魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~   作:月想

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いつも感想、評価、ご愛読ありがとうございます!
今回から第2.5部『真夏の魔法少女(マジア・エスターテ)編』がスタートとなります。
季節はすっかり秋越えて冬一直線ですが、ヒロインたちの夏はこれから。彼女たちのワクドキな夏休みをお楽しみ下さい!


真夏の魔法少女(マジア・エスターテ)
第27話『アコガレムシバムヤミノシンカ』


「新しいおもちゃ、いっぱい買ってもらえて良かったわね。」

「コクリ。」

 

膝の上で満足気に頷くこりす。

新しい人形を楽しそうに戦わせる姿に、思わず頬が緩んでしまう。

怪獣と巨大ヒーローなんて珍しいセレクトだが、きっとキウィの薦めなのだろう。

なんだかんだ、新境地を開拓していくこりすである。

 

「ハァ...夏休みももう半分か...。」

「ヤなこと思い出させんじゃないわよ。」

 

お盆真っ盛りな夏休み半ば。

特に両親の実家に帰省することも、旅行に出掛けることもなく。

暇を持て余した私たちは、今日も何とはなしに冷房完備のナハトベースに集っていた。

 

夏休み前半は様々なトラブルのせいで、まったくエンジョイ出来ず使い潰す羽目になった。

せっかくの貴重な休みにむしろ疲労を蓄積させ、そうとは言っても何もしなければ終わってしまう。

その焦りと倦怠感をどうしようもなく、全員が微妙な感情でそれぞれの時間を浪費している。

まあ、こりすは楽しそうだが。

 

「さよちゃ~ん...どっか遊びいこ~...具体的にはさよちゃんのせくしーしょっとが撮れるとこいこ~...?」

「どこに行っても撮らせないわよ!?それに...そんなお金はないって話をしたでしょう。」

「そうよ。アンタみたいにみんながお小遣いたくさん貰えるわけじゃないんだから。」

「真珠はただでさえ小遣い減らされてるしな。」

「あぁ。ばかは大変だよな~。」

「うっさいわねアホキウィ!?勉強出来るからって頭がいいとは限らないんだからね!?ばーかばーか!!」

「真珠、語彙力。」

 

夏休みのせいとは言わないが、以前からちょっとした買い物やら飲み食いを細かく繰り返していた私たち。

アルバイトが出来ない中学生はお小遣いが唯一の収入源。

そんな考え無しなお金の使い方をしていれば、当然すぐに枯渇してしまうに決まっている。

 

つまり。

一番重要な夏休みというイベント半ばにして、"金欠"に陥ってしまったのである。

プールやらカラオケやら、行こうと思えば交通費に利用費に飲食代、考え出したらキリがないお金がかかるわけで。

結果として、無料で集まれるアジトにたむろするしかやりようがなくなっているのだ。

 

「ま、アタシはゲーム出来るからいいけどな。」

「悪の組織のアジトにゲーム機持ち込んでんじゃないわよ。」

「悪の組織、悪の組織ねぇ...。」

「あによ?」

「いや。最近のアタシら、()()()()()って。」

「...あー。」

 

トレスマジアに悪として啖呵を切ったものの、その直後に魔物騒ぎが本格化して、結局また彼女たちと一緒に脅威を打ち破ることになってしまった。

いずれも一般市民に見られていた可能性は高く、"エノルミータが悪である"という前提が崩れかけていてもおかしくない。

 

「アタシはサルファぶっころすよ~?」

「私も、ベーゼと戦わないという選択肢はないわ。」

「マゼンタは...。」

「...まあ、真珠もあの子とは決着着けたいと思ってるわよ?だけど...」

「...やり辛いって言いたいの?」

「コクリ。」

 

毎度毎度、あの子の純真さと善意には恐れ入る。

きっと今回は言葉を交わす時間が長かったからだろう。

私とキウィはブレないが、たまネモとこりすはマゼンタとは戦い辛くなっているようだ。

悪ですらタラシ込むその天性の愛されキャラ。

恐るべし、マジアマゼンタ。

 

「でもさよちゃんはぶっころすんじゃなくて、まだ遊んでたいんでしょ~?」

「まあ、それはそうね。まだまだ弄り足りないもの。」

「安定してんなぁ、アズール様はよ...。」

「遊んでたいって言うけど。実際、今すぐトレスマジアを倒すなんて出来るわけ?」

「...それはまあ、いけんじゃねーの?人数は5対3。真化出来る人数はイーブンだとしても、アズールもレオもあっちに負ける実力じゃねーし。」

「そっか。マゼンタは真化出来ないから、ぶっちゃけこっちが有利なわけね。」

「...じゃあ、()()()()()()()()()()()()()()。」

「「は?」」

 

私の発言に驚く二人。

こりすとキウィは何とも思っていない様子だが、忠誠度の違いだろうか?

 

「ちょうど暇だったし。私も別に決戦を先延ばしにしたいわけじゃないの。あなたたちが言う通り、戦力的にはこちらが有利。このタイミングで仕掛けないのは、むしろ"悪役らしく"ないんじゃないのかしら?」

「な、なるほどな...。」

「まあ、アンタがいいなら真珠も反対はしないけど...。」

 

本物の魔法少女になったベーゼと戦う。

それが私の望む結末だが、今の私たちを凌げない程度の実力ではどのみちその夢も叶わないだろう。

正義の味方はピンチになってこそ輝く。

早々に決着を着けられるなどという楽な展開は、きっとあり得ないはずだ。

暇潰しに悪役らしい絶望を与えてやるのも面白い。

 

「こりすもキウィも、異論はないわね?」

「コクコク。」

「やた~、サルファ爆殺キタコレ~。」

「一人だけ殺意高過ぎんだろ...。」

「遊びに行く感覚でって考えると、まだまだ真珠たち悪の組織って感じするわね...。」

 

何だかんだ退屈だったのか、割りと乗り気で立ち上がるみんな。

ベーゼにはこないだの借りがあるし、サルファは久しぶりにいじめてみたい。

そして何より、マゼンタの真化はいい加減見てみたい。

何か忘れている気がするが、さして重要なことではないのだろう。

存分に痛ぶって、その不屈の心を試してやるとしよう。

全員がトランスアイテムを構えたことを確認し、総帥らしく私は高らかに宣言する。

 

「今日がトレスマジア最期の日よ!エノルミータの恐ろしさを、世界中に知らしめてやりなさい!」

 

『『『『『変身(トランスマジア)!』』』』』

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「っしゃ~!!これでウチの勝ち越しや!!」

「あはは...すごいね、薫子ちゃん。」

 

大喜びの薫子ちゃんに苦笑いしつつ、持っていたコントローラーを置く。

 

「うてなもなかなかやるなぁ。普段からやっとるわけやないんやろ?」

「う、うん。ちょっと触ったことがある程度だから、薫子ちゃんには全然敵わないよ。」

「その割りにええ勝負やったやん。ネモはん以来に楽しめたで?」

「ネモちゃんとも仲良し、なんだよね。」

「まあ、あない話合う相手は貴重やし。仲良うしたいのは間違いやないなぁ。」

「ふふっ、そうなんだ。」

「うーむ...うむむ...。」

 

夏休みの昼下がり。

私たちトレスマジアは平和な日常を過ごしていた。

今日は薫子ちゃんのお家にお呼ばれしている。

お母さんにお昼ごはんをご馳走になり、そのまま薫子ちゃんお気に入りのゲームをプレイすることになった。

対戦ゲームは相手がいた方が楽しいだろうし、年相応にワクワク顔の薫子ちゃんは貴重な気がして、可愛かった。

勝てないまでも善戦出来たようで、期待通りくらいには楽しめたみたい。

 

「これはぁ...この公式がぁ...え~っとぉ...」

「さ、もう一戦いこか?」

「え。ちょ、ちょっと私...疲れちゃって...」

「そないいけずなこと言わんといてや。な?あと一戦だけ。」

「う、うん...でm」

「もうっ!あたしもまぜてよぉ~~っ!!」

「ミィーーーッ!?///」

 

突然はるかちゃんが薫子ちゃんに抱き着く。

いきなりで驚いたのか、珍しく悲鳴を上げる姿にびくっとしてしまう。

み、ミィ...?

 

「はるかちゃん、"宿題"は終わったの...?」

「ち、ちょっとだけ休憩!ね?いいよね薫子ちゃ」

「ンミ...ミィ...///」

「ンミミィになっちゃった!?

どうしたの薫子ちゃん!?それ鳴き声なの!?」

 

そもそも何故薫子ちゃんの家に集まったのかと言うと、はるかちゃんの夏休みの宿題を終わらせるのが目的だったからだ。

放っておくと夏休み中遊び放題のはるかちゃん。

それを心配し、見張りを兼ねて家に招いたというわけだった。

考えてみれば花菱家は元気な妹さんが三人もいるし、集中出来る環境じゃなさそう。

私の家でも良かったけど、そこはやっぱり薫子ちゃんがゲームしたかったからだと思う。

まあ、勉強してる人の横でやるのはどうかとも思うけど...。

ずっとはるかちゃんがソワソワしてるのは見えていたし。

 

「でもなんか、ミィミィ言ってて可愛いねぇ。」

「ミィ!?///」

「...。」

 

うーん。

気のせいかもしれないんだけど。

何だか最近、薫子ちゃんの様子がおかしい。

具体的には、はるかちゃんへの態度が変だ。

今のなんて

『いきなり抱き着くなや!ビックリするやろ!』

くらい言ってもおかしくないのに、実際は顔を真っ赤にしてよく分からない鳴き声を発しているだけだ。

あれじゃまるで、抱き着かれたことや可愛いと言われたことに()()()()()ようで...。

あの動揺のし方、私が小夜ちゃんに同じことされた時にそっくりなんだよね。

まさか薫子ちゃん、はるかちゃんのこと...。

 

「あ~...えと...何か、今後のことで話したいことがあったんじゃ...」

「あ!そうだった!作戦会議しなきゃだよね!」

「み...ミィ...。」

 

色々と察したので、まずは薫子ちゃんが人間に戻れるように話題を変えてみる。

まだ鳴き声しか出ないみたいだけど。

すごくいたたまれない感じがする。

 

「え~っと...あれぇ?何の作戦会議だっけ?」

「...え、エノルミータのことや...///」

「あ、戻った。」

 

顔色は治ってないけど、人語は何とか取り戻したみたいだ。

 

「エノルミータのこと?」

「平和な内に話しとこ思てな。前回のあの化け物騒ぎの時、二人は見とらんと思うけど...。」

 

端的に言えば、薫子ちゃんは戦力的に現在劣勢であることを私たちに伝えたかったらしい。

アズールとレオパルトは真化を会得し、ロコルベの必殺技の火力は凄まじく、ネロアリスは未だ底が見えない。

人数的にも私たちは少ないから、今攻められれば苦戦は必至であるということだ。

 

「ごめんね、あたしが真化出来ないから...。」

「そんな...はるかちゃんのせいじゃないよ...?」

「せや。真化がなくとも、はるかは強い。

ウチはちゃんと見とったで。」

「うてなちゃん、薫子ちゃん...。」

 

表情が翳るはるかちゃんを擁護する私たち。

前回の戦いでどんなことがあったのかは聞いている。

はるかちゃんが決して私たちに劣っているなんてことはないんだから。

 

「それに、あの時見せた姿は真化の"兆し"や。きっとすぐに、はるかも真化出来るようになる。」

「ほんと!?」

「ああ、絶対そうや。」

「そっかぁ!いよいよあたしも真化かぁ~!」

 

すごく嬉しそうだな、はるかちゃん。

マジアマゼンタの真化かぁ...。

正直、ファンとしては一番楽しみな強化フォームだったりする。

すごく可愛いのはもちろんとして、武器が槍だからカッコよくなる可能性も捨てきれないよね。

騎士はもうイミタシオがなってるけど、それとはまた違った雰囲気かなぁ...。

 

「は、はるかちゃんはどんな姿になりたいの?」

「あたしはね~...ちょっと恥ずかしいけど、お姫さまみたいにフワフワで可愛いと嬉しいなぁって!」

「お姫さま...///」

「ええ...すっごく可愛ええ...///」

 

マゼンタのお姫さまな真化形態を想像し、その光景に涎を垂らす私と薫子ちゃん。

やっぱり薫子ちゃんも気になってたんだね。

 

「た、楽しみだね...!///」

「はるかなら何でも可愛いはずやし...///」

「あはは...何か、照れちゃうよ二人とも。」

 

真化の姿は理想の姿らしいし、本当にお姫さまみたいになるんだろうな。

...あれ?だとすると魔女になっちゃう私はいったい...?

 

「じゃあ、いつ真化チャンスが来てもいいように、早く宿題終わらせないとね!」

「宿題はあんまり関係ないような...。」

「まあ、はるからしくてええんとちゃう?」

「...そうだね。一生懸命で元気いっぱいなのが、はるかちゃんだもんね。」

「がんばるぞー!」

 

元気になった我らがリーダーの姿に安心しつつ、私自身も強くならなきゃと思案する。

ちなみに、宿題はもう終わらせてある。

小夜ちゃんとキウィちゃんのおかげだけど。

 

「!?」

「この感じ...。」

「久しぶりやないの...!」

 

全員の頭に走るアラームのような感覚。

久しぶりだけど間違いない。

強い魔力反応を感じる...!

 

「エノルミータ!」

「噂をすればってやつだね...!」

「行こう、二人とも!」

 

一般の人に危害を加えることはないだろうけど、だからこそ彼女たちの目的は私たちのはず。

たとえ不利だとしても、逃げるわけにはいかない。

 

「今日こそこらしめてやるんだから!覚悟してよね、エノルミータ!」

 

『『『変身(トランスマジア)ッ!』』』

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「おらぁ~逃げろ逃げろ~。」

「エノルミータのお通りよ~。」

 

『キャー!?』

『エノルミータよぉぉ!?!?』

『にげろぉぉーっ!?』

 

私たちの姿を見た途端、悲鳴を上げて逃げ出す一般市民の皆さん。

お手本のような恐怖っぷりだけど、そんなに私たちって恐いのだろうか?

 

「...ロコ、毎回思うんだけど。」

「何をだよ?」

「ロコたちって無関係な人を巻き込んだり、進んで物を壊したりもしてないじゃない?なのに何でこんなに恐がられてるわけ?」

「お前の歌聴きたくねーんじゃねぇの?」

「ジャイ○ン扱い!?ロコがいない時でも逃げられてんでしょーが!?...逃げられてる、わよね...?」

「不安になんなよ...。」

 

確かに。

ロコだけ避けられてるなら強制リサイタルが嫌だからで説明はつくが、ちゃんと全員"エノルミータ"として恐れられている気がする。

何だかんだ街の為に魔物と戦ったり、こないだのアイドル騒ぎでも人々を守りながら戦ったりと、ぶっちゃけ悪者なのか怪しいくらいの評価が妥当だとは思う。

あれかな?衣装が破廉恥なのと魔法少女たちを可愛がって(意味深)るのが恐いのかな?

この世界、みんな一生思春期説。

...流石にないか。

 

「まあ、そこは追々ヴェナを問い詰めてみましょうか。今はそれより...」

「お。来たよ~アズールちゃ~ん。」

 

「そこまでだよ!エノルミータっ!」

 

考え事をしている間に、漸くのご登場らしい。

いつも通りの元気な声に実家のような安心感を感じつつ、久しぶりに悪役らしくニヤリと笑って出迎えてみせる。

 

「悪巧みは許さないぞ!魔法少女トレスマジア!参上っ!」

「随分ゆったりとしたご登場ね。ヒロインともあろうあなたたちが、まさか夏休みの宿題に悪戦苦闘していたわけじゃないでしょうね?」

「えっ!?な、何で知ってるの!?」

「マゼンタ、カマやカマ。」

「かまぼこ!?」

「もうツッコむのも億劫や...。」

「ふふっ、相変わらずお可愛いこと。」

 

早速天然をぶちかますマゼンタ。

我が親友ながら今日も可愛い。

いやぁ、久しぶりだなこの感じ。

今日は溜まりに溜まった分、三人を無茶苦茶に可愛がってやろう。

 

「あ!戦う前に言っておかないと!」

「マゼンタちゃん...?」

「こないだは私の仲間を助けるために力を貸してくれて、本当にありがとうっ!」

 

そう言って、敵である私たちに頭を下げる正義の味方。

初めは驚いた私たちだが、すぐに全員が苦笑いを浮かべる。

みんな彼女の真っ直ぐさには、ある意味お手上げということらしい。

 

「ぁ...ありがとう、ございました...!」

「あぁもう...ベーゼもマゼンタも、相手は敵やっちゅうのに...。」

「それはそれ!助かったんだからお礼は言わなきゃ!」

「...まったく。ある意味、敵わないわね。

どういたしまして。でも、こないだは特別だからね?」

「分かってる!アズールちゃんたちが悪い子のままなら、あたしたちが絶対にこらしめてみせるよ!」

「出来るものなら、どうぞご自由に。」

 

にこやかな表情を一変させ、決意に満ちた瞳を見せるマゼンタ。

その姿に嗜虐心をそそられ、私もまた彼女とは反対の邪悪な笑みを浮かべる。

 

「行くよ!サルファ、ベーゼ!」

「おう!」

「うん...!」

「ロコ、ルベル。あなたたちは休んでいていいわ。」

「ハァ?まだ何もしてないんだから疲れてなんて」

「分かんねーのかよロコ。アズール様は、()()()()()()()()()()って言ってんだぜ?」

「...あぁ、なるほどねぇ。」

 

私の意図を理解して、悪役らしい嘲る表情になるロコルベ。

こういう時の二人のノリの良さが大好きだったりする。

効果は覿面のようで、早速サルファが声を荒げて憤りを露にする。

 

「どういうつもりや...!」

「てめえら程度全員で相手するまでもねぇってことだよ、ひんにゅーマジア。」

「ん...。」

「久しぶりに3対3の公平な勝負といきましょうか?一人ずつなら、もしかしたら届くかもしれないわよ?」

「随分余裕なんだね...。」

「あたしたちだって強くなってるんだよ!後悔しても遅いんだからねっ!」

 

懐かしさすら感じる並び。

レオとアリスの二人を従えて、私はトレスマジアに向き合う。

 

「どこからでもどうぞ?」

「バカにしてぇー!!」

「くたばれクソサルファ!!」

「今日こそ潰したるわアホ団子っ!!」

「こないだのお仕置きだよ、アリスちゃん!」

「ニヤリ...。」

 

それぞれ標的を見定め、一斉に戦闘が始まる。

 

私の挑発に耐えかねたのか、真っ直ぐに槍を構え突っ込んで来るマゼンタ。

アズールソードを作り出し、軽々と受け流してみせる。

 

「さながら闘牛のようね。ピンクのお牛さん、もう少し考えて戦いなさいな。」

「ピンクじゃなくてマゼンタだもん!」

 

今度は横凪に振るわれる槍をかわし、続いて繰り出される高速の突きを正確に弾き返していく。

 

「腕を上げたようね。少しは楽しめそうだわ!」

「あたしはもっと強くならなくちゃいけないの!だから、負けないっ!」

 

更に速度を上げてくるマゼンタの攻撃に喜びながら、二刀流にした氷の刃でこちらも反撃の頻度を増やしていく。

 

「っ!?」

「あら、もう限界なの?」

「そんなわけないっ!」

「ふふっ、そうでなくちゃ。...でも、お仲間はどうかしらね?」

「っ!?サルファ、ベーゼ!?」

 

視線を少し外し、私から見て左翼の位置。

絶え間なく浴びせられる弾丸と爆雷の雨を片手の障壁で防ぎ、時にはもう片方のガントレットで弾き飛ばし。

少しずつレオとの距離を詰めるサルファ。

守りと攻めを同時に行う戦い方は初めて見る。

彼女なりの工夫なのだろう。

 

「考え無しに撃ちまくるだけでうちに勝てるつもりやったんか?やっぱり団子脳ミソは甘いだけで何も工夫出来へんみたいやねぇ。」

「うっせぇ!!いい気になるなよつるぺた魔法少女!!」

「誰がつるぺたやぁ!!」

 

地上に降り、距離を離そうとするレオ。

しかしサルファはシールドを前面に構え、被弾も恐れず一気に突っ込んでいく。

 

「なっ!?」

「これでしまいやレオパルト...!!」

「んちゃってぇ~...。」

「!?」

 

鉄の拳がレオに届くまで、あと数メートルといった位置。

勝ちを確信したサルファを、()()()()()()()が襲う。

"地雷"、と言うのが正しいのかは分からないが。

サルファの為の罠を、レオは事前に用意していたのである。

マゼンタと会話している最中に、何か準備していることには気付いていた。

サルファのレオへの印象を逆手に取った見事な作戦だ。

 

「考え無しはもうやめたんだよ。

おっちね、ひんにゅー。」

「しまっ...!?」

 

地雷に動きを止められ、隙だらけの体に今度こそ弾丸が叩き込まれる。

浅くない傷を刻まれながら、サルファは遥か後方へ吹き飛んでいく。

 

「サルファ!今助けに...!」

「行かせないわよ?」

「くっ...!」

 

助けに行こうとするマゼンタを遮り、打ち合いを再開する。

ここでヒーラーに動かれるわけにはいかない。

 

「そこを退いてアズール!サルファを助けないと...!」

「人を気にしている余裕があるの?」

「きゃあ!?」

 

鈍った槍捌きの隙を突き、マゼンタスピアーごと彼女を地上へ弾き飛ばす。

そのまま追撃しようとする私だったが、突如地上を覆った()()()()に気付き思わず振り向く。

 

「これは...!"ウルトラマム"!?」

『ジュワ。』

「キラキラ!」

 

『グギャアア!!』

「ま、負けないでっ!私の魔も...怪獣さん!」

 

私たちの真上で取っ組み合う巨大ヒーローと巨大怪獣。

夢のような光景ではあるが、ちょっと派手すぎて街に被害が出ないか心配になる。

 

「というか!これ出来るなら私とレオちゃんが大きくなる必要なかったのでは!?初めからお人形遊びで良かったよねアリスちゃん!?」

「ソッポムキ。」

「~!...今日という今日は怒っちゃうよアリスちゃん!やっちゃえ!えーっと...キングゴチラ!」

『ギャオー!』

『ショワッチ!』

 

特撮さながらの大立ち回りを演じるアリスとベーゼの使い魔。

ビジュアル的に善悪が反転している気がするが、ベーゼはそれでいいのだろうか...?

 

「...ダメだぁ!?何か負けないといけない気がするぅ...!?」

『デュア!』

『ギエェェー!!』

「あぁー!?」

 

やっぱり、良くはなかったらしい。

怪獣はヒーローに倒されるまでがお仕事。

十字に合わさった腕から繰り出される光線に本能的に当たってしまい、爆発するベーゼの使い魔。

その余波を食らい、主人もまた派手に吹っ飛ばされた。

 

「っ...二人とも...今、助けに...。」

「そろそろ仕上げの時間ね。」

 

よろけながら立ち上がるマゼンタの手足を凍りつかせ、その身動きを封じる。

 

「っ...!これ、また...!」

「思い出したみたいね。ふふっ...。」

 

アズールソードでマゼンタの衣装を切り裂き、大事な部分だけを露出させる。

 

「や、嫌ぁ...!?///」

「あぁ、素敵よマゼンタ。先ほどの凛々しさはどこへやら。恥じらうあなたはヒロインではなく、最早ただの可愛い女の子。」

「やめ...!?やめてアズールちゃん...!///」

 

水流で作り出した鞭をしならせ、マゼンタの敏感な部分を狙う。

あの、"初めての日"の再現。

高ぶる感情のまま、思い切り鞭を彼女へ向け放つ。

しかし。

期待通りの手応えと悲鳴を、私が感じ入ることはなかった。

 

「なに...!?」

「え...?」

 

マゼンタを縛る氷と、私の鞭が()()()()()

動揺する私が視界に捉えたのは、見覚えのある漆黒の甲冑。

マゼンタを抱き上げ、私から距離を取るように離れる。

 

「3対3と言うのなら、私たちが参戦しても問題はないな?」

「お姫さま抱っこ...あたしの...お姫さま抱っこを...!」

「マゼンタ様の乳首キタコレ!脳内保存、ヨシっ!色々と捗ってしまいますわぁ!!」

「二人とも...頼むから少し黙っていてくれないか...。」

 

ご丁寧に見やすい位置で並ぶ、ハロウィン染みた奇抜な三人組。

相変わらずマイペースが過ぎるが、ここは空気を読んでシリアスに反応しておこう。

 

「現れたわね...シオちゃんズ...!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「えっと...助けてくれて、ありがとう...?」

「礼など不要だ。そもそもお前を助けたわけではない。」

「へ?」

 

言葉とは裏腹に優しくマゼンタを降ろすイミタシオ。

露出した部分を隠すためにマントをかけてあげるなど、その対応はかなり紳士的である。

同時に、それを恨めしげに見るベルゼルガの目が更に恐いことになっているわけだが...。

 

「無事かマゼンタ!?」

「遅くなってごめんね!吹き飛ばされちゃって...。」

「二人とも...。」

 

乱入者により戦闘が中断されたからか、劣勢だったベーゼ、サルファがマゼンタの元へ駆け付ける。

いずれもマゼンタを心配しているが、二人の方こそ外傷がありダメージは少なくないように見える。

 

「あたしより二人の方が心配だよ!すぐ治すからね!」

「す、すまん...っ?///」

「ありがと...っ?///」

 

癒しの光が二人を包み、傷が修復されていく。

それ自体は問題ないのだが、何やら回復魔法を受ける二人の様子がおかしい。

 

「んっ...な、なんや...?///」

「ひぅっ...?///」

「ど、どうしたの?もしかして痛かった!?」

「い、いや...///」

「痛い、というか...///」

 

頬を紅潮させ気まずそうな顔をする二人。

マゼンタは歯切れの悪い仲間たちに困惑しながら、それでも治療を完了させる。

 

「はいっ!これでもう大丈夫!」

「ありがとう...///」

「お、おおきに...///」

 

一応お礼は言っているものの、やはり微妙に気まずそうだ。

シオちゃんズもまた不思議そうにその光景を見守っていたが、変態ことパンタノペスカだけは、難しい顔をしてうんうん頷いていた。

マゼンタは二人に追及すべきか迷うが、タイミングよく痺れを切らしたアズールが声を上げる。

 

「私たちの戦いを見事に邪魔してくれたわね!何が目的なのかしら!」

「よくぞ聞いてくれた、我が宿敵ルシファアズールよ!」

 

妙に芝居掛かった言い回し。

まるで事前に打ち合わせたかのような自己紹介導入シーン。

勿論わざわざそんなことはしていないが、彼女たちは両方空気の読めるいい女。

今はそういう流れだと、所謂"お約束"を意識してのやり取りであった。

 

「コホン...。聞くがいい!戦場に集いし万夫不当のヒロインたちよ!我等は"シオちゃんズ"!やがて世界を征し、神すら凌駕する最強が我々だ!私はお前たち全員を欲っする!大人しく我等に降るがいい!そうすれば、この世界の覇権の一端を担わせてやろう!!」

 

「.......は?」

 

聞いていた全員が同時に、まったく同じ反応を返す。

事情を知るアズールもテレビ的な感じで空気を読んだ為、一人残らず呆れ顔である。

 

「キャー!素敵ですわシオちゃんさまー!

ぱちぱちぱち!」

「えへへ...抱いて...♥️///」

「~っ...!///」

 

イミタシオとて今の発言が唐突かつ、厨二病チックな恥ずかしいものであることは百も承知。

だか、仕方なかった。

思えば、アズールとベーゼを除けば他の面子からの好感度は0も同然。

親しみやすさも皆無で、仲間にするなど今現在では不可能と言える。

しかし、彼女にはヒロインたちの力が必要だった。

たとえ言い慣れない原作ロードエノルメみたいな台詞を鼻で笑われ、恥辱に震えることとなろうが、彼女はここで宣言しておく必要があったのだ。

評価が敵から変な人になっただけでも、何もしないより大分マシなのである。

だから、仕方ない。

仕方ないので、明らかに冷やかして楽しんでいやがるエロメガネだけは振り向き様にひっ叩いておく。

 

ちなみに。

原作を知るアズールだけは、漸く聞けたロードみち子の迷言に内心感動していたりする。

 

「いっへぇへふほ...(涙)」

「さ、さあっ!我が軍門に降る理知的な者はいないのか!?///」

「ど、どうしようか...?」

「いや迷うとこやないやろ。」

「私たち、正義の味方だからね...?」

「支配者は私一人でいい。」

「さっすがアズールちゃん!抱いて!♥️」

「スピー。」

「ロコ、未だにあの人とどう接したらいいか分からないのよね...。」

「ロードさまの方向性がわかんねーよなぁ...。」

 

顔を真っ赤にしながら尚も問い掛けるイミタシオだが、予想通り全員からすげなく断られることに。

精神的にそこそこダメージを負ったものの、何とか威厳を保ちつつプランBへと意識を変える。

 

「...フッ。ならば、力ずくで従わせるだけだ。行くぞ!ベルゼルガ!パンタノペスカ!」

「うん...。」

「はいですわ!」

 

イミタシオの合図と共に、エノルミータへそれぞれ向かっていくシオちゃんズ。

武器を構えるその姿に、各々が臨戦態勢となる。

 

『チャンスや...!マゼンタはうちとアズールんとこ、ベーゼはあの団子バカんとこへ!』

『うんっ!』

『わ、分かった...!』

 

置いてきぼりにされかけたトレスマジアだが、何かを閃いたらしいサルファに指示されアズール、レオパルトの元へ別れて向かう。

 

「あん...?」

「...なるほど、考えたわね。」

 

彼女たちの意図を察しつつ、そのまま迎え撃つエノルミータ。

ベーゼとマゼンタも遅れて気付く。

サルファがシオちゃんズを利用した、"各個撃破"を狙っていることに。

 

「一人では勝てないと踏んで、今度は二人掛かり?」

「卑怯とは言わんよなぁ?悪の組織の総帥様。」

「さっきみたいにはいかないよ!」

 

アズールに対するはマゼンタとサルファ。

奇しくも、本来あり得たはずのトレスマジア対決となる。

 

「今日は倒させてもらうよ、レオちゃん!」

「いつかのお礼...お化け屋敷の、続き...。」

「はん!負けミイラと負け魔女の遠吠えかぁ?ハロウィンまでぐっすり眠らせてやんよ!」

 

レオパルトを中心に、因縁のあるベーゼ、ベルゼルガが三つ巴で睨み合う。

 

「久しいなロコルべ!再び我が配下となることを許そう!」

「アンタまでカップリング呼びすんな!?」

「今さら仲間になんてなるわけないでしょ!」

「うるさい!行こう!」ドンッ!

「どこぞの海賊王みたいなこと言い出したわよ...?」

「悪のカリスマ...結構憧れてたんだけどなぁ...。」

 

元上司と部下という、何とも気まずい対戦カードとなったイミタシオVSロコルべ。

 

「こ...こんな小さい子を...エフ...いけませんわ...エフエフ...///」

「オゲー...。」

 

そして、完全に変態(余り物)を押し付けられた形のネロアリス。

過去一感情的かつ嫌悪に溢れた表情を浮かべている。

 

「相手は決まったようね。それじゃあ...第二ラウンドといきましょうか!」

 

アズールの宣言を合図として、各所で決戦の火蓋が切って落とされる。

ありそうでなかった、三陣営入り乱れる乱戦。

 

『『『『真化(ラ・ヴェリタ)!』』』』

 

真化が可能な者は全て変化し、出し惜しみなしの全力の戦闘を開始する。

戦況は様々。中には開始数分で決着が着きそうな組み合わせもあった。

 

「やっぱ反則でしょあの人っ!?」

「最早いじめだろこの組み合わせ!?チェンジ!チェーンジぃ!?」

「大人しく倒されろ!そして起き上がり仲間になりたそうな目でこちらを見るがいい!」

 

魔法を大剣で斬り捨てられ、文字通り手も足も出ないロコルべ。

過去のトラウマが甦り半べそをかきながら、必死に逃げるコマンドを連打している。

 

「ぶべっ!?ぼっ!?ちょま...!?です!?わ!?ぐぼぁぁ!?」

「シュッシュッ。」

 

アリスの鋭いシャドーボクシング。

は、関係ないが。

彼女の操るカンガルーのぬいぐるみが、油断し切っていたペスカのハンマーを弾き飛ばし、マウントを取った上で熾烈な乱打を浴びせる。

モノクルが無惨にバッキバキになり、いくら変態と言えどちょっと同情するレベルのボコボコ具合である。

 

「げぇっ!?野菜のくせに果物面してるやべーやつだっ!?」

「野菜、きらい...。」

「ふふっ!いいですよお二人とも!もっとその嫌悪と恐怖に満ちたお顔を私に見せてくださいっ!!」

 

レオパルト、ベルゼルガ両名の悪夢からスイカと野菜の化け物を誕生させ、二人を攻め立てるベーゼ。

いつも通りドSな本性をさらけ出し、正義の味方(笑)な戦い方で優勢を保っている。

後で反省会待ったなしだ。

 

「なかなか楽しませてくれるじゃない!」

「まだまだこないなもんやないで!」

「合わせるよサルファっ!」

 

ある意味お約束の、ちょっと緊張感に欠ける戦いがほとんどの中。

一進一退の真面目な攻防を繰り広げる組み合わせが一つだけ。

悪の総帥として全力を見せつけるアズールに対し、魔法少女たちは正義の誇りと友情を燃やして抜群のコンビネーションを発揮する。

高速で翻弄するサルファ。

それに対応しようとするアズールの、時偶見せる隙を的確に突いていくマゼンタ。

予想以上に、彼女たちは食らいついていた。

 

「素敵よ!もっと私を昂らせてみせなさい!」

「ナメた口利けんのも今のうちや...!」

「やあぁぁっ!!」

 

台詞とは裏腹に次第に押されていくルシファアズール。

いつかのリベンジを果たす為、魔法少女たちは実力以上の力を発揮し続ける。

端から見れば、このままでは押し負ける状況。

しかし、アズールに焦りの色は見られない。

彼女には二人の()()()()()()()()のだ。

 

「そんなにマゼンタが大事なのかしら...!」

「うぐっ!?」

「マゼンタっ...!」

 

徐々にマゼンタに攻撃を集中させ、崩れたところに猛吹雪を放つ。

その狙いは勿論、彼女を咄嗟に庇おうとしたサルファだった。

雷の翼を凍りつかされ、決定的な隙を晒す。

 

「墜ちなさい...!!」

「がぁぁ...!?」

「サルファ...!?」

 

土煙を上げて地面に叩き付けられるサルファ。

真化も変身も解けていないが、立ち上がることも出来ずに苦しんでいる。

 

「待ってて!今...!?」

「先程とまったく同じね。」

 

回復に向かおうとするマゼンタを遮り、アズールはその手の中の双刃を太刀へと変化させる。

 

「どいてっ...!」

「退かせてみせなさいな。」

 

果敢に立ち向かうマゼンタだったが、真化したアズールとの力の差は歴然。

僅か数回の打ち合いを経て、サルファと同じように地上へ吹っ飛ばされてしまう。

 

「あ...ぐ...!?」

「チェックメイトね。」

「マゼン、タ...!」

 

動けない二人に向かって、その大太刀を振りかぶるアズール。

 

「マゼンタちゃん、サルファちゃん!?」

 

事態に気付いたベーゼが自らの戦闘を放棄し、二人の元へ急ぐ。

だが、最早間に合わない。

 

「マゼンタは...ぜったいに...!うちが守る...!!」

「サルファ!?ダメ...やめて...っ!?」

 

フラつく体を文字通り"盾"として、マゼンタを後ろに庇うサルファ。

そんな悲壮な覚悟と、守られるしかないマゼンタの姿を嘲笑い。

悪鬼の王は無情にもその刃を振り下ろす。

 

「最後まで、()()()()だったわね...!」

「...!」

 

その僅かな時間に突き立てられた、自分の弱さが仲間に敗北をもたらしたという事実。

何度も痛感した、自分だけが足を引っ張っている現状。

情けない、許せない。

この時初めて、マジアマゼンタは思った。

"どんな手を使ってでも強くなりたい"、と。

彼女らしさを捨て去った、暗く汚れた力への渇望。

故に、彼女は至る。

真化とは名ばかりの、()()()()()()へと。

 

真化(ラ・ヴェリタ)ッ!!』

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

間に合わない。

そう諦めかけた瞬間、奇跡は起きた。

マゼンタちゃんが唱えたその言葉。

それに合わせて溢れる魔力、放つ輝き。

 

「真化...!?」

「ほんまに...!?」

 

光に包まれるマゼンタちゃんの身体。

みるみる変わっていく衣装。

そのシルエットはまるで...。

 

「この光!お姫様やないのぉ!?///」

「えっ!?ウソ!?全然気持ち作ってなかった!!///」

「!...ぁ~...すっかり、抜けていたわ...。」

 

シリアスなシーンだということを完全に忘れ、サルファちゃんと共にテンションを爆上げしてその光景を見守る。

アズールが何やらげんなりした顔をしているけど、きっと予想外の強化に驚いているだけに違いない。

 

『めっちゃ楽しみ!めっちゃ楽しみ!!

どんなんやろマゼンタの真化!!お姫さまみたくなりたい言うてたもんな!長いスカートにフリルなんてあしらってもうてそれはそれはかわええんやろなぁ!!』

『えーっ!?あのマゼンタがついにパワーアップ!?古参ファンとしては感慨深いどころか泣きじゃくるほどの神展開じゃないですかぁ!!王道ヒロインのあのマゼンタですよ!?きっとお姫さまとか妖精とかそーゆうキラキラできゃわわな姿になるんだろうなぁフィギュア化はまだですか!?』

 

お互いの心の声を恥ずかしげもなくぶつけ合い、大興奮で今か今かと完成を待つ。

やがて光が弱くなり、いよいよお披露目かと思われたその時。

 

()()()()が、彼女を飲み込むようにして現れた。

 

「は...?」

「ん...?」

 

禍々しいそれは、マゼンタちゃんの中へ吸収されるように身体に溶けていき。

ついに、その全貌が明らかになる。

私たちの目の前で、真っ黒な羽根が舞散った。

 

「うふふっ...マジアマゼンタ、『"フォールンメディック"』...。」

 

「「...........は?」」

 

そこにいたのは、お姫さまでも、妖精でも。

王道の強化フォームですらない。

露出が多いナース服に、褐色の肌。

妖艶に微笑みながら巨大な注射器を構える、"片翼の堕天使"だった。

 

「はぁ...やっぱり...。」

「なんだ、あれは...?」

「あの子らしくないわね...?」

「トラブルの匂いがプンプンしますわよ?」

 

私たちの違和感に同意するように、他陣営からも困惑の声が聞こえる。

 

「マゼ...ンタ...?」

「マゼンタちゃん...なの...?」

 

目の前の光景に理解が追い付かず、そのマゼンタちゃんらしき人に問い掛けてしまう。

いや、分かってる。

分かってるん、だけど...。

 

「そう...だよぉ。これが、あたしの...新しい姿ぁ...♥️」

 

艶かしく自分の身体をなぞりながら。

出来れば違うと言って欲しいその人は、舌舐りをしてこの現実を私たちに突き付ける。

 

「お注射、しちゃうよぉ♥️」

「「......」」

「......ぁはん♥️」

「「ヤダァァァーーッッ!?!?(泣)」」

 

嫌ぁ!やめて!?くねくねしないでぇ!?

私たちの清楚なマゼンタを返してぇ!?

解釈違いどころじゃない衝撃で内臓全部吐き出しそうだしもう目が潰れそうなんですけどぉ!!

やばい!死んじゃう!助けて!

もういっそ楽にしてくれぇ!?

 

「フォールン、メディック...。」

「マゼンタ...なのよね?」

「なんかすっげぇドエロくなってね?キャラ被り?」

「ま、マゼンタ...!アンタ大丈夫か!?そ...そないな格好して、アンタ...?」

 

気を取り戻したらしいサルファちゃんが動揺しながら、まずはマゼンタちゃんが無事なのかを確認する。

覚束ない足取りが、その穏やかでない内心を物語っているけど...。

 

「サルファ...こんなに震えて...身体中ボロボロで辛いんだね...。」

「マゼンタ...(見た目で判断しちゃいかん...マゼンタはマゼンタや...!こん子が望んでこないなったんなら、ウチは...!)」

 

以前と変わらず自分を思い遣るマゼンタちゃんを見て、必死に自身を納得させようとするサルファちゃん。

テレパシーで思考が駄々漏れになったままなのはツッコまない方がいいだろう。

 

「あたしが癒してぇ...ア・ゲ・ル♥️」

「ぷわあぁぁーー!?!?(泣)」

「グアーーッッ!?(血)」

「酷い吐血ね...マゼンタが変になったストレスよ...。」

 

あまりの凄惨な在り様に血を吐いて悲鳴を上げる私たち。

トレスマジアは、もうダメかもしれない...。

 

「怖くないよぉ?安心してぇ♥️」

「ちょっ!?なに!?マゼンタなにしてはるんっ!?」

 

マゼンタちゃんは髪をまるで腕のように操りサルファちゃんを拘束。

手に抱えた巨大な注射器を、サルファちゃんの()()に向けて構える。

......え。まさ、か...?

 

「"元気"にしてあげるねぇ...♥️」

「ウソやろ!?それホンマに刺すつもrミ"ィィィィ!?!?」

 

あぁ、ひどい。

なんということでしょう。

みんなのヒロイン、おんなのこのあこがれ。

あの、マジアマゼンタが。

こうしゅうのめんぜんで、サルファのおしりになにかをそそぎこんでいます。

ああ、すごい。

いままでにきいたことがないこえをあげていますよ。

 

「っ...ケガが...治っとる!?///」

「あはっ。良かったぁ♥️」

 

あ、本当に治療は出来るんだ...。

もう色々と取り返しがつかない気がするので、心を無にして二人の元へ近づく。

 

「ベーゼ...これで三人、キレイに揃ったねぇ♥️」

「アッハイ。オツカレサマデス。」

「あかん!?ベーゼは限界や!せやかて、ウチももうとっくの昔にあっぱらぱぁやけどなぁっ!?アハハァ!!」

「これはひどい。」

「まさかあのひんにゅーに同情する時が来るとはなぁ。」

「アズール!アンタが毎度毎度変態な行動ばっかするからロコの大事なライバルがあんなんになったんじゃないの!?」

「私悪くないもん。原作通りだもん...。」

「丶(・ω・`) ヨシヨシ。」

 

あまりにあんまりな私たちに、ショックを隠しきれない様子のエノルミータ一同。

そんな彼女たちに向かって、マゼンタちゃんは先ほどまでと違う好戦的な笑みを浮かべる。

 

「さ~て...エノルミータ!次はあなたたちにお仕置きしちゃうんだから♥️」

 

エノルミータと戦うつもりはあるらしい。

正義感があるってことは、単純な闇堕ちとかじゃないってことかな...?

 

「ハァ...ハァ...っ。」

「流石に、長々とやり過ぎやな...っ。」

 

真化状態は常に全力を発揮し続けるようなもの。

魔力消費の激しさから、既に私たちの体力は限界だ。

 

「ふたりとも辛そう...魔力を回復させないとねぇ♥️」

 

心配そうな顔をした後、何故か衣服の胸部分をずらして露出させる。

すっごく嫌な予感がする...。

これ以上何があるって言うんで

 

「ここ..."ちゅ~"ってしてぇ...♥️」

「「ミ"ィィィィーーー!!!!(泣)」」

 

私たちの顔に向かって"乳首"を差し出すマゼンタちゃん。

私が左、サルファちゃんが右。

悲鳴を上げる口を早々に塞がれ、赤ん坊のようにマゼンタちゃんの乳首を吸うことになった。

 

「ほぉら♥️おっぱいでちゅよ...♥️///」

「んっ!ちゅうっ!?///」

「んむぅ...!ちゅる...!?///」

 

アーッ!?何でこんなことにぃ!?

汚されてる!?今まさに私のあこがれ愛すべき魔法少女トレスマジアがピンク色に染め上げられているぅぅ!!

吸えば吸うほど体に魔力が溢れてなんかすごいけどこんなのやっぱやだあぁぁぁ!!!

 

「おわっ!?な、なんだぁ!?」

「ベーゼとサルファにとってこれは"悪夢"そのもの!マゼンタから与えられた大量の魔力!それによって魔女の能力が強まり、痛めつける喜びと悪夢への恐怖が二人の間で無限にループし、計り知れない力を生み出しているわ!三人の身体に溜めきれなくなった魔力が溢れ出ているのよ...!」

「アンタそれ本当に理解して言ってんの!?」

「とりあえず無茶苦茶ヤバそうだぞこれ!?」

 

私たちの周りを魔力の黒い稲妻が包む。

制御出来ない力、抑えきれない嫌悪。

止まらないおっぱい。

身動きを取る気力もない私たちを見て、マゼンタちゃんが再び武器である注射器を構える。

 

「二人の分も、あたしがお仕置きしちゃうねぇ♥️」

 

稲妻が注射器に吸収され、マゼンタちゃんの片翼が大きくはためく。

標的は勿論、宿敵であるエノルミータ。

 

「げっ...!?」

「やっべロコ...!?」

「ルベル...!?」

「アリス!こっちに!?」

「コクリ!」

 

『"マジカルユナイトバースト"♥️』

「「「「キャー!?!?」」」」

「ムスゥ。」

 

凄まじい輝きと轟音を上げ、魔力の奔流がアズールたちを飲み込んでいく。

為す術なく吹き飛ばされるエノルミータのみんな。

たぶん無事だと思うけど、アリスちゃんを最後まで庇っていたみたいで非常に罪悪感を感じてしまう。

 

「大勝~利っ☆正義は勝つんだよぉ♥️」

「ンミィ。」

「こんな合体技やだぁぁぁ...(泣)」

 

喜ぶマゼンタちゃんに対して完全に心をヤられた私たち。

言語能力すら失って、ただ悶え苦しむ。

 

「えっちなのはばっちこいですが、なんかいまいち濡れませんわね。解釈違いってやつですの。」

「ペスカ、一生黙って...。」

「お、お前たち!その...。げ、元気出せ!よ...?」

 

元ロードエノルメから出た、まさかの慰めの言葉。

気まずそうな顔をして退散するシオちゃんズ。

残された私たちの前で、またしてもマゼンタちゃんが光を放つ。

 

「......あれぇ...?」

「ま、マゼンタちゃん...真化が...。」

 

いつもの清純な姿に戻るマゼンタちゃん。

何だか、さっきまでのえっちな雰囲気まで無くなったような...?

 

「あたし...今まで何して...あれぇ?エノルミータとシオちゃんズはぁ...?」

「!...マゼンタちゃん、もしかして記憶が...?」

 

さっきまでの記憶がない!?

じゃあもしかして"あれ"はやっぱり何かの間違いだったり!?

 

「"お注射"のこと覚えt」

「ベーゼ!い、今は...!いまだけはなんもいわんといておくれやすぅ...!(泣)」

「アッハイ...。」

 

いつもの超カッコいいマジアサルファはどこに行ってしまったんだろう...。

私もあまりにショック過ぎる事態の連続で、色々と限界だ。

真面目に考える気力なんて、もうどこにもない。

大の字になって地面に身を横たえる。

疲れた。本当に、もう...。

 

「解散だよ、こんなの...(泣)」

「んみぃ...(泣)」

「えぇぇ!?ど、どうしたの二人ともぉ!?」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「酷い目に遭ったわね...。」

「誰のせいよ誰の!?」

 

場所は変わって再びのナハトベース。

正確にはドールハウスの中の、いつもの病院にて。

私たちは包帯グルグル巻きの状態で、アリスの治療を受けていた。

 

「やぁ。大変だったね。」

「おっ、ヴェナちゃんおひさ~。」

「タイミング良いのか悪いのかって感じだよな...。」

 

いつも通り神出鬼没に現れたヴェナリータ。

当然のようにこちらの事情は把握しているらしい。

相変わらず傍観者を気取っているようだ。

 

「ちょっとヴェナ!あんたならマゼンタのあれが何なのか知ってんでしょ!?」

「あれ、と言われてもね。マジアマゼンタが真化を会得した。ただそれだけじゃないのかい?何か不思議なことでも?」

「不思議なんてもんじゃないでしょうが!?」

「ボクには分からないが...小夜、キミは何か知っているんじゃないかな?」

「...。」

「ハァ?何で小夜が...?」

 

嫌な話の振り方をする。

というか、何も言ってないのにその根拠はどこにあるのか。

心を読めるとか言い出さないだろうな?

 

「...あくまでも、予測として聞きなさい。」

「コクリ。」

「本当に知ってんのかよ...?」

 

まあ、彼女たちにくらい話しても構わないだろう。

直前まで忘れていた私にも非はある。

そう反省し、消えかけていた原作の記憶を引っ張り出す。

 

「以前、暴走したベーゼがマゼンタを操ったことがあったでしょう?その時から、彼女の中にあの暴走ベーゼの魔力が()()()()()んじゃないかしら。」

「分かった!あのエロナースはベーゼの変態パワーのせいってことだねさよちゃん!」

「変態パワーって...。」

 

大好きなレオベゼがもうすっかり遠いところに...。

言い回しはともかく、言いたいことはみんなに伝わったようだが...。

 

「暴走ベーゼの因子が強すぎて、マゼンタの本来の真化は歪められてしまった。

あれは、真化だなんて言えるものじゃないわ...。」

「さしづめ..."暗黒真化"、と言ったところかな?」

「あんこく...」

「しん、か...。」

「ションボリ...。」

 

原作通り、ヴェナが名付けることとなった暗黒真化。

マゼンタと親しくしていたメンバーは明らかに動揺しているのが分かる。

 

「...ヴェナさん。元に戻す方法とかは?」

「検討も付かないね。イレギュラーが多すぎてボクもお手上げさ。」

「小夜はどうなのよ...?」

「...残念だけど、予想出来るのは原因だけ。解決法は不明よ。」

 

原作ではまだ明かされなかったから。

とは言えないが。

 

いずれ本来の姿になる日が来るとは思うが、それは完全に原作の範囲を越えた瞬間。

いつになるのかすら分からない。

 

いよいよここまで来てしまった。

私の原作知識が、ついに限界を迎える。

みんなとは違う理由で、私は表情を暗くする。

 

「...なに辛気くせー顔してんだおまえら!

敵の心配してる場合かばか!

んなの、あっちが勝手に解決する話じゃんか!

アタシらは強くなったトレスマジアをどうぶっ潰すのかだけ考えりゃいいんだよ!」

「キウィのくせに、時々核心突くのよね...。」

「ちょっとかっけぇじゃんか...。」

「...コクリ。」

 

キウィの言葉に気持ちを切り換える真珠たち。

本当に、最近は副総帥らしく成長してくれている。

益々好きになってしまうじゃないか。

 

「なのでっ!新技の開発をしまぁす!

作戦はこう!

アズールちゃんの乳首をアタシとアリスが吸って超パワーアップ!

光線ばーん!トレスマジアは死ぬ!慈悲はない!」

「ん!」

「却下。後でお仕置きよ二人とも。」

「「ショボーン...。」」

 

この子は何故評価を乱高下させたがるのか。

こりすまで悪乗りするようになってきたし。

悪いところばっかり似て...まったくもう。

 

「マゼンタのこと、アイツらには教えてあげるわけ?」

「いいえ。今教えても混乱させるだけでしょう。もし教えるなら、解決法を見つけ出してからよ。」

「なるほどな。まあ、わざわざ教えてやる義理もねぇか。」

 

今マゼンタがああなった理由を教えてしまえば...。

やっと乗り越えたトラウマに、うてなはまた囚われてしまうことになる。

あんな思いだけは、もうたくさんだ。

 

「私の方針に異論はないわね?ヴェナ。」

「もちろん。キミこそボクらの支配者だからね。」

 

危険要素であるヴェナリータの反応を窺う。

これ以降はもう、一分の油断も許されないのだから。

 

ついに始まった、本当の意味で()()()()()()()()

たとえどんな運命が待ち受けていたとしても。

私は必ず、私の大切なモノを守りきってみせる。

そしていつか...。

 

『うてなちゃんと!えっちするのよ...!』

 

「シリアスな顔で鼻血出すの、やめなさいよね...。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

◼️□Next episode□◼️

 

「あれは何をしている...?」

「小学生が働けるわけないじゃない。こりすはマスコット担当よ。」

「スピー。」

「寝ているだけだろうがっ!?」




あんこくしんかとか言われるとスカルグレイモンしか出てこないんですがそれは←
何故みぃみぃ言い出すのかは小野中先生しか知りません。
んみぃ。
次回は11/9(土)0:00投稿予定です。
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