魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~ 作:月想
今回で『
次回からは完全オリジナルストーリーが始まります。
ここはまさに分岐点。
原作に則ったストーリーもいずれ執筆予定です。
それでは、夏休みの終幕をご覧ください。
「夏休みももうおしまいだねぇー...。」
「学生の聞きたくないランキング堂々一位やなぁ...。」
「あっという間だったね...。」
三人揃って気の抜けた声と顔になって、ぼーっと天井を見上げる。
始まった時は無限にあるように思える夏休み。
でも気付いたらその全能感は消えていて、残り後3日しか残ってない現実に心が折れそうになる。
それでもたくさんのバケーションな思い出があれば。
そう、思うんだけど...。
「夏休み...ずっと仕事ばっかりだったね...。」
「そだねぇー...疲れたねぇー...。」
「あない予定入れんでもええやん...。」
最初は魔物騒ぎ。
次は街の被害の修繕。
それが終わったらすぐに歌とダンスのレッスン。
CD発売のイベントはたくさんあって、ほとんど毎週色々なとこに行って。
たまに休みがあっても、エノルミータとシオちゃんズが現れて結局疲れることになっちゃう。
「もっと遊びたかったなぁ~...。」
「全部あいつらのせいや!夏休みくらい休んだらどないや!?何でこう定期的に悪させな気が済まんのやっ!?」
「あ、あはは...。」
たぶん、小夜ちゃんたちからするとあれも"遊び"の内だからだと思うけど。
そんなこと言ったら、益々薫子ちゃんの機嫌が悪くなっちゃう。
一昨日だってゲームの中に閉じ込められちゃったみたいだし。
いいようにやられてるだけなのは、私だってちょっと悔しいかも。
...まあ、薫子ちゃんの機嫌が悪くて、私が疲れ切ってる最大の"理由"は別にあるんだけどね。
「あーあ。結局"真化"も出来なかったしなぁ~。」
「!?」
「あ、あー!せやな!?残念残念!せやけどそのうち出来るやろ!気にせんと気楽にやっていこか!?」
そう。
はるかちゃんの、マジアマゼンタの真化が問題だった。
"フォールン・メディック"。
彼女らしくない、解釈違いも甚だしいえっちな姿、言動。
どう考えてもおかしい。
さっきの発言から分かるように、はるかちゃんは自分があの姿になった時の記憶をすっぽり忘れているみたい。
やっぱりただの真化じゃないってことなのかな?
「そうだよね!がんばってればいつかなれるよね!」
「う、うん。きっとそうだよ。」
私と薫子ちゃんは本人に悟らせないよう、頑張って口裏を合わせている。
理想と違う姿になって、ショックを受けるに決まってるから。
「ねぇねぇうてなちゃん!あたしたちのグッズとか、たくさん持ってるんだよね?」
「え?ま、まあ...。」
「見せてもらっていいかな?!どんなのがあったか思い出したくて!」
「い、いいよ。部屋に飾ってあるから、自由に見ても...///」
「ありがとう!じゃあ見てくるね!」
「余計なもんまで漁るんとちゃうぞー。」
ワクワク顔で出ていくはるかちゃん。
何だか恥ずかしいけど、本人に魂のコレクションを見てもらえるなんて、実はかなりのご褒美なのでは。
ところで、"余計なもの"って何だろう?
「はぁ...。結局なんやったんや、マゼンタのあれは。」
「普通じゃないのは、確かだよね...。」
「忙しい言うとるとこ悪いけど、ヴァーツはん捕まえて聞いてみるしかないかぁ...。」
「はるかちゃんのいない時にね。」
とにかく、あれは何とかしないと。
見る度に大切な何かを失っていく感じがする。
私と薫子ちゃんが。
小夜ちゃんなら解決法を知ってたりしないかな?
「はぁ。不景気な話はやめややめ。
余計に参ってまう。」
「そうだね、じゃあ何の話を」
「最近小夜とはどないなん?」
「へ!?///」
久しぶりに意地悪な表情で、すごい話題の変化球をカマしてくる薫子ちゃん。
これは、あれかな?
関西お決まりの。
「ぼ、ぼちぼち...でんな...?///」
「いやフリやなくて。デートしたんやろ?夏休み最初にニヤけながら言うとったやん。」
「あ、あれは...あの騒ぎで台無し、というか...。」
「ああ、あの日やったん?間が悪いなぁ。んで?代わりのデートは?」
「代わりは、してないです...。」
「えぇ、勿体な。一日くらい誘ったらええのに。」
「め、面目ないです...。」
何でちょっと責められてるみたいになってるんだろう。
私だって、消化不良も大概のデートを夏休みのどこかでやり直したかった。
けど敵同士とはいえ、何だかんだ会う機会は多かったわけで。
かと言って、二人っきりで会いたいなんて言うタイミングはなかったんだもん。
別に、ヘタレてたわけじゃないし...。
「そいえば、明日近所で"夏祭り"があるらしいで。」
「夏祭り?...ああ、言われてみれば。毎年やってるよね。」
街でお馴染みの夏祭り。
たくさん屋台が出て、確か水神神社の敷地でも出店してた気がする。
友だちいなかったから、小さい頃以来行ってなかったけど...。
「小夜誘って行けばええやん。」
「えっ!?...でも、もう他のみんなと約束してるだろうし。」
「あんなぁ。そない遠慮することないやろ。」
「でも...。」
「うてな。」
今度は一転して真剣な表情。
薫子ちゃんの目が、真っ直ぐに私を射抜く。
「一回でも小夜に"好き"って言葉。
伝えたことあるんか?」
「はるかちゃんには言ったの?」
「何で知っとんねんっ!?!?///」
発言の意図を悟って真っ赤になる薫子ちゃん。
それじゃあマジアレッドだね。
照れた表情が非常にベリーグッドです。
ふっふっふっ。
いつまでも姉貴分じゃいさせないよ?
知ってるんだから。
恋愛経験値は私の方が僅かに上!
真の愛を知って
「薫子ちゃんこそ、はるかちゃんとデートは?」
「......な、何回か...///」
「買い物、妹さんたちの引率を除いたら?」
「......ゼロ、やけど...。」
「せっかくの夏休みなのに勿体ないですねぇ。
一日くらい、誘えばいいじゃないですか。」
「め、面目ない...。」
一転攻勢とはまさにこのこと。
さっきの仕返しとばかりに薫子ちゃんを問い詰める。
「言ってくれれば二人きりにして差し上げたのに。大変なんですよ?三人組で、そのうち二人が恋愛なんて。すっごく気を遣うんですから。」
「すんまへん...。」
「夏祭りは誘ったんですか?」
「まだやけど...。」
「遠慮することないんですよ?最後のチャンスなんですし、思い切って誘わなくては。」
「怒っとるんならそう言えや!?」
ブーメラン、ブーメラン。
今回はカウンターが上手く決まった。
これでもう小夜ちゃん絡みで弄られることもないだろう。
奥手なのはお互い様だ。
「うぅうてなちゃん!?///」
「わっ!?なんや急に入ってくんなや!?///」
更に色々聞き出そうとしたタイミングで、二階からはるかちゃんが駆け降りてきた。
妙に顔が赤いけど、いったいどうして
「えっちな本はまだ早いよぉ!///」
「あー!?それ違うコレクションーっ!?///」
「せやから余計なもん漁るな言うたやろが!?///」
手に持っていたのは秘蔵の"SMコレクション"。
何でわざわざ引き出しを見てしまったのか。
見るならクローゼットまでにして欲しかった。
「お姉ちゃん許しませんよぉ!///」
「いつからお姉ちゃんになったの!?///」
『あー?テステス。コホン。
こんにちは、善良な市民の皆さん。』
「「「!?」」」
とりあえずはるかちゃんからお宝を奪い返そうとしたその時。
窓の外から、正確には
聞き馴染みのある声が響いた。
『エノルミータ総帥、ルシファアズールよ。』
「アズールちゃん!?」
「あんの変態!今度は何の用や...!」
空に映し出された巨大モニター。
そこに自信満々の表情を浮かべるアズールの姿が。
久しぶりにすごく悪の組織っぽい。
『まあ、あなたたち有象無象には興味ないのだけれど。それに、マゼンタ、サルファも今日は無用よ。』
「あんた何様や!?」
「あたしたち二人はいいってことは...。」
空に浮かぶ、彼女の美しい瞳と目が合う。
私がどこかで必ず見ていると確信しているのが分かる。
『マジアベーゼ。あなたと、
「二人、きり...。」
最後に微笑み、モニターは消え去る。
これはアズールから私への"果たし状"だ。
思い出の公園。
どこかは考えるまでもない。
あの時のリベンジを果たす時が来た。
「うてな!あない挑発に乗ることないで!」
「そうだよ!アズールちゃんはきっと何か企んでる!一人でなんて危ないよ!」
「...二人とも、心配してくれてありがとう。でも、行かなくちゃ。」
止める二人を制して、トランスアイテムを構える。
他の誰かならともかく、私を呼んだのはあのアズールだ。
それに応えないと言うなら、私はマジアベーゼでいる理由がない。
彼女を倒すことこそが、私の目標なのだから。
「...覚悟の上、なんやな?」
「大丈夫。私に任せて。」
「...うん!うてなちゃん、すっごく強くなったもんね!」
いつかと同じように背中を押される。
けど、もう自分を見失ったりしない。
今度の一騎討ちは、絶対に負けない!
『
変身し、窓から飛び立つ私。
目指すはあの公園。
私がアズールの涙を見た、あの場所だ。
「......これ、どうしよ...?///」
「はよ元の場所に戻さんかい...///」
―――――――――――――――――――――――――――――
「ちゃんと来てくれたわね、ベーゼ。」
とある公園。
彼女たちにとって因縁深い場所であるそこに、悪の総帥は君臨していた。
「冷たそうな椅子だね、アズール。」
「こんなに暑い場所でただ待つなんて辛いだけですもの。なかなか快適よ?」
氷で作成された玉座。
猛暑にも関わらず、一滴も溶けることなくアズールをその透き通る体で以て支えていた。
待ち人であるベーゼが来た今も、彼女は立ち上がることなく不敵に笑みを浮かべたままだ。
「それで戦うつもりなの?」
「ええ、そうよ。十分ですもの。」
「...後悔するよ?」
「そんなに私と踊りたいなら、まずはここから立たせてみせなさいな。」
玉座に座したままの王を睨み付け、鞭で遊具から魔物を誕生させるベーゼ。
パンダによく似た、しかし決して愛らしくないそれを、アズールは氷柱の雨で迎撃する。
「せっかく遊具も元通りになっていたのに。またこの公園を更地にするつもりかしら、正義の味方さん。」
「強がってても分かるよ!前みたいに水分を凍らせられなくて後手に回ってるよね!そのくらいの対策、今の私なら簡単だよ!」
以前は生物の水分を利用され、即座に眷属を凍らされてしまったベーゼ。
しかし、今回作成した魔物にはその対策を練り込んでいる。
アズールとの再戦は、常にベーゼの頭の中にあった。
シミュレーションが功を奏し、氷柱すらはね除けて魔物はアズールへと肉薄する。
「頭が高い獣ね!」
『ガウガッ!?』
しかし、アズールはその場から逃げ出すこともしない。
水の鞭を作り出し、魔物の頭を激しく打つ。
怯んだ獣にトドメを差そうと、鞭を氷の刃に変化させるが。
「"メナス・ロンド"...!」
「!」
アズールの頭上から放たれた、黒き魔力の刃たち。
魔物は囮。
魔力を込めた斬撃が公園の砂地もろとも玉座を切り裂く。
「ひどいわ。お気に入りの椅子だったのに。」
「だから言ったよね?後悔するって。」
土煙が晴れると、氷の切れ端と元魔物の残骸が辺りに散らばっていた。
魔物は遊具に戻っているので、別にグロ映像ではない。
問題なのは、今の奇襲でアズールに一つも傷を付けられていないことである。
「今日はちゃんと"長く"なってるわね。
素敵よ、大人っぽくて。」
「アズールこそ、今日もすっごく綺麗だよ。」
魔力が昂り本気モードになったベーゼ。
それを嬉しそうに見上げるアズール。
ベーゼもまた、堂々とした彼女の様子を愛おしげに見つめる。
「約束通り、踊るとしましょうか。」
「一番素敵なドレスでね。」
『『
同時に呪文を唱え、持てる全てを発揮する姿へと変化した両者。
"凍刃羅刹"と"悪夢の魔女"となり、ニヤリと笑い合う。
「やっぱり...それ本当にえっちで可愛くてカッコいいよね...悪の組織なのにヒロイックで...///」
「あなたこそ、正義の味方がそんなにセクシーで...見る度にゾクゾクしちゃうわ...///」
頬を赤らめ互いの姿を称賛し合う二人。
実は善良な市民たちが何人か観客としてコソコソこの戦いを覗いているのだが、ベーゼたちのただならぬ雰囲気に困惑しているものがほとんどだった。
それも仕方ないこと。
命を懸けた戦いですら、彼女たち同士に憎しみはない。
そこにあるのはただ相手の、より美しく輝いた姿を見たいという欲望だけだからだ。
「いきますよ、アズール...!///」
「来なさい、ベーゼ!///」
興奮のままに杖を振りかざすベーゼ。
アズールから悪夢を抜き取り、眷属として具現化する。
『トマトマ』
『トマート』
『ケチャプップ』
「げっ!?赤い悪魔...。」
現れたのは"トマト"をそのまま擬人化したような魔物たち。
アズールはトマトが嫌いだったのだ。
悪夢というにはあまりにも可愛らしいし、何故いつも食べ物なのかと不思議に思う人もいるだろう。
ここで解説しておくと、これはベーゼなりの"努力の結晶"である。
ガチの悪夢を引き出してしまうとあまりにもバイオレンスなモノが飛び出す可能性があり、正義の味方として流石にまずいと思案したベーゼ。
その結果、"好き嫌いすると夢に出てきて襲われちゃうよ?"なんていう昔話染みた教訓として扱えるように能力を使うことにしたのだ。
トレスマジアはいつも全国のチビッ子とお母様方の味方です。
よろしくお願い致します。
「悪の総帥がトマト嫌いなんて、随分お可愛い弱点ですねぇ!」
「嫌いなんだからしょうがないじゃないっ!」
何でもよく食べる姉と比較されたのは、未だに嫌な思い出。
別に食べなくたって死なないのだからいいじゃないか。
病気になったのはトマトを食べなかったせいだとは言わせない。
そう心の中で言い訳しながら、大嫌いなトマトたちに刃を向けるアズール。
「ひっ!?」
「ふふっ...みずみずしいでしょう?」
魔物を切り裂いた瞬間、アズールに降りかかるその体液。
否、トマト汁。
全身にトマト汁をぶっかけられ、大嫌いなその臭いに吐き気を催したことで、思わず動きを止めてしまう。
「今です!"
「っ!?」
何人ものベーゼが作り出され、アズールを様々な方向から羽交い締めにする。
通常は暴走した時と同じ姿となり、彼女自身のトラウマを具現化する魔法であるはずだが、今回は違う。
姿形は真化したベーゼと瓜二つ。
ほとんど分身したようなものである。
「あなたの為の特別製です。少々魔力を使う上に力も本来よりは弱いですが...きっとお楽しみ頂けるかと。」
「こんなもの!すぐに切り払って...ひぅっ!?///」
『レロ...。』
力任せに振りほどこうとするアズールだったが、突如身体に走る
「ほら。おいしいですよ、トマト。」
「ひゃっ!?やめっ!?///」
『エオ...。』
『レル...。』
恍惚の表情でアズールの身体に纏わりつくトマト汁を舐めとるベーゼたち。
腕を、足を、胸を、顔を。
ありとあらゆる箇所を味わい尽くされる。
戦闘中でありながら、その快感がアズールの抵抗を封じる。
「しっかり舐めとって、綺麗にして差し上げます。邪魔な服は脱いでしまいましょうか?」
「っ!///」
開いた胸元から一気に着物を剥がされるアズール。
わずかな装備と下着一枚となり、その美しい身体を晒してしまう。
「んっ...やっ...!///」
「分かりますよ、アズール。あなたは拒めないわけではない。ただ受け入れているだけなんですよね?」
「ち、が...っ!///」
その気になればあの程度の拘束は振り払えるはず。
しかし、アズールはベーゼの攻めを受けたまま。
ベーゼは気付いていたのだ。
アズールの
「私にされているから、ですね?」
「っ...!?///」
「あなたの弱点は、"マジアベーゼ"なんですよね...!?///」
大前提、水神小夜はマジアベーゼを愛している。
どれだけ取り繕っても根は乙女。
好きな相手に迫られて余裕を保てる程、彼女は大人の女ではなかった。
そのことにベーゼは気付いていた。
"私が好きなんだから嬉しいでしょ!"と宣言したも同然で、加害者側もまた内心恥ずかしさに悶え苦しんでいる。
アズールが自分を愛してくれていると証明できたので、その喜びもまた感じていたのだが。
「嬉しいです...でも、それで終わるあなたではないでしょう?」
「っ...あたり、まえ...よっ!///」
自らを味わうベーゼたちを振り払い、溢れる魔力で一瞬で凍り付けにしてしまうアズール。
裸ながらも、未だ凛々しく輝くアズールの瞳に、ベーゼは歓喜の声を上げる。
「今なら分かります...!これがあなたの愛なんですね!?アズールっ!」
「そうよ...!愛故に、あなたを打ち倒させてもらうわっ!」
刀を持った以外はふんどし一枚。
そんな姿を恥じることなく、アズールはベーゼに突撃をかける。
防御を固めようとするベーゼだったが、視界に映る"あるもの"に気を取られてしまう。
「たわわっ!?///」
「隙あり!」
ずばり、アズールのおっぱい。
慣れないエロ攻撃を仕掛けた結果、自分の首を絞めることとなってしまったのだ。
わずかな隙が命取り。
鞭を刀で弾かれ、無防備になってしまうベーゼ。
「しまっ...!?」
「油断大敵よ。」
お得意の氷によるバインドを施し、今度はアズールがベーゼを拘束する。
勢いそのままに、ベーゼの衣装を恥ずかしい部分が露出するように切り裂く。
「なっ!?///」
「あなたにはしないと思った?」
したり顔で水の鞭を作り出し、見せつけるように軽く地面を叩いてその音を響かせる。
ちょっとの力でも、パシンパシンと乾いた大きな音が鳴る。
次の対象が自分であることをベーゼに理解させ、恐怖させるのが目的だ。
「っ...毎度同じ手で、新鮮味を感じませんね。」
「あら、酷いことを言うのね。
意外と気にしてるのよ?それ。」
ベーゼの挑発に素の反応を返し、水の鞭を消してしまうアズール。
困惑するベーゼに近付き、その柔肌にピタリと触れる。
「何、を...///」
「すごくドキドキしてる...。
興奮しているのね、ベーゼ。」
「ちがっ...恥ずかしい、だけです...っ///」
強がる様子に蠱惑的な笑みを浮かべ、その耳元に口を近付ける。
アズールの吐息が耳から脳に抜けて、思わず身体を震わせてしまう。
「私の弱点があなたなら。
あなたの弱点は、わ・た・し...だったりする...?」
「ひゃっ...!?///」
甘い声音で"私のこと、好き?"と囁かれ、思わず頷きそうになるベーゼ。
しかし、ヒロインとしての矜持が彼女の理性をギリギリで奮い起たせ、首を立てに振ることを許さない。
「そうそう...そうやって頑張りなさい。オーディエンスが見ているもの。」
「え...?///」
よく周りを見回してみれば、確かに茂みに隠れたりして、割りと多くの観客がいることが分かる。
ベーゼのピンチに手に汗握っているかと思えば、二人のあられもない姿を見て赤面している者がほとんどだ。
中には撮影までしている人もいる。
アズールは恥ずかしくないのだろうか...?
「あなたに小細工は必要ない。こうして私が身体をくっつけて...愛を囁けば...。」
「っ!///」
「脳が溶けちゃいそうでしょ...?
ほら...がんばれ...♥️がんばれ...♥️」
「ぁ...ぅ...っ///」
宿敵でありながら愛してしまったのが運の尽き。
反則級に効くリアルASMR攻撃に思考を放棄しそうになるベーゼ。
しかし、ここで彼女は思い出す。
えっちで幸せな状況でも、これは"悪"として立ち塞がる敵との戦い。
それに負けてしまう、諦めてしまうのは間違っている。
何故なら、それがベーゼのあこがれた魔法少女だから。
どれだけ辱しめられようが、ボロボロにされようが。
決して諦めず、最後には必ず勝利する。
そうなってみせると、彼女に。
自分自身に誓ったのではなかったか。
「......な...///」
「ん...?なぁに...?♥️」
「ナイトメア、ブリゲード...!///」
「ちっ...!?」
影から飛び出た黒いベーゼが、アズールを強襲。
その攻撃を回避する為離れざるを得ず、眷属がベーゼの拘束を破壊することを許してしまう。
「ハァっ...ハァっ...///」
「...流石ね。それでこそ、私のライバルだわ。」
息を切らしながらも体勢を立て直した宿敵に怒るどころか、嬉しそうな声を上げるアズール。
ベーゼもまた、そんなアズールの気持ちを感じているかのように笑う。
「戦えば戦う程、あなたがどれだけ魅力的か理解出来る。」
「本気でぶつかり合う度に、あなたのことしか考えられなくなるわ。」
互いの得物に最大の魔力を込め、二人は決着を果たそうと最後の一撃を放つ。
全ては、愛故に。
「でも!」
「勝つのは!」
「「私っ!」」
「"
「"メナス・エンド"...!」
全力の必殺技がぶつかり合い、凄まじい衝撃が公園内で弾ける。
幸い誰も吹き飛ばされなかったが、位置が近かった遊具はまたもやグシャグシャになってしまった。
二つのエネルギーは空に舞い上がり、キラキラとした氷が辺りに降り注ぐ。
「強くなったわね、ベーゼ。」
「アズールも本当に強いよ。」
必殺技対決は、見事引き分け。
ボロボロながらも満足そうな顔で、アズールとベーゼは見つめ合う。
「また、約束果たせなかった...。」
俯くベーゼにアズールは困ったように笑い、ベーゼだけに聞こえるよう、小さな声で耳打ちする。
「待ってるから...ずっと。ね?」
「...うんっ。」
アズールとしてではなく、水神小夜としてうてなに向けた言葉。
そんな赤裸々な想いに顔を上げ、ベーゼもまた笑顔で頷く。
「次はもっと楽しませてちょうだい。
我が好敵手、マジアベーゼ!」
悪役らしく捨て台詞を穿いて飛び立つアズール。
ベーゼはそんな後ろ姿を見つめ、何かを決心したようにどこからかスマホを取り出す。
善は急げ。
今ならきっと言えると信じ、相手が電話を取り辛いのも無視して通話ボタンを押下する。
「...もしもし、小夜ちゃん?明日なんだけど。私と夏祭り...一緒に、行ってくれないかな?」
―――――――――――――――――――――――――――――
「歩きにくいのだわ。」
「我慢しなさい、すぐに慣れるわよ。」
浴衣姿のロボ子の手を引きながら、人混みの中を掻き分けて進む。
今日は、"夏祭り"。
水神神社も開催場所の一つな為、自然と毎年参加することになっていた私にとってお馴染みのイベント。
でも、今回はちょっと意味が違う。
「うてなと、夏祭り...。」
「どうしたのだわ?」
「い、いえ...。何でもないの。」
いつもより、真剣な声音だった。
戦ったばかりですぐに電話してきたのには驚いたが、それを忘れるくらいのドキドキを感じた。
何か、
当たり前といえば当たり前なのだけど、夏祭りは先にキウィたちと回ることにしていた。
だから、一度は"二人きりは難しい"と断った。
『どこかで、ちょっとだけでいいから...二人で話をさせてもらえないかな?』
うてならしくない押しの強さ。
頷く以外の選択肢はなかった。
話って、何の話だろう...?
昨日から頭の中はその疑問でいっぱいだ。
気になり過ぎて、ロボ子の着付けに思った以上に手こずってしまった。
「人がいっぱいなのだわ。」
「何だか嬉しそうね?」
「...私も、同じように歩いてるのだわ。」
表情は乏しいながらも、周りをキョロキョロ見回して楽しげな雰囲気を醸し出すロボ子。
やっぱり、連れて来て正解だった。
浴衣であればロボ子の特徴的な関節は隠せるし、おまけに可愛い。
留守番なんて可哀想なことにならなくて良かった。
「こりすちゃんにも見せたかったのだわ。」
「いつでも着せてあげるからね。」
「ありがとうなのだわ。...。」
感謝はされたが、少しその表情が翳ったように見えた。
足を止めて、彼女にもう一度問うことにする。
「ねぇ。本当にいいの?今ならまだ合流出来るわよ?」
「...せっかくの二人きりなのだわ。
私がいたら、きっと邪魔なのだわ。」
「そんなこと、絶対ないのに...。」
私たちはキウィたちと待ち合わせをしているわけだが、そこに
元々おばさまと二人で夏祭りを回る約束をしていたのだ。
お母さんとのお出掛けにワクワク顔のこりすを見て、ロボ子は自ら"邪魔をしたくない"と同行を拒んだ。
こりすは一緒に来るようにと説得したけど、"おばさまにロボ子をどう説明するのか"という点で言い淀んでしまい、結局別行動となってしまったわけだ。
理由なんていくらでも考えられるけれど、おばさまからして見れば、ロボ子はまったく知らない子。
同行を嫌がる可能性もなくはない。
彼女は彼女でこりすを溺愛しているし、二人の時間を優先するのは何もおかしいことではない。
「...んん?見て、こりす。
あれ小夜ちゃんじゃない?」
「!」
噂をすれば、というのは最早魔法ね。
遠くから手を振って近付いてくるのは、件の仲良し親子だった。
「こんばんは、おばさま。こりすもね。」
「こんばんは小夜ちゃん!すごい人集りね!」
「昔からずっと続いているお祭りですから。これから回られるんですか?」
「ええ!まずはたこ焼きが食べたいらしいの!...そちらのお嬢さんは、初めましてよね?」
「っ...。」
簡単な挨拶の後、おばさまは私の後ろに隠れているロボ子に気付く。
ロボ子は躊躇いながらも、少し前に出てペコリとお辞儀をする。
「ロボ子、なのだわ。」
「ロボ子ちゃん!可愛いお名前ね!小夜ちゃんのお友だちということは、こりすとも仲良くしてくれてるのね!」
「...お友だちなのだわ。」
「いつもありがとう!あなたたちのおかげで、こりすったら最近よく笑うの。」
頭を撫でられて気持ち良さそうにするこりすを見て、ロボ子はどこか寂しそうな笑顔で会話を続ける。
「でも、やっぱりお母さんと一緒が一番なのだわ。二人きりで、楽しんで欲しいのだわ。」
「優しいお友だちを持って、こりすは本当に幸せ者ね。ロボ子ちゃんも小夜ちゃんも、お祭りいっぱい楽しんでね!」
「...はい。おばさまたちもどうか楽しい一日を。」
「ふふっ、何だか大袈裟ね。
じゃあ行きましょうか?」
「...。」
「こりす?」
おばさまの声に答えることなく、俯いたままのこりす。
心配したロボ子が近付くと、一目散に彼女の体に抱き着いた。
「こりすちゃん。今日はお母さんと、二人きりの時間を過ごして欲しいのだわ。」
「...フルフル。」
「悲しそうなお顔はダメなのだわ。
今日は楽しいお祭りなのだわ。」
「フルフル...!」
「こりすちゃん...。」
頑なにロボ子を離そうとしないこりす。
ロボ子だって、離れたいだなんて思ってないのだろう。
そう思ったのは、私だけじゃないわけで。
「...良かったら、ロボ子ちゃんも一緒にどう?」
「え...?」
「ダメかしら?こりすがこんなに駄々を捏ねるなんて、本当にあなたのことが好きなのね。だから、きっと一緒の方が素敵な思い出になるわ。」
「でも、私は...。」
「私も、ロボ子ちゃんには何だか初めて会った気がしなくて。一緒にいてくれたら、すっごく安心なんだけれど。」
「お母さん...。」
杜乃親子に熱烈なラブコールを受けるロボ子。
考えてみれば、おばさまだってロボ子とは長い付き合いなのだ。
今更邪魔になんてなるわけがない。
こりすにはあの二人が、紛うことなき"家族"なのだから。
「キウィたちには説明しておくわ。おばさま、ロボ子をよろしくお願いします。」
「ええ!ちゃんと楽しませてあげるから!こりすもロボ子ちゃんもね!」
「コクコク!」
「...やれやれ、なのだわ。」
こりすを挟んで左右から手を握り、人混みに消えていく杜乃一家。
言葉とは裏腹に微笑むロボ子の横顔を胸に刻み、私は仲間たちの元へと移動を再開する。
「お、来た来た。」
「おっそいわね。どんだけ着付けに時間掛けてんのよ?」
「浴衣さよちゃんキタコレ~!!」
間も無くして、目的の場所でいつものみんなと合流する。
みんな浴衣姿な上に、髪型まで変えている夏祭り仕様だ。
真珠はサイドテール、キウィはお団子が頭の上に。
ネモまで髪を後ろで一つ縛りにしている。
「遅れてごめんなさい。
ロボ子の着付けが大変で。」
「そのロボ子はどうしたよ?」
「やっぱりこりすたちと一緒に回るって。おばさまも喜んで了承してくれたわ。」
「よかったじゃない。0歳児のくせに遠慮なんてしなくていいのよ。」
すぐにロボ子を心配し、その道行きにホッとした様子のたまネモ。
二人の面倒見の良さにはいつも助けられている。
"熟年夫婦"と呼ばれるのにも頷ける。
「浴衣さよちゃんゲロヤバ~!きゃわわ~!ケッコンして~!」
「ふふっ。ありがとう、キウィ。
キウィもとっても可愛いわよ?」
「とぅんく♥️」
「はいはい、ごちそーさま。」
「んで?どっから回るんだ?」
いつも通りのキウィはともかく、二人は早くお祭りを楽しみたいらしい。
そういえば、彼女たちには伝えていなかったか。
「小夜ちゃぁ~んっ!お待たせぇ~っ!」
「この声は...?」
「おぉ!はるかっぴじゃ~ん!...あ?てことは~...?」
「はぁ。そりゃまあ、おるわな...。」
「薫子ちゃん。今日くらい仲良く、ね?」
「ちょっと待って?なんか、小さいはるかがたくさんいるんだけど?」
数分遅れてやってきた、総勢6名の大所帯。
うてな、はるか、薫子。
そして、はるかの可愛い妹たち。
「なつな!」
「あきほ...。」
「みふゆ!!」
「あたしの自慢の妹たちだよ!」
「ああ、これが噂の三つ子ちゃんってわけね。」
「アタシ三つ子って初めて見た...。」
三姉妹に興味津々のたまネモ。
二人だけが初対面だったか。
「こっちが真珠ちゃん!
あっちがネモちゃん!」
「どーも?」
「よろしくな?」
「たまたま!」
「あねもね...。」
「たまねも!!」
「自然にその形で組み合わせんなよ...。」
「真珠の気のせい?何かすっごい度し難いあだ名を付けられた気がするんですけど?」
自己紹介の結果、二人の関係を本能で察知したらしい。
恐るべし三つ子ちゃん。
真珠の呼び方が酷かったのは忘れておこう。
私は三つ子の視線に合わせて屈んで、少し大きくなったかな?なんて姉振った感想を浮かべてしまったりする。
「久しぶりね、三人とも。
ちょっとは背伸びた?」
「でっかいねーちゃん!」
「ひさしぶり...。」
「ちょーせいちょーきだかんね!!」
一人一人順番に撫でていく。
喜ぶ顔もそっくりだが、ちょっとした違いを見つけるのが三つ子の正しい楽しみ方。
でっかいねーちゃん呼ばわりは気に食わないが...。
「なんや、よう懐いとるね?」
「小夜ちゃんとは長い付き合いだからね!」
「腐れ縁というやつね。」
「腐ってないよぉ!?」
「小夜ちゃん、今日はごめんね?急に一緒になんて言い出しちゃって...。」
「謝ることじゃないわ。
私も、一緒がよかったし...。」
遠慮がちに話し掛けてくるうてな。
なるべく自然に会話するが、どうしても意識してしまう。
浴衣も似合ってるし、髪型をポニーテールにしているのも可愛い。
ある意味、今日はお揃いみたいだ。
「うてなちゃんちょーかわい~。
しゅきしゅき~だかせて~?」
「抱かせてって、ハグって意味だよね...?///」
私の時と同じように甘えるキウィ。
うてなも困り顔だが、満更でもなさそうだ。
最近、二人の仲がすごく良くなった気がする。
原作にかなり近い雰囲気だ。
理由はともあれ、ファンとして非常に眼福な光景である。
「あーはいはい。うてなは小夜に用があるんや。ベタベタして邪魔せんとはよ出店でも」
「あ"?気安く話し掛けてんじゃねーぞひんにゅー。二度と喋れねーようにたこ入りのたこ焼き死ぬ程ぶち込んでやろうか?」
「ウチだけやなくたこ焼きまで冒涜する気かリンゴ飴頭。たこ焼きはたこ抜きが定石やろ...!」
「もうアタシはツッコまないからな!?」
「た、タコ...っ?」
キウィを嗜めようとした薫子だったが、いつも通りの喧嘩腰にやはり言い合いを始めてしまった。
タコを引き合いに出したことにより一部にトラウマも誘発して、先程のほんわか雰囲気はキレイさっぱりなくなっている。
「まあオメーは一人でちまちまたこ焼き食ってろ。その間にアタシは出店コンプリートして100%祭りえんじょいしてやっからさ~。」
「何がエンジョイや。金魚も景品もまったく取れず何の成果も得られませんでしたぁ~なるに決まっとる!とんだ残念祭りや!」
「あ"!?天才キウィちゃんにかかればあんな魚や豆鉄砲朝飯前なんですけど?夕飯前なんですけど!?」
「ならやってみぃや目の前で!一回でもミスったら地面に頭擦り付けて泣きながら土下座やぞ!」
「上等だひんにゅーばか!てめぇこそぱーぺきなアタシにガチ泣き土下寝だかんなぁ!?」
言い合いのまま出店の通りへ駆け出して行ってしまう犬猿コンビ。
毎回思うが、いったいどちらが犬で猿なのだろうか。
とりあえず、どっちも猿だと言ったら怒られるのは間違いない。
「あ~...行っちまった。」
「しょうがないわねぇ。はるか、三つ子ちゃんは真珠たちが遊んだげるから、あのバカ二人任せていい?」
「え!?...う、うん!分かった、お願いね!キウィちゃん薫子ちゃん!?待ってぇぇーっ!?」
「おねーちゃんがんばー!」
「がんばって...。」
「ふぁいとー!!」
真珠に促され、人集りに消えていった犬と猿を追い掛けるはるか。
妹たちの声援を背に。
お姉ちゃんは今日も、善人故に苦労する。
「んじゃ、いい加減行くとすっか。」
「そうね。なつなちゃんたちはどこに」
「あぁ、いいからいいから。三つ子ちゃんたちは、真珠とネモが面倒見るわ。」
「え...?」
思わぬ提案に戸惑う私に、真珠がこっそりと耳打ちする。
「あんたもうてなも、今日は妙に気合い入ってんじゃない。何か、あるんでしょ?」
「!...ええ、ちょっとね。」
流石エノルミータのファッションリーダー。
いつもとは違う私たちの化粧から、敏感に事情を察していたらしい。
やはり、真珠の女子力だけは侮れない。
「ってなわけで、真珠たちに付いてらっしゃい!お祭りを堪能させたげる!」
「何か食べたいのあるか?このねーちゃんが奢ってくれるってよ。」
「やきそば!」
「かきごおり...。」
「ぜんぶ!!」
「一人欲張りさんがいるわね~?そんな悪い子は、はるかお姉ちゃんに言い付けて一週間おやつ抜きの刑よ!」
きゃっきゃっとはしゃぎながら、三つ子引率組も出店回りへと出発していく。
初対面であんなに打ち解けるなんて、すごいのはたまネモの方か、それとも三つ子ちゃんの方か。
何にせよ、二人はいいお母さんになりそうだ。
今日の真珠にはバブみを感じる。
「...二人きりに、なっちゃったわね。」
「そ、そうだね...あはは...。」
ポツンと取り残され、気まずい沈黙が二人を包む。
「...とりあえず、一緒に...回ろう、か?///」
「え、ええ...///」
どちらともなく顔を赤らめ、祭りの喧騒に進み出る。
夏休み最後の"デート"が、今始まった。
―――――――――――――――――――――――――――――
「こんな風にゆっくりするの、久しぶりだよね...。」
「そうね...。結局バタバタの毎日だったから。」
お祭りで賑わう様子を眺めながら、小夜ちゃんと並んで出店通りを歩く。
食べ物からちょっとした遊びのものまで、たくさんの屋台が出ている。
子どもたちの笑い声や美味しそうな匂いでいっぱいだ。
「あの...小夜ちゃん!浴衣、すごく似合ってるね!」
「ありがとう。でも、和服じゃあまり代わり映えしないでしょ?」
「そ、そんなことないよ!髪色と合わせて涼しそうで、すごく素敵だと思う!か、可愛いよっ!///」
「そ、そう...///」
最初は相手の服を褒めるべし。
ちょっと遅れたけど、マニュアル通りに出来た。
慣れないことして恥ずかしいけど、本心なんだから照れることなんてない。
「うてなもよく似合ってるわ。髪型、今日はポニーテールなのね。」
「う、うん。下ろしてると暑くて...。」
「もっと伸ばしてみたら?大人っぽくて、個人的には好きなのだけど。」
「そう、かな?高校生くらいになったら、考えてみようかな...。」
「ふふっ、きっとすごく綺麗だと思うわ。」
「きれいだなんて、そんなっ...///」
見事にやり返されてしまった。
真っ赤になる顔が恥ずかしくて、余計に赤くなった感じがする。
かき氷にでも頭を突っ込みたい気分だ。
「それにしても、昨日は驚いたわ。戦ってすぐに電話してくるんだもの。私が誰だか忘れちゃったのかと思った。」
「あはは...言い出すタイミング、ずっと探してて。あの時、やっと勢い付いたから...。」
「...嬉しかったわ。私も、誘うのって気後れしちゃうから。」
「そう、なんだ...?」
意外だ。
小夜ちゃんはいつも堂々としてて、人気者で。海にだって誘ってくれたから、こういうの慣れてると思ったのに。
「断られたらどうしようとか、考えちゃうでしょ?」
「私が小夜ちゃんの誘いを断るなんて」
「あなたはそう言ってくれるけど、分からないじゃない?お互いの気持ちって...。」
そっか...。
不安になるに決まってるよね。
私たちの間には、本当はまだ何の証もないのだから。
今の私たちは、
「...小夜ちゃん、私ね?」
「あれ?小夜と柊さんじゃない?」
「あっ、ホントだ!おーい!」
意を決して想いを伝えようとしたところで、クラスメートの人たちと出会った。
街の催しなんだから、考えてみればいるのは当たり前。
当然、クラスの中心である小夜ちゃんは噂の標的なわけで。
「小夜ってば早速正妻とデート?キウィちゃん泣くぜ?」
「あなたねぇ。正妻とか、ハーレムなんて築いた覚えはないわよ。」
「つまり柊さんが大本命ってこと!?じゃあはるかちゃんもらってもいい!?」
「そろそろ薫子に殺されるわよ?」
こんな風に何回か冷やかされたりして、とても告白するような雰囲気じゃなかった。
少しだけだけど、クラスの子たちと話せて嬉しかったのは内緒だ。
「ちょっと遊んでいきましょうか。」
「うん、いいよ。」
小夜ちゃんが暗い表情を見せたのは最初だけで、すぐにいつも通りの私を引っ張ってくれる小夜ちゃんに戻っていた。
「そうだわ!たくさん取ってあの滝に離すのはどうかしら?」
「たぶん水が濁っちゃうよ...?」
意気込んだ割に、結局一匹も掬えなかった金魚すくい。
「絶対倒れないように仕込んでるのよ。」
「こ、声大きいよ小夜ちゃんっ...。」
キウィちゃんみたいにはいかなかった、残念賞の射的。
「上手ねうてな!やっぱり手先が器用なのね。」
「えへへ。地味なのは結構得意、です。」
地味なりにいいところを見せられた型抜き等、定番のお祭りアクティビティを楽しんだ。
「はい、これあげる。」
「こ、子どもじゃないのに...///」
「いいじゃない、よく似合ってるわよ?はるかに見せてあげたいわ。」
マジアマゼンタのお面を受け取り、顔の横に付けてみる。
わぁー...すっごくはしゃいでる感じ。
これが世間一般で言うところの、パリピ...?
「そろそろ何か食べましょうか?」
「そ、そうだね。何にする?」
「そうねー...。」
甘い物から立派な主食まで、選択肢は非常に豊富。
小夜ちゃんの食べたい物にしようと思ってるけど、悩んでしまうならこちらから提案するのも大事だ。
そう、恋愛マニュアルに書いてあった。
「ん?...決めたわ、あれにしましょう。」
「あれ?...あぁ、焼きそば。」
小夜ちゃんが指差したのはお祭り屋台の定番、"焼きそば"のお店だった。
ソースの香ばしい香りが食欲をそそる。
ただ、何だかちょっと小夜ちゃんが悪戯っぽい顔になってるのが気になるけど。
「いらっしゃい!!」
「焼きそば二つ、あとスマイルを。」
「へい!スマイル入りましtってぇ!?また貴様か水神ぃ!?」
「今度は出店なの?よく働く魔王様だこと。」
意地悪顔の理由はすぐに分かった。
焼きそばの出店、その店先で鉄板を相手に具材を踊らせていたのはイミタシオこと、田中みち子さんだったのだ。
巻いた鉢巻きが非常に様になっている。
「また私の邪魔をしに来たのか...?」
「焼きそば買いに来たに決まってるじゃない。安くしなさい、従業員割引よ。」
「雇った覚えはないが。」
「店長ったらもう~そんな他人行儀な。一緒に浮かれた客共を捌いた仲じゃないの。」
「貴様らのせいで給料が下がったんだが!?」
相変わらず息がピッタリというか、コントみたいというか。
小夜ちゃんがここまでグイグイ絡むのはみち子さんぐらいなんじゃないだろうか。
「それにしても、どうしたのよ?これ。出店なんて用意するのも大変でしょう?」
「バイト先の店長の伝手でな。何事も経験ということで、快く貸し与えてくれた。」
「あのギャル店長、本当に何者なのよ...。」
すごく自然に世間話してるし。
何度も殺し合った二人なのに、端から見ればかなり仲良く映る。
まるでジャ○プ漫画みたい。
「あの、みち子さん。」
「む?なんだ、お前も一緒か柊。
焼きそば二つだったか?今包んでやるから少し待」
「作った側からすっごい食べられちゃってますけど。」
「もぎゅっ...もちゅっ...みっちゃんの焼きそば、おいし...。」
「あ"ぁ"ー!?蘭朶お前それ売り物っ!?店長から預かった材料費がぁーー!?!?」
出来立ての焼きそばを鉄板から直接吸い込んでいく蘭朶さん。
パッと見軽く10食分くらいは彼女の胃袋に収まってしまっている。
よく食べる人だなぁ。
「蘭朶さんがいるなら、百花さんもいるわよね。焼きそばを手伝ってるの?」
「い、いや...あのメガネは隣だ...。」
「隣?」
落ち込むみち子さんから視点を変えて、隣のピンクい看板が目立つ謎の出店を覗いてみる。
他の出店と外観は変わらないが、店の後ろに"R18"とでっかく書かれた暖簾があるように見える。
部屋が隠れてるみたいだけど、レンタルビデオ店か何かだろうか...。
「あら!小夜様にうてな様!ようこそいらっしゃいましたわ!」
「こんばんは百花さん。警察は後どれくらいで来るのかしら?」
「いきなりご挨拶ですわね。ここは健全なお店ですのよ?」
「わー。1ミリも信用できなーい...。」
自信満々に健全と言い張る百花さんにまったく期待せず、とりあえず何を扱っている店なのか説明を聞くことにする。
「オリジナルの"食玩"を売っていますの。夏祭りらしく、美味しいミニわたあめ付きですわ。」
「へぇ?食玩ねぇ...。」
市販品かと錯覚するくらい高クオリティのパッケージ。
そこには"対決!トレスマジアVSエノルミータ"と書いてある。
これって、まさか...!
「ひ、一つ買っても!?」
「毎度ありですわ!」
思わず料金を支払い、一つ手に取ってしまう。
開封してみると、話通りの梱包されたわたあめと、小さな"マジアサルファ"のフィギュアが出てきた。
「さ、サルファちゃんだ!?」
「小さいのにすごいクオリティじゃないですか。もしかしてこれ、百花さんが?」
「もちのろんですわ。わたくし、この日の為に大量生産。桃森グループの力を結集した、コレクタブルなグッズを誕生させたのですわ!」
しゅ、しゅごい...!
手のひらサイズなのにこんなに精巧で、しかもお値段も子どもに優しいお友だち価格。
意外なところでとんでもないモノを見つけてしまった!
「も、百花さん!
これ、全部で何種類なんですか!?」
「全8種類+シークレットが2種類。マニア垂涎の一品だと自負しておりますわ。」
「ぼ、BOXでくだしゃいっ...!!」
シークレットとか何それ超気になる!
オタクはそういうのに弱いしこれたぶんアズールも入ってるよね!?
出るまで回せば確定ガチャ!
今日の予算はここで使い切ると決めましたぁ!!
「...で、
「はい?」
「
「へ?」
「肖像権、商標権。常識ですよね?」
「...。」
笑顔の小夜ちゃんに反して、どんどん青くなっていく百花さんの顔色。
ああ...取ってないんだ、許可。
「みち子、通報。」
「任せろ。」
「いやぁっ!?およしになってぇ~!?わたくしはただ皆様にお喜び頂きたかっただけですのにぃ~!?」
権利侵害は重罪。
一応メディアに出演したりする身として、これに関しては擁護するわけにはいかない。
それはそれとして、何とか個人的に取引出来ないか後々交渉してみよう。
とりあえずサルファちゃんはもらっていいよね?お金払っちゃったし。
「ほら、注文の焼きそばだ。」
「ありがとう。...?ちょっと、これ青のりがかかってないじゃない。あなた青のりアンチだったの?」
「わざとかけていないに決まっているだろう。」
不満気な小夜ちゃんに対して、みち子さんはかけないのが然も当然のように答える。
「わざとって、なんで」
「はぁ...わざわざ言わせるな。
「なっ...!?///」
途端に真っ赤になる小夜ちゃん。
いざという時、歯...。
「あっ...///」
「二人して自覚なしとはな、まったく。あまり大人をナメるなよ?」
口調とは逆に優しく微笑むみち子さんに、流石の小夜ちゃんも言い返せない様子。
気恥ずかしさを隠すように、そのまま二人でそそくさと焼きそば店を後にするのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――
「ここよ。」
「えっと...本当に花火、見えるんだよね?」
「安心して。昔からの穴場なんだから。」
小夜ちゃんに誘われて、花火がキレイに見えるというオススメスポットにやってきた。
お社の裏側だからか、やっぱり人はいない。
その代わりに木々が鬱蒼と生えていて、打ち上げられた花火も隠れてしまいそうだ。
「さ、みち子の腕を確かめてあげましょうか。」
「結局安くしてくれたね、みち子さん。」
近くの切り株に並んで腰掛けて、出来立ての焼きそばを頬張る。
...うん、美味しい。
お祭りで食べると更に魅力的に感じるよね。
「ラムネを合わせると一気に駄菓子感が出るわよね。」
「はるかちゃんとか好きそうだね。」
途中で買ったラムネも合わせて、静かな夕食を楽しんだ私たち。
食べ切ってからちょっと無言の時間が続いたけど、私は気まずくなんてなかった。
二人きりで過ごすだけで、幸せだったから。
「...夏休み、終わっちゃうね。」
「...そうね。思い返すと、休んでる暇なんてほとんどなかったかも。」
アイドルデビューに憎悪の獣との戦い。
マゼンタの真化、リゾートでのトラブル、ロボ子ちゃんの誕生。
そしてゲームにされちゃったこと。
本当に色々大変で、退屈しようがない日々だった。
「大変だったけど...楽しかったって、今はそう思うよ。みんなと一緒だったから。」
「なら、良かったわ。」
何だかんだ、私の人生で一番楽しい夏休みだったと思う。
去年の私が知ったら、嬉し過ぎて一日中跳び跳ねてるくらいには。
「来年も、きっと楽しいよね。」
「...ええ。一緒なら、きっとね。」
優しく微笑んでくれる小夜ちゃんを見ていると、心臓の鼓動がどんどん早くなっていくのを感じる。
今は完全に二人っきり。
大切な話をするには、もってこいのタイミングだ。
「...あの。小夜ちゃん。
聞いても、いいかな?」
「何を?」
「その...小夜ちゃんの、"前"の話...。」
「!...。」
私の切り出した話題に露骨に表情を暗くする小夜ちゃん。
嫌がるだろうとは思ってた。
でも、こんな時でしか聞けないのは事実。
一度、聞いてみたかった。
あの時見た光景について。
「...それは、"あなた"のことが知りたいって意味?」
「...気にならないって言ったら嘘になる。でも、小夜ちゃんは話したくないんだよね?」
「これ以上混乱させたくないの。最初に一度、"あなたはベーゼであるべきだ"なんて言ってしまったことがあるでしょ?あれがきっと、夏休み前のあなたのトラウマへ繋がってしまった。話していいことなんてないのよ。」
「...小夜ちゃんは、今もまだ自分を責めてるんだね。」
自分の大好きな、知っているのとよく似た世界を変えてしまったから。
そこで起こる悲劇を、全て自分のせいだと思ってしまっている。
きっと彼女は、この世界の全部を愛してる。
だからこそ、ちょっとした変化にも責任を感じてしまうんだろう。
「...最近は、少し楽になったわ。
「...そっか。
遠いとこまで、来ちゃったんだね。」
「ええ...本当に。」
夏休みが終わったら、そこはもう小夜ちゃんが知らない世界。
私にはよく分からないけど、小夜ちゃんからしたらとても恐いことなんだろうな。
「...私が心配してるとしたら。小夜ちゃんの理想のマジアベーゼには、なれてないと思うから。だから、魅力的じゃなくてごめんねって...そう思ってるくらいかな。」
「魅力的じゃないわけないでしょ?いつも、すっごく素敵よ。今の方が、私は...///」
暗い中でも、小夜ちゃんの顔が赤くなっているのが分かる。
照れた顔も可愛いなと思っていると、せっかくのご褒美フェイスをすぐに俯かせてしまう。
「...本当はね?別にあるの。
前のことを、話したくない理由。」
「別...?」
「うん...私は、"小夜"に頼ってるの。小夜の顔だからあなたを見つめていられるし、小夜の身体だから、大胆なことだって出来る。あなたに映る私は、どこまで行っても水神小夜でしかないから...。」
わずかに震えた声でそう話す小夜ちゃん。
小夜ちゃんの中の、名前も知らないあの子が話してる。
「...私ね、ホントはいっつも緊張してる。必死に小夜らしく、キレイでかっこよくいなくちゃって...うてなの前では、特に。すごく大変なんだよ?だって、あなたは私の憧れだから。見てるだけで赤くなっちゃうくらい...。」
それはまるで、小夜ちゃんと一緒にいる時の私みたいだ。
こんな話を誰かにするのは初めてなんだろう。
そんな場合じゃないのは分かってるけど、私にだけ秘密の話をしてくれることが嬉しい。
「だから...私が小夜じゃないって知ったら、きっと幻滅する。偽物が本物のフリをしているようなものだもの。知られたくないのは、そういうこと。それが本音。」
「...。」
私が彼女を知れば知る程、本来の小夜ちゃんとの違いを意識してしまう。
そうなるのが恐くて、話したくないということらしい。
彼女の言い分はよく分かった。
「不安、なんだね。」
「...ええ、不安よ。だってそうでしょ?みんながいて、あなたがいて。ここは私にはあまりにも幸せ過ぎて、まるで夢みたいだもの。いつも思うわ。瞬きしたら何もかも全て消えて、またあの寂しい病室にいるんじゃないかって。真っ暗な底に、いつまでも沈み続けるんじゃないかって...恐くて、恐くて...っ」
「小夜ちゃん...。」
声だけじゃない、肩を震わせて顔も見せない彼女に、私はどうしてあげるべきだろうか。
少し考えて、でも結局"単純な方法"しか思い付かなかった。
「大丈夫だよ...?」
「っ...?」
俯いたままの彼女を、目一杯身体を広げて抱き締める。
彼女の温かさと、ドキドキするいい匂い。
彼女が幻なんかじゃないと、確かな実感を与えてくれる。
「あったかい...?///」
「暑いくらいよ...///」
高鳴る鼓動と、紅潮するお互いの顔。
一秒すらとてつもなく長く感じる時間を、ただぎゅっと抱くだけで過ごす。
それからしばらくして。
離した手を、今度は小夜ちゃんの手に繋いで、彼女と間近で向かい合う形にする。
「小夜ちゃんは、夢だったら嫌?」
「当たり前じゃない...現実じゃないなんて、最悪よ...。」
「私はね。夢でもいいんじゃないかって思っちゃうんだ。」
「何よ、それ...。」
「夢とか現実とか、証明するの大変だもん。実際に私が主人公の漫画があるんでしょ?それこそ夢みたいな話だし。でも、それは確かに小夜ちゃんの現実だった。」
「それは...。」
「私ね、思うんだ。
大切なのは"想い"だって。」
想いの力が私たちの源。
それは魔法少女に限った話ではないと思う。
「私が悪夢に囚われて泣いてた時、救ってくれた言葉を...想いを覚えてる。頭だけじゃない、心でちゃんと覚えてる。あれは夢の中の出来事だったけど、あの時の小夜ちゃんに嘘偽りなんてまったくなかった。全部、本当の気持ちだった。絶対に幻なんかじゃない。そうだよね?」
「...ええ。当たり前じゃない。」
愛してると言ってくれたあの瞬間を、幻だなんて誰にも言わせない。
たとえ夢の中であっても、あの時の二人の気持ちは真実だった。
だから、今伝えよう。
不安になる必要なんてない。
もし、これが夢だったとしても。
真実で、揺るがない想いが。
いつも君の側にいるからと。
「夢も現実も関係ない。絶対に忘れないで欲しい。
私、柊うてなは。
小夜ちゃんを...あなたを、心の底から愛しています。
他の誰でもないあなたが...大好きで、大好きで...。
ずっと側にいるから。だから、私を。
この愛を、あなたは信じてくれますか?」
「っ...!///」
ああ、ついに言っちゃった。
決着まで告白はしないって約束したのに。
でも、仕方ないよね。
大人ならともかく、私まだ中学生だし。
夏休みにちょっと悪いことをするくらい、きっと神様も許してくれる。
「...約束と...ちがう、じゃない...っ///」
「あはは...ごめんね?
でも、先に破ったのはそっちだと思うよ?」
「悪い...魔法少女ちゃんね...///」
「どういたしまして...///」
潤んだ瞳に、怒ったような笑顔。
まさに感極まった小夜ちゃんに、私は自分の顔を近付ける。
長かったけど、漸くだ。
これが本当の、私たちの初めて。
「わっ!?///」
「!?///」
瞬間。
パァンッ!という盛大な音と共に、夜空に満開の花が咲く。
呆気に取られたお互いの顔が照らされ、次第に笑いを堪えきれなくなる。
「ぷっ...ふふっ!なんてすごいタイミングなのっ...。」
「ふっ...あはは!ホントだね!まるでアニメみたいだった。」
真っ赤で涙ボロボロで、ムードなんて言ってられる顔じゃない。
キス出来なかった口惜しさなんてすぐに弾け飛んだ。
一頻り笑って、顔を拭って。
手を握りながら寄り添って、二人で花火を眺め続ける。
「楽しい、夏休みだったね。」
「ええ...本当に!」
たとえこの先、どんな運命が待ち受けていても。
きっと二人なら、正しい未来を選んでいける。
そう思う私を、彼女が信じてくれる限り。
私たちの魔法は、決してなくなったりしない。
―――――――――――――――――――――――――――――
「キレイなのだわ。」
「こりす、ちゃんと見えてる?」
「コクリ!」
場所は違っても、見上げる花火は同じタイミングで、同じ空に弾けて消えていく。
「たまたま~!」
「せめてまたまって言いなさいよ!?」
「"たまや~"、な?」
「やきそば~!!」
「ラムネ~...。」
「貴様ら!うちは休憩所ではないぞ!?」
「もきゅ...みっちゃん...うま...。」
「え?全部、没収?うそーんですわ!?ちょっ、待っ!?殺生な!?なぜわたくしだけいつもいつもこんないやぁぁーっ!?!?」
敵も味方も関係なく。
ただ穏やかで賑やかな日常を、笑いながら共に生きる。
「すっっごくキレイだねぇー!!あ、写真写真!」
「くっそ...っ...疲れて、のんびり眺める元気すらっ...あら、へんっ...。」
「へ、へへ...アタシの勝ちだぁ...。」
細やかながら、幸せな時間だったと噛み締める。
「あんた...
「...あ?誰がおめぇと好き好んで一緒になるかばぁーか。」
「ほんまムカつくやつやわ...。ええんか、それで?」
「......いいんだよ、別に。
やっとこれで、トントンなんだからさぁ。」
けれども。
甘酸っぱい青春は、瞬く間に彼女たちを次のページへと押し進めてしまう。
たとえその行き着く先が、悲劇であったとしても。
完結に向かうことを止める術などない。
「さあ。そろそろ続きを始めるとしようか。
お前はいったい、どうするつもりなのかな?」
物語は決して、登場人物を慮ってはくれないのだから。
―――――――――――――――――――――――――――――
◼️□next season◼️□
次回
【第3部】
開幕。
"エノルミータ、抹殺すべし。"
『
12/14(土)0:00より連載開始。
「私は、ベーゼ...。
マジア、ベーゼ...!
あなたたちの、"悪"となるもの!!」
------ あこがれに、
挑め。 ------
大切なことはひとつだけ。
来週は、休みます。