魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~   作:月想

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いつも読んで頂きありがとうございます。
一日フライング投稿です。
今回の主役は満を持してあの子。
独自設定強めですが、
原作より一足先の成長をご覧ください。


第38話『桜花繚乱』

「はぁ...はぁ...っ!」

 

息を荒げ、鮮やかなピンクの髪を揺らして。

その少女は必死に路地裏を駆けていた。

つい先程まで人で賑わっていたはずの見慣れた街並み。

気付けば人どころか鳩の姿すら見られなくなっていた。

まるで別世界に閉じ込められたかのような、そんな非現実感が彼女の心を揺さぶる。

 

『グギギャ...!!』

 

もっとも、今やそれを気にする余裕は少女にはない。

身の丈を越える"怪物"。

動物とは明らかに違う異形の生物は、辺りの障害物を蹴散らしながら真っ直ぐに少女を追っていた。

正確には、()()()()()()()()()()を追っていた。

 

「ダメですっ...僕のことはいいですから...あなただけでも逃げてっ...」

「何言ってるの!?見捨てるなんて絶対にしないんだからっ!」

 

ところどころがボロボロの、真っ白なぬいぐるみ。

辛そうな声ながら少女の身を安じる、その不思議な生き物を強く抱き締め、少女は走る。

自身の限界を感じても尚、見捨てることをしようとはしない。

 

始まりは彼女が友人と別れ、親に頼まれた夕飯の買い出しに繰り出した時だった。

 

『うわぁぁっ...!?』

『な、なに!?』

 

突然頭に響いた知らない悲鳴。

耳でなく脳に直接聞こえたような声は痛々しく、少女は導かれるようにその声の主を探した。

そうして見つけたのが、傷付いた"喋るぬいぐるみ"。

驚く間もなく、次の瞬間にはあの怪物が現れた。目の前の光景が一ミリたりとも理解出来なかったが、咄嗟に少女はぬいぐるみを抱き上げ、今の今まで逃げ続けているのであった。

 

「あうっ...!?」

「はるかさんっ...!」

 

しかし、それももう限界。

体力には自信のある彼女だが、人外が相手の鬼ごっこは女子中学生の身で到底耐え切れるものではない。

ついに足を縺れさせ、ゴミ箱に倒れ込む。

 

『グルル...!』

「逃げてくださいはるかさんっ!あなたまで犠牲になる必要はありません...!」

「こんなに小さい子を置いて逃げられるわけないでしょ!?というかあたし名前教えたっけ!?」

 

すぐに立ち上がり逃げようとするが、後ろは文字通り壁。

怪物は目の前でその恐ろしい瞳を爛々とさせている。

壁と怪物に挟まれ、もう逃げられない。

だが、少女は諦めなかった。

何か方法があるはず。

最後の最後まで可能性を模索し、恐怖に折れることは決してない。

そんな少女、はるかの姿に何かを感じ取ったのか、喋るぬいぐるみはどこからかハート型のブローチめいたアイテムを取り出す。

 

「それは...?」

「これがあれば、あなたは強くなれる。だけどその代わりに、きっとこれからも辛くて恐い目に遭うことになるでしょう...だからどうか、あなただけで逃げ」

「貸して!」

「え!?」

 

自分から出しておいて躊躇うぬいぐるみの腕から、ひったくるようにアイテムを取り上げるはるか。

ぬいぐるみは予想外の反応に素っ頓狂な声をあげるが、今この瞬間にも怪物はジリジリと二人との距離を詰めて来ている。

 

「どうすればいいの!?」

「いやあの!?僕の話を聞いてください!それを使うと後戻りが」

「いいから早く教える!!」

「は、はぃ!?ただ一言変身(トランスマジア)と」

 

変身(トランスマジア)っ!」

 

ぬいぐるみを一喝し、彼女は食い気味にその呪文を口にする。

瞬間、彼女は()()()()

放つ輝きは飛び掛かる怪物を吹き飛ばし、内に漲る力がぬいぐるみの傷を瞬時に癒していく。

赤紫を基調とした可愛らしい衣装とは裏腹の、人智を超えた存在に、少女は"変身"したのだ。

 

「な、なにこれ...!?あたしの制服どこぉ!?」

「気にするのそこなんですか!?危ない!来ますよっ!」

「へ?」

『ギギャアア!!』

「キャー!?」

 

自分のフリフリした姿に動揺するはるかだったが、そんな暇を許さず怪物が再度彼女目掛けて飛び掛かる。

今度は明確にはるかを狙った攻撃。

悲鳴を上げ無闇矢鱈に腕を振ると、突然何かを切り裂くような手応えが。

 

『ギャアア!?』

「へ...?」

「その"槍"を使ってください!それがあなたの武器です!」

 

いつの間にか腕に掴んでいた、衣装に合わせたカラーリングの槍。

偶然怪物の肌を傷つけ、再度はね除けることに成功する。

ぬいぐるみに言われて存在を認知したその槍は重そうで、軽々と動かす自身の腕に猛烈な違和感を感じてしまう。

 

「あたしの、武器...。」

『グルギガアァ!!』

「...もう、恐くない。」

 

傷を負わされ怒り狂う怪物。

今度こそ仕留めるとばかりに気合いの咆哮を放ち、全速力の突進を仕掛ける。

先程までとは段違いの殺気。

だがはるかはもう、恐怖や焦りの表情を浮かべることはない。

彼女もまた全身の力を込めて、真正面に構えた槍で怪物を迎え撃つ。

 

「弱いものいじめをするあんたなんかに、あたしは絶対負けないんだからぁー!!」

『グア!?グゲェェ...!?』

 

怪物の胸に突き刺さる勇気の一槍。

断末魔の叫び声を上げて、怪物はその体を霧散させる。

 

「......はぁぁぁ~...な、何とかなった...。」

 

生き物としては不可解なその死を見届け、はるかは大きく息を吐く。

槍を見つめ、自身の手を見つめ。

自身の服装を改めて観察する。

そうして気付く。

彼女は自身が何に変わったのか、その答えを知っていた。

 

「これ...もしかして、()()()()...?」

「そうです。あなたは今日、なったんです。愛と勇気を魔法に変え、悪しきモノを打ち祓う正義の使者に。」

 

夕暮れに照らされるその姿。

桜の花びらが舞い散る季節に咲いた、奇跡の花。

その眩しさに目を細めながら、不思議なぬいぐるみこと"ヴァーツ"は彼女に始まりを告げる。

普通の少女、花菱はるかの運命は、まさにこの日に定まった。

 

「はるかさん。あなたは今日から、魔法少女。

"マジアマゼンタ"です。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「ついにこの日が来てしまった...。」

 

一段一段階段を上がる度に、身体と気がどんどん重くなっていく。

それなりの回数訪れるようになったからか、玄関から部屋まで顔パスになったのは嬉しい。

でもそれはつまり、今日お母様がちゃんとご在宅であるという現実の証明なわけで。

万が一バレでもしたら、彼女は家族会議待ったなし。

私は恥死することになるだろう。

 

「はぁ...来たわよ?」

「い、いらっしゃい!小夜ちゃんっ!」

 

ノック後すぐに勢いよく扉が開き、興奮した様子のうてなが飛び出して来る。

いつもなら最推しの笑顔に内心デュフるところだが、今日はそういうわけにはいかない。

 

「お母様がいらっしゃる日で大丈夫なの?見つかったら色々と言い訳が...」

「大丈夫!部屋には来ないでねって言ってあるから!」

「そ、そう...?」

 

それ、逆に怪しくて来ちゃうやつじゃないだろうか。

うてなのお母様がお茶目でないことを切に祈ろう...。

 

「そ、それであのっ...()()()()は...?」

「キウィに元の服を渡されてたから、用意は出来たけど...。」

 

食い気味に本題に入ろうとするうてなを部屋に押し込み、とりあえず荷物を置く。

普通に音響きそうな造りだし、変なことにならないよう注意しなくては。

 

「あ!?き、着替えるなら後ろ向いてた方がいいかな!?///」

「女同士じゃない...って私たちの関係的には微妙か。別に、平気よ。()()()()から。それに着替えたら何だかんだ覗きそうだし、あなた...。」

「の、覗かないよ!?///」

 

真っ赤な顔で言われても全然説得力がない。

見せるだけって話だけど、欲望に走ったうてなは何をするか分からない。

本当に大丈夫かな...?

不安から来る溜め息を吐きつつ、さっさと済ませようと徐に服を脱いでいく。

着て来たと言いつつ、服の構造上スカートと尻尾、首輪は後付けが必要だ。

あと耳も。

 

「それはそれで...えっち、だね...///」

「言わないで恥ずかしいんだから...///」

 

『女子学生が下にスク水や体操着着てるのってえっちじゃね?』理論はやめろ。

早速の恥ずかしさにこちらも顔を熱くしつつ、うてなの視線が突き刺さる中普通の服を脱ぎ去っていく。

そうしてついに露出した、"水色と白の斑点模様"のブラ。

うてなが息を呑むのに気付かないフリをしたまま、残りのアタッチメントをそれぞれの場所に装着する。

ああ、なんということでしょう。

清楚な優等生和風少女が、ものの数分であられもない姿に早変わり。

 

「ほら...これで、満足...?///」

「しゅごいぃ!!夢にまで見た()()()()()()だあぁぁ!!///」

 

モー、大声出したら不審に思われちゃうじゃない。

なんつって。

水月あくあとは、以前真珠の為にアイドルユニットとしてデビューした時の、私の芸名である。

今着ているのはそのデビュー曲のMV衣装。

動物モチーフの露出強水着で、かなり話題となったモノだ。

 

「か、可愛い雌牛さんだねっ!///」

「誰が牛よ!?///」

 

屈辱だわ...!

キウィや真珠は猫や犬なんてメジャーかつ安パイなチョイスなのに、私だけはよりによって"牛"。

しかも牛は牛でも雌牛。

つまり"乳牛"である。

ちちうし。

 

「恥ずかしそうにしてるあくあちゃんも可愛い...推せる...///」

「目の前でそんなこと言わないでよ...顔が熱くて仕方ないんだから...///」

 

何の因果か、うてなは私とあくあが同一人物と気付く前からあくあを気に入っていたらしく。

この乳牛ビキニと合わせて、いつか二人っきりで見せて欲しいと言われていたのだ。

あれから色々あったし、すっかり忘れていると思っていたのだけど。

うてなの執念(性欲)は私の想像を遥かに越えていた。

有耶無耶にしたかったがお化け屋敷事件の時のご褒美ということで断れず、結局その希望を叶える時が来てしまったというわけ。

 

「と、撮ってもいいかな?!///」

「勝手にしなさい...///」

 

パシャパシャと小気味良くシャッターの音が響く。

普段の様子からは想像もつかない機敏さで私の周りをクルクルしているうてな。

あんなゴツいカメラ持ってたっけ?

まさかこの為に買ったとか言わないよね?

 

「あ、あくあちゃんっ!もっと腕ぎゅって出来る!?///」

「こ、こう...?///」

「うんすっごいえっち!///」

 

素直か。

欲に走るとキャラが変幻自在なんだよな、この子。

まあ、他じゃなく私で興奮してることには悪い気はしないけど。

 

「次は後ろで手を組んでっ!///」

「はいはい...。」

「腋見せて腋っ!///」

「恥ずかしめたいの?それとも性癖?///」

 

そりゃ両方か...。

その後もうてなに指示されるまま、色々な際どいポーズをさせられ、何度も何度もパシャられて。

一時間近く経った頃、流石に満足しただろうとうてなに撮影会の終わりを提案することにした。

 

「も、もう満足でしょう...?私、早く着替えた」

「小夜ちゃぁぁん...!!///」

「きゃっ!?」

 

どうやら満足してなかったらしい。

というか、むしろ逆。

溜まりに溜まった欲が爆発し、あくあでなく小夜の名前を呼びながら私をベッドに押し倒した。

何この急展開...。

 

「ちょ、ちょっと!?何をするのうてな!?」

「のみ、たい...///」

「へ...?」

「小夜ちゃんのミルク、飲みたい!!///」

「Milk!?///」

 

おっと。動揺してまたしても中学英語が飛び出てしまった。

じゃなくて。

 

「出ないわよミルクなんて!?///」

「こんなにおっきいんだから出るよ!///」

「ゃあっ!?」

 

大きさは関係ないでしょ!?とツッコむ間もなく、ワシっ!と力強く胸を掴まれ乱暴に刺激される。

 

「う、うてな...おね、がい...落ちついてっ...///」

「無理だよ...!ずっと、ずっと我慢してたんだから...!///」

 

私が止めるのも聞かずブラをずり下げ直に胸に触れてくる。

 

本気で抵抗することも出来るはず。

けれど私はうてなからの愛撫を拒めずにいた。

何故ならこの行為自体、私だって望んでいたことだったから。

二人の関係は歪で、キウィのことだってある。

たとえ気持ちが一緒でも、今結ばれるのは間違っている。

それが私たちの結論だったはず。

頭でそう分かっていても、心と身体は違う。

 

『あら、いらっしゃい。どうぞ上がって?先に小夜ちゃんが来てるから。今日はるかちゃんは一緒じゃないのね?』

 

「小夜ちゃん...!好き...好きなの...!ちゅるっ!///」

「あんっ!う、うてな...!そんな...はげしっ...!///」

 

想いを晒け出しながら私の胸に吸い付いて来るうてな。

振りほどかず、ただ受け入れて甘える彼女を抱き締める。

必死に何かを吸い出そうとするうてなに身を任せ、快感を享受していく。

ああ、ごめんなさいキウィ。

私たち、先に結ばれてしまうみたいです。

 

「ちゅぱっ...!さよひゃんっ...!///」

「うて、な...!///」

 

「邪魔すんで。小夜もおるならちょうどええ。マゼンタのあの破廉恥モードをどないするかええ加減話し合いたいんやけど、あんたら何か」

 

「え///」

「ちゅる///」

「......は?」

 

聞き馴染みのある関西弁。

ガチャッと開かれた扉の先にいたのは、差し入れと思わしきコンビニ袋を下げた金髪美少女。

そういえば、さっき下でお母様が誰かを応対してる会話が聞こえた気がする。

いつもの調子で話ながらの登場だが、その視点が私たちに定まった途端、ピタリとその声が止まる。

一足遅く異変に気付いたうてなが、私の乳首から口を離す音が響く。

時が止まったかのような静寂。

一気に沸騰する三人の頭。

そして。

 

「「「んみぃぃぃぃ!?!?!?///」」」

 

いつかのトラウマを甦らせた二人に合わせ、私は謎の鳴き声を上げあまりの恥ずかしさに気絶してしまうのであった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「はぁ...。」

 

家でも、学校でも。

最近はずっと同じことを考えちゃう。

あたしを魔法少女にしてくれた、ヴァーツ。

ヴァーちゃんはどうしてしまったんだろう。

あたしたち、短くない時間一緒にいて。

優しくて気配り上手なあの子を信頼して、好きになって。

薫子ちゃんやうてなちゃんと同じ、仲間で友だちだと思ってたのに。

なのに、あの時のヴァーちゃんは違った。

あたしの知ってるヴァーちゃんじゃない、冷たい感じ。

変わってしまったのか、ただあたしが知らなかっただけなのか。

まだ信じていいのかすら分からない。

もし、万が一。

あの子が悪い子だったとしたら...?

あの子を助ける為に魔法少女になったあたしは。

マジアマゼンタの意味は...。

 

「なーなー。んでさよちゃんたちと気まずそうなん?今更乳の差にぜつぼーしたんかひんにゅー。」

「ちゃうわあほ。...というか、ホンマにあんたは知らん方がええで...///」

「んだそれちょー気になんじゃんか~。教えろよひんにゅー。」

 

近くの机から聞こえてくる雑談が、少しだけ心を癒してくれる気がする。

仲直りした薫子ちゃんたちの、いつも通りの平和な姿。

ヴァーちゃんはともかく、あたしの大切な居場所は取り戻せた。

あたしは何も出来てないけど...。

でも、一歩前に進めたのは確かだと思う。

 

「何お年寄りみたいな顔してるのよ。どうかしたの?」

「小夜ちゃん...ううん、大丈夫。ちょっと寝不足で。」

「夜更かしなんていけないわ。お姉ちゃんなんだから。」

「あはは、三人ともすぐ寝ちゃういい子たちだし。あたしにだって、寝れない時くらいあるよ。」

「遊んで食べて寝るだけかと。」

「あたしのイメージ赤ちゃんなのぉ...?」

 

心配してくれた小夜ちゃんと何でもない会話をする。

そういえば、二人だけで話すなんてかなり久しぶり。

中1まではずっと二人一緒だったな。

クラスにうてなちゃんはいたけど、まだそこまで仲良くなれてなくて。

薫子ちゃんとキウィちゃんは転校して来る前だし。

 

「賑やかになったねぇ。」

「何よ急に。一番賑やかなあなたが押し黙ってるから、いつもより静かじゃない。」

「小夜ちゃんはあたしがいないと寂しいんだ?」

「まあね。無音より虫が鳴いてるくらいが寝つきやすいって言うし。」

「みーんみんみん。」

「うるさい代表じゃない。ひぐらしにしなさいせめて。」

 

魔法少女にならなければ。

こうやって穏やかに、平和な日常のまま過ごせてたのかな?

何も悩まずに、ちょっとしたことで大笑いして。

 

「ね、小夜ちゃん。みんなが仲直り出来た記念に、お出掛けしようよ。」

「ファミレスってこと?」

「ピクニックとか!」

「私はいいけど、半数以上インドア派よ?」

「あたしが説得するよ!お弁当も任せて!」

「キノコは三種類までにしなさいよ...?」

 

こういうモヤモヤした時は、みんなといっぱい楽しいことをするのが一番!

あたしは似合わない悩み事を頭から頑張って追い出し、楽しいピクニック計画について考え始める。

そうと決まれば早速買い出しにいこう!

 

「あたしお使いしなきゃだから、また明日ね!」

「お、おう。お疲れさんや。」

「ま、また明日ね、はるかちゃん...。」

 

あっという間に放課後。

みんなと別れ、あたしはお弁当の材料を買いに商店街へと駆け足で向かった。

頭の中でどんな料理がいいかレシピを引っ張り出してはとっ散らかし、あーでもないこーでもないと試行錯誤する。

 

「おねーさんこんにちは!」

「こんにちは、はるかちゃん。」

「ロマネスコあ」

「ない。」

「入荷してってお願いしたのにぃー。」

「やなこった。」

 

何でそんなにロマネスコを嫌うんだろう。

可愛いのに。

しょうがない、ロマネスコ抜きで弁当レシピを組み立てることにしよう。

しめじとえのきとしいたけ...あれ?しいたけって誰かが苦手って言ってたような。

参ったな、好き嫌いを考えると更にレパートリーが狭まっちゃう。

 

「まいたけならいけるかな...?」

「はるかちゃん、野菜買いに来たんだよね?」 

「パイナップルの可能性を信じるという手も...っ!?」

 

うんうん悩んでいるあたしの頭に、突然甲高いアラームが響いた気がした。

この感じ、間違いない。

 

「エノルミータ...!」

「いやだからエリンギはキノコで野菜かと言われると微妙」

「おねーさんロマネスコよろしくね!」

「え、ちょ!?何も買わないの!?...相変わらず忙しい子だなぁ。」

 

エノルミータの反応を感じ、あたしは真っ直ぐにその場所へ向け走り出す。

前まではあの子たちを止めないといけないって気持ちで急いでたけど、今は違う。

エノルミータが現れればサルファたちは勿論、あのジャスティスティールだってやって来るはず。

そうなったらきっと、また誰かが酷く傷つくことになる。

 

変身(トランスマジア)!」

 

そんなの、あたしは嫌だ。

間に合わないのも、ただ見てるだけなのも、もううんざり。

マゼンタになった意味があやふやになった今でも、出来ることはしなくちゃ。

そう自分に言い聞かせ、速度を上げてエノルミータのところへ向かう。

 

「この辺りのはず...。」

 

やって来たのは妹たちともよく遊ぶ、お馴染みの公園。

てっきりアズールちゃんたちがまとまって悪巧みをしてるのかと思ってたけど、その姿はどこにもない。

反応自体はここで間違ってない。

そう思って公園に降り立ち周りを観察してみると。

 

「...いた!アリスちゃーん!」

「ピク。...。」

 

揺れるブランコの上に腰掛ける、お人形さんみたいな可憐な女の子。

ネロアリスちゃんを見つけた。

周りにはやはり誰もいないみたいだ。

 

「アリスちゃん、一人で何してるの!?変身しちゃったらあたしたち魔法少女に居場所がバレちゃうんだよ!?危ないから早くアズールちゃんたちのとこに」

「ニヤリ。」

「へ...?」

 

視界がグラッと傾くのと、身体が()()()()()()()()()()のは同時だった。

状況を理解するより先に、笑うアリスちゃんの顔が何故かどんどん遠退いていく。

 

「な、なんでぇぇーー!?!?」

「フリフリ。」

 

いつか見たボロボロのぬいぐるみに、あたしは抱き抱えられていた。

"いってらっしゃい"と言うように手を振るアリスちゃんへ、突然の理不尽を訴えるあたし。

離れるアリスちゃんと対称的に近付いてくるのは、懐かしいけどトラウマ要素の方が強いあの模型だった。

 

「またなのぉぉーー!?!?」

 

ネロアリスの恐るべき能力、"ドールハウス"。

気付いた時には、時すでにお寿司。

あたしの身体は吸い込まれるように、その小さな地獄へ担ぎ込まれていくのだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

暖かな日差しがわずかに射し込む、スッキリとした一室。

床にぬいぐるみや大きめの積み木なんかが散らばってはいるが、反ってそれがこの部屋の安心感を確かなものにしている。

部屋で一番目立つのはやはり、角に配置された"ベビーベッド"だろう。

それがあることから分かるように、ここは赤ちゃん部屋だ。

ならば当然、"部屋の主"もそこにいる。

 

「あぅ...ふぇ...うぇ...うぇぇーん!」

 

ピンク色の鮮やかな髪と元気そうな瞳が特徴的な、まるで花のように可愛い女の子。

おしゃぶりを払うように外し、渾身の泣き声を上げる。

言葉を話せない赤ちゃんにとって、これは悲しみというよりSOSのサイン。

実際はもっとソフトな意味合いで、客が店員を呼びつけるのと同じ気軽さだったりする。

どんな用であれ店員が客を無視出来ないのは社会の悲しい仕組みだが、こと赤ちゃんとその親であれば話は別。

万が一を考え、深夜だろうと早朝だろうと駆けつけなくてはならない。

何故ならそれが、"母親"というものだから。

勿論、この赤ん坊の母親も例外ではない。

 

「はいはい。どないしたんかな~?おねしょ...は、しとらんみたいやなぁ。おねんねはもう飽きたん?」

「まんま...あぶぅ...」

 

特段慌てた様子もなく赤ちゃん部屋に入って来る金髪の女性。

エプロンを着けた姿はまさにお母さん。

穏やかに笑顔を向け、赤ちゃんを抱き上げる。

わんわん泣いていた赤ちゃんも、大好きなママの登場にピタリと泣き止み、はしゃぎながら甘える攻撃を始める。

 

「寂しかったんやね~。よしよし、ママがおるさかい大丈夫やよ~。」

「あぅ!まんま!」

「あぁ、お腹空いとるんやね。待っててな、今おっぱい飲ませたるさかい。」

 

どうやら寂しい以上に()()だったらしい。

得心のいった母親は慣れた手つきで片乳を露出させ、赤ん坊の前に差し出す。

待ってましたとばかりに吸い付く赤ちゃんを、母親は微笑みながら見守る。

 

「ちゅー...ちゅぱちゅぱ...」

「ええ子、ええ子。ぎょーさん飲んで、大きくなるんやで?」

「あぃ!」

 

見ているだけで胸が温かくなるような、幸せな親子のやり取り。

授乳している割に赤ん坊が成長していたり、何となく会話出来ていたり。

そんな違和感も気にならないくらいの微笑ましい光景である。

ただ、やはり疑問を覚える読者が大半だろう。

この作品は『魔法少女にあこがれて』。

決してハートフルなスローライフ子育て作品ではない。

ならば何故、先程から興奮するにはニッチ過ぎる授乳シーンにナレーションを付けて無駄な時間を稼いでいるのか。

それはまさに高見の見物をしている、彼女たちに語ってもらうとしよう。

 

「え。何これ。誰が喋ってんの...?」

「触れんなロコ。第四の壁はアタシらにはまだ早い。」

「いいわねぇ、赤ちゃん...。」

「大人になってんのにちっせーなぁ~。おっぱい。」

 

母親と赤ん坊。ではなく、()()()()()()()()()()()()()()を箱庭に閉じ込め観察していたのは、お馴染みの悪の組織の面々。

アズールたちは公園に陣取りながら、ネロアリスのドールハウスをそれぞれ微妙な表情で見守っていた。

 

「ほ、本当に上手くいくのかな...?」

 

一人不安そうな声を上げるのは唯一エノルミータではない魔法少女、マジアベーゼ。

宿敵と行動を共にしているから気まずい、というわけではなく。

()()()()()()()()が心配で仕方ないのだ。

何を隠そう、件の母子の正体はマジアサルファとマジアマゼンタ。

トレスマジアの残りのメンバーである。

 

「信じなさい。サルファが自ら決めたことよ。」

「アズール...そう、だね...。」

 

神妙な顔で友人たちの授乳プレイを見つめるアズールとベーゼ。

本人たちは至って真面目なのだが、些かシュール過ぎる光景だ。

そんな空気に耐えかねたのか、先程から天の声が気になってしょうがないロコが苛立ち気味にアズールへ尋ねる。

 

「ねぇ。これホントに意味あるわけ?」

「私が閃いたイチオシの作戦よ。ロコには少し難し過ぎたかしら?しょうがないわね、もう一回だけ説明してあげるわ。」

「いやロコはロコたちが見てる必要あるのかってことを...って!?アンタ今ロコのことバカって言わなかった!?」

「いい?そもそもこれは薫子がマゼンタのことで私たちを訪ねて来たことから始まったの。」

「聞きなさいよ!?」

 

時はつい一昨日までに遡る。

撮影会改め、乳繰り合いを薫子に目撃された小夜とうてな。

目撃者含め散々取り乱した後、何故かお互いに謝る迷場面を生み出し正座で話をすることになった。

そもそも薫子はマゼンタの暗黒真化について、仲間であるうてなと話し合いたかったのだ。

そこに小夜が居合わせる形となり、自然に話し合いに混ざることに。

あーでもないこーでもないと言葉を交わす三人。

一時間経っても全然いい案が浮かばない中、ふと薫子がこんな疑問を口にした。

 

『吸われんの、やっぱ母性刺激されるん...?///』

 

勿論、また全員顔が茹でダコになった。

何故薫子はそんなことを聞いたのだろう。

小夜はそういう言葉責めなのかとちょっと興奮しながら、そういえばデビッチナースマゼンタ(命名:キウィ)も魔力を分け与える為に乳首を吸わせていたなと思い出した。

そこから、早かった。

 

『そもそもうてなの悪い魔力を中に出されてデビッチナースが生まれたわけでしょう?』

『中、出し...っ///』

『おう自分ら諸々喧嘩売っとんのか。』

 

言い回しに多大な語弊があるが、暴走ベーゼの魔力が身体に残って悪さをしているというのが現在の状況。

ならば、こういうのはどうだろう?

 

『濃いって言うなら、()()()()()()かしら?』

 

しょっぱい味噌汁にお湯を足すように。

苦いコーヒーに砂糖を入れるように。

()()()()()()()()()()()()()()()()()

悪さが出来ないくらいに数の暴力で上書きしてしまえば、暗黒真化なんて出来なくなるのでは。と。

単純過ぎて今まで誰も思い付かなかったが、マゼンタ頼りにならない唯一の解決方法が漸く提示された瞬間だった。

 

『でも、善の魔力って誰の...?』

『それは勿論薫子でしょ?』

『ウチ!?』

 

試してみるとして、その善の魔力とは誰が持っているのか。

ベーゼは暴走していないとはいえ前科一犯も同然、曲がりなりにも小夜たちは悪の組織。

下手したらトランスアイテムの差だけでアウトかもしれない。

シオちゃんズは善良要素が皆無なので論外。

そうなればやはり、候補はマジアサルファ一人に限定される。

 

『言うてウチ...こないだまで変やったし...。』

『...大丈夫だよ。マジアサルファは私の尊敬するヒロインだから。はるかちゃんだって、絶対にそう信じてるはず。』

『うてな...せや、な。ウチにしか出来ん言うなら、やってみるしかないな。』

 

彼女たちにあこがれたからこそ、今こうしてこの場にいるうてなに背を押され、覚悟を決める薫子。

気合いを入れ次の問題について小夜に尋ねる。

 

『んで?魔力を与えるてどうやりはるつもりなん?』

『おっぱい吸わせるのよ。』

『......なんて?』

『乳首ちゅーちゅーさせるの。』

『......ハァ!?!?///』

 

そんなわけで。

ベーゼからエノルミータに協力を要請した体で、アリスのドールハウスが再登場。

不本意ながら自ら飛び込んだサルファと、連れ込まれたマゼンタが公開授乳プレイに興じることとなったのだった。

 

「さっすがアズールちゃん!アタシにもどろどろの魔力注ぎ込んでぇ~...///」

「誰がドロドロよ。とにかく、これは私たちのマゼンタを取り戻す為の重要なミッションなのよ!」

「藁をも掴むってこーゆうことか...。」

「ホントに気の毒よね、あの子...。」

「フワァ...。」

「アリスちゃん、眠いのだわ?」

 

一通り説明し、再び視線を赤ちゃんプレイ会場に向けるエノルミータ。

ガン見していることはともかく、やっていること自体は健全な育児。

なので、年少二人にも特にフィルターをかけることなく垂れ流し状態。

このままつつがなく終わってくれればいいが...。

そう天に祈るベーゼに答えるように、()()()()()はやって来るのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――-

 

「あむ...ちゅっちゅっ」

「しっかり飲めてえらいえら~い。」

 

あたち、まま、だいちゅき!

やさしくて、つおくて、きれーなまま。

いっつもあたちをたすけて、おせわしてくれるまま。

ままがいなきゃ、あたちはなんにもできない。

だって、あかちゃんだもん!

 

「ちゅぱっ...ふぇ...ふぇぇーん!」

「んん?...飲み過ぎたんかな?大丈夫、ママがおしめ替えたるからね~?」

 

こうやっておもらししても、ままがいればあんちん!

わらってすぐにおむつをかえてくれる。

まま、ちゅき。

ごめんね、まま。

いっつもめいわくかけて、ほんとはいいこにしたいけど、きづいたらわるいこになっちゃうの。

ままはやさしくて、つよくて。

ずっととなりにならんでたはずなのに。

いつの間に、こんな...。

 

こんな、赤ちゃん、みたい、に...。

 

 

あたち...あたし?

 

「あたし赤ちゃんじゃないのでは!?///」

「なぁっ!?///」

 

冷静に、とにかく落ち着いて周りを見渡す。

ものすごく過ごしやすそうなお部屋。

あたしはそこのベッド?に寝かされて、今まさにオムツを替えてもらっている。

ママに。じゃなくて、サルファに。

 

「いや落ち着けるわけないよねぇ!?///」

「ま、マゼンタこれには事情が!?///」

 

正気じゃなかったんならせめて記憶を消してくれてもいいのでは!?

どこに出しても恥ずかしくないまさに赤ちゃんな行動コンプリートしてた覚えしかないんですけど!?

舌にミルクの味がしっかり残ってるんですけど!?

未だに股間の不快感が消えてないんですけどぉ!?

 

「お願いだから誰も見てないって言ってぇ!!///」

「いや、えっと...み、見てへんよ...///」

 

これ絶対見てるよね!?

いつもより頭が冴えてるから分かっちゃうよ!?

十中八九エノルミータ発案だよねぇ!?

 

「アズールちゃんのばかぁ!!///」

『何で私!?』

『いや合ってんじゃないの。』

 

はいばっちり声聞こえました見られてましたぁ!!

もうどうしようもうお嫁に行けない...。

 

「うっ...うぅっ...ひどいよ...こんなの、あんまりだよっ...」

「マゼンタ...うち、あの...説明、させてもらえへん、かな...?」

 

あまりの情けなさにしくしく泣き始めてしまうあたし。

そんなあたしを見て、サルファは今まで見たことないくらいの落ち込んだ顔をする。

...そういえば、サルファは赤面してても冷静な気がする。

もしあたしみたいに操られてたんなら、あたしじゃ比べ物にならないくらい激怒しそうなのに。

つまりそれって...。

 

「...もしかして、サルファは知ってたの?」

「っ...。うちが...うちがアイツらに頼んだんや。マゼンタにもう、あんな風になって欲しくなくて...。」

「あんな風って...」

 

あの、"黒いあたし"のこと...?

何で赤ちゃんになることが、あたしの問題を解決することになるの?

疑問が深まる中、少しずつサルファが理由を説明してくれる。

 

「魔力の、上塗り...。」

「せや...うちに出来んの、こんくらいしかない思て...」

「で、でも魔力を渡すならもっと他に方法が」

「ウチかて恥ずかしかってん!でも...アンタみたいに回復魔法得意やないし...マゼンタの為にウチが出来ることがあるんなら、何でも試してみたかったんよ...だって、ウチにとってマゼンタは...あんたが、大事で大好きやから...!///」

「サルファ...。」

 

目を潤ませてあたしに訴えかけるその表情は真剣で、少しのおふざけもない。

本当にあたしの為に、恥ずかしいことにも耐えて魔力を与えてくれてたんだ。

 

他の方法とか、呑気なことを言っていたあたしがバカだった。

そのくらい早く解決したいと願ってた、大事な友だちのことを考えもしないで、強くなるだなんて漠然と話すだけで。

操られてたからってだけじゃない。

サルファにおんぶに抱っこな今のあたしは、赤ちゃんと何も変わらない。

 

「ごめん...うち、マゼンタの気持ち無視して...こないな...っ」

「...謝るのはあたしの方だよ。」

「マゼンタ...っ?」

「サルファ。ごめんね。()()()もらえるかな?」

「......は?」

 

口をあんぐり開けたまま動かなくなるサルファ。

体格が元に戻っちゃったから、あたしを抱えるのは難しいよね。

そう思ってサルファをあたしの寝ていたベッドに寝かせ、覆い被さるような体勢になる。

 

「な、ななな何してんマゼンタっ!?///」

「あたし間違ってた!サルファにこんなことさせるくらい悩ませてたのに、恥ずかしいだのなんだの騒いで。でも、これで終わりにする。これでサルファを傷つけるあたしに、さようならするから。」

「!...あん、た...///」

 

しっかりと誠意が伝わるように真っ直ぐに見つめ合う。

お互いに顔が赤くなっているのを感じて頭が沸騰しそうだけど、それでも彼女の目を見るのを止めない。

潤んだ綺麗な瞳の中にある決意を、胸に刻み込む為に。

二度と親友の想いと願いを忘れないように。

あたしは覚悟を決めて、彼女に最後のわがままを告げる。

 

「サルファのおっぱい。吸ってもいいかな?」

「.........優しゅうして、おくれやす...///」

 

控え目に差し出されたサルファの胸に顔を近付け、優しく口を当てる。

赤ちゃんの時以来だけど、きっと上手くやれるはず。

だってあたし、さっきまで赤ちゃんだったから!

 

「ちゅるっ!ちちゅるるるっ!!」

「ぃやんっ!はげしっ!やさしゅうして言うたのにぃ!堪忍してぇぇ!!///」

 

感じるよ、サルファ!

あたしの中に流れ込んで来る、あなたの温かい魔力を!

 

――――――――――――――――――――――――――――-

 

「なんて感動的なシーンなのっ...!///」

「ううっ...!推しが推し過ぎて尊ぃぃ...っ///」

「...コイツら頭おかしいわよね?」

「今さら確認することか?」

「ほら~こりすろぼ子見てみ~。とんぼ~。」

「おっきいのだわ...。」

「コクリ...。」

 

お互いを思い遣るが故の友情の授乳プレイ!

カップリング論争は魔法少女を邪な目で見る行為な気がして避けて来たけど、やっぱりマゼ×サルはいいよね!

マゼンタちゃんはあくまでサルファちゃんの献身に答えようと真剣なんだけど、サルファちゃんは大好きな人に乳首を吸われて気持ちよくなってしまうのを必死に堪えてる。

そんな自分が恥ずかしい、でもやっぱり嬉しい!

思いが伝わっているようで実はすれ違ってるのが実に高ポイント!

エロと健全の二律背反!

最高っ!

これが魔法少女の絆なんだね!

アリスちゃんたちには絶対見せられないけど!

 

「これ、相思相愛...ってわけじゃないわよね。」

「ああ...強く生きろよ、サルファ...。」

「まるでフラれたみたいな扱いね。」

「ま、まあ...今日は趣旨が違うから。」

 

薫子ちゃんの恋の行方はともかく、魔力の補給自体は上手くいってるみたい。

このまま続ければ本当に中和出来るかも。

元はと言えば私のせいだから、大分複雑な気持ちではあるけど...。

でも、これで解決するなら拭えない罪悪感も少しは

 

「ルシファ、アズール...!!」

「っ!?みんな避けて...!」

「へ!?」

 

安堵から一変。

突然、空から降り注ぐ"炎の雨"。

アズールの呼び掛けで何とか全員が回避することに成功する。

この攻撃、まさか!?

 

「アズール...!オマエだけは絶対にアタシが潰すッ!」

「...自分からノコノコやって来るなんて、そんなに私に苛めて欲しかったの?」

「調子に乗るなクソビッチが...!」

 

さっきの魔法、やっぱりアルジェント!

怒り心頭の表情でアズールに襲い掛かり、憎しみを爆発させている。

アルジェントがいるなら、当然残りの二人も...。

 

「ちゃんといるわねチビッ子!その動く人形を今日こそバラバラに分解してやるわ!」

「ムッ...。」

「またあのワンワンなのだわ。」

『Bow!』

「Hello、ベーゼ。いつかのお礼にきマシタよ。」

「っ...オールさん...。」

 

やっぱりいた。

マジアオールにマジアカルコス。

"ジャスティスティール"の揃い踏みだ。

どうしよう、せっかく上手くいってたのに!

 

「帰りなさい。今あなたたちに用はないの。」

「オマエになくてもアタシにはあるんだよ!オマエをズタズタにして、あの屈辱を晴らしてやるっ!!」

「くっ...!」

 

炎を纏った突風を放つアルジェント。

アズールは氷の障壁で直撃を防ぐが、勢いを殺し切れず押し飛ばされ、運悪く地面のドールハウスへと激突してしまう。

 

「へぶっ!?」

「あ"だっ!?」

「だ、大丈夫二人とも!?」

 

弾き出されるマゼンタちゃんとサルファちゃん。

二人とも派手に顔をぶつけてたけど大きな怪我はなさそうだ。

アズールも無事、すぐに体勢を立て直した。

 

「な、何なんや急に...?」

「いったぁい!たんこぶできたかも...。」

 

事態を飲み込めていない二人に状況を説明しようとするけど、そこで私の目に飛び込んできたのは憧れの魔法少女たちの乱れた服装。

サルファちゃんはおっぱいが丸見えだし、マゼンタちゃんは下に何も履いてない。

生で見ると、やっぱりすっごいえっち。

 

「さ、さっきまで...お楽しみ、でしたね...?///」

「楽しんどらんわっ!!///」

「そうだよすっごく恥ずかしかったんだからっ!!///」

 

図星を突かれて真っ赤な二人も可愛い。

初々しいというか、ピュアというか。

そう言う私は一足先に大人の階段駆け上がってる真っ最中です。

なんていっても吸ったからね、小夜ちゃんのおっぱい。

本当に甘かったよ、キウィちゃん。

 

「って、見てサルファ!ジャスティスてぇ...!?...か、かんひゃったぁ...。」

「ふざけとる場合やないやろ。おう、何のつもりやジャスティスティール!」

 

そうだった、今はシリアスな場面だった!

JSTの存在に気付く二人。

サルファちゃんは状況をある程度理解したのか、すぐに彼女たちへ警戒心を顕にする。

 

「いたんだ、ご当地魔法少女。」

「もしかして捕まってたの?ぷーくすくす!やっぱり田舎の雑魚魔法少女は大したことないわよね!」

「あんのガキ...!躾がなっとらん!今すぐしばいたろかコラァ!!」

 

それじゃ魔法少女じゃなくて田舎のヤンキーだよサルファちゃん...。

言ったら私も怒られそうだから、ツッコミするのは止めておく。

 

「そこで大人しく見てなよ。情けないアンタたちの代わりに、アタシたちがエノルミータを潰してあげるからさ。」

「...いらんわ。外野は引っ込んどれ。」

「は?」

 

アルジェントを睨み付け、その介入をきっぱりと拒否する。

その強い眼差しが私に分からせてくれる。

私の大好きなヒロインが、漸く()()()()()ということを。

 

「そこのアホ共は残念なことに、ウチらトレスマジアの宿敵や。魔法少女として、ウチらがいつか倒さんといかん壁なんや。せやから、アンタらに旅行の土産感覚で摘まれていいもんやない!ぶぶ漬け食ってさっさとお国に帰っておくれやす!」

「サルファちゃん...っ!」

 

これこそ私たちの愛するヒロイン、マジアサルファ!

ツンデレライバルキャラのお手本みたいな内容に出身地ネタを組み合わせたまさに名言!

感動した!

魔法少女力100万点満点!

 

「今アイツあほって言わんかった?ころす?」

「しー...少しは空気読みなさいよ...。」

「いいセリフだったぞ今の。ジャ○プっぽい。」

「ぶぶ漬け、食べたことないのよね。」

「スピーZz」

「なのだわ。」

「少しは真面目に聞いたげてよぉ!?」

 

でもエノルミータの反応はいまひとつ。

マゼンタちゃんの懇願を無視して、みんなマイペースを貫いている。

サルファちゃんの眉がピクピクヒクヒクしてるのは気のせいだと思いたい。

持ってくれ、私たちのシリアス。

 

「...っていうか、何でアンタたち色々丸出しなわけ?」

「そうよそうよ。魔法少女なら正義の前にまずはエチケットを守りなさいよね!」

「グサぁッ!?///」

「おのれ...ジャリガキのくせにド正論かましおって...///」

 

意外に冷静なカルコスたちに自分たちの格好についてツッコまれてしまう二人。

赤面しつつそれぞれの恥部を隠し、何とか衣装を修復する。

ちょっと残念。

 

「ワタシたちの助力は不要。そういうことデスか?」

「...せや。手出し無用ってやつやな。」

 

大分シリアス空気が怪しくなった中、押し黙り事態を見守っていたオールが漸くその口を開いた。

 

「たった数日で随分意見が変わりマシタね。それだけの転機があったのか、それとも...。仮にもあなたたちも魔法少女。ベーゼ一人の裏切りならまだしも、この街を守護する全員がワタシたちと敵対するとなると、少々都合が悪いデース。」

 

あれ?てっきり力押しで来ると思ってたけど、もしかして話し合いで解決出来そう?

第一印象が悪かっただけで、マジアオールはやはり最強で最高の魔法少女で間違いなかった...?

なんて考えられたのは、この一瞬だけ。

"アレ"が現れるまでだった。

 

『迷う必要はありませんよ、オールさん。』

「...!」

「あっ...。」

「ヴァー、ちゃん...?」

 

空間に穴が開き、中から白いぬいぐるみが、張り付けたような笑顔で抜け出て来た。

ヴァーツさん。

いや、ヴァーツ。

私たちを魔法少女にしてくれた、仲間だと信じていたマスコットだ。

 

「遅かったデスね。...迷う必要がないとは、どういう意味デスか?」

「言葉の通りですよ。ベーゼさんだけでなく、サルファさんも。そしてマゼンタさんも、()()()()()()()()()。」

「な、何言ってるのヴァーちゃん?あたしたちはただ」

「残念です、とても。でも、仕方がないことです。彼女たちが悪に染まりきる前に、どうか()()()()()()()()()()()()...。」

「え...?」

 

分かっていたことでも、やはりショックだ。

ヴァーツさんがいたから、私たちはトレスマジアになれた。

慣れない仕事を優しくサポートしてくれて、相談に乗ってくれたこともあった。

信じていたのだ。

ヴァーツさんもまた、私たちの大切な仲間で友だちだと。

 

だけど、違った。

エノルミータへの行き過ぎた攻撃に、魔法少女たちの暴走。

サルファちゃんがおかしくなったのも、彼と二人きりで会ってからだった。

この事態の脅威はJSTだけど、"元凶"は違う。

 

「ヴァーツさん、あなたは...あなたは何をしようとしてるんですか...?」

「決まっているじゃないですか。正義ですよ。平和の為の。」

 

今まで聞いた彼の言葉の中で、最も薄っぺらい響きだったと思う。

それが私にとっての、"区切り"になった。

 

「悪となったトレスマジアはもう不要です。エノルミータと共に終わらせてください。」

「ま、待ってヴァーちゃん!?ね、ねぇ...!嘘だよね!?だってあたしたちずっと一緒で...!笑って、悲しんだりっ...友だちだったのに...!だからっ...!!」

「さようなら、マゼンタさん。あなたには失望しました。」

「っ...!?」

「ヴァーツあんた...!どこまで下衆なんや...!!」

 

突き付けられる裏切り。

マゼンタちゃんの必死な呼び掛けも意に介さず、ヴァーツは私たちと袂を別つ。

一番付き合いの長かったマゼンタちゃんの心痛は計り知れない。

放心状態で膝を突くマゼンタちゃんを支えながら、サルファちゃんはヴァーツに明確な敵意を放つ。

 

「まあつまり。」

「まとめてぶっ潰していいってことだよね、オール!」

「...残念ですが、濁った正義に価値はありまセーン。彼女たちもまた、終わらせる必要があるようデスね。」

 

ヴァーツを問い詰めたい気持ちが強いけど、私たちの目の前には臨戦態勢のJSTが。

やるしかない。

マゼンタちゃんを慮りながらも、サルファちゃんと顔を見合せ同時に頷く。

 

()()()()()()()()!アンタらは見とるだけや!ええなアズール!」

「何言ってるの!?意地張ってる場合!?」

「アズールお願い!これは私たちの戦いなのっ!」

「っ...バカばっかりなんだから!」

 

罵倒しつつ仲間たちと離れた位置に移動してくれるアズール。

心配かけてごめん。

でもこれは、トレスマジアで乗り越えないといけないことだと思うから。

だから、今回だけはわがまま言わせてね。

 

「今は切り替えろマゼンタ!こんまま終わるなんて絶対に許せへん!あんたもそやろが!なぁリーダー!!」

「サルファっ...あたしっ...」

「来るよ二人とも!」

「「!?」」

 

地面が盛り上がり腕のような形になったかと思えば、私たちを捕らえようとどこまでも伸びてくる。

それを鞭で迎え撃ち、カウンターで数体の泥人形の魔物を誕生させる。

けど、すぐに突然発生した大波で全て洗い流されてしまう。

 

「アルジェントの魔法...!」

「そんなんでアタシたちに勝つつもりなわけ?!」

「鬱陶しいわ!」

 

四方から迫り来る竜巻で身体が吹き飛ばされそうになるけど、ここでサルファちゃんが真化。

漲る魔力で竜巻を打ち消してしまう。

その反撃を気に入ったのか、アルジェントはターゲットを完全にサルファちゃんに決め、多様なエレメント攻撃を集中させていく。

 

「眷属の数でまずは抗戦を...!」

「魔物なんて何体いたって同じゴミなのよ!!」

『Bow!』

 

私もすぐに真化し、近くにある物から手当たり次第に魔物を誕生させる。

悪夢を利用したいところだけど、抜き出す時間も具現化する時間もない。

だから少しでも多く魔物を作って隙を窺うつもりだったのに、カルコスたちがそれを許してくれない。

次々に魔物を砕かれ、噛み裂かれ。

増やしては減らされるの繰り返しとなってしまう。

 

「うぐっ!?」

「ワタシ様に悪夢を見せたわね?!百回死んでも許されることじゃないわよ...!!」

「Oh、ベーゼ!ワタシとも遊んでくだサーイ!」

「しまっ...!?」

 

一番危険な存在をフリーにしていた。

カルコスの対応に追われる私は接近するオールに気付かず、見事にがら空きの背中を晒してしまっていた。

笑顔のまま振り下ろされた刃が身体に迫る。

しかし刃は私の身体を切り裂くことなく、代わりに金属同士がぶつかり合う耳障りな音が響いた。

 

「待って...!あたしたちが戦う必要なんてない!だって魔法少女同士なんだよ!?こんなの絶対間違って」

「So sweet。だからアナタは弱いのデース。」

「きゃあっ!?」

 

間一髪、私を救ってくれたのはマゼンタスピアーだった。

割って入ったマゼンタちゃんは"戦いたくない"とオールと話し合おうとするも、言葉通りに一蹴され地上に落とされてしまう。

 

「っ...ぐっ...」

「アナタ、真化しないのデスか?」

「!...っ」

「しないのではなく、出来ないのデスね。」

 

オールは苦しそうに立ち上がるマゼンタちゃんを見下ろして、彼女のコンプレックスを的確に指摘する。

悔しそうに項垂れる姿は酷く弱々しく、その魔力も萎んでいくように見えた。

オールは興味を失ったように視線を外し、代わりに長大な剣をマゼンタちゃんの首筋に当てる。

 

「善悪問わず、弱いというのは罪デース。理解してくだサイ。...あなたのせいで、あなたの仲間たちは死ぬことになるんですよ。」

「あたしの、せい...っ」

 

開始10分足らず。

圧倒的大差で、トレスマジアの敗北が決まろうとしていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――-

 

あたし、一体どうしたらよかったんだろ。

ジャスティススティールと戦うのは仲間割れしてるみたいで気持ちが悪いし。

だからと言ってエノルミータを痛め付けたり、必要以上に打ちのめすのは間違ってると思う。

あたしはただ、みんなと穏やかに過ごしたかっただけなのに。

アズールちゃんたちがイタズラしようとしたら止めて叱って、本当に危ないことが起きたら、その時はみんなで手を取り合い立ち向かう。

それで最後には笑い合って、平和っていいよねぇ~って幸せに過ごす。

その為にもらった力だって、そう思ってたのに。

 

ヴァーちゃんはあたしを"悪に堕ちた"って言った。

エノルミータを庇ったから?

本当にアズールちゃんたちが悪い子たちで、あたしがバカみたいに騙されてるから、だから失望したって言ったの?

 

...違う。

正体も何も知らないけど、アズールちゃんたちが本当は優しいってことだけは確かだ。

分かってる。

もう、分かってるはずだ。

悪いのはエノルミータじゃなくて...。

 

じゃあ、何で。

何でエノルミータを消そうとするの?

何で、あたしをマゼンタにしたの?

トレスマジアは、エノルミータを滅ぼす為に生まれたの?

それで出来が悪かったから、あたしたちを見捨てて他の魔法少女を連れて来たの?

 

きっともう、ヴァーちゃんは何も答えてくれないんだよね。

あたしの知ってる、友だちのヴァーちゃんはいなかったんだよね...。

 

あたしね?どんなに弱くて、情けなくて、恥ずかしい目に遭ったって。

マゼンタになって後悔したことなんて、一度もなかった。

だって、あたしがあの時そう望んで。

だから優しいあなたを、助けることが出来たんだって思ってたから。

それがあたしの、始まりで誇りだったから。

だから、今まで戦って来られたのに。

 

ねぇ、ヴァーちゃん。

いつからいつまでが、あなたの"本当"だったの?

あたしの今までって、全部あなたが作った偽物だったのかな?

 

あたしが、薫子ちゃんとうてなちゃんを巻き込んだんだ。

あんなにたくさん辛い目に遭わせて、それが全部あなたの思い通りだとしたら。

あたしの今までって、何なのかな?

 

「終わりです。マジアマゼンタ。」

 

あたしなんか。

魔法少女になるべきじゃなかったんだ。

 

「こんのあほぉ!!」

 

聞き慣れた必死な声が聞こえる。

あたし目掛けて振り抜かれた刃を、サルファのガントレットが受け止めてくれていた。

 

「いつまでしょげとるつもりや...!強うなるて約束したやろっ!心から折れてもーてどないすんねん...!!」

「サルファっ...」

「Nice receive。but、無茶し過ぎデスね。」

 

サルファの背中には火傷の痕が数ヶ所、受け止めた拳からも血が流れていて。

あたしを救う為に、アルジェントの攻撃を無理矢理無視して来たのが分かる。

 

「アンタ一人でアタシたちを相手しようっての?」

「時間稼ぎはそこそこ得意、ですから...!」

「こんなザコ共で時間なんか稼げるわけないじゃない!蹴散らしなさいアーサー!」

 

残ったアルジェントとカルコスを相手取っているのはベーゼただ一人だった。

魔物を大量に生み出して足止めしてくれてるけど、すごいペースで蹴散らされてる。

もう数分も持ちそうにない。

 

「ごめんね、二人とも...あたしのせいで...。」

「あんた何を言うとるんや!?」

「...はぁ。ちょっと失礼するわよ?」

「え...?」

 

項垂れるあたしの襟を誰かが引っ張り宙に浮かせる。

そのまま戦いを続ける二人から離され、ジャングルジムの上に落とされた。

 

「いったぁぁぁ!?!?」

「女の子だって股を打てば痛い。

どう?少しは頭が冷えたかしら?」

「冷えるどころか痛みで頭がいっぱいだよぅ!?」

 

痛むお股を鉄棒から離すわけにもいかなくて必死にもぞもぞするあたし。

そんなあたしをここまで運んできたのは、さっきまで戦いを見ていただけのアズールちゃんだった。

 

「うだうだ悩んでらしくないわね。一人で整理出来ないなら私が聞いてあげる。ねぇ、マゼンタ。」

「な、なに...?」

 

アズールちゃんはあたしにズイッと近付いて、至近距離から目を見て、瞬きもしないで語りかけてくる。

 

「あなたはどうして魔法少女になったの?」

「それは...ヴァーちゃんを、魔物から守る為で...」

「あっそう。で、その対象に裏切られたから"自分は魔法少女にならなければよかった"って思ったと。」

 

何で分かるんだろう。

あたしってそんなに分かりやすいかな?

魔法少女になった意味も、正しさも。

今のあたしには分からない。

力が抜ける、心が黒く濁ってく感じがする。

 

「馬鹿らしい。正しいとか意味とか、そんなの結局全部自分が決めるしかないことじゃない。」

「自分が...?」

 

いつも通りのさっぱりとした言葉とは反対に、アズールちゃんはすごく真剣な表情で話を続ける。

 

「いい?マジアマゼンタ。魔法少女にならなかった私とは違って、あなたは魔法少女になることを選んだ。反対のように見えて、私たち()()()()()()のは同じでしょう?」

「アズールちゃんとあたしが、同じ...?」

「私は愛の為にルシファアズールになった。それを意味のないことだなんて思わない。私をエノルミータにした奴は死んだけど、だからって今の私は偽物になんてならない。

思い出して。あなたは、守りたかった。

だから魔法少女になった。

よく周りを見なさい、マゼンタ。

あなたの"一番守りたいモノ"は何?」

「......いちばん...守りたい、モノ...。」

 

あたしが魔法少女になる意味。

傷つける為じゃなくて、それでも戦いたいと思う理由。

あたしの、守りたいモノ。

 

「マゼンタは絶対に...ウチが守るんや...!」

「ヴァーツさんが敵だとしても、私たちがいる!私たちが側にいるから...だから!」

 

あたしを守ると叫びながら、何度も立ち上がる友だちがいる。

たとえ今までの道のりに裏切られたとしても、自分たちが側にいると訴える仲間がいる。

そんな優しくて強い人たちが、あたしの目の前で傷つき、その命を削られていく。

 

あたし、本当にバカだ。

戦う理由とか、正しいとか、裏切られたとか。

そんなのどうでもよかったんだ。

今すぐ治してあげたい、庇ってあげたい。

そしてずっと一緒に笑っていたい。

ただそれだけだ。

あたしが強く変わる理由なんて、たった一つでよかった。

あたしは、魔法少女マジアマゼンタ。

あたしが選んだ、あたしだけの魔法。

使い道だって、決めるのはあたし。

 

あたしは、護る為にここにいるんだった。

 

真化(ラ・ヴェリタ)ッ!!』

 

――――――――――――――――――――――――――――-

 

「まさか...!?」

「あれって...!?」

 

二人にはトラウマに等しい、マゼンタの口から漏れ出たその呪文。

不安を煽るように黒い魔力が彼女の身体を包み込み、"蕾"を形成する。

上手くいかなかったのか。

そう全員が覚悟する中、アズールだけはニヤリと笑ってその光景を眺める。

彼女には分かっていたのだ。

親友が誰よりも、どうしようもない程に。

()()()()()()()()()ということを。

 

「何か嫌な予感がするよ...!」

「No!変身中の攻撃は御法度デース!」

「言ってる場合!?」

 

黒い蕾に亀裂が走り、中から満開の"桜"が現れる。

辺りに舞散る花びら、吹き荒れる風。

その美しさも、中心に立つ彼女の輝きには敵わない。

アルジェントが咄嗟に炎の弾丸を放つが、傷つけるどころか触れることすら出来ず、風のヴェールに阻まれる。

 

薄く透明で、しかし確かな力強さを感じさせる妖精の羽根。

身体を彩るのは、おとぎ話のようなドレス。

赤紫のカラーリングに、緑の差し色が花のようだ。

頭にティアラを掲げたその姿は、まさに彼女の願った"プリンセス"そのもの。

強く、気高く、美しく。

万感の想いを込め、彼女は高らかに歌い上げる。

生まれ変わった自身の、本当の名前を。

 

「マジアマゼンタ、これがホントの真化形態っ!

"春嵐慈姫(テンペスタ・プリンセス)"!参っ上ぉッ!!」

 

気合い満タンで名乗りを上げると、それに呼応するように更に激しく舞い上がる花びらの嵐。

豪奢に装飾が施された槍を派手に振り回し、ポーズを決める。

 

「姫というより歌舞伎者ね。」

「知ってる。花の慶○だろ?」

「「夢にまで見たマゼンタの真化だ(や)あぁぁぁぁ!!(泣)」」

 

早速茶々を入れる悪ガキ集団はともかく、仲間二人は大量に涙と鼻水を垂れ流しながらその誕生を心から喜ぶ。

この瞬間を何度夢見たことか。

片方はガチ恋勢として、片方はガチ推し勢として。

本人よりも楽しみにしていたと言える。

その喜びたるや拳や頭から血が飛び出ていてもまったく痛まない程だ。

これが癒しの魔法...。

 

「二人ともお待たせ!」

「あの...握手してもらっていいですか?///」

「うちも、ちょい写真...ええ...?///」

「旅先で有名人に会った時の反応!?あたしだよマゼンタだよぉ!?」

 

二人のボケ(素)にツッコミながらも、彼女の目は仲間たちのダメージに向いていた。

表情を真剣なものに変え、癒すことに魔力を集中させる。

 

「今治してあげるから!"ヴェント・フィオーレ"!」

「「!」」

 

マゼンタの作り出したリボンが二人の怪我に巻きつくと、次の瞬間には傷が消えていた。

意識する間も無く、二人の体力と魔力までもが回復していく。

 

「す、すごい...!」

「回復魔法もパワーアップだよ!」

「う、うぅっ...!回復が乳首やないっ...!まともやっ...!しかもリボンて可愛すぎやろがぁ...!!(泣)」

 

回復魔法で過去のトラウマまで治療してしまったらしい。

取り乱すサルファを苦笑いで見守りつつ、マゼンタは二人に自身の覚悟を打ち明ける。

 

「あたし、もう迷わない。これ以上、誰にも二人を傷つけさせたりしない。たとえ相手がヴァーちゃんでも。あたしはあたしの護りたいモノの為に戦うよ。」

「マゼンタちゃん...。」

「それでこそ、マゼンタや。漸く戻って来たんやね。」

「お互いにねっ!」

 

離散し、ぶつかり合ったことも今や過去。

それぞれの強さを取り戻し、絆もパワーも強くなった少女たち。

三人の魔法少女は再び手を取り合い、強大な敵へと立ち向かう。

 

「マジアマゼンタ!」

「マジアサルファ!」

「マジアベーゼ!」

「魔法少女トレスマジア!ここに復活!!」

 

久しぶりの名乗りに安堵したのは彼女たちか、それともその宿敵たちか。

迎え撃つ最強の魔法少女チームは困惑しつつも、やることは変わらないと薄れていた闘気を漲らせる。

 

「真化しようとザコはザコなの!ワタシ様に敵うわけないんだから!」

「生意気ながきんちょにはお尻百叩きが必要やねぇ!」

「アンタたちの次はアズールよ...!」

「あの子には絶対手出しさせない!」

「第2ラウンドといきマショウ!楽しませてくだサーイ!Japanese magic girls!」

「さっきみたいにはいかないんだから!」

 

向かい合う両者。

咆哮し、気合いのままそれぞれの相手とぶつかり合う。

 

マゼンタに合わせて槍を作り出したオール。

見事な身のこなしで槍を振るいマゼンタと打ち合うが、先程とは違い押し切れない。

それどころか、数をこなす度に次第に後退を余儀無くされていく。

型や理に敵った動きではない、我武者羅な乱打。

だがしかし、重い。

その一撃一撃が重く、忘れかけていた"危機感"というものをオールに思い出させる。

魔法少女の力は、想いの強さ。

そんな基本中の基本が、今まさに最強の魔法少女を追い詰めていた。

 

「なるほど...!ヴァーツがあなたを選んだ理由が分かりマシタ...!この力、今まで見たどの魔法少女よりもっ!!」

「やぁぁぁっっ!!!」

 

最早ヴァーツの名前で彼女が動揺することはない。

更なる気合いを以て、あのマジアオールを岩壁に叩き付けた。

優勢なのはマゼンタだけではない。

 

「くっ!アーサー援護を!?」

「犬っころ頼みかじゃりがき!女なら正々堂々タイマン張ったらんかいっ!!」

「ジャパニーズマフィア!?」

 

高速で飛び回りながらアーサーとカルコスを分断。

得意の接近戦に持ち込むサルファ。

カルコスもまたパイルバンカー等を用いた近距離攻撃を得意としているが、こればかりは場数が違う。

喧嘩、もとい格闘技経験のあるサルファが上手に立ち、容赦のない拳を叩き込んでいく。

 

「ウソでしょ!?何でアタシの魔法がバレて...!?」

「マジアアルジェントも推しの一人でしたから!各種魔法を使う際の手の癖や間の取り方は頭にインプット済みです!後は簡単!何故なら!タイプ相性は義務教育!です!のでっ!!」

「意味分かんない!ギークってみんなこうなの!?」

 

アルジェントの多彩な魔法を端から攻略していくベーゼ。

彼女の扱える魔法、使うときのしぐさ。

そんなものは真の"魔法少女オタク"として当然暗記済。

後はそこに何をぶつけるべきかだが、それもまた彼女の生み出す眷属であれば迷うことなどない。

水は火を消し、土は水を吸い込み、風は土を巻き上げる。

そして、火は風により勢いを増す。

自然を、時にはアルジェントの魔法すら利用し、ベーゼは眷属を創造。

最強のNo.2を封殺していく。

 

「こういうのはいかがデスか?!」

「っ!ベーゼ、サルファこっちへ!」

「「了解!」」

 

オールの背後に大量に生み出される銃火器に刃物。

無差別に放たれようとするそれを見留め、マゼンタは仲間を一ヶ所に呼び寄せ自身の背に庇う。

 

「あなたたちに耐え切れマスかっ!!」

「耐えることなんてないっ!"スペランツァ・ジャヴェロット"ッ!!」

「っ!?」

 

迫る無数の凶器に怯むことなく、マゼンタは全身の魔力を槍に込め投擲。

光を纏い巨大な光の矢となったそれが、まとめてオールの攻撃を飲み込んでいく。

 

「姉さんっ!?」

「お姉ちゃん大丈夫!?」

「No!来てはいけマセン...!」

「もう遅いよ!」

 

極光の後、それでも直撃は避けたオール。

彼女を心配し妹たちが駆け寄るが、それも全てトレスマジアの計算の内。

ジャスティスティールの四肢を、いつの間にか"虹色の枷"が覆っていた。

 

「これが私の全力全開作戦!」

「上手くいったねっ!」

「ほな、いこけ!お二人さんっ!!」

 

三人の魔力を合わせた特製の縛り。

それはこれから放つ、渾身の"必殺技"の布石だ。

それぞれの武器を元のステッキに戻し、一つに重ね合わせる。

全魔力をステッキに集中させ、仲間と想いを合わせ。

トレスマジアにしか出来ない"一撃"を造り出す。

 

「何だか今までで一番魔法少女っぽい!」

「これがホンマの三位一体っ!」

「"マジカルユナイトバースト"ッ!!」

 

「「「いっっけえぇぇぇぇっっ!!!」」」

 

「な、なななっ!?」

「カルコス、こっちに...!」

「これはちょっと...まずいデース...。」

 

三色の光の束が、轟音を上げ放たれる。

一つに纏まり絡み合うその輝きは、無防備なオールたちを容赦なくその身体に飲み込んでいってしまう。

 

あまりにガチ過ぎるその威力。

観戦していたエノルミータは大半がチビりかけたが、自らの面子を守る為ギリギリで耐えた。

お漏らしキャラはマゼンタだけで十分だと、神は言っている。

 

「......や、やった...?」

「フラグやないか。...でもまあ、とりあえず追い払えたみたいやな。」

「...ちょっと、やりすぎちゃった?」

 

土煙が晴れた先には誰もいない。

そして例に漏れず、いつもの公園は見事な更地と化していた。

毎度毎度可哀想な公園である。

 

「流石に跡形もなく消し飛ばしたりとかは...」

「なんやそれグロい...。」

「安心してください、彼女たちはボクが転移させました。」

「「!?」」

「...ヴァーちゃん。」

 

JSTの行方を安じる三人の前に、フワフワと白い裏切り者が降りて来る。

それぞれ複雑な表情を浮かべるが、マゼンタだけは一歩前に出て、ヴァーツの顔を真正面から見つめ返す。

 

「マゼンタさん、やっぱり残念です。僕の目に狂いはなかったのに。」

「...覚えてる?あたしと初めて会った時のこと。」

「勿論。それが何か?」

「...あたし、後悔してないから。だから...だからあたしは、あなたとも戦うよ。」

「...そうですか。」

 

そうつまらなさそうに返し、ヴァーツは空間に空いた穴へと消えていく。

マゼンタはその小さな後ろ姿を見送った後も、しばらく視線を空から外すことはなかった。

その瞳から零れる涙を隠すように、左右から彼女を抱き締めるサルファとベーゼ。

再び揃ったトレスマジアを祝福するかのように。

勝利の虹は、彼女たちの頭上で目映く輝くのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――-

 

「たまたま!いつもみじかるの!?ぜんぶハゲさせていいの!?」

「本当に狩ってどうすんのよ。"紅葉狩り"っていうのは見て楽しむもんなの。あとその呼び方やめて。」

「たまたま!!じゃあなんでもみじがりなの?!?!」

「それは~...えっと...。」

「たまたまねーちゃんがんば~。」

「あんたは悪意しかないわよね!?ぶっ飛ばすわよキウィ!?///」

 

真珠のツッコミ木霊する赤茶山。

の、麓辺り。

やはり大半がインドア派の都会っ子の為、山登りとまではいかなかった。

 

マゼンタの色々が解決した週末。

予定通り、はるかたちはピクニックを楽しんでいた。

普通に近場で良いのでは?と小夜は思ったが、遠い方が記念になるとはるかに押し切られ、結局そこそこな距離の、自然豊かな場所まで行くことに。

知り合い全員を誘うつもりだったが、シオちゃんズは主にトレスマジア側からすると初対面に近いので落選。

ハートフィールド三姉妹はその日は都合が悪いと辞退。

結局初期メンでのイベントになったのだった。

 

「ん?...やってみるか?」

「いいの...?」

「勿論。教えるから、触ってみな。」

「ありがと...。」

 

花菱四姉妹の三女、あきほが興味ありげにゲームを覗いているのに気付いたネモ。

普段より三割増しで優しい口調でゲームを手渡す。

 

「ちょっとネモ。外出てまでゲームしてんじゃないわよ。あきほちゃんにまでやらせて...」

「いいだろ別に。景色なら来た時に楽しんだし。」

「お子ちゃまなんだから。」

「んだよ。ついこの間までおねしょしてたベイビーはどこの誰だっての!」

「今それ関係ないでしょ!?///」

「ちわげんかだ!」

「ふーふげんかだ!!」

「DVだ~。」

「「最後のは絶対に違うっ!!」」

 

外出してまでゲーム命なネモを注意する真珠だが、なつなとみふゆ、更にキウィにまでそのやり取りを冷やかされてしまう。

痴話だの夫婦だのは否定していないわけで、二人も随分と素直になった印象を受ける。

 

「イソイソ...。」

「ふふっ、上手よこりす。将来は絵本作家なんてどうかしら?」

「完全に目線がお母さんになってるよ小夜ちゃん...。でも、本当に上手だね。」

 

黙々と景色をスケッチブックに描いていくこりすと、それを微笑みながら見守る小夜とうてな。

雰囲気は完全に夫婦とその娘である。

ちなみに、勿論ロボ子もお人形モードで同行中だ。

 

久しぶりのエロスもバイオレンスもない、穏やかで静かな時間。

ただ寄り添うだけで幸せなのは、あの夏の花火大会を思い出させる。

しかし、今回は一抹の寂しさも混じっていた。

トレスマジアが復活した今、ベーゼの離反はもう必要ない。

日常だけでなく、ヒロインの時もずっと一緒にいられたこの1ヶ月あまり。

不安な日々ではあったが、二人にとってお互いを身近に感じる貴重な時間だったのは間違いない。

名残惜しく思いつつ、けれどそれが正しいと理解している。

そんな相反する気持ちを抱きながら、二人は美しい紅葉を眺めている。

キウィが少し距離を置いているのも、その辺りを配慮しているからなのかもしれない。

 

「...(う、うてなと小夜の奴...あないラブラブしおってからに...ウチも...ウチもはるかと...!)は、はるか!?///」

「なぁに薫子ちゃん?」

 

そんなラブラブカップルにあてられた純情少女がここに一人。

薫子は隣で微笑む想い人に"あの日"の答えを聞こうと一世一代の覚悟を決める。

 

「あ、あの...っ。あん時の...あれや...す、好き...言うたことなんやけどっ...///」

「好き?...ああ、うん!あたしも大好きだよ!」

「っ!?ほ、ホンマに!?///」

「うん!あたしも薫子ちゃんのこと大好き!()()()()()()()()()!」

「いやそっちかぁぁいっっ!?!?」

 

一世一代の覚悟(笑)

大体よく考えればあれを告白と取る方が難しいだろう。

見事自爆した薫子は全霊のツッコミで自らの哀れさ、恥ずかしさを発散しようとする。

泣きそうなのはグッと堪えた。

 

「そっち?」

「気にせんでええ...こっちの話や...。」

「そ、そうなの?」

 

すっかり萎れて潰れた浮き輪みたいになった薫子。

それを心配そうにつつきながら、はるかは視線を友人たちへ順々に移していく。

 

はるかが守りたいと願う、大切な絆たち。

今日まで様々な辛いこと、悲しいこと、そして恥ずかしいことがあったが、それ以上に楽しいことがあった。

これが自分の選んだ道、その結果だと、今なら胸を張ってそう言える。

 

「みんな!ホントにホンっトーに!大好きだよっ!!」

 

はにかむ笑顔は桜の如く。

けれどその満開の輝きは、決して散り消えることはない。

彼女は、マジアマゼンタ。

この世界が誇る、最高の魔法少女である。

 

「そんなことより何で弁当箱がきのこオンリーなの?苗床にするつもり?」

「んと~...しいたけえのきえりんぎまいたけ...あぁ!?マツタケだけねーじゃん!ケチったなはるかっぴ!!」

「え、全部スルー!?ちょっとは話聞いてよぉ!?」

 

――――――――――――――――――――――――――――-

 

◼️□Next episode◼️□

 

「悪の女幹部役ははるかちゃんと天川さんね!」

「「なんでやねんっ!!」」




◼️character profile□


【挿絵表示】

・名前 :キャサリン・ハートフィールド
・年齢 :9歳
・身長 :こりすより大き(おんなじくらい
・誕生日 :2/14
・好きな物 :家族、機械全般、ハンバーガー
・嫌いな物 :バカ、ホラー系、にんじん
・最近の悩み :胸どころか背も成長するか不安
・家族しか知らない秘密 :家族の誰かと一緒じゃないと眠れない
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実は原作でも、よく見るとマゼンタの本来の真化形態と思われる姿が一部ですが描かれています。
気になる方は11巻を見直してみてください(宣伝)
次回は3/23(日)0:00投稿予定です。

※3/22追記→仕事が忙しく次回投稿延期します。出来れば29日には投稿したいですが、更に来週になる可能性もございます。待っている方がいたらすみません。
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