【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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ベオルブ家の事情

side:ユーリ

 

 イグーロス城。

 イヴァリースの西側大部分を()めるガリオンヌ領を治めるラーグ公の本拠地。

 一年を通して温暖な気候に恵まれるも、北にはラーナー海峡から冷たい風が吹雪く寒冷地、ジークデン砦がある。

 何を隠そう、オレたちが遭難していたのはその砦だ。

 もっとも、五十年戦争末期から敵の襲撃は治まり、砦も放棄されて無人の廃墟と化していたのだが。

 

 とりもなおさずオレたち、ラムザ一行はエルムドア侯爵誘拐事件の顛末(てんまつ)を報告するため、城内の執務室に通された。

 そこには仏頂面を絵に描いたような人物、ダイスダーグさんがラムザたちを待っていた。同じ兄弟だというのに貫禄の差が余りある。やはり年の功というものか。

 オレたちは静々と室内に入り、ダイスダーグさんの席に着いているテーブル席に座る。

 

「初陣を勝利で飾ったそうだな。兄として鼻が高いぞ」

「ありがとうございます。これもディリータやユーリたちの活躍あってのことです」

「うむ。皆もそれぞれに武勲を立てたと聞き及んでいる。特にアイリは、アルガス殿の危機を救ったとか。エルムドア侯爵の情報を持って帰還してくれるとはな。大したものだ」

 

 まさか祝いの言葉を掛けられると思ってはいなかったのか、慌てて居ずまいを正すアイリ。

 

「あ、ありがとうございます、ダイスダーグさん。……いえ、ダイスダーグ卿」

「そう固くならずとも良い。おまえもベオルブ家の一員として成すべきことを成した、ということだ。誇りに思って良いぞ」

「は、はい!」

 

 微妙に声を上ずらせながら返事をするアイリ。褒められてもなお、彼の威圧感から緊張した態度で接してしまう。

 でも、良かったな、アイリ。

 

「……ところで、エルムドア侯爵が骸旅団に誘拐されたというアルガスからの報告、兄上はどうなさるおつもりで?」

 

 ラムザが機先を制してダイスダーグさんに問う。今は祝辞を受けるより、エルムドア侯爵のことの方が気がかりらしい。

 

「うむ、既に手は打ってある。ザルバッグの手の者が動いているはずだ」

「では……」

「そう遠くないうちに骸旅団側からも何かしらの要求があるだろう。侯爵殿が生きておいでならばな」

 

 「侯爵殿が生きておいでならば」。

 それを聞いたアルガスは、ガタンと席を立ち、ダイスダーグさんにきっかり90度腰を曲げて。

 

「お願い致します! どうか私に100の兵をお与えください!」

 

 そう(のたま)った。

 おい。

 

「お願いです! どうか仲間の仇を、私に!!」

「手を打ったと申しておる。ここガリオンヌのことは我らガリオンヌの者に任せておけば良い」

「し、しかし!」

「身分を(わきま)えぬか! アルガス殿!」

 

 ピシャリと、アルガスにダイスダーグさんの雷が落ちた。

 そりゃあ、オレとしてもおまえに協力したいけどさ。いくら何でも頼む相手が違うだろうここは。

 

「貴公は士官でもない一兵卒に過ぎぬことをお忘れか?」

「……くっ」

 

 それ以上ぐうの音も出ず、席に着くアルガス。

 オレたちは皆、気の毒そうに、だけど冷ややかな視線でアルガスを見ていた。

 

 ダイスダーグさんの言う通り、ただの兵卒、いやそれ以下でしかない騎士見習いの身分の者がダイスダーグ卿に兵を寄越せと言うのは乱暴すぎる要望だ。無礼打ちされても仕方がない場面だぞ。

 

「おまえたちにはここ、イグーロスの警護の任務についてもらう。なに難しい務めではない。危険がここに及ぶことなどなかろうさ」

「承知しました」

 

 ラムザの返答を皮切りに、オレたちは席を立ってダイスダーグさんに一礼して退室した。

 アルガスには可哀そうな結末になったが。

 

 

 

 

 

「……オレの家も、昔はベオルブ家みたいに他人から敬われる家だったんだ」

 

 イグーロス城の庭園を歩いていたオレたちに、アルガスが唐突に口を開いた。

 

「オレのじいさんが敵に捕まってなぁ。自分だけ助かるために仲間を売ったんだ。その後、逃げた矢先に背後から刺されて死んだ。オレみたいな騎士見習いにな」

「じいさん、って。ご両親は?」

 

 アルガスが首を横に振る。

 

「もちろん、親父もお袋も信じなかった。だけど他の連中は信じて、そうしてうちは没落した」

 

 彼が足元から小石を拾う。それを庭園の泉にヒョイと放り投げた。ぽちゃんと軽い音を立てて小石が水に沈む。

 

「身分か……。確かに、オレひとりじゃダイスダーグ卿には会えんよなぁ」

 

 身分、って言えばオレやアイリもそうなんだろうな。

 バルバネスおじさんに拾われてなけりゃ、その辺の平民と同じでどこかで野垂れ死んでいたんだろうし。

 

「兄さーん!」

 

 不意に、庭園の向こうからよく通る黄色い声が聞こえた。

 聞き覚えがある。というか、無いはずが無い。士官アカデミー時代が長くて最近まで聞いてなかっただけだ。

 

「ティータ!」

「アルマ! ザルバッグ兄さん!」

 

 声の方へと振り向けば、そこにはふたりの少女とひとりの男性。

 オレたちはそっちの方へと足を急がせる。

 

「ラムザ兄さん、戻ってらしたのね」

「ああ」

 

 挨拶もそこそこに、ラムザは男性――ザルバッグさんへと向いた。

 

「お久しぶりです。ザルバッグ兄さん」

「しばらくぶりだな。どうだ、士官アカデミーは」

「お陰様で、ずいぶん充実した学生生活を送らせてもらっています」

「ふふ、ますます父上に似てきたな、おまえは」

 

 ザルバッグさんがラムザから、ディリータ、オレたちに視線を流して。

 

「聞いたぞ。初陣では大活躍だったそうだな。重臣の方々もさすがはベオルブ家の血筋だと褒めておいでだったぞ」

「……ありがとうございます」

 

 どこか渋い表情で返すラムザに、ザルバッグさんはからからと笑った。

 

「ははは、こんな言い方では素直に喜べんか。ディリータの活躍も聞いているぞ。ティータが嬉しそうだった。なぁ?」

「ありがとうございます、ザルバッグ将軍」

 

 ディリータはそれを聞いて、ティータへと顔を向ける。

 

「ありがとう、ティータ」

「いえ、ご活躍されて何よりです。ディリータ兄さん」

 

 きょうだいがそれぞれ独特の世界に入ってしまって、こっちは発言に(きゅう)していると。

 ザルバッグさんがこっちに眼を向けてくれた。

 

「ああ、それとユーリ、アイリ。おまえたちの武勲もついでに聞いたぞ。よく頑張ったな」

「ついでって……。まあ、誉め言葉と思って受け止めておきます」

「からかっただけだ、そう眉間にしわを寄せるな。ははは」

 

 言って、オレたち皆に向けてザルバッグさんが。

 

「もう少しゆっくりしていたいところだが、これから盗賊狩りなんだ。すまんな」

「ご武運を」

 

 ラムザが代表してそれに応えた。

 と。

 

「……骸旅団から身代金の要求があった」

「なに!?」

 

 ザルバッグさんの一言に、アルガスが大声で応える。

 それを気にした様子もなく、ザルバッグさんは続ける。

 

「どうも解せぬところがある」

「どういうことですか?」

 

 ラムザが先を促す。

 彼は彼なりにアルガスに気を遣ってやっているのだろう。この中でザルバッグさんに一番もの申せるのは自分だけだとわかっている。

 

「奴らは王家に仇成す賊徒だが、その実、反体制を掲げるアナーキストだという。貴族への略奪行為など論外なのだが、要人を拉致して端金を要求するとは、いささか腑に落ちん」

「馬鹿な! 奴らはただのならず者だ!」

 

 ……アルガス、おまえさぁ。

 

「以前、各地に放った"草"からの連絡が途絶えている。だが重臣の方々はただの"草"ごとき捜索する必要はないと仰せだ」

「どこで行方を絶ったのですか?」

「ガリオンヌの東、ドーターという貿易都市だ」

 

 ザルバッグさんは背を向けた。その前に、ラムザやオレたちに視線を流して。

 

「……城の警備など退屈だぞ。そう思わんか?」

 

 言い残して、その場から去っていった。

 ディリータはやれやれと、肩をすくめた。あんなことを言われては、これはもう事を止める流れではない。

 

「……すまない、ティータ。オレたちはもう行くよ」

 

 ティータはそれに応えて、ディリータの顔を見つめた。たおやかな笑顔で。

 

「私のことは心配しないで、兄さん。兄さんは自分の事だけ考えて、ね?」

「ああ、おまえもな」

 

 そうして、ふたりは抱擁(ほうよう)を交わした。

 

「ねえユーリ」

 

 不意に、アイリが小声でオレの耳元に囁く。

 

「私たちもしない?」

「なんだよアイリ」

「ハグ」

「……なんでそうなるんだ、遠慮しとく」

「あっ、そ」

 

 それっきり、アイリは黙った。ホント、何なんだこいつは。

 

 ディリータが立ち上がる。一通りの、親愛を確かめる儀式を終えて。

 

「さあ、行こうぜアルガス」

 

 そう言って、ディリータはティータを伴って、アルガスと共に庭園を後にした。

 

 きょうだい、か。

 オレとアイリは同じ士官アカデミーに通う、いわゆる級友として付き合ってきたわけで、それほど感動的な場面には思わなかった。けどラムザとディリータにとってはとても大切で、大事な時間だったんだろうな。

 

「オレたちも行こう、アイリ」

「うん……」

 

 オレたちは早足で、ディリータたちの後へ続いた。

 ラムザは、まだ留まっている。あいつにも、アルマとの大切な時間があるんだろうな。

 

 でも、きょうだい、か……。

 オレとアイリは余りに近くに居すぎたせいで今まで気にすることもなかったけれど、世が世だから、オレたち双子もいずれ政略の道具にされる時が来るのだろうか。

 きっとそんな時が来れば、ダイスダーグさんは容赦すまい。

 

 今のこの時間を大切にしなければ。

 改めてオレは双子の絆を守ることを、胸の内で誓うのだった。

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