魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~ 作:月想
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「え?うてなちゃん、いないんですか...?」
「ええ。『体調はよくなったから、友だちと勉強してくる』って、LIMEがあったの。てっきり、あなたたちのところに行ったのかと...。」
シオちゃんズに打ちのめされた後。
マゼンタに回復してもらい、予定通りうてなの家を訪ねることになった。
『こないしけた面で、何を話せばええんや...。』
なんて。
後ろ向きな気持ちのまま、目的地に着いたのだが。
「小夜ちゃんの家かな...?」
「小夜も体調不良で休んどるやろ。
そもそも、誰かに会いに行く元気があるようには思えへんし...。」
うてなは家にいなかった。
親御さんが留守の間に外出したようだ。
会いに行く友人と言えば、うちら以外には小夜とキウィくらいしか思い付かない。
しかし、二人ともうてなと同じく体調不良で学校を休んでいるのだ。
事情を知らないとはいえ、わざわざ二人を訪ねたりするだろうか?
というか。
あれほどのことがあったんだし、勉強する元気なんてあるわけがない。
「あの、何か...何か悪いことを、うちの娘がしてしまったのかしら...?」
「い、いえ!ただ、電話した時具合悪そうで!心配だっただけなのでっ!」
「...たぶん別の友だちの家やと思います。うてなはん、みんなに好かれてはるから。」
「そ、そう?ならいいのだけど...。」
うちらの反応を不安に思ったお母さんを何とかフォローし、柊家を後にする。
「トランスアイテム、また渡せなかったね...。」
「ああ...。」
うてなの、
紫に輝くそれを、はるかと共に押し黙って眺める。
『事情は分かりました。トランスアイテムの修理はお任せを!』
『頼むわ。...ヴァーツはんでも、奴らについて見当は付けられんの?』
『はい...そのイミタシオという方々のことは、今のところ心当たりはありません。有力な魔法少女のほとんどは、ロードエノルメの魔法少女狩りで倒されてしまいましたから...。』
『そっかぁ...。』
修理ついでに、シオちゃんズについて何か知らないか聞いてはみた。
だが、予想通り"不明"という返答。
魔法少女はすべてヴァーツはんに見初められて力を得るはず。
知らない、ということ自体が不可解なのだが...。
"真っ当な魔法少女ではない"と、自分たち自身で宣っていたし。
何か特殊なルートでトランスアイテムを手に入れただけかもしれない。
ヴァーツはんが直接姿を見たわけでもなし。
奴らの正体については、とりあえず追々でいいだろう。
「うてなちゃん、どこ行っちゃったんだろうね?とりあえず、小夜ちゃん家とキウィちゃん家に行ってみようか?...あれ?そういえばあたし、キウィちゃん家どこか知らないや。あはは...。」
「...。」
「薫子ちゃんは知ってたりする?」
「...。」
「薫子ちゃん...?」
立ち止まり、無理矢理に笑うはるかの顔を見つめる。
「
「え...?」
顔を歪め、拳を痛いほどに握り締め。
絞り出すように、情けない弱音を吐露する。
「今のうちらに、何が言えるん...?会って、何て説得するん...?」
「っ...でも、このままじゃ...」
「あいつを守ることも、止めることもできんほどに...うちは、弱いのに...。」
「!...薫子、ちゃん...。」
助けようと手を伸ばしたところで、掴む力すらうちにはない。
正義の味方、魔法少女トレスマジア。
その誇りも絆も、今のうちからは消えてしまった。
こんな自分で、一体何が出来るというのか。
何を示してやれるというのだろう。
何も、出来るわけがない。
うてなが憧れたマジアサルファなんて、もうここにはいないのだから。
―――――――――――――――――――――――――――――
『消えてしまいたいのではなかったのですか?』
クスクスと不快な嘲笑が頭に響く。
実際に話してくる人がいるわけでも、別にもう一人の人格があるわけじゃない。
『私』だ。
私自身が、永遠に自分を中傷し続けている。
『滑稽ですよねぇ。化け物が魔法少女の真似事をしていたなんて。』
その通りだ。
私は正義の味方のフリをして、大切な人たちを傷つけた。
私が、魔法少女に憧れたりしなければ。
『あなたがヴァーツの誘いに乗らなければ。アズールの言う通り、"本当のマジアベーゼ"となっていれば。』
エノルミータの、悪のマジアベーゼであったのなら。
きっと魔法少女が...トレスマジアが私を倒してくれたはず。
誰も、傷つかなかったはずなんだ。
「...。」
あてもなく街を彷徨う。
気分転換とかじゃなくて。
家にいたらきっと、"みんな"が来ると思ったから。
はるかちゃんと薫子ちゃんが昨日来たことは知ってる。
お母さんに「体調が悪いから。」と嘘を吐いて帰ってもらったけど、二人なら今日も訪ねて来るだろう。
二人は優しい、本物のヒロインだから。
こんな怪物をまだ仲間だと、友だちだと思ってくれている。
「...。」
いつも通っている、馴染みのマジメイト。
入り口には『トレスマジアフェア』と銘打たれた看板が見える。
マジアマゼンタ、マジアサルファ。そして、マジアベーゼが並んでポーズを決めている。
『もしかして、嬉しいなんて思ってませんよねぇ?恥じるべきですよ、憧れのヒロインに異物混入なんて。』
「っ...!」
目を逸らし、早足で立ち去ろうとする。
俯いて、何かから隠れるみたいに情けなく背中を丸める。
「あー!わるもののおねーちゃんといっしょにいたおねーちゃんだ!」
「へ...?」
低くなった視界に映り込む、小さい靴。
聞き覚えのある声に視線を上げると、ニコニコ笑顔な女の子の姿が見えた。
「......確か、魔法少女展の時の...。」
『しってるおねーちゃんだもん!』
あの『魔法少女展』に出掛けた日。
列に並ぶ小夜ちゃんに、突然抱き着いた女の子。
アズールが魔物から守っていた子で、間違いない。
「こんにちわぁ!」
「こ、こんにちは...。」
「きょうはわるもののおねーちゃん、いないの?!」
悪者のお姉ちゃん。
アズールのことだろう。
今思えば、この子はあの時既に小夜ちゃんの正体に気付いていたわけだ。
「ごめんね...一緒じゃ、ないんだ...。」
「そっかぁ~。」
アズール、小夜。
思い浮かべる度に、呼吸が出来なくなる程胸が苦しくなる。
精一杯取り繕って、女の子と会話する。
「今日は、一人...?えっと...お母さんは?」
「きょうはねー!"うぃんなーしょっきんぐ"してるんだよ!」
ウィンナー、ショッキング...?
タコ嫌いな薫子ちゃんの買ったお弁当にタコさんウィンナーが入っててショック!
...みたいな。
「...あ、あぁ。もしかして、"ウィンドウショッピング"かな?」
「そーともいうの!」
そうとしか言わないよ?
横文字はまだ覚えにくいよね。
言い間違え、可愛い。
「ママがね、『ちょっとかちとってくる。』っておよーふくやさんにいっちゃったの。」
「勝ち取る?...バーゲンかな...。でも、どこかで待ってるように言われたんじゃ?」
「なのははねー、ちょいわるでおとななおんなだから!ひとりでしょっぱいしてるんだよ!」
なるほど。
つまり、待つのが退屈だからその辺を見て回っていたということらしい。
ショッピングは相変わらず言えないようだ。
可愛い。
「迷子、なんだね。」
「まいごじゃないよ!ちょいわるだよ!」
「(汗)」
まあ、確かにちょっと悪い子な行動だね。
迷子じゃないという申告に一縷の望みをかけ、来た道などが分かるか質問してみる。
「ここまでどうやって来たか分かるかな?」
「とほできた!」
「お母さんのいたお店は分かる?」
「およーふくやさん!」
「どっちの方向から来たのかな?ひだり?みぎ?」
「した!」
「ハキハキしてて偉いね。」
「えへへ!」
可愛い。
じゃなくて。
頭撫でてる場合じゃない。
完全に迷子じゃないか。
下ってなんだ下って。モグラなのかな。
「...お姉ちゃんと、一緒にお母さん捜そうか。」
「うん!」
最近魔物の出現率が異常だし、そうじゃなくたって一人で行かせるわけにはいかない。
女の子と手を繋ぎ、とりあえず洋服屋が多い通りに向かって歩き出す。
「おねーちゃん、おなまえは?!」
「私?...うてな、だよ。」
「うてなちゃん!わたし、なのは!」
「なのは、ちゃん...可愛い名前だね。」
「でっしょー!」
何だか、レジェンドを感じる名前...。
言われてみれば髪型とか、ちょっと似ているような。
まさかお母さんの趣味だったり?
...段々、声まで似ている気がしてきた。
「うてなちゃん、まじめいと!」
「っ...そう、だね。」
「みたい!まじめいとみた~い!」
「え、えぇ...!?」
腕を引っ張られ、マジメイトに寄りたいとせがまれる。
元々見たくなかったし、お母さんが心配しているだろうから、寄り道なんてできない。
「だ、ダメだよ。急いで戻らないと、なのはちゃんのお母さんが...」
「やだやだまじめいとみるの~!...っ...ふぇ...っ」
「!?わ、分かったから!泣かないでっ!?」
「やたー!」
駄々から泣き落としに入られそうになり、つい折れてしまった。
笑顔に戻ったなのはちゃんを見て、まんまと騙されたことを悟る。
「いらっしゃいませ~。」
「とれすまじあだー!!」
「...。」
店内に入ってすぐのスペースに、トレスマジアの特設コーナーがあった。
興奮し、コーナーに駆け寄るなのはちゃん。
「とれすまじあ、いっぱいだね!」
「う、うん...そうだね...。」
「あのね、まりーのがね、べーぜになったんだよ?」
「...うん。よく、知ってるね?」
「うん!なのは、"べーぜおし"だから!!」
「え...?」
コーナーにある、マジアベーゼを模したぬいぐるみを指差して。
なのはちゃんはそう言った。
「...ど、どうして?マゼンタやサルファの方が、カッコいいのに...。」
「やさしくてかわいいから!」
屈託のない笑顔でそう答える。
優しくて可愛いのは、二人の方なのに。
「...悪者みたいで、可愛くなんか、ないよ...。」
「そんなことないよ!かわいいし、やさしかったもん!」
思わず出た否定の言葉に、なのはちゃんは初めて怒った顔を見せる。
「まりーのやさしかったもん!わるもののおねーちゃんも、やさしかったもん!ままがいってた!『してくれたことがだいじ』って!」
「...!」
同じような言葉を、どこかで聞いた気がする。
「わるものでもね、いいことしたらいいもんなんだよ?だからね、わるもののおねーちゃんも、べーぜも、"ひろいん"なんだよ!」
「......そっか...。」
悪者でも、ヒロイン。
ちょっと、忘れかけてた。
その覚悟を示す為に、私は
「...ありがとう、なのはちゃん。」
「?」
頭を撫でながら感謝を伝える。
言い訳にもならないし、立ち直れるわけでもない。
だけど。
たとえ偽物で、化け物だったとしても。
なのはちゃんにとっては、"本物"だ。
マジアベーゼは、彼女にとって『ヒロイン』以外の何者でもなかった。
それもまた、純然たる事実なのだと。
この時確かに、私は理解した。
「あとね、ままが『ちょいわるなみためがたまらない』っていってたの!」
「へ、へぇ...///」
「だからね!なのはもおっきくなったら、べーぜとわるもののおねーちゃんみたいにちょいわるなたまらないおんなになるの!」
「それはちょっと考え直そうか...?」
白が似合う原石を真っ黒に染めてどうする。
流石に小夜ちゃんでも止めるだろうと確信し、とりあえず正統派魔法少女の魅力を理解させようと決意した私。
マジメイトで『魔法少女論』を幼女に熱弁するその姿は、傍から見てまさにマジヤベーゼ。
新しい黒歴史が誕生していることにも気付かず、私は久しぶりの楽しい時間を過ごすのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――
「よし。......やっぱりよくない。」
脱ぎ捨てた寝間着に構わず、布団にダイブする私。
学校を休んで二日目。
こりすのおかげで傷も癒えたし、来週からは学校に通えるだろう。
その前にやらなくては、と。
決心して、うてなに会いに行こうとしたのだ。
したの、だが...。
「何て言えば...?私が行くだけで、あの子は傷つくに決まってるのに...。」
私服に着替えたところで、その決心は泡と消える。
正直、私にもどうしたらいいのか分からないのだ。
彼女のしたことについて怒る気はないし、むしろ私のせいで、うてなとキウィが心に傷を負ったのが問題なわけで。
「ダメ...何も思い付かない...。」
いい案も浮かばず、ただうだうだと布団の上で時間を無駄にしていると。
カンカン。
「?」
部屋の外からノック音のような、柱を叩く音が聞こえた。
無意識に心当たりがあったのか、特に警戒せず襖を開く。
「さよちゃ~ん。」
「き、キウィ...?」
予想通りというか、予想外というか。
私服姿のキウィがそこにいた。
いつも通りの雰囲気で、私の部屋に上がり込んでくる。
「あなた、どうして...。」
「きのうは会えんかったし~。
さよちゃん成分足りなくて死にそうだったから~。
とりあえずぎゅ~。」
そう言って抱き着いてくるキウィ。
二日前とはまったく違う様子に困惑してしまう。
「あれ~?さよちゃんなんで着替えてんの?遊び行くん?」
「へ?...こ、これは、その...。」
キウィに話すべきではないと思い、言い淀む私。
『うてなに会いに行く。』と言うのは状況的によく分からないだろうし、『ベーゼに会いに行く。』なんて言わずもがな。
ブチギレられて爆破されても仕方がない。
「...ベーゼのとこ、行くの?」
「!?」
「やっぱ、そっか~...。」
あっさり言い当てられ、あからさまに動揺してしまった。
怒られることを覚悟しつつも、言い訳を始めることにする。
「ち、違うの...キウィのことを蔑ろにしたわけじゃなくて...」
「...わかってる。あいつは、さよちゃんの"推し"だかんな~...。」
「キウィ...?」
私から少し離れて、布団を座布団代わりにして座るキウィ。
その顔は相変わらず笑ってはいるけど、どこか寂しげな雰囲気だ。
「...ホントはさ。さよちゃんと"こないだのこと"、話したかったんだ...。」
「...ええ、私もよ。」
私も隣に座り、キウィの言葉を待つ。
「...ごめんね、さよちゃん。」
「何でキウィが謝るの?あなたは何も悪くないのよ...?」
「悪いよ。だってアタシ、守ってあげられなかったから。」
「...。」
言い返したくなるのを我慢する。
"あれ"が起きる直前に聞いた、キウィの想い。
あれは、私への『誓い』だった。
彼女にとっての、愛の証だったのだ。
それをあんな形とはいえ、果たせなかったことが許せない。
キウィらしいその葛藤は、すべて私の為だ。
だからこそ、私がそれを否定することは出来ない。
してはいけないのだ。
「ベーゼのこと、嫌いになった...?」
「...許せないって思う。けど...嫌いになりたいわけじゃないっていうか...。」
「ダンジョンで、ベーゼと何かあったんでしょ?」
「...うん。上手く説明できんかもだけど、聞いてくれる?」
キウィの話してくれた内容は、私にとって深い罪悪感を感じるモノだった。
マリーノに"惹かれていた"こと。
そのマリーノが、私が言っていたベーゼだと知り困惑したこと。
その頃から、妙な夢を見るようになったこと。
私を好きになって良かったのか?と、つい考えてしまったこと。
その辛さから焦り、元凶と言えるベーゼを消してしまおうとしたこと。
すべて、私のせいだと思った。
「でもね?あの、ベーゼに負けそうな時。さよちゃんの声聞いて、『さよちゃんだいすきー!』って気持ちがスゴくなって。アタシはアタシで、さよちゃんがいいって選んだんじゃんって。目、覚めたからさ。」
「...カッコよかった。『添い遂げる』って、言ってくれたわよね。」
「う、うん...///」
彼女はきっと、あの時乗り越えたんだろう。
『運命』とか、『正しい歴史』とか。
そういうどうしようもない柵すらぶっ飛ばして、私を好きだと言ってくれた。
本当にキウィはすごい。
幸せ者だな、私は。
「でさ...思ったんだ。ベーゼもたぶん、
「同じ...?」
「戦ってる時、なんか...聞こえてくんだよね。『私の方が好きだから!』『あなたには負けたくない!』って。あいつ、すげー必死でさ。ダンジョンの時も、一騎討ちの時も。」
「そう...ベーゼがね...。」
ベーゼではなく、
キウィと違って、彼女はレオの正体がキウィであることを知っている。
普段の彼女と自分を比べて、何か思い悩んでいたのかもしれない。
「気持ち、分かるんだ。当たり前じゃん?
"同じ人を好きになった"んだから。
あんなことしやがったのは許せないし、さよちゃんは絶対渡したくない...。
だけど、きっと今...あいつすげー、すげー辛いと思うんだ。
死にたいくらい、消えちまいたいくらい辛くて...。
想像するだけで、なんか...アタシもっ...。」
「キウィ...。」
『共感』。
それは、キウィが私を好きになった理由であり、私を救ってくれた感情。
その私たちにとって大切なモノを、彼女はベーゼにも感じて。
今まさにベーゼの痛みに共感し、涙すら浮かべている。
「...さよちゃん。ベーゼのとこ、行ってやって。」
「...キウィは、それでいいの?」
「よくない!心配だしアタシのさよちゃん取られるなんてやだ!...でも...だけど...。」
「放っておくなんて出来ない。でしょ?」
「...ん。」
涙をゴシゴシと拭き取り、キウィは私に"恋敵のところへ行け"と言う。
「あいつに伝えて。
お前には負けない...。
もう二度とアズールちゃんは傷つけさせない!
お前がまたあのクソ野郎になっても、
ぜってーぜってー!アタシが止めてやるって!」
「......ふふっ。」
悪の組織の台詞とは思えない、あまりにも真っ直ぐな激励。
まるで主人公みたいな強さと優しさ。
昔の私なら、『解釈違い』だと残念がるかもしれない。
でも、今なら分かる。
誰よりも愛するが故に。
彼女は、阿良河キウィは"ヒロイン"なのだ。
「可愛いのにカッコいいなんて。
キウィは本当にズルい子ね。」
「あ、また好きになっちゃった~?
ならさぁ。愛してる~って、
アタシのぷりちーな唇にぶちゅ~て」
「ちゅ...。」
「..........え?」
身を乗り出し、キウィの唇に
ぎこちなく簡素な、唇が触れただけの『初めてのキス』。
「
「っ!?!?!?///」
真っ赤になって悶絶するキウィを置いて、私は外に飛び出す。
あんなに素敵に背中を押されたのだ、もう尻込みなんてしていられない。
待っていてね、うてな。
あんな絶望なんて吹き飛ばして、きっとあなたの笑顔を取り戻す。
私の大好きなうてなちゃんを、絶対に諦めてなんてやらないから。
「さよちゃんの布団とパジャマたまんねー!濃厚すめるくんかくんか!んほぉー!!///」
......今のは聞かなかったことにしよう。
―――――――――――――――――――――――――――――
「はい!薫子ちゃんの分!」
「...おおきに。」
差し出されたプラカップを受け取る。
とりあえず落ち着く場所で話をしようと、街中までやって来た。
落ち着くかどうかは別として、何か飲みたい気分ではあった。
人のいる店内ではなく、日陰にあるベンチに二人並んで座る。
「初めて飲んだけど、これおいしーね!なんだっけ?ダークモカチップミルクスペシャル...」
「随分こじゃれたもん買うて来はったなぁ。はるかなら、てっきりキノコスープかと思っとったわ。」
「夏だから冷たいのにするしキノコだけ食べてるわけじゃないよ!?」
本題には入らず、しょうもない冗談で場を繋ぐ。
勿論、空元気だ。
「...あのね、薫子ちゃん。あたしが最初に仲間になって!って頼んだ日のこと、覚えてる?」
「...あぁ。そない前やないしな...。」
『誰にケンカっ!!売ったんかっ!!思い知らせたるわっ!!』
『ヒェ...』
魔物に襲われてたうちを、マゼンタが助けに来てくれた。
まあ、助けられる前にボロカスにいてこましとったんやけど。
「あの時あたしね、『すごく強い子だ!』って思って。」
「あの魔物が雑魚過ぎたんや。」
「じゃなくて。薫子ちゃん、言ったじゃない。"何で逃げなかったの?危ないよ"って聞いた時さ。」
『負け犬みたく逃げろ言うてんのか?あんなヤツらにナメられっぱなしでたまるかいな。』
ただ、意地っ張りなだけ。
体中泥だらけにして、今にして思えば雑魚相手にイキっているようにも思える。
それが何だと言うのか。
「薫子ちゃんはさ、別に
「あ...?」
「これまで薫子ちゃんと一緒に過ごして分かったんだけど。薫子ちゃんって、自分で思ってるより普通の、可愛い女の子だよね。」
「かわ...っ!?///」
き、急に何言うとるんっ!?///
という言葉すら出ない程に慌ててしまう。
違う、今はそない話ちゃうやろ...!///
「好きなものも嫌いなものもあって、得意なことも、苦手なこともある。あたしとおんなじで、完全無欠のヒロインなんかじゃない。」
「...当たり前やろ、そないなこと。」
「そう、当たり前!だからね?きっとあの時、ホントは"怖かった"んだよね。」
初めて見た魔物、敵。
不気味で、よく分からないモノが突然目の前に現れた。
怖くなかったと言えば嘘になる。
勝てるかも分からんかったし。
「でも薫子ちゃんは『逃げたくなかった』って言ったんだよ。勝てないかもしれなくて、怖いと思うような相手から。それでも逃げたくないって。」
「...それが、何なんや...。」
「薫子ちゃんは、強いよ。勝てるからじゃない、力を持ってるからじゃない。きっと相手が誰だって、たとえサルファじゃなくたって。薫子ちゃんは立ち向かえる。だって、今日まで見て来たんだもん。あたしには分かる!」
「...でも、うちは今うてなから逃げて...。」
はるかの手が、うちの手を握る。
伝わる温かさは健在で、擦りむいた心を癒すように優しく染み渡る。
「違うよ!逃げたくないから、そんなに悩んでるんでしょ?薫子ちゃんは諦めてない。実力とか、現実とか。そんなもので自分を曲げたりしない。だから薫子ちゃんは強いんだよ!」
「強いんやなくて、意地っ張りなだけやん...。」
「そう、意地!逃げてたまるか!負けてたまるか!諦めてたまるか!それが薫子ちゃんの、"ヒロインとしての矜持"なんだよ!」
「ヒロインとしての、矜持...。」
なんなん、急に。
うてなみたいこと言うて...。
「ちゃんとまだ
「!」
なんやの、それ。
それじゃあまるで、うちがうちであるだけで。
「薫子ちゃんは、薫子ちゃんだから強いんだよ。だから、大丈夫!いつだって、そうやって乗り越えて来たんだから!」
「はっ...相変わらず、楽観的やなぁ。はるかは。」
「そうだよ!だって、信じてるもん!あたしの相棒は、"世界で一番強い"って!」
そう言って笑うはるかの顔は、本当に太陽みたいに輝いていて...。
そう、だったな。
辛くて、もうダメだって思った時。
いつも思い出すのは、この笑顔だった。
こうやって、心をポカポカにしてくれる、仲間の笑顔を守りたい。
その想いが、いつもうちに力をくれた。
うちを、
弱くて、情けなくて。
意地っ張りなだけのうちを信じてくれる。
そんな仲間の言葉を、笑顔を諦めたくない。
それなら、うちはまだ...。
キャアアァァッッ!?
「!?」
「薫子ちゃん、あれ!日に二度も現れるなんて...!」
街に突如として現れた『魔物』。
先程も魔物は発生したが、それとは違う。
複数体いるが、いずれも禍々しさが尋常じゃない。
黒い影が形になったような、不鮮明な姿をしている。
「行くで、はるか!」
「!...うんっ!」
はるかを促し、一緒にトランスアイテムを構える。
強くなる方法も、どうしたらいいかも分からない。
だけど、これだけは言える。
シオちゃんズにしても、魔物にしても。
絶対に好きにはさせん。
ナメられっぱなしなんて、うちは絶対に嫌や!
「覚悟せぇよクソ害獣共!今日のうちは一際機嫌が悪いんやっ!!」
『『
―――――――――――――――――――――――――――――
「はぁ...はぁ...っ!」
「う、うてなちゃんっ...!」
これがデジャヴなんだ...。
なのはちゃんの手を握り、必死に路地裏を走る。
『グルル...!』
私たちのすぐ後ろを駆ける魔物。
獣型のそれは、完全に私たちを獲物として狙っていた。
マジメイトを堪能していた私たちの耳に、突然人々の悲鳴が聞こえてきた。
急いで店外に出ると、かなりの数の魔物が暴れていて。
私は反射的にポケットを漁るけど、そこにトランスアイテムはなかった。
当たり前だ。私が捨てたのだから。
『うてなちゃん、あれ...!』
『え...?』
呆然とする私になのはちゃんが呼び掛ける。
指差す方向には、私たち目掛けて走ってくる魔物の姿があった。
「こわい...こわいよぉ...!」
「大丈夫!私が、私が守るから...!だから、頑張って...!」
そこから今まで、戦う術のない私はなのはちゃんを連れて、全力で逃げるしかなかった。
特訓のおかげか、以前と違い息を切らしながらも体力に余裕がある。
でも、このままじゃなのはちゃんが...!
『正義の味方気取りですか?あなたから放棄したくせに。』
『うるさいっ!今は黙ってて...!』
また聞こえてきた雑音に苛立ちながら、必死に頭を働かせる。
とりあえず、この子だけでも逃がす!
「っ!」
『キャインッ!?』
走りながら足元の石を拾い上げ、魔物の顔面へ投げつける。
球技には自信がなかったけど、見事に片目に直撃させることができた。
「なのはちゃんっ!今のうちに逃げてっ!」
「で、でも...ひっ!?」
「え!?」
魔物は
私たちの背後から、更に二匹の魔物が現れた。
追い詰めるように私たちを取り囲む。
「っ...!」
「ひぐっ...ううっ...!」
なのはちゃんを魔物から庇うように抱き締める。
トランスアイテムさえあれば...!
『あったらなんだと言うのです?その子ごと吹き飛ばすおつもりで?』
こんな時でも、私は私に悪態を吐いてくる。
分かってる。
私はヒロインじゃない。
偽物で、化け物だ。
でも、この子の前でだけは。
私は、"憧れの魔法少女"を張り通さなくちゃいけないんだ!
「この子だけは、絶対に傷つけさせない...!!」
『グガアァァァッッ!!!』
一斉に飛び掛かってくる魔物たち。
私はなのはちゃんを強く抱き締める。
魔物たちを睨み付け、絶対に手を出させないと気持ちを込める。
たとえバラバラになったとしても、守りきるんだ...!
「大丈夫よっ!」
「ぇ...?」
飛び掛かる形のまま、
それを砕いて現れたのは、私の大好きな"紺碧"のヒロイン。
「アズー、ル...。」
「相変わらず無茶するわね。あなたは。」
彼女はいつものように自信満々の笑顔で、私に向かって手を伸ばす。
その手を自然に取ろうとして、すぐに理性がそれを止めた。
私は、彼女に触れちゃいけない。
「...うてな、私ね...。」
「わるもののおねーちゃんだぁ!」
「わっ!?」
腕の中からなのはちゃんが飛び出して、アズールに抱き着いた。
これもまたデジャヴだ。
「あなた、この前の!?」
「わるもののおねーちゃん、またたすけてくれた!やっぱりいちばんかっこいー!!」
「あらあら...。悪の女幹部をカッコいいだなんて。悪い子ね、あなた。」
「そうだよ!なのはわるいこ!おねーちゃんみたいなひろいんになるのー!」
きゃっきゃっとはしゃぐなのはちゃんを見て、何とか守れたと安堵する。
このままアズールに任せていれば、あの子は安全なはずだ。
そう
「ちょっ...待ってうてなっ!?」
「そうだ、まだ逃げられては困る。」
「...!?」
走る私の目の前に、"仮面の騎士"が降り立った。
「漸く見つけたぞ、柊うてな。」
「だ、れ...?」
「イミタシオ...!」
私の名前を呼ぶ謎の騎士。
アズールが、『イミタシオ』と呼んだそれは、身の丈程に大きな剣を構えて私に言う。
「単刀直入に言おう。私と共に来い。貴様は危険だ。故に私が、貴様の手綱を握ってやろう。」
「何を、言って...。」
「私の前で何をほざいているのかしら...!」
私の真横を高速で駆けるアズール。
そのまま氷の刃でイミタシオを斬りつけようとするが。
「っ!?」
「ルシファアズールか。ダメージは回復したようだな?」
アズールの刃が、砕かれた。
いや。
砕かれたというより、
イミタシオの大剣に触れた途端、まるで幻だったかのように消え失せたのだ。
「かはっ!?」
「アズール...!?」
そのままイミタシオの蹴りをまともに受け、壁に激突するアズール。
一人取り残されたなのはちゃんが、アズールに駆け寄る。
「おねーちゃん!だいじょぶ...!?」
「は、離れてなさいっ...!魔法少女と違って、私とあいつは加減出来ないんだから...!」
体勢を立て直したアズールが、続けて氷の魔法を発動。
イミタシオを凍りつかせようとするが、これもまた発動直後に霧散した。
「無駄だ。貴様らの魔法は、私には効かん。」
「ふざけたことをっ!」
無数の氷柱を展開し、イミタシオに放つ。
イミタシオが大剣を軽く一振りするだけで、すべての氷柱が文字通り消え去った。
「な、に...!?」
「私は奇跡を殺し、魔法を拒絶する。貴様らを否定する為に、私は"ここ"にいる。」
「まさか...
どういう理屈かは分からないけど、魔法を触れた側から消してしまっている。
エノルミータだって魔法少女と同じ。
その力の源は魔法だ。
それを無効にするなんて...。
「そんなの...勝てるわけないっ...。」
「理解したか、柊うてな。
貴様のあの力を封じたのも、私のこの力だ。」
「っ...!?」
言われて甦る記憶。
あの時、意識が消え去るその直前。
私を貫いたのは、間違いなくあの大剣だった。
「手綱を、握る...」
「そうだ。私であれば、もし貴様が暴走したとしても止められる。我が元へ来い。それ以外に選択肢などあり得んと、分かるだろう?」
「わた、し...。」
「聞いてはダメよ...!」
アズールの魔法、今度は水が龍の形となってイミタシオに向かう。
「無駄だと言っているだろう!」
「うるさい!やってみなきゃ分からないわっ!」
龍を囮にして大剣を正面に振らせ、イミタシオの頭上から大量の水を滝のように浴びせる。
大剣で触れていないからか、それとも消えた側から生み出しているのか。
完全に無効化されずに、徐々に水圧でイミタシオを押し潰していく。
「剣に触らなければいいんでしょ!私の邪魔をしてくれたお礼に、ぶっ飛ばしてあげるっ!!」
動きを封じられたイミタシオに対して、アズールは飛び上がり上段から刀のように鋭くした氷の刃を振り下ろす。
「間抜けが...!」
「っ!?」
イミタシオから大量の魔力が放出され、アズールの滝が吹き飛ばされてしまう。
余波でアズールも体勢を崩し、攻撃が中断される。
その隙を見逃す敵ではなかった。
自由になった腕で大剣を振りかぶり、そして。
ザシュッ...!
「あ、がぁ...っ!?!?」
「さ、小夜ちゃああんっっ!!」
袈裟に切り裂かれるアズール。
大量の血が飛び散り、力無くその体が倒れた。
思わず名前を呼び、すぐに駆け寄ろうとするが。
「......おねー、ちゃん...?」
「っ!...ダメ、見ちゃダメ...!!」
呆然とその惨状を見つめるなのはちゃんに気付き、急いでその目を手で覆う。
「ぅ...ぁ...っ...」
「無効化だけだと思ったか?そもそも貴様と私では魔力の量が違う。
ギリギリで致命傷は避けたとはいえ、地獄の苦しみだろう。今、楽にしてやる。」
大剣をアズールの首に向かって振りかぶるイミタシオ。
また私は、何も出来ず。
また小夜ちゃんを、失うのか。
「やめてぇぇぇ...っ!!!」
ガギィィンッ...!!
「なに...?」
「ハァッ...ハァッ...。」
ギリギリで大剣を受け止める、"氷の刃"。
アズールの刃が、イミタシオの大剣を
先ほどは受けることも出来ず、ただ消え去るだけだったのに。
信じられないのはイミタシオも同じようで、見えない素顔が困惑しているのが、その声から分かる。
「わたしは、二度と...死なない...あの子は、私の...うてなは...!お前なんかに、絶対に渡さないっ...!!」
「ちっ...!?」
「小夜、ちゃんっ...。」
弾き飛ばされ、今日初めて後退するイミタシオ。
一矢報いることは出来たが、アズールは立ち上がれずに、今もその血を流し続けている。
「死に損ないが...!」
「死に晒すのはお前やボケェ!!」
「っ!?」
アズールに接近しようとするイミタシオの頭上から、"雷の拳"が振り下ろされる。
咄嗟に反応し回避されるが、その地を砕く衝撃でイミタシオは大きく後退する。
「無事か!?うてな!」
「サルファ、ちゃん...。」
「アズールちゃんなんでいっつも死にかけてるの!?」
「いつも遅いのよ...正義の味方さん...。」
マゼンタちゃんに、サルファちゃんが駆け付けてくれた。
マゼンタちゃんはアズールの治療を始め。
その二人と私たちの盾になるように、サルファちゃんはイミタシオの前に立ち塞がる。
「...雑魚が私と戦うつもりか?」
「生憎と諦めが悪いんや。その仮面ひっぺがして、涙と鼻水たらたらの情けない面を拝んだるわ。」
「サルファちゃんやめて...!イミタシオに魔法は...!」
サルファちゃんにイミタシオの力を伝えようとするが、唐突に感じた悪寒に声が絞り消された。
私だけでなく、イミタシオを含めた全員が、その"何か"を感じた。
地を踏み締める音が、どんどん近づいて来る。
『グギ、ギギキ...!』
やがて現れた巨躯は、今まで一度も見たことのないような。
禍々しい、闇に満ちた姿をしていた。
―――――――――――――――――――――――――――――
"憎悪"を形作るとしたら、恐らくこういう見た目になるのだろう。
本体は巨大な狼のようだが、纏っているモノが異常だ。
黒い影のような、闇のようなモヤが体全体に纏わりつき。
その鋭い爪、牙、そして瞳は血のように赤く染まっている。
魔法じゃない、何か"得体の知れない力"をその身に宿し、それを常に放出し続けている。
『え、の...メ...ぇェ!!』
「...!」
唸り声の後、言葉のようなモノを発したかと思えば、イミタシオに向かって突如飛び掛かる獣。
イミタシオは驚きつつも、冷静に魔法殺しの大剣で獣の体を受け止める。
「ちっ...こいつもか...!」
『ガアアアアァッ!!』
通常の魔物であれば、彼女の大剣に触れた瞬間消え失せるはずだった。
それが、日に二度もまともに競り合ってしまう。
アズールにしても、この魔物にしてもイレギュラー。
イミタシオは思案する。
彼女はとある事情から、イレギュラーに対して非常に慎重であった。
だからこそ、今回も慎重な決断を下す。
今は退くべきだ、と。
『
『はぁ~い。』
イミタシオは仲間にそうテレパシーを送ると、受け止めていた魔物を全力の魔力を込めて弾き飛ばす。
位置は狙い通り。
サルファたちの方向だ。
「今だ。」
「なぁっ!?」
飛ばされてくる魔物に驚くサルファたちを横目に、イミタシオは転移した。
直ぐ様ゲートを閉じ、この場から完全にいなくなってしまう。
「あんの卑怯もんっ!!」
「えぇ!?逃げちゃったのぉ!?」
『グルルル...!!』
イミタシオは見失った魔物は苛立つように首を振り、やがて"次の獲物"を見定める。
「!?うてな、これをっ!」
『グギャアアァ!!!』
咄嗟にうてなへ彼女のトランスアイテムを投げ渡すサルファ。
同時に魔物がサルファに飛び掛かり、馬乗りになられてしまう。
「サルファちゃんっ!?」
「ぐ、くそっ...!この犬っころ...!なんて馬鹿力や...!」
自らを噛み砕かんとする巨大な顎を何とか抑えるサルファ。
しかし、がら空きの胴を魔物に掴まれ、壁に投げつけられてしまう。
「が...っ!?」
「サルファっ...!」
マゼンタが立ち上がるが、未だ傷の癒えないアズールを放っておけず、武器を取ることが出来ない。
「っ...。」
うてなは握ったトランスアイテムを苦しげに見つめ、やがて守っていた少女を離して、こう告げる。
「絶対に動いちゃダメだよ。ここなら、マゼンタが守ってくれるから。」
「うてなちゃんはどうするの...?あぶないよ...?」
「大丈夫...。なのはちゃんの前では、私。
そう、辛そうに笑って。
うてなは紫色のハートを構える。
『
「!...まじあ、べーぜ...?」
少女の前に姿を現す、憧れの魔法少女。
ベーゼはその鞭で辺りに散らばるゴミを魔物に変化させ、"憎悪の獣"に攻撃を仕掛けた。
『グ、ギ...!』
「強い...!」
多勢に無勢にも関わらず、獣は魔物たちを圧倒。
そのうちの一体を押さえ込むと。
バギッ...!バギャ...バキバキ...!!
「ひっ...!?」
「食べ、てる...?」
『捕食』。
まるで野生動物のように、ベーゼの魔物を貪る獣。
それに比例して獣を覆うモヤもより濃く、より暗く変化していく。
「っ...魔力を、吸っているのね...。」
「アズールちゃん、まだ治療がっ...!」
「言ってる場合...?
フラフラと立ち上がるアズール。
とても戦える状態には見えないが、ゆっくりと獣に向かっていってしまう。
当然、獣はそのアズールを獲物と見定め、飛び掛かっていく。
『え、ノ...る...!』
「畜生が隙だらけやっ!!」
その隙を突いて、サルファが真上から獣を押さえ付ける。
しかし、凄まじい力に今にも吹き飛ばされそうだ。
「アズール!はよ攻撃を...!」
「分かっ、て...」
「アズール...!?」
ドサッと音を立て、アズールがその場に倒れる。
やはり戦える状態ではなかったのだ。
助け起こそうと駆け寄るベーゼ。
それを追い抜き、赤紫の光が獣に突撃する。
「これでもくらえぇぇ!!」
『ガアァッ!?』
マゼンタスピアーが獣の胸に深く突き刺さる。
苦しみの声を上げる獣。
やったか?と安堵する暇もなく、怒り狂った獣は暴れ出す。
「あうっ!?」
「マゼンタっ!?ぐぅっ...!」
サルファを振り払い、マゼンタを叩き飛ばした。
憎悪の獣は咆哮し、最後の獲物を睨み付ける。
もう立っているのは、マジアベーゼただ一人。
傷ついた仲間たち、そして動かない愛する者の姿に、ベーゼは戦慄する。
「がんばって!べーぜぇ!」
「!......。」
恐怖で震え出しそうな足を踏ん張らせ、獣と真っ向から向かい合う。
魔物はすべて倒され、新しく生み出しても逆効果。
でも、やるしかない。
魔法少女は、決して諦めてはいけないのだから。
「メナス、ヴァルナーッ!!」
『グルル...。』
全力の一撃も、獣に一蹴されてしまう。
けれどベーゼは攻撃を止めない。
何度も、何度も。
黒い一撃に、死力を尽くして魔力を込める。
「ぅっ...ハァ...ハァ...っ」
『グギキ...。』
魔力の尽きたベーゼを、獣が見下ろす。
禍々しく歪んだ口は、まるで笑っているように見えて。
容赦なくその牙を、ベーゼに向かって振りかざした。
―――――――――――――――――――――――――――――
「ベー、ゼ...。」
霞む視界の隅に、あのクソ犬と今にも変身が解けそうな程、弱々しい魔力のベーゼが映る。
「助け、へん、と...。」
そう思ったのに、体はまったく言うことを聞かない。
あーあ。
なんや、気合い入れて啖呵も切ったんに。
結局弱いまんま。
何も出来ず、何も守れず。
ほんまに、何がヒロインや。
情けない、情けない。
「っ...いや、や...。」
でも、何でやろ。
役立たずやって分かっとんのに。
全然、何と言うか。
「ぜったい...いやや...!!」
諦める気持ちにならへん。
嫌や。このまま終わるなんて。
嫌や。負けたまんまなんて。
嫌や。大切なもん、守れないなんて。
そんなの、絶対に...!
「おきて...おきてよとれすまじあ!たすけてっ!まけないでっ!ままがいってたの!"せいぎのみかたは、まけない"って...だから...たってよぉ!!」
聞こえる。
ヒロインを信じる、純粋な叫び。
応えなくてはいけない。
立ち上がらなくてはいけない。
うちは、天川薫子は。
『魔法少女』なのだから。
「...せや、なぁ...。正義の味方は、必ず勝つ...。絶対に、諦めん...なぜなら、それが...うちらの...。」
魔法少女の...ヒロインの...!
「"プライド"だからやっ...!!」
『
『ガウゥゥッ!?』
頭に浮かんだ呪文を呟いた途端、体がまるで消えたみたいに軽くなった。
光を放ちながら、うちはあのワンコロに急接近。
拳をその腹にぶち込み、ぶっ飛ばす。
「サルファちゃん...その、姿は...!」
「っ...ほらね...やっぱり...最強だった...。」
「...待たせてえろうすんまへんなぁ。
でも、もう安心しぃや。」
光が晴れ、"真化"した自分の姿が漸く見える。
チャイナドレスのような衣装に、通常形態より小型になったガントレット。
腕にリング状の何かが装備されていて。
背中には、雷を思わせる光の翼を背負っていた。
「か、かっこいー...///」
「ふふっ、せやろ?おおきにな。
あんたのおかげで、ええ感じに気合い入ったわ。」
声援を送ってくれた女の子の頭を撫でる。
ずっと怖い目に遭わせてしまった。
「もう大丈夫やから。そこで見とってや。
あんたの好きな正義の味方。その完全勝利の瞬間をな!」
「うんっ!」
魔物に向かって足を進める。
起き上がったそれは、さっきまでと違い露骨にうちを警戒している。
「散々好き勝手やってくれたなぁ、クソ犬。
うちは魔法少女、マジアサルファ。
『
地獄まで送ったるさかい、土産に覚えていきぃや。」
『グルルル!グギャアアァ!!』
飛び掛かって来る魔物に対して、うちは一歩も動かない。
リングが独り手に外れ、そこから
「なるほど、そう使うんや?」
腰を低くして、その場で拳を振り抜く。
『ギャウッ!?』
目にも止まらぬ、まさに"光速の一撃"。
展開された拳を操作し、魔物の顔面を殴り抜く。
殴られた瞬間すら認知出来ず、魔物は苦しみの声を上げた。
「正義の味方。ナメとったら、アカンえ?」
使い方は分かった。
翼に力を込め跳躍。
そのまま光速で飛行し、さっきの攻撃をあらゆる角度から叩き込み続ける。
「す、すごいぃ...!カッコいい...!!やっぱりフォームチェンジは神ぃぃ!!」
「あはは...なんかもう、速すぎて何が何だか分かんないよ。」
「ふふっ...漸く、咲いたのね...。」
「めっっっちゃ楽しいぃっっっ!!!」
体が軽い!どこまでも速くなれる!
激しく殴れる!
シスタとやった時より桁違いに強い!
これなら、絶対に守れる!
うちは今、最強や!!
「往生せいやクソわんこッ!!!」
『グルアアァァァ!!!』
殴りながらその巨体を浮かせ、天に高くかち上げる。
「これでしまいやぁッ!」
「"
『グルアァァッ!?え、ノ...めェ...!?』
天に向かって、幾重にも雷の拳を重ねる。
魔物の体が霧散し、跡形も無くなるまで。
何千発もの拳を浴びせ続けた。
「うちの勝ちや。くそったれ。」
―――――――――――――――――――――――――――――
「はぁっ...はあっ...これ...め、めっちゃ疲れる...。」
「お疲れさまっ!スゴかったね、サルファ!」
「エネルギー制御はまだ不十分みたいね。常に放電しっぱなしの、旧型スマホってとこかしら?」
「誰が型落ちスペックや!?何様やねんあんた!?」
「だって私、真化なら経験あるし。」
「はぁ!?なら何で出し惜しみしてはるん!?」
「あれはベーゼにしか見せない特別コスチュームだもの。」
「ウェディングドレスかなんかか...!?」
少し離れて、アズールとサルファちゃんたちの会話を聞く。
サルファちゃんは疲れ切った様子だけど、表情はイキイキとしている。
「わるもののおねーちゃんとさるふぁ、なかよしさんだね!」
「ノリが良くて可愛いでしょ?」
「それもサルファの魅力だよね!」
「ちょっとは否定しろや!?あとマゼンタは余計なこと言わんでええから!///」
サルファちゃんはツンツンしてるけど、すごく絵になる三人だと思った。
まるで、最初からあの三人がトレスマジアだったみたいに。
「べーぜ!」
「...どうしたのかな?」
「あのね、まもってくれてありがとう!」
「!...どう、いたしまして...。」
真っ直ぐに向けられた感謝の言葉。
結局何も出来なかった私を、まだヒロインとして見てくれている。
そのキラキラとした憧れの視線には、覚えがある。
「アズール...なのはちゃんのこと、お願いね...。」
「え?ま、待ってベーゼ。私はあなたに話したいことが...!」
「ごめんね...。」
なのはちゃんをアズールに預け、私はその場から逃げ出す。
やっぱり、ダメだよ。
どれだけ私をヒロインと呼んでくれても、"今の私"が危険なのは変わらない。
自分を制御出来ないんじゃ、一緒に戦うことも、向かい合うことも出来ない。
もう二度とあんなのは嫌だ。
「ベーゼ!!」
サルファちゃんの声が響く。
早く離れたい。
そう思っていても、勝手に足が止まってしまう。
「あんたがどんだけ自分のこと化け物や、怪物や言うても!
うちは...うちにはあんたが仲間で、大切な友だちやっ!だから、諦めへんよ!
ちゃんと迎えに行ったるさかい!
首洗って待っとれ!!」
「っ...!」
溢れそうになる涙をこらえて、今度こそ走り去る。
なんで、そんなに優しいの?
なんで、そんなに綺麗なの?
私は、こんなに。
こんなに醜くて、汚いのに。
何でそんな私を、まだ友だちだって言ってくれるの?
『私であれば、もし貴様が暴走したとしても止められる。我が元へ来い。
それ以外に選択肢などあり得んと、分かるだろう?』
私は、どうしたらいいの...?
―――――――――――――――――――――――――――――
◼️□next episode◼️□
「ふふっ、楽しみですねぇ...。あなたの"悪夢"は、一体どんな味がするのでしょうか...。」
次に真化するのはいったい誰なのでしょうか。
予想してみてください。
これアニメ勢の方からしたら真化がオリジナルなのか二次創作なのか判断つかないのでは?()
次回は9/7(土)0:00投稿予定です。