【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ 作:12club
side:アイリ・サダルファス
私の用事が済んで、さあ帰ろうと思った矢先に私は足を止めた。
というか、気になる情報を得て止まらざるを得なかったというか。
「……ラムザがゼルテニアに?」
「そうだ、異端者一行がこの城下町に来ているってもっぱらの噂だ」
「どうしてこんな所に。わざわざオヴェリア様に会いに来たわけでもないでしょうに」
「おまえと同じにするなよ……。オレだって訳わかんねえんだから」
「でもまあそれなら、無視するわけにもいかないよね」
「会って、どうする? 向こうはオレたちに用があるとは思えんぞ」
「たまたま偶然が重なっただけでしょ。行ってみましょう」
さて、ラムザがゼルテニアに何の用があるのか。
もしかして、誰かに会おうと思っているのか。
ならそれはいったい誰なのか。
今後の活動方針を決める際にも彼に会っておくのも悪くない。
状況は如何ともしがたいという事実は頭の外へと抜けていた。
side:ラムザ・ベオルブ
小さな教会の中で、僕はディリータを待っていた。
書簡は既に届けてある。
黒羊騎士団の団長宛の書簡なら、改められることもないだろう。
よしんばそうだとしても、僕は彼に会うつもりでいた。
背後から、教会の表口を開く音が聞こえた。
その人物が、僕の隣に侍る。
「……異端者と呼ばれる人間が教会に来るとは、いい度胸だ」
ぼそりと、その男――ディリータが小声で呟いた。
それに僕もまた小声で返す。
「そうさ、僕にはもう時間がない。単刀直入に聞くよ、ディリータ」
挨拶も無しに、僕らは互いに口を開いた。
「きみをゴルターナ公の陣営に送り込んだ、教会の狙いは何なんだ?」
ディリータがふっと口から息を漏らす。
「それを聞くためにわざわざゼルテニアに来たのか……いいだろう、教えてやる」
一拍置いて、彼が続ける。
「オレの任務はゴルターナ公とオルランドゥ伯の暗殺だ」
「……ッ。なんだって……?」
「大きな声を出すな……。本当の狙いはこうだ」
周囲には聞こえないくらいの声量で、彼が滔々と語り始める。
「王家の放埓な政治に不満を抱く連中……例えば以前の骸旅団のような、体制に不満を抱く連中を焚き付け、各地で一揆を起こさせる。ラーグ公、ゴルターナ公も己の所轄領で起きた不穏分子を片付けたい。そのために前線から兵を退きたいが、膠着状態がいつまで続くか分からない。するとどうなるか」
僕は黙ったまま、彼の言う事態を頭の中で咀嚼する。
「そのために決着をつけるべく、両騎士団は全面対決に及ぶだろう。一度の決戦で片を着けようとするはず」
「……各地で頻繁に起こる反乱も、教会の仕業なのか。それに互いの軍勢もベスラに集中していて、近いうちに決戦へ及ぶかも分からない一触即発の気配を感じさせる。……まさに教会の手の平の上ということか」
「ああ、だが決着は着けさせない」
僕はディリータの顔を覗き見た。
「何故ならラーグ公とゴルターナ公はその最中で何者かに暗殺されるからだ」
そう言うディリータの表情は変わらない。
「もちろん、その周囲にいる要人も同時に暗殺される。オルランドゥ伯爵、ザルバッグ将軍にダイスダーグ卿。戦乱の中心人物たちはこぞって排除される。その間隙をついて教会が戦闘を仲介して調停工作を行う。……しかも伝説のゾディアックブレイブつきだ。民衆は諸手を挙げて歓迎するだろう」
「……きみも僕が持っている聖石を狙っているんじゃないのか?」
ディリータは口の端を僅かに釣り上げた。
「オレは教会の狗じゃない。オレはオレの意思で動いている」
「どういうことだ?」
ディリータが立ち上がる。
彼は僕の眼を射抜くように覗いていた。
「必要があれば、おまえを遠慮なく殺すってことさ」
「……ッ」
反応に困る。
否定すればいいのか、少なくとも表面上は肯定すればいいのか。
ディリータは続けた。
「だが安心しろ。向いている方向が同じであれば、まだおまえはオレの敵じゃない」
そう呟く彼に、僕は安心した。
一時しのぎじゃない。
ディリータはディリータだ。
それを改めて確信できたこともまた、僕にとっては値千金の情報だった。
だけど。
「……僕と一緒に行こう」
そんなことを口走ってしまう。
ディリータは逡巡して、首を横に振った。
「すまない、それは出来ない。彼女にはまだオレが必要だ」
「彼女?」
「教会にとっては王子だろうが王女だろうが、扱いやすい方が残っていればどちらでもいいんだ」
そうか、だからディリータは。
「きみはきみのために、オヴェリア様を利用しようとしているのか?」
「さあな、オレにも分からん。……ただ」
「ただ?」
僕には彼が言いたいことはよく分かった。
奸雄ディリータではなく、彼が抱く、本質を。
「彼女のためならこの命、いつ失っても惜しくはない」
彼の言葉に、僕は押し黙った。
ディリータは続けた。
「おかしいか?」
「いや、その言葉を信じるよ」
その時。
にわかに教会の外が騒がしくなった。
建物越しに殺気が伝わってくる。
大きな怒声が、建物の外から澄み渡るように警告してくる。
「異端者ラムザよ!! 既に教会は包囲している!! 大人しく神妙にせよ!!」
壮年の男の声だ。
「この声……、ザルモゥか!」
僕は足早に、ディリータは僕の後に続くよう、従って教会の外へと向かった。
side:アイリ・サダルファス
教会の天辺に立つのは……、いつぞやの異端審問官……!
ならば、その彼が追う人物とは。
「狙いは……ラムザか!」
そう独り言ちるや否や、教会から予想通り、ラムザが姿を現した。
それに遅れて出てきたのは、ディリータ……?
そうか。
ラムザのゼルテニア来訪の意図が読めた。
彼はディリータに会うために、ゼルテニアまで来たのだ。
異端審問官が驚いたように声を発する。
「貴公は黒羊騎士団のハイラル! なぜ貴公が異端者と共に!?」
ディリータが剣に手を掛ける。
「見られたからには生かして帰すわけにはいかないな……、やるぞ、ラムザ!」
ラムザがそれを見て、かすかに首を横に振った。
「彼らは教皇の陰謀など知らされていない、教会の信奉者だ。話せば分かってくれるかも……」
「まだそんな甘いことを言っているのか? ……まあ頑張ってみるんだな!」
「おい、アイリ! ここは一旦退くぞ!」
「せっかくラムザと会えたのよ? ここで退いてどうするのさ?」
「馬鹿も休み休み言え! 相手は異端審問官だぞ、ここでオレたちまで異端者の烙印を押されたらどうするつもりだ!?」
「うっ……」
それを言われると辛い。
ディリータは連中を皆殺しにする気だ。
それが一番手っ取り早く、事態を鎮静化させる方法だ。
だけど、ラムザは……。
「……業腹だけど、仕方ないわね……。事態が収まったら、ラムザの元に直行するわよ」
「それならいい。冷静になれよ、アイリ」
私たちは逃げるように、教会から走り去った。
side:ユーリ・ベオルブ
「……神殿騎士団、か」
黙りこくったままだったオレに、ガフガリオンが訝しげな表情でオレを見やる。
「どうした? 今さらになって嫌になったのか?」
「そういうわけじゃないが……」
連中に好きなようにさせるわけにはいかない。
それは分かっているが、どうにも気が入らない。
もしや、神殿騎士団はダイスダーグ卿と既に渡りを付けているのではないか?
だとしたら、今からオレたちがやろうとしていることは背反行為だ。
だが、大局を見誤ってはいけない。
ダイスダーグ卿も全て見通しているわけではあるまい。
ならここで神殿騎士団の好いようにさせるのは、ある意味では間違っていると思う。
オレとガフガリオンはルザリアからチョコボを駆け通しで、北天騎士団の侵攻ルート、ベルベニアの南側に位置するベッド砂漠へと向かっていた。
ガフガリオンの情報から察するに、神殿騎士団が何か工作を行うとしたらここが最適地だということだ。
「連中、既に撒いているのかもしれンぞ」
「だとしても、放っておくわけにはいかない」
砂漠へと足を踏み入れる。
遺跡のような建物の瓦礫があちこちに転がり、これ以上はチョコボに騎乗しての進行は難しそうだ。
やむを得ず、ここからは徒歩で進むことにする。
時間が取られることに焦りを感じるが、それでも足は止められないし、止める理由にもならない。
瓦礫を越えながら先に進む。
前方に、神殿騎士団のフォーマルな兵装を身に付けた一団が見えた。
「……よし、全部ばら撒いたな。いい風だ、これなら半日は滞空しているだろう」
神殿騎士団のリーダーらしき男が、そう呟くのが聞こえた。
「待て!!」
オレは警告の意を込めて、その男を大声で制した。
男がオレの方に顔を向ける。
「北天騎士団の斥候か? こんな所で会うとはな」
「ばら撒いたと言ったな。事前に聞いていた、毒のことか?」
「そこまで知っているなら話は早いな。どこでそんな情報を得たかは知らんが」
「南天騎士団を勝たせることが教会の本意ではないはず。何が目的で南天騎士団に利するマネを?」
「それは聞いていないのか? 末端の騎士に伝える必要もないな。さっさと失せな」
既に手遅れか……!
だがコイツをこれ以上、生かしておくわけにはいかない。
北天騎士団に仇成す行為を続けさせるのは危険すぎる。
「冥途の土産に教えてやる。オレたちが撒いたのはモスフングスの胞子から抽出した粉末状の毒だ。それを北天騎士団の陣地にばら撒いたのさ。これを吸った人間は、死にこそしないが体調を崩してまともに戦うことなど出来なくなるだろう」
「なおさら貴様をみすみす見逃すことは出来ない!」
「まともな戦闘が出来なくなった北天騎士団の事態を知れば、南天騎士団は総力を結集して北天騎士団を攻撃に出るだろう。その混乱に乗じてゴルターナ公、ラーグ公を暗殺するのさ」
「教会の狙いはやはりそれか! 北天騎士団に負けてもらうのが利だと言うなら、彼らに勝ってもらわなければ困るのがオレたちだ! これ以上、事態を混乱させると言うなら容赦はせん!」
「喜んだらどうだ? 戦争が終わるんだぜ! 北天騎士団と南天騎士団が両軍共倒れになれば教会の調停を断ることも出来んだろうさ!」
「それはベオルブ家の意思ではない! 教会の勝手な理屈だ! 好き勝手は許さん!」
「やはり北天騎士団の走狗か……。そう言うと思ったぜ!」
戦闘が始まった。
一刻も早くコイツらを片付けて、北天騎士団の陣地へと向かわなければ……!
「気を付けな、ユーリ! ヤツはバルク・フェンゾル。騎士団のブラックリストにも載っているゴーグのテロリストだ!」
「機工都市ゴーグの? ならヤツは機工士か?」
「そうだ。まさかグレバドス教会に尻尾を振っているとはな。教会の神殿騎士団に成り上がっていたのは予想外だったが」
ガフガリオンの忠告を受けるや否や、バルクが懐から何かを取り出す。
拳銃、か?
それがパン、と軽い音を立てて、近くの地面に弾丸が突き刺さる。
着弾位置から、冷気が舞い上がって氷柱が突き出した。
噂に聞く、魔法銃か。
オレとガフガリオンが攻めあぐねている合間に、バルクがこちらに向けて声を発する。
「貴様たちはこの戦争が終わった後、どうやってイヴァリースを先導していくんだ?」
「なんだと?」
「貴様たちも分かっているはずだ。どんなお題目を唱えようが、どうしても腐った部分は残るってことはな。だったらその腐った部分を切り捨てなければ同じことを延々繰り返すだけだ」
「知った風な口を利く……。テロリスト特有のお為ごかしだな!」
「これからは腐った王家に代わって教会がこの国を支配する。民衆もそれが望みだろう。貴様ら貴族の支配はまっぴらごめんだってな!」
「貴族に代わって、貴様らテロリストが政治を行おうとでも言うつもりか!?」
「この世に人間がいる限り、"対等"なんてモノはないんだ! 生きている限り競争が付いて回る……。勝ちか負けかのどちらに乗るかのな! だったらオレは"搾取"する側に回ってやる! 貴様たち貴族に代わってな! それくらいの自由は、オレたちにもあるだろう?」
「貴族か教会かの貴賤に拘るつもりはない。貴様の言う通り、"対等"なんてモノもないだろう。だが力がある者が、その力を正しく振るうことこそが正義だ! 貴様のように、ただ己の利益のためだけに力を振るおうということ、それ自体が"正義"と対極する"悪"だ! それが分からない貴様たち教会に力を振るう資格は存在しない!!」
「綺麗事ばかり言いやがって、この偽善者め!」
「綺麗事すら言えない良い年こいた中年が、子どもみたいなことばかり言ってるんじゃない!!」
悟る。
神殿騎士団といえど、単なる工作員にしか過ぎないこの連中は正規の騎士団より実力は遥かに劣る。
バルクの魔法銃に驚かされはしたが、見せかけ程度の威力しかない。
「突っ切れ! ガフガリオン!」
「応よ! 周囲の連中は頼ンだぜ、ユーリ!」
バルクの周囲に散らばっている連中の攻撃を、物ともせずにオレは肉薄する。
それだけのことで、敵勢は眼に見えてうろたえる。
接近戦に持ち込めば、後はこちらの勢いに飲み込まれるのがようとして知れた。
ひとり、ふたり。
どんどんと数を減らしていく敵勢が恐れを成して後退していく。
その中でひとり、バルクだけがガフガリオンと接近戦を交えていた。
見る必要もない。
ガフガリオンの勝ちだ。
暗黒剣が暗い気配を撒きながら、バルクを袈裟懸けに大きく切り裂いた。
バルクがその場に倒れ伏す。
「く、くそッ……、オレはこんな所で……死ぬ人間じゃ……ないはず……だ……!」
陳腐な断末魔を残して、バルクが息絶えた。
「急いで北天騎士団の陣地に戻らなくては……」
「ベオルブ家はどう出るンだ? 北天騎士団は敗色濃厚だろ?」
「ここまで来たら出たとこ勝負だな。まずはダイスダーグ卿にコンタクトを取るぞ」
「やれやれ……。幸先が悪いぜ」
北天騎士団の戦意が落ちているなら、きっとザルバッグ将軍も気を揉んでいるだろう。
だけどダイスダーグ卿なら、この事態を上手く利用するはず。
その計略に乗るにはダイスダーグ卿の近くに侍らねばなるまい。
戦争の終結。
その時が迫っている気配を、オレは肌で感じていた。