魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~   作:月想

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いつも読んで頂きありがとうございます。
前回の話が悪かったということなのか、お気に入りがポツポツ減り始めました。
解釈違いは仕方ない。
世にも珍しい『カッコいいまほあこ』を目指します。
燃え&萌え&えろ全開でいきます。
ついてこられる人だけついてきてください。


第34話『アナタにあこがれて!』

『みんなー!ありがとぉーー!!!』

 

メイク道具やらお菓子やら、私物が散乱している化粧部屋。

小さな劇場を拠点とするアイドルグループの控え室で、一人の少女が動画を眺めている。

 

「やっぱりぱあるちゃんはすごいなぁ...!」

 

もう何百回と見ている、『歌星ぱある』のライブ動画。

そのただ一度きりの"輝き"に、彼女も魅力された一人だった。

 

「エリカ!もう本番始まっちゃうよ?」

「あ、うん!すぐ行くね!」

「またトライエンゼルの動画見てたの?よく飽きないよねー。」

「だってホントにスゴいんだもん!これがわたしなりのマインドセットなの。」

「はいはい。じゃ、急いでね。」

 

メンバーが彼女を呼びに来るが、エリカの夢見心地は未だに解ける様子がない。

歌星ぱある、トライエンゼルが参加した合同ライブにはエリカたちもいた。

精一杯のステージをこなした後、舞台袖から見守ることになったあの伝説のパフォーマンス。

圧倒され、その姿に憧れた。

すぐ後に知った、ぱあるたちの"正体"についても。

悪であるとされつつも、気丈に化け物と戦い会場の皆を守ったロコムジカ。

その輝きが瞳に焼き付いて離れない。

 

「カッコ良かったな...ロコちゃん。」

 

あれ以来、エリカの目指すアイドルはロコムジカになった。

一夜の流星伝説。

その鮮烈に人々を魅力した姿を思い起こしながら、今日も彼女はステージを舞うというわけだ。

 

「わたしも...ロコちゃんみたいになれたら。」

 

「なってみますか?」

「へ...?」

 

エリカの独り言に、聞き馴染みのない声で返事があった。

誰もいないはずの控え室。

見渡しても人は誰一人としていないが、代わりに"変なモノ"が視界に映った。

 

「ぬ、ぬいぐるみ...!?」

「こんにちは、向日葵エリカさん。

僕はヴァーツです。」

「ば、ばーつ...?」

 

丁寧に自己紹介を始める喋るぬいぐるみ。

初めて遭遇する存在に驚くが、この世界は不思議なモノがある程度認知されている。

ニュースやらバラエティーやらで取り扱うことがあるし、エリカもまた似たような存在を目撃したことがある。

 

「あなたもしかして、魔法少女の...?」

「はい。僭越ながら、魔法少女さんたちのサポートをさせて頂いてます。」

 

有名な魔法少女、トレスマジア等の手助けをするマスコットがいるとは聞いていた。

実は敏腕プロデューサーなんだとか。

エリカにとってはそちらの方が耳寄り情報である。

 

「そのヴァーツさんが、何でわたしに...?というか、どうやって入って」

「歌星ぱあるさんのようになりたいんですよね?」

「え...は、はい...。」

 

エリカの質問には答えずに、何か張り付いたような笑顔で逆に彼女へ問うヴァーツ。

その底知れない様子に警戒を強める彼女に、ヴァーツは灰色に濁ったような輝きを放つハート型のブローチを差し出す。

 

「エリカさん。僕と契約して、魔法少女になってくれませんか?」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「今、アンタなんて言ったの...!?」

「聞こえなかったのかしら。」

 

ナハトベースに響く真珠の怒声。

未だかつてない緊迫した空気が少女たちの間に流れる。

 

「ロコムジカ、ルベルブルーメ。今日限りでお別れよ。ただの真珠とネモに戻りなさい。」

「ッ...!」

 

小夜はアズールとして、エノルミータ総帥として。

部下に冷酷な決断を下す。

お役御免を言い渡された件の二人は、それぞれ対照的な反応を返す。

真珠は憤りを強め、ネモは沈鬱な表情で俯くだけ。

この場にはキウィ、こりす、ロボ子の姿はない。

仮にも仲間をクビにすると言うのだから、そんなショッキングな場面を年少者には見せたくないという配慮だった。

キウィは二人を遊びに誘う役として同席していない。

その代わりに、今はエノルミータに協力する形となっているうてなが小夜の側で事態を見守ることとなった。

 

「何でよ...何で真珠たちが!!」

「足手まといは必要ないの。この前みたいに人質にされたり、目の前で喚かれたりしたら迷惑なのよ。戦う覚悟もない、弱いあなたたちは。」

 

理由を問う真珠だが、小夜は表情を変えることなくただ"弱いから"と言い放つ。

 

前回のJ.S.T.との戦いで、心身共に深く傷ついたエノルミータ。

その中でもとりわけ真珠とネモの受けたダメージは大きく、敵にまったく歯が立たなかった。

それを良しとしなかったからこそ、二人を仲間にはしておけないと判断したらしい。

 

「アンタたちだけ真化出来るからって見下してるわけ!?真化ならアリスだって出来ないじゃない!」

「アリスは強いわ。あなたたちと違って、最後まで敵と戦い続けていた。ロボ子がいれば十分戦力になる。」

「だったら真珠たちだって...!」

「あなたたちはダメ。言ったでしょう?足手まといだって。」

 

真化出来ないことに負い目があるが、それはアリスも同じ。

何故自分たちだけがクビなのか分からないと真珠は抗議するが、小夜はまったく取り合うつもりがない。

 

「真珠...ちょっとは落ち着けよ...。」

「落ち着けるわけないでしょ!?何でアンタは何も言わないのよ!?こんなこと言われて平気なわけ!?」

「平気なもんかよ!だけど...!」

「...仲間だって...友だちだって思ってたのに...っ」

 

ネモが宥めるが、少しも落ち着く様子のない真珠。

更に感情的になり、声を震わせ涙を流す。

 

「...所詮、元は敵同士。あの時はまだ利用価値があったけど、今となっては役立たず。」

「小夜...!あんたねぇ...っ!?」

「やめろよ真珠っ...!!」

 

最初は先輩と後輩、すぐに敵同士。

そして部下になり、仲間になり。

今は大切な"友だち"になった。

そう、真珠とネモは思っていた。

それは勘違いだったと、小夜は切り捨てる。

裏切りとも言える行為に激怒する真珠だが、ネモに抑えられその場でもがくだけに留まる。

 

「トランスアイテムを渡しなさい。それでお別れ。二度と関わることはないでしょう。」

「これを...。」

「逃げようだなんて考えないことね。使えない部下とはいえ、この手で始末するのは少し後味が悪いもの。」

「っ...!」

 

自らのトランスアイテムを見つめる真珠。

渡さなければ力ずくでも奪い取ると話す小夜を睨み付け、怒りのままにアイテムを投げつける。

 

「勝手にしなさいよこのばか...!裏切り者...!アンタなんて!アンタたちなんてだいっきらいっっ...!!」

「そう。清々するわ。」

 

投げつけられた星を拾い上げ、彼女たちの後ろにゲートを開く。

 

真珠は最後に濡れた瞳を拭いながら、小夜から逃げるようにゲートへと飛び込む。

そんな後ろ姿を悲しげに見届け、ネモもまたトランスアイテムを小夜へ手渡す。

 

「...世話になったな。」

「......もう、関わらないで。」

 

怒りではなく感謝を伝えるネモ。

小夜の拒絶に苦笑いを浮かべ、トボトボとゲートを潜り抜ける。

 

真珠とネモがいなくなり、ゲートも消え。

二人きりになったうてなたち。

緊迫した空気も穏やか雰囲気もなくなったアジトで、小夜は崩れるように席へ座り込む。

 

「小夜ちゃん...本当に、これでいいの...?」

 

先程とは打って変わって憔悴した様子の小夜。その姿に耐え切れなかったのか、うてなは苦渋の決断の撤回を求める。

 

「...いいのよ、これで。」

 

しかし、小夜の意志は変わらない。

二人のトランスアイテムを並べ、震える手でその表面をなぞる。

 

「あの子たちには、お互いだけを大切に過ごして欲しい。これ以上傷つく必要なんてないのよ...。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「きらい...小夜なんてだいっきらい...!!ばかばかばかばかばーーかっ!!」

 

あれから数分、真珠はあの通り子どもみたいに癇癪を起こしっぱなしだ。

ムカつく気持ちはよく分かるけど、この調子でまだ歩き続けるのは勘弁したい。

 

「真珠。本当に小夜が足手まといだからってだけで、アタシらを追い出したと思うか?」

「あいつがそう言ってたんじゃない!」

 

冷静に考えれば真珠にも分かるはずだ。

小夜はそんな理由で仲間を突き放せる奴じゃない。

 

「アタシらが、これ以上傷つかないように。あのヤバい魔法少女たちに目をつけられないように、逃がしてくれたんだ...。エノルミータじゃなくなれば、もう狙われることなんてない...。」

「!...そんなのっ...そんなの誰が頼んだのよ...!」

 

正体がバレてない今なら抜けられる。

やるならこのタイミングしかないと思ったんだろう。

前回のあれは、本当にかなりギリギリだった。

もう、小夜はアタシたちを守れない。

それ程の事態ってことだ。

 

「真珠だって...真珠だって分かってるわよそんなの...!あの過保護な甘ちゃんがそういう奴だってことくらい...!でも、だからムカつくのよ!真珠たちは守られるだけの子どもじゃない!一緒に戦う仲間でしょ!?何で信じてくれないのよ!?」

 

真珠の気持ちはよく分かる。

アタシだって、本当はそうやって小夜に反論したかった。

でも、出来なかった。

 

「分かっけどさ...!今回ばかりはマジでヤバいんだよ!こないだの戦いでアタシ分かっちまった...!アタシじゃ...アタシじゃ真珠を守れない!目の前で泣かせることしか出来ないって...!!」

「ネモ...っ?」

 

あの魔法少女たちに好き勝手やられて、後ちょっとで死ぬとこだった。

真珠を、失うとこだった。

傷は治っても心は違う。

アタシはもう、戦えない...。

 

「店長に言われたこと覚えてるか...?」

「...戦う、覚悟の話?」

「そうだ。戦う理由...アタシらにあんのか?」

「...世界征服して...真珠は、アイドルに...」

「なら店長の仲間になるべきだった。でも、しなかった。アタシもだ...。ただ友だちといたいって気持ちを優先しただけ。その程度でしかなかったんだよ、アタシらは。」

 

小夜やうてなみたいにお互いを大切に思っててんのに戦うなんざ理解出来ない。

もしジャスティススティールを何とか出来たとして、その次はるかと薫子と戦えるのか?

友だちといたいからって、他の友だちを傷つけるってのか?

アタシには、それが正しいなんて言えない。

 

「降り時を見失ったんだよ...アタシらは。」

「だからって...!こんなの納得出来ないわよっ...!!」

「真珠!?」

 

頭で分かっていても、心はそう素直じゃない。

真珠は再び我慢の限界を迎え、アタシの前から走り去ってしまう。

 

「足はえーよ...あのバカ...。」

 

真珠を見失い、ナハトベース(戻る場所)も失った。

頭の中も、未来も。

もう真っ白で、ただ呆然と空を見上げる。

 

「アタシって、何が出来たんだっけ...?」

 

ルベルブルーメじゃない、姉母ネモは。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「っ...っ...」

 

意味分かんない。

本当に、何なのよアイツら。

ちょっとヤバいヤツが出てきたくらいでビビって、真珠をこんなに傷つけるなんて。

もう謝ったって許してやらない。

真珠がナンバー1アイドルになったって、友だちとして紹介してやらないし、ライブのチケットだって恵んでやらないんだから。

むかつく。

むかつくムカつくムカつくムカつくムカつく!!

小夜たちにも、いつまで経っても涙が止まらない自分にもっ!!

 

「あの...だいじょうぶですか?」

「っ...?」

 

ほら。ずっと情けなく泣いてるから、見ず知らずの人に心配されちゃったじゃない。

急いで顔を拭って、声をかけてくれた人の方を向く。

年は同じくらい。

赤い髪を左側サイドテールにして、結び目を小さいリング状にしてる。

顔はかなり可愛くて、まるでアイドルみたい...って。

 

「...あなたもしかして、"Flowords"のセンター!?向日葵エリカ、さん!?」

「知ってるんですか?何だか気恥ずかしいな~...。」

 

最近人気急上昇中のアイドルグループ『Flowords』。

確か、あのライブにも参加してたんだっけ?

あの時は新人グループの域を出てなかったけど、今やトレスマジアよりメディアへの露出が増えてる、一番勢いのあるアイドル。

そんなアイドルの、しかもセンターに偶然会っちゃうなんて。

 

「良かったら、これ使ってください。」

「へ?...ありがとう、ございます。」

 

差し出されたハンカチを受け取り、軽く涙を拭う。

プロに心配されて、私物まで借りちゃった。

ファンが見たら真珠刺されちゃうんじゃないの...?

 

「ファンの方ですか?」

「え...い、いや...ファンというかその、真珠もアイドル志望というか...それでチェックはしてるというか...」

「真珠ちゃんもアイドルなの!?スゴい偶然だね!でも納得しちゃった、真珠ちゃんすっごくカワイイから!」

「か、かわ...///」

 

正確にはアイドルじゃないけど。

というか、急に距離詰めて来たわね。

同年代だから気にしないけど。

人懐っこい笑顔がどことなくはるかみたい。

 

「ま、まあ色々と?気を使ってるし...メイクとか、スキンケアとか...。」

「うんうん!分かる分かる。結構お金かかるよね~...。」

「そうなのよ。中学生の財布には厳しいけど、今の内からやっとかないとアイドル寿命がねぇ。」

「世知辛い話だよねー...。」

 

こんな風に、同じ悩みを話せる同年代って今までいなかったかも。

初対面なのに話しやすくて、アイドルのことを話せる人。

不思議とすらすらと言葉が出てくる。

それから真珠と向日葵さん...エリカは、メイクのここが決まらないとか、ダンスがむずかしいとか。

思ったような声が出ないとかって、まるで友だちみたいに雑談した。

 

「初対面なのにごめんね?愚痴に付き合わせちゃって。」

「いいのよ。真珠も楽しかったし。...エリカは聞かないのね?」

「何を?」

「泣いてた理由、とか。」

 

小一時間話し込んでたと思うけど、一度も理由を尋ねられたことはなかった。

エリカは不思議そうに首を傾げて、その後すぐ名前の通りのヒマワリみたいな笑顔を見せる。

 

「嫌なことは考えないで忘れちゃうのが一番!楽しいことをして、美味しいものをたくさん食べて、ぐっすり寝ればスッキリ元気!今日もがんばるぞー!ってなるよ!」

「...ぷっ。単純なのね、エリカは。」

「あ!今ばかにしたでしょう!?」

 

忘れるのが一番ね...。

確かに、今の真珠にはそうするしかない気がする。

簡単にいくかは分からないけど、エリカの言う通り好きな物を食べてたくさん寝れば、少しは気持ちが楽になるかも。

 

「あんがとね、エリカ。」

「ぜんぜん!困ったらお互い様だよ!」

 

マゼンタに感じた、本物のアイドルの輝き。

太陽みたいな温かさがエリカにはある。

大人気なのも納得。

これも才能なのかしらね。

 

「ね、真珠ちゃん。良かったら、うちの事務所に来てみない?」

「へ?」

「メンバーのみんなに紹介したいの!どこかでお仕事一緒になるかもだし!」

「あ、えっと...真珠、実はまだアイドルじゃなくて...事務所も、入ってなくて...。」

「そうなの!?ならもっと来て欲しい!真珠ちゃんならきっと平気!」

「...?」

 

すぐバレる嘘を吐いて内心恥ずかしさで死にそうだったのに、エリカは更にテンションを上げて真珠を事務所に来るように誘って来る。

意図が分からなくて黙ってしまった真珠に向かって、エリカは手を差し伸べる。

 

「真珠ちゃん!一緒にアイドルやらない!?」

「......は?」

「新メンバーになって、一緒にアイカツしようよ!」

「はあぁぁ!?!?」

 

こういうの、何て言うんだったかしら?

青天の霹靂?棚からぼた餅?

とにかく冷静になりなさい真珠。

状況を整理するの。

エノルミータを追い出されて泣いてたとこに大人気グループのセンターが現れて友だちになり、可愛いと言われてアイドルにスカウトされた?

 

...分かった。これドッキリね?

新手の素人を標的にしたタチの悪いドッキリに違いないわ!!

 

「みんな紹介するね!この子は阿古屋真珠ちゃん!今日から仲間になる新メンバーだよ!」

「よ、よろしくおねがいするます...。」

「わぁー!よろしくね!」

「よろしく!すっごいカワイイね!」

「スタイルもよくてうらやまー!」

「ネイルは自分でやってるの?今度あたしにも教えてほしーなぁ~...。」

 

...ま、まあ?

真珠も未来の業界人としては、企画を蔑ろには出来ないし?

"ドッキリ大成功!"するまでは付き合ってあげなくもないかなぁ~?なんて。

というか、普通こういう時って新人イビりが始まるもんじゃないの?

みんながみんなエリカ並みにフレンドリーなんですけど?

 

「真珠ちゃんダンスすっごく上手!」

「歌声なんてまるで天使みたい!」

「これならすぐライブも出れちゃうよ!」

「よし!来週のライブは新メンバーお披露目にスポット当てちゃおうか!今からセトリ見直すわよ!」

「あ、あはは...?」

 

そりゃ毎日練習は欠かしてなかったし。

変身できなくてネモもいない割に上手く歌えちゃったかなぁ?

ネタバレはライブまでお預け?

というか、あの気合い入れてる人はマジもんの社長さんよね?

事務所総出でドッキリなんて、素人相手にする?

 

「......ドッキリじゃ、ない...?」

「何言ってるの真珠ちゃん。真珠ちゃんはもう、わたしたちの大事な仲間!ライブ、ガンバろうね!」

「......ええ...ええ!もちろんよ!」

 

もしかして。

真珠の夢、アイドル道。

ついに始まっちゃった...?

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

あれから三日経った。

最近、真珠の様子がおかしい。

 

「おはよ!」

「お、おう...。」

 

なんか、無駄にすげー元気なんだ。

あんだけ泣き喚いてたはずなのに、次の日にはもうケロっとしてて。

『エノルミータのことはもういいのか?』なんて、聞いたらやぶ蛇かもしんねーし。

これじゃ空元気かどうかも確めらんねー。

 

ただ、幼なじみとしては演技してるようには見えない。

立ち直ったどころか、前よりテンション高いし愛想も良くなってやがる。

雰囲気がガラッと変わっちまった。

アタシに言わせれば、ほとんど別人レベルの変わり様だぜ。

 

「じゃあ、真珠は寄るとこあるから。」

「買い物か?駅前行くならアタシも付き合うよ。」

「買い物じゃなくて。...ちょっと、習い事。」

「習い事だぁ?ピアノでも始めたってのかよ?」

「...まあ、そんなとこ。

だからまた明日ね。」

「待てよ真珠。」

 

確実になんか隠してやがる。

ここ二日のモヤモヤを込めて、足早に去ろうとする真珠の手を捕まえる。

アタシにバレたらまずいことでもしてんのか?

 

「な、なによ?」

「お前何か隠してんだろ?アタシに言えないような用事って何してんだ?」

「別に...今のあんた、束縛強いヤバい彼氏みたいよ?」

「誤魔化すんじゃねぇよ。重いに決まってんだろ、アタシはお前が一番なんだから。」

「っ...どこで惚気てんのよばか...///」

 

いつも通り、こいつが素直じゃない時はアタシが正直になる作戦だ。

ホントに習い事ならほっておくが、真珠のことでわずかでも嫌な予感が過るなら追求せざるを得ない。

観念したような溜め息を吐いて、真珠はアタシの質問に答える気になった。

 

「...事務所に、スカウトされた。」

「事務所?スカウトって...」

「アイドルになれるってこと。アンタたちがバカに出来ない、本物のね。」

「ま、マジで...?」

「マジよ大マジ。今人気のFlowordsってグループ。今度のライブに出るの。」

「や、やったじゃんか真珠!マジで夢叶えちまったのかよ!?」

「う、うっさいわね...声でかいのよ///」

 

アタシの知らない間にそんなことがあったのか。

そりゃ機嫌が有頂天にもなる。

子どもの頃からの夢、こんなタイミングで叶えてたなんてな...。

しかも、もうライブも決まってる人気グループにスカウトとか。

漸くこいつの魅力に世界が気付いたってわけだ。

 

「ライブはいつなんだ?」

「来週の土曜日。」

「近々じゃねーか!?...でもまあ、前の練習の経験値が生きればいけなくもないのか。」

「そーゆうこと。センターの子のお墨付きよ。」

「そっか。そりゃすげーや。...ん?でもお前歌はどうすんだよ?」

「どうするって、歌うけど?」

「パンツ見せて?」

「見せないわよ!?///」

 

見せないで歌ったらいつものいじりにくい程度の音痴で台無しにしちまうだろうが。

ダンスはともかく、ちょっとのボイトレで直るようなもんじゃないのは周知の事実ってやつだ。

 

「歌も褒められてるから、もう大丈夫なの!」

「んなことあり得んのかよ...?」

 

あの真珠が普通に歌えるようになった?

一気に色々なとこが都合良すぎるって気がして、さっきまでの不安がぶり返してくる。

 

「大丈夫なんだよな?その事務所。」

「何を心配してんのよ。みんないい人だし、ちゃんとしてる事務所なんだから。」

「でも、あんまりにも都合良すぎねーか?歌だってアタシがいないでどうやって」

「だから大丈夫だって言ってんでしょーが!!」

 

念の為釘を刺しとこうと更に話を続けるが、真珠は急に声を荒げてアタシの心配をはね除ける。

 

「ま、真珠...?」

「アンタが諦めろって言うから小夜たちのことを必死に忘れようとしてんでしょーが!!やっと真珠の夢が叶うの!アイドルになるの!!邪魔しようとするならネモでも許さないからっ!!」

 

な、なんだ...?

どうしたんだよ急に。

アタシはそんなつもりで言ったわけじゃなくて、ただ真珠のことが心配で...。

つーか、今真珠から変な気配がしたような。

 

「わ、わりぃ...。アタシ、そんなつもりじゃ」

「とにかく、真珠は忙しいの!

さっさと離しなさいよっ!!」

「っ!?......真珠...。」

 

おかしいくらいに怒る真珠の気迫に圧されて掴んだ手を離してしまう。

急ぎ足で遠退く、真珠の背中。

想像していた以上に変になっちまってる。

 

嫌な予感が確信に変わり、すぐにアタシは真珠を尾行することにした。

何かヤバいことに巻き込まれてるに違いない。

小夜たちが頼れない以上、アタシが何とかするしかない。

たとえ変身出来ないとしても、真珠はアタシが守るんだ。

 

この時ばかりは影が薄くて助かった。

行く先々で物陰に隠れ、真珠を尾行。

そして漸く事務所と思われる建物へと辿り着く。

 

「エリカ、お疲れ様。」

「真珠ちゃんお疲れ様。

今日もレッスンガンバろうね。」

「もちろんよ!」

 

事務所の前で誰かと挨拶し合う真珠。

アイツ、なんか見たことあるぞ...?

あれが真珠をスカウトしたセンターかな?

 

「わたしちょっと用があって。

先に行っててくれる?」

「そうなんだ。りょーかい。」

 

入り口に進む真珠と別れ、もう一人の女子はわざわざ事務所からまた離れていく。

どこ行くつもりだ?

中の真珠は気になるが、どうもあの赤髪が怪しい。

 

後ろ髪を引かれつつ、今度はもう一人の女子を尾行することに。

これ現役アイドルをつけてるわけだし、ストーカーとやってること同じなのでは...。

社会的レッドゾーンに顔色をブルーにしつつ、何とか裏路地まではつけることができた。

行き止まりに、アイドルに相応しくない汚さ。

怪しさ満点だぜ。

 

「こんにちはエリカさん。

調子はいかがですか?」

 

『あ、アイツは...!?』

 

ヴァーツ!?

嫌な予感ってのはどうしてこうも当たっちまうんだ!?

あれと知り合いってことは、間違いなく魔法少女絡み。

ただでさえ、今魔法少女ってのは信じられない。

警戒を更に強めて聞き耳を立てる。

 

「大丈夫です。きっと上手くいきますよ。」

「それは良かったです。期待してますよ、エリカさん。」

「はい。必ず、輝かせて見せます。わたしのお星さまを。」

 

聞こえてもいまいち詳細が分からない会話だな。

もっと近付きたいけど、これ以上は...。

 

「それじゃあ、練習があるので。」

「はい。頑張ってくださいね。」

 

やべっ!?こっちに来る...!

急いでその場から離れ、息を切らしながら頭の中を整理する。

ヴァーツと繋がってるあの女。

魔法少女だと仮定して、それを真珠に明かしてるわけでもないみたいだ。

まだ黒だと言い切れない。

でも、このタイミングは狙い過ぎだ。

あまりにも都合のいい話と合わせても、何かしらの罠だと考えた方がいい。

真珠に知らせるか?...いや、あの感じじゃ信用してくれなさそうだ。

アタシが何とかするしかない。

事務所の様子を調べて確信を得たいけど、ただの中学生が入れるとこじゃねーし...。

 

「変身さえ出来れば...。」

 

一人じゃ、何も出来ない。

だけど事情が事情だ。

話せばきっと、アイツらなら。

スマホを取り出し()()()()()()()()()()()に連絡を取る。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「ハァ?また新手の魔法少女だぁ?」

「そうなんだよ!このままじゃ真珠がヤバいんだ!だから、トランスアイテムを返してくれ!」

 

場所は変わって駅前のファーストフード店。

ポテトをバクバク咀嚼しながら、興味なさ気な顔でアタシの話を聞くアホ。

もといキウィ。

 

「つーかさぁ。キウィちゃん誘うならせめて回転寿司にしろよなぁー。もしくはステーキ。」

「真面目に聞けよ!?」

 

事情は大体説明したのに、まったく真面目に受け取っている様子がない。

ホントは仲間想いのいいヤツだなんて思うんじゃなかった。

こんなことなら、気まずくても小夜に直接言うべきだった。

 

「...おまえさ。真珠が自分から離れてくのがそんなにイヤなわけ?」

「は...?」

 

いきなり雰囲気をガラッと変えるキウィ。

変わったのは雰囲気だけで、中身はアホのまんまだ。

誰がそんな話をした。

アタシは別に、そんな理由で

 

「魔法少女だのヴァーツだの、もうおまえにはかんけーない話だってさぁ。何でわかんないわけ?」

「お前っ...!」

「じゃあ聞くけどさ。変身してどうするつもりなん?」

「どうするって...潜入して、化けの皮剥いで真珠を」

「捕まったら?」

「っ...捕まんねーよ...。」

「おまえの話がホントならさ。そもそも真珠がもう捕まってるもどーぜんじゃんか。」

 

コイツ、何でこんな時だけ的確なことを理路整然と...!

アタシの方が頭に血が昇ってるみてぇじゃんか...。

 

「そもそも真珠の正体はバレてねーっしょ?だから、さよちゃんはたまネモを追い出したんだって...おまえ分かってんだろが。」

「っ...。」

「いい方に考えろよ。魔法少女さまは正義の味方だし?真珠だってホントに夢が叶ったってさ。」

 

確かに、ヴァーツにバレてるならもうとっくにアタシらはJ.S.Tにやられてる。

やっぱりアタシの考え過ぎか...?

キウィの言う通り、真珠に"アタシが必要だ"って言って欲しいだけなのか...?

 

「さよちゃんがさ。あれからよくおまえらにもらったプレゼント眺めて、ぼーっとしてる。」

「...ただのメイク道具とアクセサリーだろ。」

「だから、もうこれ以上さよちゃんを悲しませんなよな。」

「んだよ...それ。」

 

ポテトを食い切り、捨て台詞と共に去っていくキウィ。

退いちゃいけねぇはずなのに、何も言い返せなかった。

変身出来なきゃ、ルベルじゃなきゃアタシは真珠がピンチかどうかも判断出来ないのか?

ネモでもルベルでも、結局は何も守れないってことかよ...。

 

「トレーくらい、自分で片付けろよな...。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ついに本番の日がやってきた。

人生で二回目とはいえ、緊張しないなんてあり得ない。

...今日だ。

今日がホントの、真珠のスタートライン。

一度は失ってしまった出発点。

精一杯やったその先がまた同じ結果になるじゃないかって不安になるけど、それはきっとないと思う。

真珠はもう、エノルミータじゃない。

ロコムジカでも、歌星ぱあるでもない。

()()()()()()()()、アイドルになるんだから。

 

「真珠ちゃん、緊張してる?」

「き、緊張?そんなの真珠がするわけないじゃない!?」

 

大きめのコンサートホールがお披露目ライブの会場だった。

ドームではないけど、かなりの観客が見込めるハコ。

チケットは売り切れで、最近のFlowordsの人気を考えば当たり前のことだった。

メンバーのみんなは楽しげに会話したりお菓子を食べたりしてリラックスしてるけど、真珠は正直落ち着けない。

みんなと違って素で歌って踊るのは初めてだし、それに。

ここには、ネモがいない。

 

「真珠ちゃん、リラ~ックス!ファンのみんなならきっと受け入れてくれるし、今日で真珠ちゃんの虜になっちゃうに決まってるよ!」

「あ、当たり前でしょ!これはいわゆる武者震いで、緊張なんてしてないし!」

 

エリカが察して励ましてくれるけど、分かっていても簡単に収まるモノじゃない。

トライエンゼルの時は、ネモが側にいてくれて。

抱き締めて、慰めてくれて。

見ていてくれたから...。

 

「ネモ...。」

 

頼ってなんていられないのに、ついその名前を呟いてしまう。

強がっても、心のどこかでアイツに頼ってる真珠がいる。

やっぱり、ちゃんと話をしてついてきてもらえばよかった。

突き放したりせず、順番に説明を

 

「は?......突き、放した...?」

 

何で?

何故ネモを突き放す必要があるの?

大体、真珠はあの日から()()()()()()()()()()()()()...。

 

「真珠ちゃん?」

「っ!?」

 

エリカに肩を掴まれ、モヤモヤしていた意識がはっきりとしてくる。

今の変な感じは何だったの?

なにか、頭の中に汚れがこびりついたみたいな違和感が...。

 

「だいじょうぶ?」

「え、ええ...。ちょっと眠かっただけ。」

 

心配そうに顔を覗き込んでくるエリカに急いで作り笑いを浮かべる。

きっと緊張し過ぎただけ。

意識が逸れて震えも止まったし、これなら何とかステージをこなせそう。

...よし。気を取り直して、メイクと振り付けのチェックをしなきゃ。

 

「だいじょうぶだよね。だって、()()()()()()()()()()()()()。」

「...え?」

 

背筋が凍るって、こういうこと?

頭が意識するより先に背中がゾワゾワして、勝手に目がエリカから離せなくなる。

真珠の知ってるエリカとは違う、笑ってるのに笑ってない表情。

というより、これが彼女の笑顔であることを頭が理解しようとしない。

そのくらい暗く、不気味な顔。

 

「あぁ...ぱあるちゃん。ぱあるちゃんぱあるちゃんぱあるちゃん!ずぅ~っと会いたかった。わたしの唯一無二で最強で最高のスーパーアイドルぱあるちゃん。あんなキレイに眩しく輝いてわたしの目を焼いたくせに、一度きりしかその光を見せてくれなかった。悲しかったよ、とっても。必ず取り戻すって、わたしずぅぅっと!捜してた...!」

「え...なっ...?」

 

真珠の両肩を掴んで目の前で見開いた瞳を真っ直ぐに向けてくるエリカ。

早口で捲し立てる姿は普段の天真爛漫な彼女とは似ても似つかない在り様で、頭の混乱を口に出す隙すら与えてくれない。

 

「エノルミータだったから辞めちゃったんだよね?だいじょうぶ!もうあなたはロコムジカじゃない。今日、あなたは再び空に輝く星となる。このグループも、観客も、世界も。みんなみーんなわたしがぱあるちゃんの為に用意したの。言ったでしょ?"また別の形でデビューしてくれる日を、楽しみに待っています"って。」

「!」

 

それ、解散する前に送ってくれたDMの...。

あれはエリカからのメッセージだったんだ。

全て分かっていて、グループに真珠を?

ぱあるだと、ロコムジカだと分かっていた?

それより、世界を用意したってどういう意味?

 

分からないことだらけで動揺するしか出来なくて、咄嗟に助けを求めようと周りを見渡す。

でも、助けは期待出来ないようだった。

談笑していたはずの子も、お菓子を美味しそうに頬張っていた子も。

まるで"人形"のように動きと表情を固めてこちらを見ている。

誰かからの指示を待っているかのようだ。

 

「さあ、そろそろ時間だよ。みんなもやる気十分みたいだから、真珠ちゃんも頑張ってね?わたしが待ちに待った姿をきっと見せてくれるって、信じてるから。」

「......はい。」

 

頭を撫でられ、されるがままに抱き締められる。困惑や不快感、そして緊張は最早感じられず、エリカの言葉だけがずっと頭に響き続ける。

やがてメンバーとそっくりな顔をした真珠が、鏡に映って見えて。

 

「大好きだよ...わたしのぱあるちゃん。」

「ね、も...」

 

タス、ケ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

会場は異様な熱気に包まれていた。

観客は子どもから大人まで客層は多岐に渡るものの、皆一様に生気のない、操り人形にも似た表情で叫び声を上げ、彼女たちの推すアイドルの名前を呼び続ける。

 

『ぱある!ぱある!ぱある!』

 

Flowordsのメンバーはおろか、センターであるエリカの名前ですらない。

今日出演するとは決して宣伝していない、既に姿を消したはずの歌星ぱあるの名前。

一言一句、一瞬のズレすらなく、観客たちは同じ声量同じタイミングでぱあるの名前を叫ぶ。

 

「みなさん、お待たせしました。わたしたちの星、わたしの愛する最高のアイドル。彼女が今日、ここで!復活の時を迎えます!」

 

ステージに一人で現れたエリカが、芝居がかかった口調でアナウンスを始める。

エリカの言葉に熱狂し、観客の声援が何重にもホールの端から端へ響き渡る。

 

「彼女こそ奇跡!彼女こそ夢!彼女こそ絶対!!割れんばかりの拍手と歓声を!!歌星ぱあるちゃんでぇぇすっ!!!」

 

狂乱のステージに、今真の主役が現れる。

背景と化したFlowordsのメンバーを従えて真珠が。

否、"エリカのアイドル"である歌星ぱあるが登場する。

大した装置があるわけでもないのに、どこからともなく派手な爆発演出が起こり、会場の熱気を更に煽る。

 

「みんなー!今日はぱあるの復活ライブに集まってくれて、ありがとぉー!」

《ワアアァァァァーー!!!》

 

ぱあるの言葉にお手本のような歓声が上がり、メンバーもそれに合わせて喜び興奮する素振りをする。

会場がまさに一つになったような連帯感。

ぱあるの為の世界。

全て、エリカの希望通りの光景だった。

 

「ぱあるの為に存在するみんな!もうぱあるは遠くへ行ったりしない!あなたたちの上で、唯一無二の姿を見せ続けてあげる!だからみんなはぱあるの為に、ぱあるに世界の全てを捧げて!永遠にぱあるだけを見つめ続けるの!そうすればずっと、ずぅぅっと!ぱあるが幸せにしてあげるわ!!」

《キャアァァァァーー!!!!!》

 

それは支配とも、献身とも取れる宣言。

エリカやメンバーを含めて、会場がその言葉に狂喜し涙を流す。

喉が潰れるほどの声で、その幸せを表現する。

ファンの反応にぱある自身の笑顔もハツラツとしていき、ついには彼女も高笑いをし出して、その笑い声だけでファンを虜にしていく。

アイドルなら誰しもが夢見るであろう、世界全てが自分を肯定し崇め称える空間。

それを証明するように、ぱあるの顔には非の打ち所のない満開の笑顔が浮かんでいる。

 

誰もが彼女は幸せだと、そう結論付けるに違いない状況。

だが、()()()()()()

 

「ふざっけんなあぁぁぁぁ!!!」

 

一つの歪みが、完璧な空間に致命的な欠損を与える。

観客席からステージへ、心からの否定を叫ぶ者が一人。

姉母ネモは自らの最も大切なモノが汚されたことに激怒し、感情を思うがままにぶちまける。

 

「アタシの真珠はそんなこと言わねぇんだよ!!てめェらの勝手な妄想で真珠を汚すんじゃねェェ!!」

「...ふーん。わたしの"魔法"が効いてないんだ?」

 

空間に順応しない異物を見留め、エリカは表情を冷ややかなモノへと変化させる。

それに合わせてぱあるや観客もまた、彼女に表情を一致させる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()なんて、あなたは魔法耐性があるんだね。大変だったんだよ?真珠ちゃんを言いなりにする為に一時間も雑談しちゃって。楽しいお話中に意識は魔法にかかりっきり。まあ、そのおかげでわたしのぱあるちゃんを取り戻せたけど。」

「やっぱり...お前が魔法少女で、真珠をおかしくしやがったんだな!?」

 

会場全体がネモへと視線を向ける中、エリカが愉悦のネタバラシを始める。

 

彼女の話す声は、今ネモにしか届いていない。

声を聴く者の思考や自由を奪い、思い通りに使役する。

それが彼女の能力だった。

魔法少女となったあの日から、全てはエリカの思うがまま。

メンバーも、ファンも、知らず知らずの内に彼女に催眠をかけられていたのだ。

 

「お前魔法少女なんだろ!?魔法少女でアイドルで、何でこんなことすんだよ!?」

「こうすればみんなが幸せになれる。最高のアイドルに全てを捧げて、燃え尽きる。それがぱあるちゃんのいる世界。ぱあるちゃんの為の世界...!」

 

正義と愛を司るはずの魔法少女が、やっていることはただの独りよがり。

他人を支配し操って、それを間違っていると考えもしない。

ネモは狂気的としか思えないその返答に憤るが、周囲の観客が真顔で彼女ににじり寄ってくる。

 

「っ...好きにしてるだけってことかよ。」

「そう。わたしは愛するぱあるちゃんの為の存在。ぱあるちゃんという神を支える天使。わたしは、"ミューゼル"。エノルミータは、わたしたちの世界に必要ないの。」

 

すでに"変身"は遂げていた。

偽装だったアイドルの衣装が溶け消え、エリカの魔法少女としての姿が現れる。

 

天使の羽と音符をあしらった、清楚で愛らしい王道の姿。

しかし、その表情は寒気を覚える程に歪んだモノだった。

通常の魔法少女ではなく、更に強化された存在。

彼女の歪んだ愛が、ヒロインとしての"真化"すら果たさせていた。

 

「必要ないねぇ...それ、こないだも言われたぜ?弱くて役立ずなヤツはいらねェってよ。しまいには自分で自分のことをお払い箱だって決めつけて、今日の今日までいじけてた。だけどな?アタシはもう決めたんだよ。」

 

ミューゼルという変身すら出来ない状態では蟻と象ですら例えにならない脅威を前にして、ネモは堂々とその双眼を仇敵に向ける。

 

「誰に弱いだの重いだの言われても関係ねェ。死ぬかもとか、酷い目に遭うだとか。そんなのももうどうでもいい!覚悟なんかねぇよ!アタシはな、ただアタシのしたいことをしてただけだ!真珠の側にいて、アイツらとバカやって!居心地がよけりゃ何でもやるよ!くだらなくていい筋が通ってなくても結構!アタシは今したいことを選ぶ!後先なんか知ったことか!!出来る出来ないで自分の道を迷ったりはもうしねぇ!!アタシはアタシが間違ってないって信じてる!!お前もそうだろ!?なァ答えろよ真珠ァっ!!」

「!......ネ、モ?」

「ちっ...。」

 

友だちを傷つけるかもしれない不安も、愛する人を守れない恐怖もある。

それを覚悟することなど、小心者のネモには無理だ。

だが、関係ない。

躊躇うことや出来ないことがあるからと言って、自分の欲に走って何が悪いのか。

必要とされてないし、足手まとい。

そんな事実はクソ喰らえ。

自分が選んだこの道に、大層な名目など必要ない。

ただ、"側にいたい"。

そんな気持ちが全てだと。

間違ってなどいないとネモは叫ぶ。

それはきっと、真珠も同じはずだと。

 

「いい啖呵だ気に入ったぁ!」

「動くな、向日葵エリカ。ミューゼルと呼んだ方がいい?」

「!...仲間想いの悪の組織ってわけ。」

 

ネモを一斉に襲わせようとするミューゼルだが、その命令をステージを削り取る()()()()に遮られる。

観客席の端にスポットライトが当たり、この会場に相応しくない悪の姿を映し出す。

 

「アズール!?レオとロボ子もどうして...!?」

「ネモちゃん真珠ちゃん、助けに来たのだわ。」

「おまえがヘンなことゆーからだろ~?それに元ユニットメンバーとしての義理もあるっちゃあるしぃ?」

「話してる場合じゃないわ。一人で危険に飛び込んだお説教はまた後で。」

 

実は予め潜入していた三人。

会場の異様な雰囲気と魔力の残滓に警戒はしていたが、空気を読まずにネモが喧嘩を売ったので慌てて変身。

援護射撃をするに至ったというわけだ。

 

「感動的だけど、ちょっとは仕掛けるタイミングを考えるべきじゃない?」

「仕方ないでしょネモがすぐ怒っちゃったんだから!解釈違いは大罪!あなたのような魔法少女の前にベーゼを連れて来ないで良かった!」

「ちなみにアリスちゃんもお留守番なのだわ。」

 

観客を操りすぐにアズールたちを包囲するミューゼル。

アズールは痛い指摘に強がりつつ、周りを見渡し冷や汗を垂らす。

 

「ファンのみんなにはわたしの魔力を渡してあるの。弱い魔物程度の力しかないけど、優しい悪者のあなたたちに攻撃出来るのかなぁ?」

「人質ってわけね...!」

「ヒキョーだぞてめー!晒して炎上させてやっからなー!」

 

人を超えた観客の膂力と、数の暴力で抑え込まれるアズールたち。

力ずくではね除けることは可能だが、元は善良な一般市民。

魔法少女相手以外はなんちゃって悪の組織なエノルミータに、無関係な人々を傷つけることは出来ない。

 

「アズール...!くそっ!やめろミューゼル!!そいつらお前たちのファンだろうが!?」

「他人の心配をしてる場合?」

「うぐっ!?」

 

助っ人が現れたと思ったら瞬く間に制圧されてしまった。

ネモはミューゼルの良心に問いかけるものの、まったく相手にされず仲間たちと同じように拘束。

真珠への見せしめと言わんばかりに持ち上げられ、四肢を拘束される。

 

「やめてっ!何でこんなことすんのよ!?大切な仲間や応援してくれるファンを無理矢理従わせるなんて...!エリカ、あんたはそんなヤツじゃないはずでしょ!?」

「ぱあるちゃん、わたし分かったの。この世にアイドルはぱあるちゃんただ一人がいればいい。それ以外の全てはぱあるちゃんの為に燃やす燃料。Flowordsもファンも事務所もホールもドームもわたしだって!全部があなたの為にある!あなたの為の世界!!だから夢を邪魔するエノルミータはわたしが消してあげるっ!受け取ってぱあるちゃぁんっ!わたしの愛をぉぉ!!」

 

我に返りミューゼルを説得しようとする真珠。

しかし自身へのあまりに強い執着をぶつけられ、既に優しかった友人ではなくなっていることを痛感させられる。

 

「...真珠も、最初はそう思ってた。アイドルとして崇められたいって。その為に、ロコムジカになった。けど違った。真珠のなりたかったアイドルっていうのは、一方通行じゃダメなの。ファンがアイドルを愛するよりも、アイドルはファンを愛さなきゃいけない。愛する人たちがいるから、真珠はアイドルになれるの。」

 

短絡的で楽天的。

そんな彼女もエノルミータとなって学んだことが1つある。

愛されるだけじゃ、決して本物にはなれない。

側で笑う誰かを愛し、目に映る全てを愛し。

世界へ与えた愛がいつか自身をスターに、アイドルにしてくれるのだと。

 

「それを教えてくれた友だちが、好きな人が真珠にはいる。だから、まずはそいつらのアイドルになるわ。アンタの作った偽りのアイドルなんて、死んでもゴメンよ。」

 

故に、愛せないモノを受け入れるわけにはいかない。

真珠が好きなエリカじゃない、歪んだミューゼルの世界を認めることなど出来ない。

 

「どうして...?なんで...?なんでなんでなんでなんでなんでどうしてどうして分かってくれないの!?わたしはこんなにあなたを愛してるのに!?尽くしているのに!?」

「あのなぁ...!推しはファンが押し上げるもんじゃねぇ。スッ転んだり後ずさりしたりしたって、絶対に立ち上がって前に進む。

そう信じて声援だけは絶やさないのが本物のファンってヤツだ。何見返りを求めてやがる。てめえがいなくてダメなような推しならよ、始めから推しになんざなってねェだろうが...!」

「っ...!?」

 

真珠の拒絶に動揺するミューゼル。

ネモによるダメ押しで、ついに操る力にまで揺らぎが生じる。

その隙を見逃すアズールではなかった。

 

「ロボ子...!」

「二人とも受け取るのだわ!」

 

両腕を切り離し、真珠とネモ双方にトランスアイテムを届ける。

アイテムは主の溢れる想いを受け取り、呪文なしで二人をロコムジカ、ルベルブルーメへと変身させる。

 

だが、それだけでは終わらない。

二人の想いの力は限界を超えて膨れ上がり、()()()()()()()()へと彼女たちを到達させる。

輝くそれは、まさに願いを叶える奇跡の星。

 

「行くぜロコッ!!」

「ええ!教えてあげる!愛するが故にアイドル!本物の愛ってヤツをね!!」

 

『『真化(ラ・ヴェリタ)ッ!!』』

 

迷いを振り切った彼女たちを光が包み、その心を現実へと照らし出す。

もう弱いとは言わせない。

決意を込めた瞳で、生まれ変わった自らの名を世界に響かせる。

 

「ロコムジカ、"オンリー・ユア・アイドル"!」

 

"あなただけの星"と銘打たれたその姿は、彼女の理想のアイドル衣装。

水色と白を基調とした色合いはそのままに、ワンポイントのゴールドが星のように眩しい輝きを放つ。

露出された肩や胸元は彼女らしいセクシーさを演出するが、所々フリルがあったり可愛さも失いたくない欲張りな一面が表れている。

透ける仕様のスカートは一見すると破廉恥だが、自信満々な彼女の雰囲気に先鋭的な魅力を感じさせる。

武器となっていたマイクはヘッドマイクへ、帽子はワンポイント程度の大きさのシルクハットへと変化した。

 

「ルベルブルーメ。"一影灯星"。」

 

派手なロコと反対に、ルベルの衣装はまさに"くノ一"。

パーソナルカラーのスカーフがはためく、黒を多めに取り入れた忍装束。

クールな印象を受けるそれは、横から見ると鎖帷子が露出するセクシーな一面を兼ね備える。

網タイツに包まれた足をブーツに押し込め、腰には星形のクナイと手裏剣が並んで装備されている。

星を灯す一つの"影"と、その影を照らしたい"星"。

互いの姿が互いの愛を証明し、偽りのアイドルに今、相対する。

 

「ロコムジカ...!違う、違う違う違う違う!!そんなのわたしのぱあるちゃんじゃない!!」

「当たり前でしょ!ロコはロコ!ぱあるはもう引退してんのよばか!」

 

自身の得物であるマイクを取り出し、ついに自ら攻撃を始めるミューゼル。

ロコは放たれた音符の波を同様の力であっさりと相殺する。

 

「抵抗するなぁぁ!!」

「させねェよ!」

 

反撃されたことに怒り観客をロコに突撃させようとするが、そんなことはルベルが許さない。

無数の"分身体"を作り出し、一人一人が影縛りで観客の身動きを封じる。

技名はまだ考え中である。

 

「邪魔しないでぇぇぇっ!!!」

「アンタの相手はロコでしょうが!」

 

観客ごとルベルを吹き飛ばそうとするが、再度ロコに阻まれる。

完全には相殺し切れず余波が観客たちを襲うが、解放されたアズールたちが盾となり犠牲は出なかった。

 

「カワイイけどパンツ見えてんぞ~。」

「うっさいわね!?ファッションよファッション!///」

「どいつもこいつも邪魔ばかり...!ぱあるちゃんの世界に必要ないくせにっ!!」

 

ロコの衣装をイジるレオパルトという、最早懐かしさすら感じるシーンも束の間。

激昂したミューゼルは瞳を爛々と輝かせ、それと同時にメンバーや観客がバタバタと倒れ始める。

 

『な、なんだ!?』

「みんなの生命力を奪ってるんだわ!このままじゃ危険よ...!」

「やめなさいミューゼルっ!それ以上は本当に後悔するわよ!?」

「わたしのぱあるちゃんを取り戻すの!その為になら100人でも1000人でも...!これがわたしの愛なのぉぉぉ!!」

 

吸い取った生命力を全てマイクに集中させて、ミューゼルは狂った想いを増大させる。

ロコは観客を守ろうと彼女の前に立ち塞がるが、観客はおろか会場すら吹き飛ばすほどのエネルギーが既に集まっていた。

ルベルは不要になった影縛りを解除し、分身たちをホール一杯に集合させる。

 

「何をする気なの!?」

「決まってんだろ!"応援"だよ...!」

 

本体を含め、すべてのルベルがクナイを両手に装備。

そして同時に、刃部分が()()()()()()()()()()

 

「まさか...!?」

「ロコ!アタシ言ったよな!?いつだって最前列で()()()()()()()()()()()()()()()ってよ!!」

「ネモ...!」

「これがアタシの気持ちだ!受け取れェェ!!!」

 

『『『『ハイハイハイハイ!!』』』』

 

ルベルによるルベルだけの、ロコの為のサイリウム乱舞。

所謂、"ヲタゲー"。

音楽すら鳴っていない会場で、必死にキレッキレのヲタゲーを一糸乱れぬ連帯感で披露する。

それを可能にするのは、ルベルの胸に浮かぶロコの歌い踊るあくる日の光景。

焼き付いた輝き。

自らの愛を想いの力に変え、精一杯のエールをロコへと送る。

 

「一人で練習してたのね...。」

「スゴいのだわ。」

「アタシもあれぐらいできるよ~?アズールちゃんの為なら♥️」

 

外野は何とも言えない表情で無音のヲタゲーを見守っているが、周りの反応なんて本人たちには関係ない。

肝心なのはロコがどう思うかである。

 

「ルベルっ...///」

 

目下にはたくさんのルベル。

必死に自分の為に練習してくれたヲタゲー。

そして全員が全員、ロコへ熱い愛の視線を送っている。

ロコの、透けたスカートの中に。

 

「み、見られちゃってる...ルベルに、ロコのパンツ...っ///」

 

顔を紅潮させ興奮を隠せないロコ。

そういえば、最近ご無沙汰であった。

身体の疼きと共に彼女の魔力が昂り、ミューゼルにも負けない程の力が宿る。

 

「ぶちかませ...!ロコォォ!!」

「あんたの気持ち、確かに受け取ったわ!///」

「ぱあるちゃんの為に消えてよ...エノルミータぁぁぁぁ!!!」

 

ミューゼルが先手を打ち、ステージ上方から会場へ向けて音の嵐とも言うべき音波を放つ。

最早誰を相手にしているかも分かっていない、自棄糞の一撃。

愛を見失った友人に、同じアイドルとして、彼女の推しとして教えなくてはならない。

ロコは全力全霊を込めて、その美声を響かせる。

 

『"パショネイト・セレナーデ"ッ!!』

 

フォルティシモ・カノンをも超える、真化したロコの必殺技。

渦巻く魔力が高らかな音の調べと共に、ミューゼルを彼女の絶叫と共に包み込んでいく。

天井を吹き飛ばし、彼女の纏っていた呪縛の鎧をも蹴散らす。

 

「わた、し...なん、で...?」

 

丸裸になったエリカが正気を取り戻すと同時に、彼女の持っていたトランスアイテムが砕け散った。

得体の知れない、"黒いモヤ"を放ちながら。

薄れ行く意識の中で、エリカが最後に見つめていたのは。

荒れたステージでも堂々と胸を張り、陽射しを受けてその輝きを増していく。

本物の"アイドル"の姿であった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ロコはラヴリー ラヴリーロ・コ♡ みんなキュンキュンメロメロリン♡ 超絶キュートなミラクルガール! その名はロコロコ ロコムジカ♡(ロコちゃーん!) 聞こえるわあなたのハート どくどくバクバク鳴ってるわ 恋してもいいのよロコに 恋愛NGだ・け・ど(笑)

 

「引っ込めおんち~おんちがアカペラとかちょーし乗んな~帰れ~引退しろ~」

『フルコース!?ちょっとは優しさってもんを見せなさいよ!?』

 

後日、いつものカラオケにて。

キウィと真珠の安定感のあるやり取りを眺めて、ホッと胸を撫で下ろす。

 

「大変だったね...。まさか、また新しい魔法少女が現れるなんて。」

「大変なんてもんじゃないわよ!スーパーアイドル真珠の覚醒がなかったらホントヤバかったんだから。なのに、あんたとこりすは仲良くお昼寝してたらしいじゃない?友だち甲斐のないやつらねぇ。」

「スピーZz」

 

あっ、本当に引っ込んできた。

うてなたちに文句を言いながらソファーにドカッと座る真珠。

機嫌が良いのか悪いのかハッキリしない。

こりすはどこ吹く風で三度寝を決め込んでいる。

 

「バーカ。一番苦労したのはアタシだっての。エサに釣られて知らねェヤツにほいほいついてくからこういうことになんだよ。お前は小学生かよ。アタシがいなきゃ今頃どうなってたんだか。」

「うっさいわね!?小夜たちが来なきゃあんたそのまま犬死にだったじゃない!危機管理足りてないのはどっちだって話よ!?」

「あ!?それが命の恩人に対する態度か!?」

「だから真珠がいなきゃ全員消し炭だったでしょうが!命の恩人は真珠なんだけど!?」

 

顔を突き合わせ言い合いを始める二人。

これもまた安心感を覚える平和な光景だ。

一度は私が消そうとしてしまった、幸せのカタチ。

彼女たちを守る為と言い訳して、信じられなかった私が全面的に悪い。

正体を知っている人間がいるかもしれないと考えることもしなかった。

予想外の事態に、自分でも分からないくらいに動揺していたらしい。

 

「真珠、ミューゼルは...エリカさんたちはどうだったの?」

「みんなすぐに退院出来るって。エリカだけはもうちょっと検査が必要みたいだけど。」

 

あの戦いの後、観客たちはすぐに回復したものの、身近にいたメンバーとエリカさん本人はダメージが大きく、病院のお世話になることに。

少なくともロコ=真珠であることを知られているわけで、その辺りの確認も含めてお見舞いに行ってもらったんだけど。

 

「エリカさんたち、全員()()()()()()()()()のよね?」

「...ええ。ここ最近の活動も、真珠のことも一切知らないって。ついでにエリカにはヴァーツを知ってるか聞いてみたけど、魔法少女関連の記憶も残ってないみたい。」

 

非常に長期に渡る記憶操作。

始めからそういう仕組みにしていたのだろうか?

犯人は一人しか思い当たらないが、いったい何故こんなことを?

エノルミータへの刺客ならJ.S.Tで十分なのは証明されているし、エリカさんのトランスアイテムから漏れ出ていた、黒いモヤについても気になる。

 

「でも、エリカとはまた友だちになれたわ。事情を知らないとはいえ、ぱあるのライブを褒めちぎってくるのはちょっとやりにくいけど...。」

「健全なファンを持てて良かったわ。」

 

話を聞く限り、エリカさん自体に今回のような"病んでる"動きをするような精神的問題点はないようだ。

はるかにも似た優しい性格みたいだし。

それをあんな狂行に走らせるなんて、ヴァーツの狙いはいったい...?

 

「んなことより。小夜、お前アタシらに言うべきことがあんだろうが。」

「え?」

「そーよそーよ。ちゃんと言わなきゃロードさまみたいに裏切っちゃうかもしれないし~?」

 

自信満々かつ意地悪な顔で私を壁際に追い詰めるたまネモ。

うてなだけ慌てた様子でキウィに止めるよう呼び掛けているが、本人はポテト片手にクリームソーダを楽しんでいる。

何だかんだ、キウィも今回のことは思うところがあったようだ。

助けはないと腹を決めて、パーソナルスペースを侵す二人に向き直る。

 

「あなたたちを信じ切れなくて、本当にごめんなさい...。」

「誰が足手まといだって?」

「役立たずとも言われたわね。これってハラスメントじゃない?」

「えっと...その。」

「ちょーつよい真珠たちに何か言いたいことは?」

「勿論あるよなァ?ルシファアズール様にはよォ?」

「こ、こんな強くて頼りになる仲間を持てて幸せです!本当にありがとうございましたぁ!」

 

どっちが上司なのか分からない攻めに、ドMらしく私は頭を下げる。

やはりエノルミータは本質的にSの集まり。

二人は満足そうに微笑んで、私を壁から解放する。

 

「ま、許してやっか。」

「真珠の顔も三度まで。もっかいやったらマジで絶交よ。分かった?アズールさま?」

「ひゃい...。」

 

一回しか許してくれないんじゃん...。

文句を言うことも出来たが、ここは空気を読んで黙っておく。

私が悪い。

反省してます。

これを弱みに足の感覚がなくなるまで正座させられたり、椅子代わりに使われたり。

どんな辱しめが待っていても私は決して逃げたりしないわ!

 

「どうぞお座りくださいっ///」

「え、何...?何のスイッチが入ったわけ...?」

「こらぁたまネモ!!小夜ちゃんの調教はアタシとうてなちゃんだけの特権なんだが!?クビなんだが!?」

「知らねぇよ!?出戻りした瞬間にクビにすんなこのアホ上司っ!」

 

私のご主人様権を巡って熾烈な争いが繰り広げられる中、上機嫌になった真珠が再びマイクを手に取る。

 

『スーパーロコ誕生記念に今日は歌い倒すわよ!喜びに咽び泣きなさいよね!』

「おい真珠。」

『ぁによ?』

 

キウィを引き剥がしたネモが真珠の目の前に移動。

真剣な表情で真珠を見つめる。

 

「何で履いてんだ?」

『ギャアアアァァァーーっ!?!?///』

 

次の瞬間。

スルッという布擦れ音と共にパンツがズリ下げられる。

真珠の飛び上がりも想定した完璧なパンツ脱がし。

私じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

『な、なななななっ!?///』

「歌うなら脱がなきゃダメだろ。"推し"には出来るだけ最高のパフォーマンスをしてもらわなきゃな。お前の、一番のファンとしてはさ。」

『ーーッッ...!!///』

 

屈託のない笑顔でパンツを指で振り回すネモ。

善意と愛情100%のとんでも行動に、真珠は二重の意味で赤面し、右手を思い切り振りかぶる。

 

『こんのっ...ばかねもぉぉぉっっ!!///』

 

パシン!と渇いた音がマイクに拾われ、真珠の絶叫と共に店全体を震わせる。

今日何度目かの耳鳴り。

身体に響く不快感に青ざめながら、心の方は戻ってきた日常に安らぎを覚えるのだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

◼️□Next episode◼️□

 

「いけないことだって分かってるのにぃ...!でもだめぇ!こんなの我慢出来るわけなぁぁいっ!私の"天職"見つけちゃったぁぁ!!♥️」




次回投稿は1/4(土)0:00を予定しています。
皆さん、よいお年を。
まだ見る気が残っていたなら、また来年お会いしましょう。

【1/3追記】リアルが忙しくて更新を1/11(土)0:00に延期します。
待っている方がいたら申し訳ないです。
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