魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~ 作:月想
続くかどうかは反響次第です(現金)
主はアズール推しです!←
第1話『ベーゼちゃんにあこがれて!』
「はぁ...はぁ...っ」
「お、おねえちゃんっ...!」
息を切らしながらも、気丈に幼子を庇う凛とした佇まい。
美しい、まさに"紺碧"に輝く長い髪を揺らしながら、その少女は目の前の悪夢を睨み付ける。
「あなた...わたしはいいから、早く逃げなさい...!」
「でっ...でもおねえちゃんが...!」
「わたしは大丈夫!早く逃げて!」
「っ...」
幼子は後ろ髪を引かれる思いを抑え、その小さな体で必死に駆け出した。
生き物とは到底思えない、まるで人形のような体。
それを少女の自己犠牲を嘲笑うかのように揺らし、更に距離を詰めてくる。
「な...何なのよあなた...!あんな小さな女の子を...許さないわ...!」
少女は震える体で、尚も怪物の前に立ち塞がる。
業を煮やした怪物が、まさに今少女を砕こうとした、その瞬間。
「大丈夫。」
目にも止まらぬ一閃。
怪物はその体を砕け散らせ、跡形も残らず霧散した。
「魔法少女マジアマゼンタ!ここに参上!...なんちゃって。」
危機一髪の瞬間に現れた、『魔法少女』を名乗る少女。
紺碧の少女はその姿に驚き...。
...驚いていた様子も早々、何か得心がいったような表情になり、天を見上げた。
そんな姿にも気づかず、魔法少女ことマジアマゼンタは彼女の勇気を称賛、魔法少女と悪の組織の戦いについて説明をしていく。
「魔法少女に魔物。」
「急に言われても信じられないよねぇ。」
「え。いや、まあ。うん。うん...?」
「それでですね...。」
フワフワと綿のように不思議な挙動で前に出る、白いぬいぐるみのような何か。
『ヴァーツ』と名乗る妖精的なモノは、期待するように紺碧の少女に告げる。
「もしよければ...あなたも魔法少女になってもらえませんか?」
「...。」
「魔物に襲われる女の子を助けた...勇敢なあなたなら...!」
「...。」
ヴァーツの意外な勧誘の言葉にやはり驚かず、少女は何も返事をしない。
ただただタラリと、冷や汗を流しているだけだ。
きっと自信がなくて声が出せないんだ!と早合点したマゼンタが光りを放ち、その姿を変化させる。
「はるか...。」
「そうだよ小夜ちゃん!普通の女の子のあたしでも、魔法少女になれたんだ!」
小夜と呼ばれた少女は、明かされた正体がいつも明るくて少し天然な、戦いなど似つかわしくない友人であったことを知る。
...相変わらず、その表情に驚きはないのだが。
マジアマゼンタに変身していた少女。
『はるか』はその様子に少し違和感を持ちつつ、それをかき消すように元気に、気持ちを込めて未来の仲間に手を差し伸べる。
これから始まる友情の物語に、目を輝かせながら。
「小夜ちゃんにもきっとできる!だから、あたしと一緒に!魔法少女になって!」
「お断りします。」
二人の少女の間に、ヒュンと冷たい風が吹き抜ける。
固まる体、凍りつく空気。
「え?」
「へ?」
「は?」
それぞれの頭に浮かぶ疑問符。
一番最初に状況を理解(?)した小夜が、先ほどより表情を柔らかくし、その口を開いた。
「わたし、魔法少女にはなりません。」
「なんでェェェーーーっ!?!?」
―――――――――――――――――――――――――――――
異世界転生。
サブカルに触れたことがある人なら、誰もが知っているだろう、今やありきたりの代名詞。
そんな使い古された夢にすがりたくなるなんて、私の人生はなんてつまらない、味噌っかすなのだろうか。
「もうすぐかな...。」
嫌な臭いとも思わなくなった薬品臭。
それに包まれた病室で。
手から漫画が滑り落ちた。
「先生に拾ってもらわなきゃ...。」
続きが気になる。
やっと届いた11巻。
ワガママを言って、先に読ませてもらったのだ。
我慢できないし、時間もない。
「推しの子も二期、そろそろだよね。」
私は生まれつき体が弱くて、15歳にして不治の病というのに罹った。
頑張って2年以上闘病生活を送っているのが現状だ。
その辛さと苦しさだらけの生活を支えてくれるのは、何でもないオタク文化。
つまり漫画やアニメだった。
お母さんもお父さんも好きで、私もそれなりに興味があった。
沼にハマるその決定打は、あの先生が私の担当になったことだ。
両親に勝るオタク。
見た目はイケメンなのに中身は残念で、男性向けのお色気満載の作品まで私に勧めてくる。
最初は引いていた私も、なんだかんだいい作品を勧めてくる先生の術中にハマり、ここに見事な"雑食系薄幸オタク"が誕生したわけだ。
今落とした漫画もオススメのひとつ。
『魔法少女にあこがれて』
魔法少女に憧れる少女が、ある日突然悪の女幹部になってしまい、ドSな本性を爆発させて敵も味方も無茶苦茶やってしまう。
一言で言えば"ヤバい女"の話である。
とても女性向きと言えない内容だが、この好き勝手加減が妙に気に入っていた。
「ベーゼちゃん、可愛かったなぁ。」
主人公、柊うてなことマジアベーゼ。
引っ込み思案と思わせて実はドSの魔法少女オタク。
欲望に正直で、魔法少女を楽しむためには自分すら犠牲にする変わり者。
でも本当は優しくて、色々な人と仲良くなれる。
そんな私より年下の女の子の生き方が、今の私にはとても眩しく輝いて見えた。
「ベーゼちゃんにあこがれて、なんて...。」
『推しの子』のルビーみたいに転生できたらなぁ...。
まあ、あんなドロドロのリアル世界は勘弁だけど。
まほあこの世界とか、いいなぁ。
魔法少女がいて、悪の組織があって。
それをみんなが応援してる、夢と魔法がある世界。
そこで私は魔法少女じゃなくて。
それをニヤつきながら見下ろす、露出強の女幹部をキラキラした目で眺めているの。
「マジで、オタクってかんじ...。」
薄れ行く意識の中で、我ながら気持ち悪い妄想を夢想して。
お母さんとお父さん。先生の顔を思い出して。
悪くなかったな、と最後に思う。
「ありがと、べーぜちゃん...。」
最後に出来た推しに、楽しい時間をくれた可愛い推しに一言お礼を言って。
この日私は、その何でもない一生を呆気なく終えたのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――
という、暗い回想はこの辺にして。
"次"に目覚めた私は赤ん坊だった。
『ああ、赤ちゃんプレイの時の◼️□◼️□はこういう気持ちだったんだな。』
とこれ以上なく納得したのを覚えている。
一生おむつ、おっぱいが記憶から消えることはないのだろう。
そんな◼️□ー◼️くらいしか喜ばないであろう屈辱を乗り越え、普通の女の子として成長していく私。
体は丈夫でスポーツ万能。
実家は神社だったりで、まるで漫画のヒロインのようなスペックの自分が幸せ過ぎて、一時期は毎日嬉し泣きをしていた。
転生って本当にあるんだ。すげー。
そうなってくると、気になるのはこの転生した世界が『どの世界なのか』である。
勿論知らない世界である可能性は高いが、小学生の私はきっと知っているに違いない!と謎の自信でいっぱいだった。
何故なら、この世界には『魔法少女』がいるのだ。
テレビで初めて魔法少女(リアル)を見た時の衝撃はすごかった(語彙力)
リリカルなやつか!それとも、ナイショだよ!の方か。
二次元で引く手数多の魔法少女。
どの作品かはまだ分からないが、絶対に突き止めて物語に爪痕を残してやるぜ!と息巻いた幼少期。
そうして無事中学生になり、何やらアニメの主人公が向いてそうな友人や、影が薄いのに妙に気になる女の子がクラスメートになった、そんな13歳のある日。
「大丈夫。」
"わたし"はすべてを思い出した。
『まほあこだこれぇぇ!?!?』
マジアマゼンタ。花菱はるか。
目の前の魔法少女をそう認識したことで、今まで隠されていたような知識が、一気にこの脳ミソを焼いていく。
『......アズールだこれぇぇぇ!?!?!?』
そして更なる衝撃。
それがまほあこにおける、作中No.1の変態と名高いあの、『マジアアズール』であることを、わたしは思い出してしまった。
まさかあの、まほあこに。
しかもアズールに転生とか。
『えぇぇ...。』
嬉しいけど嬉しくない。
100%と100%の思いがぶつかっている。
だってあのアズールだよ?
昨日まで
『ふっ、中学生にしてこの巨乳。私ってなんて罪な女なの。』
なんてお風呂場で浸っていたのに。
罪な女どころか最悪逮捕される系女子じゃないか。
アズールは可愛いし綺麗で、キャラクターとしては好きだ。
だけどそれが自分となると話は違う。
わたしの本性がドMの変態だなんて...。
「急に言われても信じられないよねぇ。」
「え。いや、まあ。うん。うん...?」
はるか(今はマゼンタ)の言葉を雑に流しつつ、必死に考えを巡らせる。
今はアズール勧誘シーンで間違いない。
まだサルファは転校すらしてきていないし、まずその認識でいいはずだ。
ならばこの後魔法少女になる流れなわけで...。
そこでふと、思い出したわけだ。
わたしの推しのことを。
柊うてな。マジアベーゼ。
もうすでにクラスメートの、あの子を。
『やっべうてなちゃんだあぁ!!!!!』
今更にテンションぶち上がりの私。
眺めたい、仲良くなりたい。
リアルになった推しに止めどない欲望が溢れまくる。
その私とは裏腹に、"わたし"の頭は冷静かつ高速で考えをまとめていく。
『うてなちゃんとイチャイチャしたい。』
一度失った命、今生に遠慮など不要。
キウィちゃんには悪いがこの世界線ではベーゼ×アズールでいかせてもらう。
...いや、待て。
いちゃつくのはいいが、そもそもうてなちゃんは『推しは推し』という考えが非常に強い。
アズールが闇堕ちするのも、アズールと自分がラブラブになるのも"解釈違い"と吐き捨てる筋金入りの魔法少女オタクだ。
うてなちゃんとくっつく(意味深)為には、マジアアズールになってはダメなのだ。
「小夜ちゃんにもきっとできる!だから、あたしと一緒に!魔法少女になって!」
「お断りします。」
我ながら天才的かつ冷静な判断。
吹き抜ける風が非常に気持ちよかった(意味浅) 。
―――――――――――――――――――――――――――――
「ねえ小夜ちゃん。ねえったら!」
「だから、嫌なの。分かってよ、はるか。」
いつもの放課後。
あの、わたしが誰か理解したあの日以来。
はるかの勧誘は今も続いていた。
歴史の修正力、ではなくはるかの気性の問題なのだろう。
彼女は一向に諦める様子がない。
三人いないとなんかしっくり来ないのは分かるが、いい加減他を当たってくれないだろうか。
わたしははるかを横目に、教室の隅を見つめる。
少しウキウキした様子で、荷物をまとめる黒髪の少女。
そそくさとわたしの席近くを通って教室を出ていこうとする。
「柊さん、また明日ね。」
「!?ひゃ、ひゃい...。み、水神さん、また、明日、です...。」
「あたしもあたしも!うてなちゃん、また明日ね!」
申し訳なさそうに頭を下げて教室を後にするうてなちゃん。可愛い。推せる。
今日はマゼンタグッズの発売日だもんね、ちゃんと買えるといいね!
なんて声をかけたいが、残念ながらまだ挨拶をするだけのクラスメート。
絆はゆっくり育むものだかんね。しょうがない。
「なぁ、はるか。ええ加減諦めた方がええって。嫌々やるもんでもないやろ?」
「でもでも、小夜ちゃんならきっとすごい魔法少女に...。」
「ちょっ、誰が聞いとるか分からんやろ。」
「あ!ごめ~ん薫子ちゃん...。」
不機嫌そうに頭を掻く、その動作に不釣り合いな金髪美少女。
『天川薫子』。またの名を、"マジアサルファ"。
本来の流れでは三人目の魔法少女になるはずだった女の子だ。
サルファにはなっているがアズールがいない為、マゼンタの相棒ポジションとして活躍している。
お似合いのカップルである。
「薫子が言う通り。才能のある子なんていくらでもいるわ。他を当たってくれる?」
「あたし小夜ちゃんがいいのにー!」
「駄々っ子しとってええんか?お姉ちゃんやろ?」
友人に別れを告げて、わたしも教室を後にする。
はるかたちには悪いが、わたしの"就職先"はもう決めてあるのだ。
―――――――――――――――――――――――――――――
ゴトン。
という音を発てて缶ジュースが落ちてくる。
わたしの予想では、こうして街を歩いていればいずれ声を掛けられるはずだ。
途中スランプがあったものの、作中でのマジアアズールは強力な魔法少女だった。
そんな可能性の原石が、どこにも付かずにフラフラしている。
そんな使えそうな駒を、"アレ"が見逃すはずがない。
「ちょっといいかな。」
「はい?」
ナンパか職質、50:50な声に振り返ると、以前見たことがあるやつとは別の、黒いぬいぐるみが目の前に浮いていた。
「計画通り...!」
「え?」
「何でもないわ。どちら様かしら?」
「驚かないんだね。ボクはヴェナリータ、よろしくね。」
無表情(そもそも表情とかあるのか?)のまま自己紹介をされるが、これも全て計算のうち。
うてなちゃん、マジアベーゼといちゃつく為の秘策がこれだ。
「水神小夜。キミには選ばれし力がある。」
「乗ったわ。」
「え。」
ヴェナリータ(長いのでこれからはヴェナでいいか)の手から星形のアイテムを奪い取り、その言葉を唱える。
『
わたしの体が光りを放ち、服装を、体の中身すら変えていく。
力が漲り、感情が昂る。
これが、変身...!!
「ふぅ...。」
変身が完了したことを感じ取り、閉じていた瞼を開く。
露出度が高い、肩も臍も胸元も開いたミニスカートの着物。
黒と青が混ざりあった色合いに、冷徹な悪を感じるデザインだ。
頭を触ってみると、何やら硬い物体が左右に分かれて付いているのが分かる。
「鬼の角...?」
ベーゼの悪魔とは違う、昔話でよく見る鬼のような角。
確か、アズールの真化形態は和風のモノだったはず。
悪堕ちするとそっちの方に寄るのだろうか。
「予想以上だね。それにこんなにあっさり了承してくれるとは。」
「わたしには野望があるの。魔法少女より、悪の組織の方が達成しやすい野望がね。」
「へぇ。聞いてもいいかな、その野望。」
興味深そうに、一方でどうでも良さそうに追求してくるヴェナ。
気分よく語り出そうとしたその時、見知った気配が近づいてくるのを感じた。
「教えてあげてもいいけど、その前に邪魔者が来たみたいね。」
「そこまでだよ!悪の組織エノルミータ!」
いつか自分を救ってくれた、ほぼ毎日聞いている友人の声に、舌舐りをする。
わたしはベーゼとは違う。
魔法少女には興味がない。
ただ、悪の女幹部なんてなかなかなれるものじゃない。
わたしは一度死に、生まれ変わった。
ならば、好きに生きてやろうではないか。
あらゆる快楽を、味わえるだけ味わい尽くす。楽しんでやる。
友人を弄ぶ倒錯感を。正義を踏みにじる絶頂を。
さあ、覚悟しろ正義の味方。
我こそは闇に堕ちたアズール。
その名も...!!
「へ...?」
カッコよく名乗ろうと振り返るわたし。
視界に映るマゼンタ、サルファ。
そこまではいい。問題は、"三人目"だ。
「マジアマゼンタ!」
「マジアサルファ。」
「ま、まじあ...マジア、マリーノっ!」
「悪だくみはゆるさないぞっ!魔法少女トレスマジア!ここに参上っ!」
練習したかのような前口上。
加速する違和感。いるはずのない、三人目の魔法少女。
紺色を基調とした、お馴染みの衣装。
見覚えのある、モジモジした恥ずかしがり屋の姿。
間違いない。見間違えるはずがない。
『うてなちゃんだこれえぇぇぇぇ!?!?!?!?』
これは自分の欲望により、あこがれの物語を大きく歪めてしまった転生者のおはなし。
『魔法少女』に"なるべきだった"少女と、
『悪の総帥』となる"はずだった"少女。
ちぐはぐの二人が、お互いを引っ張り合うような。
そんな
どうだったでしょうか?
好きになってくだされば幸いですが、ありきたり過ぎましたかね...?