魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~   作:月想

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いつも感想、評価、お気に入り、ご愛読ありがとうございます!!
未だにまほあこ一番人気が誰なのか分からない私です。
今回は一応みち子回。いい加減何かいいことがあるといいんですが...。


第28話『はたらくロードさま!』

「何故わたくしに相談して下さらなかったんですの!?」

「むしろ貴様のような変態を頼る理由があるのか?」

「みっちゃん、あーん。」

 

騒ぐ百花を一刀両断し、蘭朶の口に肉と野菜を放り込む。

我が家の夕食はいつもこんな感じだ。

"我が"家。ではなく一応蘭朶の家なのだが。

というか、いつもという頻度で上がり込んでいるこのエロメガネはいったい何なのだろう...。

 

「ひっでぇですわぁ!?わたくしみち子様の力になりたくてしょうがないといいますのにぃ!よよよ...(涙)」

「にんじん、いらない...。」

「日頃の行いが悪い。後、蘭朶は好き嫌いせずに食べろ。そしていい加減自分で食べろ。」

 

私がいつまで経っても食べれないではないか。

あーんしないと野菜を食べないとか、子どもなのか。

 

食べるのが好きなのに好き嫌いが多いのは良くないこと。

蘭朶をアメリカンなピザ大好きっ子体型にするわけにはいかない。

この家の食事係(というか家事係)として、健康的な食生活でなければ許さん。

 

「よよよ...チラッ...よよよ...?」

「百花、邪魔。目障り。」

「お友だちですわよね?わたくしたち...。」

「もしもし...警察ですか...?」

「およしになってぇ!?」

 

二人が会話している間に漸く自分の分の食事に手を付ける。

まったく、食事一つ静かに摂れないとは。

そう憎まれ口を叩きながら、何だかんだ頬が弛んでしまうのも事実。

それなりの幸せを感じてしまっていることを、最近は受け入れ始めている。

 

「はぁ...。百花、お前を頼らない理由だが。半分は先程言った通りだ。」

「追い討ちですの!?変態の半分とはなんぞやですわ!?」

「聞け。"まとまった金が欲しい"のは事実だが、それでお前に集るなど私が出来るわけがないだろう。お前は私の部下だが、自分の生活を押し付けるようなことはしたくない。」

「みち子様...。」

 

私は現在、蘭朶の家に住まわせてもらっている。

家賃が掛からないのは非常に助かるが、ただで住まわせてもらおうとする程私の面の皮は厚くない。

なので、"生活費は私が稼ぐ"と蘭朶には宣言していた。

 

そもそも田中みち子(このアホ)は大学中退などという勿体なさMAXのやらかしをしている。

せめて働くくらいしていないと私の真人間精神が保たないのだ。

 

世界征服を目標にしてはいるが、現実的に考えて今後生きていくのにお金はいくらあってもいい。

だが、就職はそんな簡単にはいかない上に、ちゃんとした定職に就いたらいよいよ戦う暇がなくなる。

お金を優先し過ぎるのは、本末転倒もいいところ。

今のアルバイトでも日を重ねればそれなりの額にはなるが、世間はまさに"夏休み"。

短期集中バイト等、効率よく稼ぐ方法が溢れるチャンスタイム。

ほとんど終わりかけとはいえ、今からでもいい働き口が見つかるはず。

そう考えて、今日一日探してみたのだが...。

 

「みっちゃん、元気出して...?

必要なら、私も働くから。」

「お前はゆっくり休め。夏休みの宿題も終わっていないのだろう?仕事は私がする。

蘭朶は学生らしく、短い夏休みを楽しんでくれ。」

「み、みっちゃん...っ」

 

どうもこの時期のバイトは事前に募集が終わっているものばかりのようで、私が求めるような案件はまったく見つからなかった。

それをつい愚痴として溢してしまった為、先程の会話になったというわけだ。

 

「しかし、少々困ったな。明後日から三日間、店舗のレイアウト変更でアルバイトが休みになる。時間を無駄にするようで勿体ないし、単発バイトでも入れるか?だが、ああいうものも事前登録会等ですぐには働けないはずだからな...。」

「みち子様、みち子様。」

「だから、お前に集るつもりはないと言っただろう。」

「そうではありませんわ。お仕事、()()()()()()()()致しましょうか?」

「は...?」

 

予想外の百花からの提案に驚き、目を丸くする。

仕事の斡旋だと?

金持ちなのは知っているが、いったいどういう...?

 

「わたくし、あの"桃森グループ"の令嬢ですもの。お仕事のご提供など朝飯前ですわ。」

「桃森、グループ...?」

「知らない。」

「あ、あれぇ!?今明かされる衝撃の真実なはずでしてよ!?」

 

知らないのは仕方がない。

私はこの世界に来て間もないのだから。

生後一年にも満たない赤ん坊の常識に、上場企業の情報など入っているわけがない。

というか、蘭朶も知らないようだが?

有名以前にいよいよ二人が友人なのかどうかも怪しくなって来たな。

 

「良いですか?桃森グループとは世界を股にかける」

「それで?どんな仕事を斡旋してくれるのだ?」

「ちょっとは興味持ってくださいまし!?」

「百花、うるさい。」

 

さっさと本題に移って欲しい。

食事が冷めてしまうではないか。

 

「ハァ...。桃森グループが擁するリゾートテーマパーク、『ピチピチアイランド』はご存知ですの?」

「知らん。」

「名前がダサい。」

「っ~!...そのリゾートのフードコートで!三日間"店長"をして頂きたいんですの!」

「店長だと...?」

 

アルバイトとして従事しろ、ではなく。

店長になれと来たか。

そんな簡単に務まるモノではないと思うが。

 

「ご安心くださいまし。店長と言っても、お試しオープンの小さなお店。マニュアルはお渡ししますし、前日にフードの調理方法など簡単な研修をお給料ありで実施致します。合計で社会人もビックリな額をお支払い出来ると思いますわ。」

「なるほどな...。」

 

困難な部分はあるが、その分報酬は期待出来る。

それに店舗運営など、世の20歳がなかなか経験出来ることではない。

後々役に立つ可能性もあるか。

 

「明らかな身内人事なのが気になるが...。」

「実験的な店舗で、ちょっとしたモデルケースが欲しいんですの。わがまま娘の夏の自由研究程度に考えてくださいまし。」

「おまえのスケールが違うことだけは理解した。」

 

他に候補はないし、願ってもない好条件。

心配なのは、()()百花がただの善意でこんな話を振るかということだ。

 

「みち子様の能力にはわたくしも敬服しております。きっと見事に務め上げてくれると信じていますわ。」

「百花...。」

 

優しく微笑む百花。

思えば、彼女が頭を下げたからこそ水神たちが私たちを助けてくれたのだったな。

変態でどうしようもない淫獣だとはいえ、私同様に仲間を想っているのは事実。

ここで信用しないのは流石に不義理だろう。

 

「...それでは、頼む。すまないな、百花。」

「いいえ。他ならぬ、みち子様の為ですもの!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「信用した私が馬鹿だった...!」

「百花、トばす...。」

 

二日後。

予定通り昨日研修を受け、ついにやってきたリゾート、『ピチピチアイランド』。

その大きさやら施設の派手さに年甲斐もなく遊びたい衝動に駆られつつ、件の店にやってきた。

 

名前は『桃慈李屋(ももじりや)』。

何となく羞恥的な意味で気になる名前だ。

海の家をモチーフにしているらしく、扱う食品も焼きそば、カレー、たこ焼き、ラーメン、かき氷等定番のラインナップとなっている。

種類が多いのは大変だが、せっかくだからと付いてきた蘭朶と共に、一通りの調理手順のレクチャーは受けた。

他の店も見る限りたくさん並んでいて、客が集中する程の目玉商品もない。

従業員も他にいるらしいし、忙しくて手が回らないということはなさそうだ。

 

だから、それなりに安心していた。

その()()()()()()()()()()()

 

「何故貴様らがここにいる!?」

「愚問ねみち子。私たちが"この店の従業員だから"に決まっているじゃない。」

 

どや顔で相変わらずのタメ口を利いてくる紺碧髪の少女。

水神小夜は、当然のように私たちと同じ制服を着て、堂々とした佇まいで目の前に仁王立ちしていた。

 

「何よ小夜。この人知り合いなわけ?」

「ええ。彼女は田中みち子。

ジャスト20歳のバイト戦士よ。」

「みち子って、大分古風な名前ね...。」

「おっすみちこ~。アタシキウィ~。」

「お前ら歳上だぞ!タメ口やめろって...。」

 

こいつら...大人をナメおってからに。

キラキラネーム共が調子に乗るなよ...?

というか、水神どころかエノルミータ全員揃っているではないか!

こんな奴らが従業員だと!?

 

「もしかして百花さんから聞いてないの?」

「1ミリも聞いていないが...?」

「遊ぶ為のお小遣いに困っていたら、百花さんからここのバイトを紹介されたの。業後に施設で遊んでいいと聞いて、二つ返事で了承したわ。」

「なるほど。とりあえずあのエロメガネはシメる。」

 

仕事の斡旋など方便で、私たちとこいつらのやり取りを端から眺めて楽しむのが目的か!

制服も臍出しルックの、水着が透けるちょっとセクシーなモノだし...。

 

「ビッ。」

「あ、ああ...。久しぶりだな。(当然杜乃も一緒か...。)」

「やっぱりこりすと知り合いなのね。コンビニの位置がこりすの家と近いから、まさかとは思っていたけど。」

「顔見知り程度だが...って、ちょっと待て。貴様ら、確か()()()だろう!?アルバイトが出来る歳ではないではないのか!?」

 

一人小学生いるし!

義務教育でアルバイトなど、通常認められることではない。

仕事が出来る出来ない以前の問題だ。

それくらい私にも分かる。

 

「安心なさい。私たちはあくまでも学習の一環、"職場体験"扱い。終わった後に知り合いのお姉さんから()()()()()()()()()()が貰えるだけなのだから。」

「非合法くさい言い訳だな...。客に不信がられたらどうする?」

「問題ないわ。私たちの容姿は中学生離れしているもの。バレることはないでしょう。」

 

そう言って自慢気に胸を張る水神。

ちっ。何で年下のくせに私より胸がデカイんだ化け物か...!

13、14にしては全員スタイルが良すぎる。

これだから男向けのお色気アニメは...。

"少女"を謳わなくてはいけないのは分かるが、やっぱり中学生は無理があるだろう。

 

杜乃だけはどう見ても小学生だが、"誰かの妹が手伝いをしている"と言えば言い訳は出来るか?

 

「はぁ...。甚だ遺憾だが、仕事はちゃんと出来るんだろうな?」

「当然よ。私たちを誰だと思っているの?」

「貴様らだから心配なんだが!?」

 

どこに悪の組織が真面目に仕事をすると思う馬鹿がいる!?

お前たちこそ自分たちを何だと思っているのか...。

 

「みちこ~。こっちのダウナー女子はダレなん?」

「...あたし、蘭朶。みっちゃんの、フィアンセ。」

「おおマジか!んじゃコイバナしようぜ、らんらん~。」

「そろそろ営業時間じゃない!みち子さん、持ち場とかどうするんです?」

「やべー...接客とか初めてで緊張するぜ...。」

「アクビ...。」

「みち子、早く指示を寄越しなさい。」

「店長と呼べクソガキ共...!」

 

本当に大丈夫なんだろうな!?

不安を払拭出来ないまま、ついに開場のアナウンスが鳴り響く。

引き受けた以上、やり遂げるしかない!

百花を問い質すのはその後だ!

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「い...イラッシャ...ませ...。」

「い、ぃらっしゃいませ~...///」

「お前たち声が小さいぞッ!!」

 

レジ担当ならもっと声を張ってにこやかに!接客は恥ずかしいものではないぞ、蘭朶と姉母!!

 

「あれ?材料はどこに...ってこれ焦げてんじゃないの!?

余所見してんじゃないわよあんた!?」

「料理で一番大事なのは何か。

それは、"愛"。らぁぁっぶゅうぅ!♥️

つまり!アタシの料理を食べれんのはなぁ!この世で小夜ちゃんとうてなちゃんだけだぁ!!」

「真面目にやれぇッ!?」

 

阿古屋ではあのアホの制御は無理か!

働かないならもう帰れぇ!!

 

「お待たせ致しました。"ルシファーカレー"に"ロード焼きそば"になります。

ごゆっくりお楽しみください。」

 

ホールは水神1人だが上手く回っている様子。

何だかんだアイツが一番まともだった。

流石、総帥なだけはある。

...ん?ホールが1()()()()

 

「あれは何をしている...?」

「小学生が働けるわけないじゃない。

こりすはマスコット担当よ。」

「スピー。」

「寝ているだけだろうがっ!?」

 

ご丁寧に側に呼び込み看板だけ置いて!

それで働いているつもりか!?

カー○ル・サンダース人形か貴様!

何しに来たんだあのお子さまは...!

 

「ああもう!配置を変えるぞ!私の指示に従えぇ!!」

 

この程度を御せなくて何が(ロード)か!

私をナメるなよエノルミータァ!!

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「ふぅ...何とか、なりそうだな...。」

「えへ...流石みっちゃん...♥️」

 

結論から言って、桃慈李屋の営業は安定軌道に乗った。

"配置変え"は非常に効果的だったと言える。

 

「蘭朶、にんじんとキャベツを切っておいてくれ。」

「野菜、きらい...。」

「お前が食べるわけではないだろうが...。」

 

調理はメインで私が担当し、蘭朶にはサポートに徹してもらう。

 

「いらっしゃいませ!ご注文はお決まりでしょうか?」

「らっしゃっせ~。とりあえずスマイルいっとく~?」

 

水神と阿良河はレジ係へ。

阿良河の接客に不安は残るが、愛想がいいからかあれはあれで受け入れられているようだ。

二人とも飲み込みが早く、記憶力もいい。

店の第一印象を任せるのに最適だ。

 

「お、お待たせしました。"アネモネたこ焼き"ですっ。」

「"ロコモコ"ご注文のお客さま!おいしいからお代わりしたっていいのよ?☆」

 

根が真面目なロコルべ...じゃなくて、たまネモ。

あの二人はホールで抜群のコンビネーションを見せている。

やはり別々に動かすより、一緒にいさせた方が仕事も上手くこなせるようだ。

部下だった頃と同じだな。

 

「...Zz」

「か、かわいいー...///」

「そうだね、ここにしよっか?///」

 

最後に"マスコット"だが。

本当に寝ているだけで客寄せに成功しているらしい。

あれで給料が出るのはどうかと思うが、その実力(可愛さ)は認めざるを得ない。

恐るべし、杜乃こりす。

 

「そろそろ落ち着いて来たか...?」

 

予想外の客足に慌ててしまったが、配置変えによって効率が上がり少し余裕が出てきた。

今のうちに休憩回しを考えてもいいかもしれない。

 

「フッ。短い時間で最適解を導き出したようね、みち子。」

「水神か。...貴様、わざと黙っていたな?」

「ここのボスはみち子だもの。」

「ならちゃんと店長と呼べ。

そして敬語を使え。」

 

個々人の適正など、こいつにはやる前から分かっていたはず。

私の"指揮力"を試したというわけか。

相変わらず腹立たしい奴だが、今はその能力利用させてもらおう。

 

「そろそろ休憩を回していきたい。貴様には全ポジションをこなしてもらうぞ?」

「さながらバイトリーダーね。望むところよ。」

 

その憎たらしさが今は頼もしい。

まずは阿良河辺りから休憩を...。

 

「あ、いらっしゃいまs」

「小夜ちゃん...!?」

「ん...?」

 

お客が来たようで、反射的に対応しようとする水神。

うむ。挨拶が癖になるのはいい傾向だ。

しかしそのお客は驚きの声でもって、水神の名前を呼んだ。

 

「うてな!?どうしてここに...。」

「そ、それはこっちの台詞だと思う、けど...?」

「なんだ、誰かと思えば柊か。」

「みち子さん!?え、え...!?どどどういうこと...!?」

 

人の顔を見るなり更に慌てるとは、失礼な奴め。

大体、何故タイミングよく柊うてながここにいる?

格好が水着な辺り、普通にリゾートの客として来たのか?

 

「アネモネたこ焼き。たこ抜きで。」

「わけわかんねーことほざくなひんにゅー。テメーに食わせるタコはねぇ。帰れ。」

「せやからタコいらん言うとるやろ。」

「たこ焼きなのにタコ抜いてどうすんだひんにゅーばか。独りで生地焼いてむさぼってろあほ。」

「店員の口の利き方やないねぇ。こん店、バイトの指導がなってないんやないのぉ?」

「落ち着けってキウィ...。かお...お、お客様?当店はその、イレギュラーなご注文はお受け出来かねまして。恐れ入りますが、他のメニューにして頂け」

「大体なんでタコ入れなあかんねん。入っとらん方がうまいやろが。」

「お前この際だから言わせてもらうけどなっ!?たこ焼きはタコ入ってるからたこ焼きなんだぞ!?苦手ならそもそも食うな!

お好み焼きでも食っとけ!」

「ネモはんと言えどそれには同意出来へんなぁ!たこ焼きだからこそのあのうまさ!同じ粉もんでもお好み焼きに代えられるもんやあらへんよ!」

「ならタコも食えよ全部愛してやれよぉっ!?」

「ウチが好きなんはタコやない!

たこ焼きなんやっ!!」

 

タコタコうるさい。

何の論争だあれは。

仲裁に入ったはずが、何故貴様が一番興奮している姉母。

この金髪は確か、天川薫子だったか。

柊と一緒に来たのか、同じように水着姿だ。

マジアサルファの変身者...。

ということは?

 

「こりすちゃんどうしてこんなとこで寝てるの!?」

「ビッ。」

「はるか!?何で...ハッ!?あんたまさか働いてる真珠たちを差し置いてリゾートを満喫しに来たんじゃないでしょうね!?この裏切り者っ!ブルジョワっ!(泣)」

「ぶる、じょわ...?」

 

やはりいたか、マジアマゼンタ。

先日の"アレ"はかなり驚いたが、見た感じは元気そうだな。

仕事をサボって雑談をしているこいつらには後で仕置きをしてやるとして...。

 

「す、すごい偶然だね...?でも、中学生が働くのは」

「しーっ...。そこは秘密にしておいて欲しいの。」

「うてなちゃんひど~!アタシらガン無視でリゾートバカンスなんてぇ~!」

「ご、ごめんね!?これにはわけがあって...。」

 

本当に偶然だろうか?

"トレスマジア"がやって来ていて、そこにエノルミータが働いていた。

何やらトラブルの匂いがするが...。

 

「わけって~?」

「え、えーっと...。」

「...とりあえず、何か注文したら?食事をしに来たんでしょ?キウィも今は仕事中よ。」

「はぁ~い...。」

 

全員の正体を知っているのは柊と水神だけだったか。

柊が言い淀んだところを見ると、訳というのはトレスマジア絡みで間違いなさそうだ。

 

「じゃ、じゃあ...この焼きそば、と..."スマイル"って...?」

「うぇ~い。スマイル入りましたぁ~。」

「スマイル、かしこまりました!」

「ぇ、え...?」

 

何だそのメニューは。

そんなものを記載した覚えはない。

というかスマイルって。

それはまさか、あの某有名ハンバーガーチェーンで物議を醸した伝説の

 

「ご来店、ありがとうございます...♥️」

「カワイイって言ってくれたら、うれしいかも♥️」

「きゃ、きゃわわぁ...!?///」

 

水神と阿良河の"上目遣いセクシー&キュートスマイル"に悩殺され、鼻血を吹き出す柊。

他の客からクレームが来るだろうが。

この世界はどこにいてもこのノリなのか?

仲間にすると言ったことを後悔しそうだ...。

 

「NOタコ!NOたこ焼き!」

「ノーモア、オクトパス。」

「ブルジョワ縦ロールぅっ!(泣)」

「ぶるがりあろーるぱん...?」

「ニドネ...Zz」

「貴様ら!とりあえず全員持ち場に戻れぇぇ!!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「まったく。これだからゆとり教育は。」

「みっちゃん...えへ...ゆとり教育はもう、終わってるよ...。」

 

トレスマジアの突然の来訪に、少々ペースを乱されてしまったが。

無事休憩回しを始めることが出来た。

そこについては問題ないのだが、そもそも客足自体が減って来ているような...。

 

「みち...じゃなくて、てんちょー?」

「何だ?阿古屋。」

「真珠も休憩行っちゃっていいですか?」

「まだ姉母が戻っていないだろう。

もしや体調でも悪いのか?」

「いや、そうじゃなくて。お客さん、()()()()()()()()()()()んですよ。」

「なに...?」

 

調理場から出て外の客席を見てみると、確かに誰も座っていない。

さっきまでは満席と言わないまでも、それなりに賑わっていたはずだが。

 

「大変なことになったわよ、みち子。」

「店長だ。何があった?」

「"あれ"を見なさい。」

 

レジで暇そうにしていた水神が私に気付き、ここからでも見える奥のステージを指差す。

普段は子ども向けのショーやら芸人のお笑いコンサートやらをやっている場所らしい。

人集りがスゴいな...。

パッと見だと誰が演目をしているのかも分からない。

 

『みなさん!こーんにーちわー!!』

『魔法少女トレスマジア、です!』

『今日は"スペシャルコラボイベント"にぎょうさん集まってくれはって、ホンマおおきになー!』

 

姿が見えないまでも、聞こえてくる声だけで説明は十分だった。

なるほど、柊の言っていた訳とはこのことか。

 

「まさかトレスマジアがピチピチアイランドと"コラボ"だなんて。しかも、コラボは今日開始みたいよ。」

「巷ではアイドルのような扱いだと聞いた。まるでプロパガンダだな。」

 

大衆の人気を得て、正義の味方の名を確実にするか。

酷く政治的で奴ららしくはないが、プロデュースしているのはあの白いマスコット。

どうにも怪しいが、尻尾を出さない今の時点で何かが出来るわけでもない。

 

『今日から一週間、あちらの"ピーチフェティッシュ"さんでコラボメニュー&特典プレゼントを行います。』

『レアもんやさかい、この機会に是非買うておくれやす。』

 

「まずいことになったわね...。」

「そうか?確かに売り上げは落ちてしまいそうだが...。」

 

あれだけ盛大に告知をしている上に、そもそもトレスマジア目当てでこのリゾートに足を運んだ者も多いはず。

客はちょうど向かい側の店、『ピーチフェティッシュ』とやらに集中するに違いない。

逆に言えば、これからは店が混雑する可能性が低くなるということ。

経験の少ない子どもばかりの店としては、負担が少なくなるのは悪いことではないと思うが。

 

「何を言っているの?売り上げが少なくなれば、それだけ私たちの()()()()()()()()のよ?大問題じゃない。」

「は?...何だ、それは...?」

「え。百花さんから聞いてないの...?」

 

給料が売り上げに比例する、だと...?

隣の蘭朶に目配せするが、彼女も知らない様子。

エノルミータにだけ適用するルールか?

...いや。それはないな。

何故ならあのエロメガネはトレスマジアのイベントに()()()()私たちをここに呼び寄せたからだ。

実験だの何だの言っていたが、この不利な状況に対して私たちがどう行動するのかを眺めて楽しむつもりなのだろう。

給料がかかっているとなれば、逃げたくても逃げることは出来ない。

私と蘭朶だけ特別扱いという可能性は低い。

 

「あんの変態メガネ...!」

「百花、バラす...。」

「...なるほど。あなたたちは色々と上手く嵌められて、ここにやって来たようね。」

「ふぅ。休憩戻りましたー。なんか今トレスマジアがイベントやってるみたいっすよ?」

 

休憩から姉母が帰って来た。

ちょうどいい。

ステージで奴らが歌っている間に"作戦会議"をさせてもらおう。

こうなった以上、敗北は許されない。

手段を選んでいる場合じゃないな。

 

「水神、全員を裏に集めろ。話がある。」

「...分かったわ、()()。」

 

水神に指示を出し、従業員を集める。

多少リスキーだが仕方がない。

迷っている時間もないわけだし、いい加減秘密にしておくのも煩わしくなってきた頃合いだ。

 

「どうしたんですか~?真珠、疲れたからもう休憩行きたいんですけどー。」

「アタシもダルいから休みた~い。

てか遊びた~い。」

「残念だが、休んでいる余裕はなくなった。特にお前たちはな。

()()()()()()()()()()よ。」

「へ...?」

「あ...?」

 

二人は勿論、水神を除く全員が緊張した表情で私を見つめる。

多少はしらばっくれて欲しいところだ。

反応が素直過ぎて、いざ配下にした時が心配になる。

 

「みち子、あなた...。」

「な、何でっ...」

「何故知っているか気になるか?

それは私が、()()()()()()()()だ。」

「......ハァ!?」

「ろ、ロードさまぁ!?」

「オクチアングリ...。」

 

作戦実行の為には、私が"誰なのか"を明確にしておく必要がある。

何とも残念なタイミングでの正体バレだが、どのみち仲間にした時には分かること。

遅かれ早かれ、というやつだ。

 

「ロードさまが...みち子...。」

「悪のカリスマが...田中みち子、なんだ...。」

「みち子の何が悪い!?自分の名前は選びたくても選べないんだからなっ!?///」

 

真珠やらネモやら、可愛らしい名前を付けてくれた両親に感謝しろよクソガキ共っ!

私だって未だに恥ずかしいんだぞ!!

 

「じゃ、じゃあ...らんらんは...」

「...ベルゼルガ。」

「べるべるオムレツじゃんか!?」

「オムレツ...?」

 

何故モンゴル料理が出てくるのかは分からないが、ついでに蘭朶の正体もバレてしまったようだ。

事前に相談出来なかったことは申し訳ないが、彼女なら受け入れてくれるだろう。

 

「小夜は、知ってたのか...?」

「...ええ。ちなみに、みち子は以前から全員の正体を知っていたわ。知っていて、私たちの隙を突こうとはしなかった。今の彼女は味方ではないけど、信用出来る相手よ。」

「気持ちの整理が追い付かないんだけど...?」

「さよちゃんがいいならいいけどさ~...。」

「ジー...。」

 

いきなり信用されるとは思ってはいない。

幼女の視線が痛いが、一刻を争う事態だ。

 

「聞け、エノルミータ。事情があって、私たちも金を稼ぐ必要がある。それはお前たちも同じはずだ。だが、悪辣なオーナーの罠で、トレスマジアというライバルを抑えない限りは十分な給料を貰えない状況となった。これは危機的状況だ。だから、ここは一度手を組みたい。」

「手を、組む...?」

「ロードさまと...。」

 

気まずそうな表情をするのはやはり真珠とネモか。

私のしたことを思えば当然の反応。

だが、今は呑み込んでもらうしかない。

 

「言いたいことがあるのは分かる。

いずれぶつけてもらっても構わない。

だが、どうか今だけは協力して欲しい。

あくまでも、"店長"として。

従業員であるお前たちの力を借りたい。」

「......はぁ...。仕方ねぇか。」

「仲間になるつもりなんてないけど...店長は、店長だし?お給料もらえないのは困るもの。」

「それじゃあ、決まりね。

改めてよろしく。みち子店長。」

 

合意の証として、エノルミータ現総帥と握手を交わす。

これで、一応の共闘は可能となった。

すぐにでも動くとしよう。

 

「それで?作戦があるんでしょう?」

「ああ。まずはヴェナリータを呼べ。」

「ヴェナちゃん?なんで?売るんか?」

「何だその邪悪なハッピ○セットは。」

 

いったい誰に需要があるんだ...?

ソワソワしている杜乃に気付かないフリをしつつ、作戦概要を説明していく。

 

「確か貴様ら、一度"アイドル活動"をしていたらしいな?」

「げっ...何故それを...。」

「していたんじゃなくて、今もしてんのよ。真珠はいつだってスーパーアイドルなんだから!」

「あーはいはい。とにかく、そこそこの話題性はあったと聞いたぞ。」

「そこそこっつーかぁ~?鬼バズったけどな~。ま、クソかわキウィちゃんにかかればトーゼンだし~?」

 

無駄に自信満々な奴だらけだな、この悪の組織。

話が逸れそうなところで、やっと水神が私の意図に気付く。

 

「ま、まさか...!?」

「そのまさかだ。目には目を、歯には歯を。()()()()()()()()()()()、だ。」

 

露骨に嫌そうな顔をする水神。

余裕を崩した表情は貴重で、なかなかに気分がいい。

久しぶりの支配者気分に浸りながら、私は悪の組織へ勅令を下す。

 

「再び輝いてもらうぞ。"一夜限りの流星伝説"とやら。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

『みんなー!ありがとぉー!!』

『コラボ、よろしくお願いしますっ!』

『CDも絶賛発売中やで~。』

 

持ち歌である『プリズム・プリンセス』を歌い終わり、歓声に包まれるトレスマジア。

これさえこなせば仕事はおしまい。

後はリゾートを無料で楽しんでいいと言われているので、年頃の三人は非常にテンションが上がっていた。

うてなだけは若干後ろめたさが勝っているのだが、やはりワクワクを抑えられずにいる。

 

『それじゃあみんな!ピチピチアイランドを楽しんでいってね!』

『ほな、さいなら!』

『ありがとう、ございました...!』

 

「あら、もう行ってしまうの?」

『へ...?』

 

嬉々として退場しようとする三人だったが、どこか聞き覚えのある声に引き止められる。

辺りを見回すが、それらしき人物はいない。

しかし次の瞬間。

彼女たちの目の前に、()()()()が降り立った。

 

「この姿で会うのは久しぶりね!トレスマジア!」

「あ、あなたたちは...!?」

 

『水月あくあ!』

『愛緑ひすい~。』

『歌星ぱある!三人揃ってぇ!!』

『『『トライエンゼル!』』』

 

流れるように自己紹介を決めるアイドルユニット

『トライエンゼル』。

派手な爆発演出付き。

ヒーローショーの設備が活きた(ヴェナ談)。

 

「どうしてぱあるちゃんたちがここに!?」

「何が久しぶりや!もう騙されんよエノルミータっ!」

 

かつて一瞬にして世間の話題をかっさらい、記念すべき初ライブと共に解散となった伝説のアイドルユニット。

その正体がエノルミータの幹部であったことは、最早周知の事実である。

つまり、悪の組織がやって来たのと"同義"なのだが、不思議なことに彼女たちを非難する声はなく。

むしろもう見られないはずのアイドルがサプライズで登場したことに、歓声すら上がっていた。

 

「こ、これよ...!これがぱあるが欲しかった音!世界よぉぉ~!(泣)」

「話聞かんかい!?」

「ごめんなさいね。私たちのセンター様は、夢がまた見られて感無量なの。」

「あ...あくあちゃんだぁ...///」

「ベーゼてめぇ!アタシのあくあちゃんは渡さねーぞこらぁ~!」

 

ステージ上だと言うことも忘れ、いつも通りのやり取りを始める善と悪。

収拾が付かないと判断したマゼンタは、精一杯シリアスな雰囲気で、現れた宿敵にその理由を問う。

 

「こんなところまでやって来て!いったい何が目的なの!?トライエンゼル...いや!エノルミータ!」

「...ふふん。そんなの、決まってんじゃない。」

 

漸く感動が落ち着いたロコムジカこと、歌星ぱある。

マゼンタの問いに不敵に笑いながら、ぱあるたちはその口元に当てられたイヤホンマイクを見せつける。

 

()()()()()のよ。あんたたちのファンをね...!』

 

合図と共に音楽が流れ始める。

『シャイニー!オンリー!ユア☆スター!』。

かつてライブを見ていた者だけが聴けた、歴史上たった一度しか歌われなかった幻の楽曲。

それが今まさに、トレスマジアのファンたちの目の前で繰り広げられているのだ。

パフォーマンスは衰えることを知らず、愛らしさとセクシーさに溢れたサービスも健在。

そして何より、センターである歌星ぱあるの歌唱力。

しっかりと影にルベルを偲ばせておいたので、コンディションは絶好調。

大興奮(意味深)の歌唱で以て、推し変させてしまう程に観客たちを魅力したのだった。

 

《ワアァァァァァーーーっっ!!》

 

『みんなー!ありがとー!』

「きゃ、きゃわわぁ...///」

「やっぱりすごいねぇ!」

「賞賛しとる場合かっ!あいつらウチらの邪魔しに来た言うとるんやぞ!?」

「「はっ!そうだった...!」」

 

すっかりお客さん気分でトライエンゼルのライブを楽しんでいたマゼンタとベーゼ。

サルファの呼び掛けで危機感を取り戻し、慌てて次のアクションを警戒する。

 

「邪魔はそちらの方なのだけど。」

「そーよそーよ!あんたたちイベントでお給料もらえるんでしょ!?不公平じゃないの!」

「アタシら"ぶあいせー"なんだぞ!売り上げ取るな!帰れ!ばぁかー!」

「な、何の話しとるんあいつら...?」

「あぁ...なるほど...。」

 

ベーゼだけは先ほどこっそり事情を聞いていた為、事態を飲み込めていた。

タイミングが悪いとはいえ、今回ばかりはあちら側に同情しなくもない。

精神的には板挟み状態である。

 

『と、いうことで。

ぱあるたちの虜になったみんなー!』

()()()()()()()()()()()()よろ~。』

「はぁ!?」

『あちらにある"桃慈李屋"さんでコラボメニューをご注文頂くと、限定ポストカードに加え。』

『ぱあるたちとの"握手券"がもらえちゃうわよっ!』

「握手券っ...!?」

 

驚きで理解が追い付かないトレスマジア。

観客たちはざわつきながらも、『幻のアイドルたちと握手が出来る』というレア過ぎる状況に興奮を隠し切れなくなっていた。

 

「掴みは上々だな...。」

「コクリ。」

 

そう。

これこそが、イミタシオこと元ロードが仕掛けた逆転の一手。

"こっちの方がお得なんじゃない?大作戦"である。

 

『ぱあるたちがコラボするのは今日限り!』

『食事も無限に食べられるわけじゃないし、来てくれた皆さんには賢明な判断をして欲しいわね。』

「だ、誰が悪の組織の口車なんかに乗んねんっ!!」

『そーゆうこわいとことかぁ~?』

『ミステリアスな魅力とか...。』

『もう気になってしょうがないんでしょ?

素直になりなさい。

その想い、ぱあるたちがぜーんぶ...。

受け止めてあげるから♥️』

 

《きゃーーーっっ!!///》

 

サルファの指摘は観客には既に無意味。

馬の耳に念仏。

会場をその危険な魅力で完全に魅了し、トライエンゼルは悠々とステージを降りていく。

唖然とするトレスマジアを残し、見ていた観客のほとんどが彼女たちの後を追っていた。

 

「完全に客取られてしもた...。」

「ど、どうしようサルファ!?」

「どうしよう言うたって...ん?ベーゼはどこや...?」

「あくあちゃんと握手...うぇへ...///」

「おう何しとんねん。」

 

ちゃっかり列に並ぼうとしていた裏切り者の首根っこを掴み、サルファは冷静に敵情視察を始める。

 

「は、放してぇぇ~...!貴重な、あくあちゃんとの握手会がぁ~...!」

「たかが握手がなんぼのもんやねん。

そない喜ぶことかぁ?」

「でも見てよサルファ。効果バツグンみたいだよ?」

 

指差す先には長蛇の列と、喜び興奮しながらもトライエンゼルにエールを送る元ファンたちの姿が。

コラボフードを急いで食べ終え、また一人、また一人と列に加わっていく。

三人それぞれに行列が出来ており、敵ながらバランスのよいユニットであることがよく分かる。

 

「悪の組織んくせして、にこやかに対応しおってからに...。」

「というかあのお店、小夜ちゃんたちが働いてたとこだよね!?」

「せや!エノルミータに脅されたんか!?よう見たら小夜とアホと真珠はんだけおらへん...!」

「ぎくぅ...!?」

 

動揺するベーゼ。

事情を知らない者からすれば当然の疑問。

勿論こんなところで衝撃の正体バレなど許せるはずもない。

アドリブが苦手な彼女だが、バレてはまずいと必死に頭を回転させる。

 

「あ、あ~...ソウイエバ、サンニントモ、す...スゴークオナカイタソーニシテタ、ヨウナー...?」

「それはそれで大丈夫かな!?」

「まあ、人質になってるんとちゃうならええ。問題はネモはんたちや。」

 

凄まじい棒読みだった。

しかし、幸いにして意識が向こうへ向いていたからか、すんなりと受け入れられた様子。

胸をホッと撫で下ろしつつ、彼女たちの正体は知らない呈で話を進める。

 

「助け出そうにも、このままじゃお客さんが巻き込まれちゃうね...。」

「どうしよう...。」

「......閃いたで。」

「え?」

「作戦があるの!?」

「あっちが握手なら、ウチらは()()()()で対抗したるだけや。」

 

自信満々にサルファが懐から取り出したのは、自らのスマートフォン。

連絡するのは勿論、頼れるプロデューサー兼マスコットだ。

善悪関係なく、ヒロインというのはマスコットに頼りがちである。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

『上手く行ったわね。』

『らくしょ~らくしょ~。』

『真珠たちの人気ならこれくらいとーぜんよ!』

 

ファンとの熱い握手会をこなしながら、念話で自分たちの勝ちを確信するトライエンゼル。

列は途切れることを知らず、フードは爆売れ。

ひぃひぃ言いながらフル回転するみち子たちも、心なしか嬉しそうに見える。

 

よかった、これで給料の心配はなくなる。

これだけ売り上げを出したのだ、きっとお小遣いとは比べ物にならない額を稼いだに違いない。

 

終わりかけた夏休みが不死鳥のように甦る。

ああ、愛しのサマーバケーション。

思い切ってみんなで旅行なんていいかもしれない。

まだ見ぬ給料への期待に妄想を膨らませ続ける三人。

だが、彼女たちは忘れていた。

自分たちの相手が、()()()()()()()ヒロインたちであることを。

 

「あれ...?」

「どもども~。最かわ担当のひすいでぇ~す。推してもいいけどアタシの一番はあくあちゃんだからぁ~...えー?それでもアタシがしゅき?もうっ!しょーがないなぁ~!アタシってば罪なおんな~!...って誰もいないんだが!?」

「気付くの遅い上に対応の癖が強いのよ...。」

 

先程まであったはずの行列が、いつの間にか見事に消えてしまっていた。

状況が飲み込めない三人の耳に届いたのは、小気味良い関西弁の呼び込みボイス。

 

『寄ってらっしゃい見てらっしゃい!本日からトレスマジアコラボが大好評開催中!コラボメニューを買うてくれはった素敵なお客はん全員に、今ならお好きなヒロインとの"ツーショット"サービスがあるで!

コラボグッズも付いてきて、一生の思い出になること間違いなしっ!今すぐピーチフェティッシュに急げっ!』

 

サルファの宣伝文句と向かい側に出来た人集りに、漸くしてやられたことを実感する真珠たち。

 

「ツーショットですって!?」

「正義の味方のくせに物で釣ってんじゃないわよ!?」

「あんなひんにゅーのどこがいいんだよ!」

 

三人の非難はどこ吹く風。

憧れのヒロインと写真を撮れるサービスは大盛況で、完全に客を取り返されてしまった。

 

「ベーゼとツーショット...。」

「あっ!?またそーやってベーゼとイチャイチャする気なのあくあちゃぁぁん!?(血涙)」

「仲間割れしてる場合!?早くやり返さなきゃバイト代もらえないんだからねっ!?」

 

みち子の指示も仰がず、急いで衣装を変更し始める真珠たち。

水着姿となり、マイクとカメラを手にして移り気なファンに呼び掛ける。

 

『こっちは水着のぱあるたちとツーショットが出来るサービス付きよ!お子さま体型じゃ見せられないセクシーな魅力を見せつけてあげるわっ!』

 

真珠の呼び掛けに再びざわつくお客たち。

離れていても睨み合い、熱く交わるトレスマジア、トライエンゼル両グループの視線。

今まさに、いたちごっこ。

...ではなく。

ヒロインたちによる、仁義なき"ファン争奪戦"が開始したのであった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「何故、こんなことに...っ。」

 

...私のせいか。

目の前の地獄を嘆きつつ、冷静にこうなった経緯を思い出す。

 

最初はただ、何としてでも売り上げを確保したい一心だった。

拮抗出来るかどうかくらいの見立てだったのが、水神たちは予想外に大人気で、私たちに売り上げという名の大混雑をもたらした。

それも何とか捌き、後は踏ん張るだけだと安心したのも束の間。

今度はトレスマジア側が"特典作戦"を決行。

ツーショットは握手を越え、見事に客を奪い返されてしまった。

 

そこが始まりだったのだろう。

一気に逆転されプライドが傷ついたのか、トライエンゼルは私の指示無しに暴走。

更なる特典を付けて客を取り返す作戦に出た。

水着ツーショットはただのツーショットに勝り、またしても行列ができ。

凄まじい緩急が私たちを襲う。

 

だが勿論、トレスマジアもその程度では諦めない。

とうとう彼女たちも脱いで水着になり、自ら接客を開始。

そこからはあっという間だった。

やられてはやり返す、その繰り返し。

水着からコスプレ。

接客はフリートークやハグへ。

どんどん過激に、ファンサービスは変化していった。

ついにはフードメニューを介さず、サービス自体を有償化。

最早リゾートと言うよりキャバクラなんじゃないかと思えるその無法地帯で、ヒロインたちはひたすらに争い続けていた。

 

「いい加減諦めたらどないや...!」

「それはこっちのセリフなんだよひんにゅーマジアっ!」

「ロコちゃんもうやめて!どうしてそんなにムキになるの!?」

「どうしてですって...?あんたには分からないでしょ!魔法少女だからってちやほやされて、簡単にアイドルになれるあんたには...!」

「私だってお金欲しいの!!たまには散財して若気に至りたいのよ!!シリアス続きで、もうストレスがヤバいのよぉ!!」

「うわぁ...ここだけ動機が切実過ぎるぅ...。」

 

疲労でテンションが不安定になっているのか、ついに言い合いを始めてしまう両者。

お互いに無茶苦茶になった衣装をいつもの()()()()()()()()()()

まさか、こいつら...!

 

「ま、待てっ!貴様らこんなところで...!?」

「始めっからこうすりゃよかった...!」

「上等や!今日こそぶちのめしたる...!」

「速攻で潰させてもらうわよ...!」

「え!?あ、アズール...!?」

「ロコの悔しさ、あんたの体に思い知らせてあげる...!」

「ロコ、ちゃん...!」

 

誰からともなく冷静さを失い、それぞれの得物を手に戦闘を始めてしまう。

当然、リゾートは大パニック。

今まで彼女たちに熱を上げていたファンたちも、蜘蛛の子を散らすように会場から逃げていく。

 

「やめろよお前ら...!て、店長...!何とかしてくださいよ...!」

「明らかに様子がおかしい...!いったいどうしたと言うのだ...!?」

 

「まずいことになったね。」

 

トレスマジアはともかく、アズールたちがあまりにも好戦的過ぎる。

困惑する私たちの元へ、フワフワと忌々しい真っ黒マスコットがやって来た。

 

「ヴェナリータ...!貴様の仕業か!?」

「そうとも言えるし、そうでないとも言える。気持ちの部分ではボクも被害者さ。」

「わけの分からないことを...!」

「彼女たちに渡した衣装チェンジのトランスアイテム。あれは本来、()()姿()()()()()()()()()()()()()()()モノなんだよ。」

「何だと...!?」

 

出来ないと言われても、今目の前で実際に戦闘が行われている。

冷静でない以外、何か支障がありそうには見えないのだが。

 

「いつものトランスアイテムを使ってるだけなんじゃねーの...?」

「それなら、ボクがここに預かっている。パスが混線したらいけないからね。」

 

ヴェナリータに見せられた星型のトランスアイテムは三つ。

水神たちの物ということで間違いないだろう。

ならば、何故...?

 

「"想いの力"だよ。彼女たちの蓄積した不満や欲望がトランスアイテムに作用し、一種の暴走状態にあるんだ。」

「想いの、暴走...。」

 

無茶苦茶な話だが、この世界ならあり得ることだ。

冷静さを失っているのは無理矢理変身している弊害なのだろう。

 

「ならば、あのトランスアイテムさえ何とかすれば...。」

「元通りのアイツらに戻るってことだな?」

「キミたちにそれが出来ればの話だけどね。」

「ナメた口を利く...!」

 

暴走しているとはいえ、奴らの力はよく知っている。

トレスマジアもまた、周りを気にしている余裕はなさそうだ。

 

あの二組に挟まれるのは危険だが、元よりその覚悟はある。

ヴェナリータの言うことを鵜呑みにするのは癪だが、そんなことを言っている場合ではない。

 

「姉母と杜乃はお客の安全を確保しろ。」

「え...あ、はい...!」

「...コクリ。」

「蘭朶、行くぞ。」

「うん。」

 

『『変身(トランスマジア)。』』

 

黒騎士のイミタシオへと変身し、ベルゼルガと共に戦闘の真っ只中へと向かう。

 

「お前たち落ち着け!それ以上は一般民衆にも被害が出る!悪は悪でも、貴様らは私とは違うのだろう!?」

「邪魔をしないでっ!」

「ぶちまけられてぇか!!」

「ロコは、こんなはずじゃ...っ!」

 

聞く耳すら持たないアズールたち。

それぞれ無茶苦茶に攻撃してくるのを大剣で打ち消し、対応策を考える時間を稼ぐ。

やはり一度戦闘不能にするしかないか...!

 

「エノルミータ、変...あなたたちも、落ち着いて欲しい...。」

「せやかて早く止めなアカンやろ!今日という今日こそ決着着けたるわ...!」

「話...通じない...。」

「最近色々あってストレスがスゴいから...。」

「さ、サルファ?一回、落ち着いて...?」

 

ベルゼルガがたどたどしくトレスマジアを説得するが、主にサルファのせいで上手くいってはいないようだ。

心労とは恐ろしいものだな...。

 

「さっさとケリ付ければ問題ないやろ!

行くで二人ともっ!!」

「「え!?」」

 

真化(ラ・ヴェリタ)!』

『『ら、真化(ラ・ヴェリタ)!?』』

 

勝負を急ぐサルファに釣られ、結局三人共が真化を果たしてしまう。

まずいぞ...このままではエノルミータ側も真化して、更に戦闘が激化してしまう。

...ん?()()()...?

 

「「あ。」」

 

「...あはぁん♥️」

「「ンミ"ィィィィ!?!?(泣)」」

 

らしくない真化、"フォールンメディック"の姿となるマゼンタ。

仲間が再びアレなことになり、トラウマを刺激されて泣き叫ぶ他二人。

御愁傷様ではあるが、今は余計なことをしてくれたことに対しての怒りが勝つ。

 

「こっちも真化よっ!」

「うんっ!」

「またロコだけ仲間はずれ...!?」

「ちっ...!」

 

予想通り対抗しようとするエノルミータ。

そうさせまいと魔力を集中させ、一網打尽にしようとするが。

 

「ベルゼルガちゃんも悪い子だからぁ...お仕置きしちゃうよぉ?♥️」

「やめっ!?マゼンタ離しっ!?///」

「こんなマゼンタは嫌だぁぁ~!(泣)」

「しまった...!ベルゼルガ...!?」

 

不穏な発言と共に仲間を抱き寄せ、魔力を吸収している。

狙いがベルゼルガであると分かり、私は形振り構わず彼女の元へと駆ける。

 

「チクッとするよぉ?♥️」

「ぐあぁっ!!」

「シオちゃん...っ!?」

 

間一髪割って入り、魔力の針をその身で受ける。

先日の合体技程ではないだろうが、鎧が砕かれ直接身体に痛みが走る。

勢いよく押し飛ばされ、地面に激突してしまう。

 

「シオちゃん!...だ、大丈夫...!?」

「ぐっ...ベルゼルガ...ケガは、ないな...?」

「ケガしてるの、シオちゃんの方...!」

「このくらい、問題ない...!」

 

強がりながらも立ち上がることが出来ない私。

ただの一撃でこの威力...!

やはり侮れんな、トレスマジア...。

 

「誰であろうと、二度とお前を傷つけさせてたまるかっ...!」

「!...シオ、ちゃん...。」

「下がれベルゼルガ!後は私一人で...!」

「あの白い姿には、なれないの...?」

「っ...必要がない、だけだ...!」

 

見え透いた嘘だ。

獣を一度は打倒したあの時以降、白い真化のイメージはまったく掴めていない。

無我夢中だったのだから、方法など覚えているはずがない。

あの力なら、この状況を一気に覆すことも出来るかもしれないが...。

 

「...じゃあ、いいよ。あたしが、やるね。」

「な...何を言っている!?お前は下がれと」

「あたし、シオちゃんが傷つくのがイヤ。でも、分かってる...シオちゃんも、あたしに傷ついて欲しくないんだよね。」

 

いつになく饒舌。

強い決意を込めた瞳で、彼女は私を見据える。

 

「だから、大丈夫...。」

「何が大丈夫だと言うのだ...!?今の奴らは危険だ!お前に何かあれば私は...!」

「あたしのこと、大事って言ってくれた。

あたし...今ちゃんと..."添い遂げられてる"。

えへ...幸せ。

幸せだから...絶対に、負けないよ。」

「っ...らん、だ...。」

 

微笑む彼女の姿が"あの時"の彼女と重なる。

自分を殺してでも私を守ろうとした、あの悲しげな笑顔。

それとは違う、彼女なりに前に進んだが故の決断だと感じる。

だが、そんなことはやはり許容出来ない。

私の目の前で彼女が傷つくのは、もう二度とご免だ。

 

彼女の決意が、私の中の忘れていた"スイッチ"を押す。

なんだ...こんなにも簡単だったのか。

方法など必要ない。

ただ、強く願えばいい。

心の底から沸き上がる、この想いだけに全てを重ねろ。

私は...!

 

「お前は...私が必ず守ってみせる...!」

「!?」

 

身体に力が漲り、真っ白な輝きに包まれる。

呪われた黒い鎧は、聖なる守護の白盾へと変化した。

今まさに、私は会得したのだ。

"聖騎士皇(ホワイトナイツロード)"への変身を!

 

「あの時の、白いシオちゃん...!」

「後は任せてくれ。

従業員の不始末。

責任を取るのは店長の務めだ。」

「か...かっこいぃ...♥️///」

 

傷ももう痛まない。

ベルゼルガの想いと共に、私はらしくないヒロインたちの元へ一瞬で移動する。

 

「そんな無様な姿では、到底配下に加える気にならんな。」

「イミタシオ...!」

「イミタシオちゃんもぉ...オ・シ・オ・キ。して欲しいのかなぁ?♥️」

 

真化して尚も争う双方のリーダーを睨み付け、その間に立ち塞がる。

まずは"商売敵"から退場してもらおうか。

 

「いくよぉ♥️」

「「み、ミィ...///」」

「同じ手を喰らうものか...!」

 

撃ち出される魔力の針を剣で力任せに切り払い、正面から接近。

切り裂かないように魔力でカバーしつつ、バットを振るようにして三人の体をまとめて捉える。

 

「水でも被って反省していろッ!」

「あ~ん!♥️」

「こんなん納得いかへーーんっ!?///」

「悪役のやられ方だこれぇーーっ!?(泣)」

 

ホームランさながらに綺麗な放物線を描いて星になるトレスマジア。

どうにも不憫だが今は仕方がない。

許せ。

 

「さて。それでは接客指導といこうか。」

「アタシの獲物横取りしやがってぇぇ!!」

「指導その1。店に危険物を持ち込むな。」

 

放たれたレーザーを空中で回避し、追尾してくるそれを打ち消さないままにレオパルトへ肉薄する。

 

「げっ!?」

 

ギリギリまで引き付け、当たる直前に反転。

光線を本人へと直撃させる。

 

「クロコゲでもアタシ...カワイイ...けふっ...」

「少しは頭を冷やせ。」

 

こいつだけいつも通りではないか...?

腑に落ちない思いのまま、リゾートのプールへと一人目を吹っ飛ばす。

 

『ロコの歌を聴けぇぇ!!』

 

背後から迫るロコムジカの音波攻撃を、刃を振るう衝撃波で相殺。

そのまま魔力の刃を撃ち出してレオパルトのいるプールへ叩き落とす。

 

「何でロコばっかりぃぃーーっ!?」

「指導その2。私語は慎め。」

 

何も考えていないようで、色々溜め込むタイプだったのだな。

今度悩みを聞いてやるのもいいか。

 

「私のサマーバカンスを邪魔するな...!」

「指導その3。これが一番重要だが。」

 

鬼気迫る表情で斬りかかってくるアズールと鍔迫り合い、斬り合う度にその体勢を崩していく。

彼女は私が最も恐れる相手。

だが、それは氷のように冷たく研ぎ澄まされた意志があってこそ。

ただ暴れるだけの雑な力では、今の私に届くことはない。

 

「お客様にはスマイル満点一択っしょ...!!」

「きゃぁぁー!?」

 

尊敬する店長からいつも聞かされる言葉を手向けに、最後の一人をプールへとぶち込む。

 

漸く静かになったリゾート。

私に向かって手を振るベルゼルガと、水面から顔を出し、不思議そうにキョロキョロと辺りを見回す水神たち。

彼女たちを照らす日射しが、私の勝利を祝福しているように感じられた。

 

「よく覚えておくことだ。新米アルバイター共。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「はぁ...疲れた...。」

 

"接客指導"から三時間程過ぎた頃。

夕焼け眩しいテラスの端っこで、私は一人ポツンと膝を抱えて座っていた。

騒ぎは幸いにして30分程で終息し、人的被害はゼロ。

物的損害は小規模で、罪滅ぼしにアズールたちが修理している為、リゾートはすぐに営業を再開出来た。

ここまではいい。ただ...。

 

「これでは骨折り損ではないか...。」

 

被害のあったフードコートは引き続き修理中の為、その分の損害は店舗の売り上げから差っ引かれるらしい。

完全に失敗した。

これならトレスマジアに対抗しなかった方が遥かにマシである。

一日目の給料は、ほぼないと思った方がいい。

 

「明日もこんな感じなのか...?」

 

修理は今日中に終わらせるようキツく言っておいたし、明日は通常営業出来る。

だが、それはそれで憂鬱になってしまう。

とりあえず百花と会った時どのように苦しめてやるかだけ考えておくことにしよう。

少しだけ気分が晴れる気がする。

 

「はぁ...お腹空いた...。」

 

そういえば、結局私だけ休憩出来ず昼食も食べていないのだったな...。

流石に倒れそうだ。

営業している店舗を見つけて、適当に栄養を補給しなくては...。

 

「あのぉ~...すみませぇ~ん...?」

「?」

 

溜め息を吐きつつ立ち上がろうとすると、誰かが私に呼び掛ける声がした。

振り返るとそこには、目深な麦わら帽子に黒い水着、パレオを巻いたリゾートスタイルの、長身の"美女"が立っていた。

 

「あのぉ...桃慈李屋さんの、店長さんですよねぇ...?」

「は、はい。そうですが...?」

 

目元は帽子で隠れているが、少し緊張しているように見える。

私が店長だと知っているということは、昼頃までに来てくれたお客さんだろうか?

...ハッ!?まさかクレームかっ!?

リゾートなホリデーを無茶苦茶にしてくれた私へのお礼参りだったりするのか!?

 

「す、すみませんでしたっ!!大変お騒がせしてしまい面目次第もございませんっ!!」

「え!?ち、違いますぅ!私、文句を言いに来たんじゃありませんよぉ...!」

「......違うん、ですか...?」

 

とりあえず平謝り作戦は不要だったということか...。

慌てて否定する女性は、手に持ったビニール袋を私に見せて話を続ける。

 

「そのぉ...店長さんの働きっぷり、すごく素敵でしたぁ。...お疲れでしょうし、よかったらこれぇ...どうぞぉ...///」

「え。私に...?」

 

おずおずと渡された袋の中には、温かい焼きそばとお茶のペットボトルが入っていた。

 

「そんな...お客様にこのような」

「ダメ...でしょうかぁ...?」

「っ...いえ!ありがとうございますっ!昼食を抜いていたので、非常に助かります。」

「ふふっ。そうですかぁ...///」

 

何故だか彼女が泣き出してしまいそうに感じて、素直にその好意を受け取ることにする。

優しくて素敵な人だ...。

 

「あまりご無理をなさらないようにぃ...。」

「はは...。気をつけます。」

 

見ず知らずの人に心配されるとは恥ずかしい。

彼女の厚意を無駄にしない為にも、今日はしっかり養生して明日に備えるとしよう。

 

「もう、()()()()()ことは出来ませんから...。」

「え...?」

 

別れ際の一言。

脳がその意味を理解するより先に、心が激しく脈動する。

彼女を行かせてはいけない。

そう思って、遅れて声を上げる。

 

「待っ...!?」

 

しかし、無駄だった。

彼女はまるで幻であったかのように、もうこの場にはいなかった。

彼女から受け取った差し入れだけが、先程の邂逅が夢ではなかったことを物語る。

 

"彼女"だったのだろうか。

それならば、何故ここに。

何故私に接触したのか。

何故、せっかく会えたのにすぐいなくなってしまったのか。

 

君に、話したいことが。

伝えたいことが、私にはたくさんあるというのに。

 

「...。」

「みっちゃん、いた...。」

 

取り残された私の前に、今度は蘭朶が現れる。

ここまで捜しに来てくれたようだ。

 

「修理、終わったよ。あの子たちが、閉園まで営業するって...。」

「...また勝手なことを。

子どもが残業など笑えん冗談だ。」

 

売り上げは残念なことになったが、私を含め全員疲労が溜まっているはずだ。

私が店長のうちは、子どもに無理をさせるようなブラックな店にするつもりは毛頭ない。

 

「...みっちゃん、なんだかおいしそうな匂い。」

「ああ...。食事をもらったんだ。」

「もらったって、誰から...?」

「見ず知らずのお客さんからだ。

私を心配して差し入れをくれたらしい。」

「...へぇ。」

 

すぐにでも店に戻りたいところだが、"無理をするな"と言われたばかりだしな。

私は再びしゃがみ込み、彼女のくれた差し入れを取り出す。

 

「...すまない蘭朶。先に食べてしまっても、いいか?温かいうちに...食べておきたいんだ。」

「......うん。待ってるね。」

 

手を合わせ、感謝を込める。

焼きそばを口に運ぶと、久しぶりの食事に自然と笑顔が溢れる。

まったく別の食事のくせに、以前彼女に用意してもらったインスタント食品を思い出した。

何でもない食事でも、あの時確かに私は幸せだった。

 

私は、君に何も出来ていない。

いつももらってばかりで、命まで救ってくれて。

道が分かたれた今でも、君は私を気に掛けてくれていた。

 

その上で更に何かを望むなんて、欲張りが過ぎるけれど。

君が、今私と同じ気持ちでいてくれたら。

また、一緒にいたいと願ってくれているのなら。

きっといつか、君を迎えに行く。

君の愛は嘘じゃなかったと、必ず証明してみせるから。

だから、待っていて欲しい。

 

「......みっちゃん、おいしい?」

「...ああ。美味だ。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

◼️□Next episode◼️□

 

「キウィ...?な、何かしら...?これは...。」

「え?"歯ブラシ"だけど。」

「歯、ブラシ...?」

「そー。歯ブラシの魔物。」




右端まで赤MAXにしたい(願望)
ちょっと筆が鈍って来てますね、反省してます...。
謎の美女()の八尺様感。
みっちゃん、ベタ惚れしてます。

次回は11/16(土)0:00投稿予定です。
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