【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ 作:12club
side:ユーリ・ベオルブ
ベッド砂漠を南側へと越えた先にある、城塞の跡地。
元は壁だった石の瓦礫が目立つその砦跡は、惨憺たる情景を描いていた。
あちこちに倒れている北天騎士団の騎士たち。
膝を突くに留まっているものの、胸を抑えながら咳き込む者もいる。
「……やはり遅かったか」
瓦礫の下側、砦の入り口跡から見てもその状況は察せられた。
「実力はからっきしでも流石は工作員だ。きっちり仕事はやってのけてくれたみたいだな」
「感心している場合か、ガフガリオン」
チョコボを降り、砦の外周を進む。
階段を上るにつれ、徐々に空気の匂いが変わっていくのを感じた。
腐った卵のような臭い。
これがモスフングスの毒か。
確かに、息をするたびに体が痺れるのを感じる。
体だけではない。
頭もくらりと、脳が揺れるような悪い気分が立ち昇ってくる。
自陣であろうと油断は出来ない。
この状態を察した南天騎士団が、今にも襲撃してくるかと気が気でないからだ。
「ダイスダーグ卿は……、ザルバッグ将軍はどこだ?」
「時間はねえぞ。さっさと捜せよ、ユーリ」
「分かっている……!」
チョコボを引きながらだとどうしても足が遅くなる。
いっそのことこの辺りで放置すべきか。
不意に。
「来たか……」
背後から男の声が聞こえた。
驚き、振り向く。
「ダイスダーグ卿!」
よろよろと足を進めるダイスダーグ卿が、そこにはいた。
彼もまた毒素に体をやられたか、足取りは悪く、顔も青ざめている。
オレはすぐさまその場に駆け寄り、片膝を突いた。
「ご無事ですか? ダイスダーグ卿」
「構わん……。おまえたちは今、戻ったのか?」
「はっ、毒を撒いた下手人は始末しました。しかしこの状態では、事の始末は遅れたものかと……」
簡潔に状況を報告する。
しかしそれを聞いたダイスダーグ卿は。
「……馬鹿げたマネを」
「は?」
「馬鹿げたマネをするな、と言ったのだ」
オレを叱咤した。
「しかし……」
抗弁しようとするが、ダイスダーグ卿はオレを一睨みして、ほうっと息をつく。
「まあ良い……。ラーグ公は……、ザルバッグはどうしている?」
「それがまだ……。先にダイスダーグ卿に声を掛けられた次第です」
「見つからないか……。ならば私についてこい、ユーリ」
「は……」
ダイスダーグ卿はそう言って、オレたちの前方へと歩を進める。
オレはそれに倣って、ダイスダーグ卿の後ろから侍ることとなった。
倒れ伏す騎士たちを尻目に、ダイスダーグ卿は足をもつれらせているものの、その足取りは確かだ。
この先、オレは何かを見せられるのだろうか。
しかし、ダイスダーグ卿の考えることは分かるような気がする。
一線を踏み越えようとする、何か。
オレの信じる正義は、そこにあるのだろうか。
side:アイリ・サダルファス
チョコボを駆けさせて、私はゲルミナス山岳――飛燕騎士団の本陣へと戻っていた。
横に同じく、チョコボを駆けさせるアルガスが怪訝な表情で私に向かって口を開く。
「で、結局ラムザには会わずじまいか?」
「まあね。会ったところで、私たちに何が出来るか分かんないし」
「それを聞くために残ろうとしたんじゃないのか?」
アルガスの疑問ももっともだったけれど、私は彼がどんな思惑を持ってここに来たのか、それを察していた。
ラムザはディリータに会うつもりだった。
どんな腹か分からないけれど、ふたりにとって大事な話があったのだろう。
収穫はそれだけで十分だ。
それに。
「どっちかって言うと、アグリアスかな」
「はあ?」
アルガスが怪訝な表情のまま、さらに眉間にしわを寄せた。
「多分、ラムザはアグリアスをオヴェリア様に預けるつもりだと思う。だから今は邪魔したくないの」
「それを確かめるつもりは?」
「ある。けれどそれは今じゃなくていい」
私は真剣に言ったつもりだけど、アルガスは不服があるのか、口を尖らせる。
「後日確かめる、か。つまらん用を増やすばかりだなおまえは」
「後で穴埋めはするよ」
アルガスはそれに対して、やれやれと肩をすくめる。
「オレはサダルファス領へ戻るぞ。おまえはゲルミナス山岳の本陣から動くな。戦闘行為以外での帰還は命令違反だと思え」
「了解。しばらくしたら本陣からベスラ要塞へ向かうから、アルガスからの連絡はそっちに回してちょうだい」
「我が侭なやつだ」
三叉路が見えた。
左の坂を上ればゲルミナス山岳への上り道。
右の獣道を越えればランベリー領だ。
私は左の道へ、アルガスは右の道へ。
私たちは己が果たすべきことを成すため、ここで別れを告げた。
ラムザたちがどういう意図でゼルテニアに来たか、とりあえず今は置いておこう。
後で、さっき私がオヴェリア様とお話しした時のように、また聞いてみよう。
オヴェリア様とアグリアスの新しい馴れ初めを。
side:ディリータ・ハイラル
与えるべき情報は与えたし、得られる情報も得た。
これでラムザはオレのいいように動いてくれるだろう。
ラムザが去り、オレの元に帰り着いたバルマウフラが。
「良かったの? ラムザを行かせて」
相変わらずの不愛想な表情を覗かせて、オレに聞く。
「……あいつの行動も計算のうちだ」
苦々しく呟くオレに、彼女は応える。
「親友であろうと利用するのね、貴方は」
その言葉に、オレは。
「うるさい! おまえにオレの何が分かる!!」
激情も露わに大声を出していた。
ラムザと共に行ければどれだけ頼もしかったか、それでもオヴェリアのことを切り捨てられなかったオレの甘さも手伝って、オレは怒りに震えた。
誰に対する怒りか。
そう、オレ自身だ。
オレはオレへの怒りを、八つ当たりのように彼女へとぶつけていた。
彼女はそれに対しても表情を変えることはなく。
「男のヒステリーはみっともないわよ」
そう逆撫でした。
「さっさと行け!!」
バルマウフラはやれやれと肩をすくめて。
睨みつけるオレの視線にも構わずにその場を去っていった。
そうか。
オレにはまだ甘さが残っている。
叫び散らして冷えた頭に、オレは 咤する。
オレはガントレット越しの拳を額にぶつけた。
一筋、血が流れ落ちる。
オレはひとりだ。
だが少なくとも、オレだけじゃないもうひとり、その人生を輝かせなければならなければいけないやつがいる。
そいつのためにも、オレに甘さは必要ない。
むしろ、邪魔だ。
オレは、オレとオレの守る者の為にこの人生をかけると誓った。
そのためなら、オレはゴールに向かって歩いていける。
たとえそれがオレひとりの進む道であろうとも。
side:ユーリ・ベオルブ
ダイスダーグ卿に従い、砦跡を上へ上へと昇っていく。
やはり高い場所の方が、毒の瘴気が濃い。
なるたけ無駄な呼吸をしないよう、マントの端で口元を覆いながらその後を追う。
ガフガリオンは……冷めたものだ。
ハンカチ一枚を口に当てたまま、平気な顔でオレの横を歩いている。
「ダイスダーグ卿、これ以上の毒素は体に障ります……。どうかご自愛を」
「構わん……。おまえは私の後を付いて来ればそれでいい」
「何をなさるおつもりです?」
「見届けろ……、今はそうとしか言えん……。だが正義を貫くという、青臭い理論を振りかざすつもりなら、おまえは後悔するかもしれん……」
持って回ったダイスダーグ卿の言い回しに、オレは次の言葉を躊躇する。
「……もしや、貴方は」
「それ以上、口を開くなユーリ。それ以上の提言は越権行為として処罰するぞ……」
「……はっ」
それきり黙りこくるダイスダーグ卿の後を、オレもまた静かに追う。
ガフガリオンの横顔を見やる。
視線が合った。
当のガフガリオンはそれに対して、首を横に振るだけだ。
多分、彼も分かっているのだと思う。
"ベオルブ家の正義"が、今いったいどのような形を成そうとしているのかを。
砦の出口から光が照らされた。
どうやら屋上に出たらしい。
そこには。
「これは一体どうしたことだ!」
ひとりの騎士――ザルバッグ将軍がこの緊急の事態を見てか、叫び声を上げていた。
ダイスダーグ卿が前へと出て。
ザルバッグ将軍がそれに気付く。
「兄上!」
事態を把握していないらしいザルバッグ将軍が、ダイスダーグ卿に駆け寄る。
「……モスフングスの毒素を空中にばら撒き、北天騎士団の陣地に散布したのだ」
そこまで言って、ダイスダーグ卿が大きく咳き込んだ。
「兄上、大丈夫ですか!?」
ザルバッグ将軍の心配をよそに、ダイスダーグ卿は青白い顔のまま応える。
「私は大丈夫だ……。……ラーグ公は、どこだ?」
「先ほどから捜しているのですが……」
ふたりの会話の後を追うように。
「わ、私はここだ……。ダイスダーグ、ザルバッグ……」
砦の屋上の端から、男性の声が聞こえた。
弾かれるように、ザルバッグ将軍が声の元へと走り寄る。
ダイスダーグ卿とオレたちはゆっくりと、その後を追った。
ザルバッグ将軍が叫ぶ。
「ラーグ閣下、ご無事ですか!?」
ゴホゴホ、とラーグ公が咳き込む。
それを見たザルバッグ将軍が大声を上げる。
「誰か、薬師を呼べ!」
それに構わず、ダイスダーグ卿がラーグ公の下へと歩み寄った。
「……ご気分はいかがですか?」
「ダイスダーグか……」
ラーグ公が息も絶え絶えに名前を呼ばわった。
続ける。
「頭が痛い……。胸がむかむかする……」
「……左様で」
「だが心配するな……。少しジッとしていれば、少しは気分も良くなろう……」
それを聞いて、ダイスダーグ卿が後ろを向いた。
彼に侍っている、つまり、オレを見たのだ。
すぐに顔を背け、ラーグ公へと視線を戻す。
「……それでは困るのですよ」
そう宣ったダイスダーグ卿に、ラーグ公は。
「……なに?」
再び、ダイスダーグ卿がオレへと視線を流した。
そのまま顎でラーグ公へとしゃくる。
「やれ」
「……はっ」
オレは、腰に佩いていた剣を抜いた。
それを見たラーグ公が呟くように問う。
「どういうことだ……?」
オレは剣を片手にラーグ公へと近寄り。
その胸板を貫き通した。
「うがぁッ!! な、何のつもりだ……!?」
「ユーリッ!!」
ラーグ公とザルバッグ将軍の声がこだまする。
それを遮るように、ダイスダーグ卿が押し留める。
「騒ぐなっ、ザルバッグ!」
さらに深く、オレは剣を押し付ける。
「き、貴様……、裏切るつもりかッ……?」
大量の血を傷口から流したまま、息も絶え絶えに末期の言葉を吐き連ねる。
「バルバネスを……殺したのは、ベオルブ家の……家督を継ぐためだけ……ではなく、こ、この私を……!!」
ガハッと口から盛大に吐血し、ラーグ公はそれを最後に、力尽きた。
引き抜いた剣を地面に立て、オレはぜえぜえと息をつく。
ザルバッグ将軍が呆然とした表情のまま、ダイスダーグ卿へと問う。
「兄上、もしやこの毒も、兄上が……?」
その問いに、ダイスダーグ卿は首を横に振って。
「私ではない……。ベオルブ家が表に立つことを望む、協力者たちの仕業だ」
「何故このようなマネを……!」
ザルバッグ将軍が困惑しながらも問い詰めた。
ダイスダーグ卿はそれには構わず、オレ以上に息を荒くしながら応える。
「……ラーグ公は戦死された。その御遺志を、我らベオルブ家が継ぐのだ……」
「しかし、このような謀略が……」
「いいから、ユーリ……。剣をその辺りに転がっているやつに握らせろ」
ダイスダーグ卿の指示に、オレは頷く。
「そいつがラーグ公を殺した南天騎士団の暗殺者なのだ……、い、いいな……」
そう言って、ダイスダーグ卿がその場に倒れ伏した。
毒素が体中を回って、精魂尽き果てたのだろう。
「兄上……!」
ザルバッグ将軍がわなわなと拳を震わせる。
「ユーリッ! おまえは知っていたのか、このような汚い謀りごとを!」
「……薄々とですが」
「何故このようなマネをした! おまえに"正義"の精神はないのか!」
「……これが、"ベオルブ家の正義"です」
ザルバッグ将軍に背を向け、先の指示通りにいちばん近くに倒れている騎士に、血に塗れた剣を握らせた。
背中越しに、オレはザルバッグ将軍へ向けて声をかける。
聞こえていたかどうかは、些末事だ。
「これが、オレから退路を奪った"ベオルブ家の正義"。何はともかく、この泥沼の戦争に終止符を打つための……」
呆然と、呟くように吟じる。
これでラーグ公の"大義"は失われた。
それに代わり、今これからはベオルブ家が"大義"を掲げるのだ。
"大義"を御旗に、"ベオルブ家の正義"がイヴァリースを席捲する。
これが少なくとも、これ以上の人死にを減らすための近道だ。
何としても北天騎士団が勝たねばならない。
しかし、その勝算は限りなく少なくなった。
神殿騎士団の暗躍によって。
オレが出来るのはここまでだ。
後はラムザ、おまえだけが頼りだ。
北天騎士団の勝利による戦争の終結でなくてもいい。
だがおまえなら、最小限の流血による終戦へと導いてくれると、オレは信じている。
血に塗れた理想を胸に、オレは祈るような心地でそう願った。