【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ   作:12club

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ハグ

side:アイリ

 

 イグーロスの城下町。

 そのとある武具屋にて。

 私たちは貿易都市ドーターへ向かう戦いの備えをしていた。

 

 問題行動だ。冗談でなく。

 さっきアルガスがしでかした非礼にも劣らない、軍紀違反だ。

 

「おい、おまえ」

 

 背後から唐突に声がかかる。アルガスだ。なんだか最近見慣れてきた、いつもの仏頂面である。

 

「どうしたの、アルガス?」

「こいつをやる」

 

 言って手渡してきたのは、一振りのロングソード。でも、これって。

 

「これ、アルガスが使ってたやつじゃん。どうしたのよ」

「今度からオレはこれを使うからな」

 

 見せてきたのは、一丁の機械仕掛けの弓矢。ボウガンといった自動弓だ。

 

「どっちかっていうとオレはこれの方が得意なんだ。この前、盗賊どもに壊されてから剣を使う羽目になったが、どうも慣れねえんだよ」

「剣は不得意?」

「というか射撃の腕前がいいんだ」

 

 ふーん。

 自分で言うか、そういうこと。

 

「でも、どうして私に? 剣ならラムザやディリータの方がよっぽど得意だと思うけど」

 

 ユーリだって、剣はそう捨てたものでもないし。

 

 言った私から視線を逸らして、アルガスが応える。

 

「その、なんだ。以前にマンダリア平原で盗賊どもから助けてくれただろ。その礼代わりだよ」

「ぷっ、何それ。私を口説いてるつもり?」

「うるせえな。貴族が平民に施しを与えるのは当然のことだろ。いわゆる貸し借りはこれで無し、ってやつだ」

 

 なんとなく、問題行動は多いけど一本筋が通ったやつだな。

 ユーリが助けたがる気持ちが少しわかる気がする。

 

「でも女の子へのプレゼントにはちょっと物騒すぎるわね。もっと高価なアクセサリとか香水とか、高いバッグでもないとさぁ」

女心(おんなごころ)なんて知らねえよ。黙って受け取っとけ」

「うん、ありがと。アルガス」

 

 私はそれを受け取った。

 がちゃ、と刃と鞘がこすれる音が零れる。

 

 おもむろにアルガスが言う。

 

「……おまえとユーリ、平民出身だってな。それも、特別な」

「特別って言えば、まあ、そうかな」

「ラムザから聞いた。同じ平民のディリータでさえ家名持ちだっていうのに、おまえらはそれすら無いんだろ」

「んー。まあベオルブ姓を名乗るわけもいかないし、私たちには両親すらいないしね。こっちじゃ」

「神隠し、ってやつか? 天下に名立たる、天騎士バルバネスに拾われたんだってな。平民ですらないおまえらは生きていくにも大変だったろ」

「そうかな? ベオルブ家はいい人たちばっかりだし、美味しいご飯と寝床にも困らなかったから、文句のつけようもなかったわ。貴族としての教養を叩き込まれるのにはちょっと違和感があったけど」

 

 違和感。

 自分で言ってて、空々しい言葉だ。どこか他人事のように聞こえる自分がいる。

 貴族の家に拾われたからには、貴族としての教養も身に付けないといけないものだったし。

 

「ねえアルガス」

「なんだ」

「貸しひとつにしとく。あんた、私たちのこと、平民だからって内心鬱陶しいって思ってるんじゃない?」

「……それがどうした」

 

 仏頂面が、また少し険を強める。

 

「アルガスは没落したとはいえ、貴族なんだよね? なら平民の私たちのこと、守ってよ。それでチャラにしてあげる」

「言われずとも、そのつもりだ。ラムザは別格だから特別扱いしないが、ディリータやその妹もオレが守るべき平民だ」

「それだけ聞ければ十分。ほら、頑張ってよ。お貴族サマ」

 

 私はそう言って、アルガスの肩に両手を回してハグしてやった。

 ポンポンと背中を叩いてやる。

 

「ば、馬鹿な真似はよせ!」

「いいじゃん。ノブレス・オブリージュっていうの? そういうやつ、結構好きだよ」

「今度はおまえがオレを口説いてんのかよ」

「馬鹿だね。私にも相手を選ぶ権利がありますよーだ」

 

 ぱっと離れて、腰を下げて上目遣いにアルガスを眺める。顔、赤くしてやんの。

 

「オ、オレはもう行くからな!」

「はいはい。もらった剣、大事にするね」

「おまえもさっさと準備しろよ!」

 

 そう言い捨てて、アルガスは店から走り去っていった。

 うぶだねえ。女の子に免疫なさそう。

 

 

 

 誰の眼にも届かなくなった所で、アルガスは独り言ちる。

 

「あいつの手、暖かかったな……」

 

 その独り言は、ふわりと風に乗って消えていった。

 

 

 

「お、アイリ。ここにいたか」

「あれ、ディリータ?」

 

 武具屋に入ってきたっていうことは、わざわざ私を探しに来たっていうことかな。ということは……。

 

「お察しの通り、そろそろ出発だぜ。今、ラムザが点呼を取っている」

「どうせディリータ、私のことは片手間でしょ。情報収集は済んだ?」

「よくわかったな。ぽつぽつと噂話だけでも集めていた。中には面白い情報もあったな」

「面白い情報?」

 

 きょとんとした顔の私に、ディリータは頷く。

 

「ドーターで骸旅団が拠点としている住処(すみか)がスラム街にあるっていう噂さ。もしかしたら、侯爵の行方も知っているかもな」

 

 おっと、それはそれは。

 

「値千金の情報だね。だったら尚更急がなくちゃ」

「慎重を期せよ。辿り着く前に野垂れ死にしちゃ笑えないからな」

「あはは、ディリータってば、結構そういうとこには敏感だよね」

「戦いは情報を集めるときから始まっているのさ。少なくとも、オレはそうやって生きてきた」

「わかってるって、ディリータの性分くらいは。何年の付き合いだと思ってるのよ」

「まあ、そうだよな」

 

 からからとした世間話を交えながら、私たちは武具屋を出る。

 ラムザがいるのは……、この位置からなら、城下町の南門かな。ディリータの言う通り、急がなきゃ。

 

「なあ、アイリ。オレから言うのもなんだが」

「ん」

「アルガスの手綱、おまえとユーリで握ってやってくれないか。オレはラムザを抑えるので精一杯だからさ」

「何それ。私たちにアルガスを監視しろってこと?」

「率直に言えばそうだが、あいつは独断専行しがちな性質(たち)の気がするからな。おまえたちなら信頼できる」

「了解。アルガスがちゃんと言うこと聞いてくれたらね」

「やり方は任せるよ。じゃあ、オレは先に行くぜ」

 

 そうだ。もう時間が迫っているし、急がなきゃいけない。

 せっかくザルバッグさんが気を遣ってくれたんだ。滞りなく進めて、結果を出さないと。

 命令違反のツケが失敗でした、じゃ、あんまりにも格好付かないしね。

 

 

 

 

 

「っと、ラムザ。やっほ」

 

 予想通り、イグーロスの城下町、南門の出入り口でラムザが待っていた。彼の姿を見て声をかける。

 

「ああ、アイリ。やっと来たね」

「ごめん、遅れた?」

「まだ大丈夫だよ。ユーリも来てないし、もうしばらくここで待機だ」

 

 ユーリ、まだ来てないのか。

 

「ところでアルガスがなんだかせかせかしていたけど、何かあったのか?」

「ああ、ちょっとハグしてやった」

「……きみはもうちょっと自重しろよ。無節操に愛嬌振り撒くのは」

「あはは、ごめんごめん」

 

 後ろ手を頭の裏で組んで、ちょっと謝罪。

 まあ多分、私は自重できないんだろうけどね。

 

「で、ラムザ。この後の旅程のことなんだけど」

「そうだ、きみにも説明しておかないとね」

 

 言って、ラムザは鞄から一枚の絵図を取り出した。

 この辺り近辺の地図のようだ。

 

「ここ、西端がイグーロス城。で、ガリオンヌ領の東端が貿易都市ドーターだ。片道2日もあれば着くと思う」

「そこからエルムドア侯爵の居場所を探して、救出に向かう、と。思ったより時間かかりそうだね」

「ああ。どれだけ早く見積もっても帰ってくるまで一週間近くはかかると思う」

「北天騎士団とかち合う可能性は?」

 

 北天騎士団。

 イグーロスお抱えの精鋭騎士団で、団長はザルバッグさんが努める。

 先の五十年戦争でも大活躍した、イヴァリースが誇る勇猛な騎士団のひとつだ。

 

 ラムザの顔がちょっと曇った。

 

「ない、とは言えない。イグーロスから出るっていうことは、骸旅団と戦うということだ。その盗賊狩りをしている騎士団と出会う可能性は低くないだろうね」

「その対処はどうするの?」

「まあ、説得するしかないんじゃないかな。ベオルブ家の名前を出せば多少は融通が利くだろう」

「おや、それはそれは」

 

 ラムザらしからぬ提言だ。

 お家の御威光をかさに見逃してもらおうとは、随分とらしくない。

 まあ、どっちみち。

 

「出会わないことを祈るばかりってわけね。ラッキーが働ければいいんだけど」

「まあ、そうだね。大丈夫、いざとなったら僕が責任を取るよ」

「頼りにしてるよ、我らが士官候補生のリーダーさん」

「茶化すなよ、アイリ。きみだって無関係じゃないんだからな」

「はいはーい」

 

 と。

 なんやかんややってるうちに、人影が差し込んだ。

 

「遅かったじゃない、ユーリ」

「悪い。ちょっと道具屋で薬類の調達に手間取っていた」

「首尾は上々?」

「まあな。途中ディリータに会って、最後の確認もしてもらった」

 

 先に武具屋を出たディリータの姿が見えないのも、それが理由か。

 

「ディリータのやつなら、後から合流するってさ。先にオレたちだけでも出発しても構わないらしい」

「そうか。それならあまり長居はしてられないな」

「アルガスは?」

「もう来てる。早速出立の準備を始めよう」

「了解、リーダー」

「そう持ち上げるのはやめろよ……。まったく、きみたち双子は」

「……? んん?」

 

 訝し気なユーリの表情を見ながら、私は少しいたずらっぽく笑った。

 

 本格的な実戦は初めてじゃないけど、相手はいよいよ骸旅団の正規兵――と言うには違和感があるけど、実力は折り紙付きの団員だ。

 

 私はラムザの肩に両手を回して、正面からハグしてやった。

 

「ちょ……、アイリ?」

「だいじょうぶだいじょうぶ。私たちなら絶対上手くやれるよ。これはそのちょっとしたおまじない」

 

 私はラムザのさらさらとした金髪を撫でながら、そう言ってやった。

 脇から見ているユーリがからからと笑う。

 

「そうだな。これでもうアイリは死なせたくなくなっただろ。なあラムザ?」

「本当に……、きみたち双子ってやつは……」

 

 ラムザもまた、私の頭をポンポンと叩いて返してくれた。

 

 さて、準備万端整った。

 本来の守備任務を放り出してのエルムドア侯爵救出作戦。

 まずは眼前の仕事から片付けますよ、っと。

 

 私はラムザをハグしながら、むんっと気合いを入れるのだった。

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