魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~   作:月想

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いつも感想、評価、お気に入り、ご愛読ありがとうございます!
カオスな第三部。
今回もぐちゃぐちゃしとります。
作風として、燃え要素が強くなりすぎているのが悩み所です。


第33話『その名は、マジアベーゼ』

「天国に行けるといいですねぇ...。」

 

しくしくとヴェナリータだったモノを見下ろし、涙を流すシスタギガント。

泣きながら口元を邪悪にニヤつかせている姿に、ヴァーツ以外の全員が困惑していた。

 

「ヴァーツ。これはどういうことデスか?」

「見た通りですよ。シスタギガントは僕たちの仲間です。正義の為、ヴェナリータの"スパイ"をしていてくれたんです。」

「スパイ...ですって...?」

 

すぐ側で一番警戒していた相手の死を目撃したアズールは、震える声でヴァーツの言葉を反芻する。

彼女にとってヴェナは絶対に気を抜けない最も危険視する人物だが、それと同時に底の知れない最強の存在だった。

彼がシスタを伴って現れた時。

"ボクのアズールたちはやらせない"と言ってくれた時は、無意識に安堵を覚えていた。

彼女はヴェナを信用していなかったが、その力は信用していた。

そんな相手がスパイの不意打ち程度で物語から退場する。

あり得ない。

そんなことは、あってはならない。

先の読めない状況に、彼女は動揺していた。

今すぐにその場から逃げ出さなくてはならなかったのに。

 

「正義の為というのに偽りはないデスネ?」

「ええ、勿論ですぅ。」

「...OK。But、正義の味方は裏切りなどしまセーン。嘘吐きなアナタが、今度こそ本当のことを言っていると神に祈っておきマース。」

 

シスタのやり方が気に食わなかったのか、彼女を信用していないのか。

あるいはそのどちらもか。

鋭くシスタを睨みつつ、再びその手に剣を生成する。

 

「シスタ、アズールにトドメを。」

「はぁい。」

 

トドメを刺そうとするオールを遮り、ヴァーツはシスタにアズールの始末を命じる。

不満そうにしながらも、オールは興味を失ったように踵を返す。

 

「今までご苦労様でしたぁ~。あなたは、天国に行けると思いますかぁ?」

「っ...!?あの人アズールを...!?」

 

シスタは命じられるままに死の鎌をアズールの首元に突き付ける。

変身能力を奪うどころか、命まで刈り取ろうとしているようにしか見えない。

ベーゼはアズールの元へ駆け付けようとするが、それをサルファが制止する。

 

「サルファちゃん!?」

「ヴァーツはんを信用するんや...。」

「そんなこと言ってる場合じゃ!?」

 

この混沌とした状況で、一番得体の知れない存在を信じろと言うサルファ。

ベーゼ、そしてマゼンタは最早説得など無用と飛び出そうとするが...。

 

「やらせると思うか。」

「!」

 

彼女たちよりも早く、()()()()()がシスタへ向け振り下ろされた。

甲高い金属音を響かせ、黒と黒の得物がぶつかり合う。

 

「彼女たちはいずれ私の部下となる予定だ。潰させるわけにはいかない。たとえ、相手が君であったとしても。」

「...悲しいですねぇ。」

 

ガチガチと火花を散らす武器とは違い、冷酷なまでに冷ややかな表情で言葉を発するイミタシオ。

シスタもまた真顔のままいつもの決まり文句を返す。

 

「急げお前たち!」

「うん...。」

「お任せですわ!」

 

当然、現れたのはイミタシオだけではない。

シオちゃんズの残りのメンバーであるベルゼルガ、パンタノペスカもまた、この戦場に到着していた。

イミタシオの合図に従い、それぞれが傷ついたエノルミータの元へ駆ける。

 

「またニホンの魔法少女?」

「魔法少女なら邪魔しないでよ!」

「お生憎様...。」

「わたくしたちは偽物ですので!」

 

ベルゼルガが血の刃をアルジェントへ放ち、ペスカのハンマーをカルコスが受け止める。

 

「貴様!いつまで呆けているつもりだっ!」

「っ...!」

 

敵味方の判別がつかない混沌の中で、かつての仇敵の声が朦朧とするアズールの意識を叩き起こした。

アズールは再び剣を手にし、事態を傍観していたオールに斬りかかる。

 

「まだまだ楽しめそうデスね?」

「あまり長居するつもりはないわ...!」

 

ヴェナの死で静まり返っていた戦場が一気にその狂暴さを取り戻す。

トレスマジアが眺めることしか出来ない中、各所で火花を散らす激戦が繰り広げられる。

 

「シスターが死神とはな!漸く悪役らしくなったわけだ!」

「ロード様こそ、魔法少女とは驚きましたぁ。ミスマッチで私悲しいですよぉ。」

「ああ!君のおかけだがな...!」

 

再会した二人は様変わりしたお互いの姿に軽口を叩きながら、それでも強烈な魔力のぶつけ合いを続ける。

身体の回転を利用し、まるで舞うように攻め立てるシスタ。

それを武骨に、だが確実に力強くはね除けるイミタシオ。

一歩も退かない剣戟の中で、イミタシオはその違和感に気付く。

 

()()()()()()()()()()...!その力は、まさか...。」

「流石ロード様ですねぇ。もうバレてしまいましたぁ。」

 

魔法殺しの大剣とかち合って尚、鎌に込められた魔力が消え去っていない。

それどころか、次第にその力が増してさえいる。

シスタは隠す素振りもなく、自らの纏う力について明かす。

 

「ヴェナさんの言い回しで言えば、"呪い"でしたかぁ...?私もそれが使えるんですぅ。あなた方と、同じようにぃ~。」

「どこまでもミステリアスな女だ...!」

「私は貞淑なただのシスターですよぉ。」

 

口調とは裏腹の、ピエロのような笑み。

嘘つきと自称する彼女の真意をまったく掴めず、イミタシオは感情的に再度大剣を振りかざす。

 

「何故だ...!何故こんなことをする!?これが本当に君がしたかったことなのか!?」

「...あなたに、私の何が分かると言うのですかぁ?」

 

思わず本音で語り掛けるイミタシオに、シスタは笑いも涙も浮かべることなく、今日初めての"苛立ち"を見せる。

苛烈さを増す二人の戦い。

 

「シオちゃん...!」

「ジャパニーズは戦ってる相手を無視する習慣でもあるわけ?」

 

想い人と間女の会話があまりにも気になり過ぎるベルゼルガ。

アルジェントの猛攻を必死に凌ぎながらも、意識だけがどうしてもイミタシオへと向かってしまう。

そんなある意味ナメ腐った態度に、ただでさえプライドが高いアルジェントは噴火寸前である。

 

「ベルゼルガ!今はレオパルト様たちの救助が優先ですわ!」

「弱いくせに手間取らせるんじゃないわよ...!」

 

防戦一方でも冷静さを失わず、ペスカはベルゼルガへ集中しろと呼び掛ける。

戦いながらも複数のゴーレムを作製し、カルコスとアーサーのコンビネーションを阻害していく。

 

「数だけ多くても...!」

「戦いは数ですわよ!お嬢さん!」

 

ベルゼルガたちの戦いにもゴーレムを介入させ、ついにアルジェントを引き剥がすことに成功する。

踞るレオパルトを回収させようと、再度ベルゼルガへ指示を出そうとするペスカだったが。

 

『エノルメェ...!!』

 

「「「!?」」」

 

混沌とした戦場で、三度の乱入。

恐怖と共に刻み込まれた、"獣"の咆哮。

黒い影のような魔力に身を包んだ、人間サイズの何か。

シオちゃんズは信じられない、信じたくないその存在に目を見開く。

 

憎悪の獣(オディオ・ヴェスティア)だと...!?」

『グルルアァァァ!!!』

 

アズールが打倒したはずの呪いの化身。

あれよりかなり小型だが、その禍々しさは寸分と違わない。

獣は声を上げながら、ペスカの作り出したゴーレムたちを力任せに砕き回る。

その光景はまるで"竜巻"が通過したような凄惨さであり、瞬く間に土塊の山が出来上がる。

 

「何故こんな時に...!今といつかの仕返しをさせて頂きますわ!」

 

重傷を負わされた過去に震える思いを抱きつつ、ペスカは勇ましくそのハンマーを獣へと振り下ろす。

当然獣はそれを両腕でガードするが、そこから意外な行動に出る。

魔力の毛皮を剥がし、その"中身"をペスカへと見せつけたのだ。

 

「ワタクシを傷つけるおつもりですか?」

「......え...?」

 

ペスカはとうとう自分の頭がおかしくなったのかと錯覚した。

そんなことはあり得ない。

()()()()()()()()()

あの子がこんなところで、憎悪の獣に囚われているはずがない。

だって彼女は自分たちとは違う、"本物"の魔法少女のはずだから。

 

「シア、ン...?」

「お久しぶりですわね、()()()()。」

 

マジアシアン。

記憶とかけ離れた、そのやさぐれた姿。

再会した妹は、今まで見たことのないような獰猛な表情でパンタノペスカを嗤う。

 

「っ...な、何故あなたがこんな...っ」

「決まっていますわ。アイツを殺す為ですの。」

 

血走った目でペスカを見つめた後、再び獣の魔力を身に纏うシアン。

動揺して戦意を失ったペスカへ、容赦なくその牙を剥く。

 

「ペスカ!」

『クヒヒ...!!』

 

間一髪、ベルゼルガが獣へと血の鎌を突き立てる。

浅く入ったそれはシアンを傷つけることはなかったが、一度距離を取らせることに成功する。

 

『裏切り者...!マジアブラン、あなたもアイツと一緒に引き裂いて差し上げますわ!』

「あたしは、ベルゼルガ。...あなたも、もうシアンじゃないんでしょ?」

 

血と影の爪がお互いを喰らおうと鍔競り合う。

因果が巡り、シオちゃんズもまた物語の当事者となってしまった。

シスタ、シアンへの対応でエノルミータの救出までまったく手が回らない。

 

「どこまで邪魔が入るわけ?オール、どうすんのよコイツら?」

「振り出しに戻っただけデース。引き続き討伐を続けマース!」

 

片手間に斬撃を弾き返しつつ、アルジェントの問いに答えるオール。

シオちゃんズの助力が期待出来ない今、エノルミータは再び自分たちで状況を打開する必要に迫られる。

 

「ラジャー。まずはこのナチス女からね。トランスエナジーの出所は」

『レオ、逃げろ...っ!』

「!?」

 

手始めにレオの変身能力を破壊しようとするアルジェントだったが、突如這い出た()()()()に動きを封じられる。

 

「最初にリタイアした雑魚が、このアタシの邪魔をするっての?」

『足手まといには足手まといの意地があんだよ...!邪魔は得意中の得意でねェ!』

 

動くのもやっとだったはずのルベルブルーメが、影縫いによってアルジェントに隙を作る。

これもまた想いの力。

本来の力の差に関わらず、強固な拘束力を発揮する。

 

『ヴォワ・フォルテ!』

「ちっ...!」

 

動けない強敵に対し、すかさず音の暴力が放たれる。

何度も使って来たコンビネーション。

ロコムジカもまた、フラつく意識の中最後の力を振り絞っていた。

 

「手が使えなきゃ魔法が出せないとでも思った?」

「いくらでも出しなさいよ...!何度だってロコが砕いてやるんだから...!」

 

土の壁で防御されるが、構わずに何度も攻撃を放つロコ。

全ては意地と仲間の逃走の為。

自分たちを犠牲にしてでも、他の仲間だけは救ってみせる。

その想いが、ボロボロの二人の身体を無理矢理に動かし続けていた。

更に、それはロコルべに限った話ではなかった。

 

「ホントにしつこいわねチビッ子!」

「ん...!」

「あなたも小さいのだわ!」

 

傷ついて動けないレオを救助しようとアリスが急ぐが、すぐにその前にカルコスが立ち塞がる。

応急措置で再起動したロボ子と共に、リベンジマッチを挑むことになる。

 

「みんな...!」

「余所見はbad!アナタに余裕などありまセーン!」

 

仲間たちの必死な抵抗に自らを奮い起たせるアズールだったが、オールとの力の差は歴然。

堪えていられたのもわずかな時間で、すぐに再び劣勢となってしまう。

 

「チェックメイト。ルシファアズール、あなたはもう終わりデース。」

「うぐっ...!」

 

ついに押し切られ、刀を弾き飛ばされてしまう。今日何度目かの命の危機に瀕するアズール。情けなさに歯噛みするものの、刃を振り下ろす手は止まらない。

 

『ヴォワ・フォルテッ!!』

「小鳥のさえずりデスカ?」

 

アズールの危機に狙いを変更し、ロコが援護射撃を行う。

しかし、オールへのダメージは皆無。

一瞬気を逸らすだけに留まった。

 

「アズールちゃんはやらせないのだわ!」

「ジャパニーズスーパーロボット!壊すのが勿体ないデスね!」

 

続いてロボ子がエネルギーブレイドを携えて突貫する。

オールは不機嫌になるどころかロボ子にそのテンションをぶち上げ、喜んで斬り合いに応じる。

一合、二合。

やはり全力ではないオールだが、次第にロボ子ですら力負けしていく。

 

「あなたには経験が足りまセーン。」

「...!」

 

根元から腕ごと斬り砕かれ、再び地に倒れ伏すロボ子。

いくら体をバラバラに使役出来るとはいえ、激しく損傷すればその限りではない。

相棒であるアリスもカルコス主従のコンビネーションに、おもちゃを次々と破壊されていく。

 

「またアタシを無視した...!」

『なっ...!?』

 

ロコが追撃の手を緩めたことで、アルジェントにわずかな自由と魔力の余裕を与える。

怒りのまま魔力を暴発させ、ついに影縫いから抜け出してしまう。

 

「雑魚のくせに、このアタシを...!」

「っ!?」

『逃げろ、ロコォォ...!!』

 

憤怒の炎をそのままロコに向けて放つアルジェント。

ルベルは影を移動し、文字通り自らを盾として最愛の人を守ろうとする。

 

「あぎっ...!?ぐあぁぁぁ!?!?」

「ぃや...ルベルぅぅぅっ...!?」

 

目の前で業火に焼かれる姿に、ロコは絶望の声を上げる。

衣装のおかげで凄惨な火傷は避けられたが、それでも酷いダメージが色濃くその身体に刻まれている。

焼き切れて丸裸にされて尚、ルベルはロコを庇うようにその場に立ち続ける。

 

「悪の組織風情が、何を仲良くごっこなんてしてるわけ?」

「...うっせぇ...あく、だろう、が...アタシは...ロ、コ...っ」

「自己犠牲ってやつ?はいカッコいいカッコいい。そのやせ我慢、いつまで続くか試してあげる。」

 

息も絶え絶えのルベルに対し、雷の魔法をチャージするアルジェント。

正義の味方とは思えないサディスティックな笑みで、アルジェントはボロボロの二人を見下ろす。

 

「死ぬまで耐えたらそっちの雑魚は見逃してもいい。まあ、無理だと思うけど?」

「あ、があぁァァァっ...!?!?」

「や、やめてっ!やめてぇぇ!!死んじゃうっ!ルベルが死んじゃうぅっ!!」

 

戦場に響き渡るルベルの絶叫。

それ以上の声で泣き叫ぶロコの姿に、見る者ほぼ全てが不快感を抱く。

 

「落ち着きなさいアルジェント!無為に痛めつけるような真似は正義に反します!」

「うるさい...!コイツらに分からせてやるの!アタシという正義を、恐怖としてね!」

 

オールがあまりの所業に真剣な口調で止めるが、取り乱したままのアルジェントは言うことを聞く様子がまったくない。

エノルミータ、シオちゃんズ双方が自分の戦闘を捨てでも介入したくてしょうがない中、オールの目の前から瞬間的にアズールが消える。

 

「お前ぇぇぇ...っっ!!!!」

「ぅぶっ!?」

 

冷静さをかなぐり捨てた怒りの拳。

手甲に今ある全ての魔力を込めて、アズールはアルジェントの横っ面を殴り飛ばす。

 

「私の仲間に手を出すな...!!」

「っ...コイ、ツぅ...!」

 

アルジェントの口元には血が滲んでいるが、重傷というわけではない。

アズールの怒りは確かに響いた。

しかし、それがいけなかった。

ルベルへの不必要な追撃は止まったが、プライドの高い彼女の頭には、もうただ一人しか見えなくなっていたのだ。

 

「このアタシの顔を殴ったなぁ...!?殺してやる!お前だけは絶対に、アタシが...!」

「ごふっ...!」

 

最早変身を維持するだけでやっとのアズールを氷で拘束し、無防備な腹を力いっぱいに蹴り上げる。

アズールはそれだけで吐血。

力無くだらりと首を下げる。

 

「薄汚いヴィランのくせに...!この!アタシを!クソっ!クソクソクソっ!!」

「っ...っ...」

「アズール...ちゃ、ん...!」

 

何度も叩きつけられる拳と足。

アズールは声を上げることも出来ず、血を流しながら痙攣を続ける。

レオパルトは涙を流しながら這ってでもアズールを救おうとするが、身体を氷漬けにされ身動きが取れない。

 

「違う...あんなの魔法少女のすることじゃない...!」

「そうだよ!いくら何でも酷過ぎる!今すぐ止めないと!!」

「待て言うとるやろうが...!!」

 

居ても立ってもいられなくなるベーゼとマゼンタを、これだけの惨事を見せられて尚止めるサルファ。

いい加減おかしいにも程がある。

サルファだって口では憎たらしいと言いつつ、エノルミータを認める節があったはず。

それが何故こんな理不尽を見せられ、未だに自分たちを止めようとするのか。

ベーゼとマゼンタには皆目検討が付かなかった。

 

「どうして!?何でサルファは助けに行かないの!?あんなの見せられて、どうして怒ってくれないの!?」

「あいつらが敵だからや...!」

「そんなの...!アズールたちがただの悪人じゃないのなんてサルファちゃんも分かってることでしょう!?」

「あれは全部()()()()()()やろ...!!」

 

一際強い声に閉口する二人。

あまりの理不尽に腸が煮え繰り返りながらも、言葉の真意を聞こうと押し黙る。

 

「ウチらがのんびり仲良うしてもうたからこうなってるんや...!もっと早く、奴らを倒しとくべきやった!トレスマジアの罪やあれは!ウチらが...弱かったから...!」

 

こんな事態に陥ったのは全部自分たちのせい。否定し切れない言葉に声を詰まらせるが、ベーゼたちの考えは変わらない。

 

「それでも...!止めなきゃいけない!今止めなきゃ私たち一生後悔するよ...!」

「戦いが続くよりマシや...。」

「サルファ...!いくらサルファでも、いい加減あたし怒って...!」

「まあまあ、ベーゼさんにマゼンタさん。そんなにサルファさんを攻めないであげてください。」

 

口論を続けるトレスマジアに割って入ったのは、ある意味でこの混乱の元凶であるマスコット。

ヴァーツはいつも通りの笑顔を浮かべて、いつもの調子で会話に入ってくる。

 

「ヴァーツ、さん...。」

「サルファさんは、()()()()()()()()ジャスティスティールにエノルミータ討伐を任せたんですよ?」

「あたしたちの為...?」

「ヴァーツはん、あんた...!?」

 

サルファが今度はヴァーツの発言を止めようとするが、当の本人は知らんぷり。

三人に向けて魔力のモニターを展開する。

 

「マゼンタさん、あなたの真化についてですが。」

「え...?」

「や、やめっ...!?」

 

困惑するマゼンタへ、ヴァーツは容赦なくあの映像を見せる。

間違った真化、"フォールン・メディック"となった彼女自身の姿を。

 

「なに...これ...?」

「あなたの真化した姿ですよ。すごい力だとは思いますが、これは本来の真化ではないみたいです。」

「どういう、こと...?」

「暗黒真化、とヴェナは呼んでいたそうですが。歪められた、間違った姿ということです。その証拠に、マゼンタさんはこの時の記憶を失っていますよね?」

 

目の前で展開する光景に困惑し、ヴァーツの問いに答えることも出来ないマゼンタ。

本来の彼女であれば自身の痴態に赤面するはずだが、状況が状況なだけにそんな様子は欠片もない。

 

「何故こんなことになったのか、知りたいとは思いませんか?」

「え?そんなこと、分かるの...?」

「ヴァーツはん...!」

「説明しなくてはあなたの気持ちは伝わりません。今は堪えてください...。」

 

ベーゼとサルファがまったく分からなかった暗黒真化の真実。

サルファに寄り添う姿勢を見せながら、ヴァーツは躊躇わずその残酷な真実を明かしてしまう。

 

「以前、ベーゼさんが暴走した時。マゼンタさんにベーゼさんの魔力が注入されました。体内に残ったそれが、マゼンタさんの真化を歪めたと思われます。」

「ベーゼの、魔力...?」

「......私の、せい...っ」

 

そもそもあの時の記憶すら薄いマゼンタは未だにピンと来ていないようだが、ベーゼは違う。

あれだけ嫌っていた姿が結局は身から出た錆だったのだから。

再度彼女を苛む、乗り越えたはずの罪。

 

「解決方法は今のところ不明。変身することによるマゼンタさんへの悪影響も、ないとは言い切れません。」

「っ...ごめんね...ごめん、なさい...!」

「ベーゼは悪くないよ!だって、やりたくないのにやっちゃったから暴走なんでしょ?だから、悪くない!そうだよね!?」

「...。」

「サルファ... ?」

「とにかく、これ以上戦わなければええだけや。変身すら必要なくなるなら、真化の心配なんてもういらん...。」

「だから、お二人の為なんです。サルファさんが僕の提案を受け入れてくれたのは、お二人をこれ以上傷つけない為なんですよ。」

 

暗黒真化と、それにより生じるマゼンタの命の危険、ベーゼの罪悪感。

それとエノルミータを天秤に掛け、サルファは今のこの状況を選んだ。

マゼンタもベーゼも、サルファの心情を理解した上に明かされた事実を受け止めるだけで心がパンクしそうだった。

 

「やめ、ろぉ...!アズールちゃんっ...アズールちゃあぁんっ...!!」

「アルジェント、ストップ!ワタシの言うことが聞けないのですか!」

「うるさい!これは正義...!コイツらは生きてちゃいけないんだから!」

「トランスエナジーを潰します!それで終わりでいいでしょう!」

 

ベーゼの目に映る"地獄"。

自身の罪を抉られ、項垂れる彼女が見たのは、倒すと約束した宿敵にして最も大切である人が、憧れたはずの魔法少女に無為に傷つけられる姿。

 

ロコは目を覚まさないルベルに、顔をぐちゃぐちゃにしながら呼び掛け続ける。

アリスは持っていた最後のおもちゃを引き裂かれ、ロボ子の元へと墜落していく。

イミタシオは焦燥を浮かべながら、やりきれない思いのままシスタの鎌を弾く。

ベルゼルガ、パンタノペスカは憎悪の獣に手傷を負わされながら、それでも倒れるわけにはいかないと折れそうな足を地面に突き立て続ける。

いつか見た"終わり"を連想させる景色。

 

どうすればいい。

迷っている時間なんてない。

私は、魔法少女に。

あこがれた姿になると誓ったはず。

ここはきっと分岐点。

どうしたい。

どうできる。

でも、もしまた間違えたら。

ベーゼの頭をフラッシュバックする、辛く暗い記憶。

 

『うてなちゃん。ありがとう!』

 

私が弱かったから、彼女は私を庇って死んだ。

 

『ふざ、けんな...やめろ...やめろよ...たのむから...おね、がいだからっ...やめて...っ!...やめてくれぇぇぇ...っ!!!!』

 

私が私だったから、彼女たちを傷つけてしまった。

私らしくあろうとしても、強く変わろとしても。

私は結局、大切なモノを取り零す。

今回だって、きっと...。

 

『あのね、うてな。

あなたは、あの女の子を"救った"のよ。

辛い病気と必死に戦い続けられたのは、あなたにもらった力があったから。

好きなモノに正直で、スケベで...でもとっても優しくて、素敵な主人公。

そんなあなたを愛することが出来て、彼女は幸せだった。』

 

ふいに甦ったのは、絶望の淵から救い出してくれたあの日の言葉。

あの日の約束。

 

『うてなが自分を信じられなくても。

私はうてなを信じてる。

あなたは、魔法少女マジアベーゼ。

今は自信が持てないと言うのなら、それでもいい。

あなたが、本当に心から魔法少女を名乗れる、そんな日が来るまで。

化け物の役目は、私が引き受けるわ。』

 

私が、本当になりたかったのは。

私が心からなりたいと思った魔法少女は。

誰もが憧れる、そんな魔法少女?

完全なる、正義の使者?

 

「...違う。」

 

私がなりたかったのは、()()()()()()

他の誰かが信じてくれなくったって。

化け物と罵られたって。

あの子が。

小夜ちゃんが信じてくれる私に、私はなりたい。

私のあこがれたのは、私が守りたいものを全部守れる魔法少女だ。

こんなのは、違う。

ここで戦わなきゃ、助けなきゃ。

マジアベーゼになった意味なんてない。

 

「わたしは...私はっ...!!」

「ベーゼ...!?」

 

迷いを振り切り、ベーゼはアズールの元へと真っ直ぐに突き進んでいく。

間一髪のところでオールが振りかざした剣を鞭で抑え、アズールの危機を救う。

 

「させません...!」

「ベー、ゼ...おまえ...っ」

「...ジャパニーズマジックガール。これは、何の真似デス?」

 

腕を拘束されたオールは冷たい瞳のまま、同じ魔法少女であるはずのベーゼを睨む。

 

「あなたたちは、魔法少女なんかじゃない...!」

「ワタシこそ、世界最強の魔法少女。揺るがぬ絶対的な正義デース。」

「違う...!そんなの、絶対に違う!魔法少女はもっと優しくて、愛に溢れていて...。たとえ相手が悪であっても、思い遣りを失うことなんてあり得ない!解釈違いも甚だしいですよ...!!」

 

長髪を振り乱し、ベーゼは思いの丈をかつての理想にぶつける。

力ずくで剥がそうとするオールを、それ以上の魔力を滾らせて抑え込む。

 

「大体最初からおかしいですよ...!彼女たちは今日、本当は仲間の記念日をただ祝いたかっただけなのに!暴れるつもりもない彼女たちをあなたたちが襲ったんですよね!?傷ついた仲間を餌に誘き寄せるなんて...!恥を知ってください!あなたたちのどこが正義だって言うんですか!?どこが魔法少女だってんですか!?認めません...認めない認めない認めないぜっったいに!認めてやるもんですか!!」

「何なのコイツ...!?」

 

怒りで以て更に魔力を高めるベーゼ。

その力はアルジェントさえ冷や汗を垂らす程だった。

 

「ならば、エノルミータを守るアナタが正義だと?それこそNonsense。悪に加担する者は悪と決まっていマース。」

「...悪で、構いません。あなたたちのような偽物が正義だと言うのなら、私は悪で構わない!」

 

真化とは違う、真っ暗な力を解放しながら。

黒く染まりかける思考を必死に繋ぎ止め、

柊うてなは自分の存在を再定義する。

 

「私は、ベーゼ...。

 マジア、ベーゼ...!

 あなたたちの、"悪"となるもの!!」

 

荒ぶる力と共に絶対正義(ジャスティスティール)に反旗を翻す(ベーゼ)

その決意の表情を()()()()()()()()()、変化させた鞭でオールをアルジェントへ向け投げ飛ばす。

 

「ベーゼ...!あんたはっ!!」

「ダメっ!!」

「離せマゼンタっ...!」

「離さない...!あたしは、ベーゼが間違ってるなんて思わないよ!!」

「っ...!」

 

わざと暴走しかけてまでJ.S.T.を妨害する仲間を前に、サルファはついに実力行使に出ようとする。

しかし、マゼンタは決してそれを許さなかった。

たとえ相手が一番信頼する相棒であっても、自分が信じたモノを曲げない強さが、彼女の中にはあったのだ。

 

「説得するつもりは、ありません...!今はただ黙って...私に力を寄越しなさい...!!」

 

内なる自分に呼び掛けながら、自分を中心とする魔力の渦を発生させる。

その余波は戦場のあらゆる戦いへ干渉していく。

 

「上出来だマジアベーゼ...!」

「っ!?」

 

最初に動いたのはイミタシオだった。

隙を突いて渦へとシスタを蹴り飛ばし、自身は獣を相手取る仲間の元へと飛び込む。

 

『エノルメェェェ!!』

「イミタシオだ!何度も言わせるなっ!」

 

大剣で吠える獣を一閃。

シスタと同じように魔力の波に叩き込む。

 

「チャンスは一度きり!信じるぞお前たちを!」

「お任せくださいまし!」

「シオちゃんの為なら、何だってできるよ。」

 

手を繋ぎ魔力を合わせるシオちゃんズ。

狙うはこの場に集う魔力反応。

目ではなく感覚で捉えるのだ。

禍々しいベーゼの魔力に、か細過ぎてそこにいるかも分からないエノルミータは省く。

相手が強くて助かった。

この場で余力を残しているあれらがきっと、抑えるべき敵に相違ない。

 

「今だっ!!」

「血と土の呪い...。」

「"ブルト・エルデ・シュバルツ"ですわ!」

 

狙った魔力に向かって、血と土が弾丸のように発射される。

生物のように動くそれは、ある者には目隠しとして。

またある者には手枷として。

着実に強敵たちの動きを封じていく。

イミタシオの魔力が合わさることで、一時的に"魔法殺し"が拘束に付与されているのがポイントだ。

相手は仮にも魔法少女。

シスタ以外には抜群の足止め効果を発揮する。

 

「この...!」

「何なのよこのドロドロ!?」

「二人とも落ち着いてくだサーイ!逃げられないよう、すぐ側のエノルミータから注意を...!」

 

時既に遅し。

あれだけ散り散りに倒れていたエノルミータが、オールたちが視界を取り戻した時にはもう誰一人として残っていなかった。

 

「どこまでもアタシをコケにして...!!」

「ごめんね、アルジェント...。ワタシがもっと上手く動けてたら...。」

「......カルコスは悪くない。アタシが...冷静に戦わなかったからでしょ...。」

 

カルコスとの会話で漸く落ち着いた様子のアルジェント。

オールはそんな二人のやり取りに微笑ましい気持ちになりつつ、嵐の過ぎ去ったような戦闘の跡を見渡す。

シスタと憎悪の獣も、もう姿が見えない。

上空にはお互いを見つめ合ったまま動かない、残りのトレスマジアがいるだけだ。

 

「マジア、ベーゼ...。」

 

最後に邪魔をし、自分たちを偽物と罵倒した日本の魔法少女。

魔法少女と言うにはあまりに禍々しい魔力を放つ彼女に、オールは興味津々だった。

 

ふよふよとこちらにやってくるヴァーツに手を振りながら、オールは一度深く呼吸をする。

大好きなニホンの空気を感じて、彼女は笑顔を取り戻す。

今度の敵は久しぶりに楽しめそうだと。

 

「ニホンの魔法少女はSo hot。面白くなってきマシタ!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「ばかルベルっ...!また勝手に死んでんじゃないわよぉっ...!!」

「死んでねぇし痛ぇよロコ...。」

 

包帯まみれのルベルを力一杯抱き締め、大粒の嬉し涙をロコは流す。

ここはネロアリスのドールハウス。

最近は完全にエノルミータ専用の病院と化しているが、今日に関してはまさに野戦病院もかくやというレベル。

ロボ子に終始守られていたアリスを除けば、比較的傷の浅いレオとロコでさえ一日では治りきらないダメージを負っていた。

何とか腕がくっついたロボ子はともかく、アズールに関しては魔力的消耗が激しく、未だに目を覚ませないでいた。

 

「あの...ロード、さま...。」

「イミタシオだ。」

「イミタシオ、さん。...ありがとうございました。助けてくれて...。」

「礼など不要だ。私たちは借りを返しただけに過ぎない。」

 

少し落ち着いた様子のロコが、かつての上司に頭を下げる。

命を奪われかけたことがあったが、今回ばかりはシオちゃんズの助力なしでは逃げ延びられなかった。

そんなじゃじゃ馬らしくない誠実な感謝に、イミタシオは肩を竦める。

 

「手助け出来るのは今日だけだと思え。偶然とはいえ、こちらの捜し人が二人とも見つかった。あの外人チームの相手をしている余裕はない。」

 

そう釘を刺しながら、浮かない表情の仲間たちを眺める。

静かで逆に気持ち悪いと言ってやりたいが、今日ばかりはそこまで無神経にはなれない。マジアシアン。

パンタノペスカの妹。

それがよりによって、憎悪の獣と酷似した姿で現れた。

ベルゼルガもまた、かつて囚われたトラウマからただでさえ悪い顔色がまるで死人のように青ざめている。

言ってしまえば、二人の失意は全てロードエノルメの罪。

捜し求めていたシスタの正体も合わせて、イミタシオも心中穏やかではなかった。

 

「...それに、助かったのは奴のおかげだろう。こちらに付いてくれなければ、ジリ貧で各個撃破されていたはずだ。私たちも含めてな。」

 

イミタシオの指差す先には、この場で唯一善であるべき魔法少女の姿が。

眠り続けるアズールの頬を撫で、憂いを帯びた面持ちで見守っている。

 

「アリスちゃん。アズールは...大丈夫、だよね?」

「...コクリ。」

 

看護師姿のアリスに四度目にもなる確認をし、すぐに視線をアズールへと戻す。

そんなマジアベーゼの姿を、苛立ちと不安と困惑を込めた瞳で見つめる者が一人。

 

「っ...。」

 

レオパルトは自分の頭に巻き付けられた包帯を鬱陶しそうに掻いた後、わざと音を立てながらベーゼの元へ足を運ぶ。

 

「おまえ、ベーゼ...!なんで...何でアタシらを助けた!?アタシらは敵同士だろが!裏切って何考えてんだ!」

「...裏切ったわけじゃないよ。」

 

言葉を詰まらせながらモヤモヤした心境をベーゼへとぶつける。

ベーゼはいつものおどおどした態度は見せず、視線はアズールから離さないままレオの問いに答える。

 

「私は、魔法少女として。私がなりたい自分になる為に、レオちゃんたちを守りたかっただけ。」

「わけわからんし!そうやっていっつもそっちだけ納得したみたいなツラして...!おまえも...アズールちゃんも!!」

「レオちゃん...。」

 

声を荒げるレオに、ベーゼは漸くアズールから目を離して彼女と向き合う姿勢を取る。

 

そうして、初めて気付く。

怒っていると勝手に思っていた彼女が、今にも泣き出しそうな顔になっていることに。

 

「何なんだよおまえはいっつも...!ひでぇことするくせに優しくて...!敵のくせにアズールちゃんのことすげー心配して!アズールちゃんに、一番に想われてて...っ!!」

 

痛む身体に構わず、思いの丈をぶちまける。

そんな場合じゃないと分かっている。

それでも、レオは聞かなくてはならなかった。

そうでもしなければ、限界まで膨らんだ不安で息が止まりそうだったから。

 

「...おまえも、アズールちゃんが好きなの...?」

「...好きだよ。誰にも負けないくらいに。」

「......ずりぃよ...推しのくせに...勝てっこないじゃんかぁ...っ」

 

ぼたぼたと涙が流れ落ちる。

拳を握り締めて、必死に心の痛みに耐えようとする。

ただでさえアズールの心にベーゼは住み着いていて、今回なんてベーゼがいなければアズールは死んでいたかもしれない。

勝てるわけがない。

守ることも、愛されることも。

もうベーゼには敵わないのだと、レオは痛感してしまった。

そんなレオの、キウィという一人の少女の涙に、ベーゼは一つの決意をする。

 

「......話さなきゃいけないことがあるの。」

「んだよ...おまえの、話なんて...っ」

「お願いだから、聞いて。()()()()()()。」

「は...?」

 

ベーゼには決して呼ばれるはずのない名前。

耳を疑う暇もなく、魔法少女の衣装が消えていく。

次の瞬間には、見慣れた制服姿が目の前に現れていた。

 

「......うてなちゃん、なの...?」

「...うん。私が...マジアベーゼなんだ。」

「「「!?」」」

 

突然明かされた、信じるしかない真実。

自分たちのよく知る友人が実は宿敵であったということに、ロコたちは心の底から驚愕する。

 

「うてな...?うてなが、マジアベーゼ...?」

「マジかよ...じゃあ、アタシらは今まで...。」

「......。」

 

驚きを口に出すロコルべと違い、沈黙するレオパルト。

やがて認識阻害しか働いていなかった変身を解除して、困惑の表情でうてなの肩を掴む。

 

「知ってた、の...?」

「うん...。」

「...何で、黙ってたの...?」

「ごめん、なさい...。」

「.....アズール、ちゃんは。」

 

弱々しく揺すりながら、視線は俯くうてなから眠ったままのアズールへ向かう。

 

「さよちゃんは、知ってたの...?」

「......うん。」

「ッ...!!」

「キウィちゃんっ!待って...!!」

 

耐え切れなくなったのか、怪我も気にせずドールハウスを飛び出すキウィ。

どうすればいいか分からないまま、うてなもまたキウィを追って外へ駆け出す。

残されたアリスたちをしばし沈黙が支配するが、5分としない内にルベルが変身を解除して口を開く。

 

「うてながトレスマジアだってことはさ。残りの二人って...。」

「はるかと、薫子ってことよね...。」

「...ああ。その通りだ。」

 

最早隠せる状態ではない。

うてなが正体を明かしたことにより、認識阻害に綻びが生じた。

マゼンタとサルファの正体に行き着いてしまった真珠たちに、みち子は首肯する。  

 

「小夜は何で黙ってたのよ...!相手がはるかたちだって知ってたら!」

「戦わなかったか?()()()()()()()()()()()のに、それを水神のせいにするつもりか。」

「...!」

 

秘密にしていた小夜を責める真珠だったが、みち子に思わぬカウンターを受ける。

 

「そもそも戦う気が失せていたのではないか?友人と分からなかったとしても、トレスマジアと敵対している認識はもうなかったのだろう?」

「それは...そんなの、仕方ないだろ!!アイツらは悪いヤツじゃないし、何回も助け合っちまったんだから!!」

「お前たちのその幼稚な考えがこの状況を招いたとは思わんのか?」

「な、何で真珠たちのせいになんのよ!?」

 

トレスマジアに対する迷いは確かにあった。

しかし、何故自分たちが責められるのか。

真珠とネモには少しもそれが理解出来なかった。

 

「分からないようなら説明してやる。

柊たちは水神の最も近しい友人だ。

本当に嗜虐心だけで戦えていたと思うのか?

奴には、奴なりの覚悟があった。

力を得たことには意味があると。

力を得て()()()()()()()()()()()()()お前たちを守る為に、戦う力を育てていたんだ。

エノルミータもトレスマジアも、いずれ必ず試練に巻き込まれる運命にあると知ってな。」

「意味分かんないわよ!!それがなんで真珠たちのせいに」

「降りるべきとは考えなかったのか?」

「っ...?」

「私を裏切り、水神たちと過ごし。()()()()()()()()()で、考えることもしなかったのだろう。何の目的もないくせに、居心地のよさだけでここまで来てしまったんだろうが。」

「それ、は...。」

 

思い返せば、"戦わなくてもいい"、"自分たちは悪役らしくない"など、その手の話題は必ず真珠かネモから出ていた。

知らず知らずの内に、小夜たちとの決意の差が現れていたのだ。

ただみんなといるだけで楽しい。

ヤバいことがあっても、きっと何とかなる。

今のこの日常はきっと揺らがない。

そういう認識がなかったなんて、二人にはまったく否定出来なかった。

 

「お前たちがそう考えていると分かっていたから、水神は全てを明かすことはしなかった。少しは自覚しろ。お前たちは水神に守られていただけの、ただの子どもだ。」

「...なによ、それっ...。」

 

今日実際に起こった出来事が、未だに真化が出来ないという事実が。

たまネモにより深くみち子の言葉を痛感させる。

 

「文句を言う暇があるなら、この場にいる理由くらい考えてみせろ。でなければ、次は眠り続けるだけでは済まなくなる。」

「っ...。」

 

たまネモを説き伏せた後、みち子は無言ながらも落ち込んだ様子のアリスに近づく。

 

「治療を終えたなら案内しろ。突然現れたハリウッドスター風情に予定を台無しにされるのは、貴様らと言えど癪に触る。」

「?」

「...何の話、してんすか?」

 

首を傾げるアリスに代わり、気まずそうにネモが質問する。

みち子は面倒そうに溜め息を吐いた後、スヤスヤと寝息を立て始めた小夜を指差す。

 

()()()助けると言ったはずだ。このアホを驚かせたいのだろう?」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「ハァっ...ハァっ...!」

 

キウィちゃん、足速すぎ...。

根本的にインドアオタクな私にはとても追い付けない。

そう思いつつも、意地と根性で足取りだけは見失わずに済んだ。

 

「こ、これ...どう考えても...///」

 

ら、ラブホテルだよね...?

何でこんなものがエノルミータのアジトに...。

たぶん、誰かがヴェナさんに頼んだんだろうけど。

キウィちゃんか、あるいは小夜ちゃんか。

候補が半々なのがなかなか酷い。

 

「し、失礼しま~す...///」

 

間違いなくキウィちゃんはこの中に入って行った。

他に建物もないし。

何だかすごくいけないことをしている気がして、誰に言っているのか分からない挨拶をしながらR18な空間に足を踏み入れる。

 

「う、うわぁ...豪華...///」

 

フロントは金色の装飾がギラギラしていて、無駄に凝っているように見える。

何となく悪趣味なのが更に本物っぽい。

無駄に緊張しながら、恐る恐る受付と思われる場所へ移動する。

 

「ま、まあ...誰も、いないよね。」

 

本物ならここに受付の人が...待てよ?最近は無人が主流なんだっけ?

本によってそこら辺マチマチなんだよね。

受付はヴェナさんがやってたのかな。

 

「ヴェナさん...。」

 

本当に死んでしまったんだろうか。

殺しても死ななそうな黒幕感MAXだったのに。

彼?の言葉に勇気を貰ったことだってあった。

危険な人だとは思ってたけど、それでもあんな終わり方は可哀想だ。

小夜ちゃんだって、きっと...。

 

「キウィちゃん、どの部屋にいるんだろう?」

 

結構大きな建物だし、一つ一つ回るのは大変だろう。

そう思い悩んでいると、ふと受付カウンターの上の物が目についた。

 

「これ、ルームキー...?」

 

まるで誰かが渡してくれたみたいに、部屋番号付きのルームキーが目の前にあった。

さっき見た時はなかったような...?

不審に思いつつも、他に手掛かりがないのは事実。

拾い上げ、部屋番号を目印にエレベーターに乗ってみる。

というか、エレベーターまであるんだ...。

 

「702...ここだ。」

 

鍵が閉まっているのを確認し、持っていたルームキーで解錠する。

偶然、ではないんだろう。

開いたドアの先から人の気配を感じる。

深呼吸をした後、静かに部屋へと入っていく。

 

ピンク色の空間。

その端っこに、体育座りで踞っているキウィちゃんを見つけた。

やって来た私に気付いているみたいだけど、顔を上げずにより深く俯いてしまう。

普段のキウィちゃんとは違う、酷く弱々しい姿だ。

 

「キウィちゃん...本当に、ごめんなさい。ずっと秘密にしてて...酷いことも、たくさんしちゃって...。」

 

話を聞いてくれるかも分からないけど、まずは一番に謝らなくちゃいけない。

ずっと知っていて、隠していて。

すごく大切なお友だちなのに、いっぱい傷つけて、何食わぬ顔で接してきた。

裏切りと言って差し支えない行為だと思う。

 

「......いつから、知ってたの?」

「...ロードエノルメと戦った後から。」

 

俯いたまま"いつから騙していたのか"と質問され、本当のことを伝える。

キウィちゃんなら怒ると思っていたけど、その声音は違和感を覚えるくらいに落ち着いていた。

私の返答から、数分の沈黙があって。

キウィちゃんは俯くのをやめて、その赤く腫れた顔を漸く私へと向けてくれる。

 

「ホントは...()()()()()んだ。うてなちゃんが、ベーゼだって...。」

「え...?」

 

今度は私が驚かされる番だった。

キウィちゃんが、知っていた...?

私がベーゼだと、本当は気付いてた!?

 

「分かってたっつっても、"頭で"じゃないよ?じゃなきゃ、今こんなにテンパってないし...。」

「え、えっと...。」

 

頭では分かっていなかった?

それじゃあ、いったい...。

 

「頭と、心がさぁ。別々のこと言ってくる感じ?頭は、"うてなちゃんなわけねーじゃん"ってうっさいんだけどさ。」

 

少しいつもの調子を取り戻しつつ、キウィちゃんは説明を続ける。

頭の件は認識阻害のせいだろう。

どれだけ似ていると感じても、別々の人間を同じ存在だとは考えない。

ヒロインの姿と日常の姿をまったくの別物と考えるように強制する仕組みなのだから。

それすらも霞ませる何かを、キウィちゃんは感じていたんだろう。

それが何なのか、私には不思議と予想出来てしまっていた。

 

「さよちゃんがさ。うてなちゃん見る時の目と、ベーゼを見る時の目。...一緒なんだよ。友だちとか、推しだからとかじゃなくて。大好き!愛してる!って目。...世界で一番、大事な人を見る時の目。」

「!...。」

 

やっぱり、小夜ちゃんだった。

そんな飛び跳ねる程嬉しい視線を感じたことはないけど、どういう目なのかは分かる。

キウィちゃんが小夜ちゃんを見る時の、すごくすごく幸せそうな目だ。

この世で最も愛する存在を"鏡"にして、私とベーゼの姿が同じだと、頭でなく心が気付いたのだろう。

 

「でも...認めたくなかった...。だって、もしうてなちゃんがベーゼだったら、アタシもう何にも勝てないから...っ」

「勝てないって...」

「勝てないじゃん...!一番の推しで!ずっと昔から好きだった人で!さよちゃんの頭の中ずっとうてなちゃんのことばっか!!アタシが、どんだけ好きって言ったって...ずっと消えてくれないんだもんっ...!!」

 

せっかく止まったはずの涙を再び流し、キウィちゃんは私に初めての本音を吐き出してくる。

ずっと余裕そうで、小悪魔な態度を崩さなかったのに。

本当はそんな不安を抱えていたんだ...。

 

「だから、さよちゃんを守る王子さまだけは譲る気なかったのに...アタシ...アタシっ...!また守れなかった...!!また、見てるだけでっ...目の前で...またぁっ...!!」

「っ!」

 

床に何度も拳を叩きつけるキウィちゃん。

私のせいだ。

彼女のトラウマ。

この悔しさと痛みは私が与えたもの。

マジアベーゼの、決して消えることのない罪。

 

「ごめん、なさい...っ」

「...アタシ、もういい。」

「え...?」

「アタシ...もうっ...二番で、いいからっ...!だから、おねがい"...!う"て"な"ぢゃん"...!ざよ"ぢゃん"を"っ!ま"も"って"...!!」

 

顔をぐちゃぐちゃにしながら私の肩を掴んで、絞り出すような声でキウィちゃんは叫ぶ。

"自分では無理だ。隣にいられなくなってもいいから、だからどうか小夜ちゃんを守って欲しい"と。

...最低だ、私は。

キウィちゃんに、こんなに一途な女の子に。

私は世界で一番言いたくない台詞を言わせてしまった。

 

「そんなのダメだよキウィちゃん...!」

「だっで...!だっでぇぇ...っ!!」

 

泣きじゃくるキウィちゃんを抱き締めて、諦めるなんて許さないと応える。

守ることも愛されることも、まだ何も失ってなんかいない。

私なんかのせいで、キウィちゃんが一番キウィちゃんらしくいられる気持ちを捨てるなんて間違ってる。

 

「キウィちゃんの言ってた目、私だって知ってるよ!小夜ちゃんとキウィちゃんがお互いを見る時の目でしょ!?勝てないって言うなら、私こそキウィちゃんに敵うわけないってずっと思ってた!可愛くてスタイルもよくて一途で面白くて!私とは正反対で、そんなキウィちゃんがずっと羨ましかった!ずるいって思ってた...!」

「...うてなちゃん...っ?」

 

お返しとばかりに今まで言いたくても言えなかった本音を、私もげろげろと吐き出す。

劣等感と諦めなら私の方が一日の長があると自負している。

大体、小夜ちゃんが私を好きなのは"推しがリアルになる"とかいうあり得ないチートイベントが根底にあるのだ。

じゃなきゃ、私なんかがお近づきになれるわけがない。

 

「キウィちゃんはスゴい。自分の魅力と想いで小夜ちゃんを虜にして、ずっと側で支え続けて...。私も、そんな風になりたいって...。だから私...あんなことを...。」

「あんなことって...暴走...?」

「うん...。嫉妬してたんだ、私。」

 

あの時の真っ黒な気持ちは、間違いなくキウィちゃんへの嫉妬が原因だった。

素直な気持ちを真っ直ぐに言葉にして、力にする。

キウィちゃんみたいに出来たらどんなに幸せか。

そんな、私のもう一つの"あこがれ"がなくなるなんて。

そんなのダメに決まってる。

 

「キウィちゃん。私と、一緒に小夜ちゃんを守ろう。みんなを、私たちで守ろうよ。」

「いっしょ...?」

 

いつの間にか私も涙を流していた。

拭うこともせず、キウィちゃんの震える手に手を重ねて握る。

 

「私だけじゃ力不足。小夜ちゃんを守れない。幸せにすることだって出来ないよ。だけど...キウィちゃんとなら。世界で一番、"おんなじきもち"のキウィちゃんと一緒なら。きっと出来るって、そう思うんだ...。」

「!......おんなじ、きもち...。」

 

誰よりも信じられる、託せるのはキウィちゃんだけだ。

キウィちゃんになら任せられるって。

きっと大丈夫だと思えるから、私は戦える。

都合がいい話かもしれないけど、私にも...小夜ちゃんにはもっとキウィちゃんが必要だ。

 

「何も諦める必要なんてない。勝負はまだ始まったばかり。そうでしょ?キウィちゃ」

「ぶえぇぇーーんっっ!!う"て"な"ぢゃーーん"っっ!!」

「ぐぇっ!?」

 

必死に気持ちを伝えようとないボキャブラリーをほじりにほじっていたところ、唐突にまた大号泣になったキウィちゃんにタックル、もとい激しいハグを繰り出された。

情けない声を上げ、床に押し倒される。

 

「はんぜーじだぁぁ!!ごめ"ん"ね"う"て"な"ぢゃーーん"...!あ"だじがんばるからぁー...!!い"っじょに"ま"も"ろ"ーね"ぇぇ!!ベーゼぢゃーーん"っ!!」

「ぐ、ぐるじ...っ」

 

ダミ声で、妙にしっくりくる呼び方で。

"諦めることを諦める"と話すキウィちゃん。

何とか気持ちが通じたのはいいけど、完全に腕が首をロックしているようで、徐々に意識が遠退いていく。

 

「やっと見つけた...。二人とも、よりにもよってホテルで何を」

「がくっ...。」

「うてなぁ!?!?」

「ざよぢゃーん"っ!!あ"だじう"て"な"ぢゃん"がベーゼち"ゃん"でよがっだよおぉぉ!!ぶえぇぇーーんっっ!!」

 

最後の最後に元気そうな小夜ちゃんの姿が見えて。

キウィちゃんの泣き声を子守唄に、私は永眠スレスレの危険な眠りに落ちていくのであった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「さよちゃんっ!」

『おたんじょーびおめでとうー!!!』

「ありがとう、みんな!」

 

クラッカーのシャワーを浴びて、みんなの笑顔もまた弾ける。

漸く始まった小夜ちゃんの誕生日会。

はるかちゃんと薫子ちゃんがいなかったり、みんなどこかしらに包帯を巻いているけど、それでも楽しそうに笑い合っている。

 

会場はキウィちゃんのお家。

小夜ちゃんは前に泊まったことがあるって言ってたけど、とんでもない豪華なお家だった。

キウィちゃんって、実はお嬢様だったんだなぁ。

でも、それ以上にみんなを驚かせたのは...。

 

「ママ~!色々とあんがとね~!」

「わ~い!たかいたか~い!!」

 

キウィちゃんが抱き上げる、こりすちゃんくらいの大きさの女の子。

否、()()

キウィちゃんをそのまま小さくした見た目の通りにはしゃいでいて、脳ミソが未だに認識を拒んでいるけど。

なんとあれが、()()()()()()()()()である。

どう見たって妹でしょ。

どうなってんの、阿良河家。

とりあえず旦那さんはロリコンの変態で間違いないだろう。

 

「本当にありがとうございます。お家を会場に使わせてもらった上に、準備までさせてしまって...。」

「いいのいいの!小夜ちゃんは大事なキウィちゃんのお嫁さんだからね~!14歳だから、四年後が楽しみだねぇ~♥️」

「も~。ママ違うって~。アタシ白無垢派だって言ったじゃ~ん。」

「あっ、そっか~♥️」

 

見た目以上に血の繋がりを感じるやり取りだな...。

世界は不思議に満ちてるわけだし、娘より若く見える母もごく稀にいるんだろう。

若いとかいうレベルじゃないけど...。

というか、18になったらすぐ結婚するつもりなの?

前衛的だ...。

 

「後うてなちゃんもだかんね?」

「そっかぁ!お友だちもフィアンセもいっぱいでママ嬉しい~!♥️」

「え?...え!?///」

 

いつの間にか阿良河家の未来予想図に組み込まれてる!?

私たちの関係今日だけですごい変化を遂げてないかな!?

 

「みち子ちゃんのおかげで助かっちゃった~!ホントにお料理上手でスゴいね~!♥️」

「いえ、これくらいは嗜みですから...。」

 

美味しい料理だと思ってたけど、みち子さんがほとんど作ってくれたらしい。

頓挫しかけた誕生日会をやろうと言い出したのもみち子さんで、本当に今日は助けられっぱなしだと思う。

どうしてそんなに優しいのか、非常に不思議ではある。

 

「みち子も、今日は本当にありがとう。あなたがいてくれてよかったわ。」

「よせ。貴様の感謝など鳥肌が立つ。」

「じゃあ、どうして?」

「...誕生日は、祝える時に祝うべきだからな。祝いの日が後悔に変わることだけは、たとえ貴様であっても見過ごせなかった。」

「...そうね。その通りだわ。」

 

いつもの軽口かと思ったが、小夜ちゃんと話すみち子さんの表情はどこか物悲しい雰囲気だった。

 

「こちらもいい気分転換になった。二人も何だかんだ楽しんで」

「マジもんの合法ロリですの!?あれで経産婦とかリアルエロゲキマシですわぁ!!薄い本が辞書越えて山って感じですのぉ!!」

「帰れ。今すぐ帰れお前は。」

 

ちょっとシリアスな雰囲気だったのが、いつもの百花さんで見事に台無しである。

憎悪の獣の件で落ち込んでるって聞いてたけど、空元気というには変な方向に元気過ぎる。

少しは萎れて欲しい。

 

「みっちゃん...もご...うま...。」

「よしよし食べているな蘭朶。実は料理にお前の大好きな野菜を大量に混ぜ込んでいる。これを機会に苦手を克服」

「っ...みっちゃんのごはんでもっ...野菜だけは...!!」

「おい待てっ!?何ハリウッド映画さながらに指を突っ込んで吐き出そうとしている!?そこまでするかたかが野菜で!?」

 

やっぱり、何だかんだ元気そうだなあの人たち。

チームの内二人がボケだと苦労するんだろうな。

...いつまでもみんなを観察してる場合じゃない。

話さなきゃいけない人が多いんだから。

 

「ま、真珠ちゃんネモちゃん...。私...」

「あー...。その話はやめとこうぜ?」

「話したくないとかじゃなくて、真珠たちに関してはお互い様でしょ?」

「二人とも...。」

 

ずっと黙っていたことを二人に謝ろうとするけど、先読みされて謝罪は不要だと言われてしまう。

どこか元気がないように見えたから、私のせいだとばかり思ってたのに。

 

「まあ、なんか逆に安心したよ。小夜のヤツが"三股"してたわけじゃなくてさ。」

「それそれ。小夜のベーゼスキーの理由が分かって、真珠たちとしてはやっと納得したって言うか?」

「あ、あはは...。」

 

結局二股なのは変わらないんじゃ...?

と言うのはやぶ蛇でブーメランだからやめておく。

二人ははるかちゃん、薫子ちゃんとそれぞれ仲がよかったし、色々思うところはあるはず。

話はどこかでしておきたいけど、これ以上は空気を悪くしてしまう。

また別の機会に話を聞かせてもらおう。

 

「ジー...。」

「じー。なのだわ。」

「こ、こりすちゃん...?ロボ子ちゃんも、何かな...?」

 

ふと視線を感じて振り返ると、そこには無表情のまま私を大きな瞳で見つめ続けるこりすちゃんたちの姿が。

や、やっぱり秘密にしてたことを怒って...?

 

「...ギュ。」

「ぎゅっ。なのだわ。」

「え、え...?///」

 

いつドールハウスに突っ込まれるのかとびくびくしていると、左右から二人に抱き着かれる。

可愛い...。

 

「こりすちゃんはロボ子()を生み出してくれてありがとうと言っているのだわ。」

「あ...そっか。あの時の。」

 

無我夢中だったけど、一応私の魔法がロボ子ちゃんの誕生に関わってるんだった。

あれはこりすちゃんの想いあっての結果だったし、お礼を言う程のことはしてない。

律儀に覚えていた上に、まず最初にそれを言ってくれるなんて。

こりすちゃんは本当にいい子だなぁ...。

 

「...どういたしまして。こりすちゃんもありがとう。私を受け入れてくれて。」

「コクリ。」

「うてなちゃんのおかげで私が生まれたのなら、うてなちゃんは私のお母さんなのだわ?今度から"うてなママ"と呼ぶのだわ。」

「うてなちゃんのままでお願いします...///」

 

結婚させられる前に今度は娘が誕生しそうになっていた。

先取りが過ぎるよエノルミータ。

 

「...うてな。ちょっと、いい?」

「小夜ちゃん。うん、もちろん。」

 

小夜ちゃんに呼び出され、会場の端っこまで移動する。

もうみんなに秘密の話はないけれど、こういうのは気持ちの問題だ。

 

「...まずは、ごめんなさい。私が弱いせいで、あなたにはるかたちを裏切らせてしまった。」

「謝らないで?私は裏切ったつもりはないから。ただ、私が守りたいモノを守るって決めただけ。それが終わったらきっと、また元通りになるよ。」

 

薫子ちゃんの気持ちはよく分かるし、私のせいなのも知ってる。

だけど、それとこれとは別問題だ。

いつもの薫子ちゃんなら"エノルミータはトレスマジアが倒す、邪魔するな"と言うに決まってる。

それを今回は私がやっただけ。

私はトレスマジアとして、正しいと思ったことをするだけだ。

 

「ジャスティスティール、大好きだったじゃない?」

「ああ、うん...だってほら?私浮気者だし。推し変なんてよくあることだよ。小夜ちゃんと一緒で。」

「わ、私はただうてなもキウィも好きなだけで...それに、ずっと一推しは変わってないし?」

「罪な女だね、小夜ちゃんは。」

「こっちの台詞よ。...ありがとう、うてな。」

「今日はいっぱいお礼を言う日だね。」

 

自然に手を繋いで、改めてみんなの顔を見渡す。

その幸せそうな表情だけで、最強の魔法少女に喧嘩を売った甲斐があったと思える。

 

大変なことにはなった。

いつも頼りにしていたマゼンタとサルファは隣にいないし、小夜ちゃんも知らない先の物語だし。

だけど、きっと大丈夫。

 

「辛いことも一緒なら、だよね?」

「ええ...あなたと、みんなと一緒なら。」

「はいちゅうもーーく!!それではみんなお待ちかねプレゼントタイムをはじめまぁーす!!一番ショボい奴は罰ゲームあっから覚悟よろ~。」

「「何で(だ)よ!?」」

 

すっかりいつもの調子なキウィちゃんを見て、小夜ちゃんと二人並んで笑い合う。

波乱の開幕になってしまったけど、どうか今日だけは楽しく過ごして欲しい。

その笑顔を胸に刻めば、私はきっと戦い抜けると思うから。

 

「小夜ちゃん。改めて、お誕生日おめでとう!」

「やっべ!?んだこりす!?そのばかデカいネロアリスぬいぐるみ!?」

「フンス。」

「会心の合作なのだわ。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

◼️□Next episode◼️□

 

「ロコムジカ、ルベルブルーメ。今日限りでお別れよ。ただの真珠とネモに戻りなさい。」




次回は今年最後の投稿になります。
主役はあの二人です。
投稿時間に関するアンケートを実施します。
次回12/28から早速反映させるので、是非ご回答お願いします。

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