【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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ユーリとバルバネスおじさん

side:ユーリ

 

 それは、オレやアイリ、ラムザたちが士官アカデミーに入る前のこと。

 先の大戦、『五十年戦争』末期の頃に訪れた、最期の時。

 

 そう、バルバネスおじさんが天寿を迎えるその時だ。

 

 オレたちはそれを看取(みと)ることすら許されず、ただこうしてその時を待つだけだった。

 

「……おまえやアイリたちにはもう話したっけか」

 

 ディリータが口を開く。

 何を、とは言わない。

 詳しいことは知らないが、やはりディリータにとっても、おじさんは特別な人だったのだろう。

 

 ディリータの脇で、ティータがすんすんと鼻を鳴らして泣いている。

 アイリはそれを優しくなだめていた。

 

 ディリータもまた、ティータに寄り添っている。

 

「泣くなよ、ティータ。オレたちよりもっと悲しいやつだっているんだぞ」

「はい……はい、兄さん……」

 

 オレは、泣かなかった。泣けなかった。

 強がりじゃない。

 元気だったあのおじさんが、亡くなろうとしているということに実感が湧かないのだろうか。

 

「アイリは……アイリは平気か?」

「ううん……だって、こんなに唐突なことだったもの……」

「そっか……。無理もないもんな」

 

 おじさんが風邪をこじらせたのが数ヶ月前。

 しかしその病魔は確実におじさんの体を(むしば)んでいた。

 肌は荒れ、体はやせ細り、起き上がることも出来なくなって。

 数ヶ月前までは元気だったおじさんが、少しずつ弱っていく様を見るのは忍びなくて、悔しくて。

 オレたちにはどうしようもなくなった時、面会することも出来なくなった。

 そして今も、オレたちはその最期を見送ることしか出来なくて。

 

 ラムザは、どんな心境でいるのだろう。

 

「アイリ、オレたち、おじさんに何かご恩返しが出来ただろうか」

 

 アイリはゆっくりと、首を横に振る。

 

「多分、ないよ……。私たち、おじさんには助けられてばっかり。あの雪の日だって、おじさんが通りかかっていなかったら、きっとここにはいられなかったし……」

「みなしごのオレたちを拾ってくれなかったら、助かってはいなかっただろうな」

 

 ディリータへと視線を移す。

 

「ディリータは……ディリータは、どうだったんだ」

 

 さすがにあのディリータも(こた)えたのか、表情を暗くするばかりで、(うつむ)いてばかりだった。

 

「オレたちきょうだいも、黒死病で両親を亡くしたんだ。親父さんがいなかったら、どう過ごしていいかもわからなかったよ」

「ディリータでさえ、そうだったんだな……」

「ああ……。だから、やっぱり堪えるよ……」

 

 屋敷の中で看取っているであろう、ラムザと、そのきょうだいたちの顔を思い浮かべて、オレも悲しい気持ちになった。

 やはり涙は流れなかった。

 

 ふと、ギイ、と屋敷の扉が開く。

 

「ラムザ……」

 

 ディリータが声をかける。

 ラムザの表情は、やはり暗い。

 密かに泣き腫らしたのだろう、まなじりは赤く染まっていた。

 

「今、父上は身罷(みまか)られた」

 

 ラムザはディリータへと顔を向けて。

 

「ディリータ、今ここで父上を看取ってくれて感謝する」

「……水臭いこと言うなよ」

 

 フッと、ラムザはオレたちを見回して。

 

「ユーリ、アイリ、ティータ……きみたちも父上の死を悲しんでくれて、友人としてありがとうと言わせてくれ」

 

 こんな気丈に振る舞うラムザは初めて見た。

 やはり、父親の死はラムザにとって大きな痛苦だったのだろう。

 そんなこと、口にしなくても当然だったろうが。

 

「これからも、皆で僕を……、ベオルブ家を支えてくれ。きっとそれが、父上に対しての恩返しとなるだろうから……」

 

 オレやアイリが抱えていたものに、ラムザは答えをくれた。

 おじさんの分まで、ラムザを支えていく。

 それが何より、おじさんへのご恩返しとなるなら、(いな)やは無い。

 

「今、ここにあるのは父上の体だけだが、魂は天へと昇り、僕らを見守ってくれている。皆、今日という日を忘れないでいてくれること、切に願う」

 

 そんなこと。

 

「当たり前だろう。これからは皆でラムザのことを支えていく。それがせめてもの、おじさんへのご恩返しとなるなら」

 

 ラムザは(うなず)いた。

 

「ありがとう、ユーリ」

 

 こうして、バルバネスおじさんへの弔いは終わった。

 皆、何も言葉に出来なかったが、きっとおじさんへの謝意でいっぱいだろう。

 

 そう、願うばかりだ。

 

 

 

 

 

「――ユーリ、ユーリ」

 

 呼ばれて、眼をこする。いつの間にか眠ってしまっていたのだろうか。

 

「……なんだ、ラムザか」

 

 強張っていた体を伸ばして、筋をほぐす。

 

「耳元で呼ばないと起きないんだからな」

「悪いが、寝つきはいい方なんでね」

「まったく……、きみってやつは」

 

 座っていたベンチから立ち上がって肩のコリをほぐす。

 おかしな体勢で寝ていたせいか、体がガチガチになっている気がした。

 

「ラムザが呼びに来たっていうことは……えーっと」

「寝ぼけているのか? そろそろ出発の時間だよ」

「わざわざ来てくれたのか。ありがとうな」

 

 ふと、空を見上げる。

 雲も少ない晴天に恵まれた、いい日和だ。

 

「……今日はおじさんの命日だったな」

「覚えていてくれたのか?」

「忘れないでくれって言ったのはラムザだろ?」

「それもそうだ」

 

 あはは、とふたりで笑い合う。

 朗らかに笑ってから、ラムザは神妙な面持ちになって。

 

「父さんのこと、覚えていてくれて感謝する」

「よしてくれ、約束だってあるんだからな。あの時も言ったろ? おまえやベオルブ家を支えることが、おじさんへの恩返しになるんだって」

「そうだったね」

 

 オレはすっと、手を差し出した。

 

「これからもよろしくな、ラムザ」

「ユーリこそ」

 

 ラムザがオレの手を固く握る。

 

 おじさん、オレ、ラムザたちと精一杯生きていくよ。

 それがおじさんへの、精一杯の恩返しになるならさ。

 

 晴れ渡る空の下、オレは改めて天国にいるであろうおじさんに誓うのだった。

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