魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~   作:月想

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間に合いました()しかも気付いたらめちゃ長いです...。
お気に入りが600を超えました。
一人一人の方々に本当に感謝しています!
これからもまほなりを楽しんで頂けたら幸いです。



第22話『狂戦士の館!クソつよなアタシ爆誕!』

「くっ...!」

 

ガチャガチャと耳障りな音を立てながら、私を縛る鎖を引っ張る。

『無駄だ、外せない。』と分かってはいるが、目の前の敵へこの憤りを少しでもぶつけてやりたかった。

 

「ふふっ。素敵なお姿ですわね、ルシファアズール。いえ、水(・)神(・)小(・)夜(・)さん。」

「...正体がバレたくらいで、私が動揺するとでも」

「だまれ...。」

「ぅっ...!?」

 

愉快そうに笑うパンタノペスカに言い返そうとした私の頬を、ベルゼルガの手が強く打つ。

彼女としては手加減したのだろうが、魔法少女の膂力は読んで字のごとく"超人"級。

容易く唇が切れ、血が流れ出る。

 

「アズール...ゆるさない...おまえだけは...!」

 

怒りの面持ちで得物である血鎌を構えるベルゼルガ。

今にもそれを振りかざそうとするその姿を睨みながら、私は思考する。

 

何故、こんなことになったのだろうか。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「あっっっつぅ~...とけるぅ~...。」

「終業式、長かったね...。」

「未だに体育館にエアコンがないの、はっきり言って時代遅れよ...。」

 

こんな灼熱の中でも平気で鳴き続けるセミの声をBGMにしながら、私はうてなとキウィを伴って帰路に着いていた。

夏服となった制服でも、この酷暑の前では焼け石に水。

唯一の救いは、今日でしばらくこれを着なくていいという事実だけだ。

 

「明日から"夏休み"だね。」

「ええ。追試は無事合格出来たみたいで、安心したわ。」

「あはは...ギリギリだったけどね。」

 

隣で苦笑いのうてなを見て、思わず笑顔になる。

やっといつもの彼女に戻ってくれた。

それだけで私はもう、とてつもなく幸せなのだ。

 

『小夜ちゃん...あの...』

『うてな!おかえりなさいっ!』

『!...うん...ただいま。ありがとう。』

『キャー!!』

『ついに水神さんが正妻を決めたわよ!?』

『じゃあはるかちゃんはもらっていいってこと!?』

『今聞き捨てならんこと言うたの誰や!?』

『さよちゃんのせーさいはアタシなんだが!?』

 

勢い余って教室で抱き締め合ったのは失敗だったかもしれない。

みんなの誤解を...というより、暴れるキウィと薫子を落ち着かせる方が大変だった。

キウィから見れば、ただ体調不良から復帰しただけであの反応をしているように見えるわけで。

結局、また裏切り者だの特別扱いだの言われてしまった。

 

「勉強、小夜ちゃんとキウィちゃんが教えてくれたおかげだよ。」

「ま~、うてなちゃんの頼みじゃ断れんし~。」

「あなたは私の布団で寝てただけでしょう?」

 

しかもやたら呼吸音が大きかったし。

布団をすっぽり頭から被っていたから見えなかったが、本当に寝てた"だけ"なんだよね?

変な声が聞こえたのは気のせいだよね?

 

「だって寝心地サイコーだったし~。うてなちゃんも今度やりな~?さよちゃんのスメルでマジキマるよ~。」

「えぇ!?...う、うん...///」

「了承しちゃうの...?」

 

別に嫌なわけじゃないが、私も女の子として匂いがどうこう言われると恥ずかしい。

 

あの一件以来、私に対するうてなの態度が変わった。

少しだけ積極的になったのだ。

今みたいにキウィの残念な話を真に受けたり、ボディタッチが増えていたり。

今日だって一緒に帰ろうと誘ってくれたのはうてなだった。

 

ちなみにはるかたちも途中まで一緒だったが、二人とも"用事があるから"と、早々に挨拶をして別れてしまった。

デートかしら?

 

「うてなちゃん夏休みどこ行く~?温泉~?海~?ホテル~?」

「全部小夜ちゃんの裸が見れそうなとこだね。すごくいいと思うよ。」

「じゃあもう全部行くか~。」

「え、待って?もしかしてもうツッコミは私だけなの?」

 

最早キャラが違い過ぎるのでは?

解釈違いだと言いたいが、満足そうな彼女の顔に思わず流されそうになる。

というか、キウィにしてもうてなにしても、私が二人の間で宙(・)ぶ(・)ら(・)り(・)ん(・)なことをどう思っているのだろう。

キウィはちゃんと独占欲はあるのに、うてなには優しいし。

 

「あちぃ~...もうムリぃ~...。」

「はぁ...こういう時は、冷たいアイスとか食べたくなるよね...。」

「...あの、二人とも。私、あなたたちに」

 

チリ...ン チリ......ン チリン...。

 

意を決して二人の真意を聞こうとした、その時。

どこか不気味な鈴の音が響き、続いてゆっくりと近付いてくる影が一つ。

 

「冷たいアイス...アイスキャンディはいりませんか?」

 

手押し車を伴って現れた、その老婆のような、それでいて少女のような女。

まるで怪談に出てくるお化け。

そんな佇まいのまま、少女?は私たちに"アイスキャンディ"を勧めてきた。

 

「アイス、売り...?」

「私、こういうの初めて見た...。」

「あっちぃのによくやんなぁ~。アイスとかもう全部溶けてんじゃね?」

 

うてなとキウィは特に怪しんでいる様子もなく、それぞれ素直な感想を漏らしている。

少女は車から棒アイスを一本取り出し、キウィの方に向ける。

 

「おねえさん、アイスキャンディおいしいよ。」

「え。いらん。なんかキモいし。」

「そんなこといわずに...ほら。こんなあついひはつめたいアイスだよ。」

「...あい、す。」

「キウィ...?」

 

最初は断っていたキウィだが、段々様子がおかしくなっていく。

少女の持つアイスをじっと見つめ、涎すら垂らし始めた。

 

「ほら...ほらほらほら。」

「っ!」

「キウィ!?」

「ガリッグチュ...うめ...うめぇ...う、あ...。」

 

ついに少女からアイスを引ったくり、狂ったように貪るキウィ。

あまりに異様な光景。

ここまで来て漸く思い出す。

確かにあった。

原作に、こんな"罠"が。

 

「ダメ!それを食べてはダメよっ!」

「わたし、にも...。」

「うてな!?」

「ガリッガリッチュル...おいし...。」

 

気付いた時には既に手遅れ。

うてなも豹変し、アイスを食べてしまった。

こうなっては元凶を断つしかない。

そう考えてトランスアイテムを構えるが、途端に激しい目眩に襲われる。

 

「な、にっ...?」

「アイス、おいしいよ...あなたもたべなよ。みなかみ、さよさん。」

 

名前を呼ばれたことにも驚けず、朦朧とする頭は少女の手にあるアイスキャンディでいっぱいになる。

フラフラと近付き、だらしなく涎を垂らす。

食べたい。冷たくて、おいしいアイス。

たべ、たい。

よこ、せ。

 

「ガリッ...」

「ひひっ...まいど。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「っ...?」

 

得体の知れない不快感に耐えられず、目を覚ます。

少し痛む頭を揺すって、周りを見渡す。

 

「え...ど、どこ...?」

 

ベッドで寝ていたのはいいけど、知らないベッドかつボロボロで、部屋自体もまさに廃墟という出で立ち。

如何にもな雰囲気で、最早お化け屋敷にしか見えない。

 

「こわっ...なんで私、こんなところに...。」

 

働かない頭を無理矢理動かし、意識が途切れる直前のことを思い出す。

終業式、下校、夏休み。

...そうだ。

アイス売りの女の子がいて、キウィちゃんがそのアイスを食べちゃって。

それがあまりにもおいしそうだったから、私も思わず貰っちゃって...。

そこからは何も覚えていない。

 

よく考えれば今時アイス売りで、しかも子どもが売ってるなんておかし過ぎる。

 

「ということは...小夜ちゃん、キウィちゃんも?」

 

あの後ここに移動したのなら、二人も一緒にいるはずだ。

先程見ていなかったベッドの真横、段差になっている辺りを覗き込んでみる。

 

『アアアアァァァァ...』

 

「.......ぎゃああぁぁぁ!?!?!?」

 

真っ白な髪にボロボロの服。

ボサボサ髪から覗く瞳は爛々とし、額には真っ赤な血が流れている。

ベッドの真下から這い出て来た『ジャパニーズゴースト』としか思えないそれと目が合い、時間差で私は悲鳴を上げた。

 

「ひぃぃぃ!?ほんもの!?やめたすけぎゃああああ!?!?!?」

『ァ、ア、...ァァァァ... 』

 

飛び上がって部屋の隅まで逃げる私を見つめ、着実に追いかけてくるお化け。

腰が抜けて立てなくなり、部屋から逃げることも出来ない。

ついには目の前までお化けの接近を許してしまう。

 

「だめゆるしてたすけあひぎゃあぁぁぁ!!!!」

『アアァアァァァ...!』

 

「んだこのキモいの。」

『ギャース!?』

 

ゲシッ!という漫画みたいな音を立てて、お化けが壁に蹴り飛ばされる。

変な断末魔を上げて、そのまま動かなくなってしまうお化け。

...あれ?幽霊って、死ぬの...?

 

「ふわぁ~...だいじょぶ?うてなちゃん。」

「き、キウィちゃああぁぁん~っ!!」

 

お化けの安否を気にしている余裕はない。

眠たげに頭を掻くキウィちゃんに、泣きべそフェイスのまま思わず抱き着く。

 

「ごわがっだよぉぉ...!!!」

「おーよしよし、うてなちゃんこーゆーの苦手なのな~。」

 

気怠げながら頭を撫でて宥めてくれるキウィちゃん。

優しい、あったかい、バブい...。

 

「気持ちよく寝てたんだけどさ~、うてなちゃんめっちゃ叫ぶから目ぇ覚めちゃった~。」

「え、あ...ごめん、ね...?」

「謝んくていいよ?寝てたとこクソ汚くてヤバかったし。」

 

指差す方向は私が寝ていたベッドのすぐ側。

お化けと目が合ったのとは反対の位置だった。

 

「や、やっぱり近くにいたんだ...。」

「ってかさ~、愛しのさよちゃんはどこ?アタシらが寝てるのにさよちゃんいねーとかあり得んくない?」

「その理屈はよく分からないけど...。」

 

確かに部屋を再び見渡しても、どこにも小夜ちゃんの姿は見つからない。

 

「アイスを食べたの、覚えてる?それから気を失って、ここまで誰かに拐われたみたい...。」

「おお~、あのアイスうまかったな~。」

「えぇ...。」

 

この状況で最初に出るのがアイスの味の感想。

どこまでもマイペースなキウィちゃんに唖然としつつ、冷静に状況を確認する。

 

「とにかく、私たちが一緒に連れ去られてる以上小夜ちゃんもどこかにいるはずだよ。まずは部屋から出て、小夜ちゃんを捜しに」

 

『お目覚めのようですわね。ご機嫌麗しゅうございます?柊うてな様、阿良河キウィ様。』

「「!?」」

 

小夜ちゃんを捜しに行こうと提案したタイミングで、私たちの頭上に場に似つかわしくない"モニター"が展開された。

魔法で作り出したモノで間違いない。

それに、その画面に映る姿、届く声には覚えがある。

 

「あなたは...!」

「パンケーキ...!」

『おほほほ。誤魔化したわけでなく素で間違えましたわね?』

 

モノクルを付けたすぐ横に青筋を立てながら、その衣装によく似合う上品なお辞儀をしてみせるその女性。

 

『は(・)じ(・)め(・)ま(・)し(・)て(・)。わたくしはパンタノペスカ。一応、魔法少女ですわ。』

「パンタノペスカ...!」

 

ついこの間戦ったばかりの、魔法少女らしくない魔法少女チーム『シオちゃんズ』のメンバー。

個人的に相容れない趣味嗜好なのだけど、今それは重要じゃない。

 

「魔法少女が私たちに何の用ですか!?」

「...おぉ。そーだそーだ~。アタシらパンピーだぞ~。」

『...ふふっ。必死ですわね。それはご自身の胸にお聞き下さいませ。

今あなた方が認識しなければならないのは、ただ一つ。』

 

お互いに"正体"を知られたくない私たちを嘲笑するパンタノペスカ。

やっぱり、バレてる...!

私がベーゼで、キウィちゃんがレオパルトであることが。

 

『囚(・)わ(・)れ(・)の(・)お(・)姫(・)様(・)を救い出すことですわ!』

「「なっ!?」」

 

モニターが切り替わり、ペスカの指差すモノが映し出される。

鎖で十字架に縛り付けられた手足。

青の美しい肩出しドレスに身を包み、ぐったりと下を向いたままの美しい女の子。

誰がどう見たって、捕まっていたのは"小夜ちゃん"だった。

 

「小夜ちゃんっ!?」

『小夜様を拘束させて頂きました。美少女の瑞々しい身体が乱暴に縛られている様子は、まさに芸術ですわねぇ。』

「パンケーキてめぇ...!ふざけんなよ...!」

 

大好きな小夜ちゃんがあんな風にされて、怒り心頭のキウィちゃん。

分かるよ。あんなの許せるわけが

 

「アタシより先にドレスさよちゃん生で見るとか許すまじっ!ブッコロスッ!!」

「そっちぃ!?」

『おっほっほっ!あなた方がまごまごしている間に小夜様のあんなところやこんなところを堪能させて頂きますわぁ!』

「おい自重しなさい魔法少女っ!!」

 

魔法少女のくせに変態で人質まで取るなんて!

しかも小夜ちゃんにナニをする気なんだ!

大体小夜ちゃんを縛るのは私だけの特権なんですが!?

本当にどうしようもない人だ、許せないっ!

 

『パンタノペスカ...ジャマ...話長いし...』

『あら、失礼。今回の主催は"ベルゼルガ"、あなたでしたわね。』

 

変態を制して画面に現れた、これまたダークな雰囲気の魔法少女。

ベルゼルガはその得物を気絶した小夜ちゃんに突き付け、ニヤリと頬を歪ませる。

 

『これは復讐だよ...あなたたちを苦しめて、その様子をこの女に見せつける...。』

「復、讐...?」

『シオちゃんの受けた痛み...この女に味わわせてやる...。』

 

恐らく、前回の戦いでイミタシオ..."ロードエノルメ"を倒したアズールへの復讐が目的ということだろう。

私たち二人を一緒に連れ去ったのは、小夜ちゃんにとって大切な存在だと分かっていたからか...?

子細は分からないけど、私たち全員正体がバレているらしい。

思った以上にまずい。

もし私たちだけじゃなく、全員の素性がバレてしまっているとしたら。

彼女たちを完全に倒すまで、同じようなことが繰り返されるかも。

 

『彼女を救いたくば、わたくしたちの居場所を突き止めて下さいませ。方法は簡単ですわ。"鍵"と"地図"を見つければよいのです。』

「ゲームのつもりですか...!?」

『わたくしはベルゼルガに協力しているだけ。労力分、きっちり楽しませて頂きますわ。』

 

ニッコリと微笑むパンタノペスカ。

その邪悪さに憤り、らしくなく声を荒げてしまう。

 

『まずは追(・)手(・)を(・)か(・)わ(・)し(・)て(・)別棟まで移動して下さいませ。勿論、ゲームオーバーの可能性はございますわ。』

『急いだ方がいいよ。だって...我慢出来なくて、すぐに殺しちゃうかもしれないし...。』

「!...さよちゃんに指一本でも触れてみろ。このクソ廃墟ごとテメーをぶっ潰す...!」

 

キウィちゃんの怒る姿に更に顔を歪めるベルゼルガ。

そのままモニターは消え、通信も切れてしまった。

 

「あんのユーレイ女マジゆるさんっ!さっさと見つけてメタメタのギタギタにしてやんよぉっ!!」

「感想が薫子ちゃんみたい...。」

 

粗暴だけど仲間想いな子特有の反応にちょっと和みつつ、一刻の猶予もないことに内心焦る。

鍵にしても地図にしても何のヒントもないし。

...あれ?そういえばさっき、"追手"が何とかって。

 

バン!バンバンッ!!

 

「ひっ!?」

「なんだぁ~?」

 

部屋にある二つのドア。

恐らく別の部屋や廊下に繋がっているであろう扉の片方を、"何か"がすごい力で叩いている。

驚く間もなく、ボロボロの扉が砕かれて、その何かが部屋に雪崩れ込んで来た。

 

『ウアァァァ...』

「げぇっ!?」

「ぞ、ぞぞぞゾンビだあぁぁぁ!?!?」

 

腐り落ちた体を這いずらせながら、こちらに近付いてくる生ける屍。

何十体ものリアルなゾンビに追い立てられ、私たちの"小夜ちゃん救出ゲーム"が幕を開けた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「なんや、まだかいな...。」

 

天川薫子はソワソワしていた。

街の映画館。

放課後かつ週末で賑わい始めたそこで、彼女は一人腕を組んでまだかまだかと誰かを待ちわびていた。

 

『薫子ちゃん!よかったら、この後映画観にいかない?』

 

急だとは思ったが、二つ返事で了承してしまった。

惚れた弱味というやつだ。

別に見たい映画などなかったが、は(・)る(・)か(・)と(・)二(・)人(・)で(・)となれば行くしかないだろう。

二人だけと明言されたわけじゃないが、あの誘い方で、しかも一緒に誘われていそうな小夜たちは完全に別行動であることが分かっている。

あの三人は募る話があるだろうからと、わざわざ帰り道まで変えたのだ。

まずはるかと二人きりということで間違いないだろう。

 

『用事を済ませちゃうから、先に行っててくれる?』

 

そう言われて、こうして先程から待ちぼうけをしているわけだ。

ゲームセンターなどで暇潰しをしていればいいのは分かる。

だが、今の薫子にその余裕はなかった。

 

「別に...デートや、ないし...///」

 

二人きりなど今に始まったことではない。

初期はコンビの魔法少女だったし、学校や放課後にペアで行動など日常茶飯事だ。

 

それでも薫子は、有り体に言ってテンパっていた。

映画館デートとか定番中の定番だし、夏休みと言えば二学期に『私恋人出来たんだ。』というオーラを漂わせる奴が爆増する、若者の発jy...もとい青春のメインイベント。

はるかがそんなことを意識している可能性は低いが、今夏の二人きりの予定を予約する絶好のチャンスである。

故に、薫子は必死に頭を悩ませる。

どうすればお邪魔虫なしで、なおかつプラトニックな雰囲気で過ごせるのか。

どうすれば、あの子は振り向いてくれるのだろうかと。

何度もシチュエーションを想像し、その度に恥じらい頬を染める。

天川薫子は、正真正銘の乙女であった。

 

「んな恐ぇなら観なきゃいいだろっ!」

「だからヘーキって言ってんでしょバカネモっ!」

「ん?」

 

聞き覚えのあるケンカボイスに気付き、妄想から現実に引き戻される薫子。

正面に目を向けると、予想通りの二人組が罵り合いながら近付いて来るのが見えた。

 

「バカは真珠の方だろ!お前と違ってアタシは追試受けてねーから!!」

「あによっ!?今追試は関係ないでしょーがっ!!」

「奇遇やね、お二人さん。」

「「あん!?」」

 

睨み合う表情のまま薫子に向き直るバカップルこと真珠とネモ。

一般人からするとなかなかの形相なのだが、そこは正義の味方マジアサルファ。

この程度の圧は軽く受け流す。

 

「って、薫子じゃん。こんなとこで会うなんて珍しいな。」

「海で会って以来よね。このバカとはよく遊んでくれてるみたいだけど。」

「真珠はんやったっけ?ネモはんには仲良うしてもらってます~。」

「あんがとね。こいつ友だちいないから、あんたと仲良くなれたの嬉しかったみたいで。」

「余計なこと言うなっ!?お前はアタシのお母さんかよ...///」

 

さっきまで口ケンカをしていたというのに、直ぐ様ネモを気遣う発言をする真珠。

小夜から聞いた"バカップル"という評には納得せざるを得ない。

そう思い、穏やかな表情のまま薫子は話を続ける。

 

「うちも楽しゅう遊ばせてもろてるし、気にせんといて。二人も映画観に来はったん?」

「そうなんだよ。せっかく明日から夏休みだってのに、こいつが『映画観に行きましょ!』ってしつこくてさぁ。」

「付き合ってくれたっていいじゃない!どうせあんた暇でしょうが!」

「暇じゃねー!アタシには積みゲー崩しという重要なミッションがあってだな!」

 

これもまたイチャイチャと言えるのだろうか。

ケンカを再開する二人にちょっと呆れ始める薫子。

 

「大体恐いの苦手なビビりが"ホラー映画"なんざ観たがるなよっ!」

「うっさいわね!好きな俳優さんが出てるんだからしょうがないじゃないっ!それに真珠はビビりじゃないんだからっ!」

「未だに怪談聞いて眠れなくなる奴のどこら辺がビビりじゃねーんだよ!」

「眠れないのはアンタのせいでしょうがっ!先週だって、終わったらすぐ動画見始めて!しかも怪談配信とかっ!」

「...え。ちょい待ちぃ。あんたら、一緒に寝てはるん?」

「「あ。」」

 

聞き捨てならない発言があった。

最近急成長中の乙女センサーの反応を見逃さず、薫子は目の前のバカップルに問う。

 

「ち、ちがっ...///」

「ガキの頃の話だからっ!なっ!?///」

「そ、そそそうよっ!?先週って何年前かしらぁっ!?///」

「...ほぉーん。」

 

あくまでも例えだと思っていたが、どうやら本当にバカップルらしい。

これはいい相談相手になるだろうと、薫子は確信した。

したり顔で核心を突こうと、再び口を開く。

 

「あんたら、もしかして付き合うて」

「薫子ちゃーん!!」

 

問い詰めようとした矢先、誰よりも心に響く声に思わず振り向く。

元気に手を振りながら近付いて来る様子に、思わず胸がときめく。

 

「は、はるか!...って...。」

 

手を振り返そうとした手を、感じた"違和感"からゆっくりと元に戻す。

 

隣(・)に(・)、(・)誰(・)か(・)い(・)る(・)。

いや別にホラーではなく。

はるかが誰かと手を繋いでここに向かっているのが見えた。

 

「あれ?!真珠ちゃんにネモちゃん!」

「はるかじゃない、久しぶりね。しかも」

「こりすも一緒じゃんか。珍しい組合せだな。」

 

世界は狭いとか、そういうことではないのだろう。

用事とはこりすを迎えに行くことだったらしい。

はるかが伴って来たこりすを見て、自らの早とちりを猛省する薫子。

 

「ビシッ。」

「お、おう...久しぶり、やね...こりすはん...。」

「何でこりすと二人なんだ?」

「こりすちゃんにね、見たい映画があるって頼まれてて!せっかくだから、薫子ちゃんも一緒にって誘ってみたの!」

「ウチのアホ...!恋愛脳...!暴走機関車っ...!」

「なに?どうしたのよアンタ...?」

 

乙女にありがちなうっかりミス。

恥ずかしさから映画館壁面に頭を打ちつける暴走機関車さん。

幸い、警備員の目に触れることはなかった。

 

「映画なら小夜に頼めばいいじゃない。」

「確かにな。キウィやうてなもスルーしてわざわざはるかに頼むなんて、こりすっぽくないし。」

「それがねー。"小夜ちゃんたちをそっとしておいてあげたかった"んだって。

優しいよね、こりすちゃん。」

「あぁ~...。」

 

こりすの想いに得心がいく一同。

それぞれ小夜、キウィ、うてなの正体を知る知らないの差異はあれど、あの三角(四角?)関係が色々あったことだけは知っている。

ゆっくりする時間をあげたいと思う気持ちは、全員が持っていた。

 

「大人の対応ってやつだな。

偉いぞ、こりす。」

「...///」

「アンタ照れてんの?珍しいわね。

可愛いとこあんじゃない~。」

「ゲシッ!」

「いったぁ!?ぁにすんのよばかぁ...!」

「照れなくてもいいのにね~。」

「こりすはんにもプライドがあるんよ。」

 

何にせよ、元通りの関係に戻れてよかったと二人の魔法少女は目配せする。

一週間前は、彼女たちが一緒に帰る日常すら危うい状態だったのだ。

学校での元気なうてなを見るだけで涙が出そうだった。

 

気苦労が晴れ、夏休みまでやってくる。

落ち込んでいては勿体ないと、薫子は気持ちを切り替えた。

 

「ま、あいつらはあいつらで楽しんどるやろ。」

「じゃあ、あたしたちも楽しまないとねっ!」

「やっと追試も終わったことだし!」

「明日から夏休みだしな!」

「コクリ!」

 

全員笑顔で気持ちをバカンスモードにチェンジ。

今日はエッチでシリアスなバトルはお休み。

ヒロインではなく、普通の女の子として過ごすのだ!

 

「ところで、こりすの見たい映画って?」

「ビシッ!」

「"テディのピザ屋~恐怖の五日間~"...?」

「ゴリゴリのホラーやんけ...。」

「それ真珠の見たいのと一緒...。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「うぇ...ハァ...ハァ...っ...。」

「だりぃ~...しつこ過ぎんだろあいつら~...。」

 

命からがら走り続けて20分近く。

漸く別棟とやらに移動出来たのか、あれだけずっと追い掛けてきた大軍(ゾンビ)はもう一体も見えなかった。

 

「こわっ...こわか、った...!!」

「ホラー系全般ダメなのな、うてなちゃん。」

 

今年に入ってから一体何度追い掛けられただろうか。

以前の魔物も命の危機という恐怖があったけど、今回のは種類が違う。

完全にホラー映画みたいだった。

 

私、柊うてなは恐い系全般が苦手だ。

悪夢の魔女になったばかりの私だが、お化けの悪夢とか見せられたら漏らす自信がある。

小学校の時図書館で見た怪談集の背表紙だけで、トラウマになった程だ。

 

「...うてなちゃん。そんなに恐いなら、どっか隠れて待ってなよ。」

「え...?」

 

キウィちゃんはいつもと違う雰囲気で、私に"ついて来なくていい"と告げる。

 

「ご、ごめんね...私、恐がってばっかりで...足手まとい、だよね...。」

「そうじゃなくてさ。なんつーか...上手く、説明してあげられんけど...たぶん、う(・)て(・)な(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)は(・)巻き込まれただけだからさ...。」

「キウィちゃん...。」

「さよちゃんは、アタシがぜったい助けるからさ。だから、どっか安全なとこで...。」

 

私がいると変身出来ないから、という意味じゃないだろう。

本当に私を心配して、そう言ってくれているんだ。

ちょっと前の臆病な私なら、もしかしたら従ってたかもしれない。

でも、今はそうじゃない。

 

「キウィちゃん。私も一緒に行くよ。」

「だけど...。」

「巻き込まれたなんて思ってないよ。小夜ちゃんとキウィちゃんがピンチなら、恐くてもじっとしてるなんて出来ない。二人とも、私の大切な友だちだから。」

「うてなちゃん...。」

「...それにね。私、小夜ちゃんが好き。キウィちゃんが小夜ちゃんを好きなのと同じくらい、私も小夜ちゃんが好きなの。」

「!」

 

私の為に悪役になってくれた、小夜ちゃんの愛を忘れない。

彼女に、理想の魔法少女を諦めないって誓ったんだ。

私の大好きな魔法少女は恐くても逃げないし、愛する人を見捨てたりしない。

変身出来なくたって、私はマジアベーゼだ。

 

「だから、一人でなんて行かせない。

キウィちゃんには、負けないよ。」

「......ハッ。んじゃ、アタシももう容赦しないよ?どっちが一番で二番か。」

「真剣勝負、だね。」

 

ニヤリと不敵に笑い合う私たち。

私にはそれが、マジアベーゼとレオパルトのやり取りのように思えた。

 

「うし!さっさと片付けて、小夜ちゃんとデートしよーね!」

「うん!」

 

立ち上がり、気合いを入れて真っ暗な廊下を歩き出す。

今のところ何かが出てくる気配はないが、相変わらず不気味な景色が続く。

 

「あんだけ啖呵切っといて、コワイのはコワイんだね~。」

「こうしてないと腰が抜けそうで...。」

「ま、役得だからいいけど~。」

 

キウィちゃんの腕にしがみついて歩くので精一杯。

我ながら情けなさ過ぎる。

 

「暇だし何か話しよ~。うてなちゃんはさ~、さよちゃんのどこが好きなん?」

「えっ。う、うーん...優しいとこ、とか?」

「あーわかる~。甘えるとナデナデしてくれて、バブみあるよね~。」

「う、うん。お母さんとか、お姉ちゃんみたいな感じで、面倒見がいいよね。」

 

共通の話題となると、やはり小夜ちゃんのことになるか。

何でもない会話だが、不思議と心が落ち着いてくる。

 

「あとは~?」

「美人で、クールなのに可愛くて。」

「おっぱいおっきいしね~。」

「そうそう。おっきくて柔らかくて形がキレイで...って!?///」

「味も甘いし~。」

「味ぃ!?///」

 

上手く乗せられたと思ったらとんでもない爆弾発言を聞いた。

いったい二人はどこまでっ!?

そこのところもっと詳しく...!

 

『うっ...うっ...』

「!?」

 

突然聞こえた泣き声に会話を忘れて驚く私。

声のする方を見ると、階段の手前で膝を丸めてうずくまる、小さな"女の子"がいるのが分かった。

 

「ど、どう考えてもよくある怪談のやつだぁ...!」

「何だぁ?こんなとこに迷子かよ~。」

「あ!ちょっと!?」

 

怪談でありがちなトラップだと思うが、私が止めるのを無視してズカズカと女の子に近付くキウィちゃん。

 

『ううっ...ままぁ...』

「おいちびっこ~。どした~?ママとはぐれたんか~?」

 

躊躇わず、女の子の肩に手を乗せる。

後はもう予想通り。

ゆっくりと振り向く女の子。

 

『ママナノォォッ!?』

「うっせぇなクソガキっ!!」

『ヒドイッ!?』

「強過ぎだよぉっ!?」

 

案の定血だらけかつぐちゃぐちゃな顔で叫ぶ女の子、もといお化けを文字通り一蹴するキウィちゃん。

何で1ミリも驚かないんだろう...?

ちょっと強過ぎるよこのヒロイン。

 

「...お?んだよこれ。」

「え?...キウィちゃんそれ!」

 

お化けが溶けるように消えると、その跡から何やら小さな箱が現れる。

まるでゲームのドロップアイテムのようなそれを拾い上げ、中身を確認する。

 

「"カギ"...?」

「パンタノペスカが言ってたやつだよきっと!やったね、キウィちゃん!」

「よくわからんけど、とりあえずやた~。」

 

キウィちゃんがいなかったら絶対にゲット出来なかったであろうその鍵。

運良くゲット出来たことに喜び合いながら、私はその傍らに添えられていた紙切れに気付く。

広げてみると、そこには暗号のような一文が記載されていた。

 

『不浄の地にて、あなたを待つ。』

 

「不浄の、地...?」

「ふじょー?...腐女子?」

「...たぶん違うと思うよ、キウィちゃん。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「ほう。あの"迷子と思わせて実はタチの悪い地縛霊でした"イベントを当たりと判断し、容赦なく蹴り飛ばすとは。なかなかやりますね。」

「当たり前でしょう...キウィの非常識加減を嘗めないでちょうだい...。」

 

モニターの先の二人の様子に安心する。

ここからでは会話は十分に聞こえないが、仲良くサポートし合いながら進んで来ているようだ。

 

「余裕そうですのね。」

「あの子たちは必ずここに辿り着く。そして、二人はあなたたちよりも強いわ。」

「ふふっ、厚い信頼ですこと。」

 

パンタノペスカは私の返答を面白がりながら、自らの能力である"パンタノドール"を発動させる。

先ほどからうてなとキウィを襲っているお化けたちだが、あれはこの能力とベルゼルガの血(・)を(・)操(・)る(・)能(・)力(・)を掛け合わせて作成されたものだ。

一通り作成を終えたのか、血の補給の為ベルゼルガは食事を始めている。

完全に作業は完了したと思っていたが、今さらお化けを追加するつもりなのだろうか?

 

「何をする気...?」

「ただ待っているのもお暇でしょう?せっかくのドレスですもの、楽しまなくては損ですわ。」

「っ...。」

 

私の顎を掴み、悪役真っ青の悪い笑顔を浮かべるペスカ。

こいつの悪巧みなど、どうせやらしい系の下に走ったモノに決まっている。

 

「お生憎さま。私の全てはあの子たちに捧げると決めているの。あなた程度の攻めでは何も感じないわ。」

「素晴らしい愛ですのね。だからこそ、この"プレゼント"は喜んで頂けるはずですわ。」

「プレゼント...?」

 

土塊が人の形へと変化し、次第に明確な姿を写し出す。

私の前に二(・)人(・)の(・)ヒ(・)ロ(・)イ(・)ン(・)が現れる。

 

『ふふっ...。』

『小夜ちゃん...///』

「ベーゼとマリーノ...!?」

 

しかもベーゼは魔法少女ではなく、私の夢見たエノルミータの原作ベーゼだった。

今となっては見られない、うてなの二つの姿。

 

「っ...///」

「今、キュンとしましたわね?」

「うるさいわねっ!?してないから!偽物のうてななんて興味ないわっ!///」

『そうなの...?』

『傷つきますね...。』

「っ...!///」

 

耐えろ、耐えるのよ小夜!

こんな状況じゃなければ、服の構造とか髪型の違いとかじっくりねっとり観察して楽しみたいところだけど!

パンタノペスカの思惑通りに動くわけにはいかないの!

 

『小夜ちゃん...好きだよ。』

『私たちがじっくり愛してあげますね...。』

「ひぅっ!?///」

 

両側から耳を擽る魅惑の囁き。

人形たちは私に抱き着き、いじらしく私の身体に触れ始める。

 

『小夜ちゃん、汗かいてるね...///』

『スンスン...ふふっ。あなたの匂いが濃くて、変な気持ちになってしまいますね...///』

「や、やめ...嗅がないでぇ...///」

 

両腋を撫で、鼻を当ててその匂いを嗅ぐ二人。

あまりの羞恥で顔から火が出そうになる。

 

『ちゅ...ぇろ...///』

『ぺろ...ぺろ...///』

「ひっ!?やめっ...舐めるのはダメぇ...!///」

 

嗅ぐだけでなく、二人は無心に私の腋を舐め始める。

膨らむ羞恥と快感に、動かない手足を暴れさせて、不快な金属音を響かせてしまう。

 

『気持ちいいですか...?///』

『ここ、硬くなってるよ...///』

「ぃっ...!?そこ、はぁ...!///」

 

攻める箇所を胸に変え、時に優しく、時に激しく揉みしだく。

 

『まだまだ、続けるよ...///』

『あなたが私たちの虜になるまで...///』

「たすけ、へ...っ///」

 

ゼロ距離で囁かれるうてなの声に、思わず身体を震わせる。

人形とはいえ、大好きなヒロインが私を楽しんでいる。

この快楽に、私はいつまで耐えられるのだろうか。

 

「うはぁー!たまりませんわぁ!!変化球のベゼ×アズですがリアルな反応がさいっこーですのぉ!今夜はこれで決まりですわねっ!!」

「つまんなーい...。」

 

私の悶える姿を楽しむパンタノペスカと反対に、心底どうでもよさそうにステーキを頬張るベルゼルガ。

二人を観察し、脱出する機会を窺うことも出来ず。

私は身体に走る快感に飲み込まれていった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

『...どう、か...ごぶじ、でっ...。』

 

「シスタっ...!!」

 

懐かしい声が聞こえた気がして、眠っていた意識が飛び起きる。

 

「あぐっ...!?」

 

意識の覚醒と共に身体中の痛みが脳を焼く。

一通り悶え息を荒くし、漸く慣れてきた時には苦しみで再び意識を失いそうになっていた。

 

「ハァっ...ハァっ...!」

 

必死に意識を繋ぎ止める。

状況を、把握しなくては。

 

「ここ、は...蘭朶の家か...。」

 

質素な飾り気のない部屋。

馴染みのベッドに寝かされていたようだ。

 

「私は、また...負けたの、か...。」

 

痛む身体が嫌でも思い出させる。

一度目は、マジアベーゼに。

そして二度目は、ルシファアズールに負けた。

何度やっても同じ。

どうあがいても、奇跡は奴らに味方をする。

 

「いや...奇跡では、ないのだったな...。」

 

『愛』。

そんなものが力になるなんて、作り物の世界らしい幼稚な話だ。

愛したから何だと言うのか。

私が愛さなかったから、朝陽は死んだとでも言いたいのか。

 

「これでは...八つ当たりだな...。」

 

分かっている。

彼女たちを憎んだところで、朝陽は帰って来ない。

彼女たちを愛したからこそ、あの子の笑顔は輝いていた。

だから、"間違っていた"と考え直したのだ。

あの子の愛した世界を壊そうとしたから、上手くいかなかったと。

 

「今度は上手くやるつもりだった...。」

 

奴らを乗り越えるのではなく、巻(・)き(・)込(・)ん(・)で(・)進もうと考えた。

壊すのではなく、従えて。

以前とは別のやり方で世界を制すつもりだった。

 

「結局...憎悪と怒りに囚われるだけだったが...。」

 

奴らを一目見ただけで、魔法と奇跡への憤りは抑えられなくなった。

真化能力も、口を付いて出る言葉も。

彼女たちを否定することしか出来なかった。

その輝きが眩しい程に、何故あの子を救ってくれなかったのかという思いが強くなる。

 

「せっかく...お前たちに救ってもらっても...私は...。」

 

潰えるはずの命を救ってくれた人がいた。

嘘吐きな彼女がしてくれたキスの温かさを、今もまだ覚えている。

 

今にも消えそうな命の灯火を、守ってくれた人がいた。

震える私を抱き締めてくれた彼女の愛情が、今もまだ胸に残っている。

 

「愛があったとしても...私は所詮...敵役(ロードエノルメ)だ。」

 

やられ役で、脇役。

主人公とは大違い。

そんなどうでもいい存在に、世界は味方したりしない。

 

「素直に、退場...しておくべきだったか...。」

 

自嘲気味に笑い、その笑いも痛みに掻き消される。

また生き長らえたらしいが、本当に私がここにいる意味なんてあるのだろうか。

 

「...誰も、いないのか...。」

 

部屋は真っ暗で、蘭朶が家にいるのかも分からない。

彼女のことだ、家にいれば付きっきりで看病をしているだろうし、合間に買い出しにでも向かったのかもしれない。

百花(もも)もあれで付き合いはいいし、蘭朶を送迎してくれている可能性もある。

 

「全て、やめてしまうのも...」

 

いいかもしれない。

...ダメだ、意識を保てない。

蘭朶たちが帰って来たら、まずはお礼を言って。

シオちゃんズは解散だと告げよう。

 

「ひどい、なまえだ...。」

 

田中みち子と並ぶくらい残念な名前。

ロード団といい、シオちゃんズといい。

 

「わるく...なかった、な...。」

 

意識が途絶える刹那。

私が夢見たのは、元の世界に戻ることではなく。

優しく微笑む彼女たちと過ごす、安らかな日常だった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「いい加減しつっけーぞ!ユーレイならおとなしく死んどけっ!」

『ギャー!?』

「キウィちゃん...しゅごい...。」

 

もう何体目かも分からない数のお化けを、徒手空拳で倒していくキウィちゃん。

運動神経がいいのは知ってたけど、格闘系魔法少女もやれそうな勢いだ。

やっぱり、薫子ちゃんとは似た者同士なんだなぁ。

 

「ついたよ、うてなちゃん。」

「う、うん...ここがたぶん、"不浄の地"だと思う...。」

 

迫り来るお化けを乗り越えて私たちが辿り着いたのは、メモに記載されていた不浄の地。

 

「ホントにあるん?女(・)子(・)ト(・)イ(・)レ(・)なんかに。」

「たぶん...一番汚いところなのは確かだし...。」

 

そう。

人が住む場所で一番汚くなるのは、一般的に言って"トイレ"のはず。

ならば、不浄の地として一番怪しいのはここだ。

何より、トイレの怪談は定番中の定番。

私たちを怖がらせる罠が仕掛けられているに違いない。

 

「ほーん。んじゃサクッと回収しよ~?なんかくせぇしさぁ。」

「あっ!待ってキウィちゃん!?」

 

キウィちゃんが女子トイレに入ろうとした瞬間、天井から黒い糸のようなモノが彼女を絡め取る。

 

「ぐぇっ!?な、なんだぁ...!?」

「ひぃっ!?」

『ククキケケケケケ!』

 

糸ではなく、"髪"。

天井に張り付く女の幽霊が、黒い長髪を振り乱しキウィちゃんを捕らえてしまっていた。

 

「たたた、たすけなきゃぁっ!?」

「うてな、ちゃんっ!こいつは何とかすっから、早くトイレに...!」

「で、でも...!」

「いいから、早...!うぐっ!?」

「っ!?」

 

髪が首に巻き付き、ちょうど首を絞められた形になっている。

このままじゃ呼吸が...!

 

「...!」

 

形振り構っていられない。

怖い気持ちを必死に抑えてトイレに駆け込む。

真っ暗で不気味な雰囲気に足がすくむけど、外で苦しむキウィちゃんを思い出し、個室を一つ一つ開けていく。

 

「ここで、最後...!」

 

勢いよく開く扉。

地図を探すより前に視界に飛び込んで来たモノ。

それは。

 

『ハイッテマァァス』

「ひぃぃぃぃっっ!?!?」

 

小学生くらいの女の子、に見える"老婆"が血走った目でこちらを睨む鬼の形相だった。

 

『ミィィタァナァァ』

「や、いやぁぁ!?ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっっ!?!?」

 

腰を抜かし後ずさる私。

老婆は恐ろしい表情のまま私に覆い被さってくる。

 

「もうダメぇ...!!」

 

恐怖で頭がいっぱい。

もう無理だと諦めそうになるその直前。

 

『うてなっ!』

「...っ!」

 

小夜ちゃんが、私を呼ぶ声が聞こえた。

幻聴かもしれないそれに奮い起たせられ、衝動のままに老婆を力一杯蹴り飛ばす。

 

『ウゲエ!?』

「あれ...地図...!」

 

老婆の入っていたトイレの棚に宝箱が見えた。

よろけながら宝箱を掴み、脇に抱え出口へと走り。

予(・)想(・)通(・)り(・)あ(・)っ(・)た(・)ホースを構えて蛇口を全力で捻る。

 

「キウィちゃんを離してっ...!!」

『アガガガガガッ!?』

 

水圧激しいそれをお化けの顔面にぶち当てる。

動揺したお化けは拘束を緩め、ついにキウィちゃんを解放した。

 

「いてっ!?サンキューうてなちゃんっ!よくもアタシのせくしーな首筋に痕付けてくれやがったなぁぁ!?」

『グギャアァァ!』

 

怒りのレオパルトキック(仮)の直撃を喰らい、長髪お化けも溶けて消え去った。

放心しながら蛇口を閉めに戻り、廊下にヘタリ込む。

 

「うっ...ひぐっ...こわっ...こわかったぁ...っ」

「...すごかったね、うてなちゃん。」

 

私を安心させようと抱き締めてくれるキウィちゃん。

助けられてよかったという安堵感から、更に泣けて来てしまう。

 

「さよちゃんとアタシの為に、ガンバってくれたんだね。あんがとね。」

「...すごく、恐かったけど...二人が傷つく方が、何百倍も恐いから...っ」

「...ん。アタシもそう。

お揃いだね、うてなちゃん。」

 

そうしてしばらく、いつもよりちょっぴり大人な彼女に甘える時間を過ごした。

 

「ごめんね。子どもみたいに泣いちゃって...///」

「んーん?うてなちゃん可愛かったしいいよ~。逆バブみで尊みありありだったし~。」

「か、かわ...///」

「そいえば地図はどしたん?てかあったん?」

「あ。う、うん。見つけたよ。」

 

廊下に転がっていた宝箱を拾い上げ、鍵穴に最初に見つけた鍵を差し込む。

 

カチャ...。

 

小さな音を立てて、宝箱は開いた。

中には如何にもな古びた地図が入っていて、建物の階層と部屋の配置が記載されていた。

 

「ここ!この、王冠の書いてある部屋が!」

「さよちゃんがいる部屋ってことか!」

 

黄ばんだ地図には不釣り合いの、分かりやすい王冠マーク。

そこがゴールであることを確信する私たち。

 

「行こうキウィちゃん!」

「生ドレスさよちゃんはアタシらのもんだっ!!」

 

気合いを入れ、ゴールに向かって駆け出す。

待っててね、小夜ちゃん。

今、助けに行くよ!

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

バタンッ!

 

「さよちゃあぁぁんっ!!」

「意外とお早いご到着でしたわね。」

 

一際広い会議室的な大広間。

そこにあのクソ魔法少女たちがいた。

 

「ふふっ。王子様たちがいらっしゃいましたわ、お姫様。」

「っ...きう、ぃ...うて、な...///」

『えへへ...///』

『うふふ...///』

「なっ!?」

 

モニターで見た通り、ドレス姿で十字架に捕らえられている小夜ちゃん。

その両脇から挟むようにして、見たことない格好のベーゼとマリーノが、小夜ちゃんの身体をまさぐっていた。

 

「パンタノペスカ...!あなたという人はっ...!」

「てめぇふざけんなよっ!汚ねぇ人形でアタシのさよちゃんに何してやがるっ!!」

「おもてなしをしていただけですわ。随分喜んで頂けたようで。」

 

アタシの前で、また小夜ちゃんが弄ばれた。

そのムカつく光景が、"あの日"のトラウマを甦らせる。

 

『ふざ、けんな...やめろ...やめろよ...たのむから...おね、がいだからっ...やめて...っ!...やめてくれぇぇぇ...っ!!!!』

 

あの時のアタシは、ただ見ていることしか出来なかった。

小夜ちゃんを救うことも、あいつを止めてやることも出来なかった。

でも、今は違う。

 

「いいかこのパンケーキっ!小夜ちゃんが感じてる時はそんなもんじゃねーし!ベーゼも嫌がる小夜ちゃんに、そんなことはもう二度としねーんだよっ!!」

「キウィちゃんっ...。...ってあれ?そんなもんじゃない...?」

 

うてなちゃん魔法少女大好きだし、バレたら嫌われっかもしれんて躊躇ってたけど...。

もう知らん!

 

「テメーらはここでぶっ潰す...!」

「怒り心頭ですのね。」

「変(トランス)...!」

 

「"血の舞踏(プルート・ダンツ)"」

 

「危ないっ...!!」

 

トランスアイテムを構え、変身しようとしたその時。

アタシに向かって"赤い斬撃"が降り注ぐ。

 

「キウィ!?うてなっ!?」

「っ...てぇ...。」

 

アタシはいい。

ただ突(・)き(・)飛(・)ば(・)さ(・)れ(・)た(・)だけだから。

問題は、アタシを突き飛ばした方だ。

 

「うてなちゃんっ!?」

「っ...ぁ...」

 

砂埃が晴れたその床で踞るうてなちゃん。

体の切り傷と、頭からの出血が痛々しい。

 

「なんでこんな無茶したの!?アタシなら平気なのに!うてなちゃんはなんも悪いことしてないのに...!」

「...きうぃ、ちゃ...よかっ...た...。」

「!?」

 

『カワイイ、から...こういう、傷つき方は...嫌だなって...え、へへ...』

 

ボロボロのうてなちゃんの笑顔が、いつかのあいつと重なる。

なんでそんなとこまでそっくりなんだよ...!

 

「ベルゼルガ、あなた...。」

「もういいでしょ...?そいつを苦しめるなら、目の前であの二人を殺せばいい...。これはあたしの復讐だよ...。」

「...ええ、そうでしたわね。」

 

アタシたちの前に立ち塞がるベルゼルガ。

さっきの攻撃はアイツが...。

 

「おね、がい...さよ、ちゃん...を...っ」

「うてなちゃん...?」

「...」

 

"さよちゃんを助けて"。

そう言い残して気絶してしまったうてなちゃんを抱き上げ、扉近くに横たえる。

 

『変身(トランスマジア)...。』

「あなたも始末して、アズールにあたしと同じ苦しみを与えてあげるね...。」

 

レオパルトに変身し、うてなちゃんの傷付いた頬を撫でる。

恐がりなのに勇敢で。

弱っちいのに強くて。

可愛いのに、カッコいい。

 

「アタシさ...やっぱり、うてなちゃんも大好きだわ。」

 

この愛おしい気持ちは、きっとさよちゃんに向けるモノと同じ。

...一番はやっぱ小夜ちゃんだけどさ。

 

「一緒に幸せになろうね、うてなちゃん...。」

 

三人一緒にってのも、なかなかいい感じかもね。

三人一緒のデート。お家に、ベッド。

三人一緒の、"人生"。

...いいなぁ。

なんか、そんなこと考えてたら。

 

「今から"ムラムラ"してきたぁ...!こんなクソッタレユーレイ屋敷、さっさとぶっパなしてさぁ!ぜったい三人でホテルいこーな!うてなちゃんっ!!」

「じゃあ...さよなら...。」

「ダメ!逃げてっ!レオっ...!!」

 

 

『真化(ラ・ヴェリタ)!』

 

 

飛んでくる巨大な赤い一撃。

それを軽(・)く(・)撃(・)ち(・)落(・)と(・)し(・)て(・)、アタシは正面の邪魔者を睨み付ける。

 

「...!?」

「あれ...まさか...!」

「まずいことになりましたわね...!」

 

黒い輝きが消え、今までのバリバリじゃない、完全な変化を遂げたアタシ。

真っ黒な軍服のサイドはがっつり肌が露出して、腰に巻いたベルトだけがわずかに見える攻め攻めデザイン。

アタシらしい、キュートな猫耳と尻尾がチャームポイントの、クソかわコーディネート。

カッコよくてカワイくてせくしー。

いつものと本気モードが合わさったような姿。

...うん、気に入った。

 

「名付けて、『"クソつよステイト"』。

お待たせ、さよちゃん。」

「レオ...信じてたわ...///」

 

アタシの真化した姿に、小夜ちゃんもパーペキにメロメロな様子。

ますますテンションアガる。

これは気持ちよくぶっパなすしかねーよなぁ!

 

「嫌な予感がプンプンですわっ!」

「パンタノペスカ...!これはあたしの...!」

 

パンケーキ女が前みたいに大量の土の塊を作り出す。

時間稼ぎなんてさせるわけねーのに。

 

ジャコッ!

 

アタシは袖に隠れた"クローアーム"を展開し、エネルギーを充填。

狙いを定める。

 

「足りねーなぁ...!」

 

『"滅殺光線シュトラール"ッ!』

 

放たれる黒い閃光。

全ての土塊を同(・)時(・)に(・)撃(・)ち(・)抜(・)き(・)、ついでに目障りなベーゼとマリーノの偽物を砕く。

 

「一撃ですのっ!?」

「アタシを止めたきゃ、あと一億体は用意しな。」

 

狼狽えるパンケーキは無視して、うてなちゃんを傷つけやがったオムレツ女に近付いていく。

 

「痛みがどーのこーの言ってっけどよぉ。

誰にケンカ売ったのか。

分かってんのか?お前。」

「知らない...興味ない...どうでもいいもん...大事なのは、あたしのシオちゃんだけ...。」

「それ自体はまあ、分からんくもないけどさ~。...戦えねぇさよちゃん捕まえて、うてなちゃんまで巻き込んでさぁ。」

 

こういうの、なんて言うんだっけ?

...そうそう、思い出した。

あんましアタシのキャラじゃないし、ぶっちゃけ興味もないけどさ。

今日だけは特別。

ぐったりしてる小夜ちゃんと、トレスマジアと、眠ってるうてなちゃんの代わりに言ってやるとしよう。

 

「"キョージ"もねぇで悪(アタシ)に勝てると思うなよ、この偽物野郎。」

「うるさい...!」

 

ベルゼルガは体から何個もの血の刃を造り出し、アタシに向かって投げつけてくる。

 

「だから足りねぇって言ってんだろ...!」

 

刃を回避し、アームで潰し、時には撃ち落とす。

そうして完全に敵の攻撃を捌ききるアタシ。

控えめに言ってちょーカッコいいっ!

 

「今の見てたさよちゃん!?惚れた!?惚れ直した!?だったらこのあとすぐアタシとえっち」

「ばかっ!前見なさいっ!///」

「いい加減、死んで...!」

「おわっ!?」

 

ガギュインッ!!

 

いつの間にか接近してきたベルゼルガの鎌を何とかアームで防ぐ。

 

「お前...!そんなにあのロードが好きなのかよ!?」

「好きだよ...!シオちゃんは...みっちゃんはあたしのすべて...!」

「ならこんなことしてないで側にいてやれよ...!」

「うるさい...!おまえにみっちゃんの何が分かる...!おまえたちのせいで...!みっちゃんはもう負けられなかったのに...!なのに、おまえたちは...!」

 

怒りのまま振り下ろされる鎌をアームで防いで捌いてを繰り返す。

こいつの叫びは理解出来る。

意味は分からんけど、底にある想いはアタシと一緒だ。

 

「命も何もかも、全部好きな人に捧げたいって気持ちは分かるっ!それが純愛だもんな!だけどさ!それは相手のこと、何も考えちゃいねぇ!」

「なに、を...!」

「どこに大好きな人に傷ついて欲しいヤツがいる!?どこに死んで欲しいヤツがいるんだよ!?相手の為の命なら、それは相手と同じくらい大事なもんだっ!お互いが大事だから、自分を大事にするんだよ!それが"添い遂げる"ってことだろうがっ!」

「っ...!?」

 

鎌を弾き飛ばし、ベルゼルガと距離を取る。

アイツの顔色は余計に悪くなっているように見える。

やっぱ自分の血を使ってっから、その分消耗が激しいんだな。

 

「それが分からずに献身したいってんなら、そんなのは恋人でも何でもねぇ!ただの偽物だっ!愛されてるか不安で!無理矢理相手に好かれようとしてるだけなんだよっ!」

「っ...うる、さい...うるさい...っ!!」

 

何で説教なんかしてんだろ。

...そうか、似てるんだ。ちょっと前のアタシに。 

 

アイツは更に顔色を悪くしながら、シスタ並みの巨大な鎌を造り出す。

たぶん最後の力を振り絞ったってことだろう。

 

「復讐なんざしてる暇あるなら自分磨きでもしとけっ!今目ぇ覚まさせてやるからよぉ!!」

 

アームがぶっ壊れそうな程、全身全霊でエネルギーを充填する。

もっと、もっとだ!

アタシの愛はこんなもんじゃねぇ!!

今のアタシは、"正しいアタシ"よりきっとつえーから!!

 

「潰れろ...っ!!」

「くらいやがれッ!!」

 

『"最強滅殺光線!

シュテルクストシュトラール"ッッ!!』

 

巨大血鎌とぶつかり合う、極大の黒い閃光。

アタシの溢れんばかりの愛(魔力)が詰まったその一撃に、鎌は崩れその主ごと飲み込まれていった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「きゃっ!?」

「おっと...。」

 

拘束されていた鎖をアームで壊してもらい、落ちる私をキウィが抱き留める。

 

「大丈夫?さよちゃん。」

「っ...え、ええ...///」

 

完全に"お姫様抱っこ"の上、いつもと違いニカッと笑うキウィに鼓動が早くなる。

あまりにも、カッコ良すぎる...。

ダメだ、どうあがいても顔が真っ赤になる!

 

「...アタシが魅力的過ぎて、メロメロになっちゃった?」

「ばっ!?...そうよ...あまりにも王子さま過ぎる、あなたが悪いのよ...///」

「じゃあさじゃあさ~。ちゃんと王子さま出来たアタシにご褒美ちょーだい!」

 

おどけて頬を差し出すキウィに、こういうところはまだまだ子どもっぽいなと思いつつ、不意打ち気味に"唇を重ねる"。

 

「っ!?///」

「ご褒美なら、これくらいじゃなきゃ足りないでしょ...?///」

「...ぷしゅー///」

「いたぁっ!?」

 

気が抜けたのか、変身が解けてしまったキウィ。

支える力も抜けたようで、そのまま床に落とされてしまった。

そのままキウィもパタリと倒れてしまう。

 

 

「急に手を離さなくてもっ...。」

「ごめ~ん...ちょっと、流石に...しんどくて~...。」

 

大の字になって横たわるキウィはかなり疲弊した様子だった。

初めての真化で、あれだけの魔力を放ったのだ。

動けなくなっても無理はない。

 

「本当にお疲れ様。ありがとう、キウィ。」

「へへっ...。」

 

気絶したうてなと合わせて二人を運ばないといけないのか。

変身すれば問題ないけど、うてなが起きちゃうとキウィとの兼ね合いで説明がなぁ。

 

「蘭朶っ!」

「っ...。」

 

帰路のことを考えていると、変身の解けたベルゼルガにパンタノペスカが駆け寄るのが見えた。

あの様子なら継戦は厳しいだろう。

 

「あれ...あたし...何で...」

「...帰りましょう。みち子様が待っていらっしゃいますわ。」

「みっちゃん...みっちゃんの...ごはん...つくらな、きゃ...。」

「ええ。今日はわたくしにお任せくださいまし。」

 

パンタノペスカは蘭朶を抱え、私たちの方を向く。

 

「...感謝しますわ。それとご無礼について、深く陳謝致します。」

「...早く行きなさい。一度三人で頭を冷やすといいわ。」

「...ええ。」

 

そのままゲートを開いて帰っていく二人。

ここで原作を頼るのは違うと思うが、シオちゃんズは何だかんだ正しい魔法少女になっていく可能性がある。

ロードが転生者なことに不安は残るが...。

憎しみ合いたいわけじゃない。

例え命を奪われたことがあっても、今私は幸せだ。

奪って奪い返しての繰り返しは、奇跡も魔法もある世界には相応しくないだろう。

 

「うてなの傷を見ないと...私の簡単な治癒魔法で治せるといいけど。場合によってははるかに連絡して...。」

 

そこまで言って思い出す。

私のスマホ、トランスアイテム、カバン。

 

「私の制服、どこ...!?」

 

ついカッコつけてあの変態を見送ってしまったことを後悔し、必死に辺りを捜索する私。

 

「大変ださよちゃん...!なんかうてなちゃんの口から"タマシイ"的な何かが出かかってる!ちょっとキモい...!」

「えへ...つばさのはえたまほうしょうじょがいっぱい~...。」

「ぎゃーっ!?分かりやすいくらいにお迎えが来てるぅ!?」

 

いつの間にか命の危機に瀕しているうてな。

そんなギャグな死に方しないで!?

あなた主人公なんでしょ!?

 

「カムバァックー!!ホットケーキとオムレツの人ぉぉ!!!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「調子に乗って大量製造なんてするんじゃありませんでしたわ...!敗戦の上お家に帰る魔力もねぇとか、更に情けなくなりますの...。」

 

動けないベルゼルガ、もとい『多田蘭朶(ただらんだ)』を担ぎ歩きながら、パンタノペスカこと『桃森百花(もももりもも)』は愚痴を言う。

ゲートを開いたはいいものの、狙った場所ではなくそこそこ近くの路地に出てしまった。

変身も解けて力も出ないし、インドアな百花には非常に重労働である。

 

「ごめんね...百花...。」

「わたくしに謝るなんて、蘭朶らしくありませんわね。お友達なのですから、当然ですわ。」

「...友だちだっけ...?」

「わたくしでも傷つくんですのよ?」

 

このままここに捨ててやろうかと思いつつ、重い足を一歩、また一歩と進めていく。

 

「みっちゃん...起きてるかな...。」

「強いお方ですもの。きっと元気になっていますわ。」

「...勝手なことしたから...怒ってるかも...。」

「だとしたらそれは、蘭朶が大切だからですわ。」

「...えへへ...じゃあ...嬉しい、かも...。」

 

元通りになった友人の姿に微笑みつつ、今日の夕食について考える。

蘭朶はやっぱりステーキだろうし、みち子様は和食好きだし。

趣味嗜好は人それぞれとはいえ、やっぱり合わせるのって大変だ。

 

「それも、悪くはありませんけど。」

「なにか、言った...?」

「いいえ。本日のオカズについて考えていただけですわ。」

「最低...。」

「あれ?今わたくし謂れのない勘違いをされました?」

 

そんな小さな幸せを感じている百花は気付けなかった。

すぐ後ろに迫る、本物の"憎悪の塊"に。

 

『エ...のる...メぇ...!!』

 

―――――――――――――――――――――――――――――

◼️□next episode◼️□

 

「音楽性の違いだわ...!このグループは解散よっ!」

「音痴が音楽性語るとか片腹痛いんだが。」

「典型的な自惚れアイドルね。すぐにAV堕ちするのがお似合いよ。」

「アンタたち真珠にだけ辛辣過ぎないっ!?」




実は3期、4期に当たる物語の構想があります。
完全にオリジナルだからゴミかも()
今週末は小夜ちゃん誕生日記念の復刻カフェにいってきます。
次回は9/28(土)0:00投稿予定です。
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