【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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アイリとオヴェリア

side:ユーリ・ベオルブ

 

 ダイスダーグ卿の補佐に回るオレに、早速命令が下された。

 各地での小競り合いが長引く戦線に、発破をかける。

 膠着した戦線を動かすため、裏から手を回す。

 

 要は、ザルバッグ将軍から受けた指示を完遂させるため、その後押しをせよということだ。

 幸い、オレが事前に用意していた"眼"を増やす戦略をザルバッグ将軍が引き続き運用してくれるとのことで、勝手が分かっている。

 

 ダイスダーグ卿もその線で軍を動かす腹積もりのようで、オレとしては仕事がやり易いのが大助かりだ。

 

 そして。

 

「久しぶりだな、ベオルブ家の秘蔵っ子」

 

 久しく合い対していなかった顔と出会った。

 

「こちらこそ、久しぶりだ。ガフガリオン」

 

 互いに顔を見止めて、オレたちは握手を交わした。

 ガフガリオンが先んじて挨拶代わりの状況把握について語り始める。

 

「もうお互い生きて会うことは無いと思っていたンだがな。これも天の思し召しってヤツかもしれねえな」

「と言うと?」

「オレたちが戦況を動かす。これ以上の大仕事は無いぜ? 何たってベスラで両軍が決戦を控えているンだ。その後押しをするのがオレたちの仕事ってわけだ」

「生憎だが、オレはダイスダーグ卿の補佐をせよ、との命しか受けていない。何か展望があるのか?」

「ある。と言うか状況は勝手に動くさ。それをちょっとオレたちが後押しするだけさ」

「具体的には?」

 

 オレの端的な質問に、ガフガリオンは一拍置いて続ける。

 その言葉の端に何となく違和感を感じた。

 

「……神殿騎士団が動く」

「神殿騎士団が? 何故、どのような動きを?」

「それは状況によるから、大まかな流れは引き寄せられン。だが隙を見つけてちょっとオレたちで細かい調整を入れていく。要は神殿騎士団を利用しろってことだ」

「オレは具体的には、と聞いたぞ」

 

 よほど言いたくない案件なのか?

 珍しく大雑把なことしか言わないガフガリオンに、オレは詰問するような形で彼の返事を待つ。

 

「……神殿騎士団が毒を撒く。南天騎士団じゃねえ、北天騎士団の本陣にだ」

「なんだと?」

「北天騎士団が戦闘不能と見るや、南天騎士団は総力を挙げてそれを踏み潰そうとするだろう。その間隙を縫って、教会が行動を起こす」

 

 なるほど。

 清濁併せ呑むガフガリオンでも、ダイスダーグ卿の指示にはなかなか首肯しきれないわけだ。

 オレはガフガリオンの言葉を待たず、答えを出した。

 

「そうして手薄になったゴルターナ公及びそれらの重臣を片っ端から罷免なり暗殺するなり、行動する。そういうことだな?」

 

 オレの想像していた通りだ。

 ザルバッグ将軍ならともかく、ダイスダーグ卿ならそんな謀略など簡単に閃くだろう。

 オレの答えに窮したのか、ガフガリオンが気圧されたように応える。

 

「万事お見通しってわけか。その通り、ゴルターナ陣営は既に教会関係者が暗躍している頃だ。何事もなく、ゴルターナ公及び、その側近らはさっさとこの権力抗争から脱落するだろうよ」

「それで、北天騎士団側……すなわち、ラーグ公陣営も同様に、毒に陥った隙を突いて、トップを消す算段が付いていると、そういうわけか。それはそうとして疑問は残るが」

「何が言いたい?」

 

 恐らく教会はラーグ公陣営とゴルターナ公陣営のトップを消して、両軍が疲弊した折に仲介の役目を務めるつもりだろう。

 だがそんなこと、あのダイスダーグ卿が許すのだろうか。

 

 ガフガリオンがオレの疑問符を上げるのを見てか、捕捉するように応える。

 

「ダイスダーグが何を企ンでいるかまでは知らン。だが今回の権力抗争のトップを消そうとしているのを、黙って見ているとは思えンな」

「教会は容赦しない。だが易々とベオルブ家を潰させるようなマネはしないだろう。何らかの駆け引きがあるのは間違いないと思う」

「教会がラーグ公陣営に手心を加えるようには見えンが」

「その辺りはダイスダーグ卿の台本頼みだな……。ダイスダーグ卿ほどの方が教会に踊らされっぱなしになるとは思えない」

 

 そこまで聞いて、ガフガリオンは手を顎に当てた。

 

「……割の合わン仕事を請け負った気がするぜ。どちらにせよ、真相を知っているオレたちを無事に放してくれるかね、あの御仁は」

「信頼されている証拠だ。ダイスダーグ卿は身内には甘い。遺漏なくやり通せば、利用価値ありと見て無事に済むだろう。逆を言えば――」

「消される、ってわけだ。当然だな。真相を知ったオレたちを役立たずと判断すれば、利用価値無しと見て文字通り、首と胴が離れるってわけだ」

「ああ、今回こそは失敗は許されない」

 

 言っていて、薄ら寒い展望にゾッと首筋に冷えた汗が滴る気がした。

 オレは続ける。

 

「とりあえず、今は事態を静観するしかないのは確かだ。当面は現状把握に徹しよう」

「上手く事が運べばいいンだがな」

 

 ガフガリオンも首元が寒い想像を巡らせたのか、消極的な口調で流した。

 

 北天騎士団と南天騎士団が激突しようとしている中、ラーグ公、ダイスダーグ卿、ザルバッグ将軍。そしてゴルターナ公、オルランドゥ伯、さらにはディリータ辺りか。

 彼らの運命はこれからの一手で決まる。

 

 だがオレには展望がある。

 

 "ベオルブ家の正義"。

 

 それを成就するためには北天騎士団が南天騎士団を圧倒しなければならない。

 神殿騎士団……そのバックにいるグレバドス教会。

 おまえたちに邪魔はさせない。

 

 

 

 

 

side:アイリ・サダルファス

 

 ゼルテニア城の裏手、教会の跡地。

 私はオヴェリア様の隣にお邪魔して、彼女と歓談していた。

 

「オヴェリア様は、何か御悩み事とか不安なことはありませんか?」

「そう、ね。時勢に流されているばかりで、私自身の労苦なんて、誰にも省みられたことなどないのだけれど」

 

 私と語り合うオヴェリア様は、最初は気を許さなかったのか、どこかしら固い口調で相槌を打つだけだったけれど、平易なやり取りを続けているうちに自然とその口調は柔らかくなっていた。

 

「以前に言ったかと思うけれど、私は王女として生まれたことを疎んじていたわ。私が王女であるばかりに、そのために死んでいく人がいる。それが辛かった、とね」

「覚えています。アグリアスはそれを聞いて、オヴェリア様は悪くない、オヴェリア様を利用しようとするヤツらが悪いんだ、って」

「貴女はアグリアスとも親しいの?」

「ちょっとした旅行気分で彼女と一緒にいましたから。オヴェリア様のことも心配していましたよ」

「そう……」

 

 ちょっとした旅行、と言うにはかなりの修羅場を経験していたけれど、ここでそんな込み入った話をする必要はあるまい。

 オヴェリア様に余計な心痛をして欲しくはない、というのが本音だ。

 

「……私はね、修道院での暮らししか知らない。私が王家の養女だと知った後でも、別の修道院で閉じこもった暮らしをしていたわ」

「……そうでしたね」

 

 オヴェリア様はその話に触れるにつれ、一段と寂し気な表情になった。

 私は別に、彼女を不安がらせるつもりはない。

 となると、これはオヴェリア様にとって自分自身の不安を吐露するのに、自分と向き合おうとする彼女のナマの述懐だ。

 私はそれを真剣に、本音をさらして聞く必要がある。

 

「どうして私だけが、って思ったことはいつもあったわ。でも、私ひとりが我慢すればこのイヴァリースの平穏は保たれていられるんだ、って。そう思って生きてきた」

 

 その表情がだんだんと、曇ってくる。

 

「あの寂しさ、悲しさはいったい何だったの?」

「オヴェリア様……?」

 

 私は彼女の顔を窺うように、視線を流す。

 

「私が王女オヴェリアの代わりだということを知らされたのは、この城に来る直前だったわ。ちょうど貴女とアルガスが私の護衛に付いてくれる前」

「……いったいその前に、何があったのですか?」

「やって来たのはひとりの神殿騎士だったと、後から聞いたわ。その騎士が言っていたの。私は王女ではない、その身代わりだって。もちろん私は信じなかった。だけど、ドラクロワ枢機卿はその騎士の言うことを否定するでもなく、その口上を聞いて笑みを浮かべるだけだった。私はその時から、自分はいったい何者なのかって、そんな思いばかりが募っていったの」

「……オヴェリア様は、今でもその話を肯定なさっているのですか?」

 

 オヴェリア様が私の顔を覗いた。

 私に眼を合わせて、首を横に振る。

 

「私はアトカーシャ家の血を引く者。どこの誰とも知れない騎士の言うことなんか信じられない。だけど、それを否定することも証拠もない。だからディリータが言ったの」

「ディリータが、ですか?」

「ええ」

 

 続ける。

 

「私はオヴェリアではない。平民か貴族か、それすらも分からない。それはオレも同じ。だから私の国を作って、私たちの人生を輝かしいものに変えてやろう、ってね」

 

 それは、どれだけの希望を持った言葉だったのだろうか。

 自分の存在が夢幻のようなモノだったと知ったオヴェリア様に、どれだけの価値を与えたのか。

 私には想像もできない。

 

 ディリータの言うことは間違いじゃない。

 私には彼が間違っているとは思えない。

 オヴェリア様がこんなにも、心を寄せているのだから。

 

 だけど、聞かねばならない。

 

「オヴェリア様は、ディリータを信じているのですか?」

 

 私の言葉を聞いて、オヴェリア様は。

 

「信じたいわ。だけど、彼の言う通りにしていたら、私はゴルターナ公の御神輿(おみこし)になった。そうして幾万の人たちの血と命が、たくさん流れている。それもまた一面の真実」

 

 そう、悲し気な声音で吟じた。

 

「……私は何もしていないのに、幸せになってはいけない存在なのかしら」

 

 「そんなことはありません!」。

 そう言うのは簡単だったろう。

 何より彼女が今、口にしたことが彼女の本音なのだろうから。

 

 私は言葉を選んで、彼女に語りかけた。

 

「私も、最初は何も持たない単なるアイリでした。遭難して、死にそうな目に遭いました。だけど、それを助けてくれた人がいました。今もこうして生きていられるのは、その人のおかげです」

 

 オヴェリア様の表情が揺らいだ。

 

「紆余曲折を経て、今はサダルファス家の厄介になっています。そうした所以もあって、少なくとも毎日のご飯と寝床に困ったことはありません。そんな私を見て、私は自分が幸せだと感謝したことは山ほどありますし、ご恩返しをしなければと思ったことも何度だってあります」

 

 私の語りに、オヴェリア様は黙ったままだ。

 静かに聞き入ってくれているのだとしたら。

 そう思うと、ここで言葉をやめるのは不躾だ。

 

「ディリータが幸せをくれると言うのなら、それを信じるのもまたオヴェリア様の自由です。私なんかが口出しするのは間違っていると思いますし、何よりオヴェリア様を否定することなんか出来ません」

「私は、私が幸せになるためにディリータの全てを信じろと。貴女はそう言うの?」

「いいえ」

 

 私は首を横に振る。

 再度、オヴェリア様の視線に眼を合わせた。

 

「誰だって、自分の幸せを求めることを間違っているとは思いません。オヴェリア様が我慢を重ねることも、あるいは幸せを求めて何を信じようとも、それはオヴェリア様の自由だと思います。ただこれだけは言えます」

 

 一拍置いて、私は続けた。

 そっと、オヴェリア様の手を両手で包み込む。

 

「どうか幸せになろうと感じる心から、逃げないでください。きちんと向き合って、自分の幸せがどこにあるのだろうか、考えることから逃げないでください。自己犠牲も結構ですが、それは感情の抑圧です。世界中のみんながちょっとだけでも幸せになろうとすることは、それはきっと間違いじゃないのですから」

「アイリ……」

 

 オヴェリア様の表情が柔らかく緩んだ。

 私の語りに、微笑みを以て応えてくれている。

 そんな気がした。

 

 私は彼女の手を離した。

 

「……だいたいですね」

「え?」

 

 私はこれまで溜まった鬱憤を晴らすかのように、大声で。

 

「ディリータのヤツは卑怯なんですよ!」

 

 急に発奮した私に、オヴェリア様が気圧される。

 

「ど、どういうこと?」

「アイツ、自分の戦功を立てるのに手段を選ばなさすぎなんです! オヴェリア様をゴルターナ公の下に差し出しておいて、自分だけはアフターケアもせずに、騎士団の団長に納まっておいて! この前なんか、私の騎士団ごと北天騎士団をぶっ潰したんです! あの時はホンットーに馬鹿野郎って思いましたね! 信じられます? 私はディリータってヤツが絶対に信じられなくなりましたね!」

「あの……、アイリ?」

「だ・か・ら!!」

 

 そこまでまくし立てて、私はひとつ深呼吸した。

 頭の中が冷えていく。

 

「もしディリータのことが信用出来なくなったら、別の誰かに頼ってみてください。オルランドゥ伯でもいいです、オーランでもいいです。それでもダメなら、私やアルガスでも構いません。アルガスは調子がいいだけで役に立たないかもしれませんけど、オヴェリア様にはこんなにも大勢、味方がいるのですから」

 

 私の一連の長台詞を聞いて、オヴェリア様は呆気に取られながらも苦笑してみせた。

 呆れ返られたかな。

 

「そう、ね……。人と相談することも大事、よね……」

「そうです! 女王様だからって、我慢しちゃダメですよ。たまには他の人に相談してみてください。ディリータなんか一兵卒に過ぎないんですから。あんまりにも眼に余るようなら、私たちがけちょんけちょんにしてやります!」

「貴女たち、ディリータのことが好きじゃなさそうだものね」

「当然です、恨み骨髄ってやつです。何ならオヴェリア様も女王を辞めて、私たちサダルファス領に引っ越してきてくれてもいいくらいですよ。頼りないかもしれないですけど、少なくとも私は絶対にオヴェリア様の味方でいますから」

「アイリ……」

 

 オヴェリア様はそう呟いて、腰を上げた。

 腰回りに付いた砂ぼこりを払って、空を眺める。

 

「……空は、広いわね」

「オヴェリア様にとってはここも、十分に広いんじゃないですか? 少なくとも、ゼルテニア城の中よりは」

「……フフッ、そうかもね」

 

 私も釣られるように立ち上がる。

 オヴェリア様が私に顔だけ向けて。

 

「今日は貴女と話せて、楽しかったわ。またこういう機会が欲しいわね」

「そこは女王様権限でなんとか。私とアルガスはサダルファス領にいますから、御呼ばれされたらいつでも駆け付けます」

「ありがとう、アイリ」

 

 ニコリ、と。

 見る者の誰もが蕩けるような微笑みを浮かべて、オヴェリア様は去っていった。

 そうそうゼルテニア城を留守にするわけにもいかないのだろう。

 

 後に残された私は、その姿をじっと見つめていた。

 その姿が見えなくなっても、その場にずっと立ち尽くしていた。

 

 

 

「おい」

 

 声を掛けられる。

 振り向くと、仏頂面のアルガスがそこにいた。

 

「おまえ、こんな所で何してるんだ」

「アルガスこそ、ここに何の用で来たの?」

「正面から入ろうと思ったがどうしても無理臭くてな。裏口から侵入しようかと思ったらおまえがいた」

 

 ドロボーか。

 

「質問に応えろ」

 

 言われて、オヴェリア様が去っていった方向を見やる。

 

「もう知りたいことは知れたから、帰ろうかなって思ってたところ」

「何してたんだ」

「オヴェリア様とおしゃべり」

 

 ズコッと、足を滑らせたみたいにその場にずっこけるアルガス。

 

「おまえ、そういうことならなんでオレを呼ばねえんだよ!」

「大丈夫だよ。ちゃんとサダルファス家の宣伝はしておいたから」

「そういう問題じゃねえ!」

「いいから、帰るわよ」

「おまえってやつは、まったく!」

 

 ブチブチと文句を言いながらも、その場からさっさと立ち去ろうとするアルガス。

 私も彼に従うように、その後を追って歩いて。

 

「頑張ってくださいね、オヴェリア様」

 

 そう。

 頑張って、幸せを掴めますように、と。

 私は心の中でオヴェリア様にエールを送っていた。

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