【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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ユーリの迷い

side:ユーリ・ベオルブ

 

 ベスラ要塞を臨む北天騎士団の陣地。

 その中にて、大事件が発生した。

 

 ラーグ公の暗殺。

 

 南天騎士団が寄越した暗殺者の手に掛かり、北天騎士団の最高司令官が殺害された、という事件だ。

 だが、真相は違う。

 ダイスダーグ卿による狂言だ。

 本当の実行部隊は北天騎士団の手による謀殺――ダイスダーグ卿の命を受けたオレが公の命を奪った。

 ザルバッグ将軍もその場で一連の事実を見ていた。

 果たして、将軍はこの謀りごとを見逃してくれるだろうか。

 あの潔癖な将軍が、信頼する兄であり北天騎士団の軍師でもある実兄のなさりようを、看過できるのか。

 

 オレの手は……震えていた。

 武者震いのせいじゃない。

 オレの成した手は、果たして正義なのか。

 ザルバッグ将軍に詰め寄られた時、オレは確かに自分に向けてそう言った。

 "ベオルブ家の正義"だ、と。

 だがしかし、これはどういうことだ。

 今さらになって、己の信じていたことが間違いだったと、そんな言い訳をするのか。

 オレの求めた理想は、すくい上げた砂粒のごとく両手から零れ落ちていく。

 そんな錯覚を感じさせていた。

 

「後悔してンのか、ユーリ」

 

 オレの背中越しに、声をかけてくる。

 

「ガフガリオン……」

「おまえはよくやったよ、立派なモンだ。そこまでよくダイスダーグに肩入れできるのか、ってな」

「ガフガリオンはやはり、この謀略を許すのか……?」

 

 縋るようなオレの言葉に、しかし彼は首を横に振る。

 

「おまえの正義を疑うつもりはねえよ。だがこれが"悪事"だということはおまえも理解しているンだろう?」

 

 "悪事"……。

 オレはまた"ベオルブ家の正義"を笠に着て、"悪事"を成したのか。

 そして、成し続けていくのか。

 

「オレは……、正直言えば怖い……。ラーグ公が亡くなった時に感じたのは、正義を笠に着たただの暴力だったんじゃないかと、震えが止まらないんだ……」

 

 ガフガリオンが、オレの感じている恐怖に応えるように言う。

 

「オレはな、ユーリ。正直、ダイスダーグのやろうとしていることは間違っていると、本気で思い始めている」

「……おまえがそれを言うのか?」

「プライドも正義もドブに捨ててきたつもりだったが、ダイスダーグに付いていくことは、ハッキリ言ってもう無理だと感じている。大事を成す、それは重要だ。だが奴のやろうとしていることはもう大事からは破綻し始めている」

「おまえは……ダイスダーグ卿を裏切るつもりなのか?」

「さて、な」

 

 そう言って、ガフガリオンはオレに背を向けた。

 

「今はまだ奴に付いていくさ。下手に奴を敵に回して、いつ首が胴から離れるか分からン状況に陥るよりかはマシだ。だがいずれは逐電する。おまえも身の振り方を考えるンだな」

 

 言い残して、ガフガリオンはオレを見ることなく去っていった。

 

 オレはまた、迷っているのか。

 "ベオルブ家の正義"は、ダイスダーグ卿にはない、と。

 あるのは"大義"を笠に着た、ダイスダーグ卿の野望なのか、と。

 ザルバッグ将軍は、どう感じているのか。

 汚い謀略だと、将軍は言っていた。

 ならばオレは、何に従えばいい?

 何を規範に動けば、オレの求める正義は見つかる?

 そこまで考えてオレは初めて、オレ自身に何のビジョンもないことを悟った。

 

「なんでだ……? 何を怖がっているんだ、オレは……?」

 

 正義を笠に着た暴力。

 それこそがオレの嫌う、純然たる正義の本当の姿なのだと悟って、初めて吐き気を感じる。

 恐ろしい。

 今はただ、ダイスダーグ卿が目指す戦争の決着を見るのがひたすらに恐ろしい。

 ならばオレは、何を信じるのが正しい?

 

 ラムザ。

 おまえなら分かるのか?

 この戦争の終結を、おまえならではのビジョンがあるのか?

 

 北天騎士団の危機。

 即ち、南天騎士団によるオレたちへの蹂躙。

 そんなことを考えるオレを、これ以上、思考するのはよせ、と、ただ心の内で叫ぶ別のオレが存在している。

 

 バルクの言いなりになるのか。

 ラーグ公とゴルターナ公、両陣営の要人の抹殺。

 そして騎士団同士による全面対決による戦争の終結。

 それを止めるために、オレやラムザ、アイリたちがいるんじゃないのか。

 

 答えは出なかった。

 ただ流れに身を任せるオレは、どこまで腑抜けになっているんだ。

 考えるのをやめるどころか、疑問だけがオレを支配している。

 オレの胸中に、ラムザとアイリの顔が浮かんでは消えるのを、黙って見ているしかなかった。

 

 

 

 

 

side:アイリ・サダルファス

 

 ベスラ要塞内の応接室。

 私はそのうちのテーブルにある席のひとつに腰掛け、時を待っていた。

 オルランドゥ伯との会見。

 そこで私の――いや、私たちの身の振り方が変わる。

 果たしてオルランドゥ伯は血みどろの決戦を望むのだろうか。

 それとも、以前アルガスから聞いた通り、和平による戦争の終結に腐心してくれるのか。

 見極めなければならない。

 前者なら、身を張ってでも止めなくては。

 

 応接室のドアが開いた。

 その外から、鎧に身を包み外套を纏った、以前に見た通りのオルランドゥ伯が姿を現す。

 私は席を立ち、伯に向かって片膝を突いた。

 

「そう畏まらずとも良い。貴公との会見は私も望むところだ」

「ありがとうございます、オルランドゥ伯爵」

 

 オルランドゥ伯がテーブルの最前列に置かれた席に座る。

 私もそれに併せて席に着き直す。

 

「さて、久方振りかな、アイリ・サダルファス殿」

「私のことをご存じで?」

「この戦争が始まるより前、ゼルテニア城で出会ったろう? もしかしたら貴公は忘れているやもしれぬが」

「滅相もございません。あの時はほとんど無位無官の私のことなど、既に捨て置かれてるかと勘違いしておりまして……」

「ははは、それが今や、ゴルターナ軍にとって切っても切り離せぬ屈指の騎士団の、実質的な指揮官ということではないか。若者の情熱と向上心は私としても見習わねばならんな」

「恐縮です、オルランドゥ伯」

 

 相変わらずの好々爺ぶりだ。

 皮肉でも何でもなく、そう思う。

 

「で、アイリ殿、どのような用件で私に面会を希望されたかな?」

「はい、単刀直入に申し上げます」

 

 私は背筋を伸ばし、視線をオルランドゥ伯に合わせた。

 

「私は、伯がこの戦争に関して懐疑的な立場を取っていらっしゃると考えています。戦争の終着点、いかにお考えですか?」

「私の考えは、今も以前も変わらぬ」

 

 伯がよどみなく続ける。

 

「大軍同士の決戦による血みどろの決着……そんなことを私が望んだことは一度もない。和平的決着が出来るのであれば、私はそれに力を尽くしたい」

「では、伯も……」

「うむ。ゴルターナ公は未だにそのような決着は望んではおられぬだろうが、だからと言ってその為に我が軍の兵たちの命を無惨に散らすことを許すつもりもない。それは貴公も同じなのではないか? 飛燕騎士団の副官殿」

「仰る通りです。私ではゴルターナ閣下の意を違えることは出来ません。しかし、オルランドゥ伯ならば、あるいは……」

「承知している」

 

 伯が重々しく、静かに告げた。

 

「貴公の意見に賛成しよう。今すぐにでも、閣下に上申すると致す。貴公は気を休め、この要塞内でしばし安らうが良かろう」

「ありがとうございます! オルランドゥ伯爵!」

 

 私は深々と頭を下げた。

 オルランドゥ伯率いる南天騎士団、そして私が寄越している飛燕騎士団。

 その両騎士団の頭がゴルターナ公に上申するのだ。

 きっとゴルターナ公も、この提案を無視することは出来ないはず。

 やはりオルランドゥ伯を頼ったのは間違いじゃなかった。

 

 私が興奮冷めやらぬ心地にあった時、応接室の扉が開かれた。

 数人の、武装した騎士たちが挨拶もなく、どやどやと室内に押し寄せてくる。

 

「何事か!」

 

 席を立ち上がるオルランドゥ伯の一喝に、その騎士たちは一瞬慄いたものの、しかし伯を取り囲むように立ち塞がる。

 

「……オルランドゥ伯爵、謀反の容疑で貴方を拘束いたします」

 

 騎士のひとりが発した言葉に、私も弾かれるように席を立った。

 

「お待ちください! オルランドゥ伯に対して、それは無礼な物言いでしょう! 何を根拠にそのような……!」

 

 しかし、騎士たちは私の言葉など黙殺するつもりのようだ。

 ただ、オルランドゥ伯の一挙手一投足に対してのみ、気を張っている。

 

 入り口から、またひとりの人物の影が差した。

 ゴルターナ公閣下、その人だ。

 

「……残念だよ、シド。貴公が私に謀反を企てようとは」

「本気で仰っておいでか。謀反など、企んだこともございませぬ」

「まあ良い」

 

 まあ良い……って。

 いや、全然良くない!

 ここまで上手く事を運べたのに、この人はまたしても台無しにする気か!?

 

 ちらりと、ゴルターナ公が私に目配せして。

 オルランドゥ伯に向けて。

 

「今より、南天騎士団及び飛燕騎士団の指揮権は聖騎士ディリータに預けることとする。異論は許さぬ」

 

 きっぱりと通告した。

 

 ちょっと、ふざけるなっての!

 聖騎士ディリータだって?

 忠臣オルランドゥ伯を切り捨てて、あんな謀略で成り上がったディリータを信用するっていうの!?

 

「本当に残念だよ、シド……。ふたりともども連れていけ!」

 

 私とオルランドゥ伯が、騎士たちに取り囲まれて追いやられるように応接室から弾き出される。

 その部屋から出る間際。

 そこには、何食わぬしたり顔で見送るディリータの姿があった。

 この展開は、絶望的だ……。

 

 

 

 

 

side:ディリータ・ハイラル

 

「閣下、お呼びですか」

「うむ、貴公の働きのおかげで危うく失脚する憂き目から逃れることが出来た。礼を言うぞ」

「教皇猊下の命に従ったまでのことです」

「引き続き、教会との連絡を頼む。教会の詔勅があれば、ラーグを失脚させることなど容易いこと」

「猊下の御心は既にお決まりです。ご安心を」

「大義であった」

 

 ゴルターナ公が重々しい口調で告げる。

 

「それから、今から貴公に南天騎士団と飛燕騎士団の指揮権を預けようと思う。今日から貴公は聖騎士だ」

 

 ゴルターナ公から言質を取った。

 オレはほくそ笑む。

 

「ありがたき幸せ!」

 

 これでオレはゼルテニアにおける力の大半を、手中に収めたことになる。

 収穫は充分だ。

 後は余分な稲を刈り取るだけ。

 それはまだ後のお楽しみだ。

 

「貴公だけが頼りだ。頼んだぞ、ディリータ」

「後のことはお任せください」

 

 そう、後のことはオレに任せておけばいい。

 今は存分に己の栄華に酔っておけ。

 

 雷神シド、おまえはもう用済みだ。

 しばしの間、こんな愚物に従っていたことを悔やんでいればいい。

 だが、アイリ。

 おまえにはまだ利用価値がある。

 今はせいぜい悔しがっておけ。

 後で存分に使い潰してやる。

 

 オレのスタートラインは引いた。

 後は定められたゴールに向かって一歩一歩、歩を詰めるだけだ。

 ラムザ、おまえはどうだ?

 おまえは何のために、どのようにして己の理想を掴む?

 今はまだ見ぬ親友に向けて、オレは嘲笑とも激励とも取れぬ思いを抱いていた。

 

 

 

 

 

side:ユーリ・ベオルブ

 

「よぉ、ユーリ」

「……ガフガリオンか」

 

 呆然と突っ立っていたオレに、背後から声をかけてくるガフガリオン。

 

「オレの無様を笑いに来たか?」

「おいおい、いくらなンでもそこまでオレは悪趣味じゃねえよ。……だが、まだ堪えているようだな」

「……オレを殺すか?」

 

 オレの言葉に、ガフガリオンは表情を失った。

 冷たい態度、というよりか、思いもよらぬ言葉を受け取ったことにキョトンとしてしまった、といった風だ。

 そこまで察して、オレは苦笑する。

 

「冗談だ」

「おまえの方がよっぽど悪趣味だな、おい」

 

 ガフガリオンもまた苦笑しながら、笑い返した。

 

「で、おまえはもう決めたのか」

「何をだ」

「ダイスダーグに付いていくのか、ここで逃げを打つのか、そのどっちかしかねえだろ、ここまで来たらよ」

「答えは決まっている」

 

 腕を垂らしたまま、ぐっと拳だけを握りしめて。

 

「オレは"ベオルブ家の正義"を信じている。そして手段がどれだけ悪辣であろうと、それを成し遂げるのはダイスダーグ卿だけだ」

 

 しかしオレは俯いたままだ。

 まだ、迷っているのか。

 ガフガリオンが感心したかのように、ほうっと息をつく。

 

「ダイスダーグの肩を持つのか?」

「結果的にそうなる、というだけだ」

「頭のお堅い聖騎士殿はどうなるンだ? おまえの言い分だと、もうあまり頼りにしちゃいないンだろう?」

「そうだ。ザルバッグ将軍ひとりでは"ベオルブ家の正義"は背負えない。精々がその"正義"の露払い程度しか果たせない」

「大きく出たな、おい」

「それだけダイスダーグ卿の視野が広い、ということだ」

 

 そこまで言い合って、オレは自分の中の矛盾を探した。

 オレは……ハッキリ言って今のダイスダーグ卿が恐ろしい。

 彼が何をしようとしているか、それは分かる。

 だがその過程で、要らないモノは容赦なく切り捨てていく。

 逆に言えば、必要であるうちは始末されずに済む、ということだ。

 ダイスダーグ卿は身内には甘い。

 身内であるうちは、彼に逆らわなければ危険が及ぶことはないだろう。

 そしてオレは"ベオルブ家の正義"を信じている。

 その先にあるのは、恐らくダイスダーグ卿の描く絵図通りの結末――即ち、戦争の終結した後、力を失った王家にとって代わる、ベオルブ家の覇道が待ち構えている。

 そこまでダイスダーグ卿は読んで、王女オヴェリア排斥に始まるこの戦争を導いてきたのだ。

 ダイスダーグ卿の野望と呼んで相違ない。

 だがオレはそこに、あえて乗る。

 彼の行きつく先にこそ、オレが求める理想がある。

 矛盾は、ないはずだ。

 

「おまえはどうだ、ガフガリオン。オレをここで殺すか?」

「……ちょっと前のオレなら、お国の為ならやむを得ないと思ったところだが」

 

 肩をすくめて続ける。

 

「ダイスダーグもおまえも面白そうだ。もうしばらくはおまえらに付き合ってやるよ」

「感謝する、ガフガリオン」

「気にすンな。ダイスダーグはともかく、おまえはオレのダチだからな」

「ダチ?」

 

 思いもよらない言葉を出され、オレは間の抜けた声で問い返した。

 

「言葉の綾だよ、いわゆる同志ってやつだ。おまえとならオレもいい目が見られるかもしれン。直感的にそう思っただけさ」

「そうか……」

 

 オレは彼に視線を真っ直ぐに合わせ、手を差し出した。

 

「よろしく頼む、ガフガリオン。これから先も、な」

「応よ、精々いい夢見させてくれよな、ユーリ」

 

 ガフガリオンがオレの手を掴み、ぐっと握り返す。

 

 済まない、ガフガリオン。

 オレの手はまだまだ血で汚れ続けるだろう。

 だが、おまえが味方であるうちはオレの"正義"は曇ることはない。

 オレが背負うものがまたひとつ増えた。

 それだけだ。

 今はただ、そのことがオレにとっての道標だった。

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