魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~ 作:月想
今回、まさかの最多文量となっております。
暇な時にチョロチョロ読んで頂ければと思います...。
この"騒動"の始まり。
それは夏休み前、あのお化け屋敷イベントの前日に遡る。
『あたしたちのデビューシングル!』
『"プリズム・プリンセス"が来週いよいよ発売になるで!』
『い、一生懸命歌ったので...いっぱい聴いてくれたら嬉しいです...。』
『以上!トレスマジアからの大事なお知らせでした!』
『せーの!』
『『『あなたのハートをトランスマジアっ!』』』
「......は?...ハァっ!?!?!?」
放課後、いつも通り何をするでもなく集まったナハトベースにて。
スマホで某大人気動画投稿サイトを眺めていた真珠から、ヴォワ・フォルテもかくやという奇声が放たれた。
怪訝な目で見つめる私たち。
口をあんぐり開けたままこちらにスマホを向ける真珠。
再生された動画内容を確認し、そういえばと納得する。
「ああ、それね。知らなかったの?トレスマジア、
「は?は?なに?なんで?なんで魔法少女がアイドルの真珠より先にデビューしてるわけ?は?へ?え?ズルくない?許せなくない...!?」
「んなのたりめぇじゃ~ん。自称アイドル。」
「人気も天と地の差だしなぁ。」
「コクリ。」
「少しは真珠を労りなさいよぉっ!?」
私も知ったのはついこないだの話。
前々から空き時間にはるかたちがダンス練習をしているのを目撃したり、やたら音楽の授業に熱心だったりと、今考えれば予兆はあった。
歌といえばはるかが目立っていたし(主に私のせいで)、面倒くさがりな薫子や引っ込み思案のうてなが一緒に参加しているのは意外だった。
魔法少女と言いつつ、世間からの人気っぷりはまさに"アイドル"。
CDデビューはむしろ自然な流れである。
というか、そう。
ベーゼが、
恥ずかしがりながら、ファンの期待に応えようと健気に歌い踊るうてな。
きゃわわ。マジ天使。
神推し。絶対ライブ行く。
「握手会とライブは勿論あるわよね...やはりCDに抽選券が付いている...?お小遣いの貯蔵は十分かしら...。」
「ベーゼのヤロ~...またアタシのさよちゃんをたぶらかしやがってぇ...!ゆ る さ ん っ!!」
「ズルいズルいズルい~っ!!真珠もCDデビューしたい~っ!!」
どうやら真珠はライバル(仮)に先を越されたのが気に食わないらしい。
ある意味年相応ではあるが、誰に対してか分からない駄々をこね始めた。
ついでになんかキウィも怒っている。
「決めたわ!!真珠もアイカツします!!」
「強制ゲリラライブしか出来ねぇお前が、どうやってアイドルするんだよ?」
「今や才能は自ら発信する時代よ!!SNSや動画サイトで真珠のアイドル姿を見せつけてやるわ!!」
一念発起したらしい真珠は燃える瞳でアイカツ宣言。
まあ確かに、今時事務所やらテレビやらを介さずとも人気者になれる時代だが。
そう簡単に行くとは思えない。
誰でも発信出来るからこそ際限なく、敷居はどこまでも高い。
何のノウハウもなく成功するとは思えない。
「じゃあ、
「は?」
「はいデビューしますっ!......え?」
こりすに大人しく抱かれていたヴェナが口を開く。
まるで私たちを勧誘した時のような語り口。
「出来るの!?デビュー!?真珠がっ!?」
「ああ。勿論さ。」
「デビューって、どうやってよ...?」
「知り合いが音楽業界にコネがあってね。ちょうど8月9日に新人アイドルグループだけの合同ライブがある。トレスマジアも出るらしいし、捩じ込んでみようか?」
「ほ、ホントにっ!?」
何だその知り合いって。
悪の組織のマスコットが何故音楽業界に人脈が必要なんだ。
相変わらずよく分からない方向で暗躍してるな、こいつ。
フォロワー20万人の出所も謎だし、徹頭徹尾信用出来ない。
「待ちなさい真珠。9日なんてもう二週間もないのよ?新人アイドルと言えどみんな真剣にレッスンを重ねて、見世物として完成させてライブに出るの。トレスマジアだってそう。そこに何の実績もない、練習も十分にしてないあなたが出てどうするの?同じ夢を持つ人たちに軽蔑されるのかもしれないのよ?」
「っ...それはっ...。」
真珠には悪いが、今焦るのは得策とは言えない。
十分ポテンシャルはあるのだ、時期を見計らっても悪いことはないだろう。
本気であればあるほど、さっきの言葉は響くはず。
これで諦めてくれれば...。
「あの、さ。コイツにとってこれは」
「おもしろそーじゃねぇか。アタシらにも一枚噛ませろよ~。」
「キウィ...?」
何かを言い出そうとしたネモを遮り、ニヤリと笑ったキウィが真珠の背中を押してしまう。
「協力してくれるのっ!?」
「トレスマジアが目立ってんのは癪だしなぁ~。ひと泡吹かせたろ~ぜ!!」
「キウィあんた...!初めてアンタのことイイヤツだと思ったわっ!」
すっかりヤル気満々のうちの暴走担当コンビ。
首領として二人を窘めなければと慌てる私に振り返り、キウィは更にこう話す。
「"実績"があればいいんだよね、さよちゃん。」
「え?あ、いやでも時間が!?」
「10日もあればよゆーよゆ~。アタシとこりすとヴェナちゃんがいれば即バズ間違いなし~。」
自信満々に胸を張るキウィ。
さらっと巻き込まれたこりすは、意外なことにそこそこ乗り気な表情をしている。
「投稿サイトを用いたプロモーションを行うということだね。必要な機材はボクの方で手配しよう。"スタジオ"は任せたよ、こりす。」
「コクリ。」
「...ま、待ってみんな!?たとえ奇跡的に話題になったとして、ライブはアイドル
「あ~。...んじゃ仕方ねぇ。トレスマジアに合わせてアタシらのうち二人が付き合うかぁ。」
「真珠をセンターにした『アイドルユニット』を誕生させるということね!?」
「それでいいよねさよちゃん~?」
「は!?いやそれはちょっと...!?」
あれよあれよと言う間に流れが完全に決まろうとしてる!?
しかも始めより悪化してるんですけど!?
"アタシら"って他に4人しかいないよね!?
2分の1で私がアイドルだよね!?
「先方には話を通しておくよ。こんなこともあろうかと楽曲も1つ用意済さ。」
「さっすがヴェナちゃ~ん。MVのネタ考えよーぜこりす~。」
「コクコク!」
「みんな、話を...!」
「小夜、悪ぃな。」
あたふたしまくる私の肩を叩くネモ。
私の心情は察してくれたようだが、彼女もどうやらあちら側のようだ。
「アタシも無茶だと思うぜ?だけどさ...アイツの、真珠のあんな顔見たらさ。何とかしてやりてぇって、どうしても思っちまうんだよな...。」
ネモの指差す先には、今までに見たことない笑顔を浮かべ、あれこれ思案する真珠の姿が。
確かに友人としては応援してあげたいが...。
「こうなったらマジの大マジ!真珠がスターになる時がついに来たのよぉっ!!」
「私の、平穏な夏休みがっ...。」
中学生の夏休みは短い。
下手したらそれを全て使うことになりかねないイベントの発生に、私の夏休み満喫計画は脆く崩れ去っていくのであった。
―――――――――――――――――――――――――――――
『あ~てすてす。こほん。明日の一番星はキミだ!第1回!トライエンゼル選抜オーディション~!!』
高らかに宣言する自称スーパーアイドル。
他全員がポカン顔なのも気にせず、真珠はマイク片手に意気揚々と説明を始める。
『アイドルと言えばまず歌よね!というわけで、カラオケで誰がユニットに相応しいか決めるわよっ!』
「じゃあまず真珠は不合格だな。」
「んだよやりたくねぇならそう言えよな~。」
「コクリ。」
『いい加減ぶっ飛ばすわよ!?』
傷心も癒えぬまま街のカラオケに連れて来られたかと思えば、歌唱力でオーディションとは。
まあダンスは評価し辛いし、一番重要な見た目は全員幼いとはいえ整っている。
歌唱力で決めるのは妥当ではある。
ただ、いい加減弄られないように立ち回る努力をしたらどうだろうか?
あれではもう誘い受けである。
「というか、"トライエンゼル"って何よ?いつの間にユニット名を決めたの?」
「あー...。それはその、さっきアタシがちゃちゃっとさ...///」
「"三人の天使"、ねぇ...。」
思いっきりトレスマジアを意識してる名前だ。
ネモにしては安直だが、マゼンタへの対抗意識がある真珠への配慮なのかもしれない。
『一応真珠も参加したげるけど、基本はアンタたちの選考なんだから!ほら、小夜から順番に曲入れなさいよね!』
「私から!?」
乱暴に渡されたデンモクとマイクに困惑する私。
よく考えたら転生前は小さい頃に行ったっきりで、水神小夜としては一度もカラオケには行っていない。
つまり、上手い下手以前の問題だ。
そもそも人前で歌った経験が無さすぎる。
「さよちゃん!アタシら準備は万全だからね!」
「コクコク!」
鉢巻き法被にうちわとペンライト。
いつの間にかフル装備に身を固めたキウィにこりす。
正直やめて欲しい。
私にそんな期待しないで、恥ずかしくて死んじゃうから...。
「っ...入れれば、いいんでしょう...///」
嫌々ながら知っている楽曲を検索し、お目当ての曲を見つける。
逆に考えろ。
下手ならアイドルデビューを避けられるし、初めてでめちゃくちゃ上手いなんていうアニメ展開はそうそう起きるものじゃない。
一回だけ。一回だけの恥だ...!
「水神小夜、歌います!」
「きゃー!さよちゃんしゅてきー!愛してるぅー!♥️」
「フリフリ!」
「組織的には真珠より人気だな。」
「っさいわね!?」
覚悟を決め、歌う曲を入力。
モニターにそのタイトルが表示される。
『セーラースターソング』
「知ってる?」
「なんか知ってるような、知らないような...。」
外野の感想に構っている場合じゃない。
全神経を集中し、歌うことに注力する。
『かなしみが いま セーラースマイル 奇跡をおこすの セーラーウィング だれだってかがやく星を持つ♪』
「「「「...。」」」」
『まけない! あしたへ セーラーエール ゼッタイ!つかまえる! セーラースター このちかい とどけ ぎんがまで~♪』
「うぉぉぉ!!かみいぃぃぃっ!!///」
「ブンブン!」
あれ...?意外と、反応良い...?
困惑しつつ、表示された歌詞を必死に歌い上げていく私。
転生前とほぼ同じ作品が存在するこの世界だが、"これ"は丸々原典通りだった。
前世のお母さんが大好きで、私もよく一緒に見ていたのを今でも覚えている。
転生後、赤ちゃん時点で割りと自我があった私。
年相応の幼児アニメはあまりにつまらなくて、娯楽については諦めていた数年間。
救ってくれたのは『セーラー○ーン』だった。
健全なヒロインで小さい女の子にも安心して見せられる反面、シリアスな作風が奥深い傑作。
こちらのお母さんも昔はよく見ていたらしく、神社繋がりでレイちゃんごっこをよくさせてもらっていた。
属性的には亜美ちゃんなんだけど...。
そんな思い出の作品の、一番大好きな曲。
初めてなのについ篭ってしまう。
愛が、魂が!
「めちゃくちゃ上手いじゃんか。」
「ま、まあまあね...っ。」
「が、がんどぅじだぁ...!尊過ぎて涙止まんねーよこりす~...!」
「パチパチパチ!」
「恥ずかしいから誉め殺しはやめてちょうだい...///」
まさかの高評価をもらってしまった。
これはまずい。非常にまずいぞ...。
真っ赤になる顔を隠しながら、隣に座っているキウィにデンモクとマイクを手渡す。
「次はキウィの番!頼むから私より上手く歌って...!」
「え~。ハードルたかな~い?」
気怠げにデンモクを操作するキウィ。
こうして一人ずつ、それぞれの歌唱力を披露することとなった。
『キミと私どんな風に恋するの 探るリレーション 余裕なんてないよ 見つめられるたび いつも震えてる 素直じゃない私をつれだして♪』
「お可愛いこと...///」
「なんかこう、キュンとすんな...。」
「キウィとは思えない程お淑やかな声ね...。」
「コクリ...。」
感情豊かに恋愛ソングを歌い上げたキウィ。
歌っている最中、視線はずっと私に向かっていた。
『スキ スキ スキ あなたがスキ だって運命感じたんだもの ドキ ドキ ドキ 胸が鳴るの 速いリズム刻んで♪』
「意外な程ストレートなアイドルソングね。」
「ほ~ん。うめぇじゃん。」
「コクコク。ズズッ。」
「普段こんなの歌わないじゃない...///」
少し頬を赤らめながらも、キュートにアイドルソングを歌い真珠をときめかせたネモ。
『(ドキドキってもっと phantasia 手を伸ばし つかもう きゅんとぎゅっと鼓動が こんなに苦しい ♪)』
「「「「コイツ直接脳内に...!?」」」」
可愛いらしい歌声ながらも、その発声方法が特殊過ぎたこりす。
みんなそれぞれ合格点以上の歌唱を披露した。
「最後は真珠の番ね!不動のセンターの実力を見せてあげるわぁぁあああああああああ!?///」
立ち上がりポーズを決める真珠のパンツを一気にずり下げるキウィ。
あまりの手際の良さに身の危険を感じ、思わず戦慄する。
「ななな何すんのよぉっ!?///」
「だってお前その方が上手く歌えんだろ~?」
脱がしたパンツを当たり前のようにネモに投げ渡し、ただ事実を口にする。
「やいへんた~い。」
「コロス...!」
指差し嘲笑にブチギレる真珠だったが、本人もそうする必要があると自覚しているのか、顔を真っ赤にしながらも結局歌い始める。
『このツインテールに 夢と願いを込めるんだ 靡く髪に 誓うように~♪///』
「相変わらず歌詞は変だけど声は泣けるくらいキレイだよなぁ~。」
「キウィ?この曲については変とか言ってはダメよ?真珠の曲じゃないから。」
「正確には真珠の髪型はツーサイドアップなんだけどな?」
「ズズッ。」
歌い終わると同時に拍手喝采、号泣不可避。
センターに相応しい素晴らしい歌声だった。
『ぁ、ぁりがとぉ~...///』
「よかったぞノーパン~!」
「やっぱセンターはノーパンの真珠か。」
「ノーパン痴女は確定でしょうね。こりすはとても可愛かったけど、別の方向で話題になっちゃうでしょうし。」
「コクリ。」
「こりすも"露出狂真珠は揺るがない"ってさ。後はやっぱ小夜とキウィかな。」
『全員コロス...!///』
案の定ではあるが、やはりメンバーに選ばれてしまいそうだ。
ネモの方がアイドルっぽかったし、代わってもらえないかと少しごねてみる。
「私よりネモが一緒の方が真珠も喜ぶんじゃない?ネモだって上手かったし、私人前で歌うの得意じゃないから...。」
「アタシも得意じゃないし、コイツと並んで歌うなんざガラじゃねぇ。裏方でいいんだよ。アタシは影で十分なんだ。」
「ネモ、あんた...。」
二人して寂しそうな顔をするたまネモ。
どうやら最初からメンバーになるつもりはなかったらしい。
後々露出関連で真珠のコンディションを保つ問題もあるし、やはりここは私が出るしかないか...。
「はぁ...仕方ないわね。たまには総帥として、可愛い部下の頼みを聞いてあげることにしましょう。」
「悪ぃな、アズールさま。」
「つまりさよちゃんがメジャーデビューってことぉ!?お触り会はいつですか!?」
「三人組なのに力関係が偏り過ぎてない?真珠がリーダーでセンターなんだからね?」
アイドルになる覚悟を決める。
本当は嫌だが、やる以上は妥協するわけにいかない。
目標は『打倒トレスマジア』。
アイドルとして、エノルミータとして。
精々悪を全うしてやるとしよう。
「必ずトレスマジアを越えましょう!」
「アタシらの方がクソかわだって分からせてやんよ~。」
「トップアイドルへの道を一直線に突っ走るのよ!今日から真珠たちがっ!」
「「「"トライエンゼル"だっ!」」」
―――――――――――――――――――――――――――――
そう意気込んだのが二日前。
今日はMV撮影当日で、夏休み初日。
本当なら気合いを入れて望むべきなのだろうが、私とキウィの足取りは重かった。
「ハァ...だりぃ...。」
「やっぱり一週間後にしましょうよ...。」
「何でグロッキー状態なのよ!?時間がないってアンタたちが言ったんでしょ!?」
一人だけ元気な真珠を横目に、机に突っ伏して溜め息を吐く。
同じくいつも通りのネモ、こりすも不思議そうにこちらを見ている。
「昨日、ベルゼルガとパンタノペスカの襲撃を受けたの...。」
「マジか!?大丈夫だったのかよ...?」
「よゆーよゆー...。アタシが真化してぶっ飛ばしたから~...。」
「真化!?どうやってよ!?」
「愛の力...。」
「アンタそればっかね...!?」
昨日あった事件について、端的に説明する。
うてなのことを言うとややこしくなりそうだし、そもそも詳しく話す気力もない。
「そんなわけで、私もキウィも疲れ切ってるの。やるなら早く済ませてちょうだい。」
「投げやりに真珠の夢を済ませようとしてんじゃないわよ!?」
「元気だな~...。」
「昨日はホラー映画観て泣きべそかいてただけだしな。」
「余計なこと言ってんじゃないわよ!///」
「ペラ...。」
そういえば、先程からこりすが読んでいるパンフレット。
こりすも昨日は映画を見たと言っていた。
ホラー映画のようだが、もしかして二人が引率してくれたのだろうか?
妹兼娘の世話を焼いてくれたと言うのならば仕方ない。
少し気持ちを切り替え、MVについて聞いてみる。
「それで、どうやって撮影するの?」
「アリスのドールハウスを使うのさ。」
相変わらず無表情のヴェナが答える。
それに合わせてこりすもネロアリスへの変身を完了した。
「さあ、トライエンゼル。そのままドールハウスの中へ入ってもらえるかい?」
「え?着替えないの?」
「衣装にしても機材にしても、既に用意して先に収納済さ。後は"こりすP"に任せてある。」
「こりすP...。」
「ビッ!」
自信満々のこりすが非常に可愛いが、本当に大丈夫だろうか?
「ヴェナちゃん!衣装って
「ああ、希望通りのモノを用意したよ。」
「やったぜこうしちゃいらんねぇっ!さよちゃんはよ入ろ~!」
急激にテンションが上がったキウィに手を引かれるが、彼女のこの喜び様に非常に嫌な予感がする。
『衣装』というのがどうも引っ掛かる。
「ちょっと待ちなさいキウィ。元気になったのはいいけど、私たち
「あっ、そっかぁ。じゃあ変身して」
「それもダメ。トレスマジアにバレたら全ておしまいになるわよ?」
「元からダメってこと~...?」
「真珠はやるわよ!学校のみんなにバレたって、絶対ライブに出るんだから!」
素のまま出れば知り合いのうてなたちにはバレるし、デビューの経緯を語るわけにもいかない。
エノルミータとして出るのはそもそも論外。
仮にも悪の組織だし。
つまり、水神小夜でもルシファアズールでもない"誰か"に変身する必要がある。
「二人とも焦らないの。
あるんでしょ?そういう便利道具が。」
「ああ。ボクとしたことが失念していたよ。すまないね、試作品だがこれで解決出来るはずさ。」
そう言って私たちに手渡される小さな星型のブローチ。
まさかこれ、トランスアイテム?
「トランスアイテムの認識阻害、衣装変更機能だけを抽出したモノだ。思い通りの衣装に着替えられる。今回はそれをドールハウスの中で使ってみて欲しい。」
「さっすが気が効くじゃない!行くわよアンタたち!」
「お~。」
「はぁ...本当に大丈夫なんでしょうね?」
ノリノリの二人に続いて、ドールハウスに吸い込まれていく私。
目眩のするような感覚。
落ち着いてから目を開くと、そこには驚くべき光景が広がっていた。
「スゲー!」
「本物みたい...!」
「これは、本格的ね...。」
立ち並ぶ見るからに高そうな撮影機材。
眩しい照明を反射する真っ白な床。
そして広い空間の一角が、周りとはまったく違う、ファンシーなセットとなっていた。
まるで子ども部屋を切り取って来たかのような意匠が可愛らしい。
誰がどう見たって、ここは完璧な"撮影スタジオ"だ。
『こりすP渾身のスタジオ。気に入ってもらえたかな?』
「サイコーじゃない!」
「ええ。ありがとう、こりす。」
「また何か買ってやっからな~。」
ドールハウス外で喜ぶこりすが目に浮かぶ。
またお礼をしなくては。
「次は衣装ね!」
『いつも通りに変身してくれればいい。今回はこりすの意識が姿に投影されるからね。』
「キタぁ!よし早くしよ~そうしよ~!」
「不安だわ...。」
何でそんなテンションなのか、何でそんな血走った目でこちらを見ているのか。
色々諦めつつ、三人揃って衣装チェンジを行ってみる。
『『『
輝きに包まれるのは同じだが、いつものように力が漲る感覚はない。
衣装が変わったことを感じ、お互いを見合う私たち。
「ぶっ!?///」
「なっ!?///」
「おほーっ!!///」
まず目に付くのがその"露出度"の高さ。
へそ出しで生足。
谷間も丸見えで、かなり刺激的な見た目をしている。
そして何より気になるのが二人に付いている
キウィは猫、真珠は犬だろうか。
それぞれ緑と赤の動物ビキニを着用しているようだ。
それ自体はまあ、可愛らしくはあるのだが...。
「ぷっ...小夜、あんたそれ...っ///」
「いいすっごくいいよさよちゃあぁん...///」
「っ...///」
私も耳と尻尾が付いているのは分かった。
触って見た感じ、小さい耳と"角"。
尻尾が妙に細いし、二人と違って水着部分に見知った斑点模様が見える。
これは、まず間違いなく。
「"牛"っ...!?///」
「あはは!何でアンタだけ牛なのよ!まあ理由は分からなくもないけどっ!」
顔を真っ赤にしながら足元の視界を遮る自らの胸を抑え踞る。
真珠やキウィも十分デカイのに、何で私だけっ...!
「この衣装...キウィ!あなたが選んだんだったわね!?///」
「そだよ~?カワイくてエロくてパーペキっしょ?///」
「あなたって人は...!///」
こんな格好でMVを撮るつもりなの!?
You○ubeが許してくれるわけないじゃない!
即アカバンよこんなものっ!
「まあまあさよちゃん。これにはちゃんとした狙いがあるんよ~。」
「狙い...?///」
「話題性を得るには奇抜さはやっぱ必要だし、恥ずかしい格好じゃなきゃコイツまともに歌えないしさ~。」
「よ、余計なお世話よ...///」
確かに、話題の作品や人気動画には性的アピールが含まれていることが非常に多い。
そういうのに厳しい世の中にはなったが、やはり需要はそういった部分に生まれやすい。
自分で言うのもなんだが、私を含め三人共中学生とは思えないスタイルだし。
"持ち味"を活かしてこそ、という意味合いが強いのだろう。
「動物ならギリカワイイ要素が強いしさぁ。ぜったいバズると思うんだよね~。」
「...あなたの考えは分かったわ。
で?本音は?」
「さよちゃんのちちしぼりてぇ~!///」
「やらせないわよっ!!///」
って言うか出ないし!
まったくもう本当にもうっ!
気を抜くとすぐそういう三枚目見たいな行動をするんだからっ!
「しばらくハグは禁止よっ!///」
「えぇぇぇっ!?そんなぁぁ~...(泣)」
ショックでへたり込むキウィ。
ちょっと心が痛むが、最近上手いことやられ過ぎている。
そろそろお灸を据えないと、エスカレートし過ぎて取り返しが付かなくなりそうだ。
「やっぱバカップルはアンタたちじゃない。いいからほら。さっさと撮影始めるわよ?」
「始めるってどうやって...?」
そう問おうとしたタイミングで、スタジオにアリスの操る人形たちが一斉に入って来た。
それぞれ持ち場が決まっているのか、カメラや照明の調節を開始している。
「本当にこりすPに丸投げなのね。」
「ヴェナちゃん曲はどんなん~?」
『それもまたこりすPに任せたまえよ。』
「待ちなさい!新曲ならこのスーパーアイドルに考えがあるわっ!」
ヴェナを遮り自らの新曲を発表しようとする真珠。
勿論、私たちの返答は決まっている。
「やだよクソだせーし。」
「恥に恥上塗るのだけはごめんだわ。」
「真珠のラブリーでキラキラな曲が理解出来ないの!?」
自称スーパーアイドルはこれでもまだ自分の才能を疑おうとは思わないらしい。
なかなか滑稽である。
「音楽性の違いだわ...!このグループは解散よっ!」
「音痴が音楽性語るとか片腹痛いんだが。」
「典型的な自惚れアイドルね。すぐにAV堕ちするのがお似合いよ。」
「アンタたち真珠にだけ辛辣過ぎないっ!?」
『ではやはりこりすPの出番だね。』
何故か誇らしげに話すヴェナ。
怪訝に思っていると、突然頭にメロディーと歌詞が浮かぶ。
同時に、段々と意識が朦朧としていく。
「なんか...」
「頭に、直接...」
「歌が、流れて...」
『不安だろうが抵抗しないで欲しい。
ネロアリスの能力でキミたちに"催眠"を施す。
アイドルらしい振る舞いを睡眠学習させるのさ。
これなら時間が無くても完璧なパフォーマンスが身に付くはずだ。』
それはまた、力ずくな手段ね...。
文句を言うことも出来なくなり、フラフラと体が勝手にセットへ向かう。
というか、この曲って...エンディングテーマの...。
『次目覚めた時には最高のMVが出来ているはずだよ。それじゃあおやすみ。トライエンゼル。』
―――――――――――――――――――――――――――――
「何見てはるん?」
「あ、うん。一昨日上がったばっかりの動画なんだけどね?」
夏休み三日目。
いよいよ今週末に迫ったライブの為、今日も必死に練習を重ねる私たち。
運動は苦手だし、ダンスも歌も恥ずかしい。
だけど、これもまた私の憧れた魔法少女。
はるかちゃんと薫子ちゃんの為にも、ちゃんと出来るようにしなきゃ。
そんな真剣な時間にも休憩は必要。
息抜きに見ていた動画について薫子ちゃんに聞かれ、画面を向ける。
『本当はもっとかわいくて もっと素敵な私でいたいけど ちゃんと自分なりのStory 歩いてゆこう For me ♪』
「なんや、アイドルか?」
「まだデビューしてないらしいんだけど、まったくの無名から三日で50万再生もされてる、すごいユニットなんだよ?」
ゆったりとしたリズムの曲に、いじらしい歌詞。
それらによく合う美少女たちが、部屋で寛いだり、時には抱き合ったりして。
絶妙なバランスのMVで、何回もリピートしてしまうくらい癖になっている。
「しかしすごい格好やねぇ。同い年くらいやろ?」
「でもネコミミとか尻尾はカワイイよね!」
「う、うん。アイドルにはあんまり興味なかったんだけど、この子たちはちょっと気になっちゃって...。」
いつの間にか覗いていたはるかちゃんの感想に頷く。
イヌミミの子はすごく声がキレイだし、このネコミミの子は仕草がすごく可愛い。
そして何より、この青い髪がキレイな女の子。
見る度に、何故か胸がドキドキして...。
「...この牛耳、どことなく小夜に似てはるなぁ?」
「へ!?///」
「確かに!スタイルとか髪色とかそっくりだね!だから気になってるんだ~?」
「これはある意味浮気やで~?」
「えぇ!?そ、そんなぁ...!///」
弁解したいけど、この子がどうしても気になるのは事実。
でも違うの!浮気じゃないよ!?
誓ってそんなんじゃないからね!?
「活動を続けてたら、いつか一緒にお仕事出来るかもしれないね!」
「トライエンゼルか。
いいライバルになれそうやね。」
「えへへ...一緒に、お仕事...。」
それはちょっと楽しみ。
サインとか貰えるといいなぁ。
「気合いも入ったことやし。」
「練習再開だね!」
「...うん、頑張ろうね。」
そんな密かな楽しみを胸に抱きながら。
私らしくない熱血な一週間は、あっという間に過ぎ去っていくのであった。
―――――――――――――――――――――――――――――
そんなわけで、気付けば一瞬で真珠たちのライブの日はやって来た。
アタシは完全に外野だし、「夏休みの一週間早過ぎんだろ。」くらいの感想しかないが。
アイツらにとっちゃ、まさに地獄の一週間だったに違いない。
『ワンツー!ワンツー!』
『ハァっ...ハァっ...!』
ドールハウスでの猛特訓。
こりすP、もといアリス"トレーナー"の指導の元、トライエンゼルは文字通り朝から晩まで練習を続けた。
催眠により効率良くダンスと歌をモノにしていく真珠たち。
だが、体力だけはどうにもならない。
頭と体が動きや音を覚える程に、彼女たちの精神は磨り減っていく。
こりすだって同じだ。
長時間の魔法の行使は彼女にも大きな負担で、やむを得ずレッスンを中止する場面もあった。
そんな地獄の日々で彼女たちを支えたのは、まだ見ぬファンたちからの激励だった。
『50万再生やた~!』
『これ、本当に私たちが...?』
『こんなにたくさんの人が、真珠たちの歌を...っ。』
端的に言って、トライエンゼルの1stシングル(予定)『とげとげサディスティック』はバズった。
まったくの無名でありながら、そのキュートでセクシーな容姿、そして何より真珠の歌声が業界の話題をさらったのだ。
開設したばかりの公式SNSアカウントも、今やフォロワー10万人越え。
ライブ参加の告知や、練習風景の投稿には大量のリプライが溢れ、RT数も他の有名グループ並みに稼いでしまう程に、彼女たちは人気を獲得していた。
毎日届くファンからの声援が、トライエンゼルとアリスTの支えとなったのだ。
最初は嫌々だった小夜ですら、やる気満々で練習に向かっていく。
...アタシは水渡すくらいしかしてないけど。
そして、今日。
数多の期待を背に、トライエンゼルは初ライブへ挑む。
ヴェナがくっついてるわけにもいかないので、名目上アタシとこりすが"プロデューサー"として真珠たちに同行することになったんだけどさ...。
「真珠のヤツどこ行ったんだよ...。」
それっぽいと着させられたスーツのネクタイを弛めながら、控え室を出てあてもなく舞台裏を捜し歩く。
会場入りして速攻でこりすと爆睡し始めた
小夜はトイレに行くと言って20分帰って来ないし、真珠は無言でいつの間にかいなくなってるし。
「しゃーねぇなぁ...。」
ビビりなくせに見栄っ張りで。
ホントに昔から成長しねぇヤツ。
ゲリラライブは平気でこなしてたくせに、テレビ中継があると分かった途端にこれかよ。
「...お。いたいた。」
「!...何よ。」
「何よじゃねーっての。」
口調とは裏腹に沈んだ表情で座り込んでいる真珠を見つける。
MVとは違う、かなりセクシー寄りのピッチリとした衣装。
ミニスカートがミニ過ぎてすぐ中身が見えそうだ。
髪型も普段と違って、かなり大人っぽく見える。
まあ、この衣装も真珠の羞恥を煽って実力を引き出そうという作戦なんだが...。
溜め息を吐きつつ、隣に座ってその顔色を間近で窺う。
せっかく化粧して普段より明るく映えるようにしてんのに、表情が暗すぎて台無しだ。
「何ショボくれてんだよ?」
「ショボくれてないっ!」
「じゃあビビってんのか?」
「ビビってないっ!」
「ならなんでそんな顔してんだよ?」
「そんな顔って...どんな顔よ...。」
俯く真珠に、思わず苦笑いを浮かべる。
ホントにコイツは変わらないな。
「ガキの頃と同じ、みんなにバカにされた時の顔だよ。」
「バカにされたことなんて...ないし...!」
「まだ始まってもないのに、何でもう諦めてんだ。」
「諦めるわけないでしょ!?さっきから分かったようなこと言わないでっ!」
「分かるさ。」
泣きながら見栄を張る、バカで可愛い幼なじみの頭に手を置く。
ハッとした表情のそいつに、らしくない言葉を紡ぐ。
「アタシがここにいんのは、全部真珠の為なんだぜ?お前の為に生きてきたアタシに、お前の気持ちが分かんねーわけねぇだろ。」
「っ...!?///」
我ながら本当にらしくない発言だと思う。
ちょっと前までは悪口しか出なかったのに。
むかつくことに、バカップルが板に付いてきてしまったようだ。
アイツらのせいに違いない。
「な、ななな!?アンタ何言って...!///」
「こっ恥ずかしいこと言ってんのは自覚してる...。だけどさ、きっと真珠にも分かんだろ?アタシが、お前にそんな顔して欲しくないって気持ちがさ...///」
「......うっさいのよ、ばかネモ...///」
観念したように、真珠はアタシを見て少しずつその胸の内を吐露していく。
「...動画、バズったでしょ?それで、漸く真珠の時代が来たって...アイドルになれたと思ってた...。」
「間違っちゃいねーだろ、それ。」
「...でも、いざ会場に来たら...何て言うか...みんな、すごく真剣で...真珠がナンバーワンだって...そう、思ってたのに...。」
「自信が無くなったってことか...。」
小夜の危惧は見事に的中したんだな。
誰よりも真剣に夢を追っているつもりが、実はそうじゃなかったと理解してしまった。
真珠と同じ年齢でデビューしている子もたくさんいる。
そんな本物のアイドルに囲まれて、ただでさえ緊張しいな真珠は萎縮してしまったらしい。
「なぁ、真珠。アイドルはお前の夢だよな?」
「当たり前のこと聞くんじゃないわよ...。」
「今も、なりたいか?」
「なりたいわよ...じゃなきゃ、こんなに...。」
「ああ、そうだ。子どもの時からアイドルになりたくて、どんなにバカにされても諦めなかった。アタシがそれを知ってる。阿古屋真珠は、世界で一番アイドルを夢見てる女子だってことをな。」
「ネモ...?」
「お前は一人じゃねぇ。アタシがいる。小夜がいるし、キウィもこりすもいる。みんな真珠の夢を信じてんだ。」
本当にガラじゃない。
それでも、コイツを支える為にアタシはここにいる。
真珠の為に全て捧げるっていうなら、死ぬほど恥ずかしいことでもやってのけてやる。
「アタシにとって、一番のアイドルはお前だ。アタシの"推し"が、あんな有象無象に負けるわけがねぇ。いつだって最前列で、サイリウムでも何でも振ってやる。ずっと、見ててやるから。だから...笑ってくれよ、真珠...///」
「っ...!?///」
真っ赤になった顔を見せないように抱き寄せ、髪型を崩さないように撫でる。
笑顔見せろって言ったのに、これじゃ何も見えないし。
慣れないことはするもんじゃねーなぁ。
「...なにカッコつけてのよ、ばか...///」
「うっせぇ...お前のせいだろばか...///」
「......ありがと、ネモ...。」
らしくない言葉が聞こえた気がして、抱き締めるのをやめて正面から見つめ合う。
そこにはいつもの。ではなく。
それ以上に輝く、星のような笑顔が灯っていた。
「そんなに見たいなら見せたげるわよ!最前列で!
このスーパーアイドル!
阿古屋真珠のステージをねっ!」
―――――――――――――――――――――――――――――
「あぁ...緊張する...。」
前世と今世、ついでに来世も含めて、これ以上に緊張することなどないのではないか。
緊張し過ぎるとお腹が痛くなるって本当なんだな。
ステージ衣装なのに20分以上トイレの民になってしまった。
これ、着るのも脱ぐのも地味に大変なんだよね...。
「早く戻らないと...。そろそろ出番が」
「あ、あの...!」
トイレから出て控え室に戻る途中、聞き覚えのある声に呼び止められて振り返る。
『う、うてな...!?』
私と違い、お馴染みの魔法少女衣装に身を包んだマジアベーゼこと、柊うてな。
ライブに出ることは知っていたし、いるのも当たり前なのだが。
まさか呼び止められるなんて。
正体がバレたのかしら...?
「あの...み、"水月あくあ"さん、ですよね...?」
「へ?...え、ええ。そう...ですけど?」
『
この何とも言えない名前は、アイドル活動をする上での私の芸名だ。
真珠は『
キウィは『
なかなかのキラキラネームだと思う。
ひらがながいい味出してるよね。
私をその名前で呼ぶということは、正体に気付いたわけではないらしい。
「その...ふぁ...ファン、ですっ!サイン、頂けますかっ...!?///」
「え...?」
差し出された色紙と頭を下げるベーゼを交互に見て困惑する。
ファン...?うてなが、私の...?
「...だ、ダメ...ですか...?」
「へ!?い、いえ!大丈夫よ!?喜んでっ!」
悲しそうな顔を一秒でも見ていられず、色紙を引ったくって即興でサインをする。
「あ、ありがとうございますっ...!えへへ...///」
『まただらしない顔しちゃって...。』
アイドルにも興味を持つなんて、本当に気が多いんだから。
「あのマジアベーゼさんがファンだなんて、光栄だわ。」
「そ、そんな...光栄なんて...///」
「参考までに、私のどこが好きなのか聞いてもいいかしら?」
「へぇ!?///」
ちょっと遊んでみるのもいいだろう。
真っ赤になるベーゼを壁際に追い詰め、至近距離で質問をしてみる。
これでおっぱいだとか言い出したら、久しぶりにお仕置きをしてやらねば。
「あ、あの...失礼かも、なんですけど...///」
「どうぞ?」
「...私の好きな人に、ちょっと似てて..歌ってる姿とか、笑顔が素敵で...見てると幸せな気持ちになる、から...///」
「...!?!?///」
か、カウンターだこれぇぇ!?
カァァ!と漫画みたいに一瞬で沸騰する頭。
それって
「そ、そそそうなのね...!?ありがとう嬉しいわ...!?///」
「あくあさん...?」
落ち着け!クールになるのよ小夜!
これ以上取り乱したら勢いで変身が解けてしまう!
必死に尊死しそうな思考を押さえつけ、どうにか表面上のクールを取り戻す私。
「...今日のステージ、お互い頑張りましょうね。」
「ぁ...はい!よろしく、お願いしましゅっ!」
爽やかに握手を交わす私たち。
"しゅ"、だって。
可愛いかよ。
鼻血出そう。
「あ、れ...?」
「さ、さあ!もう行きましょう。私たちの番が来てしまうわよっ?」
「は、はい...。...?」
不思議そうに手を握っては閉じるベーゼを促して、私は本番のステージに向かう。
推しを供給出来て、元気百倍!
もう何も怖くないわ...!
―――――――――――――――――――――――――――――
『続いては最注目のこのグループ~。絶大な人気を誇る正義のヒロインのご登場ですぅ~。』
MCさんのアナウンスを契機に、ドーム会場はより熱気を上げ、割れんばかりの歓声で満ち溢れる。
アタシらが想定した以上に観客の目的は集中していたらしい。
バンッ!という破裂音と共に、ステージ下部から一気に飛び上がる三色の光。
『みんな!こーんにーちわー!!トレスマジアでーす!!』
『今日は見に来てくれて、ホンマおおきになー!!』
『精一杯歌いますっ!よろしくおねがいしまーす!!』
《うぉぉぉぉ!!!!》
トレスマジアが呼び掛ければ、直ぐ様熱いレスポンスが返ってくる。
まるで自分たちだけの空間、ライブ。
完全に場を支配した三人のステージは、まさに圧巻の一言だった。
「すごいクオリティね...!」
「昨日今日付け焼き刃したレッスン量じゃねぇ...。アズールちゃんにあんなことやこんなことをされた後も、欠かさず練習してたってことかよ...!」
「っ...。」
素直に感心しているのは小夜だけで、真珠もそしてキウィでさえも圧倒されてる。
キウィは負けん気で本番は大丈夫だろうが、問題は真珠だ。
せっかく立ち直ったってのに、あっという間に逆戻りじゃねーか。
「すみませぇ~ん。トライエンゼルのみなさぁ~ん。」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
どう声を掛けたもんかと考えていると、先程のMCの女性がカメラを伴って真珠たちに近付いて来た。
「改めましてぇ。私は"天花寺ホリィ"と言いますぅ。」
「よ、よろしくお願いしまふっ!!」
天花寺ホリィ。
確か音楽番組の司会も務める人気芸能人だったか。
真珠はその番組よく見てるらしいし、本物に会えて余計に緊張してんだろうな。
「ライブ直前インタビューですぅ。意気込みをお一人ずつどうぞぉ。」
「意気込み!?あ、あの...えと...っ!?」
「ひすいで~す。アタシが世界で一番カワイイって分からせっから~。目ぇ離さない感じでよろよろ~。」
「あ、あくあ、です...!恥をかかないよう、精一杯がんばりますっ!///」
自信家のキウィに、根が真面目で謙虚な小夜。
二人の持ち味がよく見えるいい返しだ。
「ぱあるさんはぁ、いかがですかぁ?」
「あ、あの...その...///」
モジモジとしてまったく以てらしくない真珠。
しゃーねぇなぁ...。
『緊張してますが、一生懸命歌います。今日でぱあるたちを好きになってくれたら嬉しいです。』
「き、緊張してますけど...一生懸命、歌います...。ぱあるたちを好きになってくれたら、嬉しいです...。」
「はぁい。ありがとうございますぅ。初々しい反応が可愛らしいですねぇ。」
テレパシーで助け船を出し、何とかインタビューを乗り越えさせる。
ホリィさんが離れていくのを確認し、またショボくれる真珠に話し掛ける。
「おい、ぱある。何また落ち込んでんだよ。」
「うっさい...落ち込んでないわよ...。」
さっきの元気はどこへ行ったのやら。
トレスマジアの番ももうすぐ終わりそうだし、迷っている時間はない。
「あくあ。お前の言ってた作戦、やっぱやっていいよな?」
「ええ。トレスマジアは想像以上のクオリティだった。こちらも全力で挑まなくては、デビューした意味がないわ。」
総帥サマに許可も取って、周囲にバレないようトランスアイテムを構える。
「ネモ...?」
『
ルベルに変身し、すぐに真珠の影へと潜り込む。
「あんた、何して...?」
『"最前列"で見せてくれんだろ?お前の、スーパーアイドルの最高なライブをよ。』
「!」
さっきと代わり映えしねぇ台詞しか出ねーけど、今はこれがアタシの精一杯。
不安だろうが緊張しようが、いつだってアタシは真珠と一緒だ。
『側にいてやる。ずっとうるさく応援して、お前を肯定してやるから。だから、やれ。アイドルになれ、真珠!』
「...アンタ、どんだけ真珠が好きなのよ...///」
そう憎まれ口を叩く表情は晴れやかで、もう心配することはないってすぐに分かった。
「行くわよあくあ!ひすい!トライエンゼルの初陣!伝説の幕開けよ!」
「ええ!」
「お~!」
舞台袖を通り、リフトでスタンバイを完了するトライエンゼル。
高鳴る真珠の鼓動を感じながら、その時を待つ。
『続いてはこちらも注目株ぅ。今最も熱い新進気鋭のセクシーアイドルユニットぉ~。』
トレスマジアと同等の歓声を全身に浴びながら、リフトから飛び上がる天使たち。
『みなさん!』
『こんちゃ~。』
『はじめましてーっ!!』
《うぉぉぉぉ!!!!》
周囲を埋め尽くす人の山が、一斉に躍動し真珠たちに声援を送る。
スゲー迫力。
これはどうやっても緊張すんな...。
『水月あくあ!』
『愛緑ひすい~。』
『歌星ぱある!三人揃って!』
『『『トライエンゼル!』』』
と、思っていたんだけど。
全員見事名乗りを上げ、まったく緊張した様子がなかった。
むしろとても嬉しそうで、楽しそうに見えた。
『先に言っておくことがあります!』
《なーにー?》
『今日はとげとげサディスティックは歌わないよ~。』
《えぇー!?》
『ぱあるが作詞した、"新曲"を歌います!』
《おぉー!!》
そう。
無謀なことに、今回はあのバズった曲ではなく。
新曲、しかも"真珠が作詞したモノ"を歌うことにしたのだ。
時間のない中での新曲、しかもあの真珠の歌詞。
普通ならあり得ない選択肢だが、小夜もキウィも納得してこの無茶に乗った。
それくらいの奇跡の産物が、今から歌われる曲なのだ。
ちなみに作曲はヴェナらしい。
マジで何者だよあのマスコット。
『ぱあるは、ずっとアイドルになるのが夢でした!でも、一人じゃ何も出来なくて...。
今こうしてステージに立てているのは、支えてくれる大切な人たちのおかげです!その人たちに感謝を伝える為の、トライエンゼルの始まりの曲です!聴いてくださいっ!』
『『『シャイニー!オンリー!ユア☆スター!』』』
アップテンポのイントロと共に、三人のダンスがスタートする。
乱れのない、鋭く繊細な動き。
緊張から来るぎこちなさはまったくなかった。
『太陽と月が 代わりばんこで 照らす世界♪』
『夢見る私は 憧れて 見上げるばかりで♪』
『支えてくれる 手の温かさを 知らなかった♪』
それぞれのパートを淀みなく歌い上げる三人。
知らない曲で最初は乗り切れなかった客も、段々とテンションを上げていく。
『それでも♪』『あなたは♪』
『側にいて♪』
『君は星だと 言ってくれたね♪』
捻りも工夫もない、ただストレートな歌詞。
だがだからこそ響くものがある。
歌が進むにつれて紅潮する真珠の頬。
アタシの視線を感じて興奮してるんだろう。
『願いを♪』『聞かせて♪』
『決めたよ♪』『行くよ♪』
『あなたの魔法が♪』
『私を変える♪』
『叶える時が来たの♪』
サビ直前、最高のコンディションとなる真珠の声。
いいぜ真珠!全部見てやる!恥ずかしいとこも、可愛いとこも全部!全部アタシが見つめてやるから!
だから、見せつけてやれ!
これがアイドル!阿古屋真珠だってな!!
『『『輝いてシャイニースター! 影さえも照らす ヒカリで♪』』』
『あなたへと♪』
『降り注ぐ♪』
『流れ星のキセキ♪』
『さあ祈って♪』
『そう願って♪』
『見つめる瞳が 私を映す♪』
『『『飛び立っていくよ 今はまだ小さな羽を♪』』』
『はばたかせ♪』
『進むのは♪』
『他でもない♪』
『ただひとり♪』
『あなただけの 一番星に なりたいから♪』
―――――――――――――――――――――――――――――
「ハァっ...ハァっ...!」
《ワアァァァァァーーーっっっ!!!》
全てを出し切って歌った真珠たちに、会場が震えるくらいの歓声が浴びせられる。
放心状態って言うのかしら...。
真珠たちはただお互いを見ながら息を整え、しばらくして漸く言うべき言葉を思い出す。
『みんなー!ありがとぉーー!!!』
再び盛り上がるお客さんたちに手を振り返し、今日の感謝を伝える。
これが、アイドル。
真珠の憧れた、夢の舞台っ!
「やった...やったわネモ...っ」
『...ああ。今日からお前は、本物のアイド』
『グルアアアァァァァァ!!!!』
今度は本当に
地響きでバランスを崩し、尻餅を付く。
意味が分からず正面を見ると、視界全部が"真っ黒な巨大な何か"に遮られる。
「なに...これ...?」
『えノるメぇぇぇぇ!!!!!』
咆哮を上げるその姿は、まるで『人狼』。
ステージと同じくらいの高さで、毛の一本一本から禍々しいモノを感じる。
わけが分からない。
真珠はライブをしてたはずなのに。
真珠は、アイドルになれたはずなのに。
何で急にこんな...怪物が出てくるわけ?
しかも、"エノルメ"...?
「逃げてぱあるちゃん...!」
隣を走り抜けるマゼンタ。
槍を構えてそのまま怪物に突撃する。
『グルル...。』
「こいつ、この前の...!?あぐぅっ!?」
「マゼンタぁ!?」
突きを受けても微動だにしない怪物は、埃を払うみたいにマゼンタを弾き飛ばす。
悲鳴を上げながらドーム壁面に叩きつけられるマゼンタに、サルファが駆け寄る。
怪物はトドメを刺そうとしたのか、一度の跳躍で彼女たちに肉薄。
その鋭い爪を振りかざす。
「クソっ...!!」
甲高い音を立て、サルファシールドと怪物の爪がぶつかり合う。
その音が引き金になった。
ライブを楽しんでいたお客さんたちは突如現れた恐怖に気付き、叫び声を上げながら我先にと出口へ走り出す。
「落ち着いて...!みなさん落ち着いて避難をっ!」
必死に呼び掛けるベーゼの声も届かず、お互いを押し退け逃げようとする人々。
『きゃああぁぁぁっ!?』
けど、それも少しの間だけ。
出口に飛び出したお客さんの悲鳴で、状況が
『ガルルル...!!』
咄嗟に向けられたライブ用カメラに映る、見渡す限りの獣、獣、獣。
ドーム内の怪物とは違い、一体一体は大したことない魔物。
問題なのはその数。
ドームを取り囲むように群がるその魔物たちは、完全に出口を塞いでしまっていた。
「これじゃお客さんが逃げられない...!?」
「どうなってるんや...!?」
『グガアァァァ!!』
まるで怒りをぶつけるように、執拗にサルファへ爪を突き立てようとする怪物。
その余波で瓦礫が飛び散り、観客席へと降りかかる。
被害を防ぐ為、サルファはシールドを会場全体へ広げる。
『マジあ...サルふァ...!!』
「っ!?うちの名前を...!喋る魔物なんてそう何体もいてたまるか...!この前のお礼参り言うことやな...!?」
「あの時の魔物が、生きてた...!?」
あの怪物はトレスマジアと因縁があるらしい。
サルファとベーゼは応戦しようとするが、二人共観客席の護衛と、出口から入り込もうとする魔物の処理でとても戦える状態じゃない。
『大変なことになってしまいましたぁ。会場に
「なっ!?」
"エノルミータの魔物"。
ふざけんじゃないわよ...誰がこんなことするってのよっ!
そう怒りたくても、何も知らない側からしたら当然の判断。
エノルミータは悪の組織。
唇を噛み締め、必死に屈辱に耐える。
『真珠...クソみたいな判断だけどよ...絶対に変身はするな。』
「っ!?あんた...!」
『アタシはお前にアイドルになって欲しい!夢を叶えて欲しいんだ!ここで変身しちまったら、今日までのお前の努力が全部無駄になっちまう!きっと汚される、謂われのないひでぇこと言われて、傷ついちまう!そんなのは嫌なんだよ...!』
「ルベル...。」
横を見れば小夜も、キウィも。
飛び出したい気持ちを必死に抑えてくれているのが分かる。
きっと、真珠の為だ。
漸く叶った真珠の夢を守る為、戦うことを躊躇ってくれている。
「なんで、こんなっ...。」
「いっぱい、練習したのにっ...。」
「...?」
振り返れば、ただ呆然と惨事を眺めているアイドルの子たちが目に入る。
全力でステージを終え、楽しい思い出になるはずだったこの合同ライブ。
まだ歌えていない子たちだってたくさんいる。
この日の為に、ただ一度のチャンスの為に。
死にそうになる程の努力を重ねて、泣いて、笑って。
そうやってここまで来たのに。
あんな、あんな怪物のせいで、全て台無し?瓦礫の山?
そんなの、許せない。
許せるわけがない。
だってアイドルは、真珠の。
真珠たちの夢だから。
「ナメんじゃないわよ...。」
『真珠...?』
拳を握り締め、暴れ続ける怪物を睨み付ける。
『聞きなさいアンタたち!
このくらいで夢は終わらない!終わらせない!
何度だってステージに帰って来るわ!
そしていつか、必ず最高のアイドルになってみせる!
その為にまず、ぱあるたちの夢を汚したこのケダモノをぶっ飛ばすわっ!!』
会場にいる観客、司会者、出演者、仲間たちに叫び宣言する。
「あなたがそう望むのなら...!」
「アガる啖呵で気に入った...!」
『来なさい!!ヴェナリータアァァァ!!!』
覚悟を決めた真珠たちに、空から星型トランスアイテムが投げ渡される。
「そう来ると思ったよ。
行け、トライエンゼル。」
『『『
三人同時変身。
巨大モニターに映し出される、エノルミータとなったロコたち。
『なななんとぉ~。トライエンゼルの正体は、悪の組織エノルミータでしたぁ~。』
「ウソやろ...!?」
「ロコ、ちゃん...?」
「え。...えぇっ!?///」
騒然とする会場。
次第に聞こえてくる批判の声。
胸がチクチクするけど、今は構ってる場合じゃない!
変身直後に出口を凍結して魔物の侵入を阻んだ総帥さまに指示を仰ぐ。
「アズール!いつも通り作戦よこしなさいっ!」
「アリス、ベーゼ、マゼンタはそれぞれ出口を警戒!氷は完全じゃないわ!侵入する魔物から観客を守りなさい!」
「う、うん!」
「コクリ!」
「まかせてっ!」
「サルファはそのままシールド!怪物はあなたにお熱みたいよ!歯を食いしばりなさい!」
「ウチらにまで指示出しすんなやっ!?」
「うっせばーか!そのままかかしやってろばーか!」
「絶対後でいてこましたるっ...!」
「レオは私と怪物の相手を!仕組みは分からないけど、アイツさえ倒せば外のヤツらも離れていくと見たわっ!」
「アズールちゃんとの共同作業キタコレ!」
流れるように全員に指示を出すアズール。
流石真珠たちのリーダー!
『って、アタシらは!?』
「戦力外扱いじゃないでしょうね!?」
「ロコルべ!
「いいわねそれっ!やっぱりセンターはロコなんだからっ!!」
「行くわよレオっ!」
「おっけー!」
『『
アズールたちが姿を変えると同時に、それぞれの持ち場に着くヒロインたち。
『エノルメぇぇ!!!』
「んだこいつロードのファンかぁっ!?」
「残念だけど人違いよっ!」
サルファから真化した二人に狙いを変える怪物。
相変わらずロードの名前を呼んでるみたいだけど、一体どんな関係よ?
『スゲーな、アイツら...。』
「あれが、真化...。」
赤黒く鋭く変化した爪を弾き捌いて攻撃を受け流すアズールとレオ。
二人とも露出強のくせにめちゃ強いじゃない。
これならすぐに隙を作ってくれそうだ。
ロコのユニットメンバーなんだから、これくらい当然よね。
「いいなぁ...ロコも真化したぁ~い...。」
『羨ましがってる場合かよ...。で?どうやって切り札になるつもりだよ?』
「そこはロコに考えがあるわ!」
『考え?ロコに...?』
「
『バカじゃんか。』
「ぁんですってぇ!?」
ロコのこの完璧なプランを理解出来ないわけ!?
それでもロコのファン一号!?
『どうやって撃つんだよそんなもん。第一、出来たとしてここでやったら大惨事だぞ?』
「それはあのバカップルに任せればいいのよ。浮かせれば空に向かって撃てるでしょ?」
『ロコのくせに割りと考えてんのな。』
「アンタ一回ぶん殴るわよ...!?」
それに、すっごいのを撃つ方法も一応考えてある。
...出来ればやりたくないというか、恥ずかしいけれど。
「...ルベル、あんた。ちゃんとそこで、見てなさいよね。」
『は?当たり前だろ。見たくなくても丸見えで』
「そいっ...!///」
『何してんだお前ェェ!?///』
しっかりとロコを見つめるルベルの視線を感じながら、自分で
これで、もう何も隠せない。
ロコの恥ずかしいとこ、全部ネモに見られちゃってるぅ...!
「気持ち、いい...///」
『ロコおまえっ...///』
羞恥心と裏腹に膨らむ幸福感と快感。
ルベルに見られてる。
それだけでロコの魔力は何倍にも強くなって、しかもルベルの魔力まで増えていくのが分かる。
「アンタが見ていてくれるなら、ロコは...///」
『...ああ、見てる。ずっと側にいる。だから、決めてやれ...!響かせろ!お前の音をっ!///』
「来るわよレオっ!変態激重バカップルの超合体必殺技がっ!」
「りょーかいアズールちゃん!なんかスゲー喰らいたくないねそれ!」
魔力を最大まで高めたと同時に、レオが怪物をビームでかち上げ、アズールが瞬間的に空中に凍りつかせる。
チャンスは今しかないっ!
『ロコたちの歌を聴けぇぇぇ!!』
『『"フォルティシモ・カノン"ッッ!!!』』
極大の音の波となり怪物を呑み込んでいく、ロコとルベルの全力魔法。
確実に怪物を捉えた一撃は、空高くロコたちの音を響かせていく。
その黒い外皮を剥がし、消し飛ばし。
吹っ飛んでいくその体の中に。
「みっちゃ...」
一人の"女の子"の姿が、見えた気がした。
―――――――――――――――――――――――――――――
「思い出しただけで疲れてくるわ...。」
「ふふっ。お疲れさま、小夜ちゃん。」
めちゃめちゃになったライブから二日後。
うてなから呼び出され、カフェの端っこで事情を説明することになった私。
一日休んだとはいえ、ハード過ぎた一週間余りの疲労は、中学生であっても簡単に取れるものではないらしい。
「でも、残念だったね。あんなに人気だったのに。」
「あの状況じゃ仕方ないわ。後から真珠がわんわん泣いて、宥めるの超大変だったけど。」
「あはは...。」
怪物を撃破し、直ぐ様ゲートから逃げ帰った私たちエノルミータ。
正体を明かすことになったトライエンゼルは当たり前のように炎上。
SNSを始め、各種アカウントは閉鎖せざるを得なくなり。
150万再生を達成したMVも、やむを得ず削除。
トライエンゼルは、文字通りデビューと同時に解散することとなった。
「でも、小夜ちゃんたちが帰る時。
お客さんたちから『ありがとう』って、そう言ってるのが聞こえたから。
会場にいた人たちには、きっと真珠ちゃんたちが本気だったって伝わってると思う。」
「そうね...。最後にこんなメッセージが来たのよ。」
スマホを操作し、真珠が立ち直った理由のDMを表示させる。
記念にスクショしておいたのだ。
『ぱあるちゃん!可愛くて、セクシーで、とってもキレイな歌声で!本当にステキなライブでした!みんなを鼓舞した言葉も最高にカッコよかったです!色んなアイドルがいるけど、私のナンバーワンはずっとぱあるちゃんです!また別の形でデビューしてくれる日を、楽しみに待っています!』
「真珠ちゃん、すごく喜んでた?」
「ええ。喜び過ぎてまた泣いてたわ。」
一頻り泣いて、『真珠のアイドル道は始まったばかりよ!』などと打ち切りみたいな立ち直り方をしていた真珠。
仲間として、友人として、元グループメンバーとして。
彼女の夢が、いつか叶うことを祈る。
「そういえば、あの怪物のことだけど...。」
「...あれ、サルファが倒したはずの魔物よね。」
「小夜ちゃんも気付いてたんだ。」
「確信したのはドームを囲んでいた魔物たちが、あれを倒した途端に離れていくのを見た時だけどね。」
サルファが真化した日。
魔物が異常な数発生していたことを思い出した。
仮に、あれが"全ての元凶"だとしたら。
「最近魔物が増えてたのって、もしかしてあれのせい...?」
「可能性はあるわ。そもそも魔物には謎が多過ぎる。はっきりとしたことは言えないの。」
「...倒せたん、だよね?」
「...分からない。」
サルファの時も手応えはあった。
だが奴は自らを進化させ、私たちの前に現れた。
今回は違うと断言することは出来ない。
それに、懸念事項が二つある。
「...小夜ちゃん、何か隠してる?」
「...あくまでも一情報として聞いてもらえる?」
「うん。約束する。」
うてなには伝えておくべきだろう。
トレスマジアもエノルミータも区別なく奴の獲物のようだし。
「まず一つ目。奴は私たちに向かって、"エノルメ"と言っていた。」
「ロードのこと...?」
「たぶんね。そしてそれと関連して、魔法少女狩りでヴェナが蓄えていたトランスアイテム。イミタシオを倒した日に、ヴェナが言ったでしょ?無くなってるって。」
「う、うん...。イミタシオと、パンタノペスカが使ってるんだよね?」
「
昨日聞かされたばかりの真実。
怪物の正体について知らないかヴェナに聞いた時、ついでに明かされた話がある。
「トランスアイテム、
「え!?ぜん、ぶ...?」
「填まり過ぎるのよ。あの怪物と、無くなったトランスアイテム。考えたくないけどね。」
ヴェナですらはっきりと真相は分からないらしいが、嫌でも繋がりを感じてしまう。
こんな話は魔法少女に憧れるうてなに聞かせたくなかったが。
「それと、もう一つ。真珠からの報告なのだけど。怪物の中に、"女の子"がいたらしいわ。」
「そんな...!?」
倒したタイミングで漸く分かったらしいが、現地に流血などは見当たらなかった。
真珠の見間違いだと思えば気が楽だが、彼女を疑うつもりはない。
「大丈夫、かな...?」
「怪物が生きているのか、どこにいるのか。何も分からない以上考えようがないわ。」
「分からないなりに、気になることが山積みだね...。」
「ええ。だから、その時まで考えるのはやめた。目の前に現れたら、私に出来ることに全力を尽くすだけよ。」
「...そうだね。私も、そうする。」
シリアスな話をし過ぎた。
せっかく愛しの推しと話せているのだし、もっと楽しい話題はないのだろうか。
「そうだ...あの、小夜ちゃん...。」
「どうしたの?」
「あの...MVの、あくあちゃんの衣装、なんだけど...///」
「え。」
「今度その...着て、見せてくれないかな...?///」
「えぇっ!?///」
あの牛ビキニをもう一度着ろと!?
しかも、二人きりの時に!?
「そ、それはちょっと...///」
「私、ご褒美もらってない...。」
「え?」
「お化け屋敷の、ご褒美...キウィちゃんにはしたんでしょ?キス。」
「何でそれをっ!?///」
まさかキウィが話したのか!?
うてながらしくなく、すっごい不満そうに頬を膨らませてるんだけどっ!?
すっごく可愛い! ?
「私は、ご褒美なし...?」
「......分かりました。着ます...。」
「やったぁ!」
何かおねだりのし方がキウィに似てきたな...。
これはかなり厄介なコンビかもしれない。
「今日はその...この後、空いてる?」
「ええ。夏休みですもの。」
「じゃあ、あの...!」
「デート、しましょうか。」
「え。...うんっ!///」
アイドル事件ですっかり忘れていたが、私の夏休みはまだまだ始まったばかり。
推しとイチャイチャ、くんずほぐれつのバケーションを過ごすのだ!
「行きましょう!夏が私たちを待っているわ!」
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◼️□next episode◼️□
「私はもう!何も取り零さないッ...!」
知らない曲があった?
それはどっかの誰かが即興で作ったんじゃないですかね。
私知りません←
来週はいよいよSM感謝祭ですね!どちらも参加してきます!
次回は10/6(日)0:00投稿予定です。