【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ 作:12club
side:ユーリ
森に入ったところで小休止を取ることになった、我らが士官候補生たち。
今日のところはここで夜営し、朝一番に貿易都市ドーターへと辿り着く予定だ。
道中はなかなか順調。
平野や森林でもモンスターなんかに出会わなかったし、このまま行ければドーターへ辿り着く頃には十分なくらい時間が余ることだろう。
その時間を使ってエルムドア侯爵の行方を探りたいものだが……。
そう、得てしてこういう時に邪魔が入るものである。
「斥候からの報せだ」
情報伝達係のディリータがラムザに簡潔に伝えた。
「森の入り口に入った時点で、見咎められたらしい。恐らく北天騎士団の哨戒だろう」
「よりにもよってこんな早くに悟られるなんて……、厄介だな」
降って湧いた災難にラムザも渋面を堪えられずにいた。
「最後尾ではすでに口論が始まってるんだとよ。どうする?」
どうする? と聞いてはいるものの、ディリータにも答えは分かっているのだろう。
ラムザに出張ってもらうしかない。
そんな彼もまた、そう決断したようだ。
「わかった、僕が会おう。すまないがそこまで案内してくれないか?」
と、足を踏み出しかけたラムザを。
「ちょっと待て、ラムザ」
「ユーリ?」
オレはラムザの胸元に腕を掲げて制止した。
「こんな所を哨戒している連中だ。盗賊団のアジトを殲滅するような物騒で剛毅な騎士団でもないだろう。大方、部隊の端っこでオレたちを見つけたから咎めよう、それくらいしか考えてない連中じゃないかな」
「だからと言って、僕らが無視するわけには……」
「無視はしない。だけどおまえはオレたちのリーダーで、ベオルブ家の御曹司だろう。ここは連中から来てもらう方が筋だ」
「……うーん」
結局、オレの言うことにも渋るラムザ。
頭では分かっていても、偉そうぶるには慣れていないってところか。
と、ディリータが。
「ここはユーリの言うことが正しいな。誰か、迎えに行ってやってここまで連れてきてくれ。お話はここでラムザが直に聞けばいい」
オレの言うことに追従してくれた。
ディリータがオレに目配せして、それに対してオレも頷く。
「言い出しっぺはオレだしな。迎えに行ってくる。それと、野営の準備も進んでいるだろ? ラムザの天幕だけは急いで用意しておいてくれ」
「待ち構えろってわけだな。任せろ」
そうしてテキパキと指示を出し始めるディリータ。あれやこれやと言う間に天幕が広がり、テーブルと座椅子が並べられ、装飾の剣や鎧が立て掛けられていく。
それを尻目に、オレは早足で部隊の後方へと急いだ。
「……ですから、自分たちはザルバッグ将軍の密命を帯びて、遭難したスパイを探しに来た者でして……」
「ザルバッグ将軍だと? 馬鹿な。将軍ほどの御方がおまえたち士官候補生ごときをそんな任務にあてがうものか」
しどろもどろに応える士官候補生。居丈高に吠える騎士。
口論はすでに平行線に入っているようだった。
「まあまあ」
オレはそれを無視して、無理矢理割って入った。
「なんだおまえは」
「我々の仲間たちが無礼を働きました。自分は級長ラムザの同輩で、ベオルブ家の代表として騎士団への使者を仰せつかった者です」
「なに、ベオルブ家だと?」
騎士団から嘲るような薄笑いが広がる。舐められたもんだ。
「まずは論より証拠。級長の元にご案内しますので、代表の方に来ていただけますでしょうか。ああもちろん、帯剣はご遠慮願います。よろしいですか?」
騎士たちの間で少しどよめくような気配が感じ取れた。
「ベオルブ家の者だと言っているぞ」「どうする?」「おまえが行けよ……」とか。
そこに。
「おい、ガタガタ騒いでるんじゃねえぞ。こっちは時間が無いんだ。さっさとこっちの指示に従え」
アルガスが後ろから援護に来てくれた。喧嘩を売りに来たの間違いでもないんだが。
「無礼な!」
騎士のひとりが吠える。
「無礼はどっちだよ。天下のベオルブ様がわざわざ付き合ってやろうって言ってるんだ。こっちの言い分を聞くのが先だろうが」
「騎士見習いごときがこの言い草、許せんな。おい、斬っても構わんか」
アルガスの
なら、まあそうだな……。
「構いませんが、ベオルブ家の縁者に手を出したとあれば貴方がたの明日の身の上はどうなるか、わからぬわけでもありますまい。そちらにとっては大事でも、こちらにとっては些事なんですから」
だから早く首を縦に振ってくれ。
こっちの自信満々な態度に、脅しも加えられて騎士たちのどよめきがまた広がっていく。
時間が無いのはこっちも承知だが、相手にとっても同じのようだ。
なんとか話はまとまったらしく、ほとんどこちらの言い分に従う形で騎士たちの方が折れた。
「ありがとな。アルガス」
「こんな所で無駄に時間を食ってる暇はないって言っただろ。それに、おまえもやるじゃねえか」
「オレが?」
「ああも
「そいつはどうも」
これもまた、貴族として受けた教養のひとつだったか。
あるいはダイスダーグさんの背を見て育ったせいか、少し判別がつきかねた。
騎士がひとり、ラムザの天幕に通されて、武装したディリータたちに囲まれる形で終始、話が進められた。
その背後にはこれまた武装したオレとアルガスが控えている。
騎士はどうやら、本当にラムザがベオルブ家の御曹司だと悟ったようで、
やがて騎士が退出して、ラムザが「はぁ~っ」とため息をつく。
「お疲れだな、ラムザ」
「こういうのは苦手なんだよ、ディリータ……。今度からはきみかユーリが話してくれ。僕はお飾りでいいから」
「そうもいかないだろ? 実際、ベオルブ家の代表はおまえしかいないんだからな」
と、まあ。
色々と面倒ごとはあったものの、とりあえず予定通りに夜営は行えそうだ。
夜も交代で寝ずの番を務めなきゃならないし、無駄な労力を使わされたのは予定外だったが。
「おつかれ、ユーリ」
「ああ、アイリか」
「大活躍、おっめでとー」
「茶化すなって……、オレは騎士サマをラムザに面通ししただけだ」
「まあまあ、おかげで騎士団も私たちを見逃してくれそうじゃない? 不安要素が減っただけでも
「それはいいから、おまえも寝られるうちに寝ておけよな。疲れを残したままの
オレとアイリで、先の件を話し合っていると。
「おい」
アルガスの声が聞こえた。大抵こいつの挨拶は「おい」で始まる。
「どうした、アルガス」
「アイリもいるのか。丁度いい」
丁度いい? 何が?
「おまえら、なかなか見所がある。オレの家来にならねえか」
……小学生のお山の大将かよ。
「アルガスの言うことだ。聞くだけ聞くけど、もちろん給金は出るんだろうな?」
「まだ無位無官のオレだぞ。そこまでは期待するな。だがおまえらになら出世払いで約束してやってもいい」
「期待しないで、応えは保留にしておくよ」
「ふん、オレの言ったこととその言葉、覚えておけよ」
用も済んだのか、それだけ言ってアルガスは自分の天幕へと戻っていった。本当、何なんだあいつは。
「アルガスって面白いやつだよね」
「案外、ああいうやつが世の中の英傑になるのかもな」
「憎まれっ子、世に
「案外、的を得てる気がする」
さて、と。
腕を伸ばして、筋をほぐす。
今日の夜番はオレが最初だ。
明日には貿易都市ドーターだ。
何事もない……っていうのが理想だが、それじゃあ命令違反をしてまで来た甲斐がない。
微妙なやるせなさを抱いて、オレは夜番の見回りに出ることにした。
side:アイリ
「アルガス、やっほ」
「ああ?」
仏頂面で私に振り向くアルガス。
人に挨拶する時は「おい」で、話しかけられたら「ああ?」か。
まあいいけど。
「ちょっと座って話さない?」
「何をだよ」
「とりとめない世間話」
「……チッ」
舌打ちして、それでも近くの出っ張った岩肌に背を預けて座り込むアルガス。
「ちょっと待って、今、火を焚くから」
「世間話だろ。さっさとしろよ」
「急かさない急かさない」
適当に石を並べて、その中に小枝を重ねて、火打石で着火する。それから少しずつ太い枝に火を繋げて……。よし、完成。チャッカマンとかあればもっと楽に焚き火出来るんだけどなぁ。無いものねだりをしても仕方ない。
火が辺りを照らす中、私はアルガスの隣に腰を下ろした。
「アルガス、この前、イグーロス城の庭園で言ってたよね。アルガスの家が没落した理由」
「その話かよ。あの時はどうかしてたんだ……、なんであんな話をしたんだか」
「あれってさ。本当の話?」
私のその一言に、アルガスが眉間にしわを寄せる。
「……どういう意味だ」
仏頂面が獰猛な獣のように気迫をみなぎらせる。やっぱり触れられたくない話だったか。
「思ったんだよね。もしベオルブ家が同じことをしたらどうなるか、って」
「何のことだ」
「例えば、ザルバッグさんがダイスダーグさんを敵に売って、逃げ出そうとしたときにディリータみたいな騎士見習いに刺されて死んだら、ベオルブ家はどうなるんだろうって」
「……続けろ」
「多分、アルガスの家とは違う結果になったんだと思うのよ。アルガスの家はそうして民の心が離れて没落していった。けど、ベオルブ家はそうはならない。何故だかわかる?」
アルガスは獣のような気を発しながらも、その意図が掴めず、ピンと来ないようだった。
「要するにベオルブ家はガリオンヌの中心であり、王家にも通じる家柄なわけで、多くの家にも繋がりを持っているの。だから、そんなスキャンダルひとつで家が無くなったら残された他家はたまったもんじゃない。すぐに後釜が用意されて、没落を防ぐ。多分その後継者はラムザになるんだろうけど」
「……で?」
「言ったよね、アルガス。アルガスの家も、昔は皆から尊敬される家だったんだって」
「……何が言いたい」
ここまで言っておきながら、私はこれ以上踏み込んでいいものかと、少し迷った。
でもここまで話したんだし、今更止めるのも何か違うと思って、続ける。
「本当にアルガスの家って、尊敬されてたの? 実は全然必要なかったんじゃない?」
「貴様ッ!!」
アルガスは立ち上がり、私の胸ぐらを掴んで無理矢理引っ張り上げる。
「ああ、そうだよ! 所詮、オレの家は
「わかるよ、それ」
「何がだ!?」
「平民と貴族もそう変わらないってことが、だよ」
そっとアルガスの手を取って、胸ぐらから外す。獰猛な気迫で迫るアルガスに向かって、私は続けた。
「私やユーリだって、ここに来た時にはそれこそ何もなかったさ。運よくバルバネスおじさんに拾われたから、ベオルブ家に
「……くそっ!」
「アルガス」
私は無遠慮に、されどなるたけ優しく聞こえるように、結ぶ。
「頑張ってるあんた、私は好きだよ。エルムドア侯爵は絶対に助ける。そうしたらアルガスにも栄達の道が開かれる。応援してるよ」
獣ように猛った気配はもはや消え、アルガスはうつむいていた。
そっと両手を彼の肩に回して、そのまま抱きしめてやる。
アルガスは至極、当然のようにうろたえた。
「……! 何のつもりだ……!」
「がんばれのハグ。前を向いて走り続けるのもいいけどさ。たまには後ろも見てみなって。ひとりくらいあんたのこと、応援するやつはきっといるから、ね?」
手を解いて、私はアルガスの眼を見つめた。
と言っても、アルガスはアルガスで、こっちのことを見ることはなかったんだけど。
私は体をぐっと伸ばし、わざとらしく大声で。
「さぁって! 夜番も終わったし、もう寝よっかな。アルガスも、明日から頑張りなさいよ!」
焚き火を消すと、夜闇が濃くなり、月明かりだけが辺りを照らす。
エルムドア侯爵救出か。
それが契機になって、アルガスにとって汚名返上出来ればそれでいい。
頑張りなよ。
あんたにとって、夢や栄誉は前にしかないなら、後ろから応援してあげるからさ。
立ち尽くすアルガスを尻目に、私は自分の天幕へと戻っていくのだった。