魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~ 作:月想
休んだからといってクオリティは上がってません←
流し読みしてどうぞ。
「ようこそいらっしゃいましたわ!小夜様!うてなさ」
「この変態エロメガネがぁっ!!!!」
「プゲェッ!?」
どや顔で階段から降りてきたド変態メガネこと百花さん目掛けて、持参した粗品を投げつける。
狙いは正確無比、寸分違わず顔面ど真ん中に命中する。
「いきなりひっでぇですの...。」
「非常識なのは知っていましたが、まさかここまでとは。」
「わたくしの最大限のおもてなしですのよ!?いったい何がそんなに不満」
「何で
玄関の扉から大広間までズラッと並んだメイドさんたち。
淀みなく居並ぶその一人一人、全員が同じように"全裸"だった。
かろうじて装飾品だけは付けているので、メイドであることだけは分かったけど。
百歩譲って、百花さんが全裸なのはいい。
最早ツッコむのすら面倒だし。
ただ、流石に初対面のメイドさんたちまで裸なのはまずい。
本物のメイドさん自体珍しいというのに、全員美人で可愛いときた。
そうなれば当然、思春期真っ盛りのあの子は分かりやすい反応を返してしまうわけで。
「しゅ、しゅっごい...///」
「あー!?ダメダメあんなの見ちゃダメ見るなら私を見てほら好きなだけおっぱい見ていいからっ!?」
「むがごぉっ!?///」
鼻血を垂らして目の前の光景を脳内保存しようとするうてな。
独占欲A+を発動させ、私はだらしない彼女の顔を思い切り自分の谷間に埋める。
暑いからと小夜らしくない露出度が高めの私服でよかった。
これならきっと"悩殺返し"で全裸インパクトを相殺出来たはずだ。
「さようてたまんねぇ...♥️」
「いいから早く服を着せてください。帰りますよ?」
「全裸こそ当家のしきたり!客人とはいえ一度足を踏み入れたのならば、お二人も全裸になって頂きますの!!」
「帰りますね。みち子に言いつけますから。」
「ま、待ってくださいましジョーダン冗談ですのよまったく小夜様ったらお堅いんですからぁ~!?!?」
ギャグ漫画みたいな動きで私の足元へ転がり込んでくる百花。
さんはもう付けなくていいかもしれない。
とりあえず、止める前に早く服を来て欲しい。帰るにしても、帰らないにしても。絶対に今日チクろうと決意する。
「はぁ。来るんじゃなかった...。」
説明が遅くなったが、ここはパンタノペスカこと桃森百花のお屋敷。
どこに出しても恥ずかしくない(はずの)、桃森グループの"大豪邸"である。
―――――――――――――――――――――――――――――
「ほ、本当にすごいお屋敷ですね。
お屋敷は...。」
「おほほ。聞こえてますのよ?」
「強気にならないでください。
敬語止めますよ?」
「すんませんですの...。」
たっぷりと私のおっぱいを堪能した...もとい記憶のリフレッシュを終えたうてなと並んで、お屋敷を(服着てる)百花さんに案内される。
豪奢な装飾に高そうな絵画や石像。
目の前の知人が間違いなくお金持ちのお嬢様であることを証明する品々だ。
変態だけど。
「それにしても、少しお会いにならなかった間にまた一段と仲良しになられましたわね。見ていて大変微笑ましいですわ。」
「えっ。あ...その...///」
「茶化さないでください。百花さんが言うと素直に喜べないんですよ。」
「照れちゃってもうこのこの~!ですわ。」
「雑に語尾を付けないでください。」
以前、"是非遊びに来て欲しい"と百花さんから誘ってもらったことがあった。
夏休み後半から色々とあり過ぎてついタイミングを見失っていたのだが、この度ようやっとお互いの予定が合ったというわけだ。
ちなみに、うてなは私が誘った。
少しでも一緒にいたかったし、百花さんの家で"見せてもらえるはずのモノ"について、うてななら私と同じくらいに喜んでくれると思ったからだ。
キウィは微妙な顔しそうだから今回は別行動で、ナハトベースでお留守番。
今頃不用意な発言でお団子の二つや三つを穿たれていることだろう。
「さあ、着きましたわよ。改めてようこそ、
「「こ、これは...!?」」
バタン!と大仰に開かれた扉の先には、まさに"至宝"とも言える品々が待ち構えていた。
「レオちゃんにアリスちゃん...!?こんなの発売されてないのにっ!?」
「当然ですわ。全てわたくしが作製した魂の
8分の1スケール程で形作られた、ヒロインたちを模したフィギュアたち。
現実で何種類か売られているトレスマジアは勿論、そもそも商品展開すらしていないレオやアリスたち、イミタシオまでもそのラインナップに加えられていた。
形やスタイルは市販品と見紛う程に精巧。
彩色に至るまで職人技と言わざるを得ないレベルで仕上げられている。
「あー!?しゅしゅしゅごいこれアズール!!アズールはアズールでも"マジアアズール"だぁ!?///」
「人伝に聞いた話から想像で作製させて頂きましたわ。魔法少女は通常衣装が共通で"オレが考えたさいきょーのまほうしょーじょ"が出来てアガりますわね。」
「また勝手にそんなものを...。」
人伝ってどう考えてもみち子発だろう。
色合いが予想しやすいからか、前世で見たマジアアズールにそっくりだ。
自分が変身してると実際どんなのか分かり辛いんだよね。
「ふむ。このレオ、なかなか再現度が高いお尻ね。...えっちじゃん。」
「ブーメランパンツ最高ですの。」
帰ったらとりあえずキウィをぎゅっとしよう。ちょっとムラっとしたので、健全に発散しなくては。
順々に百花先生の作品を眺めていく私に対して、うてなは他そっちのけでマジアアズールとルシファアズールのフィギュアに釘付けになっている。
満たされる独占欲。
ハーレムアニメの主人公のハートを射止めたヒロインは、みんなこんなに爽快な気分を味わっていたのだろうか。
自然にニヤニヤしてしまう。
...ただ、当たり前のようにスカートを覗こうとしないで欲しい。
丸出しや露出強と違って一応下半身のガードは固いアズール。
実は下着がふんどしチックだったりして、普通のパンツより恥ずかしいのだ。
魔法少女の方の真化形態がなくてよかった。
「し、市販は!?市販はいつになりますか!?///」
「お金目的ではないので予定はございませんの。」
「そ、そんなぁ...!?」
喉から手どころか身体まるごと出そうな程フィギュアを凝視するうてな。
手に入れる方法がないと知り、全身でガックリと項垂れてしまう。
精巧なガレージキットを見た時のヲタクの反応に近い。
「売りはしませんが、プレゼント致しますわ。」
「へ...?」
「以前、うてな様には大変お世話になりましたもの。また作ればいいだけのこと。そちらのマジアアズールは差し上げますわ。」
「......か、神ぃぃ!!///」
百花先生のありがたい施しにうてなは興奮しながら平伏する。
どうやら新しい信仰を得てしまったらしい。
私もベーゼちゃんを貰った時そうだった。
作り手の中身が残念過ぎて、一日も持たなかったけど。
「つきましては次作の為、お二人のあんなところやこんなところの取材をさせて頂けますと」
「私たちに出来ることなら何でもします!!」
ん?今何でもするって言った?
しかも食い気味で、ナチュラルに私の分までOKしたし。
まず間違いなく裸にされる。
今日はこの全年齢(?)向けフィギュアではなく超秘蔵の丸見えセクシーなヤツが目的だったのだが、私たちが丸見えになっては仕方がない。
適当に誤魔化して帰るとしよう。
そう思って入り口までの距離を確認していると、見知った面々の中に一つだけ
「百花さん、これは?」
「?...あぁ、それは。」
百花さんにこれが誰か聞いてみると、ニコニコとした表情に少し影を落としてしまう。
共通の魔法少女衣装のカラーリングは、アズールに近い青。
優しげな笑顔を浮かべながら、それに似合わない身の丈以上の斧を携えている。
肩までで切り揃えた髪の色と雰囲気が、どことなく百花さんに似ている。
...待った。
まったく見覚えがないわけじゃない。
あれは確か、パンタノペスカのカップリング放送をみんなで止めに行った時だ。
彼女の悪夢から生成されたゴーレムが、この魔法少女とよく似ていた。
「彼女は、"マジアシアン"。わたくしの妹ですわ。」
「百花さんの妹!?」
「妹さんも魔法少女だったんですね。」
「ええ。と言っても、
「以前...?」
シアンのフィギュアを持ち上げ、愛おしそうにその頭を撫でる百花さん。
うてなも知らない魔法少女で、百花さんのこの意味深な様子。
何かしらの悲劇があったと察するのは簡単だ。
「お二人になら、話しても問題ありませんわね。...聞いて頂けますか?わたくしの妹。"桃森
―――――――――――――――――――――――――――――
「おねーさま!わたくしもつよくてやさしいまほーしょーじょになりたいですの!」
あるところに、みんなを助けるヒロインを夢見る少女がおりました。
少女はお金持ちの家に生まれ、大変恵まれた容姿を持ちながら、それを決して鼻に掛けたりしない真っ直ぐで優しい性格をしていました。
生き物に優しく、花を愛で、人を見捨てないそれはそれは素晴らしいお嬢様へと成長していきました。
そんな彼女が魔法少女というフワフワした夢を忘れかけ、現実的に人を救うボランティアに興味を抱いていたある日。
「ワタクシが、魔法少女に...ですの?」
「はい!あなたのように優しく心の強い方が必要なんです!」
どこからともなく現れた、まるで善良を絵に描いたような喋る白いマスコット。
彼が彼女を、かつての夢に引き戻してしまいました。
「魔法少女...でもそれは、危険ではありませんの?」
「危険でも...ワタクシ、誰かの力になりたいんですの!それがこの家に生まれたワタクシの、"ノブレスオブリージュ"ですわ!」
少女は彼女を心配する姉を説得し、それが自分の何よりの願いだと言い放ちました。
姉はそれでも止めて欲しいと思いましたが、かつて幼い彼女が口にした夢を思い出し、ついには許してしまうのでした。
「わたくしの分まで、どうかあの子をよろしくお願い致しますわ...!」
「え、ぁ...あたし...その...あたしなんかで、よかったら...。」
姉は偶然、クラスメートに魔法少女がいることを知り、彼女とその仲間たちに新人である妹の面倒を見て欲しいとお願いしました。
彼女たちもまだ経験の浅い魔法少女でしたが、だからこそ初めてだらけの辛さはよく分かります。
彼女たちは快諾し、無事少女には4人もの仲間が出来ました。
「シアン、後ろ...!」
「感謝致しますわ!」
マジアシアンと名付けられた少女は、小規模ながらも街の平和の為魔物たちと戦い続ける日々を過ごします。
恐いことや痛いことがあっても、少女はその日常が幸せでしかたありませんでした。
やっと叶えた夢、誰かの為の力。
たとえその力が強くなくとも、みんなで築いていく平和。
彼女にとってはそれが、何よりの"誇り"だったのです。
「あがぁぁっ!?!?」
「ノワール!?そ、そんな...!」
しかし、それも長くは続きませんでした。
"魔法少女狩り"。
巷で噂が流れていた、悪の組織エノルミータの幹部による、無差別な魔法少女襲撃事件。
注意自体はしていたものの、彼女たちにとってそれは"災害"。
さほど強力でもない魔法少女の彼女たちには、とても抗えるものではなかったのです。
「ノワール!ノワール、しっかり...!!」
「歯応えのない連中だ。」
「!?」
完全に気を失った仲間。
変身アイテムが飛び出して、転がっていく先にいたのは、絶対的力を持つ悪の総帥でした。
「な、なんで...こんなっ...!」
「何故、だと?」
「ひっ...!?」
震える声で問い掛ける少女に向かって、ロードは応える姿勢を見せます。
凄んだわけでも、威圧しようとしたわけでもない彼女に、いつの間にか少女は恐怖し悲鳴を上げていました。
「"弱いから"だ。正義を騙るには脆すぎるその力。
「ぁ...っ...ぁあ...っ」
全ては弱いお前のせいだと、ロードエノルメは少女を見下ろしたまま興味なさげに言い放ちます。
そして、足元のトランスアイテムを見つめて。
何の感慨もなく、無情にも足で踏み砕いてしまいました。
少女の希望や夢、誇りと共に。
「ぃや...ぅ、うわあぁぁぁ!!!」
「あ、ちょっと!...アイツ仲間見捨てて逃げちゃったわよ?」
「しゃーねぇだろ。こんだけ一方的にやられたらよ。」
「トランスアイテムの回収がまだですがぁ~...?」
「...よい。捨て置け。潰す価値もない類いだ。」
気付いた時には、少女は必死にその場から逃げ出していました。
倒れ伏す仲間たちを置いたまま、ただ恐怖に支配され。
逃れようと走って、走って。
いつの間にか変身は解け、夢を叶えてくれた魔法のアイテムは、見る影もなく真っ黒に変色してしまっていました。
「心梅...?聞こえていますわよね?一緒に食事をしましょう。今日はあなたの大好きな」
「ほっておいてくださいまし...!ワタクシは...ワタクシは弱虫の卑怯者ですわ...!!」
それ以来、彼女は部屋に引き籠り、延々と自分を責め続けました。
姉の思い遣りも、最早傷ついた少女には届きません。
後から聞いた話ですが、彼女の仲間だった魔法少女は一人を残し、全員が魔法少女を辞めてしまったらしいのです。
心を手折られたのは、少女だけではありませんでした。
姉は毎日毎日、少女に扉の外から声を掛け続けました。
やがて返答がなくなるどころか、扉の前の食事すらなくならない日が2、3日続き。
このままでは命の危険もあると思い、無理矢理扉を抉じ開けることにしました。
鍵は、かかっていませんでした。
「心梅...?心梅、どこにいますの?...?」
部屋のどこにも少女の姿はなく、代わりにあったのは一枚の書き置きだけ。
そこにはただ一言、こう書かれていました。
『弱くてごめんなさい。』
それからしばらく経った頃、姉は少女と再会しました。
姉は魔法少女になり、彼女を傷つけたロードに仕えていました。
少女はその事実に悲しむこともせず、ただ憎悪の咆哮を上げ復讐に身を落とします。
優しく美しかった少女。
その身も心も変わり果てて、少女は魔法少女ではなく。
憎しみに囚われた、恐ろしい獣となってしまいましたとさ。
―――――――――――――――――――――――――――――
「なーんて。我ながら分かりやすい説明でしたわね。絵本調なのが取っつきやすくてナイスですわ。」
おどけてみせる百花さんだけど、とても笑って返せる内容じゃなかった。
一人の優しい女の子が、理不尽に傷つけられ絶望する物語。
しかも、よりによってあの
直接ぶつかったわけじゃないけど、以前それらしきものが戦場にいるのは確認していた。
まさかあれが妹さんだったなんて。
倒したはずの脅威の再臨に、私も小夜ちゃんも沈鬱な表情を浮かべる。
「あの...百花さん。私、どうしても気になることが。」
「何ですの?わたくしのスリーサイズでしたら」
「何で...何でそんな体験をしたのに、みち子さんと一緒にいられるんですか?」
控えめに考えても、イミタシオは妹さんの仇と言っていい。
一度小夜ちゃんを目の前で失った私だから分かる。
到底許せるわけがない。
それなのに、彼女はその仇と笑い合い、あまつさえ救って欲しいと嘆願までしてきた。
みち子さんも真に悪人でないのは分かっているが、百花さんには復讐する権利があるように思える。
本当に罪を許したのか、それとも...。
「...ぶっちゃけますと、最初は憎んでおりましたのよ?みち子様は勿論、虜になった蘭朶のことも。」
「最初は復讐するつもりだった...?」
「復讐と言いますか、側にいれば心梅がいつか現れるのではないかという打算がありましたの。あの子が現れた時に、二人を後ろから始末してやろうと。」
穏やかな表情のまま、みち子さんたちへの憎悪を百花さんは語る。
ただ、"今は違う"といったような言い回しだ。
「でも、ある日見てしまったんですの。自分を始末するように話すみち子様と、それを否定して自らの愛を示す蘭朶の姿を。」
以前、みち子さんの記憶を覗いた時を思い出す。酷く歪な告白だったけど、あの時確かに二人はお互いの心をさらけ出していた。
「偽りのない涙を流していたみち子様を見て、わたくし思いましたの。"仕方なかったんだな"と。」
「仕方、ない?」
「享楽で妹を傷つけたのではなく、そうしないといけない理由があったと。きっと、わたくしがその立場なら同じことをしていたような。赤の他人を犠牲にしてでも、やらないといけないことがあるのだと。まあ、直感ですわね。」
「っ...」
何か思い当たる節があるのか、小夜ちゃんが少し驚いた様子で百花さんを見つめる。
「だから、ちょっと力を抜いて接してみることにしましたの。そしたらこれがまた楽しくて、温かくて。本当に元エノルミータ総帥なのかと思う程でしたわ。」
みち子さんの心には、しっかりと百花さんの姿もあった。
時に酷く扱うこともあるけど、彼女たちは確かな絆を育んでいると分かる。
「仇の側が居心地いいなんて、正しいわけがありませんわ。でも、わたくしもう復讐する気なんてありませんもの。わたくしはやりたいようにやりますわ。優しい、自慢の妹の姉として。胸を張れる生き方をすると決めておりますから。」
「百花さん...。」
そう"すべき"より、そう"したい"を優先する。欲望に忠実な彼女らしいけど、今日はそれがすごく立派に、輝いて見えた。
きっと小夜ちゃんも同じように思っていたと思う。
「...好き勝手するダメな姉ですから、躊躇いなく攻撃されてしまうんでしょうね。」
「そんなこと」
「そんなこと絶対にないわ。」
百花さんの自虐を否定しようとすると、小夜ちゃんとタイミングが被る。
気持ちは同じ。
小夜ちゃんに言葉を任せて静かに会話を見守ることにする。
「そこで踏み止まれるのは、百花さんが本当の意味で強いからです。立派なお姉ちゃんだと思いますよ。」
「小夜様...。」
シンプルだけど、何か確信の籠った励ましの言葉。百花さんはメガネを外して一度瞳を拭うと、先ほどより更に明るい笑顔になる。
心梅さんを救出する為に、私は私の出来る精一杯の協力をしよう。
魔法少女を夢見た者同士、決して見捨てることなんて出来ない。
どれだけ深い絶望に落とされても、命がある限り必ず希望は繋がるはずだ。
物語をバッドエンドで終わらせない為に、魔法少女は生まれるのだから。
「お二人とも、ありがとうございますわ!」
「私たちに出来ることなら何でも協力しますよ!そうだよね、小夜ちゃん?」
「ええ。みち子で遊べなくなるのは困るし。」
「感謝感激ですわ!それではまず採寸から致しますので全裸になってくださいまし!」
「台無しですよ。」
「一回しばかれなさいこの変態姉メガネ。」
―――――――――――――――――――――――――――――
「ってな感じで、真珠たち超大活躍だったわけですよ~。」
「また一段とカッコよくなっちまったっていうか?今ならロード様でも簡単には倒せないと思うぜ?」
「むしろ真珠勝っちゃうかも?ロードさまをロードさまって呼ぶのは今日限りで卒業かしらね~!」
「それな。いや~長いこと世話になりましたロード様。じゃなくて店長。」
「は や く ど け 。」
怒りを必死にこらえる為、スキャナーを握り潰さんばかりにギリギリと握り締める。
例によってバイト中に押し掛けてきたエノルミータのバカ二人、阿古屋と姉母だが。
先ほどから周りを気にせず自慢話を長々と続けるだけで、何も買おうとしない。
接客の邪魔だし、ついでに話す内容も敬意に欠けていて非常にムカつく。
バイト中でなければ剣の錆びにしているところだ。
「冷てぇな店長~。アタシら昔のよしみでちゃんと報告に来たんすよ~?」
「そうですよ?仲間にしたいとか言ってたし、真珠たちの近況知りたいだろうと思ってわざわざ買うものないのにコンビニに寄ったんですから。」
「ほう。ならば貴様ら客ではないな?さっさと失せろ。仕事の邪魔だ。」
「みち子ちゃん!お客様はお客様だからー☆お客様にその口調はNGっしょー☆あとスマーイル☆」
「はいすみません店長ー!!!」
く、くそっ...!
店長の手前、手荒な真似はできんか!
露骨にニヤニヤしおってからにこのクソガキ共。
これでは悪の組織ではなくただの"悪戯悪ガキ集団"ではないか。
やっぱり仲間にするのやめようかな...。
「てなわけで、無事二人とも真化しましたんで。」
「はぁ...そうか。少しはマシになったようだな。」
営業妨害に耐えながら、やっと迎えたバイトの休憩時間。
結局、簡単な食事を買ってフードスペースに居座ることにしたたまネモ。
無視することも出来ず、仕方なく報告とやらを聞いてやることになってしまった。
貴重な休息をコイツらに邪魔され、甚だ不愉快である。
「マシどころか超強化ですって。
今ならトレスマジアは余裕だな。」
「トレスマジア"は"か。舞い上がりつつも、自分たちの立ち位置は理解出来ているわけだな?」
「それは...まあ。」
これでエノルミータは杜乃を除くメンバーが真化を会得した。
それは喜ばしいことかもしれないが、現状があまり変わっていないことは憂慮すべきだろう。
戦力が増強されてなお、例の魔法少女チームが引き上げた様子はない。
予断は許さない状態というわけだ。
「それで?私を裏切った甲斐はあったか?」
「......はい。」
「いたいからいるってだけよ。真珠がいないとアイツら日々の潤いがないだろうし?」
「悪の組織に正しい理由なんて必要ない。バカで自分勝手なことに全力を尽くす。悩むことなんてない。それでいいんすよね、ロード様。」
「...そうか。」
まだまだ子どもだが、いい顔をするようになった。もう心配は無用だろう。
らしくないアドバイスをしてしまったが、無駄にはならなかったようだ。
「あの。あれから、シスタとは...?」
「捜しているがまったく足取りが掴めない。元から秘密が多い女だったからな。」
「大丈夫ですか?何か、色々衝撃的でしたけど...。」
「彼女が複雑な立ち位置なのは当時から察していた。まあ、流石にヴェナを殺すのは意外だったが。」
二人もかつての同僚の正体や思惑が気になるということか。
シスタに会おうと暇な時間で街を捜索してはいるが、何のヒントもなしに見つかる程彼女は馬鹿ではない。
せめてヴェナが生きていれば問い質せるのだが、目の前で殺害されている以上それは望むべくもない。
「...待て。何故私を心配する?シスタはただの元部下だ。取り乱すようなことは何も」
「またまた~。真珠たちこういうのには敏感なんですよ?」
「何の話だ?」
「だって店長、シスタに"ホの字"なんすよね?」
「何故そういう話になる!?///」
後何故表現が微妙に昭和なのだ!?
常識とでも言いたそうな顔で私の秘めてるつもりの感情を読むな!?
「だって、ねぇ?」
「シスタに対する態度とアタシらに対する態度結構違ったもんな。」
「わ、私は差別したつもりは...」
「『ご苦労だった。』の表情が違うのよね。なんて言うの?シスタの時だけ爽やかって言うか。」
「今の真似結構似てた。ツボる。」
「モノマネアイドルの可能性が拓けたわね...。」
完璧な悪のカリスマ演技をしていたはずなのに。コイツらが聡いのか、私が初なのか...。
まさかシスタにまでバレてはいないだろうな?もしバレていたら今までのあれやこれやで『フッ...お可愛いこと。』と心の中でほくそ笑まれていた可能性が!?
「シスタはシスタで嬉しそうにしてたしな。」
「だから余計にわかんないのよね。ロードさまから離れてあんなことしてるのは。」
色々と言い訳したいところだが、これ以上話せばボロを出しまくるのは以前の水神との会話で学習済みだ。
身悶えしたくなる回想は封じ込めておこう。
「...まあ、お前たちに言われなくとも、彼女の真意は必ず確かめる。言いたいことが山ほどあるからな。」
「告白とかですね、ロードさま。」
「いい加減ガールズトーク気分をやめろ。あとイミタシオだ。」
「応援してますからね、店長。」
「ニヤニヤしながら言うな。そして店長じゃなくてバイトだ。」
コイツら楽しんでいるな?
どうやら以前までの恐怖を完全に忘れてしまったらしい。
ここで始末しておくか。
「でもいいんすか?ヤンデレっぽい彼女がいるのに。」
「蘭朶は彼女ではない。大切ではあるが。」
「そーゆうどっち着かずな感じが、妙に小夜に似てんのよねー。恋人からしたら立派に浮気ですよ、それ。」
「だから恋人ではないと言っているだろうが!?」
よりによってあの変態女と同じ扱いだと!?
いよいよドタマに来たぞロード様プッツン来てしまったのだが!?
私はあの性欲SM女とは違う!
やっぱり始末しよう!
健全に清々しくその心をぶち折ってくれる!
そう思って立ち上がった時だった。
「見つけましたわ...。」
「あ...?」
いつの間にか私たちの後ろに立っていた、綺麗な服装の少女。
高そうな服に対し、少女の髪はボサボサに逆立って、その顔も色濃い隈や血走った目が目立ち、元の容姿がかなり歪んでしまっているような印象を受ける。
少し遅れて、気付く。
私は彼女を知っている。
正確には、その面影から連想される人物を知っている。
そして何より、この異様な力。
忘れたくとも忘れられない、
"呪い"が籠ったこの瞳を、私は知っている。
「ロードエノルメ...!!」
「伏せろっ!」
突如少女の腕から放たれた黒い魔力の刃。
呆けていた二人を抑えてギリギリで回避する。
頭上を掠めた魔力はそのまま窓を破壊し、コンビニに痛々しい爪痕を残す。
「な、なにすんのよアンタっ!?」
「狙いは私か...!貴様らはそこでじっとしていろ!もしくは逃げろ!」
「ちょっ!?店長ー!?」
これ以上バイト先に迷惑はかけられない。
狙いは明らかに私で、蘭朶の時と同じ感覚。
たまネモをその場に置いたまま、コンビニから全速力で離脱する。
二人の正体までバレている可能性は危惧したが、少女は目論見通り私を追ってくる。
姿が魔法少女へ変わり、そして次第に真っ黒な影に覆われていく。
話には聞いていたが、やはりマジアシアン。
否。
「
一度は討ち果たしたはずの、私の罪。
以前は水神に託してしまったが、今度こそ私の手ですべて終わらせてみせる。
懺悔は友人の妹を取り戻してからだ。
そう決意し、ハート型のトランスアイテムを構える。
『
「真珠!小夜に電話!」
「もうしてるわよ!!」
―――――――――――――――――――――――――――――
「小さい分まさに獣の速さだな...!」
全速力で飛行するイミタシオに対し、地上から絶え間なく攻撃が加えられる。
縦横無尽、予想外の速度と位置で迫り来る一撃に、イミタシオの頑強な鎧と精神は着実に削られていっていた。
「まだだ...!応戦するには街が近過ぎる...!」
体に傷が出来るのにも構わず、彼女が攻撃ではなく移動に注力するのには理由がある。
かつての獣との戦いでは街に必要以上の大きなダメージを与えてしまっていた。
以前は逃げる暇もなかったが、今回に関しては違う。
なるべく人気のない場所へ誘導し、そこで決着を着ける算段だった。
「ぐっ...!」
振り向き様に魔力刃を魔法殺しの大剣で迎撃してみるが、期待通り霧散することはなく実体のような重みを鈍くイミタシオに刻み込む。大きさの割にかなりの威力で、まともに相手してはジリ貧になるのは明白。
やはり、相手は憎悪の獣。
呪いの力は姿を変えても尚健在らしい。
「こんなものですの?見ない間に随分と落ちぶれましたわね、ロードエノルメ!」
「ちっ...!」
言い返したい気持ちを抑え、更に速度を増して街外れの森を目指す。
離れれば離れるほど仲間たちは遅れ、その分不利になることは分かっていた。
しかし、元よりイミタシオに援護を待つつもりなど毛頭ない。
アズールたちは勿論、ベルゼルガ、特にパンタノペスカだけはこの場に間に合わせるわけにはいかない。
彼女には変わり果てた妹の姿を見せたくないし、仲の良い姉妹が殺し合うことだけは、どうしても今のイミタシオには許せなかったのだ。
そもそも全ては自分のせい。
シアンのことは、以前ペスカ本人から話を聞いていた。
姿をくらませたことも、魔法少女狩りが原因であったことも。
"憎まれている"と思っていた。
いつもふざけて好き勝手行動しているのは演技で、時が来たらペスカに裁かれるだろうという覚悟はあった。
それなのに、彼女は自分の傷も恥も構わず敵であるアズールたちを頼り、自分たちを救ってくれた。
そんな"姉"として自分より遥かに優れていると思える百花に、改めての謝罪と感謝を。
今日こそそれを果たしてみせると、みち子は自分を奮い立たせる。
「ここならば...!」
漸く辿り着いた森林地帯。
ここなら邪魔も犠牲もないと判断し、体勢を一転させ攻撃をまとめて弾き返す。
「自然に葬られるのがお望みですのね!」
「違う。部下に恩を返すだけだ!」
大剣を力強く大地に突き立て、目の前に駆け迫るシアンを真っ向から睨み付ける。
魔法少女の衣装はボロボロで、手足部分は引き千切ったような形で露出。
生身の部分を影が包んで狼のような鋭い爪を形成し、頭は大きな獣の口から僅かに見えるだけ。
小柄な少女の体に無茶苦茶な大きさの影が纏わりつき、酷く歪な怪物の姿となっていた。
『
黒い鎧を脱ぎ捨て、白く輝く聖なる騎士へ。
迫り来る巨大な爪を切り裂くと、シアンの右腕を包んでいた影がまとめて消し飛ぶ。
「なんですの...!?」
「残念だったな。私は"それ"の天敵だ。」
驚愕に目を見開くシアンへ、勝ち目はないと言外に伝えるイミタシオ。
そのまま更なる一撃を加えようと追撃するが、俊敏さはまだシアンが上。
木々を足場に飛び回られ、その姿を森の中へ見失ってしまう。
「やはり不意打ちしか芸がないか。」
死角からの攻撃に警戒しつつ、シアンを、獣を挑発するイミタシオ。
全身の魔力と神経を集中させ、刹那の反撃を待つ。
「...。」
360℃を草木を蹴散らす疾駆音に包まれ、五感ではどこから攻撃が来るか分からない。
そんな時間が何分間も続く。
心を乱さず、ひたすらチャンスを待つイミタシオと、漲る憎しみとパワーに物を言わせて暴れ狂うシアン。
痺れを切らしたのはどちらか。
それは言うまでもないことだった。
「そこだぁぁ!」
「ぐぅっ!?」
後方から飛び掛かって来たシアンを、振り向きもなく聖剣が捉える。
タイミングも力も何もかもが完璧。
勝負は決したかに思われた。
「なんちゃって...。」
「なっ...!?」
刃が影を切り裂く直前。
触れ合うはずの邪悪な手応えが
獣はシアンの肉体を"スケープゴート"として差し出したのだ。
あまりに卑怯な策謀。
イミタシオは咄嗟に刃を寸止めし、何とかシアン本体を傷つけずに済む。
だが、それが決定的な隙を生んでしまった。
「うぐっ...!?」
「キャハハハ!!!」
白き軽鎧が砕け散り、鮮血が緑の大地に降りかかる。
影を引っ込めたのとは逆の腕でイミタシオの腹を切り裂き狂ったような笑い声を上げるシアン。
致命傷ではないものの、決して軽くはない傷の痛みがイミタシオを襲う。
シアンは動きを鈍らせた獲物に休む暇を与えず、先ほど以上に草木を蹴り散らして執拗な攻撃を繰り返す。
左腕、右足、背中に頬。
苦しむ姿を楽しむように、軽い攻撃を何度も何度もイミタシオに加えていく。
「く、そっ...!」
「あぁ!!さいっこーの気分ですわぁ!!あのロードを、あのクソ野郎を苦しめて痛めつけて最後にはバラバラにして何だったかも分からないようにぐちゃぐちゃに切り刻んで何もかもを蹂躙してやりますのぉぉ!!」
まさに狂喜乱舞する様子にイミタシオは自分が一つ
シアンは完全に獣に支配されているのだと思っていた。
憎しみと後悔に浸け入り、思い通りに操っていると。
しかし、実際は違う。
今主導権を握っているのは
コンビニでの行動と人里を離れた理由からみち子の内面を理解し、人間的な揺さぶりをかけてきた。
かつての獣も今のように人質を使っていたが、知恵だけでなく心で人間性を見抜かれてしまっている。
それは彼女が憎しみに囚われながらも冷静である証左。
今になって、みち子は初めて本当の憎しみというものを体験した。
蘭朶や百花から与えられるはずだった、善良な少女を化け物に変えてしまう程の衝動を。
初めての感覚に動揺し、ついには防御に使ってきた聖剣を取り落としてしまう。
「かっ捌いてやりますのぉぉ!ロードエノルメェェェ!!!」
力が抜け座り込むイミタシオの首筋に、狂乱の凶爪が迫る。
絶望の瞬間。
何かが甲高い音を響かせたかと思えば、その間へ赤黒い鎌が滑り込んでいた。
「シオちゃんに、手を出すないで...。」
「ブラン...!またワタクシの邪魔を!!」
間一髪のタイミングで現れたベルゼルガ。 怒りの形相でシアンを弾き飛ばし、イミタシオの危機を救う。
トドメの瞬間を台無しにされ憤るシアンだが、すぐに茂みに身を潜め位置を悟らせないようにする。
再び始まる森林を利用した奇襲体勢。
先ほどまでのイミタシオとまったく同じ状況となるベルゼルガだったが、死角を突いているはずのシアンの攻撃を何事もないように完璧に対処していく。
「な、何故ですの...!?何故ワタクシの位置が...!?」
「こんなの、目眩ましにもならない...。」
ついに声を上げて狼狽えるシアンに、ベルゼルガは妙にうっとりとした表情でネタバラシを始める。
心底美味そうに空気を吸い込み、頬を紅潮させて愛おしげに血の鎌を股と胸で挟み込む。
「あなたからすごく匂うの...
「っ...!?」
「え、こわ...。」
獣の全身に染み付いたイミタシオの血。
その香りを頼りに居場所を見抜いていたのだ。
興奮した様子でクンクンと辺りを嗅ぐ姿は控え目に言ってもやべー女であり、狂っていたシアンは勿論仲間のイミタシオまでドン引きさせていた。
助けてくれた好感度を軽く帳消しにしてマイナスである。
「あたしだって恨んでる...。シオちゃんに殺してなんて頼ませた、そいつのことをね...!」
「うがぁっ!?」
捕まって人質になり、最愛の人の重しになりかけた。
今も忘れぬあの時の屈辱を込め、ベルゼルガの鎌がシアンの体を切り飛ばす。
影部分を狙っても尚鋭い一撃は、シアンを大木に叩きつけ今日初めてのダウンへと追い込む。
「っ...なんで...そいつはみんなの仇なのに!何で裏切るのマジアブラン!!」
「あたしは、ベルゼルガ。今のあなたには分からない...憎しみなんかいらないの。あたしには、シオちゃんの愛だけあればいいんだから。」
「ふざ、けるなぁぁ...!!!」
あくまでもシアンへの友情や躊躇いを見せず、ひたすらにイミタシオに味方するベルゼルガ。理解出来るはずもないと吐き捨てられ、シアンはその身体に更なる憎しみを滾らせる。
「お待ちになって...!」
「...!」
「...なんだ、来たんだ。」
「なんだとはなんだですの!来ない方がよかったみたいな言い回しやめろですわ!」
再びぶつかり合おうとする二人の間に、フワリと最後の役者が舞台に降り立つ。
パンタノペスカはいつも通りのコミカルな態度のまま、最愛の妹の前に立ちはだかる。
「シアン...いいえ、心梅。いい加減にしなさい。これ以上は昔悪戯でわたくしの妄想ノートを屋敷中に見せびらかして回った時以来のブチギレを見せることになりますわよ?」
「お姉さま...お姉さままで、そいつの味方をして、ワタクシの邪魔をしますのね...。」
内容とは裏腹にその表情は彼女らしくない非常に真剣なもので、年長者としての毅然とした態度をしていた。
シアンは悲しげに呟いたかと思えば、次の瞬間には獰猛な笑顔を浮かべて咆哮。
彼女を覆う影は濃くなっていき、僅かに見えていた顔も獣の口で完全に隠れてしまう。
「シオちゃん様、ベルゼルガ。手出しは無用。わたくし一人でやりますわ。」
「ダメだ...!大切な妹なのだろう!?姉は妹を傷つけるんじゃない、守るんだ!殺し合うなんて許せるはずが」
「大丈夫ですわ。だからこそ、わたくしが戦わなくてはなりませんの。そう我が儘を言って、アズール様たちも追い払ってしまいましたから。」
助力を申し出たアズールたちに断りを入れて、パンタノペスカはここまでやって来た。
別に妹を介錯してやろうとか、そんな悲壮な覚悟ではない。
簡単な話だ。
ここには両親も、幼少からお世話になっているメイド長もいない。
ならば、自分しかいないではないか。
「悪いことをしたら、愛の籠ったお仕置きとお説教。これはお姉ちゃんの役目ですもの。」
「っ...そう、だったな...。」
笑顔のままそう語るペスカに、"失敗したなんちゃってお姉ちゃんじゃ敵わないな"、とイミタシオは心で自嘲する。
間違っていたのは自分の方だと頷き、傷ついた体を木に寄り掛からせる。
「ペスカ...手加減したら許さない...。」
「ベルゼルガのそれはちょっと洒落になりませんわね...。」
凄味のある目に萎縮しつつ、彼女なりの檄を受け取るペスカ。
普段はあまり使わない得物のハンマーを携え、今度こそシアンへと一対一で向き合う。
「お姉さまじゃワタクシには勝てませんわ...!」
「姉より優れた妹などいねぇんですのよ!!」
盛大にフラグを建てつつ、生意気な妹をハンマーで制裁しようと大振り。
当然軽々と避けられるが、反撃の凶爪を独特な慣性を利用した動きで弾き返し、回転してシアンを退がらざるを得なくする。
「そんなの当たらなければ...!」
「ところがぎっちょんですの!!」
飛び退いた先に待ち受けていたのは、地面から這い出る土の腕たち。
腕はシアンの足を掴んで動きを止め、そこに量産されたシアンを模したゴーレムたちが襲いかかる。
「わたくしはこの姿のあなたが大好きでしたわ!!」
「弱い頃のワタクシなんて大嫌いですわ!憎い...ロードよりも何よりも、ワタクシはワタクシが憎くて憎くてしょうがありませんの!!」
更に怒りを募らせて魔力を爆発させるシアン。咆哮しながらかつての自分を砕いて切り裂き、気持ち良さそうに踏み潰していく。
「ワタクシは強くなりましたの...!お姉さまよりも、ブランよりも...あのロードさえ敵になりませんわ!ワタクシ、今とってもいい気分ですのよっ!!」
「嘘をおっしゃい...!」
ハンマーに飛び付いて来るシアンをはね除け、ペスカはついに表情を険しくして妹の叫びを一喝する。
「その力は偽物ですわ!」
「違いますの!ワタクシは強く、誰よりも強くなりましたわ...!!」
「昔のあなたなら知っていたはず...。ヒロインの強さとは、即ちその想いの強さであることを!」
「想いなら、ワタクシにはこの憎しみが!」
「解釈違いだっつってんですのよ...!!」
憎悪のままペスカを襲うシアンだが、力で劣るはずの相手に決定打を与えられずにいる。
ペスカは傷を負いつつも、攻撃ではなく言葉をシアンへぶつけ続ける。
「ワタクシ知っていますの...心梅がどれだけ優しくて強い女の子なのかを。お腹を空かせた野良猫にお小遣いで毎日エサをあげたり、お友だちの悩みを自分のことのように真剣に聞いてあげたり。風邪で寝込んだわたくしを心配して、一日中看病してくれたこともありましたわね。」
「それが何だって言うんですの!?そんなの普通で、何も特別なことじゃない!そんなことよりワタクシは、魔法少女に...!」
「そう。特別だと思わずに、誰かを思い遣れるからこそ。心梅は強くて、優しい自慢の妹なんですのよ。」
「......ぇ...?」
ズブリと。
ペスカの腹を突き刺す獣の爪。
防御されると思っていたのに、ペスカはハンマーを投げ捨て自らシアンの攻撃をその身に受けた。
流れる大量の出血。
その血の温かさが、影ではなく直接シアンの腕に伝わる。
「お、お姉さま...なんで...ち、血が...!」
「あなたがなりたかったのは、
「っ...ぁ...あ...っ!」
鋭い痛みに、下がっていく体温。
そのいずれにも顔を歪めることなく、ただ微笑みながら妹を抱き締める百花。
強さとは力だけではないと、その身を持って示したのだ。
「わたくしの自慢の妹ですもの...だから...もう、大丈夫ですわよね...?」
「ごめ、ん...!ごめんなさいっ...!ごめんなさいおねぇさまぁ...!!」
涙と共に洗い流されていく憎悪。
獣の姿は次第に本来のシアンへと戻っていき、そこにはボロボロの姉を見て泣きじゃくる、ただの妹の姿があった。
「最後に...愛は、勝ちますの...。」
「ふざけている場合か!?ベルゼルガ、お前の能力なら血を戻せるな!?」
「ペスカは一回死んだ方がいいと思う...。」
「この状況でブレないなお前は!?真面目にやれ本気で死ぬぞこれ...!」
相変わらずのやり取りを開始するシオちゃんズ。一件落着と思われた。
が、しかし。
そう簡単に終わるほど、
「あ、グ...ガァ...!?』
「!?」
「シオちゃん...!」
突然苦しみ出した心梅から、先程とは比較にならない量の影が溢れ出る。
咄嗟にイミタシオ(ついでにペスカ)を庇い巨大な尻尾の殴打を受け、ベルゼルガはボールのように跳ね飛んで地面に叩きつけられる。
「ベルゼルガ...!?...漸く引き籠るのをやめたわけか、
完全に心梅を飲み込み、見上げる程の体躯を形作る呪いの塊。
翼を持つ人狼、以前の姿に限りなく近いそれは、更に鬼の角と、身の丈を超える太刀のような武器を携えていた。
まるで葬られた相手であるアズールを真似たような見た目に、イミタシオは驚愕よりも先に嘲笑が込み上げてきた。
やはりコイツは"強さ"というものを理解していない。
ただ強いだけでは決して勝てない。
それはこの世界の常識だと。
"そうやって私もお前も負けたのだ"と、ただただ笑ってみせる。
『エノルメェェ...!!!!』
「イミタシオだと何度言わせるのだこの駄犬っ!!」
立つことすら難しい消耗にも関わらず、イミタシオは声を張り上げて巨大な怪物へと立ち向かっていく。
力任せに太刀を振るう怪物と何合も打ち合い、時によろめきながらも決して退くことはしない。
真化を維持する魔力も限界に達し、徐々に鎧が消えていく。
しかし、決して剣だけは消えない。
衣服すらなくなりほぼ丸裸になりながらも、攻撃の手を休めることはしない。
これが、想いの力。
真の強さを学び、かつてこの憎悪を退けた彼女に勝てる道理など、心梅を核にしているだけの化け物にあるはずがない。
「シオ、ちゃ...」
「シオ...さま...」
『グ...ギ...!?』
満身創痍の二人もまた衣服が溶け消えていくが、それは力尽きてしまったからではない。
無意識にだが、残る魔力のほとんどをイミタシオへと送り込んでいたのだ。
偽物の魔法少女たちに生まれた、本物の絆。
それが今実を結び、最後の希望である聖剣を光輝かせる。
「これで、最後だぁぁ...!」
『エノル、メ...!エノルメェェェェ...!!!』
聖剣から放たれた光が爆ぜ、心梅を覆っていた影を丸ごと全て吹き飛ばす。
断末魔を上げて今度こそ消え去る憎悪の獣。
後に残されたのはすやすやと眠る、育ちの良さそうな少女。
と、全裸の女子三人であった。
「あ...逝く逝っちゃいますの...血がほら、ドピュっと...ア、ァ~...」
「えへ...みっちゃんの裸...脳内保存かんぺき...///」
「もうやだこの仲間たち...。」
―――――――――――――――――――――――――――――
「手出し無用じゃなかったのかしら?」
「もうっ!小夜様とわたくしの仲ではありませんの。終わった後お世話にならないとは一言も言っておりませんわ!」
「勝ち誇らないでください変態ミイラ。」
包帯まみれながら相変わらず面の皮が厚い。
この調子なら放っておいても死にはしないだろう。アリスに追い出してもらうか、出来るだけ手荒に。
「私は甚だ遺憾だがな。」
「小学生に看病されてる二十歳は少しは殊勝な態度を見せなさい。」
というわけで、ここはお馴染みナハトベース。これまた最近は医務室扱いでお馴染みのアリスのドールハウスにて。
どういうわけか、我が物顔でベッドを占領している偽物の魔法少女ことシオちゃんズ。
みんな漏れなく手傷を追っており、みち子と百花さんに関しては全身包帯で包まれ、パッと見の判別は至難の業だ。
そんなミイラ怪人となった百花さんだが、今の表情がこれまでにない程穏やかであることが分かる。
"終わった後"と表現していたように、本当に私たち抜きで問題を解決出来たようだ。
隣でスヤスヤと寝息を立てる妹さん、心梅さんを大変愛おしげに見つめている。
あの性欲魔人があんなに健全な視線を送ることがあるとは。
思った以上に立派にお姉ちゃんだったらしい。
元妹としては大変羨ましい限りだ。
ちなみに、妹とはいえ心梅さんは私より年上である。
かなり年が近い姉妹なんだよね。
「...妹が戻ってよかった。」
「みち子様のおかげですわ。」
「いい囮だったものね。」
「言い返せないのが更にムカつく...!」
元はと言えば悪役やってたみち子が悪いんだし、お礼を言われるなんて逆に困るだろう。
細やかな気配りが光る私ってば流石総帥。
空気を読んで茶化してやったというのに、みち子は神妙な面持ちに戻ってしまう。
「改めて、すまなかった。こんな私に従ってくれて...お前には、感謝している。」
「みち子様...。」
「だから、これからも一緒にいてくれると助かる。」
ビックリするぐらい真っ直ぐな感謝。
とても元ロードだとは思えない。
百花さんはそんな珍しく素直な言葉に、少し頬を赤らめながら頷く。
「それはつまりわたくしもみち子様ヒロインステークスに出走しても良いというお話ですのね?///」
「違うが。」
「百花、やっぱり死んで...。」
どうあがいても彼女たちの関係性は変わることはないらしい。
愛されているかは非常に微妙だが、これからも扱い雑キャラとして側にいることになるんだろう。
何だかんだいいチームになった。
最多メンバーを従える大幹部な私は、後方先輩面のどや顔腕組みを決めてみせる。
キウィの熱い視線が心地よい。
「それで?砕けたトランスアイテムが変だったって話の続きをしなさい。アリスの魔力は無料じゃないの。情報くらい貰わないとね。」
「フンス。」
「なのだわ。」
「話すも何も、砕けたタイミングで黒いモヤが霧散しただけだ。そもそも、"何故憎悪の獣が今更現れたのか"が問題だ。完全に倒したはずだろう?それに蘭朶の時と違い、ある程度心梅は自我を維持していた。かなり狂暴にはなっていたが...。」
倒した後にトランスアイテムが砕け、"何か"が抜けていった。
それは以前のエリカさんの時と状況が重なる。元の人格が暴走しているような言動に、らしくない狂暴性。
もしかして。
「トランスアイテムに細工を...?」
「だとして、誰が何の為に?」
「犯人なんて、状況証拠的にヴァーツしかいないでしょう?」
「理由は掴みようがないがな...。」
ヴェナさえいれば。
まさか、この世界で一番警戒していた人(?)を思って心細くなるとは思っていなかった。
ヴァーツが暗躍しているとするならば、それに対抗していたヴェナはどうなる?
私はもしかしたら、とんでもない勘違いをしてヴェナに冷たく接していたのかもしれない。
そんな後悔が過ってしまう程、今の私はアレに会いたくて仕方がなかった。
万が一生きていても、絶対にそんなこと言ってやらないけど。
「...まあ、今は気にしても仕方ないわね。あなたはさっさと怪我を治して出ていきなさい。」
「元は私の城だぞ...。」
「なら早く"側近"を迎えに行きなさい。あなたはこれからが本番でしょう。」
みち子が気にするべきなのはヴァーツでもジャスティスティールでもない。
彼女の命の恩人でありながら裏切りを続ける罪深いシスター様だ。
みち子は宙を見つめてから、気を引き締めるように眉根を寄せて頷きを返す。
「ああ...その通りd」
「み"っぢゃん"...!!!!」
「うわあぁぁ!?なんだ蘭朶近いぞ顔が恐いぞ顔がぁ!?」
シリアスに決めようとしたみち子だが、ベッド下から這い出てきた蘭朶さんに情けない悲鳴を上げてしまう。
いつの間に移動したのか。
血涙流しながら迫る姿はまさにホラー。
ヤンデレを飛び越えていらっしゃる。
「うわき...う"わ"き"...!!」
「何故そうなる!?大体私たちは付き合ってなどいな」
「み"っぢゃん"...!!!!」
「はいすみませんでしたぁー!?!?」
「いいか~こりす~。乙女心分からんとああやってたたられて死んでくんだかんな~?」
「コクリ。」
せっかくいい雰囲気だったのに、結局シリアスはブレイクされる運命にあった。
今日のところはこれで一件落着。
ちょっとくらい平穏な時間を過ごしても罰は当たらないだろう。
憐れなり、みち子。
「二股なんてかけるからそうなるのよ。」
ほくそ笑む私に、真珠とネモの視線が突き刺さった。
「「お前が言うな。」」
―――――――――――――――――――――――――――――
◼️□Next episode◼️□
「決着つけんぞ、クソひんにゅー。」
◼️character profile□
・名前 :桃森心梅
・年齢 :16歳
・身長 :お姉さまの肩くらい
・誕生日 :6/6
・好きな物 :梅干し、納豆、某有名アニメ会社の映画(日本)
・嫌いな物 :えっちなこと、もの
・最近の悩み :お姉さまみたいに大きくならないこと
―――――――――――――――――――――――――――――
次回は2/9(日)0:00更新予定です。
(2/5追記)リアルが忙しく執筆時間が取れない為、次回投稿を2/15~2/22に延期します。
更新お待ちの方には申し訳ありません。
時間は0時きっかりとなります。