【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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アイリの目的

side:アイリ・サダルファス

 

 先刻、アルガスと約束した通り、私はゲルミナス山岳の飛燕騎士団本陣へと戻った。

 ゼルテニア地方――即ち、女王オヴェリア様の御許は安全な状態で、北天騎士団との前線はベスラ要塞に集中している。

 南天騎士団もそちらだ。

 命令が下れば、飛燕騎士団もそちらに配備されることになるだろう。

 

 私はチョコボを駆けに駆けさせ、ゲルミナス山岳の本陣へと舞い戻った。

 

「やれやれ……、状況は酷いわ戦線の動きは忙しないわで嫌になってくるわ」

 

 チョコボを降り、本陣の天幕へと向かう。

 と。

 

「アイリ副官! ご無事でしたか!」

「ご覧の通りね」

 

 私の元に、少女騎士が駆け寄ってくる。

 

「私のチョコボの汗を拭いてやって。突然の突然に次ぐ駆け足で、だいぶ疲れさせちゃったから」

「それは勿論ですが、副官は何をされていたんです?」

「んー、それは……」

 

 オヴェリア様に会うためだけに戦線を離れていた、というのは報告し辛かった。

 アルガスと一緒だったとはいえ、任務放棄もいいところだ。

 

「ゼルテニア城に用があってね、アルガス男爵に同行して所用を済ませてきたところよ」

 

 と、適当にアルガスを出しにして誤魔化すことにした。

 

「なるほど、副官とサダルファス卿で遠方までランデブーに、って痛っ」

 

 彼女の顔も見ずに、すかさずデコピンをくれてやる。

 ボケている暇はあるまい。

 

「前線の状況は?」

「えーとですね」

 

 少女騎士が紙束をペラペラとめくる。

 何気に膨大な数の資料が握られているのだけど、彼女はそれを暗記でもしているのだろうか。

 割と稀有な特技だ。

 

「概ね副官の狙い通りの戦況です。ドグーラ峠では甚大な被害を受けましたが、それ以外は平和なもんですよ」

「他の戦線はどんな感じ?」

「ゼルテニア方面からの攻撃はありません。まあ当然ですよね。ベルベニア方面では我が軍と北天騎士団が一進一退の攻防を繰り広げています。また、ドルボダル湿原は飛燕騎士団がイニシアティブを取った結果、北天騎士団も攻めあぐねています。こっちは、攻めても得るものがないっていうのが向こう側の事情でしょうけど」

「まあいつもの状況ってことよね」

「あ、でもでも」

 

 ふと気付いたように、少女が報告を付け足す。

 

「ベルベニアからベスラ要塞に向けて、何らかの動きがみられました。謎の勢力が暗躍している、って感じですが、そのせいか北天騎士団に動きが見られます」

「そうなの? 具体的には?」

「その勢力が何か仕掛けたみたいですね。北天騎士団の動きに鈍さが見られました。もしかしたらこれを契機に、南天騎士団が強襲をかける恐れがあるかと」

「ふむ……」

 

 と、なると。

 ここは飛燕騎士団の出番か。

 南天騎士団の強襲なんて事態が起これば、決戦が遠のくどころか無駄な血が流れ過ぎる。

 なんとしても南天騎士団より先に飛燕騎士団を動かさなくては。

 

「状況はだいたい分かった。飛燕騎士団の半数を連れてベスラ要塞へ向かうわ」

「あんまりにも大々的に動き過ぎでは?」

「派手な方がいいのよ。この動きを南天騎士団が見れば、その様子を窺うために多少の時間稼ぎができる」

「でも副官のお考えはそれだけじゃないですよね」

「あんたも私の従者が板についてきたわね」

「いやー、それほどでも」

 

 褒められたーと有頂天になってる彼女の心が眼に浮かぶ。

 その次に出た言葉は。

 

「で、副官はどうされるおつもりで?」

 

 とりあえず結論は出させないと気が済まないタチなのは、少し領分を踏み越えている気がしたけど。

 

「飛燕騎士団をベスラ要塞に置いて、南天騎士団の出方を窺う。同時に、飛燕騎士団が南天騎士団の抑止力になるように、向かわせる大隊を駐屯させるわ。こんな時期に決戦なんて早まったマネ、させるもんですか」

「さっすが副官、悪知恵がよく働きますね!」

「それ以上の悪口は越権行為よ」

 

 ゼルテニア城の状態も気になってはいるけど、今は戦線の維持が最重要課題。

 大規模な流血が成される瀬戸際なのだ。

 なんとしても押し留めなくては。

 

「ゴルターナ公とオルランドゥ伯は?」

「えーとですね」

 

 ペラペラと資料をめくる。

 

「どうやらあちらさんは決戦を想定しているみたいですね。南天騎士団の大軍と一緒に、御二方もベスラ要塞に出向するようです」

「それだけ分かれば十分だわ、ありがとね」

「副官ご愛用の黒チョコボの準備は整っていますよ」

「手際がいいわね。今度キャンディでも奢ってあげる」

「そこまで子どもじゃないです!」

 

 聞き流しながら、天幕に寄せられた黒チョコボの元へ走る。

 

「出撃するわ。頃合いを見計らって狼煙を一本上げて、それを合図にベスラ要塞に向けて進軍開始よ!」

「はい、アイリ副官! お任せください!」

 

 少女騎士の敬礼に応えるように、私は黒チョコボに跨って天に昇った。

 

 

 

 

 

side:アグリアス・オークス

 

 ラムザに戦力外通告を出された。

 

 などという事実は一切なく。

 私と数名の従騎士たちはゼルテニアに留まることになった。

 全てはオヴェリア様の御為である。

 しかし、貴族といえど我々が女王であるオヴェリア様と昵懇の仲であることなど、知る者はいない。

 陰からあの方を守れればそれでいい。

 私は初めそう思っていた。

 しかし、それだけでは足りないのだ、と、理解するのに時間は必要なかった。

 その辺りの状況の機微を悟って欲しいと願ったのは、多分、人生においてこの一度限りだろう。

 

「さて、どうしたものか……」

 

 私はゼルテニア城下町の宿に潜み、機会を窺う。

 しかし、その機会というのがどんな形なのか分からない。

 このままではいけない気はする。

 だが迂闊に動いて不審を招く事態にでもなれば本末転倒だ。

 

 そんな答えを求めて、もう丸3日。

 ラムザたちはもうベスラ要塞に到着した頃だろうか。

 彼は着々と自分の目的を果たそうとしているのに、私だけが足止めを食っている訳にはいかない。

 ここは強引にでも押してみるべきか。

 そう思って日中、ゼルテニア城の周辺を探り始めて。

 間もなくそんな機会が訪れた。

 

 ゼルテニア城の裏手にある教会の跡地に、オヴェリア様が単身で現れたのだ。

 ひとまず、陰からその様子を窺う。

 本当ならすぐにでも彼女の前に馳せ参じ、今までの不在を謝すべき立場なのに、まだこんな他所事に興じている。

 それが私にとって、もどかしくもありながら情けなくもあった。

 

 オヴェリア様が腰を下ろし、静かに祈りを捧げる姿勢をとった。

 変わらない。

 あのオーボンヌ修道院の礼拝堂で、神に祈っていたあの御姿と変わりないオヴェリア様の姿が、そこにあった。

 私はもう、躊躇わずそこへ立った。

 

「オヴェリア様」

 

 少し離れた瓦礫の端から、彼女に声をかける。

 ビクッと、オヴェリア様は驚いたように、私へと顔を向けた。

 

「貴女は……アグリアス?」

「……はい」

 

 私はどう答えて良いか分からないまま、俯きがちに応える。

 顔を上げて、オヴェリア様の元へと歩み寄った。

 片膝を突き、オヴェリア様へと跪く。

 

「長きに渡る御暇、ご容赦をなどとは申しませぬ」

「アグリアス……、貴女はてっきり、ラムザたちと一緒だったのかと」

「ええ。そのラムザの一存で、私をここに置いておかれました」

「……何故?」

「オヴェリア様を……御守りする為です」

 

 出来得る限りの言葉で、私は彼女を安心させたかった。

 しかしどうだろう。

 私は自分の中で、その事実を咀嚼できずにいた。

 

 私の中に、ラムザへの未練が残っている。

 きっとラムザは、私のそんな胸中を見透かして、それでもなお私をオヴェリア様の為に残す決意をしたのだろう。

 ならば応えねばなるまい。

 ラムザにも、そしてオヴェリア様の為にも。

 

 私は顔を上げた。

 

「ラムザは今、悪しき者たちとの戦いに巻き込まれています。それは教会の陰謀であったり、邪な計画を企む者たち、それぞれにあります」

「悪しき、者たち……」

 

 胡乱気に、オヴェリア様が繰り返す。

 

「オヴェリア様、今このイヴァリースでは大陸を二分する内乱につけこみ、邪悪な企みを考える者が無数に存在します。それはゴルターナ公然り、ラーグ公然り……、そして、それ以上の者どもも」

「何が言いたいの、アグリアス……?」

 

 ああまたしても。

 私はオヴェリア様に不安を与えることしか出来ないのか。

 いや、それではダメだ。

 ラムザは私にオヴェリア様を託したのだ。

 ならば、私の言葉に嘘偽りなどあるものか。

 

 私は意を決した。

 

「オヴェリア様、誓って私は貴女の味方です。他意はございません。貴女を利用する者全てから、私は貴女を御守り致します」

「アグリアス……」

 

 私はオヴェリア様の瞳を見つめた。

 オヴェリア様もまた、私の眼を真摯に見つめてくる。

 

 何秒、いや、何十秒とそうしていただろうか。

 私とオヴェリア様の断絶は、それ以上の時間を費やしてなお、修復しかねることを物語っていた。

 不信は覚悟の上だ。

 なればこそ、私は彼女に尽くさねばならない。

 たとえこの身が時の流れに朽ち果てようと。

 

 その静寂を。

 

「何をしている、オヴェリア」

 

 男の声が破った。

 

「ディリータ……!」

 

 オヴェリア様がその闖入者に応えた。

 そうだ。

 この男がいた。

 ラムザにとっての親友であり、オヴェリア様を利用する奸物が。

 私は跪いたまま、彼に向けて言う。

 

「……女王陛下の御前ぞ。礼を失するな、恥を知れ」

「悪いがそれはこいつに止められていてな」

「無礼者が……!」

 

 立ち上がり、私は腰に佩く剣に手を掛けた。

 

「やめて! アグリアス!」

 

 ディリータはそんな私を見て、肩をすくめる。

 

「ラムザの入れ知恵か。どうやらよっぽどオレは信用されているみたいだな」

「今まで貴様が何をして来たか、知らぬ私ではないぞ」

「だがラムザはおまえを寄越した。あいつのことはよく知っている。おまえよりもよっぽどな」

「よくも抜け抜けと……!」

 

 今にも噛み付こうかという私を抑えたのは。

 ラムザの、ある一言だった。

 

「……ラムザからオヴェリア様に伝言があった」

「ほう」

 

 ディリータが私から視線を外し、オヴェリア様へと向けた。

 

「話してもらおうか。ラムザが何だって?」

 

 恥も外聞もないのか。

 ただ私を逆撫でしたいだけなのか。

 そんな男に話すのは業腹だったが。

 

「……オヴェリア様へ。どうかディリータを……、この男を最後まで信じてやって欲しい。そう言っていた」

 

 ディリータの、嘲笑するような表情が変わった。

 まるで、心底から信頼している者へ向ける、真摯な表情へと。

 私の先に誰かを――そう、ラムザを見ている。

 

 オヴェリア様は、そんな私たちを不安げに見るだけだ。

 動かない気配を断ったのは、ディリータだ。

 

「そうか……」

 

 ディリータは口の中で、何か言葉を発しようとしたのか、軽く俯いた。

 すぐに顔を上げる。

 

「用件はそれだけか?」

「ああ」

「ならばさっさとここから去るんだな」

 

 それだけ言って、ディリータが私たちに背を向ける。

 オヴェリア様がそれを追うように、弾けるような声を上げる。

 

「ディリータ!」

 

 応えるように、ディリータが立ち止まった。

 立ち尽くしたまま、顔だけこちらに向けて。

 

「アグリアス、オヴェリアのことを遠くから見守ってやってくれ」

 

 そう言い、今度こそ彼は教会跡から去っていった。

 

「ディリータ……」

 

 私もまた立ち尽くし、彼の去り行く姿を見送った。

 あの男は、妄執だけではない。

 冷酷非道な道を歩みながら、その内側に芯の通った信念を持っている。

 私はラムザの言う、彼の人となりにつられたのか。

 はたまた私が油断しているだけなのか。

 分かりかねたが、彼に会って私は知ることが出来た。

 彼の……、オヴェリア様へ持つ情は真実だ、と。

 ならば私は、オヴェリア様を守ろう。

 そして彼がまた、オヴェリア様を裏切るようなら、その時は容赦しない。

 そのふたつを、私は心に誓った。

 

 

 

 

 

side:アイリ・サダルファス

 

 黒チョコボを飛ばして、私は一直線にベスラ要塞へと向かう。

 しかし飛燕騎士団は、名前とは違ってその実、全てが徒歩の軍だ。

 私だけが先に着いたところで、やれることなどたかが知れている。

 だからこそ、私は先に根回しをしなければ。

 飛燕騎士団がいざという時、動きやすいように、と。

 

 ベスラ要塞に辿り着き、私は黒チョコボを要塞の内側に横付けした。

 

「止まれ! 貴官はいずこの所属か!」

 

 声高に停止を告げる衛兵。

 南天騎士団の騎士だろう。

 身なりからもそれは知れたし、何より高圧的な態度がその軍の横柄さを物語っている。

 

「飛燕騎士団が副官アイリ・サダルファス! 此度は男爵アルガス・サダルファスの名代として罷り越しました!」

 

 一喝するように、私は所属を告げた。

 さらに続ける。

 

「現在、我が軍はベスラ要塞の騎士団に合流すべく進軍中です! 先んじて単身にて伺ったこと、非礼を詫びます。ご容赦願いたい!」

 

 私の気風の良さが伝わったのか、衛兵の態度が軟化するのが眼に見えて分かる。

 全くもって調子のいい話だ。

 

「通行を許可する! 要塞内にて、改めて所属と目的を述べるがよい!」

 

 その言葉を右から左に、私はベスラ要塞の内部へと進入した。

 目的はふたつある。

 ひとつは飛燕騎士団をベスラ要塞に駐屯させること。

 もうひとつは。

 

「伯はおられますか?」

 

 要塞内の兵に尋ねる。

 そう、オルランドゥ伯との謁見だ。

 

「既にこの要塞に来られているはずだ。応接室まで案内する。そこでしばらく待て」

「感謝します」

 

 私は表面的な礼だけ言って、その兵に応接室まで通してもらうこととなった。

 

 雷神シドが率いる無敵の矛"南天騎士団"。

 私が繰る難攻不落の盾"飛燕騎士団"。

 

 私とオルランドゥ伯の折衝でこの先の展開が変わる。

 何としても力任せの決戦だけは避けなくてはならない。

 それまでの時間稼ぎ。

 果たして上手く事を運べるかどうか。

 そして、それが上手くいった時こそが。

 

「ラムザ……、あんたの出番だからね。頼りにしてるから」

 

 もう久しく見ていない彼の顔を思い描き、私は私の役目を果たすことに気合いを入れた。

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