魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~ 作:月想
いつも評価感想誤字報告、なによりご愛読ありがとうございます!
二部も今回含めてあと三話。楽しんで頂ければ幸いです。
いよいよ今日はSM感謝祭ですね!
物販待ち時間に読むにはちょうどいい文量ですよ!←
「それで、どこへ行きたいの?」
「う、うん...。まずは、えと...///」
カフェを出て、小夜ちゃんと並んで街を歩く。
つ、ついに...。
ついに念願の、小夜ちゃんとのデート...!
魔法少女展での凄まじい消化不良から、一体どれだけの日々夢に見てきたのだろう。
『デートは...ちゃんとアズールに勝って、お付き合い出来てから...!』
そう考えていた時期もありました。
でも、無理!我慢出来るわけない!
ほぼ毎日キウィちゃんが小夜ちゃんに甘える姿を見せつけられ。
小夜ちゃんは小夜ちゃんで、相変わらず可愛くてキレイで優しくてえっちだし。
生殺しに次ぐ生殺し。
私の豆腐メンタルが耐えられるわけない。
医学的にも、我慢し過ぎはよくないらしいし。
あの暴走だって、もしかしたら禁断症状的な何かなのかもしれない。
...というのは冗談だけど。
苦手なお化け屋敷に、向いてないアイドル活動。
きっとこれは頑張った自分へのご褒美だ。
だから、目一杯楽しんでも罰は当たらないはず。
うん。そうに違いない。
「まずは、マジメイトに...。」
「マジメイトね、了解。本当に好きよね、うてなは。また買い過ぎちゃダメよ?」
昨日必死に考えたデートプラン。
らしくないデートをするとむしろ失敗しやすいと言う恋愛マニュアルを参考に、私らしい計画を立案した次第です。
まずマジメイトにて、小夜ちゃんの好きな作品をさりげなくリサーチ。
続いて、カラオケで小夜ちゃんに合わせた選曲をして、大いに盛り上がる。
おやつに和菓子のおいしいお店に行き、小物屋さんでお揃いのアクセサリーを購入。
他にもお洋服屋さんで小夜ちゃんを素敵にコーディネートしたりして。
最後は噴水広場で夕陽に照らされながら、小夜ちゃんの手を握り、そして...。
「フフ...えへ...えへへ...///」
「見えてきたわね、マジメイト。」
妄想トリップ、じゃなくてプランの確認をしていると、いつの間にか最初の目的地が近付いていた。
いつまでも上の空じゃダメだ。
ちゃんと小夜ちゃんの好みを聞き出して、共通の話題でハートをガッチリ掴まえなくては!
「あ~!いたいたいたぁ!」
「ん?」
「え?」
耳に届く甲高い、聞き覚えのある声。
駆け寄ってくる足音に気付き振り返る。
「うてなちゃんみっけ~!」
「ごはっ...!?」
お腹に走る
回転する視界。
電柱に引っ掛かり、何とか止まることに成功する。
「うてな!?大丈夫!?」
「ぁ...へ、へいき...たぶん...。」
「うてなちゃんこんにちわぁ!」
元気に私のお腹の上で挨拶する、小さなツインテールの女の子。
段々と復旧し、まともに働くようになった脳ミソが人物認証を完了させる。
「な、なのはちゃん...?」
「キウィかと思ったわ...。」
「わるもののおねーちゃんみっけー!」
近付いて来た小夜ちゃんに飛び付くなのはちゃん。
心なしか、私の時より笑顔がキラキラしてる。
これが一推しと二推しの差なんだね...。
「わるもののおねーちゃんもこんにちわぁ!」
「はい、こんにちは。
あんな風に抱き着いたら危ないでしょ?
それに、悪者のお姉ちゃんじゃなくて。
私は小夜って言うの。」
「さよちゃん!こんにちわぁ!」
「ふふっ、元気でいいわね。」
仲良く話す二人を見ていると、まるで本当に親子か姉妹のように錯覚してしまう。
やっぱり小夜ちゃんのバブみはすごい。
私も甘やかして欲しい。
でもそんなお姉さんが、攻められるとあんなに可愛く悶えて弱々しい姿を...えへへ...///
「また一人なの?お母さんは?」
「へびながでまえならえしてるよ!」
「ヘビナガ?」
「『長蛇の列に並んでる』、じゃないかな。」
「そうともいうの!」
「そうとしか言わないよ?また迷子なんだね...。」
「あのね、ちょいわるなのははもっとおいしいよ!」
『今日の私は一味違う。』と宣言するなのはちゃん。
自信満々にポケットから取り出したのは、子ども用スマホ。
きっとGPS機能付きに違いない。
「だからまいごじゃないよ!」
「いや迷子よそれ。」
「位置が分かるだけだからね...。」
なのはちゃんもいい加減反省して欲しいけど。
お母さんはお母さんで、もううっかりで済まされない気がする。
会えるのは嬉しいけど、出来れば平和的な再会でお願いしたいな。
「仕方ないわね。スマホからお母さんに電話して、この子を届けましょう。ついでにいい加減、一言お説教をしてやるわ。」
「う、うん。このままには出来ないし。」
「まって!きょうはね、"おしごと"なの!」
スマホを預かろうとする小夜ちゃんを拒んで、胸を張ってそう話すなのはちゃん。
「仕事って、お母さんが?」
「ううん!なのはが!」
「え?なのはちゃんが、仕事...?」
「うん!だからついてきて!」
わけも分からず幼女に手を引かれる私たち。
顔を見合せ困惑するけど、とりあえず従ってみる。
この体勢、ちょっと腰が痛い...。
「ついた!」
「着いたって...。」
「路地裏?」
小さい女の子には似つかわしくない、汚れた路地裏。
ここに連れてくるのが、お仕事?
「あのおねーちゃんにつれてきてってたのまれたの!」
「お姉ちゃん?」
「誰もいない、けど...?」
行き止まりしか見えないけど、念の為先に進んで周囲を確認する。
「!?...小夜ちゃんこっち!」
「誰かいたの?」
見つけた。
ゴミ箱の裏、ちょうど死角になっている位置。
そこに
「本当に...連れてきて、下さいましたのねっ...。」
「っ!?大丈夫ですか!?今救急車を...!」
女性を確認するなりすぐに駆け寄る小夜ちゃん。
しかし女性は松葉杖を掴み、苦しそうに立ち上がる。
素人目でも出歩いていい体には見えない。
「良くできたロリっ子ですわね...新しい性癖に、目覚めてしまいそうですわ...!」
「!...その変態発言...。」
「ど、どこか...覚えがあるような...。」
知り合いじゃない、でもどこか既視感のある人物。
モヤがかかったように思い出せないのが逆に引っ掛かる。
「この姿で会うのは初めてでしたわね...。うてな様、小夜様。...
「!?」
「まさかあなた...!」
何故か私たちの正体を知っている。
そのヒントが一気に思考を加速させ、目の前の女性の正体に思い当たることが出来た。
「改めて、ごきげんよう。わたくしは、桃森百花。またの名を『パンタノペスカ』と申しますわ。」
「あなたが...!」
パンタノペスカ。
シオちゃんズのメンバーで、私たちと何度も敵対している魔法少女らしくない魔法少女。
というか変態さん。
彼女が何故ここに?
何故私たちを呼び寄せたの?
そもそも、その傷は一体...?
確かに戦闘自体は何度かしたけど、そんなに酷いケガを負わせることはなかったはず。
なら"誰が"そんなことを...。
「どうして、私たちを...?」
「単刀直入に申し上げます...。お願いです...!どうか...どうか蘭朶を...!わたくしのお友達を...!
―――――――――――――――――――――――――――――
『あれ?今わたくし謂れのない勘違いをされました?』
一週間以上前。
小夜様人質作戦を返り討ちにされた後のことですわ。
魔力も切れてただのスタイル抜群美少女に戻ってしまったわたくしたちは、文字通り足を引き摺りながら自宅へと向かっておりました。
疲れ果てて、他愛のない話をしながら、ゆっくりと歩くわたくしたち。
だから気付かなかったのですわ。
すぐ後ろに迫る、"怪物"の気配に。
『エ...のる...メぇ...!!』
『!?ぁがっ...!』
『っ...も、も...?』
背中から全身に抜ける痛みを感じ、野球ボールのように跳ね飛ぶ体。
派手な擬音を上げながら壁に激突し、わたくしの体はピクリとも動かなくなりました。
『もも...に、げ...』
『バグンッ!』
真っ赤な視界。
途切れる意識の、最後に捉えた光景。
それは何も抵抗することが出来ないまま、怪物に一呑みにされる蘭朶の姿でした。
『っ...?』
『百花!?』
『...みち、こ...さま...。』
『よかった...!意識が戻ったんだな...!』
次の記憶はその三日後。
病室で目覚めたわたくしの側には、シオちゃん様がいらっしゃいましたわ。
途切れ途切れに意識を失っては取り戻しを繰り返し。
数日経って、漸く話せるようになりましたの。
『蘭朶、は...?』
『お前がこんな傷を負った日から、連絡が取れんのだ...。何があったか、教えてくれるな...?』
今思えば、話すべきではなかった。
あの恐ろしい怪物について、シオちゃん様に洗いざらい話してしまいましたの。
そうすればあの方がどうするかなんて、考えなくても分かりますのに。
『っ...!蘭朶っ...!』
『待っ、て...みち、子さ...っ』
憤怒の表情のまま病室を出ていくシオちゃん様。
あれから一度も連絡は繋がりません。
「そして、漸く今日。
多少動けるようになったわたくしは病室を抜け出し。こうして、あなた方に助けを求めに来たということですわ...。」
「そんなことが...。」
「...。」
事情の説明を終え、痛む体にも構わず地面に頭を擦り付ける。
「わたくしたちがしたことを許して欲しいとは申しませんっ...!助ける義理がないのも重々承知しておりますっ...!でも、どうか...!もうあなた方しかいないのですっ...!わたくしならどうして頂いても構いません!
だからどうかお力を...!わたくしの仲間を助けてくださいっ...!!」
「あなた...。」
視界を涙で滲ませながら、必死に助けを請う。
どれだけ情けない姿だろうと関係ない。
もう二度と、友達を失うのは嫌だから。
"偽物"のわたくしに出来るのは、これくらいしかないのだから。
「...どうする?うてな。」
「...私、忘れてないよ。ベルゼルガさんや、パンタノペスカさんが小夜ちゃんにしたこと。イミタシオが...ロードエノルメが、小夜ちゃんを一度殺したこと...!」
わたくしのカップリングにブチギレた時とは違う、明確な"憎しみ"の表情。
殺したというのはよく知りませんが、みち子様が過去敵対していたお話は伺っています。
やっぱり、そう上手くはいきませんわね...。
「許すことなんて出来ない。
でも...行こう小夜ちゃん...!」
「!?」
「私は正義の味方、魔法少女だから。困っている人を見捨てることなんて出来ないよ...!」
「うてなさま...っ!」
これが、本物のヒロイン。
憎しみを乗り越え、その輝きを一層強める魔法少女の姿...!
見くびっておりました。
確かにわたくし、何も分かっていなかったのかもしれません。
「そう。じゃあ、私は悪の組織として、相応の"報酬"を要求しようかしら。」
「な、なんなりと...!わたくしに出来ることならお金でも何でも...!」
「いい返事じゃない。話は助けた後にしましょう。あの怪物には個人的に恨みがあるしね。」
「小夜さま...!おふたりともっ...ほ、ほんとに...ほんとにありがとうございますわぁぁ...!!」
土下座のまま何度もお礼を繰り返す。
そんなわたくしの肩を掴んで、小夜様は微笑む。
「顔を上げて、百花さん。あのひねくれ者に私たちが教えてあげるわ。この世界には、"奇跡も魔法もあるんだよ"ってことをね。」
「くっそフラグくせぇセリフですの...。」
「色々台無しだね...。」
「うるさいわね!シリアス過ぎると胸焼けしちゃうでしょ!?」
誰向けの配慮ですの?それ。
気を取り直して、お二人は変身アイテムを構える。
これは夢にまで見た、ベゼ×アズの同時変身!?
「なのはちゃん。そこの死にかけの人ほっとくとまずいから、お母さんに電話して救急車を呼んでもらえるかな?」
「お礼に、そのお姉さんがたくさんおもちゃを買ってくれるらしいわ。」
「ほんとー!?わかったー!がんばってね、うてなちゃんさよちゃん!」
笑顔で少女に手を振るお二人。
天高くアイテムを掲げ、揃って同じ呪文を唱える。
『『
マジアベーゼ、ルシファアズールに変身し、そのまま空に飛び上がる。
見えなくなる背中に願いを託し、わたくしはその場に倒れ込んだ。
「...やっぱベゼ×アズですのよねぇ...。」
「おねーちゃん!おかおばっちぃね!」
「やっぱ児○はクソですの...。」
―――――――――――――――――――――――――――――
『おに~ぎりの方が~すきなのよね~♪』
「......。」
二人きりのカラオケルームに流れる気まずい空気。
冷や汗をタラリと垂らしながら、歌い終えた真珠は無言の相方を見て、躊躇いがちに感想を問う。
「どう、だった...?」
「2点。」
「それ10点満点よねぇっ!?(泣)」
ジタバタとしながらソファーに倒れ込み、わけの分からない仕組みになっている自分自身にキレ散らかす。
「あんだけ練習して、何でまったく変わんねーんだよ...?」
「知らないわよっ!?聞きたいのは真珠の方よぉ~...。」
あれだけのライブをして、ネットでは『一夜限りの流星伝説』などと囁かれるようになった歌星ぱある。
その当人である真珠は、あの地獄のような特訓を経て未だに音痴から脱却出来ていなかった。
まあ、上手く歌う方法自体は分かっているのだが...。
「っ...!」
「脱ぐなよ?」
「ぬ、脱がないわよっ!?///」
「ならいい。」
「......アンタ曲入れなさいよ...。」
「やだよ。上手く歌うと怒るじゃんお前。」
「怒んないわよっ!!」
パンツを脱ごうとして、それを制止される真珠。
しばしの沈黙を挟み、せっかくの機会だからと以前からの懸念について、ネモは真珠に投げ掛ける。
「...なぁ、真珠。」
「...あによ。」
「あの...さ...真珠は...さ。あんのかその..."露出癖"。」
「......ハァッ!?!?///」
「だって...見られて興奮、すんだろ...?そういうの、好きなのかなって...///」
「ち、ちが...知らないわよそんなことっ...///」
怒りと恥ずかしさで真っ赤になる真珠。
ネモは慌てつつも、素直な気持ちを打ち明ける。
「そんなことで、アタシは真珠を嫌いになったりしないけど...やっぱり、恋人の裸、とか...他のヤツらに見せるの、嫌っていうか...///」
「ね、ネモ...///」
真珠以上に真っ赤になるネモ。
真珠は恋人の言葉に思わずキュンとしながら、迷いながらも言葉を紡いでいく。
「違う、わよ...///」
「違うのか...?///」
「違わ、ないけど...真珠は...真珠が見られて嬉しいのは...ネモだけよ...///」
「え...?///」
「アンタだから嬉しいのっ!アンタだから気持ちいいのっ!ネモが好きだから気持ちいいって言ってんのよぉっ!!///」
「ま、真珠ぁっ!///」
勇気を振り絞った告白。
見事恋人のハートを撃ち抜き、我慢出来なくなったネモに押し倒されてしまう。
「ちょっ...こんなとこでっ...!///」
「真珠のせいだ...真珠があんな、可愛いこと言うからっ...!///」
「かわっ...!?///」
「責任、取れよな...///」
「っ...しょうが、ないわね...///」
愛しさが臨界点を越え、我慢の限界が来た二人。
場所も構わず、唇と唇が近づき、そして。
『ブッコロスッ!!』
『やれるもんならやってみぃっ!!』
「「ひっ!?」」
隣から突如聞こえた物騒なやり取り。
雰囲気をぶち壊されたことで、反って冷静になった二人。
「...なぁ、今のって。」
「ええ...たぶん、ね。」
未だに聞こえてくる怒声に心当たりがあり過ぎた。
呆れた表情のまま部屋から出て、ゆっくりと隣の部屋の扉を開く。
「アタシの方が最高点なんだからアタシの勝ちだろがっ!」
「そこまでの平均点はウチの方が上やろっ!?最高点言うても1点差!平均ならウチの圧勝やっ!」
「あーはいはい負け犬のトオボエおつ~!アタシが最高点なんは揺るがねぇ事実なんだよばーか!!」
「1回勝負を9回勝負に変えた卑怯もんがよう言いはるわ!」
「うっせばーか!!」
「それしか言えんのかアホ団子っ!!」
マイク片手に掴み合いのケンカをしているキウィに薫子。
それを困った顔で止めようとするはるか、呆れ顔のこりす。
たまネモが想像した通りの光景が、そこに広がっていた。
「何やってんのよアンタたち...。」
「あ!真珠ちゃんネモちゃん!偶然だね!」
「ビッ。」
「いやその組み合わせでカラオケに行ってることが奇跡だろ...。」
キウィと薫子をセットで閉鎖空間にブチ込むとか飼育方法知らなさ過ぎだろ!と呆れるネモ。
マイクを捨てただのケンカになり始めた中身ヤンキーコンビを無視し、はるかたちの隣に座る。
「で?何でこうなったんだ?」
「あたしは薫子ちゃんと。こりすちゃんはキウィちゃんとお買い物に来てたんだけど。おもちゃ屋さんで偶然バッタリ会ってね?」
『んで夏休みにひんにゅーのばか声聞かなきゃなんねーの~?』
『せっかくのお出かけやのにアホのうざ声聞くやなんてついてまへんなぁ。はよお耳洗わんと腐ってまうわ。』
『あ...?アタシのきゃわわボイスのどこがうざ声だコラ...。』
『歌もまともに歌えんオツムでよう考えてみぃ?』
『テメ~...!』
いつも通り鋭すぎる薫子の悪口がキウィを完璧に挑発し、現在のカラオケバトル(物理)に発展したらしい。
キウィは小夜とのデートを断られ(そもそも昨日した)、薫子ははるかとのデート(ただの買い物)を邪魔されたことから、それぞれ最高に機嫌が悪かったのが原因だったりする。
「バカ二人はほっといて、真珠たちの部屋に来る?はるかの歌声とか、ちょっと聴いてみたいし。」
「あたしも真珠ちゃんの歌聴きたい!けど、二人をこのままにしておくわけには...。」
マジで聖人かってくらいいいヤツだよなぁ、はるかは。
これで小夜の親友とか、もっと友だちは選んだ方がいいと思う。
そう思うネモに『お前選べる友だちいないじゃん。』と残酷に言い放つのは無作法というものである。
「クイクイ。」
「あ?"私は行く、ついでにとうがらしアイス食べたい"?お前はお前で欲望に忠実だよなぁ。」
どう仲直りさせようかと考えを巡らすが、何もいい案は浮かばない。
本当に見捨てた方が楽だなと諦め、頷き合うたまネモ。
こりすの手を引き、部屋から出ていこうとする。
その瞬間。
『ギャアアアァァァァァ!!!!!』
「「「!?」」」
「うっさいわボケ!...って?」
「今度はなんだよ~!」
カラオケからではない、もっと遠くから響く"何か"の叫び声。
続いて凄まじい地響きと、人々の悲鳴が同時に聞こえてくる。
「...!薫子ちゃん!」
「ああ!勝負はお預けやアホ団子っ!」
「は!?逃げんのかひんにゅー!?」
部屋から飛び出て勢いよく階段を駆け上がっていく薫子とはるか。
遅れて彼女たちに続くキウィたち。
ちなみに、店員さんは既にいなくなっていた。
避難誘導する余裕すらなかったのだろうか?
「これ、は...!?」
「なに!?この数っ...!?」
地上で彼女たちが見たものは、街を覆い尽くさんばかりの
通常のモノもいれば、以前一度戦った影のような獣型もいる。
それがロードの時とは比にならない物量で、街を破壊していた。
「っ...ええか!?四人共すぐ避難をっ!うちらは用事があるさかい別行動や!」
「はぁ~!?えらそーに何言ってんだばか!お前らこそ逃げ」
「ええから!絶対無茶するんとちゃうぞ!?小夜とうてなの為に生き延びることだけ考えとけっ!」
「おまえ...。」
そう言い残し、はるかと薫子は魔物たちが
呆然とするキウィ。
「ボーっとすんな!どうすんのかお前が決めろキウィ!」
「アタシが...?」
「そうよ!アンタが判断しなさいっ!"副総帥"なんでしょっ!?」
真珠とネモは声を荒げてキウィに問う。
自らの、今の"リーダー"に指示を求める。
こりすもまた、キウィの決断を待っていた。
「...決まってんだろ。アタシらは悪の組織だぜ~?」
キウィが変身アイテムを構えるのと同時に、他三人も同じようにアイテムを取り出す。
「アタシらの街で悪ぃことしていいのはなぁ~!アタシらだけなんだよ!行くぞお前らぁっ!!」
「ええっ!」
「待ってたぜその言葉!」
「コクリ!」
『『『『
―――――――――――――――――――――――――――――
空から見下ろす街の惨状に目を逸らしたくなる。
すぐにでも一掃してやりたいが、流石にあの数をまともに相手取るのは厳しい。
キウィたちにテレパシーを送ってみてはいるが、どうも上手く繋がる感覚がない。
「ダメ...二人とも応えてくれないよ...。」
「すでに戦っていて余裕がないのか、それとも...。」
ベーゼがマゼンタとサルファにテレパシーを試みるも、結果は同じ。
「ジャミングが働いているようだね。辺りの魔力が多過ぎて、区別が付かなくなっているのさ。」
「ジャミング...。」
「...本当にイミタシオの居場所、分かるのよね?」
私たちと同じ速度で飛行するヴェナリータを睨む。
百花さんと別れた後、すぐにゲートを潜って現れたヴェナ。
都合のいいことに、イミタシオがいる場所まで案内してくれると言うのだ。
話が早すぎることに警戒しつつも、とりあえず付いて行くことになった私たち。
こうして10分以上飛んでいるのだが、一向にそれらしい影は見えない。
「任せたまえよ。ボクの立てた"仮説"をキミたちからの情報で補強した。予想通りこの先にいるようだ。」
「仮説、ねぇ...。」
「説明はイミタシオと合流してからにしよう。」
「そんな悠長に。」
やはりあの怪物がどこかにいて、魔物たちはそれに引き寄せられているということなのか。
それに気付いたイミタシオが、私たちと同じように追跡を?
だとすれば、もうすでに交戦してしまっているのでは?
「大丈夫。まだ対面はしていない。イミタシオの魔力がかなり弱くなっているようでね、歩みが異様に遅い。」
「バカ!それはそれで急ぎじゃない!?」
「アズール!?」
瞬間的に速度を上げ、渇く目に構わずイミタシオを捜す。
程無くして。
魔物をはじき飛ばす派手な金属音が聞こえ、巨大な大剣が視界に映る。
「邪魔だ...!そこを、退けぇぇ...!!」
「見つけた!」
ボロボロのマントに、傷だらけの鎧。
疲労の色が強い顔は、しかし憤りと怒りに満ちて道を阻む有象無象を睨み、力任せに振るった大剣が歪に道を切り拓いていた。
「待ちなさい!イミタシオ!」
「アズール...!?貴様も私の邪魔をするか...!」
「違う!私はあなたを助けに」
「黙れぇぇ!!」
耳も貸さず、私に大剣を叩きつけるイミタシオ。
すんでで回避し、もう一度声を掛けようとするが、狂ったように剣を振り回す彼女に近付くことが出来ない。
「仕方ないわね...!ベーゼ!」
「お待たせ、アズール!」
「まずはイミタシオを落ち着かせるわ!タイミングは私が!」
「うん!」
『『
同時に真化し、ベーゼは空中へ。
私はイミタシオに向かっていく。
「邪魔をするなぁぁぁ!!」
「話くらい聞きなさい...!」
朝霜と夜雪を抜き出し、大剣と鍔競り合う。
彼女を倒したこの姿がトラウマになっているのか、更に暴れ狂うイミタシオ。
私はそれを何度も弾き、少しずつ彼女の体勢を崩していく。
「そこっ!」
「ぐっ...!?」
無駄に大きく振りかぶったその隙を逃さず、彼女の手甲を峰で強く打つ。
反射的に離れる手、地に落ちる魔法殺しの刃。
タイミングは今しかない。
「今よベーゼ!!」
「"
「っ!?」
ベーゼの放つ悪夢の糸に巻かれるイミタシオ。
動かなくなった彼女をすぐに抱き上げ、魔物だらけの区域を離脱する。
「何とか上手くいったね...。」
「ええ。...ベーゼ、
「一緒に?やってみないと何とも...。」
「なら試してみて。私たちは知らないといけない。彼女が本当に、"偽物の魔法少女"なのかどうかを。」
「...うん。分かった。」
ビルの高層に降り立ち、巣の中のイミタシオに触れる。
ベーゼが魔力を込めた瞬間、私の意識は自らの体から離れていった。
―――――――――――――――――――――――――――――
「っ...ここ、は...?」
「気が付いたみたい、ですね...。」
「正確には
「貴様等は...!?」
どこまでも暗い、地に足が着いているのかどうかすら分からない空間。
そこで目覚めた私の前にいたのは、我が野望を阻んだ二人の女。
柊うてなに、水神小夜だった。
「ここはどこだ...?何が目的だ...!?」
「あの、落ち着いてください...。別に私たち、あなたと争いたいわけじゃ...」
「ふざけるな...!お前たちが私を憎んでいないはずがない...!それが分からぬ私だと思うか...!?」
「見くびらないでちょうだい。」
水神が私に近付き、真っ向から睨み付けてくる。
「百花さんから、あなたと蘭朶さんを救うように頼まれたの。うてなは正義の味方として、私はきちんと契約をしてその依頼を受けた。私たちの誇りに懸けて、あなたを害する気はないわ。」
「百花、が?...信じると思うか?
私を油断させ、後ろからトドメを刺すつもりか!私が何をしたか、忘れたわけではないだろう...!」
「...!」
「うぐっ!?」
襟を掴まれ床に押し倒される。
固い感触がリアルだが、相変わらず底らしきモノが見えない。
「やめて小夜ちゃん...!」
「忘れてないわよ、忘れるわけないでしょ!
あなたは一度私を殺して、そのせいで私は大切な人を失った!
ええ憎いわよこれで満足!?
お前はうてなに負けて、私に負けた!
でもまだ生きてる!何でか分かる!?
やらなきゃいけないことがまだあるからよ!
蘭朶さんを助けるんでしょ!?
なら挑発なんてしないで必死に生きようとしなさい!
自分の命が誰かと繋がっていることを、そのお利口な頭で自覚することねっ!」
「っ...!」
捲し立てられ、反論する隙もなかった。
偉そうに、ベラベラと...。
そんなことは分かっている。
分かっているが...。
「お前たちが...助けると言うのか...?」
「...それはあなた次第よ、田中みち子。
ここはベーゼが作り出したあなたの夢。
私たちは見に来たの。
"ロードエノルメ"が"イミタシオ"になった理由を。」
「みち子、さん。見させて...もらいますね...?」
本名もバレているわけか...。
話を聞く限り、ここはベーゼの支配する世界。
既に拒否権もないらしい。
私の過去など聞いて何になるのかが分からないが、考えても無駄だろう。
「勝手にしろ。」
私がそう応えたタイミングで、空間に変化があった。
見覚えのある場所、感覚、感情。
私の意識が溶けていき、"その時の私"と一つになる。
『どこ、に...しす、た...』
雨の中ボロボロの体を引き摺り、朦朧とする意識のまま、私を救ってくれたはずの彼女を捜す。
彼女に持たされたであろう、二つのトランスアイテムを握り締め。
生き延びたことすら満足に認識出来ないまま彷徨い、やがて力尽きた。
『っ...?』
次の記憶は、飾り気のない部屋から始まる。
知らない天井と見覚えのない家具。
意識がハッキリしていくにつれて、鋭くなる体の痛み。
それで気が付くのが遅れた。
『あ...あっ...よかった...よかった気が付いて...。』
まるで看病でもするように、脇に誰かが座っていた。
私服にしては不思議な服を着ている。
まるで、魔法少女のような...。
『あ...あた...あたしのことって...覚えて...ますか...?えへ...。』
そう言う少女に見覚えはないが、その体から感じる魔力で、本物の魔法少女であることを理解した。
『あ...あたし、マジアブラン...。え...えへ...ま...前に一度あなたと戦って...。』
魔法少女狩りの生き残りか。
仲間の仇を取る為に、私を...。
そうか...そういう終わり方になるのか。
諦めて納得した私の前で、彼女は何故か変身を解除する。
『ほ...本名は、多田蘭朶...です...。
こ...これでお互い正体バレちゃって...お...おあいこ...だね...。』
正体を見せ、本名まで私に晒す魔法少女。
わけの分からない行動に困惑するところだが、その体力も残ってはいなかった。
何も言えず再び眠りに落ちる。
『あ...ね...寝ちゃった...?...ゆ...ゆっくり休んでね...へ...えへ...。』
その日から、奇妙な生活が始まった。
毎日彼女は食事を用意し、包帯を替え、体を拭いてくれた。
敵である私を、介抱した。
恨んでいるはずの私を、無償で助ける理由は分からない。
だが、最早どうでもよかった。
私は失敗した。
死ぬはずだった私に先などない。
だから、もういい。
復讐したいのなら好きにしろと、そう思っていた。
『あっ...まだ身体うまく動かないよね...。ひ...ひどいケガだったから...。』
スプーンを落としてしまった私に、優しく囁く蘭朶。
『で...でも、ここ数日で少しずつ回復してきてる...良かった...えへ...へへ...。』
私の回復を喜び、新しいスプーンを取りに行こうとする彼女を眺める。
『そ...そういえば...あなたの名前...まだ...知らない...な。お...教えてくれたら...うれしい...かな...えへ...。』
『...みち子だ。』
『え...?』
『田中みち子...。私の、名前だ。』
『...えへ...じゃあ..."みっちゃん"...だね...。』
名前などどうでもいい。
そもそも"私"とは関係のない名前だ。
私が信頼した素振りを見せれば、復讐の時期が早まってくれるかもしれないと考えた。
しかし、結局彼女は私を介抱し続けた。
本当に心配しているように体調を気遣い、嬉しそうに私の名前を呼んだ。
『き...傷...ほとんど...治ったね...えへ...。』
『...蘭朶。もう、いい。』
『え...いいって...えっと...何が...?』
『もう十分だ。早く、目的を果たせ。』
『も...目的...?』
包帯が取れ、何の傷も残っていない顔を確認して。
本当に彼女に救われたことを理解した。
だからこそ、ここがピークだと思った。
『私は、お前に感謝している。
お前に救ってもらったと心から実感している。だから、やるなら今だ。今お前に裏切られれば、私はきっと人生で一番の苦しみを味わう。復讐には丁度いい。』
『......。』
蘭朶は何も言わず俯いて、台所から"何か"を持って来る。
それが包丁であることに気付き、ついに終わりが来たことを察した。
構わない、好きにしてくれ。
私にはもう、何も残ってはいない。
『さあ、一思いに...』
『...!』
私に突き立てられると思った刃を、彼女は
『って何やろうとしてるんだお前ぇ!?』
『え...こ...こうすれば...みっちゃん...あたしのこと...信じてくれる...かな...って...。』
『まるで意味が分からんぞっ!?』
何とか左腕を抑え、物騒な包丁を取り上げて離れた位置に置く。
内心ビビり散らかしつつ、彼女に真意を訪ねる。
『何故こんな...私はお前やお前の仲間を倒した悪の首領だぞ!?それを何故助ける!?何故自分を傷つけてまで信頼させようとするんだ...!』
『...あたし...あたしね。あなたが好き。』
『へ...?』
その言葉と共に、私は彼女に抱き締められた。
『あなたの強さを知ったあの日から...えへ!ずうっと大好き...!えへへ!あなたの力に飲み込まれたい...!あなたと一緒になりたい...!!』
『な、なにを...?』
未だに理解出来ないその理由。
疑問に思う私に構わず、彼女は更に強く私を抱き締める。
『そんなに強いみっちゃんが...あんな
『......っ...。』
ポロポロと流れ落ちる涙。
こんな意味の分からない、病んでるとしか思えない告白。
だが、これだけは分かった。
蘭朶は、私を理解してくれようとした。
理由はどうあれ、愛してくれて。
何の役割もない脇役を、必要としてくれた。
私の心に、寄り添ってくれた。
それが堪らなく嬉しくて。
そして気付く。
私はまだ、"諦めたくなかった"のだと。
何もかもどうでもいいと言いつつ、生き延びたことを喜び。
誰かの温もりを求め震えていた。
この時流した涙は、私がまだこの世界にいたいと願う証だった。
『これが魔法少女の姿か...。』
『みっちゃんは黒くなるんだ...。
えへ...すてき...♥️』
体が回復し、以前から持っていた"ハート"のトランスアイテムでの変身を試みた。
結果は問題なく成功。
変身する才能、つまり一定の魔力があれば誰でも変身出来るらしい。
ますますあのマスコット共がキナ臭くなってくる。
『勇ましいお姿ですわねぇ!少女は無理があるだろとツッコミたくなる程のイケメン美女感!たまりませんわぁ~♥️』
『悪意のある感想だな...。』
いつの間にか出入りするようになった蘭朶の知人(本人は友人を自称)、桃森百花。
とりあえず変態であることだけは知っていた。
『みっちゃん、その魔力なら...できるかも、』
『
『『!?』』
蘭朶の言葉を遮り、ただ一度遂げた変化をこの身に再現する。
『それなら以前至っている。...なるほどな、こちらではこうなるのか。』
『んほー!?黒騎士とか狙い過ぎですわぁ!?夢女子を大量製造するおつもりでしてぇ!?』
『み...みっちゃん...えへ...だ、抱いて...♥️///』
真っ黒な甲冑、身長以上に大きな剣。
目元を隠すバイザーのような仮面。
翻るマントに懐かしさすら感じる。
塗り潰されたような出で立ちは、最早誰でもない私に相応しいと思った。
『百花、お前にこれを渡す。』
『これは...!』
『トランスアイテムだ。見たところ才能はある。私に従い、仲間になれ。』
『マジですの!?それはつまり...!魔法少女にドエロいことをやりまくっていいということですわね...!?///』
『変なのしかいないなこの世界。』
百花を仕方なく仲間に加え、私は告げる。
自らの願いを。
救われた私は、まだ諦めるわけにはいかないということを。
『世界征服を再開する。一度絶たれたこの覇道。条理を外れ再起を果たした今、止まることなど許されない。』
『魔法少女でありながら、悪の道を往きますのね。』
『...そうだな。我々は魔法少女でありながら、正義を知らぬ偽物だ。』
『名前は...どうするの...?』
『偽物...スペイン語で、"イミタシオン"と言いますわね。』
『名前などどうでもいいが。』
二人の顔を見て、私に付き従う覚悟があることを確認する。
その表情はまるで、あの時の"彼女"によく似ていて。
『よい。ならば、今日からこう名乗るとしよう。
"
これが私がイミタシオになるまでの話。
さぞ滑稽だっただろう。
お前たちの敵は、こうして無様に生き永らえたというわけだ。
―――――――――――――――――――――――――――――
「...。」
ベーゼの夢から抜け出し、現実の世界へ引き戻される。
変身を解除し、同じ様に戻ったうてなと顔を見合わせる。
彼女も同じ気持ちのようだ。
「っ...これで、満足か...?」
遅れて意識を取り戻したみち子が、覇気のない顔で精一杯の嫌味を言う。
私はそんな彼女に向かって、
「!...何のつもりだ?」
「助けるつもりに決まってるでしょう?
行くわよ、蘭朶さんのところへ。」
「だから何故だと...!」
「私たちと、同じだから...。」
私たちが理解出来ないと、拒絶を示すみち子。
うてなは一歩近付き、私と同じように手を伸ばす。
「小夜ちゃんを殺したことは許せない。
...でも、今のあなたはそれを理解してる。だってみち子さんにはもう、大切な人がいますから。」
「大切な、人...。」
「罪悪感を感じるのは、相手の気持ちが分かるからよ。あなたは、私たちと一緒。ただ失いたくなくて、守りたいだけ。」
「知ったような...口を...!」
「分かるわよ。蘭朶さんと百花さんと話してる時のあなた。笑ってたから。」
「...!」
厨二っぽい語り口は最後まで変わらなかったが、段々と笑顔になっていた様子を見逃すことはなかった。
彼女にとっての"思い出"を、私たちは見せてもらったのだ。
「だから、恨み節はもうやめるわ。一度も私たちに復讐したいとは言わなかったものね。」
「世界征服は...魔法少女として、ちょっと無視出来ない話ですけど...。でも。」
「今は協力するわ。一緒に戦いましょう。みち子。」
彼女は信じられないモノを見たように驚いた表情をした後、逡巡し。
やがて深い溜め息を吐く。
そして。
「...理解できん。魔法少女と言うのは、皆お前たちのように甘いのか?」
「失礼ね。私は爪先から頭のてっぺんまで、完璧な悪の総帥なんだから。」
「魔法少女より優しい、悪の総帥さんだもんね。」
「もう...///」
私たちの手を握り、立ち上がった。
どこかで聞いたことがある感想だが、きっと気のせいだろう。
ぎこちなくも笑い合う私たち。
...うん。この方がよっぽど私たちらしい。
「話はまとまったようだね。」
「貴様は...!」
「待って。ここまで連れて来てくれたのはヴェナよ。あなたに敵意はないはず。...今はね。」
近付いて来たヴェナを反射的に警戒するみち子。
当然の反応ではあるが、今は堪えて欲しい。
「貴様だけは別だヴェナリータ!今回の件、貴様が関わっていないとは言わせんぞ...!」
「心外だね、みち子。今回はむしろ、当事者は
「は...?」
「キミ、たち...?」
「何を、言って...。」
お互いの様子を確認するが、全員困惑して何のことだか分からないようだ。
「せっかく揃っていることだし、ここで説明しようか。あの怪物、"憎悪の獣"が如何にして生まれたのか。その真実をね。」
「憎悪の、」
「獣...?」
怪物の名を口にするヴェナ。
先程は仮説と言っていたが、どう見てもそれ以上の確信があるようだ。
「まずこれは基本知識だが、ボクには魔法少女を探知する能力がある。今日みち子を見つけたのも、一応はこの能力のおかげさ。ここまではいいね?」
「ええ。」
「その上で、先程漸く理解したよ。憎悪の獣の反応は、
「「っ!?」」
「な、何言ってるんですか...!?あれが...あんなものが魔法少女だって言うんですか!?」
うてなが思わず声を荒らげる。
当然だ。
あんな怪物のどこが魔法少女だと言うのか。
「根拠は他にもある。魔物が獣を狙って集まっていただろう?あれは魔物の習性である、"魔法少女への敵視"が原因だ。」
「初耳よそんなの!」
「悪がいるから善が輝く、ということさ。」
説明になっていないが、とにかくそういう仕組みだと言いたいらしい。
この腹黒マスコットめ...!
「さて。では何故あの獣が魔法少女に近いかだけど。小夜、キミならもう分かるはず。ボクにヒントをくれたのは、他ならぬキミなんだからね。」
「!...トランス、アイテム...!?」
「そう。ナハトベースから消えた、魔法少女狩りのトランスアイテム。奴はそこから生まれたんだ。」
魔法少女狩り。
獣が口にしていた"エノルメ"の名前。
バラバラだった情報が一気に繋がる。
「倒れた魔法少女たちの、ロードエノルメへの恨み、憎しみ。その想いが産み落とした怪物。故に、ボクはこう名付けた。『
「なん、だと...!?」
つまり、この事態を招いたのはみち子だと言いたいのか。
そもそも指示していたのはヴェナだろうし、そこは反論したいところ。
ただ、それだとキミ"たち"と表現した理由が分からない。
「嘘、だ...。私の憧れた魔法少女は、憎しみに囚われたりなんか...!」
「キミがそれを言うのかい?トランスアイテムは想いの力を蓄積し、記憶する。キミのトランスアイテムにも刻まれているはずさ。強い"愛憎"がね。」
「...!」
「ヴェナ!それ以上は私が許さないわ...!」
うてなのトラウマを開こうとするヴェナに怒りを示す。
しかしヴェナは表情を変えず、ただ淡々と話を続ける。
「ただね、それだけじゃこんなことは起きない。よほどの"イレギュラー"がない限りは。」
「イレギュラー...?」
「そう。...うてな、みち子。
「え...?」
「"想い"を実体化させる、ボクにも予想出来なかった程の奇跡。
「そ...そん、な...っ」
膝を突くうてな。
その目は見開かれ、大きなショックを受けていることが分かる。
「...つまり、ロードを倒した時のうてなの力。それがトランスアイテムの憎悪を実体化させ、あの怪物が生まれた。だから、
「ああ。正確にはボクも含めてね。まさかこんなことになるとは。あまりにも想定外だよ。」
あのヴェナが少しでも自分の非を認めるなんてね。
ショックのまま立ち上がれないうてなに寄り添い、優しく抱き締める。
「ね?聞いたでしょ。これは私"たち"の招いた事態。私も、一緒だから。良くないことが起こったとしても、二人一緒なら耐えられる。そうでしょ?うてな。」
「さよ、ちゃんっ...。」
泣き出しそうなのを必死に堪えるうてな。
そう、泣くことなんてない。
私が力を託したから、うてなはその奇跡でロードを倒した。
そこに間違いなんてない。
ただ運が悪かっただけ。
悪いと言うなら、ここにいる全員が悪い。
ほぼヴェナのせいだし。
それに、だ。
「あいつを倒せば全て解決。やり残しだと言うのなら、"当事者"としてキレイさっぱり終わりにしてやるだけよ。」
「...ああ、その通りだ。」
「うん...やろう、二人とも...!」
決意を新たにトランスアイテムを構える私たち。
再び変身しようとした、その時。
『みっちゃん...。』
「「「...!?」」」
「やはり、そちらから来てくれたね。」
いつの間にか背後にいた女の子。
地上から遠く離れた高層に、ただの人間がどうやって一瞬で現れることが出来るのか。
「らん、だ...?」
『えへ...へ...ミ~ツケタぁ...!』
―――――――――――――――――――――――――――――
「蘭朶さん...!?取り込まれてたはずじゃ...!?」
「...いいえ、うてな。あれは明らかに異常よ。」
助け出そうとした蘭朶が現れたことに驚く三人。
口では戸惑いつつも、全員が直感的に異常を察知していた。
『ミツケタ...ミツケタァ...!』
「っ...蘭朶を...返せっ...!」
『エノルメェェ...!!!!』
蘭朶ではない、"何か"の声。
みち子の言葉に反応するように、真っ黒な影が蘭朶の体を包み、何倍にも膨れ上がっていく。
「これ、が...!」
「
「前とは違う...!?」
人狼のような見た目は更に凶悪かつ強靭に。
見上げる程の巨体は、全て鋭く赤黒い刃に覆われ。
不必要な程に長く伸びた爪は血のように真っ赤に輝き、凄まじい魔力を帯びている。
そして何より目立つ、背中に生えた翼。
小夜は思い至る。
単純に強化したわけじゃない。
サルファの速度と空中戦能力に対抗する為の翼。
フォルティシモ・カノンに貫かれない鎧のような外皮。
ベルゼルガを取り込んだのも、自らを強化する為の行動だろう。
以前のような暴れるだけの獣ではない。
あれは今。
確かに獲物を観察しているのだ。
『コロス...!!』
『っ!?
「イミタシオ...!?」
オディオ・ヴェスティアは明確な殺意を放ち、みち子へと飛び掛かる。
寸でのところで変身するイミタシオだったが、両腕でガッチリと捕らわれた上に、獣は勢いのままビルから飛び降りてしまう。
「行くわようてな!」
「う、うん!」
『『
遅れて後を追うアズールにベーゼ。
アズールは全速力で急降下し獣に追いつく。
拘束されたイミタシオを救う為、氷の刃を獣へと振るうが。
「これじゃあ文字通り刃も立たないってわけ...!?」
『グル...ヒヒ...!』
バギンッ!という音を立て、アズールソードは容易く砕かれる。
予想以上の硬度、驚愕する様子を嘲笑う知性。
出し惜しみ出来る相手ではないと判断し、アズールは自らを真の姿へと変化させる。
『
凍刃羅刹に真化し、すかさず腰の二刀を振り下ろす。
魔力を込めた一撃は獣の腱を切り裂き、イミタシオを宙へ投げ出す。
「掴まってください...!」
「すまない...!助かった...!」
魔女となったベーゼが箒で彼女を受け止め、地面すれすれでの救出に成功する。
アズール、それに獣も難なく着地。
ダメージが通ったことに半分安心するアズールだったが...。
『モット...ツヨク...!』
「っ!?」
切られた傷がブクブクと不気味に泡立ち、先程よりも
「戦う中で学習し、成長するということか...!」
「二人とも、あれ...!」
状況は三人のヒロインを更に追い詰める。
ベーゼが指差す方向には、獣を目指しこちらに駆けてくる魔物の大群が迫っていた。
『グヒ...エサ、イッパイ...!』
「まずいわ!これ以上魔力を与えたら...!」
「任せてっ...!」
ベーゼは自身から悪夢を取り出し、魔法をかけるようにして杖を振るう。
『"
『キヒヒ...!』
生み出される真っ黒なベーゼの大群。
ベーゼの指揮に呼応し、悪夢の兵隊たちは押し寄せる魔物の波へと果敢に立ち向かっていく。
「また自分の悪夢を!?」
「だい、じょうぶ...!二人は、オディオを...っ!」
自らの傷を抉る行為に苦し気な表情を浮かべるベーゼだが、力強く二人を鼓舞する。
その覚悟に応える為、アズールは再び獣を見据え刀を握り締めた。
「憎悪だか何だか知らないけど、許せないのはこっちも同じよ!」
「化け物に懺悔する器など持ち合わせてはいない...!」
『グルル...!』
同時に獣へと突進する武者と騎士。
双刀と大剣を左右から振りかざすが、獣はその爪でブレることなく受け止めてしまう。
「よくもロコの夢を無茶苦茶にしてくれたわね...!」
「蘭朶を返せ...!!」
『ヒヒ...!』
それでも怒りを燃やし、怯むことなく何度も刃を重ねる二人の剣士。
益々嘲笑を強める獣は、まるでじゃれるようにしてただ刃を弾くだけ。
遊ばれていると分かっていながら、彼女たちは無駄な鍔競り合いを続けるしかなかった。
「蘭朶...!どこだ、どこにいるんだ...!」
獣の巨体、それのどこに蘭朶がいるのか。
たとえば腕を、足を。
首を切り裂いたとして。
そこにもし、彼女がいたら。
その不安が二人の刃を鈍らせていた。
『ヒヒ...!グギャギャ...!コロス...!!』
「復讐は蜜の味か...!」
「笑ってんじゃないわよっ!」
獣は翼を大きく広げ、空中へと飛び上がる。
気味悪く笑い続ける獣へ毒づきながら、二人は空へと戦場を移す。
『ガウッ...!!』
「ちっ...!?」
「ベルゼルガの技!?」
追って来たヒロインたちに更に笑みを強め、獣は大量の赤黒い刃を全身から放つ。
"
ベルゼルガの魔法をも扱う、恐るべき獣。
かすり傷を負いながら何とか回避するが、それがダメージ以上の意味を持つことを、オディオ・ヴェスティアは知っていた。
「貴様ぁ...!!」
「待ちなさいイミタシオ...!」
大切な仲間を利用され、激怒するイミタシオ。
怒りのまま力任せに突貫してしまう。
『エノルメェェ...!』
「私を無視させないわ...!」
単独で戦わせるわけにはいかないと、アズールもまた獣との距離を詰める。
縦横無尽に飛行し切り結ぶ。
喜悦を強める獣と反対に、ヒロインたちの表情は焦りの色を濃くしていく。
手に感じる手応えが
外皮が更に硬化しているのだ。
最早フォルティシモ・カノンですら穿つことは出来ないだろう。
『それを相手に手加減なんて...!』
アズールは二刀を重ね、一本の大太刀と成す。
「ハァッ...!!」
『グギャアアア!?』
覚悟を決めた全霊の一撃。
油断していた獣の両腕を切り落とすことに成功する。
だが、それがいけなかった。
『カカッタ...!』
「しまっ!?きゃあぁぁっ...!!」
「アズール...!?」
獣の腕から吹き出た血が手裏剣のようになって、アズールの全身を切り裂く。
悲鳴と共に血飛沫を上げ、墜落するアズール。
「それで勝ったつもりか...!」
『コロス!エノルメ...!!』
一人になったイミタシオは再生を待たずに獣へ斬りかかる。
空中で取り回しにくいはずの大剣を手足のように使いこなし、何度も獣の体へ突き立てる。
『カテル!コロセル!!』
「ナメた口を...!」
傷付けた側から再生する体。
イミタシオは獣の勝利を確信したような言葉を潰そうと、その巨大な口へ刃を叩き込むが...。
「な、に...!?」
『グルル...!』
魔法殺しの大剣を、まるで飴のようにして噛み砕く。
黒騎士の体に走る怖気。
再生した腕を振るうには十分な隙が、そこにはあった。
『シネ...!エノルメ...!!』
「あがぁっ...!?」
勢いよく地面に叩き付けられるイミタシオ。
堅牢な鎧は剥がれ落ち、姿が通常の魔法少女のものへ変化してしまう。
『シネ!シネェェ!!』
「ぐぅっ!?ああぁぁぁぁっ!!」
動けないイミタシオをその巨大な足で踏みつける獣。
鋭い爪が彼女の柔肌を切り裂き、鮮血が飛び散る。
『オワリダ...!コレデ...!エノルメェェェェ!!!』
「っ...!」
ここまでか、と。
イミタシオが諦めかけたその時。
『やめ...てぇ...!』
「!...蘭朶、なのか...?」
突如動きを止める獣。
イミタシオの耳に聞こえて来た声は、あの不快なものではなく。
安らぎを与えてくれる、大切な仲間の声だった。
「シオ...ちゃん...えへ...」
「蘭朶!?よかった...!無事なんだな...!?待っていろ!今すぐお前を...!」
「シオちゃん...もういいよ...」
獣の体から浮き出るようにして、その顔だけを見せる蘭朶。
いつも気怠げな表情だが、今は更に生気を失って見える。
「もう、いい...?」
「あたしのことは、もういいから...えへ...手駒はここで...切り捨てて...。」
「は...?」
意味が分からないと、イミタシオは思う。
何がいいと言うのだろう。
手駒?切り捨てろ?
ふざけるな。
そんなことは絶対に...!
「世界征服、するんでしょ...?あたし、嫌だよ...シオちゃんを傷つけて、シオちゃんの邪魔になるなんて...えへ...今が、チャンスだから...あたしを、
「ッ...!」
涙を流しながら"自分を殺せ"と告げる蘭朶。
イミタシオは半狂乱になりながらそれを否定しようとする。
「バカを言うなっ!そ、そんなこと...!絶対に...!絶対にぃ...!!」
「えへ...おね、がい...あたし、あなたのことが好きなまま...死にたいの...あたし...あなたに会えただけで...幸せだったから...えへへ...」
「嫌だ...!嫌だ嫌だ嫌だ...っ!お前までいなくなったら...私は...!!」
子どもが駄々を捏ねるように介錯を拒否するイミタシオ。
精一杯の笑顔を浮かべていた蘭朶だが、やがて苦しみ出し、再び獣へと飲み込まれていった。
『みっ...チャン...。』
「らんだ...?」
『グルアァァァ!!』
再度目前で咆哮を上げる憎悪の獣。
蘭朶が作り出した、最後のチャンス。
それが失われた瞬間だった。
「ダメ、なのか...?」
イミタシオの胸元に付いたトランスアイテムが、ピシりとひび割れ始める。
「私では...魔法も、奇跡も...世界もっ...主人公でない私では...!応えてくれないのかっ...!?」
涙が溢れ、体中から力が抜ける。
亀裂走るハートが物語る、イミタシオの絶望。
『エノルメェェェェ!!!』
「わたし、は...」
無慈悲に振り下ろされる朱爪。
ハートが砕け散るのが先か、切り裂かれるのが先か。
最早救いはないと思える状況。
それでも、まだ"諦めない者"がいる。
「勝手に諦めないで...。」
「アズー、ル...?」
血を流しながらも、傷ついた体で朱爪を受け止める刃。
ルシファアズールはイミタシオを庇い、彼女の折れそうな心を一喝する。
「魔法や奇跡は敵でも、助けてくれる味方でもない...自分で、起こすモノでしょう...!主人公じゃないから助けられない?そんなわけないわ...!これは作り話なんかじゃない!あなたの人生なのよ...!!」
「私の、人生...?」
叩きつけられる爪を何度も受け止めながら、アズールは叫ぶ。
彼女は知っている。
決してイミタシオは、ロードエノルメは。
田中みち子は脇役などではないことを。
それだけじゃない。
彼女が切り拓いて来た道は、きっと"彼女だからこそ"辿り着いたモノであると。
だから、アズールは信じているのだ。
彼女の道がこんなところで途絶えるわけがないと。
「そうです...!諦めないでください...!」
『グギッ!?』
背後から獣を切り裂く闇の魔力刃。
肩で息をするベーゼは、それでもイミタシオへ声を張り上げる。
「魔法少女としての在り方が偽物でも!あなたの想いは!"愛"は本物のはずです...!それがある限り、私たちヒロインは...!」
「絶対に!負けたりなんかしないのよ...!!」
「...!」
愛。
思い出すのは、失った人たち。
愛してやることすら出来なかった妹。
離れると知って、それでも愛してしまった人。
そして。
今まさに失われようとしている、私を何より愛してくれた人。
「私は...。」
『グオォォォ!!』
「あぐっ...!」
「あぁっ!?」
咆哮を上げ、邪魔者を弾き飛ばす獣。
私たちの力は、想いの力。
愛が奇跡を起こし、希望という魔法になると言うのなら。
私のこの想いは!"もう失いたくない"という愛は!
きっと...!
「私はもう!何も取り零さないッ...!」
『
『グルァ!?』
閃光を放ち、偽物の魔法少女は今、
白銀に輝く鎧は軽く、それでいて頑丈。
以前までと違い各所が露出し、彼女の美しい体を浮かび上がらせる。
右腕に持つ剣は通常のロングソードと同サイズだが、圧縮された魔力が迸り光輝いて見える。
編み込んだ髪型も相まって、まさに"騎士"といった出で立ち。
「これが、本当の真化...!『"
『エノ、ルメ...!!』
その強い輝きに圧倒される獣。
しかし、その光に群がる羽虫もまた存在した。
「魔物たちが...!イミタシオを狙ってるの!?」
「ヒロインの晴れ舞台を邪魔なんてさせないわ...!ベーゼ!あれやるわよ!」
「あれ...?」
「決まってるでしょ?"合体技"よっ!」
強い魔法少女の力に反応し、集まって来る魔物たち。
アズールはベーゼを伴い、空中から狙いを定める。
「受けてみなさいっ!」
「真化した私たちの!全力全開っ!」
『『"メナス・フリーザー"ッッ!!!』』
剣と杖を重ね、お互いの魔力を合わせて放つ。
更に強くなった二人の、深まる愛が籠った全身全霊の一撃。
ただの魔物に耐えられるはずもなく、大群は一つ残らず粉々に砕け散った。
「...これで、後は貴様だけだな。」
『コロス...!ゼッタイニ...!ユルサナイ...!!』
「許さない、か...。」
『グギャァァッ!?!?』
瞬きの間に、獣の腕が千切れ飛ぶ。
驚きと痛み、そして
獣は"恐怖"した。
かつて彼女に屈した時のように。
体を震えさせ、目前の王へ頭を垂れる。
「構わん。私はただ、進むだけだ。
我が覇道の往く先が間違いだと言うのなら。いつか、誰かが私を止めてくれる。」
剣に魔力が集中し、天を突くばかりの巨大な光の柱となる。
獣は恐怖を憎悪で押さえつけ、全魔力で以て最後の抵抗を試みる。
「かつてお前たちが夢見た、魔法少女とやらがな。」
『エノルメ...!エノルメェェェェ!!!』
憎悪のままに全身を血の刃にして振り下ろすオディオ・ヴェスティア。
対するイミタシオに、最早憎しみはない。
罪を認め、それでも止まらず、いつか来る裁きに身を委ねる。
だから、今負けてやるわけにはいかない。
愛を忘れたヒロインたちに今。
手向けの花を。
「"
叫ぶこともなく、光に飲み込まれ消滅していくオディオ・ヴェスティア。
それは叫ぶ力も残っていなかったからか、それとも...。
獣の消滅を証明するように、空から降り注ぐトランスアイテム。
そして、最後に。
憎悪を振り払った騎士の元へ、失ないかけた"温もり"が戻った。
「みっ...ちゃん...?」
「私の側にいろ、蘭朶。もっと幸せにしてみせる。」
「......はいっ...///」
―――――――――――――――――――――――――――――
「しゅ...しゅごぃぃ...!!敵幹部が追加戦士的に光堕ちかつ更なる強化フォームまでぇ...!!カッコいい!尊い!推せるぅ!グッズ化はまだですかぁ!?///」
「もう...私以外でそんなに興奮するなんて...。」
魔力が切れたのか、変身が勝手に解除されうてなとその場に座り込む。
疲労困憊のはずだが...うてなはイミタシオの新たな姿にお熱で、疲れを感じる暇もないようだ。
原作でキウィが"トレスマジアに嫉妬はしない"と言っていたが、私は何だか胸がピリピリする。
こういう彼女が好きだったはずなのに、随分贅沢になったものだ。
「小夜ちゃん?どうしたの?」
「...何でもないわ。漸く終わったわね。」
「うん...大変、だったね。」
憎悪の獣は完全に消滅した。
これで夏休み前から続いていた魔物騒動も収まるだろう。
「でも、何でイミタシオの攻撃はあいつに効いたのかしら?」
「確かに、あんなに簡単に倒せるなんて...。それだけイミタシオのあの姿が、強いってことかな...?
でも、蘭朶さんだけ無傷なのは...。」
「それはボクが説明しよう。」
ふよふよと私たちの間に降りてくるまっくろくろすけ。
中身はそんな可愛いものではないが。
「お疲れ様だね、二人とも。いい戦いを見させてもらったよ。」
「ヴェナ...あなた、少しは手伝ったらどうなの?」
「嫌だなぁ。ただのマスコットにそんな力があるわけないだろう?」
「黒いのに白々しい...。」
どこに高見の見物を決め込むマスコットがいるのか。
うてなと共に白い目を向けつつ、仕方なく説明を促す。
「で、説明は?」
「イミタシオの以前の真化は"魔法を無効化する"能力を持っていた。今回の真化で、それが反転したというわけさ。」
「反転...?」
「憎悪の獣を成していたモノ。それは魔法ではなく。魔法に近く、それでいて"反対の性質を持つ力"なんだ。」
「魔法じゃ、ない...?」
どういうことだろう。
この世界は悪だろうが善だろうが、扱う力は魔法だけのはず。
そんな追加設定は見たことも聞いたこともない。
「ボクも知らなかったんだ。ついこの前までね。」
「知らなかった?あなたが?」
「凍刃羅刹。キミがきっかけだよ、小夜。」
「私...?」
そういえば、私の攻撃をイミタシオが無効化出来ない時があった。
まさか...私がその、魔法と反対の力を使っていたとでも?
「様子のおかしい、影のような魔物を見たことがあるだろう?そもそもあれは」
「水神!柊!あれを見ろ...!」
「え...?」
「...!?」
更に説明を続けるヴェナだったが、イミタシオの叫ぶ声に中断を余儀なくされる。
そして、彼女の指差す先の光景を見て...。
私たちは、今日何度目かも分からない驚愕に顔を歪めた。
「う、そ...。」
空っぽのはずの中身から、ドス黒いモノが溢れ出ていく。
それだけじゃない。
空から残骸に向かって降り注ぐ、無数の"影"たち。
「あれは...!」
「影みたいな変な魔物...!?」
「何故それがあんな風に吸い込まれていく!?あれではまるで...!」
まるで、食事をしているような...!
「...なるほど。最悪の事態だね。」
「ヴェナ、何か分かったの!?」
何かに思い当たった様子のヴェナに問い掛ける。
しかしそれもまた、予想外の出来事に邪魔されてしまう。
「いたっ...!?」
「小夜ちゃ...!?うぐぅっ!?」
残骸から伸びた触手が、私のトランスアイテムを奪い。
うてなの体を縛って引き寄せる。
「うてなっ!?」
一瞬の出来事でトランスアイテムは奪われてしまったが、うてなを連れて行かせるわけにはいかない。
咄嗟に手を掴み触手に抵抗を試みる。
「ぐっ...!なんて、力...!」
「小夜ちゃんダメ!このままじゃ小夜ちゃんも...!」
触手の力は強く、人間の膂力で抗えるものではなかった。
うてなごと地面に肌を削られながら、じわじわと引き寄せられてしまう。
「すまない!今助け...っ!?」
私たちを救おうと走るイミタシオだったが、突然光が弾け変身が解けてしまう。
魔力切れだ。
あれだけの戦いをした上に、きっと以前の傷もまだ癒えていなかったのだろう。
もう立ち上がることも出来ないようだ。
「水、神...!ひいら、ぎ...!」
「ぜったい、に...離さないっ...!」
「......。」
うてなだけは、絶対に失いたくない!
たとえ死んでも!
この手だけは...!
「
「え...?」
うてなに
意味が分からないままに、私は"マジアアズール"の姿となる。
「どう、して...?」
「上手くいってよかった...私の、最後の魔力を込めて...やっと...。」
うてなの握る力が弱くなり、どんどんその手が離れていく。
「だ、ダメ...!ダメよ離さないでっ!?あなたを失うくらいなら私はっ...!」
「小夜ちゃん...。」
繋いでいた手が、完全に離れるその刹那。
うてなが浮かべた涙と笑顔が、私の目に焼き付いた。
「ありがとう...っ」
「うてなああぁぁぁぁぁっっ!!!!」
残骸に飲み込まれていくうてな。
食事を終え、一瞬にして増殖した黒い影は、
「...先程の続きを話そうか。影の魔物は普通じゃない。憎悪の獣により励起された、世界に漂う"負の想念の化身"なんだ。」
「何を、言って...いる...?」
「人間が人間である以上、必ず生じる憎しみ、恨み、悲しみ、怒り。あらゆる負の想いが集まり、魔法に匹敵する絶望を振り撒く。キミたちの概念で言えば、最適な呼称はこれしかない。」
ビル程に大きな体。
禍々しい力に包まれ、真っ黒で表情も分からないそれ。
形作る姿は、まさに"悪魔"。
どこか想い人に似たその姿を、ただ呆然と見上げる。
「『"呪い"』だよ。」
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◼️□next episode◼️□
「なんか...初めてって感じしないね!」
「しっかり口閉じんと舌噛むで!」
「ヤダヤダそれアタシのぉ~!!(泣)」
「ん...。」
「いつからでしょうね...パンツなら...もう勝手に脱げるようになってたわ...っ。」
「ロコぉ...!(涙)」
「わたくしの影薄過ぎぃ!?」
「みっちゃん...ケッコン...えへ...///」
「まったく...どこが悪の組織なんだか...。」
「負けるはずがないのよっ!
今の私は、"マジアアズール"!
愛する人が憧れた!
最高の魔法少女なのだからっ!!」
次回、二期最終決戦です。
10/12(土)0:00投稿予定。