「おい」
「まあ燻ぶってても仕方ないじゃない。なんとか切り口を見つけましょ」
「……ったく、非公式訪問は筋じゃないんだぞ。オレはゼルテニア城の正面から当たってみる。おまえは外で情報でも探していろ」
「ありがと、アルガス」
言って、私とアルガスは二手に別れることにした。
アルガスがゼルテニア城へ向かって去っていく。
「さて、どうしたもんかしら」
まさか、アドベンチャーゲームじゃないんだから、酒場で情報収集なんて問題じゃない。
雲の上の高貴な方との面会をするのだ。
真正面からぶち当たっても砕けるだけだ。
思いながら、ゼルテニア城の周囲を見回した。
裏口からこっそり入ろうか、などと盗賊めいたことを考えながら城の周囲を眺め回す。
その矢先だった。
……ん?
ゼルテニア城の裏門だろうか。
もうそんな所まで来たのかと思う暇もなく、私はその姿を見止めた。
開いた扉の先から、ひとりの女性が静々と歩いていくのを。
私は知っている。そのお姿を。
ゼイレキレの滝からゼルテニア城へ彼女を護衛した際に、そのお姿をハッキリと覚えている。
オヴェリア様だ。
どこへ行くんだろう。
供も連れずに。
私は周囲に気を配りながらこっそりとその後を追った。
side:オヴェリア・アトカーシャ
ゼルテニア城の裏手には教会跡があった。
私はここでひとりの時間を過ごす。
修道院で過ごした時と同じように、神に祈りを捧げている。
世界中の人々がほんの少し、優しくなれる世界になりますように。
私はいつもそう願っている。
ディリータは私に言った。
私はオヴェリアではない、と。
女王という立場すらよそから用意された幻のようなモノでしかなく、「おまえはただ利用されるだけだ」と。
そしてこうも言っていた。
「オレもおまえと同じ人間だ。立場も定かではない、何者でもなくただ利用される存在だった」と。
だから。
「オレはそんな理不尽をただ味わうだけなどゴメンだ。オレを利用してきたヤツら全てに復讐してやる!」。
私は聞いた。
「貴方は何をしようと言うの?」と。
彼は言った。
「オレを信用しろ、オヴェリア。おまえの人生が光り輝くものになるよう、おまえの王国を用意してやる」と。
「だからもう、そんな風に泣くのはよせ」。
私は彼の胸に体を預けた。
涙はとうに止んでいた。
思えば、もしかしたら、と。
今では思う。
その選択は本当に正しかったのか、と。
私の体は、血まみれだ。
私の女王という衣装が、たくさんの人の血で汚れている。
そして戦いは未だ、止みそうにない。
戦いが続けば続くほど、私の纏う衣装が血塗られていく。
何度も怖気が走った。
私はオヴェリアじゃない。女王というただの神輿でしかない。
寂しさと悲しさ。
それを取り払って得たモノは、まっさらな人生などではなく。
暗黒に染められた黒い血の代償。
思う。
私の光り輝く人生とは何なのだろうか。
ディリータの目指す先はいったい何なのだろうか。
私はもしかしたら、悪魔の甘言に乗ってしまったのではないだろうか。
そう思わずにはいられない。
私は幻のような、利用されるだけの存在だ。
ディリータに用意された器は、ただ血を注ぐだけの神輿なのではないか。
彼の言葉に甘えたあの時から、私は只人ではなくなった。
女王として、他人に流血を強いるおぞましい存在に成り下がったのではないか。
そんな私がただ、まっさらに戻れる場所が、この小さな教会の跡地だった。
ここで祈りを捧げている間だけは、修道院にいたあの頃に立ち戻れる。
血にまみれた女王という衣装を脱ぎ捨てて、裸の自分に、血で汚れる前の私に戻れる。そんな気がする。
世界が少しだけ、みんなに優しくなれますように、と。
かつて抱いたささやかな望みを思い返すように。
ガサリ。
と、音がした。
「ッ!? 誰ッ!?」
思わず大きな声で、物音に叫び返していた。
近くの生垣が音を立てて揺れている。
まさか、刺客?
だとしたら、私はもう……。
「ご、ごめんなさい! お邪魔するつもりはなかったんですが!」
女性の声だ。
どこか慌てふためいている。
刺客では……ない?
声の主が姿を現す。
「貴女は……」
私はその姿を見止めて、自然と記憶を巡らせた。
私はこの人に見覚えがある。
そうだ。
まだ私が王女として、北天騎士団に命を狙われていた時、私を命がけで護ってくれた。
「アイリ……?」
女騎士――アイリが、ぱあっと表情を光らせた。
「覚えていてくださったんですか! 光栄至極です! オヴェリア様!」
「え、えぇ……」
アイリが私の方へと近付き、片膝を突く。
私は一歩、後ずさった。
「サダルファス卿が従騎士、及び飛燕騎士団副官アイリ・サダルファス」
にこりと、人懐っこい笑みを浮かべて彼女が名乗る。
「オヴェリア様の御言葉を賜りたく、参上いたしました」
そう、来意を告げた。