魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~ 作:月想
待たせてしまってすみませんでした。
月一投稿くらいだと楽ですよね(本音)
待たせた割に、今回はオリキャラ回です。
仕方ないのです。
また、負けた。
頭の中で、シャノンはそう何度も繰り返す。
彼女にとって、極東の魔法少女や悪の組織など敵ですらないはずだった。
エノルミータ討伐はおまけみたいなもので、姉や妹の海外旅行の付き添い程度にしか考えていなかった。
だからわずかな傷を負わされることですら彼女には屈辱で、怒りで我を忘れる程だった。
それが、今やどうだろう。
エノルミータにはこれ以上ない辱しめを受け、トレスマジアには真正面から敗北してしまった。
全力を解放したわけではないとはいえ、格下と思っていた相手に二度も負けた。
その事実は彼女のプライドを著しく傷付け、戦いから離れた日常ですらも曇りガラスのようにボヤけて見せていた。
溜め息を吐き、お手本のような憂鬱顔になる彼女を尻目に、同級生たちはキャッキャッとテンション爆上げの様子で何やら話し合っている。
「やっぱメイド喫茶でしょ!」
「ありきたり!ここはスク水喫茶で!」
「えっちなのはダメだと思います。」
「スク水をえっちだと瞬時に判断した...?貴様さてはどスケベだな!?」
「バレてしまっては仕方ない。間を取ってチャイナドレス喫茶はいかが?」
「どこら辺が間だ!?スリットか!?スリットなのか!?」
「者共出合え出合えぇい!!」
断っておくが、別に彼女たちは好きなコスプレ喫茶店の話をしているわけではない。
黒板にしっかり書き記されているように、"出し物"を何にするかという重要なクラス会議の真っ最中なのだ。
普段部活ですら休日に行くのが億劫な今時女子たちが、その日だけはワクワクと希望に満ちた心持ちで学校へ向かう一大イベント。
「もう
そう、"文化祭"。
主に中学~大学で行われる、体育祭と並ぶ日本では大変ポピュラーな定番学園イベントである。
部活や委員会にクラスなどの団体で飲食、アトラクション、フリマ等々の多種多様な出し物を行い、学生は勿論地域の人々とも交流を深めることを目的とした行事。
何をするかはその団体の自主性に委ねられている為、余程不適切でなければ本当に色々なことが出来る。
学校にも依るだろうが、小夜たちの学校についてはそうなのだ。
毎年かなり盛り上がることもあり、去年の経験がある分二年生の彼女たちは尚更に出し物決めに熱を上げていた。
大興奮のクラスメートたちと対象的に、小夜たちは成り行きを見守るつもりの様子。
キウィは寝ているし、薫子はどうでも良さげに欠伸を一つ。
小夜とはるかは雑談、うてなはいつも通り空気になっていた。
「魔法少女喫茶、とか...?」
「ちゃんと挙手して言ってみたら?誰もあなたを無視なんてしないわよ?」
「い、いやぁ...言ってみただけだから...。」
「まあ魔法少女喫茶だと、あたしたちコスプレじゃ済まないからねぇ。」
「そ、そうだね...あはは...。」
とりあえず喫茶店から離れたらどうか。
それこそ手を上げて言えとツッコミたい感想を抱く小夜は、ふと隣で憂鬱オーラに包まれたシャノンに目を向ける。
「シャノンは何かやりたい出し物とか、ないの?」
「...え?あ、ごめん。何か言った?」
「完全に上の空ね。文化祭の出し物、シャノンは何かやりたいとかないの?」
「文化祭...?」
首を傾げるシャノンの様子に、どれだけ話を聞いてなかったのかと呆れかける小夜。
しかし、少し考えてからあることに気付く。
「もしかして、
「え!?そうなの!?」
「文化祭まんまの名前なわけないやろ。確かあっちでは"ホームカミング"っちゅーのがあるやろ?それに比較的近い、まあお祭りみたいなもんやね。」
「あぁ、なるほど。分かりやすい。thanks。」
さりげない異文化交流。
実際問題、ホームカミングと文化祭は違うところも多いが、ニュアンスは伝わった。
両方"学校を上げてのパーティー"という意味では同じだからだ。
何となく状況を理解したシャノンだが、すぐにまた興味を無くした表情で天井を眺めようとする。
「うちの学校は特別でね?近くの中学と合同で文化祭をやるのよ。」
「そ、そうそう。真珠ちゃんとネモちゃんの学校とも一緒だよね!」
「へー。あっそ。」
「あはは...すっごく興味なさそう。」
必死にアピールポイントを説明しようとするが、シャノンは話に参加するつもりがまったくないらしい。
小夜たちは苦笑いしつつ、視線をズラリと出し物が羅列された黒板へ戻す。
「みんな!こんな普通の出し物でいいの!?今年は何て言っても留学生で超絶美少女のシャノンさんがいるんだよ!?」
「た、確かに...!」
「歴史に残るような出し物じゃなきゃ私らがここに集った意味がなくない!?」
「「た、確かに...!」」
「ならいっそ出し物を二つなんてどう!?定番と、選ばれた精鋭で行うスペシャルな出し物とか!?」
「そ、そんなの許されるわけ」
「いいぞ。ただし準備も運営も全部お前らがやるんだぞ。」
「せ、先生マジっすか...!?」
「やるしかねぇ!」
「日和ってるやついる?」
「「「いねぇよなぁ!!」」」
知らない所でいつの間にか凄まじい話になっていた。
出し物二つとか正気だろうか。
最近マジカルなハプニング続きでプライベートがないに等しい小夜たち。
文化祭くらいのんびりさせて欲しかったのだが、異様に忙しくなる可能性が出てきた。
冷や汗を流しながら、この妙に気合い入り過ぎな空気をどうしたものかと思案する一同。
「定番の方はやっぱ喫茶店でしょ。」
「モチーフは?」
「くじ引きで。」
「ギャンブルか。ヒリついて来やがったぜ...!」
多数決を行う素振りすら見せずまとまっていくクラス方針。
コスプレ喫茶はいいが、自分たちが着ることになるとちゃんと認識しているんだろうか。
それとも、それだけの恥を受け入れても見たい景色があるのだろうか。
この学校、やはり大概に百合の園である。
「特別な方は?」
「この学校軽音部ないし、バンド演奏は!?」
「最早クラスの出し物感ないけど悪くないわね。」
「シャノンさんはギター出来るよね?」
「...え?まあ、出来るけど。なんで知っ」
「じゃあバンドで決まりだね!!」
突然振られた話に素直に答えてしまうシャノン。
勝手に祭り上げられて気の毒に思う小夜たちだが、他人事でいられたのは一瞬だけ。
「待って!バンドより劇の方がクラスみんなで出来てなおかつ主役を際立たせられると思わない!?」
「そ、それだ...!」
「定番過ぎて盲点だった!」
「劇って何の?」
「ロミカとジュリエッタ?」
「ジュリエッタとジュリエッテとジュリエット?」
「ここはオリジナルでしょ!」
「この街らしい...魔法少女とか?」
「ま、魔法少女...?!」
バンドを追い出す勢いで一気に関心を奪った文化祭のド定番"演劇"。
レンチンと買ってきた衣装で大体終わりの喫茶店と違い、演劇はちゃんとした練習にセットの作成などこれでもかと手間がかかる。
その上酷い演技をしようものなら笑い者、文化祭は一気に今後人生のトラウマへと早変わりしてしまう。
当然、小夜たちはげんなり顔を抑え切れなくなる。
魔法少女というだけでテンションが上がっている、うてなを除いて。
「では配役を発表します!」
「早くないかしら?脚本の前に何で役が決まってるのよ。」
「魔法少女役はシャノンさんに小夜様にキウィちゃんです!」
「は?」
「え。」
「ぐかーZz」
あれよあれよと言う間に勝手に投票が始まり気付けば主役に抜擢されていた。
キウィに関して言えばまだ気付いてすらいない。
「悪の女幹部役ははるかちゃんと天川さんね!」
「「なんでやねんっ!!」」
ズコー!とお手本のようなズッコケとツッコミを同時にこなす元祖魔法少女コンビ。
二人は知る由もないが、見事に善悪担当が入れ替わりで配役されるという珍事態。
実は推しの意外な一面を見たいというクラスメートたちの欲望が作用し合った結果だったりする。
罪なヒロインたちと称賛しておこう。
「って何でその並びでうてなちゃんだけいないの!?」
「そ、それはまあ...私、今までで一番いい役が森のリスBだったし...。」
「いや誰も知らんやろそれ!あんただけ汚れ役やないなんて許されへんよ!?」
「え、えぇ...?」
存在感の無さに今日だけは感謝していたうてなを、連帯責任とばかりに巻き込もうとする暫定悪の女幹部コンビ。
生来の人の良さか、自然に劇はやる方向で受け入れている様子。
だが、"彼女"は違った。
「ちょっと...!魔法少女の劇なんてごめんよ!バンドの方がまだマシだわ!」
「え...。」
「シャノンさん、劇嫌なの...?」
「劇なんてアタシなしでやってよ。」
「シャノンさんなしじゃ、意味ないよね...?」
「ま、まあ...。」
まさかの主役の出演拒否。
盛り上がっていた空気は一気に冷え切り、どうしたものかとクラスは静まり返ってしまう。
過剰に拒否反応を示すシャノンをいぶかしがりながらも、周りとの軋轢を防ぐ為に小夜は一つの提案をすることに。
「じゃあ、
――――――――――――――――――――――――――――-
「ほな、いくで~?ワンツース」
「ほら見てさよちゃ~ん。アタシベースめっちゃ似合ってっしょ~?」
「おいこらアホ団子。ウチの合図聞こえとらんのかこんたこ。」
「しかもちょぉうまいし~。ほめてなでてだいてぇ~♥️」
「聞け言うとるやろがいっ!!」
「い"だっ!?なぁにすんだこのひんにゅーくそドラム!?」
ドラムスティックが宙を舞い、見事に浮わついたキウィの頭に直撃する。
キウィは犯人が薫子だと分かると同時に構えたベースを担ぎ上げ、凶器として振りかぶる。
慌てて仲裁に入る善良なクラスメート一同。
「何よ、これ...。」
「これについては全面的に私が悪い本当にごめんなさい。」
簡単な"合わせ"すらまともに出来ない状況に呆れを通り越して驚愕するシャノン。
隣には職員室に呼び出された悪ガキの保護者さながらに平謝りする小夜がいて、その場は更なる混沌に包まれていた。
「あぁもう...めちゃくちゃだよ...。」
ここは音楽室。
小夜の提案を受けて即席バンドを試してみるべくやって来たのだが、それに抜擢されたメンバーが問題だった。
というか、学校に軽音部がない時点で大体察して欲しい。
要するに"楽器経験者が致命的にいなかった"のだ。
ギターのシャノンを除けばほぼ0。
奇跡的にドラムを齧ったことのある薫子に、センスだけでベースを弾けてしまったキウィがいたとはいえ、二人はどこに出しても恥ずかしくない最高レベルの犬猿の仲。
それがバンドで最も息を合わせなければならないベースとドラムのコンビになってしまった。
この時点で学級崩壊ならぬバンド解散確定演出である。
だが、問題はそれだけではない。
自然に集まったメンバーがその三人であれば、当然
「...てか、何なのそれ。」
「カスタネットだよ!」
「いや、じゃなくて。」
「カスタネットは幼稚園で先生に誉められた程の腕だよっ!」
「...で、ウテナは?」
「えと...学芸会でやったことがあって...一回だけ音をこう、ね?」
リーン...と何とも言えない音を響かせるうてなのトライアングル。
一応合わせているつもりなのか、追いかけるように騒々しく叩かれたはるかのカスタネット。
無理矢理舞台に立たされた二人が手にしたのは、幼少の頃誰もが触れた懐かしの楽器たちなのであった。
「F○ck!ふざけろっ!!」
「キャー!?やめてシャノンそのギター10万はくだらないの下手したらクラスで弁償なのだからロックンロールだけは勘弁してぇ!?!?」
怒りが頂点に達し本場のロッカーさながらにギターを叩き壊そうとするシャノン。
必死の形相で備品を守ろうと泣きすがる小夜も合わせて、その様子はまるでDVカップル。
控え目に言って地獄な光景を目の当たりにし、文化祭に思わず舞い上がっていたクラスメートたちは目配せ。
自らの過ちを認め、非常に理性的な判断を下すことにした。
「「「バンドはなしだな。」」」
結局、消去法でもう一つの出し物は演劇となり。
小夜たちは非常に不本意な配役を受け入れ、粛々と練習に励むこととなったのであった。
「あ、脚本は柊さんね!」
「え。......えぇぇ!?!?」
――――――――――――――――――――――――――――-
「ははっ!何だそれ面白そうじゃん!」
「狙ったような配役じゃない。なかなかいいセンスしてんのね、あんたのクラス。」
「他人事だと思って...大変なんだからね!?」
あれから数日経った放課後。
演劇の練習で忙しく、しばらく顔を出せないでいたナハトベースに、私は何とかやって来ていた。
ところが久しぶりの真珠たちに事情を説明したところ、人の苦労も知らずに大爆笑をし始めた。
たまネモのくせに、屈辱だわ。
今日ここに来れたのは、とある"トラブル"があって練習が無くなったからで。
そのことについて愚痴りたかったのだが、この様子ではまともに聞いて貰えなさそうだし。
ここは一つ、話題を変えて気を紛らわせることにしよう。
「そう言うあなたたちは出し物何する予定なのよ?」
「そんなの真珠のスペシャルソロライブに決まってるじゃない!文化祭というしょっぱい舞台も、真珠がいるだけでまるでドームライブのように煌びやかでさいっこーのステージになるのよっ!☆」
「へー。本当は?」
「提案した瞬間にみんなにされたあの表情。見てるアタシがトラウマになりそうだったぜ...。」
「可哀想な真珠...未だに歌がごみかすに下手くそなんてね...。」
「違うからっ!?あれはみんなが畏れ多くて遠慮してただけだからっ!?真珠歌下手じゃないからぁっ!?」
「真珠ちゃん、泣かないで欲しいのだわ...可哀想なのだわ...。」
「フルフル...。」
思った以上に憐れなことがあったらしい。
ライブと聞くと一度案として出たバンドが思い出されて胃が痛くなる...。
あの時は奇跡的に楽器を壊されずに済んで良かった。
あのローテンション先生が、まさかあんな真っ青な顔をするとは。
ちょっとゾクゾクしちゃう。
「結局どの出し物に決まったの?」
「そりゃ当日のお楽しみだよ。」
「なによケチね。勿体振るようなことかしら。」
「まあそう焦んなって。色々大変なんだろうけど、せっかくの文化祭だろ?楽しめよ。」
「楽しんでられないから困ってるのよ...。」
「何よ?そんなに深刻なわけ?大根役者しかいないとか?」
「いや...みんな色々と修羅場を潜って来てるからか、演技は割りと上手いんだけど。シャノンも含めて。」
「なら何が問題なのよ?」
希望通り漸く悩みを話せる流れになった。
溜め息を吐きつつ、今日あったトラブルについて語ることにする。
いつものように台本を一通り読んだ後、実際に動きを付けて演じてみようというタイミングでの出来事だった。
『もう嫌...やってらんないよ、こんなの。』
突然、シャノンが台本を投げ捨てたのだ。
静まり返る教室。
どうしたのかと問い掛けようとする私より先に前に出たのは、捨てられた台本を作った"功労者"だった。
『ぁ...あのっ...何か、台本...変、でしたか...?』
『変って言うか...愛とか友情とか、そんなので勝てるわけないじゃん。』
『え...。』
『口ばっかりで、こんなんで何が守れるって言うの?』
あまりにもリアリスト過ぎる発言。
あくまでも芝居だし、題材は子どもたちの憧れであるところの魔法少女。
そんなことで臍を曲げられては困ると言いたいところだったが、そう言わせない何かがシャノンにはあった。
周りが口を挟めず押し黙る中、意外にもうてなはシャノンと目を逸らさずに向き合う。
『勝て、ます...。愛も、友情も...魔法少女の力になりますから。』
『だから、ならないって言ってんの。ウテナに魔法少女の何が分かるわけ?』
『分かりますよ。魔法少女は私のあこがれです。それを示してくれる本物が、この街にはいるんです。』
『...本物...あんなのが...?』
いつもとは違う毅然とした態度で魔法少女を語るうてな。
トレスマジアを、というよりマゼンタとサルファをだろうか。
二人を思い浮かべたであろうその言葉に、シャノンは少し動揺しているように見えた。
『台本が気に入らないなら謝ります...だけど、シャノンさんの言葉はどこか、
『っ......Sorry。今日は、帰る...。』
『あ、シャノン!?待って!?』
シャノンはうてなの質問に答えず、そのまま教室を飛び出し出て行ってしまった。
一気にざわつくクラスメートたちは、幸いうてなを責めるようなことはせずむしろ慰めてくれていた。
喧嘩とも違う、地雷を踏んでしまったような居たたまれなさ。
練習という雰囲気にはどうしてもならず、今日はそのまま解散となってしまったわけだった。
「とんだトラブルメイカーだったってわけか。」
「お芝居なんだし、そんなにリアルにこだわる必要ある?」
「こだわるって言うか...あれはたぶん、シャノンのトラウマなんじゃないのかって...。」
「トラウマって魔法少女が?」
「ええ...。」
ついこないだ打ち明けられた"事件"を思い出す。
あれと魔法少女に何か関係があるとしたら。
きっとそれを、私たちが無遠慮に刺激してしまったに違いない。
思えば、演劇が候補になった時にシャノンが拒否していたのは"魔法少女"の部分だった。
気付けるのは私だけだったのに。
「あーもう。うだうだ悩むんなら直接話して来なさいよ。そいつあんたに気があるんでしょ?」
「それ関係あるの...?」
「小夜には心開いてんだろ?なら、お前が話さなきゃダメだろうが。」
たまネモのくせにこういう時はすごくまともなことを言う。
背中を押されて漸く思い立つのは情けないけど、確かに私が話すべきだろう。
シャノンが過去を話してくれたことには意味がある。
ならば、その気持ちには応えなくてはならない。
クラスのみんなの為にも、何よりシャノンの為にもね。
「...私、やっぱりシャノンと会って来るわね。」
「へいへい。」
「キウィには浮気の報告しといたげるから安心しなさい。」
「シャレにならないからやめなさいマジで。」
悪い冗談(だと思いたい)を受け流し、自宅に向かってゲートを開く。
シャノンのいる場所は分からないが、この時間にこりすがここにいないなら、誰と一緒にいるかは想像に難くない。
「すっかり仲良しだものね、キティちゃんと。」
――――――――――――――――――――――――――――-
「何なのよあの先生!ワタシ様に気安く"お友だちが出来てよかったね"ですって!?このちんちくりんのどこが友だちだって言うのよ!」
「ムスッ...。」
こっちこそ願い下げだと言わんばかりにジト目でキティを睨むこりす。
学校からの帰宅途中、機嫌の悪い(いい時などないが)キティはずっとこんな風にプリプリ怒って隣を歩き続けている。
内容は先生だったり授業のレベルだったりへの愚痴が大半を占め、時偶こりすへのディスが含まれていたりする。
「ハァ...。」
最近、ずっとこんな調子だ。
はっきり言ってしんどい。
そんなに自分が嫌なら離れればいいのに、とこりすは小学生らしからぬ溜め息を吐く。
何故だか分からないが、キティはこりすにくっついて行動するようになっていた。
学校でも帰り道でも一緒。
おかげでクールな一匹狼から気難しい留学生のお世話係にキャラが降格してしまった。
ついでに言っておくが、さっきの"友だち出来てよかったね"云々はこりすに対しての言葉でもある。
非常に遺憾である。
何度も断っておくのだが、こりすは友だちが出来ないわけではない。
作る気がないのだ。
そう言い聞かせているのだから、そうなのだ。
「コリス、だっけ?thanks。キティと仲良くしてくれて。」
「お姉ちゃん違うからっ!仲良くなんてしてないもんっ!」
「こーら。そんなこと言ってると本当に仲良くなれないよ?」
「っ...仲良くなんて、なりたくないもん...。」
そういえば、今日は珍しく留学生の姉が一緒に歩いていたのだった。
シャノンと言っただろうか、やっぱり聞いていた話よりまともそうな人だとこりすは思う。
うてなお姉ちゃん然り、キウィ然り。
小夜お姉ちゃんを好きになる人は変人で変態しかいないとばかり思っていたが。
ぶっちゃけあの二人よりこの人と一緒になった方が小夜お姉ちゃんの為なんじゃないのか。
そんな姉思いの良妹ムーブを心に秘めつつ、大人レディなこりすは気にしていないと首を横に振ってみせる。
「コリスは見た目がアタシたちの国の人と似てるし、キティも親しみやすいんだと思う。あと、アーサーを褒めてくれたのが嬉しかったみたい。」
「あ!?シャノンでもそれ言うのは許さないんだからっ!!///」
「ふふっ、照れない照れない。」
分かりやすいくらいに頬を紅潮させるキティ。
こりすが口の悪い彼女を拒絶しないのも、彼女のこの"分かりやすさ"が故であった。
こりすだって、ツンデレという概念くらいは聞いたことがあった。
キティのこのツンツンした態度も、素直になれない反動だと理解するのは簡単だと言える。
それに実を言えば、キティはこりすの求めていた対等な精神年齢の友だち足り得る人材だったりする。
アーサーの出来といい、良く言えば群れない気質といい。
褒められなくはない点を持つのも事実。
だから露骨に毛嫌いすることもなく、何となく様子を見ているというわけだ。
「......。」
でも、こりすから歩み寄ることはしない。
というか、出来ない。
どうやったら仲良くなれるのかとか、友だちってどう始まるのかとか。
こりすにはまだ分からなかった。
経験がなかったのだから当然である。
だからこりすはこうして、姉妹の仲の良いやり取りを眺めることしかしない。
再三に渡り一応繰り返しておくが、別にぼっちでもコミュ障でもないので悪しからず。
「...でも、何で今日迎えに来てくれたの?ブンカサイの練習はなかったの?」
「あぁ...何というか。今日は、お休みだっただけ。アレックスも学校で準備があるって言ってたでしょ?だから、キティを一人にしたくないなって。」
「そうなんだ...でも、嬉しい。今日はこれからずっと一緒にいてくれるんでしょ?」
「ええ。ディナーもキティの好きなもの作ってあげるから。」
「ほんと!?じゃあえっと...ハンバーガー!」
「もっと健康的なやつじゃなきゃダメ。」
「えぇ~...。」
ほのぼのとしたやり取り。
クラスで見るキティとはまったく違う素直な様子から、本当に家族が好きなことが分かる。
こりすもお母さんが大好きで、一緒にいられる時間がとても幸せだ。
親近感を覚える光景はなかなかの高評価ポイントと言える。
つい羨ましくて誰かに甘えたくなってくる。
そう思って、鞄に偲ばせていたロボ子を抱き締めようと取り出した時だった。
「ハァ...ハァ...っ...ここにいたのね、シャノン。」
「!...サヨ?なんで...」
息を切らして現れたのは、こりすのお姉ちゃん代表こと水神小夜だった。
願ったり叶ったりの甘え先の登場に一瞬喜ぶこりすだったが、シリアスな雰囲気を感じ取り抱き着くのをグッと我慢する。
「連絡しても出ないだろうから、直接会いに来たの。こりすとキティちゃんが一緒だと思って家に案内してもらおうかと思ってたんだけど...手間が省けてよかったわ。」
「ちょっと!気安くキティって呼ばないで!」
「じゃあ子猫ちゃん?」
「日本語にしても一緒でしょうが!!」
やはり家族以外には噛みつく方向性のキティを見て、こりすは直ぐ様自分たちがお邪魔であることを察した。
キティと違い、こりすは大人のレディなのだ。
「クイクイ。」
「な、なによ!気安く触るんじゃ...ちょ、ちょっと!?」
プリプリなうのキティを引っ張り、近くの公園へ引っ張っていく。
その様子を眺めていたお姉ちゃん組も、自然に公園へ移動。
小夜たちはベンチに、こりすたちはブランコにそれぞれ居着いた。
「ブランコがしたいだなんて、あんたってホントにお子ちゃまね!付き合ってあげるんだからもっと力一杯押しなさいよね!」
「ハァ...。」
文句を言いつつ楽しげにブランコを揺らすキティ。
押し役になってしまったこりすはまたしても溜め息を吐きつつ、大人としてキティの相手をしてやることにする。
小夜はそんな妹分の気遣いに感謝しながら、シャノンへ向け話を切り出す。
「...さっきは、どうしたの?」
「別に...。」
「あなたがあんな態度をするの、普通じゃない気がして。」
「サヨに、アタシが分かるって言うの?」
「分からないから、話しに来たの。あなたを少しでも知りたくて。」
小夜に対して珍しく素っ気ない反応をするシャノンだったが、小夜はそれでも歩み寄るのを止めない。
しばしの沈黙。
やがて根負けしたようで、躊躇いがちながらもシャノンは自分の"凝り"について話始める。
「...ウテナが、アタシは魔法少女を否定してるって言ったでしょ?」
「ええ。そう見えるって...。」
「間違ってるとは、言えないんだよ。それ。」
「それは...キティちゃんのことが関係してる?」
「うん...。キティを助けてくれたのは、当時街を守っていた魔法少女なの。」
「魔法少女が...。でも、それでどうして?」
「事件の誘拐犯はね...その
「...!」
事件が起こったのは、その魔法少女が因縁の悪の組織を壊滅させた直後だった。
戦いの末、彼女は敵の命を奪うことも出来た。
しかし、そうはしなかった。
彼女は信じていたのだ。
どんな人間にも必ず善性があり、更正の余地があるはずだと。
だから、彼女は裁きを自らではなく司法に委ねた。
罪を償い、次こそ正しい道を歩いてくれることを祈って。
だが、そんな彼女の慈悲は悪人たちへは届かなかった。
奴らは直ぐ様脱獄し、魔法少女への
何の罪もない幼い子どもを誘拐し、傷つけた上で彼女への見せしめにしようとしたのだ。
幸い、迅速に魔法少女が駆けつけた為に子どもに外傷はなかったが、見た目以上の大きな傷を心に負うことになってしまった。
今でも鮮明に思い出せる、あの光景。
何度も何度も、子どもとその家族に対し『ごめんなさい。』『ワタシのせいだ。』と繰り返し謝り続け、うちひしがれるヒロインの姿を。
悪人の血で染まった、あの姿を。
「...アタシは、その魔法少女を恨んだりはしてない。恨んでるのは、彼女が背負った運命の方。」
「運命...?」
「だってそうじゃない?魔法少女になんかならなければ、彼女はそんな想いしなくて済んだんだ...。」
「それは...」
「彼女が選んだんだろって?それは、あの時の様子を見てないから言えるんだよ。あんなの、少女にさせていい顔じゃない。彼女は苦しんだのに、世界は何の得にもならない戦いを強制して、ただ正義を押し付けただけ。」
シャノンは淡々と当時を振り返り、自身の所感を述べる。
魔法少女その人ではなく、彼女にそれを強いた運命こそが憎いのだと。
「私にとって魔法少女は憧れのヒロインなんかじゃない。その子とその大切な人たちを不幸にする、"呪い"なんだよ。」
「魔法少女が、呪い...。」
小夜が前世から夢見ていたまほあこの世界。
そこには他の魔法少女モノに見られる過酷な運命など皆無だと思っていた。
だが、それが間違いであると既に彼女は知っている。
かつて対峙した"呪い"その物の怪物。
そんな物が存在している以上、この世界に悲劇があるのは必然だ。
善と悪、ヒロインになることの意味。
今まで曖昧にして来たすべてが、小夜の心に重くのし掛かる。
「...話してくれて、ありがとう。」
「こんなこと話したの、サヨが初めて。重いよね、これじゃあ...。」
「私がお願いしたんだから。普通の人間には分からない、難しい話よね...。」
シャノンは小夜を信頼したからこそ、辛い過去を明らかにしてくれた。
その気持ちに応え、そして何かを与えたい。
小夜は必死に考えをまとめ、自身の想いを言葉にしていく。
「...その魔法少女は、今も一人で戦っているの?」
「今は...今は、違う。仲間がいる。」
「そっか...。じゃあ、きっと。彼女は自分のことを不幸だなんて、思ってないんじゃないかしら。」
「どうして?」
短い問い返しに籠る苛立ち。
何故そんなことが言えるのか、お前に何が分かるのか。
そんな隠し切れない激情を感じ取りながら、小夜はそれでも話を止めない。
「友情とか、愛情とか。それだけじゃ救えないのは確か。でも、そうやって何もかも犠牲にして強くならなくちゃいけない人にこそ、綺麗事が必要だと思うの。だって、守りたいモノがあるなら...始まりはきっと、友情や愛だったはずでしょう?」
「でも...それじゃ何の慰めにも...。」
「独りじゃないのは、その人がまだ最初の気持ちを無くしたわけじゃない証拠よ。彼女に共感して、支えたくて、憧れて。正しいことをしたいと集まった仲間がいる。それは魔法少女にとって何より心強いことだし、自分の歩んできた道を信じる力になると思う。たとえ、一度選択を誤ったとしてもね。」
「...仲間が、愛や友情の証ってこと?」
「すっごく綺麗事だけどね。」
その魔法少女を小夜は知らないし、今どんな気持ちで戦い続けているのかは分からない。
だが、仲間を増やし魔法少女でい続けているのであれば、それは何か"答え"を得たからだと思うのだ。
シャノンの言っている運命への憎しみなど、彼女は考えていないはず。
そんな気持ちでは戦えない。
それなら仲間が止めるはずだ。
現実性のない綺麗事じゃない。
何故、魔法少女は愛や友情を謳うのか。
それは決して、一度も挫折を知らないからではなく。
奮起する為の力に、"魔法"になるからだ。
実際そうなのだと、小夜はつい最近目にしたヒロインたちの勇姿を思い出す。
「うてなが言ってたのは、そういうこと。魔法少女に幻想を背負わせているわけじゃないの。あの子はただ、劇を通して感謝と応援を伝えたいだけ。」
「...。」
「素直に飲み込めないのは分かる。でもシャノンだって、本当はその魔法少女に言いたかったんじゃないの?"ありがとう"と、"がんばれ"って言葉。」
「!......言われてみれば、ずっと言ってなかったな...それ。」
シャノンの考えを否定するつもりはない。
気にするななんて無責任なことも言わない。
少しモチベーションを変えるだけでいい。
魔法少女になる必要はない。
ただ素直な気持ちで、魔法少女たちの幸せを祈り演じればいい。
"あなたたちの背中はこんなに輝いて見えています"、と。
「それに難しく考えることなんてないわ。現実と理想とか、正義と悪とか。そんな難しいこと分かるわけないじゃない。私たち、まだ子どもなんだから。」
「子ども...ははっ...子ども、か。確かに、中学生だったね、アタシたち。」
「そうよ!あそこで楽しそうにブランコしてる、可愛い小動物たちと同じ。」
「アタシもまだまだ
小夜に手を引かれ、シャノンはキティたちの元へ向かう。
何かが大きく変わったわけではないが、一歩踏み出すきっかけは掴めた。
この日を境に、彼女は変化していくことになる。
そんなことを彼女が知る由はないが、その日はとにかく気持ちが上向いた。
こりすやキティ以上にはしゃいで、子どもらしく遊び倒したのだった。
――――――――――――――――――――――――――――-
「お帰りなさいませ!
「解せぬ。」
時系列が飛びに飛びまくって、もう来てしまった文化祭当日。
私たちの血と汗滲む努力シーンをお蔵入りとか喧嘩売ってるのだろうか?
これはこれで解せないのだが、そんなメタ的な部分より気にかかる問題にまさに今、私は直面していた。
「さっすが小夜!本職は違うねぇ!」
「衣装代も浮いちゃったし!」
「よっ!小夜たんマジ巫女!」
「みっこみこにしてやんよ!」
「全員折檻が必要みたいね...?」
「巫女だけに!」
「セーラーだけに!?」
「シバくわよ?てかシバくわね。」
寄って集っていじりおって...!
慣れた手つきで袴をたくし上げ下手人たちを追い回す。
覚えているだろうか?
出し物を決める時に"コスプレ喫茶"が候補に出ていたのを。
劇と合わせて無謀にも二つの出し物をすることになったこのバカクラス。
コスプレ内容はドキドキのくじ引きとなったのだが、引き当てたお題がまあ酷かった。
何が酷いって、見た目は清楚だしクラスから反対意見は聞こえてこないしで、
「何でよりによって
そう、巫女さん喫茶。
和風なのに出しているメニューがコーヒーとオムライスとはこれ如何に。
なんだ、神主様って。
客全員私にお父さんだと思えってか?
解せぬ。大分解せぬかなり解せぬ。
一応私は家業として巫女さんをしているのであって、それを"コスプレ"と面白がられるのは大変に遺憾なのだ。
何故こんな特殊なタイミングで婦警さんやCAさんの気持ちを理解しなければならないのか。
いつもクールでバブい小夜さんも流石にムカ着火ファイアーである。
「さよちゃんたまんねぇ~...///」
「や、やっぱり似合うね...小夜ちゃん///」
うてなとキウィの熱視線が突き刺さる。
それはなかなかに快感なのだが、何着ても同じ反応が返って来そうなのも確かだ。
二人も当然巫女服なわけで、私としてはそこだけが清涼剤。
うてなもキウィも何となく小悪魔な雰囲気が漂っていて、神聖な服装とは微妙にミスマッチなのが素晴らしい。
控え目に言って誘惑して欲しい。
「小夜様小夜様!ご指名ですの!わたくしたちにご奉仕お願い致しますわ!」
「サヨ!この"おみくじたこ焼き"にゴリヤクチューニューお願いしマース!!」
「もごもご...おいしくない...。」
「は、はーい...ただいま参ります...。」
指名サービスなどないと何度言ったら分かる。
水商売扱いか貴様ら。
そんなどっかの誰かさんが言いそうな台詞を思い浮かべつつ、一際騒がしい席へ接客に向かう私。
そこにはあまりに珍しい組み合わせの三人組が、それぞれ個性を爆発させ着席していた。
「クラスメート、なんですよね...。」
「そのお話は先程...ハッ!?これは回想の匂いが致しますわね!?」
「OK!任せてくだサーイ!ワタシとモモ、ランダはクラスメート!まさにシンユーでマブなフレンズだったのデース!」
「一緒にしないで...。」
「は、はは...(汗)」
何だか今日は全員メタいなぁ...。
さっき明かされた衝撃の真実。
百花さんこと変態メガネと蘭朶さん。
そしてハートフィールド三姉妹の長女アレクシアさんは"クラスメート"だったのだ。
偶然と言うのは重なるものである。
そのぶっ飛びがちなテンションが合うのか、百花さんとアレクシアさんはかなり仲がいいらしく、先程から騒がしくも楽しそうに世間話をしている。
どう見ても蘭朶さんは嫌がってるんだけど、何だかんだ付き合いがいいタイプなのかな...?
「百花が全部奢ってくれるって言うから...ついてきただけ...。」
「あぁ、食べ物目的で...。」
「あんまり、おいしくない...もぐもぐ。」
「文句言いつつすごい食べますよね...。」
オムライスだけで三杯は食べている。
みち子がいないとギアが下がって目立たなくなるけど、大食いキャラ一本で埋め合わせようとしてないだろうかこの作者。
安直で本当に仕方ない奴だ。
「ウテナもキウィも巫女サン似合ってマース!一緒に写真撮りマショー!」
「わ、わっ!?アレクシアさん近い、ですっ!?///」
「おわすっげ!?さよちゃんよりでっかぁ!?」
ニコニコと"私の"(←重要)二人を抱き寄せて写真を撮るアレクシアさん。
当店お触りは禁止となっております。
あと私と比べるのやめて。
後三年あれば私だってもうバインバインだから。
萎れてくのはそっちが先だから。
そこんところ夜露死苦。
「ちょ、何でいんのよアレックス!?」
「Oh!my very very pretty sister!妹巫女サンも最高デース!!」
タイミングよく教室へ戻ってきたシャノンver.巫女服。
お姉さんにその姿は大変に効果覿面らしく、直ぐ様ダイナマイトハグの餌食に。
姉妹仲が良くて微笑ましい。
まあ、シャノンはすっごく鬱陶しそうだけど。
「離せ暑苦しい...!来るなら先に言っといてよ!」
「Surpriseデース!」
「知るか!...って、キティは?まさか置いて来たんじゃないでしょうね!?」
「No problem。キティもちゃんと来ていマース。」
「なら何でここにいないのよ...?」
ドライな妹から心配性な姉に早変わりするシャノン。
そういえば、今日はまだキティちゃんを見ていない。
てっきり留守番なのかと思っていたが、よく考えればそんな可哀想なことをこの二人がするわけがなかった。
と、なると...。
「キティは
「!...それは、よかったけど...もしアタシたちがいない時に何かあったら」
「シャノン。キティも強くなりマシタ。守ることと縛ることは紙一重。ワタシも、
「...分かった。これもキティの為なんだよね...。」
「That's right。」
ああやって諭しているのを見るとアレクシアさんという人が分からなくなる。
百花さんやうてなと気が合う変人なのに、底が見えないというか...。
やっぱりあの二人のお姉さんらしく、聡明な人なんだろうと思う。
ところで、私もお姉ちゃん(仮)として聞き捨てならないワードが聞こえたのだけど。
「割って入ってごめんなさいね?キティちゃんのデート相手、もしかしなくても私の知り合いじゃないかしら?」
――――――――――――――――――――――――――――-
「ふんっ!こんなのでよくフェスティバルなんて言えたわね!ただの出店の集まりじゃないの!」
「ムス...。」
苛立ちを堪えるように、こりすは人形となったロボ子をきつく抱き締める。
今日はそこそこ楽しみにしていたお姉ちゃんズの文化祭当日。
まともな出し物をしているか保護者としてチェックしてやろうと息巻いていたのだが、そんなワクワク気分はとある理由により憂鬱気分にすっかり変わってしまっていた。
「ちょっと、ちんちくりん!あんたがワタシ様を誘ったんだから、少しでも楽しめるようもっと頑張ったらどうなの!」
「ハァ...。」
断じて誘ってない。
自分で勝手について来たんだろという言葉を飲み込み、こりすは小さく溜め息を吐く。
嵐の留学生に何故か気に入られたこりすは今日も偶然ばったりとキティと出会し、流れで一緒に文化祭へと向かうことになった。
その偶然はキティが用意したこりすの起床時間予想や複雑なルート計算を用いた渾身の必然だったりするのだが、そんなことはこりすが知る由もない。
そうまでして文化祭を回ろうとしていたはずなのに、到着するや否やキティは喜ぶでもなく文句たらたらで不機嫌に振る舞うだけ。
それを間近でひたすらに聞いているわけだから、こりすのメンタルもごりごりと削られこの歳にしてストレスで胃の痛みを感じていた。
「キョロキョロ...。」
このままこいつに意識を割いているとせっかくの休日が台無しだ。
無視して何か面白そうな出店に行ってみようとこりすが周りを見渡してみると、お祭りなどでお馴染みの"射的"屋台があった。
景品は安そうな小さなおもちゃや駄菓子が主だが、その分難易度は低いのか、
「ねーちゃんすごい!」
「かっこいい!!」
「すないぱー...。」
「えっへん!そうだよ!"サクラスナイパー"の異名を持つこのはるかおねーちゃんが欲しい景品ぜーんぶGETしちゃうからね!」
ピンクい後ろ姿が4つ並んで揺れている。
間違いなくはるかとその妹たちだろう。
はるかだけ巫女服なのは出し物関連だろうか?
サクラスナイパーというのはよく分からないネーミングだが、妹たちを喜ばせる姿はお姉ちゃんポイント大量加点。
こりすとしても微笑ましい光景に、ほんの少し心がリラックス出来た。
「グー...。」
リラックスしたら何だかお腹が空いてきた。
はるかたちへの挨拶と射的は一旦置いて、まずは軽く何か食べてみよう。
再び周りを見渡そうとしたところで、何とも食欲をそそる"ソース"の焼ける匂いがこりすの鼻腔に届いた。
匂いに釣られるまま移動すると、そこには予想通り"たこ焼き"の出店が出ていた。
射的といい今のところ完全に夏祭りだな...なんてダメ出しを浮かべつつ、店に近付くこりす。
だがまたしてもいた先客を見てその足を止め、
考え得る限り最悪の客が、今まさに店員役の学生と口喧嘩を始めていた。
「せやからはよたこ抜けばええやんか!」
「せやかてたこ抜いたらたこ焼きやなくなるやんけ!?」
「ウチがたこ焼きや思たらたこ焼きやねん!」
「うちはたこ焼きを売っとんねん!大阪人のプライドとしてたこ抜き焼きなんてボケたもん絶対売らへん!」
「たかが文化祭の屋台が何こだわり見せてんねん!」
「大阪人が出すたこ焼きに舞台のでかいちっこいは関係ないねん!あんたも大阪人なら分かるやろ!?」
「ウチは京都人や一緒にせんといてんか?!」
巫女服姿と綺麗な金髪に似合わない捲し立てるような関西弁。
あれはたこ絶対許さないマジアこと、天川薫子だ。
相変わらずたこ焼き屋によく分からない圧を掛けている。
言い返している店員を応援したいが、どちらも関西弁のせいでいまいち聞き取り辛い。
とりあえず京都を威張るのであればもう少しお淑やかな振る舞いをすべきじゃないだろうか。
あれではもう、夜のネオン街で言い合う大阪のチンピラにしか見えない。
お姉ちゃんポイント大量減点。
はるかお姉ちゃんとは雲泥の差、キウィといい勝負である。
「ちょっと!置いてくんじゃないわよ迷子になっちゃうじゃない!あんたが!」
「ビシッ。」
置いていかれて不安だったのか、怒りながらこりすと合流するキティ。
この場合迷子はお前です。とキティを指差すこりすだが、すぐに空腹に意識を向け次なる食事処を探し始める。
「あんた聞いてんの!?勝手にずかずか...って、何よこの匂い?」
「クンクン...。」
どうやら不機嫌な子猫にもこの匂いの魔力は届いたらしい。
先ほどとは少し違うソースの匂い。
頻繁に叩かれる鉄板の音がその手捌きの熟練さを訴え掛けてくる。
導かれるままに辿り着いたのは、これまた夏祭りで見掛けた定番屋台。
「焼きそばいかがですか~!出来立て具沢山の特製焼きそば!安いよ~!おいしいよ~!」
威勢のいい店員の声が屋台らしく、お祭り気分を煽って訪れる人のテンションを上げていく。
ここだ。この焼きそばだ。
確信したこりすは意気揚々と焼きそば店に並び自分の番を待つことに。
後ろではまだキティがぶつぶつ言っているが、そんなことはどうでもいい。
落ち着け、私はお腹が空いてるだけなんだ。
そう自分に言い聞かせ、今か今かと購入の瞬間を待ちわびる。
そういえばどこかで聞き覚えのある声だな、と考えている間に、漸くこりすの番がやってきた。
「へいらっしゃい!注文は焼きそば1つで...ってなんだ。杜乃ではないか。」
「!」
聞き覚えがあるのは当然。
焼きそば店の店主は苦労人でお馴染み、イミタシオことロードさまこと田中みち子こと有能なコンビニ店員だったのだ。
あまりに溶け込み過ぎな屋台スタイルで気付かなかった。
「...?」
などと自然に受け取っていたが、よくよく考えればみち子は中学生ではない。
立派な二十歳ジャストの魔法少女に変身するには痛すぎる年齢のはずだ。
ここで営業しているのはおかしい。
不正の匂いがする。
お金に困っていると聞いていたが、違法営業は犯罪だと聡いこりすは理解していた。
みち子に気付かれないようこっそりとスマホを構え通報の準備をする。
「おい。何を失礼な想像をしている。私は店長の伝で出し物の応援に来ただけだ。」
「...?」
「今年は出店の飲食枠が少なかったらしくてな。そういう場合は近隣の信頼出来る法人等に出店依頼を出すらしい。」
「...コクリ。」
話は分かった。
が、"店長"とはあのやたら愛想がいい割に底が見えない黒ギャルのことだろうか。
学校に伝と言うと、卒業生とか?
だがやっぱりおかしい。
そもそも、何故コンビニが焼きそばの屋台を出すのか。
前々から気になっていたのだが、あの店長は一体何歳なのだろう。
考えれば考える程謎が深まる。
浮かぶ疑問たちを無理矢理頭の片隅に押し込めて、こりすはスマホをしまう。
今は腹ごしらえが最優先だ。
「ビッ。」
「300円だ。」
「ジト...」
「値切るな。特別扱いはせん。」
「ムスゥ。」
「後ろの
「コクリ。」
後でちゃんと全員に報告しようとこりすは決心する。
まけるなら自分の分にして欲しいし後ろのやかましいのは友だちじゃない。
今日のこりすは残念ながら、ご機嫌斜めなのであった。
――――――――――――――――――――――――――――-
「モグモグ...ペコリ。」
「まあ、なかなか悪くなかったわね。シャノンの手料理には負けるけど!」
何だかんだ絶品だったみち子印の焼きそばを平らげ、そこそこにお腹も機嫌も回復した二人。
外は如何せん夏祭り感が強すぎる為、文化祭らしく文化を感じるべく小夜たちの学舎へと歩を進めることになった。
「中も大したことないわね。」
「キョロキョロ。」
期待通り、部活動やクラスの研究成果の展示が多い。
十分健全な内容なのだが、キティからすれば地味でどうでもいいものだったらしい。
料理教室やおもしろ実験体験など、気になる内容はあったが足を止めるには能わず。
ついに3Fの端までやって来てしまっていた。
「...?」
「何よここ。暗くて黒くて...ひっ!?」
ゴミ袋を割いたような黒いビニールで覆われた教室。
入り口には火の玉や本で見るような、一つ目の鬼やら河童やらが描かれていた。
おまけに、中からにわかに聞こえてくる定番のおどろおどろしいBGM。
間違いない。
こりすでも知っている、文化祭の定番ランキング第四位(エノルミータ調べ)。
"お化け屋敷"だ。
「あれ?なんだこりすじゃんか。小夜から聞いて来たのか?」
「フルフル。」
受付と思われる幽霊、の格好をしたネモに気付く。
白装束を来ただけでこのリアリティ。
もっと健康的に生きて欲しいとこりすは切に祈る。
合同で文化祭をするとは聞いていたが、まさか他所の学校でお化け屋敷とは。
中学生はリスクとコスト度外視になるくらいパリピと化してしまうのかと、自らの行く先が不安になってくる。
「そっちは友だち?」
「フルフル。」
「照れんなって。せっかくだから入ってくか?真珠が中で面白いことになってんぜ?」
「ケッ。」
「子ども騙しって...最近何だか冷たいこと言うようになったよな。反抗期か...?」
素人のお化け屋敷なんて時間の無駄。
ホラー映画も真顔で見流すこりすには今更刺激が少な過ぎるのだ。
大して見るものもないし、さっさと小夜たちを冷やかしに行こうと踵を返したその時。
「ご、ゴースト...?」
「...?」
入り口を見たまま青い顔で固まる、キティの姿が目に留まった。
そういえばさっき、小さく悲鳴を上げていたような。
まさか、と思い再度キティを観察する。
小さく震える姿は完全に怯えているようにしか見えない。
そう思った瞬間、こりすは心の中で現実では絶対に見せないような笑顔を浮かべる。
小夜譲り、ではなく生来持っているこりすの才能。
真性の"ドS"。
悪の華が、今まさに開花しようとしていた。
「クイクイ。」
「は、ハァ!?誰がこんな子どものお遊戯に付き合うもんですか!大人のレディは時間を無駄にしたりしないのよ!」
「クスクス...。」
「こ、こわくなんかないわよっ!?ただワタシ様はつまらないって話を」
「ハァ。フルフル。」
「っ...そんなに言うなら入ってやろうじゃない!?お化け屋敷なんてこわいわけがないんだからねっ!?」
こりす、心の中でガッツポーズ。
キティには悪いが隙を晒したそちらが悪い。
今日これまでの鬱憤をしっかり晴らさせてもらおう。
「二名様、ごあんな~い...。」
「っ...は、離れるんじゃないわよ...?」
「コクリ。」
ネモの幽霊っぽい受付にすらビビるキティ。
こりすの裾を掴んで強がっているが、それだともう恐がって親にすがる子どもと何も変わらない。
別の意味でワクワクしながら、こりすはキティとお化け屋敷へと足を踏み入れる。
「な、何なのよこの音...っ」
日本ではお馴染みのお化け登場シーンに流れるあのひゅーどろどろなBGM。
日本人からすれば定番過ぎて逆に和むと思うが、アメリカ人のキティは違う。
聞き慣れない音に狭く暗い空間、そして壁を覆う妖怪や幽霊の絵に分かりやすく怯えている。
「ひぃっ!?な、ななななになんなのぉ!?!?」
「クスクス...」
突然額に感じたひんやりぶよぶよの感触に悲鳴を上げるキティ。
正体はこりすが難なく避けた吊りこんにゃくなのだが、これまた外国人には馴染みのない食べ物。
情けないクラスメートの姿にこりすはどんどんその笑みを深めていく。
「ちょっと...もう少しゆっくり歩きなさいよ...」
「...?」
本当にいいのか?とでも言うように首を傾げるこりす。
何故ならゆっくり歩けと言われたタイミングで、直ぐ側に
ニヤリと見えないように笑いながらその場で一時停止。
"役者"の登場を待つことにする。
すると、まるでこちらが立ち止まるのを待っていたかのように、かちゃり...かちゃり...と食器が擦れるような小さな音が聞こえてきた。
「!?こ、今度は...なんなのっ...!?」
キティの100点満点なリアクションに拍手したくなる衝動を我慢し、こりすはある有名な怪談を思い出す。
『いちま~い...にぃま~い...』
「だ、誰...!?」
皆さんは、"皿屋敷"という江戸時代の怪談をご存知だろうか。
端的に説明すれば、"家宝の皿を1枚割ってしまった侍女が井戸に身を投げ死んでしまい、死して尚皿を割ってしまったことを悔やみ続けた"という昔ながらな怪談話である。
内容を知らなくとも、これから始まる有名シーンだけは誰でも見覚えがあるはず。
『きゅうま~い...ちょ、まじ...いちまい、たりないんですけどぉぉぉーーっ!!!!(血)』
「きゃあああぁぁぁーっ!?!?!?」
井戸からゆっくりと現れた白装束。
頭から血を流し、物もらい以上に醜く膨らんだ左目を見せつけ、身の毛もよだつ叫び声を上げる女性。
女性というか、まあ。
真珠だった。
「たすけてぇぇっ!?あぁさぁー!?!?」
『Bow!』
『ぎゃっ!?な、なによこのAIBOいだっ!?いだだすごくメタルを感じるぅ!?!?』
主人の叫び声を聞き勇敢にお化けに立ち向かうアーサー。
そんな機能もあるのかと感心しながら、さっきのギャル口調お菊さんは如何なものかとこりすは頭を捻る。
オリジナリティは感じるが、あれでははっきり言って恐くない。
ちょっと可愛げが出てしまう。
いいとこ30点だ。
『真珠はアイドルなのにぃ~...!』
「?」
いつの間にかキティの姿が消えている。
ひっくり返ったアイドル地縛霊を無視して直進。
驀進キティに薙ぎ倒された魑魅魍魎、もとい学生たちを踏み越えて、出口まで辿り着く。
「おっ。どうだったこりす...ってまあやっぱ恐くなかったって顔だな。真珠のメイクとか割りとよく出来てたんだけどなぁ。」
「フリフリ。」
「あぁ、あの友だちの子?すげー悲鳴上げながら階段降りてったぜ?あの感じじゃ外まで逃げてるかもな。恐がってくれてありがとうって伝えといてくれ。」
「コクリ。」
受付で暇そうにしているネモに挨拶し、こりすは道なりに中庭まで出てみる。
すると期待通り、花壇の隅で踞るキティを発見した。
「あ、あんたっ...離れるなって言ったじゃないっ!」
「フルフル。」
「ち、違うわよっ!ワタシ様があんなのでビビって逃げるわけないじゃないのっ!」
「クスクス。」
「な...なによ、なによなによなによぉっ!!恐がってないもんっ!気持ち悪くて嫌いなだけだもんっ!!」
涙を浮かべて反論するキティ。
その非常に子どもっぽい言い分が滑稽で、つい笑ってしまう。
だが、大人と違い子どもはちょっとしたやり取りが冗談で済まなくなる繊細なモノ。
こりすの態度はキティを挑発するだけではなく、必要以上に彼女の心を傷付けることになってしまった。
「こんなとこ来るんじゃなかった...あんたなんかについて来るんじゃなかった...!!」
「...。」
「だいっきらい...!!」
「!」
泣きながら脇を走り去るキティ。
こりすはとても不思議な感覚だった。
大嫌いと言われ、心がざわついたのだ。
追い掛けることも出来ず、その場に立ち尽くす。
迷惑に感じていたはずのクラスメート。
少し痛い目に遭わせてやろうと、もし泣いても面白がろうと思っていたはずなのに。
何故かこちらの心も傷ついたような。
そんな罪悪感を誤魔化すように、こりすはろぼ子を抱き締める。
「ブンブン...。」
切り替えよう。
これで迷惑な留学生は近付いて来なくなるだろうし、こりすの静寂は守られた。
いいことじゃないか。
こういう時は買い物でもして忘れてしまうに限る。
ママに教わった気分転換を実践する為、こりすは"フリーマーケット"の出し物を見ることにする。
「あ、いらっしゃ~い!」
「わわ...すっごい可愛い女の子。まつげしぱしぱだ...。」
「...。」
妙な置物やお古の洋服が並べられている中で、端に置かれた猫のぬいぐるみが目に留まる。
手に取ってみると少し重く、お尻部分に何かのスイッチが付いていた。
「それ、気に入った?」
「電池を入れてスイッチを入れると、ちょっと歩いて鳴き声が鳴るんだよ!」
「パァァ...!」
「ふふっ、今見せてあげるね。」
キティのアーサーを羨ましく思っていたからか、仕掛けぬいぐるみに目を輝かせるこりす。
ところが、学生がいくら弄ろうと鳴き声は鳴らないし、動く様子もない。
「あ、あれ~...おかしいなぁ...。」
「壊れてんじゃないの?結構古いやつでしょ?」
「えぇ~...大事にしてたんだけどなぁ。」
「...?」
「ご、ごめんね?壊れちゃってるみたいで...流石に壊れてるのを売るわけにはいかないから...。」
「ションボリ...。」
期待してからの裏切りに目に見えて落ち込むこりす。
気晴らしになるどころか余計にテンションが下がってしまった。
ロボ子を抱き締める力が更に強くなる。
仕方ない。
大人のレディとして潔く諦めることも大事。
そう言い聞かせて、重い足取りで店を後にしようとした時だった。
「...ちょっと。それ、直したら安くしてくれる?」
「!...?」
こりすがゆっくり振り返ると、そこにはもういないはずのキティの姿があった。
先程のことが夢ではなかったと証明するように、その目はまだ赤く腫れている。
「安くっていうか...直してくれるならタダでいいよ。その方がこのぬいぐるみも幸せだろうし。ね?」
「うん!」
「気前いいじゃない。ほら、さっさと行くわよちんちくりん。」
差し出されたぬいぐるみを受け取り、さっさとベンチに向かっていくキティ。
こりすは戸惑いながらもキティの後を追うことにする。
キティはどこからか取り出した工具でスイッチ付近を分解し、観察。
1分も掛からずに中身を弄り始めたと思えば、またすぐに組み立てて、何でもない元通りの姿にしてしまった。
「はい。直ったわよ。」
「...?」
「ほら。」
『ニャー、ニャー。』
「!?」
ぽちりとキティがスイッチを押すと、気の抜けた鳴き声と共によちよちとぬいぐるみが歩き始めた。
「パァァ!」
「ふふん。ワタシ様にかかればこんなおもちゃ朝飯前よ!」
「パチパチ!」
「ふふん!」
「......。」
「なによ?もっと褒め称えなさいよ?」
鮮やかな手並みに感動と喜びを伝えていたこりすだが、すぐに再度困惑の表情を浮かべる。
"大嫌いだ"と去ったはずのキティが何故また戻って来て、こりすの為にその技術を使ってくれたのか。
彼女の行動は不可解で、流石のこりすも戸惑いを隠せなくなっていた。
「...あんた、怒ってたんでしょ?」
「...?」
「お姉ちゃんに、言われてたから...ひどいこと言ってると、優しい人でも怒って、嫌われちゃうって。」
そういえば、以前の帰り道にそんなことを言っていたかもしれない。
かなり当たり前の話だが、今更反省したということなのだろうか?
なかなか手厳しい感想を抱くこりす。
「......ほんとは、その...初めてだったから...同い年の子と、話したり、見て回ったりするの...それで...」
「......。」
自信満々の態度はそこになく、不安そうに短い言葉を繋げていくキティ。
文句を言いながらも文化祭に来たり、バカにしつつもこりすから離れなかったり。
誰だって端から見ればキティがこりすとどうなりたいのかなんて簡単に理解出来る。
だからと言って、キツく当たるのはどうかと思うが。
でも、こりすだってどう接したらいいのか分からずに、彼女に一度も口を開いたことがない。
"拒絶されている"と、そう思うのではないだろうか。
だからきっと、彼女も今のこりすと同じ気持ちになったのだ。
バカにして、バカにされて。
怒って、怒られて。
嫌って、嫌われて。
『あぁ、これじゃお互い様だな。』
自分と同じ辛さを与えるだけなのは嫌だな、と思ったから。
キティはこうして戻って来たのだ。
謝りたくても素直に言葉が出なくて、だからおもちゃを直すなんて手間を掛けたのだろう。
「...フリフリ」
「別に、あんなの朝飯前って言ったでしょ。アーサーはもっと複雑なんだから。」
「コクリ」
「ふ、ふんっ。漸くキティの偉大さが分かったみたいね。......あんたは、何か得意なこととか...ないの?」
「......カキカキ」
「絵を描くのが好き?お話も?...ふーん。まあ、悪くない分野ね。」
不器用ながら初めて落ち着いた会話をする二人。
意外にも、こりすの趣味を笑うことはせず肯定的に返すキティ。
「シャノンお姉ちゃんがね、おとぎ話とか好きで...昔はいろんなおはなしを読んでくれたの。キティが天才って分かってからは、そういう機会もなくなっちゃったけど。」
「ビッ。」
「子どもっぽいって笑われちゃうわよ。」
「パタパタ。」
「うん。優しいお姉ちゃんだよ。」
幼少の思い出を少し寂しそうに語るキティに、いつでも一緒の姉がいて羨ましいと伝えるこりす。
肯定しながらも、キティの表情は少し暗くなった。
「...いつも一緒なのは、キティがいつまでも弱い子猫だから。頭が良くても何もいいことなんてない。大好きな人たちに心配かけて、守ってもらって...だから本当は大丈夫って。一人で平気だよって、言わなきゃいけないんだけど...。」
「...フルフル。」
「寂しいと思うのは、悪くない...?」
「コクリ。」
守ってもらうだけの悔しさも、一人きりの寂しさも。
こりすには実体験としてよく分かることだった。
だからこそ、そう考えるのが子どもっぽいとか、悪いことだとは思わない。
何故ならそれは、大切な人たちと大好きという気持ちが繋がっている証拠だと思うから。
ママだっていつも仕事で忙しいと"寂しい、寂しい"などとメッセージを送ってくる。
大人だって寂しいのだ。
甘えることは自分だけじゃなく、繋がっている人を幸せにすることでもある。
家族とはたぶん、そういうものなのだろう。
「...ふふっ。あんたも甘えん坊ってこと?」
「コクリ。」
「...ワタシも、誰かに甘えてもらえるような、大人のレディになれるかな?」
それでも甘えるだけじゃなく、誰かに頼られる自分になりたいと願うなら。
きっと家族だけじゃ足りない。
知らない誰かと関わって、仲良くなることが必要だ。
甘えるだけじゃダメな、支えては支えられての関係性。
対等で、それでいて強い結びつき。
簡単そうで実は難しい、子どもが最初に直面する試練。
「あの...ワタシ...ワタシね...?」
「...。」
「っ...ワタシ、こりすと!」
人はそれを、"友だち"と呼ぶ。
「...コクリ!」
――――――――――――――――――――――――――――-
「うてなちゃんママさよちゃんママ~☆こっちこっち~☆」
「あ、すみません阿良河さん。」
「ありがとうございます、席を取って頂いて...。」
パイプ椅子が並べられ、カーテンで薄暗く演出された体育館。
最前列に陣取る幼い少女が、妙齢の女性二人へ手招きする。
「キウィちゃんたちの晴れ舞台だもん!☆一番いいところで見届けないとね☆」
「うてなは劇には出ないみたいですけど...。」
「うてなちゃん、脚本が書けるなんてすごいですよね☆」
「昔から好きな方面にしか力が出ない子なんです。もう少し勉強も頑張ってくれるといいんですが...。」
「それでも素敵な才能です☆」
「そうですよ柊さん。小夜なんてあれであがり症だから、主役なんて私心配で。」
「さよちゃんと主役だ!ってキウィちゃんすっごく喜んでましたよ~☆」
「あらあら、まあまあ。」
ママさんトークに花を咲かせる保護者たち。
端から見るとママ友+似てない幼女と言う違和感満載な組み合わせなのだが、実は当のママ二人すら未だに困惑していたりする。
娘たちが非常に仲良しの為、自然と知り合う形となった三人のママたち。
キウィママを見る度"若さ"と"理不尽"に苦しむデメリットはあるものの、関係は良好。
今日もこうして仲良く娘たちの舞台を見に来たというわけだった。
「水神さん!どうもご無沙汰してます!」
「あら、花菱さん。お久しぶりです。なつなちゃんたちも大きくなりましたね。」
「「「こんにちわ!」」」
「はい、こんにちは~。」
反対側の席には桜色の髪を肩にかかるくらいに切り揃えた快活そうな女性が、三つ子をあやしてカメラを構えていた。
「お初です~。天川薫子の母です、いつもあん子がようしてもろうて。
ほんまにお世話になってます~。」
「薫子ちゃんのお母さんですか!はじめまして!こちらこそお世話になってます!」
容姿がそれぞれ似ているからだろうか、初対面にも関わらず娘の友だちの母親を見つけてはそこかしこで挨拶や雑談が飛び交う。
そんな姦しい光景は、舞台袖の娘たちに勿論丸聞こえなわけで。
「お母さんってば声おっきいよぉ...///」
「何で来とんねん、絶対後でイジるつもりやろ...。」
「あ~、ママだ~。」
「お母さん!?緊張するから来ないでって言ったのに...!?」
「え。何で自然に二人のお母さんと一緒にお母さんがいるの...?(汗)」
キウィ以外困惑と恥ずかしさにメンタルを揺さぶられてしまった。
他の生徒も大なり小なり似たような感じだ。
そんな中、ただ一人観客席を覗くことなく生真面目に台詞の確認をしている生徒がいた。
「シャノン、アレクシアさんとキティちゃんもいたわよ。」
「まあ、来るって言ってたし。」
「緊張する?」
「まさか。うるさくされたら気が散るってだけ。」
小夜に促され、姉と妹が二列目のど真ん中に座っているのを確認する。
よく見ればキティの隣にはこりすがおり、今も向かい合って何やら話をしている。
「そっか...良かったね、キティ。」
家族にしか見せたことのなかった笑顔から、妹が最初の一歩を踏み出したことを感じ取る。
そんな微笑ましい光景が癒しになったのか、シャノンの表情から程好く力が抜ける。
それを待っていたのか、小夜は準備を完了したクラスメートを集め円陣を組むように指示。
珍妙な格好をしていても、皆の顔は真剣そのもの。
練習の日々を思い出し、ここで全てを出し切ろうと気持ちを一つにする。
「やるからには全力でいくわよ!」
『おう!!』
始まりを告げるブザーが鳴り響き、ついに文化祭のメインステージが幕を開けた。
淡々と説明される世界設定。
平凡な少女たちが不思議な生き物と出会い、魔法少女となる定番ストーリー。
「キウィちゃんさいこ~!!☆」
「うぇ~い、ママ撮ってぇ~。」
「真面目にやりなさい(汗)」
「あだっ。」
途中、親バカが炸裂したり。
「ねーちゃんがんばれー!」
「はるかやっちゃいなさーい!!」
「えへへ、どうもどうも!」
「悪の組織が応援されてどないすんねん!?」
悪の女幹部が家族からの声援に応えたりと、そこそこのアクシデントはあったものの。
「いくよ、みんな!」
「「「
大きな失敗もなく、順調にうてな渾身の魔法少女劇は進行していくのであった。
「忌々しきトリプルシグナルめ!我が下僕たちで街を破壊し、奴等への見せしめにしてくれるわぁー!」
『グギャース!!』
「はぇ...?」
しかし、すぐに
はるかこと、悪の女幹部ブロッサム閣下の合図で登場する魔物たち。
本来はクラスメートが扮した可愛らしい着ぐるみの魔物A~Dが現れるはずだったのだが、実際に舞台に上がったのはとても人が入っているとは思えない、小さなたわしのような魔物だった。
可愛げはあるのだが、その迫真の唸り声は思わず数名の観客が悲鳴を上げる程だ。
段取りと違う魔物の登場に、ブロッサム閣下も間の抜けた声を漏らしてしまう。
「さ、流石ブロッサムや。なかなか凶悪そうな魔物やないか!」
薫子ことソレイユ将軍は咄嗟のアドリブではるかの動揺を誤魔化すが、内心慌てる二人を嘲笑うように魔物たちは台本にない動きを始める。
『ギャギャッ!』
「あ、ちょっ!?...は、はは!?いいぞ我が下僕たちよ~!?」
「こ、こんだけやったらあのトリプルシグナルも悔しがるやろなぁ!?」
みんなで汗水垂らして作り上げたセットが壊れていくのについ文句を言おうとするが、未だに魔物がクラスメートたちのサプライズか何かだと思っている二人は演技を止められず、戸惑いながらも悪の女幹部を続けることに。
すがるような思いで舞台袖の小夜たちに目配せするが、驚いているのは他のメンバーも同じだ。
「あれ、つぐみたちじゃないわよね...?」
「つーかあれさぁ。な~んか...?」
小夜とキウィは会話しながらも、目で見る以上の違和感を抱いていた。
何故かあの魔物たちから魔力を感じるのだ。
だが、だとしても野良の魔物がわざわざ学校の演劇中に乱入などするだろうか?
しかも、タイミングよく魔法少女の劇に。
首を傾げる二人とは対照的に、確信を持って息を呑む人物がいた。
シャノンである。
本物のヒロインはこの場にかなりの数いるはずだが、いち早く魔物を"本物"だと見破ったのは、シャノンとその姉妹たちだった。
笑顔から一転、険しい表情となるアレクシアにキャサリン。
事態に対処しようと、アレクシアは直ぐ様その場を離れようとする。
『待ってアレックス!』
『No。このままでは会場の皆さんが危険デース。』
『分かってる!でもここで中止にしたら、みんなの劇が台無しになる...それは絶対嫌なの。』
『...気持ちは分かりますが』
『ワタシにいい考えがあるよ!』
『キティ...?』
劇の中止を避けたいシャノンと、人々の安全を優先するアレクシア。
念話でぶつかり合う二人の姉の仲を取り持つ為、キティはある妙案を思いつく。
「...よし。行くよ二人とも。」
「ま、待ってシャノン!?あの魔物はなんだかおかし」
「そこまでよ!悪の組織ユベルフルール!」
『グベギャッ!?』
「...あれぇぇー?」
小夜の制止を聞かず舞台袖から飛び出したシャノン。
その勢いのまま魔物相手に飛び蹴りを放ち、見事命中。
なんと撃破してしまったのだ。
「私たちが来たからにはこれ以上の悪さはさせない!そうでしょう?ブルー、イエロー!」
「え、ええ...!」
「うぇ~い。」
呆けた二人に呼び掛け、魔物が闊歩する舞台に上がらせる。
当然、魔物たちは魔法少女衣裳の彼女たちを敵と判断するのだが。
『キヒャー!』
「このっ!」
『ブベッ!?』
「よいしょ~。」
『ギャベッ!?』
飛び掛かる魔物をそれぞれの得物で迎撃する小夜とキウィ。
勿論小道具でしかないのだが、難なく魔物たちを切り裂いては叩き落としていく。
「なんだ~よわっちいじゃ~ん。」
「わ、私たちにかかればこれくらい!」
「今日という今日は覚悟しなさい、ブロッサム閣下!ソレイユ将軍!」
「あ、あれぇ~...?」
はるかと薫子も流石にあの魔物たちが本物であることに気付き始めていたが、それならば何故生身のシャノンたちが倒せるのだろう。
かろうじて演技を続ける小夜たちを含め、ますます混乱していく中、シャノンだけは心の中でガッツポーズ。
『よし!これならいけるよ姉さん!』
『流石キティ!自慢の妹デース!』
『えへへ。でも、ちょっとキツいかも...。』
この事態を丸く納めるには、"魔物を魔物だと誰にも気付かれないままに討伐すること"が必要だった。
キティの思い付いた作戦とは単純なもので、
遠距離から魔力を舞台上の人間に分け与え、擬似的に
シャノンについては変身せずに魔力を放出して無理矢理戦い、魔法少女役三人で真正面から魔物を倒すという内容だった。
目論見通り、魔物を撃破することが可能となった。
それでも、本来ヒロインである小夜たちはこの状況を疑問に思うわけなのだが、この時ばかりはシャノンの運がよかった。
全員がこの事態の犯人を
緊張からトイレに駆け込み姿が見えなかった、柊うてなである。
劇にあれだけ情熱を注いでいた彼女のことだ、リアリティを求めて本物の魔物を使っても不思議ではない。
きっと特別製のハリボテな魔物を生み出したのであろうと、それぞれ勝手に納得してしまった。
そのぐらい、魔法少女が関わる時のうてなはやべーという共通認識が、彼女たちにはあった。
『シャノン、長くは持ちまセン。このまま一気に決めてくだサーイ!』
『了解!』
『がんばって、お姉ちゃん!』
非効率的な魔力提供は負担が大きく、才能に溢れる三姉妹にとっても危険な賭けだった。
自分の、そして姉妹の魔力が萎んでいくのを感じつつ、シャノンは最後に残った一際大きな魔物に蹴りを放つ。
『ガババ!!』
「っ!?きゃあっ!?」
「レッド!?」
魔力が減衰していたからか、それとも魔物が強力だったのか。
シャノンの攻撃は防がれた上に、舞台端まで弾き飛ばされてしまう。
リアルなダメージ描写に観客が手に汗握り、悪役のはるかたちも演技に熱が入る。
「は、ハーハッハッ!どうだ我が最高傑作の力!貴様らはこれで終わりだぁ!トリプルシグナルよ!!」
「全員まとめて血祭りや!!」
体の痛みに苦しみながら、悪役たちの勝利宣言を認められないと立ち上がろうとするシャノン。
いや、マジアレッド。
そんな彼女を両脇から支えたのは、同じく魔法少女魂を燃やすブルーにイエロー。
いい劇にしたいと願うのは小夜たちも同じ。
もし自分たちが本当に魔法少女だったらとイマジネーションを燃やし、アドリブでレッドを鼓舞する。
「しっかりしなさいレッド!私たちは負けるわけにはいかないのよ!」
「そうだそうだ~。ママたちはアタシが...アタシらで守んだよ~。」
「ブルー、イエロー...そうね。みんなと、みんなの平和を守らなきゃ!二人とも、力を貸して!」
握られた手から本当に魔力が伝わるのを感じ、驚きつつも小夜やうてなに言われた言葉を思い出す。
友情や愛が力になる。
それが、魔法少女であると。
ついにそれを実感したシャノンは変身しないままに火球を作り出し、決め台詞と共に勝ち誇る魔物へと撃ち放つ。
「燃え上がれ!私たちの友情!愛!正義は必ず勝つんだからぁぁーー!!」
『グギ!?グガアァァ!?!?』
跡形も残らず燃え尽きる魔物。
呆気に取られる観客と、見守るクラスメートたち。
「すっご~い...。本物みたい。」
「...ん?って、はるか!?あんたホントに燃えとるやんけっ!?」
「ふぇ?...あつっ!?あちゃちゃあちゃちゃ焦げる焦げるぅ~!?」
「お、おのれ覚えとけよトリプルシグナル~!?」
服に引火していたことに気付き、大慌てで舞台袖に引っ込んでいくブロッサム閣下。
捨て台詞を吐いて一緒に掃けていくソレイユ将軍の姿が合図となり、観客たちが疎らに拍手を開始。
そのとても中学生の出し物とは思えない高クオリティーなヒーローショーに、会場は万雷の喝采に包まれることとなった。
「やったんだ...私たち...。」
「シャノン...そうよ。」
「アタシたちのだいしょ~り~。」
向けられた歓声を夢のようにぼんやりと見つめながら、練習の日々を思い出すシャノンたち。
ぶつかり合ったことも、最早いい思い出だったと笑うことが出来る。
それだけの達成感が、クラスメート全員の胸に去来していた。
「「「ありがとうございましたー!!」」」
裏方スタッフを含め舞台に上がり、万感の思いを込めた感謝を伝える。
彼女たちの胸から今日の思い出が消えることはないだろう。
未だにトイレに篭っていた、柊うてなを除いて。
「うぅっ...お腹、いたぃ...劇...終わっちゃったかなぁ...?」
――――――――――――――――――――――――――――-
「ふぅ...。」
「お疲れ様、シャノン。」
差し出された缶コーヒーと労いの言葉を受け取り、並んでベンチに座る。
サヨはコーヒーではなくほうじ茶を選んだようだ。
以前のセレクトは失敗だったのかもしれない。
「それにしてもすごかったわね、あの
「あ、あぁ...まあ、ちょっとね。」
一際手強い魔物だったとはいえ、流石に火炎魔法はやり過ぎだった。
観客は仕掛けだと思ったみたいだけど、台本を知ってるクラスのみんなからは質問の嵐。
手品ということで何とか誤魔化せたけど、それはそれで日本人が騙されやすいんじゃないかと心配になってくる。
サプライズで危うく火事未遂とか、どれだけアメリカを非常識な国だと思っているんだろうか。
...まあ、完全には否定し切れないけど。
「先生、怒ってたわね。」
「いいんじゃない?ジュニアの頃くらい遊ばないと。」
「反省文でしょ?」
「日本語で、とは言われてない。あの先生が読解出来るか見物ね。」
「ははっ、もう。あんまりいじめないでよ?」
随分自然に話せるようになったと思う。
放課後は毎日練習して、サヨたちとはかなりの時間を一緒に過ごした。
ウテナにハルカ、カオルに少し邪魔だったけどキウィも。
他のクラスメートとも、普通に会話するようになった。
我ながら信じられない変化だ。
家族以外を避けていたアタシが、クラスの為に無茶をするようになるなんて。
おかげで魔力はすっからかんで、身体中が筋肉痛みたいになってる。
でも、不思議と気分は晴れやかだ。
「...本当に、上手くいってよかったわ。」
「そうね。...本当に、よかった。」
ここに来られてよかった。
今日、初めてそう思えた。
魔法少女も家族のことも、アタシを縛る鎖みたいに感じていた。
アレックスへの憧れは、いつの間にか劣等感や焦りに変わっていて。
義憤や正義なんかも、憎しみに染まってしまっていた。
今なら、何であのトレスマジアに負けたのかを理解出来る気がする。
アタシは、魔法少女じゃなかった。
悔しいけど、ベーゼたちに言われた通り。
本当の魔法少女とは、物語のようにキラキラとした信念を持ち続ける者のことを言う。
現実を理解しないわけじゃなく、理解し痛感しても尚、大切なモノを失わない存在が魔法少女なのだ。
トレスマジアはそれが出来ていた。
友情に、愛。
広がれば広がる程強くなる力を、アタシは遠ざけていた。
でも、これからは違う。
「サヨ、アタシ...変われるかな?」
「...そう言えるってことは、もう変わってる証拠よ。」
はにかむ姿に、思わず頬が熱くなるのを感じる。
惚れた弱味って言うんだっけ?
こうやってあの二人も落としたんだろうけど、ちょっと罪な女過ぎる。
彼女に話を聞いてもらえたから、今のアタシがあると思う。
あんな話をしてしまうなんて、自分がこんなに惚れっぽいとは思わなかった。
責任、取ってもらわなきゃ。
アタシはコーヒーを一気飲みし、真剣な面持ちでサヨを見つめる。
...つもりだったけど、緊張からか体が固まってチラチラと視線を送るに留まる。
「あの...サヨ?」
「ふわぁ...なぁに...?」
「アタシ...アタシさ。サヨと会えてよかった。話、聞いてくれて...友だちも出来て...大切なことを教えてくれた。だから、アタシ...。」
「...。」
ぎこちないながらも言葉を紡ぐ。
やばい。
顔がめちゃくちゃ熱いし、心臓もバクバク言ってる。
こんなに純情だったか?アタシ。
言え、言ってしまえ。
震える手をぎゅっと握り締め、恥ずかしさと不安をかなぐり捨てて一気に彼女の方へ体を向ける。
「だからアタシと!デー...///」
「...Zz」
「ト...?///」
一世一代の告白、と見せ掛けて本気デートのお誘いだったのだが。
疲れていたのはサヨも同じ。
スヤスヤと寝息を立てて、座ったまま眠ってしまっていた。
カオルなら見事なずっこけを見せてくれたに違いない。
せっかくの勇気を不意にされ、いつものアタシなら怒っているところだ。
でも、その安らかな表情を見ると勝手に心が安らいでしまう。
溜め息を吐き、苦笑い。
着ていたカーディガンを脱いで、毛布代わりにサヨに被せる。
意外にこの場に人気はなく、しばらくゆっくり休めそうだ。
起こしたら可哀想だと、アタシはベンチを離れることにする。
少ししたら、様子を見に行こう。
風邪を引いたら大変だ。
「本当に、罪な女なんだから。」
静かに撫でた彼女の頬の温かさを、アタシは一生忘れることはないだろう。
ああ、これは確かに...。
「魔法だね、サヨ。」
――――――――――――――――――――――――――――-
「...Zz」
夕焼けもあと少しで沈むといった頃。
静かな学園の片隅で、少女の小さな寝息だけが響いている。
彼女が一人なのは、優しい友人が彼女のことを想い気遣ったから。
本来であれば、目を覚ました彼女がその気遣いの証に気付いて頬を染めるような、甘酸っぱい結果を生んだことだろう。
しかし、今回ばかりは気付くべきだった。
ただでさえ学園は文化祭で人が溢れる程いると言うのに、
年相応に浮かれていたのか、はたまた達成感に酔っていたのか。
油断した小夜たちを嘲笑うかのように、コツ...コツ...っと。
寝息を打ち消し響く、ヒールの冷たい音。
「楽しい文化祭...それが最後の思い出になるなんてぇ~...悲しいですねぇ~。」
言葉とは裏腹に、パックリ裂けたように嗤う口。
地面を時折削るようにぶら下がる鎌は、まるで舌舐りをしているようだった。
「結局、私の手で終わらせなくてはならないんですねぇ~...悲しいですぅ。」
女の頬を涙が伝うが、そんなものは全て偽物。
聖職者の皮を脱いだ死神は、無防備に差し出された少女の首筋に死の鎌を突き付け。
そして。
「何をしている...!」
振り下ろされた鎌は少女の首を落とすことはなく、突如現れた
「また、あなたですかぁ...。」
「それはこちらの台詞だ、シスタ...!」
弾き飛ばされ、苦々しげにイミタシオを見つめるシスタ。
不快そうに顔を歪めるシスタと違い、イミタシオには言い知れない戸惑いの色が浮かぶ。
「昼間の騒ぎはお前の仕業だな...?」
「...。」
「何故頑なに水神を狙う!?何故お前がこんなことをする!?」
「...。」
「答えろ、シスタっ!!」
臨戦態勢のままシスタに叫ぶが、彼女は顔色一つ変えることなく何も話さない。
こうなれば実力行使しかない。
覚悟を決め、シスタに攻撃を仕掛けようとした時だった。
「あ、あれ...?みち子さん!?ど、どうしてここに...って何で変身してるんですか...!?」
「!?」
後ろから掛けられた声に思わず振り向くと、そこには驚いた様子のうてながいた。
危ない、こちらに来るな!
そう伝えようとするが、ここで先程まであった敵意がいつの間にか消えていることに気付く。
慌てて向き直るが、そこにはもうシスタの姿はなかった。
「あ...小夜ちゃん寝ちゃってる...。」
「...。」
消えたのではないだろう。
イミタシオの記憶が正しければ、彼女は"縮小"することも出来たはず。
すぐには見つからない大きさにまで変化し、隠れて移動しているに違いない。
そこまで考え、しかしそれ以上の追跡は諦める。
今深追いすれば小夜とうてなが危険だと判断して、イミタシオは変身を解除する。
「みち子さん、あの...何かあったんですか...?」
「水神に、しばらく一人になるなと伝えておけ。
二人に警告を残し、険しい表情で学園を去るみち子。
子どもたちの華やかな青春の裏で、大人たちの一筋縄では済まない愛憎劇が、今まさに終幕を迎えようとしていた。
―――――――――――――――――――――――――――――
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「キミたちは自分が
次回
第40話『Reason Why Kiss』
はるかママと小夜ママのビジュアルはまだですか?←
次回は4/20(日)0:00投稿予定です。