【急募】FFTを1ミリも知らないオレたちを誰か助けてくれ 作:12club
side:ユーリ
先日の夕刻。
思わぬ来客のせいで行軍が乱されたが、予定通り朝には貿易都市ドーターに辿り着くことが出来た。
都市の中央部は盛んに商人たちが急ぎ足で駆けていたり、それらの露店や商店が町を賑やかしている。
しかし、オレたちの目的はそこじゃない。
都市の沿岸部に広がるスラム街。ディリータが収集した情報では、こっちに骸旅団の隠れアジトがあるという。
「さぁーて……、鬼が出るか蛇が出るか」
「気合十分だな、ユーリ」
「おまえもな、ディリータ」
「せっかくここまで来たんだ。オレの情報が当たってくれることを祈るばかりさ」
さっそく散策を開始する。
どこに鬼だか蛇だかが潜んでいるか分からないから、数人で班を組み、それらしい住処を漁ってく。
住んでいる人には申し訳ないが、犯罪者が隠れているのだ。ここは我慢してもらおう。
オレたちは……、当然のようにラムザたちベオルブ家の縁者とアルガスで班を組んだ。
「ん?」
オレは視界の端に人影を見止めた。
ふたり。
ひとりは抜き身の剣を手にして、足腰の砕けたもうひとりをその場に縫い付けている。
訝し気なオレにアルガスが声をかけてきた。
「どうした、ユーリ」
「静かに」
「……おまえたちがやったのはわかっているんだ」
剣でひとりの剣士を差し付けた騎士風の男が、ドスの利いた声で問い質している。
「ギュスタヴはどこだ? 公爵はどこにいる」
「……し、知らない」
「下手人のおまえたちが知らないはずがないだろう。応えろ!」
腰が砕けていたはずの男が、無理矢理立ち上がってその騎士から離れようとその場から飛び出した。
しかし、無理な姿勢で動こうとしたせいか、足をもつれさせてまた無様に腰を落とす。
騎士はゆっくりと剣士に近寄り、再び剣をその男に向けてかざした。
「これが最後だ。どこだ?」
剣士がうつむき、観念したように応える。
「さ、砂漠だ……」
それを聞いた騎士は剣を鞘に納めた。
「そうか、砂ネズミの穴ぐらか」
そうして、その場から騎士が去ろうとしたところで。
「待て!」
ラムザが威勢よく叫んだ。
騎士が鬱陶しそうな視線を向けて、警告を無視してその場から立ち去っていく。
それを見たアルガスが満足気に独り言ちた。
「どうやらドーターまで来た甲斐があったようだな」
しかし、ディリータは怪訝な顔をしたままだ。
「あの騎士の男、どこかで……?」
「知っているのか、ディリータ?」
「ああ、五十年戦争の終わりにイグーロスで見たことがある……?」
どかどかと、急にスラム街がざわついた。
どうやら骸旅団の盗賊くずれらしい。
舐められたもんだ。あの騎士ひとりにブルっていた盗賊どもが、オレたちなら抗しえると思って現れたと見える。
「戦わないわけにはいかないようだな。行くぞ!」
ラムザの
「そうだ、思い出した! あの騎士はウィーグラフだ。骸騎士団のリーダーを務めていた男だ」
ディリータが珍しく大きな声で、さっきの騎士のことを呼ぶ。
アルガスはそれに釣られるように。
「なに? ってことはまさか」
「そう、骸旅団の親玉さ」
それを聞いたアルガスが発奮し出す。
「ならこんな所で雑魚を相手にしている暇はねえ。さっさとあいつを追わないと――」
「ちょい待ち、アルガス」
「なんだと。何故だ、ユーリ」
「どこに行ったかまではわからないだろ。コイツらを生け捕りにしてヤツの居所を吐かせた方が手っ取り早い上に確実だ」
「砂漠だって言ってたのを聞いただろうが」
「で、行った矢先に遭難する気か? 詳しい居場所を吐かせた方がよっぽど現実的だぞ」
「……チッ」
オレとアルガスの会話を遮るように、ラムザが吠える。
「ふたりとも、話はそこまでだ。来るぞ!」
オレは抜刀し、アルガスはボウガンに矢を装填して、改めて戦闘態勢を整えた。
敵はさっきの剣士に、後方には黒魔道士。そして高台には弓使いだ。
きっちりと教本通りの配置で迎え撃とうとしている。
これは……、ちょっと不利か?
「僕とディリータが前衛を崩す。アルガスは高所を抑えて後方から援護を。ユーリとアイリは遊撃して、可能なら魔道士たちを撃破してくれ」
思い直す。
定石通りに攻めて勝てるのは、相手が自分より戦力が低い場合に限る。
士官候補生とはいえ、ラムザたちの実力は折り紙付き。
騎士くずれの野盗に負けるような戦士ではない。
ラムザたちはすぐさま、戦闘区域へと斬り込んでいった。
オレも後を追おうとしたところで。
「ユーリは遊撃に専念して。私はアルガスの
「アイリ?」
「あいつの背後は誰かが守らないと、無防備な背中から打たれることになりかねないからね」
「そんなにアルガスの事が気になるのか? 珍しいな」
アルガスを擁護する、そんなアイリが言うには。
「約束したんだよ。あいつには後ろから見る誰かが必要なんだ、ってね」
オレはふーっと息をついた。なんとまぁ、入れ込むにも程があるというか。
「……無茶はするなよ」
「心配しないで。今度は失敗しないから」
「失敗してもいい。だから命だけは大事にしろよ」
「うん。ありがと、ユーリ」
そう言って、アイリはアルガスの後を追った。
既にアルガスは高所を目指して、建物の屋根の上へと進軍しているところだ。
改めて前方を見やる。
交戦状態に入っている前衛のラムザたちは剣士と斬り結びながら、魔道士たちも引き付けている。
あれの掃除がオレの仕事だ。
魔道士の魔法の範囲内に入らないように身を隠しつつ、オレは前方へと迫っていった。
side:アルガス・サダルファス
高所に位置している弓使いに肉薄し、一気に接近する。
気付いたときにはもう遅い。
ボウガンで至近距離からそいつ目掛けて胸にぶち込むと、断末魔を上げて倒れ伏した。
死体となったそいつを屋根から蹴り落とし、高所を制圧する。
後はラムザたちの援護をすればいいだけ、なのだが。
「……チィッ!」
オレの存在に気付いた魔道士どもが、オレに向かって魔法の詠唱を始める。
逆にオレの方が囮になっちまった。
なんとか事態を打開しようと頭を巡らせるが、いい知恵は働かなかい。
「アルガス!」
甲高い声がオレに向かって響く。
「アイリ!? 何やってんだ、ラムザたちの援護はどうしたんだよ!」
「あんたが心配だから支援しに来てやったのよ。案の定じゃない!」
「オレのことは放っとけ! 決めた通りの役割を果たせよ!」
「イヤよ!」
「……ったく、この平民が!」
言いながら、オレはボウガンの矢を急いで装填する。
アイリはオレが制した高所から飛び降り、オレを凝視していた魔道士たちへと向かっていく。
魔道士たちの動きが鈍った。
オレかアイリ、どちらを狙った方がいいのか逡巡したらしい。
いいカモだ。
その魔道士に狙いを定めて、矢を撃ち込んだ。
吸い寄せられるように矢が魔道士を貫き、そいつもまた骸になる。
アイリは、というと。
オレから離れて、オレの射程範囲内にいる敵相手にロングソードを振りかざしていた。
屋根の上に陣取っていた別の魔道士の胸を突き貫く。
遠目にも分かる。
アイリの顔色は青白く、呼吸も荒い。
戦い慣れてないんじゃないか? あいつは。
マンダリア平原でオレを助けた時のあいつを思い出す。
その時のあいつも、
オレの支援、だぁ?
本当に支援が欲しいのはおまえの方じゃないのか?
……いや。
「あいつ、守るものが無いと戦えないんじゃないのか? お人好しの馬鹿が」
思わず、必死な様子のあいつに自然と眼が吸い寄せられていて。
「大人しく降伏しろ! これ以上の戦いは無駄だ!」
ラムザの叫び声が聞こえた。
そちらを見やると、前衛の敵は全滅。
たったひとりだけ生き残った剣士を残して、戦闘は終了していた。
わずか数分の出来事だった。
オレたちは捕縛した剣士を適当な無人の家屋に放り込み、両腕を後ろ手に縛って尋問を開始した。
「……おまえらが骸旅団だってのはわかってるんだ。さっきまで頭目のウィーグラフがいただろ。ヤツはどこに行ったんだ? 言え!」
捕虜の剣士は無言を貫く。
「黙っていても無駄だ。痛い目を見たくなけりゃ、とっとと吐くんだ。侯爵様はどこだ?」
無言を貫く。
「……この野郎、何とか言ったらどうだ!」
オレはソイツの腹に思いきり蹴りをねじ込んだ。
姿勢を乱したソイツの髪を掴み上げ、イラつく視線を向けてくるヤツの眼を睨みつける。
「やめなさい、アルガス!」
アイリが横からオレを非難する声で制止する。
チッと舌打ちし、オレは尋問を続けた。
「どうせ吐くことになるんだ。いいか、よく聞け」
どっちが優位に立っているか、馬鹿でも分かるくせに沈黙を続けるソイツに辛抱強く語りかける。
「間もなく北天騎士団が骸旅団を壊滅させるための殲滅作戦を開始する。そうさ、おまえらは全員地獄に落ちるんだ。盗賊に相応しい末路だな」
髪をむしり取るような強引さでソイツの顔を無理矢理上げさせる。その落ちぶれたサマは大層みじめに見えた。
「だがおまえは幸せだ。侯爵様とウィーグラフの居場所を吐けばおまえの命は助けてやる。悪い話じゃないだろう?」
「……オレは知らん」
ガツン! とソイツの顔面を床に叩きつける。もう一度顔を上げさせると、そいつの鼻が砕けたのか、顔面を真っ赤な血で染めていた。
「ナマ言ってんじゃねえぞこの盗賊が! 賊が貴族にタメ口聞いてんじゃねえ!!」
ブンと、髪から手を投げ飛ばすように放すと、ソイツはぽつぽつと口を開き始めた。
「……貴様ら貴族はいつもそうだ。オレたちを人間扱いしない……」
「ああ?」
「貴族って何だ……。平民って何だ……? ただ生まれが違うだけじゃないか……? それだけでこの仕打ちか……? 生まれって何だ……。身分って何なんだ……?」
「身代金目当てで侯爵様を誘拐した貴様らが何を言う!!」
その剣士はブンブンと首を横に振った。
「侯爵誘拐は間違いだ……。ウィーグラフ様の計画じゃない……」
「だったら誰だ!? 誰が侯爵様を誘拐した!?」
ソイツの態度がいちいち
「……ギュスタヴだ」
「ギュスタヴ? 誰だそいつは」
と、部屋の壁に背中を預けていたディリータが。
「ギュスタヴ・マルゲリフ。骸旅団の副団長だ」
そう補足した。
怒りのあまり、ソイツの
「やっぱりテメエら、骸旅団の仕業じゃねえか!!」
背中から倒れたソイツが体を持ち上げて、必死の形相でまくし立ててきた。
「違う! オレたちとギュスタヴは違う! オレたちは腐った貴族社会の打倒を目指す誇り高き勇者だ! 身代金目当てで要人誘拐など決してしない!!」
立ち上がり、ガン! と頭を踏み付けて再び顔で床を舐めさせる。床に頭を埋めつけん勢いで足をねじ込んだ。
「何が勇者だ!? この下衆野郎が!!」
「それ以上は止しなさい! アルガス! あんた自分で言ったことを忘れたの!?」
オレが言ったことだと?
「何のことだ? アイリ。オレがいつ何を言った?」
アイリが顔を怒らせながら、応えた。
「あんたは貴族なんでしょ? 平民を守る義務があるんでしょ!? 捕虜をいたぶって悦に入るようなマネはやめなさい!」
「うるせえ!!」
オレは怒りをみなぎらせ、感情に任せるがままアイリに反論する。
「コイツは賊だ! 貴族や平民を脅かす、犯罪者の集団だ! それにオレは、コイツらに仲間を皆殺しにされたんだぞ!!」
「……ッ!」
「わかったら黙ってろ! オレの邪魔をするな!!」
「アルガス……」
ひとしきり叫んだせいか、怒りがすーっと治まっていくのが自覚できた。まだ怒り足りないのに、横から茶々を入れられて……、あぁ胸くそ悪い。
「で、そのギュスタヴとやらはどこだ?」
「……砂ネズミの穴ぐらだ」
「砂ネズミぃ?」
オレの言葉に応えるように、またディリータが補足する。
「よそから来たアルガスは知らないと思うが、砂ネズミというのは、ここから北に広がる砂漠に生息するネズミのことだ」
それを聞いたラムザがディリータに問う。
「砂漠に集落なんかあったか?」
「いや……、だが以前、集落だった場所に廃屋がいくつか残っている」
「侯爵はきっとそこだな……」
ラムザとディリータが、ふたり分かったような顔で頷き合う。
オレにはさっぱりなことしか言わないふたりに聞き返す。
「一体何のことだ?」
「砂漠はネズミの巣ってことさ」
……?
脇で聞いていただけのユーリがおもむろに前に出てくる。
「尋問は終わりだ。救急物資はあったか?」
「なんだユーリ? 何をする気だ?」
「そいつに応急処置をしなけりゃいけないだろうが」
「コイツは盗賊だぞ!?」
「だがおまえは言っただろ。喋れば命だけは助けてやるって。
「ぐ……」
確かに言った。
ぐうの音も出ないオレは、ソイツの怪我を治療し始めるユーリたちを見届けるしかなかった。
だが手に入れるだけの情報は手に入った。
侯爵様の救出も、あるいはウィーグラフの首も、オレは手にしてやる。
そしてオレの家――サダルファス家を再興するんだ。
「ねえアルガス」
「……なんだ、アイリ」
横からアイリが
「あんたが無念に思ってること、察せなかったのは悪かったわよ。でもそこまで焦らなくてもいいじゃない」
「
「そういうわけじゃないけど、あんまりひとりで突っ走っても周囲から孤立するだけだって言いたいのよ」
「おまえら甘ちゃんと一緒にするんじゃねえ。周りがオレについてこれねえなら、オレはひとりでもやってやる」
「頑固な向こう見ず、ってやつだね」
「……ケッ」
オレは行き場を失った感情を吐き出すように、その場に唾を吐き捨てた。