魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~ 作:月想
なかなか難産でした()
読んで頂きありがとうございます。
割りと急いで書いたので、後々手直しするかもです。
「や~い、このぬいぐるみはアタシのもんだ~。」
「グスン...。」
容赦なくぬいぐるみを取り上げ、アリスの届かないところにまで運んでしまうレオ。
アリスはどうしようもなく、悲しそうな顔でただ俯いて泣いている。
そんな姉妹喧嘩を見て、私は。
「こら!お姉ちゃんなのに何でそんなことするの!妹には優しくしなさいっていつも言ってるじゃないの!」
レオを一喝し、直ぐ様ぬいぐるみを取り返してアリスの元へ戻す。
悪いことは悪いとちゃんと叱らなくてはならない。
それがリーダーの責任というものだ。
「はい、アリス。もうこんなことをしないようにレオにはちゃんとお説教をするから。だから泣かないで?」
「ジー...。」
「...アリス?」
普通なら頷くなり抱き着いて来るはずなのに、アリスは不服そうにこちらを見つめている。
戸惑う私の耳に、今度は後ろから盛大な溜め息が聴こえてきた。
「ぶっぶ~。アズールちゃんアウトぉ~。」
「え。な、何で!?」
「ぜ~んぜんっ
「ハァ...。」
大袈裟なジェスチャーでダメ出しを喰らってしまった。
どうやらアリスにしても珍しくレオに同意なようで、物凄く呆れられているみたいだ。
「し、仕方ないじゃない...いじめは良くないわ!」
「いやだからぁ~?そーゆー練習っしょ~?」
「正解例は"普段は見れない弱気なアリスちゃんを愛でる"か、"いじめる側のレオちゃんをいじめて自分もまた弱者なのだと認識させ心を折る"のどちらからしいのだわ。」
「誰よそのマジもんの正解例考えたの...?」
ドS過ぎるでしょ。
聞いてるだけでゾクゾクしてくる。
主にやられる自分を想像してだけど。
「だ、大体シチュエーションが身近過ぎるというか...二人は家族みたいなもので、そういう思い切りはちょっと」
「そこ!それがダメなんだよアズールちゃんはぁ~。そんなんじゃいつまで経っても"深化"できないよ~?」
アジト内で突然始まったこのシミュレーション。
勿論おままごとなどではなく、ちゃんとした目的があって行われているものだった。
"深化"。
真化を超えた力をもたらす、究極の擬態。
ヴェナ曰く私とうてなのみが到達可能な更なる強化形態。
向いていない側に自身の望みだけで居座り続けたことにより強まった想いの力が、自身の在り方すらねじ曲げ至るらしいのだが。
その具体的な方法は言い出しっぺすら分からないようで、結局自身で試行錯誤するしかなくなっていた。
「根本的にぃ~?アズールちゃんは優しくて思い遣りがあって過保護でお姉ちゃんでママだからさ~。悪の総帥になりきれてないんだよね~。」
「褒められてるのに貶されているような言い方ねそれ。」
要するに私は(この場合は水神小夜が、な気がするけど)根が善人で魔法少女がお似合いのお人好し。
悪の組織には向いていないという評価なわけだ。
深化を会得するには、その性質を偽り抜いて悪になりきる必要がある。
だからこうして、レオとアリス、ロボ子協力の元"悪の教育プログラム"を受講しているというわけだ。
「相手がマゼンタやサルファだったらもっと簡単に」
「それはアズール自身、
「っ...。」
ヴェナのくせになかなか鋭い所を突いてくる。
女心分からないタイプじゃなかったのか?
解せぬ。
残念なことに、この腹黒マスコットの読みは正しい。
私にとって、彼女たちは私のあこがれそのもので、大好きで大切な人たちだ。
えっちないたずらやマジバトルも彼女たちが輝くと分かっているから出来ることであって、壊れる程痛めつけたいなどとは思ったことがない。
そのギリギリのリミッターは、意識せずとも私か
だからまあ。
今までのルシファアズールは、まさにごっこ遊び。
ベーゼちゃんに憧れるが故の"真似っこ"でしかなかったわけだ。
それを今度は心から楽しんで、自分が望んで無茶苦茶やれと言われている。
「自分を心から本気で騙すなんて...そんなのどうすればいいのよ...。」
「その答えはアズールにしか分からない。分からないままなら、これ以上の困難には打ち勝てないよ。」
「他人事だと思って...。」
今まで以上の無理難題。
みち子が深化に近い変化を会得しているが、あれも厳密には違うらしい。
奇跡を憎む気持ちと、呪いから救い出したい気持ちのそれぞれが違った真化を生み出しただけなんだとか。
彼女に話を聞いても参考になる材料は見つからなかった。
「私じゃない、私...。」
マジアアズールではない、本当のルシファアズール。
焦りが募っていく中、私は矛盾した自分探しを続けて、時間を浪費していくのであった。
―――――――――――――――――――――――――――――
「はぁ...。」
深化。
自分じゃない自分になる感覚。
それが簡単でないのは、話を聞いてすぐに分かった。
だって私は、一度その逆を体験してるから。
どうしようもなく醜くおぞましい柊うてなの本質。
私は
どれだけ魔法少女に憧れようと、私の心にはずっと悪魔が潜んでる。
向いてない方にいるという点に関して言えば、間違いなく小夜ちゃんより私の方が深刻だ。
この問題は先送りにしていたことで、そうしていたのは解決方法が見つからなかったからだ。
それが、今。
すぐに答えを見つけなくてはいけなくなった。
見つけられないなら、きっと今度こそ何も守れなくなる。
その焦りと手掛かりも何もない苛立ちが、私の心に重くのし掛かっていた。
「ちょ、うてな?うてな聞いとる?」
「...あ。ぇと...ごめんね?何か言った...?」
「また上の空かいな...。今日はウチが相談しとるんやけど?」
「ご、ごめん...。」
不機嫌そうに頬杖を付く薫子ちゃんの声で、自分がまた思考の沼に嵌まっていたことに気付く。
「まあまあ。"恋ばな"なんて、うてなだって気が重いのよ。」
「何せ相手があの小夜だからな。何人手篭めにすりゃ気が済むんだっての。」
「おまけにうっさいアホに絡まれとるしなぁ。」
いつものファミレス。
でもここにイツメンであるところの、はるかちゃんはいない。
いるのは薫子ちゃんに、真珠ちゃんとネモちゃん。
珍しい組み合わせに見えるけど、薫子ちゃんを除く私たち三人にはとある共通点がある。
「で、"はるかをデートに誘いたい"って話だけど。」
「お、おぅ...///」
三人とも、"薫子ちゃんがはるかちゃんに恋している"と知っている友人なのだ。
そんな私たちを呼び出した理由はシンプルで、デートプランの相談をしたかったとのこと。
切り出すまでに10分以上は押し黙っていた奥ゆかしさはなかなかに可愛かった。
初な魔法少女はやっぱり素晴らしい。
+500点。
「どこ行くか決めてんのか?」
「せやからそれを相談したいんやろ。一応うてなも含めてデートは経験済なはずや。先輩らしく、有用なアドバイスを希望するさかい。」
「何で施してもらう側が上から目線なのよ。」
どうやら私たちに丸投げする気満々みたいだ。
そういう定番な話なら小夜ちゃんやキウィちゃんの方が詳しそうなんだけど...、
「デート。デートねぇ...。」
「こないだはどこ行ったっけ?」
「ただの買い物でしょ。オムライス食べて、服見て。」
「あぁ、真珠がクレーンゲームで2000円無駄にしたやつか。」
「あれはどう考えてもあんたが取ってくれる流れだったでしょうが!?」
「あれはアームがね。アタシは勝てない戦いはしない主義なんだ。」
「分かってて見てたわけっ!?」
自分たちの直近デートを思い出すたまネモちゃん。
直ぐ様口喧嘩に発展するが、気心が知れているからこそのデートの形な気がする。
ゲーセンや買い物が幼なじみの二人には何でもないように思えて、実は心地好い思い出になるんだろう。
「アカン。お二人さんは距離が近すぎてデートと日常の境目が分かり辛くなってはる。」
「あはは...ある意味理想だよね。」
「そういううてなはどないなん?」
「わ、私...?」
ふ、ふふん。
今こそ薫子ちゃんより5cmくらい先を歩く恋愛巧者としての実績を見せる時。
約二回に渡る濃密な小夜ちゃんとのデートについて語ってみせよう。
「えっと...魔法少女展を見て、マジメイトを見て、ごはん食べて...デザートを食べた、かな...。」
「合わせてもらっとる上にファミレス行っただけやないかい。」
「うぐぅっ!?」
だ、だって仕方ないんだもん!
二回とも消化不良で一回目は名目上デートではなかったし?
二回目はデートしてる場合じゃなくなったし?
私だってキャッキャウフフなラブラブデートしたかったよ!
でもしょうがないじゃないっ!
「私は...小夜ちゃんの隣にいられるだけで幸せだから...っ。」
「デートどころやない切実な望みやめーや。ロミオとジュリエットか。」
しくしく。
机に突っ伏した私と相変わらず口喧嘩を続けるたまネモを見て、薫子ちゃんは心底困った顔をする。
「これじゃ相談にならんよ...どないすればええん...?」
「ま、まあそんなに深刻になるなよ。はるかならどこ誘っても喜んでくれんだろ?」
「だから余計に特別なプランにしたいんやんか...。」
「特別ね...やっぱり定番だけど、遊園地とか行ってみたら?遠出するのが一番だと思うわよ?」
真珠ちゃんから遊園地デートを提案された薫子ちゃんは、難しい顔をして考える人のポーズ。
私は悪い考えじゃないと思うけど...。
「...アカン。そんな楽しげなとこ、三つ子ちゃんたち置いて行かれへん。」
「あぁ~...まず間違いなく連れて来るな。」
「姉バカだもんね、はるかって。」
そもそもデートをデートだと認識しないはずの関係だし、妹さんたちを連れて来るのはむしろ自然な行動と言える。
というか、下手したら私たち全員誘われるんじゃ...?
「面白そうなお話をしていますのね!」
「It's interesting!ジャパニーズコイバナですネ!?」
「こ、この声は...!?」
四人で仲良く悩んでいると、後ろ側の席から何やら聞き覚えのある声。というか聞き覚えのある特徴的な口調が聞こえてきた。
「ハーイ!ウテナ!」
「文化祭振りですわね。ごきげんよう、うてな様。」
「アレクシアさんに百花さん!?」
頭上からひょっこりと顔を覗かせたのは、つい最近クラスメートであることが判明した仲良しコンビ。
恐ろしいことに爆乳コンビでもあります。
「はじめましての方もおられますわね。わたくしは桃森百花。小夜様の友人、と言ったところですわ。」
「ワタシはアレクシア・ハートフィールドデース!いつもシャノンがお世話になってマース!」
「あぁ、誰かと思たらシャノンのお姉さんやないの。歳上のお友達て、小夜も大概顔が広いなぁ。」
「そういや劇の時にやたら目立つ外人さんが客席にいたな。」
「へぇー。姉妹で大分雰囲気違うのね。」
簡単に自己紹介を済ませるアレクシアさんたち。
百花さんは薫子ちゃんと素で会うのははじめまして、アレクシアさんは三人とも初対面だったかな。
両方と交遊関係のある私って実はもうリア充?
一年前とは大違いで感動しちゃう。
「デートということでしたら、是非わたくしのテーマパークへ招待させて頂きたいですわ!」
「百花はんの?」
「百花はめちゃくちゃなお金持ちでお嬢なのデース!」
「どこのアニメキャラだよってなるよな。」
「現実は不平等よね。」
改めて何でもありな設定になってるよね、百花さんの令嬢キャラ。
前はリゾートだったけど、今度はテーマパークと来たか。
何のテーマパークだろう?
メガネ?
「どうせならみんなで行きまショウ!」
「勿論、全員無料でご招待致しますわ。」
「え、真珠たちも?」
「それじゃデートにならんって」
「大丈夫ですの!わたくしにいい考えがありますわ!」
すっごいフラグだね。
ナチュラルに私たちも行くことになってるし。
もう嫌な予感しかしない。
というか、さらっと薫子ちゃんの恋愛事情が二人にバレてるんだけど。
そこはツッコまなくていいのかな?
乱入者の登場により、薫子ちゃんの恋愛相談は予想外の結論に向かうことになった。
悪魔の囁きを止める隙もなく、結局私は自身の悩みを抱えたまま、薫子ちゃんの遊園地デート大作戦に巻き込まれることになるのでした。
これは、もしかして。
「念願の、リベンジデート...?」
―――――――――――――――――――――――――――――
「なんてことはございませんでしたー...。」
「うてなちゃんなんか言った~?」
「ううん、何でもないよ...。」
というわけで、早速テンションだだ下がりうてなを尻目にやって来た週末。
一行は計画通り、遊園地こと桃森グループのテーマパーク『ぴちぴちワールド』を訪れていた。
一応全年齢対象の健全な遊園地である。
そのはず、である。
「はぇ~!初めて来たけどすっごいおっきいとこだねぇ!ディ○ニーランドみたい!」
「はるか、はるか。流石にアカンよ?」
「たまたま!!またいっしょ!!」
「きょうもあそんでくれるの!?」
「今日は他の人があんたたちの係よ。あとホントにやめない?せめてタマちゃんにしない?」
「このまえと、ちがうゲーム...。」
「気になるなら今度貸してやるからな?」
メンバーは薫子にはるか、花菱三つ子隊にたまネモ。
そしてうてなとキウィだ。
いつもの面子から何人か欠けているが、その理由については後々分かるので割愛する。
「皆様、ようこそお出でになりましたわ。スタッフ一同心を込めて歓迎致します。」
恭しく客人を出迎える百花。
スタッフを侍らせる堂々とした態度は、彼女が本物のお嬢様であることを改めてうてなたちに認識させる。
「まあ、変態なんですけどね...。」
「うてな様、聞こえてやがりますわよ?」
ぼそりと吐き出された誹謗中傷をしっかりと拾い青筋を浮かべつつ、キラキラした目で見てくるロリたちの為努めてお嬢様ムーブを続ける。
「本日は
「変なとこに連れ込む気か...!?」
「勝手にロリコン扱いすんじゃねーですの。めちゃくちゃ健全ですわよ。案内人はこちらの」
「Hello!ワタシ、アレクシアが案内しマース!」
食い気味で前に進み出たのはうてなにとってお馴染みのパツキンお姉さん。
その出で立ちはパークの制服姿で見慣れないものだが、服の上からでも分かるスタイルの良さは疑いようのないくらいアレクシアであった。
「でっかー!」
「でっかいねーちゃんよりでっか!!」
「きんぱつ、きれい...。」
「Oh!very cute sisters!"ウルトラマムコラボエリア"にはワタシが案内しマスよ!」
初めて生で見る外人美少女に興奮する三つ子。
年少者向けのおもてなしは現在絶賛放映中の特撮番組『ウルトラマム』とのコラボコーナーだ。
特別ステージは勿論グッズやゲーム、アトラクションとパークの1エリアを使用した本格的なコラボとなっている。
三つ子もある時からウルトラマムに熱中するようになったらしく、今回の目的は完全にその特別コラボにあった。
『こういうのは見逃せないよね!』とはうてなの談。
なかなか将来有望な三つ子ちゃんである。
「ウルトラマム!!」
「おねーちゃんはやくいこっ!」
「グッズ、たのしみ。」
「OK!さっそくLet's Goデース!」
「あ、ちょっ!?ちゃんといい子にするんだよぉー!?」
姉の心配も気にせずそそくさとコラボエリアへ向かっていくアレクシアと三つ子。
残された中学生組はと言うと、この後百花オススメのアトラクションへ向かう手筈になっているのだが。
「んじゃデートしよぉうてなちゃ~ん。」
「え!?ま、待ってキウィちゃん今日はぁ...!?」
キウィにズルズルと引き摺られていくうてな。
唐突な単独行動のはずだが、何故かはるかを除いて全員が歯牙にもかけていない。
鳥が飛んだり車が通り過ぎたり、そんな日常を目の前にしたように受け入れている。
「参りましょうか、皆様。」
「せやね。」
「え。で、でもうてなちゃんとキウィちゃんが」
「あーいいのいいの。」
「ほっとけほっとけ。」
「真珠ちゃんネモちゃん!?でもみんなで回るって...え、えぇー!?」
はるかは団体行動の是非を独り問うが、左右をがっしりと掴まれ抵抗虚しくうてなとは違う方向に向かうことになった。
皆さんはお気づきだろうか。
あまりにも上手く頭数が減って来ていることに。
「...お。いったようてなちゃん~。」
「け、計画通り...だね。」
それもその筈。
ここまで全て予定の通り。
今回の目的は"薫子とはるかにデートをさせる"こと。
三つ子やはるかの性格上どうやっても水入らずには出来ないのを逆手に取り、遊園地までは全員で向かうことにしたわけだ。
そこからは自然な形で人数を減らしていく。アレクシアに三つ子を任せ、うてなとキウィは離脱するように見せ掛けて遠くからデートを見守る役。
最後に残ったたまネモは、カップルとしてダブルデートを演出しつつ薫子に助け船を出すという算段である。
手厚い保証に、誰も傷付かない名采配。
自分の為にここまでしてくれる友人たちに涙が出そうになる薫子だが、本番はむしろここから。
如何にデートっぽく、如何に魅力的に自分を見せるか。
絶対に負けらない戦いが、今ここから始まるのだ。
「最初何いく~?ジェットコースタ~?フリーフォール~?ラブホテル~?」
「絶叫系ばっかりだね、キウィちゃん。でもダメだよ?私たちはバレないように後ろから薫子ちゃんのサポートを」
「じゃあホテルできゅうけ~ってことで~。」
「力強っ!?てかホテルじゃん!?キウィちゃん結局ホテルじゃぁんっ!?」
なんてことはキウィにとってめちゃくちゃどうでもいいことであった。
考えてみれば分かることだが、キウィが素直に薫子を助けるわけがない。
はるかっぴはいいやつ。
薫子はひんにゅーばか。
不釣り合いにも程があるというのが本音だった。
「さよちゃん予定あるって言うから仕方なく来ただけだしさ~...うてなちゃんいるからいっかぁ。って感じだし~。うてなちゃんと遊べんなら来た意味ないっしょ~。」
「やっぱり事前に説明したこと全部聞き流してたんだ!?ま、待って!?本当に見失っちゃうから!?」
愛しの小夜に『ごめんなさい、その日は予定があって。』と死刑宣告(大袈裟)を受けたキウィ。
彼女を甦らせたのは、うてなとの遊園地デートという唐突に湧いたご褒美だった。
希望に一度裏切られた以上、この機会だけは絶対に手放すわけにはいかない。
その覚悟故に、乙女は凄まじい膂力で以て獲物を愛の巣に引き摺り込んでいくわけだ。
「あ、ま、待って!?あれ、あれ!?あれ小夜ちゃんじゃないかなぁ!?」
「さよちゃん!?」
フィジカルで完全敗北のうてな。
藁をも掴む思いで出鱈目に"あ!UFOだ!"作戦を実行。
見事釣られたキウィの手から飛び退き、事なきを得る。
が、すぐに自分の嘘が嘘でなかったことに気付き絶句することとなる。
「......小夜、ちゃん?」
視線の先にいたのは、
二人が見間違えるはずもない。
予定があるとキウィをフったはずの小夜が、そこにいた。
―――――――――――――――――――――――――――――
「かなりしっかりした遊園地ね。意外だわ。」
「コクリ。」
あの百花さんの実家が運営するテーマパークと聞いて不安になっていたけど、実際に見てみるとなかなかどうして立派なものだ。
定番の観覧車やジェットコースターは勿論、某"東京じゃなくて千葉にあるんだハハッ!"みたいなお城まである。
あれもアトラクションなんだろうか?
「カリフォルニアには遠く及ばないわね!」
「キティちゃん、今日はとっても素敵ね。そのお洋服すごく似合ってるわ。」
「ふ、ふんっ。ワタシさまは天才なんだから当然でしょ!...あんたも、まあまあ...じゃない...?///」
「ふふっ、そう?ありがとう。」
今日のキティちゃんはゴスロリ風の衣装も相まってまさにお人形さんみたい。
こりすと並ぶと絵になる所かファンタジーが始まりそうだ。
照れながらも前より態度が柔らかく感じる言葉を返してくれる。
姉の友だちだからか、それとも友だちの姉ポジションだからか。
どちらにせよ嬉しい限りだ。
出来ればナデナデするところまでいきたい。
「先に言われちゃったけど。今日も素敵よ、サヨ。来てくれてありがとう。」
「そんなお礼なんて。こちらこそ誘ってくれてありがとう、シャノン。」
彼女こそ海外モデルみたいで隣に立つのが恥ずかしいくらいなのだが。
今日、ここにやって来たメンバーは私とこりす、シャノンにキティちゃん。
言ってしまえば姉妹とその友だちの組み合わせである。
シャノンが姉、つまりアレクシアさんからこの遊園地の招待券をもらったと聞いたのが先週辺り。
キティちゃんとその友だちであるこりすを連れて行きたいが、一人だけでは手に余る為私に白羽の矢が立ったというわけだ。
最初はいっそみんなを誘うつもりだったけど、今回は妹二人の"思い出作り"をメインにしたいと言われ了承。
はるかたちは誘わず四人での遊園地となった。
アレクシアさん曰く、他のみんなは"また別のイベントに招待してある"とのこと。
まあ十中八九、変態メガネこと百花さんが手を引いているのだろうけど。
私が断ってしまったキウィもそっちに参加するらしいし、今回だけはそちらで我慢してもらおう。
「こりす見て!アーサーもバージョンアップしてカッコよくなったのよ!」
『Bow!』
「コクコク。ズイ。」
「その子もお洋服変えたのね!可愛いじゃない!」
「ドヤァ。」
すっかり素直に仲良しとなった二人を見ていると、ここまで連れて来て良かったと思える。
いい思い出が出来るように頑張らなくては。
「じゃあ、早速回っていこうか。」
「そうね。最初はどこに...って。」
気付けばかなり人も増えてきて、人気のアトラクションには既に列が出来ている。
流石に一時間待ちなんてことはないだろうが、いきなり並ぶところからというのは年少組にはちょっと厳しい気がする。
「ねぇお姉ちゃん!あれなら空いてるみたいだよ!」
「ん?...あぁ、あれね。」
「あれはゴーカートかしら。」
小さいサーキットの中を簡単操作のマシンで走るアトラクション。
対象年齢がそこそこ低いので、こりすやキティちゃんでも問題なく楽しめるだろう。
確かにまだ人も少ない。
こりすにも了承を得て、一番初めはゴーカートを遊ぶことになった。
「機械でワタシさまに勝てるわけないのよっ!」
「ムッ...。」
そこそこに走りながら年少組がはしゃいでいるのを遠目から見守る。
こりすもあれで負けず嫌いだし、勝手に二人でレースを始めてしまったみたいだ。
ああいう所は少しキウィに似ている気がする。
ふと思うのだが、車と言えば運転免許はどうしようか。
前世は取れる寸前で力尽きた為、興味はあるのだけど...。
先生が『取った割に使わないし更新がダルい。』と愚痴っていたのを思い出す。
何故こんなことを考えているのかと言えば、うてなにしてもキウィにしても運転に向いていなさそうだからだ。
うてなはビクビクしそうだし、キウィは煽り運転とかしそう。
やっぱり私かなぁ。
結婚したらやっぱり持ってた方がいいもんね、車。
付き合う前から結婚後の話かよ。
とでもツッコむように、私のカートにゴツン!という衝撃が走った。
「きゃっ!?ちょっとシャノン!?」
「ボーっとしてると最下位で奢りだからね?」
「え!?い、いつからそんな話!?って待ちなさーい!?」
突然提示されたお財布へのダイレクトアタックで現実に引き戻される。
挑発的に笑うシャノンは気付けば私の前方にいて、年少組なんて一周くらい前にいるように見える。
スタートはどこだのフェアじゃないだの文句は言えるが、この世界は多数決が正義。
寒い懐を何とか守るべく、私は必死にアクセルを踏み込んだ。
「あはは!人がゴミのようだわ!」
「シハイシャノポーズ。」
続いて乗ったのは空中ブランコ。
一人くらい高所恐怖症がいると思ったけど、案外みんな平気らしい。
私はまあ、普段から空飛んでますから。
ちなみに、人がゴミに見える程高い位置には絶対にいない。
台詞が完全に悪役なのもそれはそれで可愛いが。
あとこりすは危ないから手を離さないの。
「サヨはこういうアトラクション平気なの?」
「シャノンは恐いってことかしら?」
「ははっ、まさか。なら度胸試しでもしようか。」
ニヤリと笑うシャノンを見て、何を考えているのかすぐに分かった。
私が勝手に日本を代表して、世界に侍魂というのを見せてやることにしよう。
「きゃああぁぁぁーーーーっ!?!?」
「もう、痛いってサヨ!」
やっぱりダメでした。
そうして始まった絶叫系アトラクション巡り。
フリーフォールにジェットコースターと、何故似たようなのが三種類ずつはあるのだろうか。
バイキングや空中ブランコなんてお遊びだったことを嫌という程味わった。
後半なんて、情けない悲鳴を上げながらずっと隣のシャノンの手を握ってしまっていた。
飛ぶのと落ちるのは違う。
はっきりと分かりました。はい。
「サヨってばまるでホラー映画みたいな声上げちゃってたよ?」
「う、うるさいわね...///」
これはしばらくいじられそうだな、とげんなりしつつ。
久しぶりの楽しく平和な時間を喜んでいる自分がいる。
まだまだ今日は始まったばかり。
心配事は忘れて、素直にリラックスさせてもらおう。
「むー。シャノンとサヨだけズルい!」
「ムスゥ。」
補足しておくと、こりすとキティちゃんは遊園地お約束の"身長制限"にしっかりと引っ掛かっていた。
まだまだ成長期だね!
「アーサーを含めればセーフじゃない!何なのよここ差別よ差別っ!」
「コクコク!」
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「ぶえぇぇーんっ!!う"わ"ぎだあ"ぁ"ぁ"ー!!」
「ぅぷっ...し、死んじゃう...っ」
迷子さながらに泣き叫ぶキウィちゃんを慰める余裕もなく、私は胸に迫り上がってくる吐き気を必死に抑える。
絶叫系、ただでさえ苦手なのにっ...。
ま、まずいっ...たす、け...おえっ(ry
※本体が大変お見苦しいことになった為、ここからは内なるうてながナレーションを担当致します。
『小夜、ちゃん...?』
ここにはいないはずの小夜ちゃんを見つけてしまった私とキウィちゃん。
驚く間にシャノンさんが隣にいるのが見えて、今度は多大な喪失感に襲われる。
私やキウィちゃんではなく、シャノンさんと遊園地。
何故、どうして?という動揺で言葉を失う。
けれど、その後こりすちゃんとキャサリンちゃんがいるのが分かって私は一安心。
小夜ちゃんのことだ、きっと二人の付き添いという名目で来たに違いない。
私たちと一緒に行けばいいという考えも浮かぶけど、キャサリンちゃんとはまだ仲良くなれてないし、いきなり大所帯というのは緊張させてしまうかもしれない。
私も上手くコミュニケーションが取れない辛さや難しさはよく分かるし...。
そういう配慮でああいった形に落ち着いたんだと思う。
短い時間でそこまで理解した私、偉い。
小夜ちゃん力がまた上がったね!
『...追うよ、うてなちゃん。』
『へ?』
『ウワキ、ダメ、ゼッタイ。』
『アッハイ...。』
でも、やっぱりキウィちゃんにとっては十分アウトだったみたいで。
薫子ちゃんのサポートという任務を放り投げて、私たちは小夜ちゃんを尾行することになったのです。
気付かれないように一定の距離を保ちつつ、時には同じアトラクションに乗って。
ジェットコースター、フリーフォール、バイキング、ジェットコースター、ジェットコースター。
恐がり止める私をすんごい顔で道連れにするキウィちゃん。
その結果が、これなわけです。
「ふ、ふふっ...これで私も...ゲロインの仲間入りかぁ...っ」
「あ!また移動してるよ行かなきゃうてなちゃん!」
胃の内容物と共に大事な物まで失った私に構わず尾行を再開するキウィちゃん。
追い掛けて、最終的にはどうするつもりなんだろう...。
離婚裁判?
「ま、待ってキウィちゃん。いい加減戻ろうよ。小夜ちゃんも先に約束してただけで、こりすちゃんたちもいるし浮気じゃないと思うから...。」
「やだやだ!うてなちゃんは悔しくないの!?アイツにさよちゃん取られちゃうかもしれないんだよ!?」
「そ、それは...。」
絶対にない。
と、思いたい。
小夜ちゃんにその気持ちがなかったとしても、シャノンさんの好意は明らかだし。
それに、さっきから思っていたことだけど。
あんなに自然に楽しそうにする小夜ちゃんは初めて見た。
私やキウィちゃんといる時は、いつもどこか見守るというか、気遣いみたいなものを感じていた。
私たちが楽しめるように、嬉しがるように。
そうやって気に掛けながら一緒にいてくれたんじゃないかって。
勿論、今もメリーゴーランドに乗ってるこりすちゃんたちを保護者みたいに眺めてはいる。
けど、隣にいるシャノンさんと話す時はリラックスしていて、気楽そうで。
「まるで、夫婦みたい...。」
そんな行き過ぎた感想が浮かぶくらいには、安らいでいるように見えた。
「不貞不貞だぁ!ふてぇやつらだぁ~!!ゆ"る"ざん"っ!!」
「あちょっキウィちゃんまっ!?おrrrrrr」
否定する所か火に油を注ぐ発言にキウィちゃんは再燃。
胃がまったく休まっていない私を振り回すように引っ張り、駆け出す。
意識を失っていて覚えていないけど、とても酷い絵面だったと思う。
覚えてなくて本当に良かった。
「すごい!こんなのも上手いのね、シャノンは!」
「まあ、これくらいはね?はい、小さいけど。」
「ありがとう!」
遊園地ってゲームセンターもあるんだよね。
まさかゲームセンターのトイレに感謝するとは思わなかった。
漸くゲロインからヒロイン(自称)に戻れた私が目にしたのは、クレーンゲームでぬいぐるみをシャノンさんに取ってもらう小夜ちゃんの姿だった。
ゾンビシューティングを楽しむ妹コンビを横目に見ながら、二人仲睦まじく談笑している。
「ぶぇぇーんっ!さよちゃんの"クレーンゲームでプレゼント"処女取られたぁ~!!ちくしょぉ~!!」
『Congratulations!Your Champion!!』
大分特殊なところに初めての価値を見出だしてるね、キウィちゃん。
その愛と怒りと憎しみを込めた渾身の右ストレートが、見事パンチングマシンの店舗記録を更新したみたい。
「クイクイ。」
「コリスはそれが欲しいの?」
「ふふん!シャノンならそれくらい朝飯前なんだから!」
「頑張ってね、シャノン。」
どうやら今度はこりすちゃんご所望のぬいぐるみをサルベージするみたいだ。
小夜ちゃんもあんなにニコニコして応援しちゃって。
「デートじゃない...から...。」
エスコートするような立ち振舞い。
私には出来ない、小夜ちゃんの喜ばせ方。
何だか私も、ちょっとだけ苛々してきたかも。
「い、嫌よ!絶対に嫌っ!!」
「もう、キティ?コリスが行きたいって言ってるんだよ?」
モヤモヤを抱えつつ、それでも尾行は続く。
次はどうやら"お化け屋敷"に入るようだ。
こりすちゃんが行きたがっているのに対し、全力でキャサリンちゃんが嫌がっているように見える。
怖いの苦手なんだね。可愛い。
「アタシが一緒だから、大丈夫。...それに、見返すチャンスなんじゃない?」
「っ...わかった...でも、手繋いだままにしてくれる...?」
「うん。勇気を出せて偉いよ、キティ。」
「そ、そんなに嫌なら無理することないんじゃない?私はキティちゃんと待ってるからシャノンはこりすと」
「あぁ、苦手なんだ?ホラー。」
「ち、違うわよっ!?私は別に大人というか怖いものなんて」
「大丈夫。サヨはアタシが守るから。」
「っ...///」
キメ顔で定番の台詞を真っ直ぐにと来ましたか。
これだからイケメンは。
小夜ちゃんも何?その乙女フェイス。
しっかりお手々繋いで入って行っちゃったし。
「"ドキッ!お化け屋敷でうっかりハグ!"まで奪う気かあんにゃろ~!!いくようてなちゃんっ!!」
「許せないっ!行こうキウィちゃ...って、え?」
行くって、あのお化け屋敷に?
つい最近新しいトラウマが増えたばかりのゴーストハウスに?
誰が?私が。
「無理無理無理むっむっむっむっ!?」
「いくぞぉ!!」
そこから出口までまた記憶が抜け落ちている。
だけど、これだけは覚えていた。
幽霊に鋭角から鋭く突き刺さるキウィちゃんのジャンプキック。
さっきのパンチと言い、やっぱりキウィちゃんって武闘家向きだよね。
とりあえず、幽霊役のキャストさんの無事を祈ります。
百花さんには私から謝っておくね。
―――――――――――――――――――――――――――――
「見て見て薫子ちゃんっ!ミッ○ーみたいなマスコットがいるよ!」
「見たらアカンよ。許されへんよ。」
一方その頃。
というか時間は一番始めに巻き戻るのだが。
薫子たちは百花の案内で予定通りオススメアトラクションに向かっていた。
賑わうパーク内を黙々と進み、段々と喧騒から離れていく。
純粋なはるかに内心緊張している薫子はともかく、若干不安になって来るのが一般的感性である。
「な、なぁ?ホントに大丈夫なんだよな?これ。」
「何ビビってんのよ。ダイジョブに決まってんでしょ?オーナーオススメなのよ?」
そのオーナーが信用出来ないと言いたかったネモだが、真珠はすっかり信じてしまっている様子。
確かにここまでの立ち居振舞いはお嬢様らしいものだが、性根はド変態メガネで間違いない。
今日の対応だけで不安が晴れることはない。
「それに、万が一があればうてなとキウィが何とかするわよ。」
「...あの二人で助けられると思うか?」
「......何で今それを言うのよ不安になってきたじゃない。」
見守り隊を頼りにする真珠だが、うてなとキウィが頼りになるのなんてせいぜい戦闘くらいなものである。
恋愛に関しては奥手、もしくは暴走しかない彼女たちに他人のサポートなど本当に出来るのだろうか。
自らの判断ミスを半ば認めながら、真珠は今更やり直せないと仕方なく歩を進める。
「着きましたわよ!」
「「「「おぉ~。」」」」
百花の声に真珠が視線を上げると、確かに立派な作りの建物が目の前にあった。
カラフルなようで落ち着いた雰囲気の建物に『ピーチ婦人の秘宝館』という何とも言えない印象の看板が付いている。
「人気、アトラクション...?」
「予約制の、一日に限られた人数しか体験出来ない幻のアトラクションなんですのよ?本日は皆様の為特別に"貸し切り"でご案内致しますわ。」
「貸し切りなんてスゴいねぇ!」
「つまり、アタシらに何かあっても誰にも分からないってことか...。」
「ちょ、ちょっとネモ...不吉なこと言ってんじゃないわよ...。」
素直に感動するはるか、不安が増すたまネモ。
そして緊張する薫子。
彼女たちは促されるままにアトラクションの入り口まで足を運ぶ。
「いらっしゃいませ!」
「い、いらっしゃぃ...」
そんな彼女たちを出迎えたのはアレクシアとはまた別の制服を着た、鋭い目つきの女性と非常に元気...もとい生気のない百花と同い年くらいの女子だった。
「って!店長じゃないっすか!?」
「店長ではない、受付のお姉さんだ。」
「そしてそのフィアンセ...えへ...。」
「病み上がりに何やってんですか...。」
というか、みち子と蘭朶だった。
先日ボロボロになったばかりでよく働くなと思わず突っ込むたまネモ。
はるかと薫子は一応初対面の為、簡単に挨拶を交わす。
一応と付けたのは、マゼンタとサルファとして二人と会ったことがあるのを忘れていなかったからだ。
たまネモは少し言い淀みながらも、とりあえずお世話になっている先輩ということで話を合わせることに。
一通りの自己紹介が終わった後、みち子は少しつまらなさそうな顔をして息を吐く。
「なんだ、水神はいないのか。」
「小夜ちゃんともお知り合いなんですか?」
「残念ながらな。たまには面白いモノが見れると期待していたのだが。」
「面白いモノ...?」
店長ってそんなに小夜と仲良かったっけ?という疑問を口に出すより先に、みち子と蘭朶は扉を開き案内を開始する。
「おおっ、本格的やね。」
「広いねぇ~!」
中は思った以上に広く、屋敷然とした内装に桃を模したインテリアが並ぶ少々珍妙な見た目。
そして真珠たちの前には人が二人程乗り込める大きさの桃、のような乗り物が2台停まっていた。
『まずはお二人ずつそのマシンに乗り込んで下さいな。』
「あれ?百花さんいつの間にいなくなったの?」
頭上のスピーカーから聞こえてくるのは間違いなく百花の声。
みち子たちに気を取られている間に移動していたらしい。
オーナー自らゲーム説明だなんて豪華だなぁ。などと呑気に考えつつ、指示通り二人に分かれてマシンへ向かう。
『モニターのスイッチを入れて下さいまし。』
「これか?」
ポチっと電源を押すと、タブレット大のモニター上に中世貴族風の衣装を着た百花の姿が映し出された。
『おーほっほっほっ!よくもわたくしの館へ土足で踏み込んでくれましたわね下民共!』
「下民...?」
「キャラ作りエグ...。」
どうやらこのアトラクションにおけるピーチ婦人のキャストは百花らしく、かなり小慣れた演技と共にアトラクションの説明をしてくれるようだ。
曰く、"蛮勇を評価してチャンスをくれてやる。屋敷内をマシンで移動し、30分以内に隠された宝を見つければクリア。
道中には罠が張り巡らされており、提示される試練やクイズを突破しなければ進めなくなる、もしくは罰を受けてしまう。
そんな苦難を乗り越えクリアした暁には、現実でも豪華な報酬がもらえるますよ"、とのことだった。
「景品ねぇ...。」
「面白そうじゃない。30分と言わず5分でクリアしてやるわよ!」
『その意気やよし。せいぜい楽しませてくださいまし?』
現金にも乗り気になったたまネモを不敵に笑い、ピーチ婦人はモニターから姿を消す。
代わりに現れたカウントダウンを見て、慌てて四人はハンドルを掴む。
「真珠ちゃん、また出口でね!」
「はるかより先にクリアしてやるわ!」
「薫子!ガンバれよ!」
「お、おぅ...///」
カウントダウンが0になると共に別れ道を別々に進む二組。
勿論同じ道を選ぶことも出来るが、そこはたまネモの気遣いが光る。
これではるかと薫子は二人きり。
内容的にのんびりは出来なさそうだが、そもそも百花がこのアトラクションをオススメと評したのは
何かしら仕掛けがあるのだろうと信じることにし、二人は二人でアトラクションを楽しむつもりのようだ。
「しっかし...ちんちくりんなオブジェばっかだよな。」
「ちんちくりんっていうか...。」
道中見つける絵画や銅像は果物に動物だけかと思いきや、時には謎の棒や健康器具にしか見えないモノもあったりと、どことなくやらしい雰囲気のモノが点在していた。
いや、あれがいやらしいと思う方がやらしいと言われればそれまでなのだが。
微妙な表情のまま先を進んでいると、突如マシンがガクンと停止してしまう。
「な、なによ!?」
『クイズトラップにかかったようですわね。』
「トラップ?」
ネモが確認すると、絨毯の上に擬態するような色の突起が見えた。
先ほどこのマシンが通過した位置で間違いない。
言っていた罠や試練とはこのことかと思い、素直にモニターに表示されるクイズを答えることにする。
『Q.日本で食べられている主な種類の桃はどこの国から伝来したものでしょう?』
「クイズも桃にこだわるのかよ...。」
『A.韓国 B.中国 C.アメリカ D.オランダ』
一応モチーフを大事にしているらしいクイズの試練。
一見マニアックに見えるが、内容は意外と簡単だ。
特にゲームで無駄な知識を溜め込んでいるネモには朝飯前。
この間も西遊記モチーフのアクションゲームをクリアしたばかりなのだ、こんなのは反射的に答えられるぜ。
そう意気揚々とBの選択ボタンを押そうとし手を伸ばすが...。
「こんなの簡単じゃない!」
その前に真珠が、"A"のボタンを押してしまった。
「ばっ!?」
『ブッブー!正解はB.中国ですわ!』
「えー。」
「えーじゃねぇ!中国に決まってんだろ!」
「知らないわよアイドル的には韓国が時代の最先端なのよ!」
「意味分かんねーし!?バカなんだから勝手にボタン押すなよな!」
「バカじゃないし!バラエティー的には不正解の方が盛り上がるのよ知らないの!?」
いつもの夫婦喧嘩を始めてしまうたまネモ。
二人っきりだと思っているが故に、マシンに起こった"異変"には気付かない。
「だいたいアンタはいっつも...うひぃっ!?///」
「な、何だよ!?」
突然声を上げる真珠に驚き、そしてすぐに
正確には、その腕が掴んでいるモノを凝視してしまう。
「それ真珠の勝負パンツ!?///」
「な、なななっ!?///」
赤に黒のレースという、ド定番に攻めたパンツ。
しっかりと恋人から勝負下着であると言質を取れたからか、機械腕はまるで勝ち誇るようにパンツを振り回しシート後ろに戻っていく。
「何なのよいったい何なのよぉ!?///」
『クイズ不正解の罰ですわよ?』
「か、返せよ真珠のパンツ!///」
『クリアしたら、お返ししますわ。』
羞恥心爆発なまま閉じられた蓋を叩いて引っ張るが、まったく開く気配がない。
モニターの中のピーチ婦人はこれが罰であると言い放つ。
その顔は大変幸せそうで、二人は自身の嫌な予感が当たっていたことを嫌でも認識することになった。
「スースーするぅ~...///」
「慣れてんだろ?///」
「慣れてなぁい!!///」
嫌々でも先に進むしかないと腹を決め、変態の館を探索する。
罠にかからないように慎重に、確実に。
だがそれにも限界があるし、そもそもこれはアトラクション。
何も起こらないなどという、退屈な時間は与えないようになっているのだ。
『はい、ストーップ。ですの。』
「は?」
「な、何で止まるのよ!?」
またしても一時停止するマシン。
だが今度は罠のスイッチが見当たらない。
『罠以外にも試練のエリアを設定していますの。退屈させてはお客様に失礼でしょう?』
「退屈してんのはアンタだろ!?」
『お題マスですのね。では、こんなのはいかが?』
「聞けよ!?」
ネモのツッコミも虚しく、ピーチ婦人はモニターに試練という名の"無茶振り"を表示させる。
『Q.お互いの好きなところを10個答えなさい。』
「「はぁ!?///」」
『お互いの目を見て、一つ一つ心を込めて。ですわよ?』
「だ、誰がんな恥ずかしいことを!?///」
『次はスカートをビリッといきますわよ?』
「っ...!///」
拒んでも受け入れても恥。
真珠は理不尽に対する怒りと恥ずかしさで頭が沸騰しそうになり、すぐには答えを出せない。
だが、ネモは違った。
拒めば傷つくのはきっと真珠である。
それだけで、彼女の答えは決まっていた。
真っ赤になる顔を真珠の方に向け、真剣な眼差しで見つめる。
「ね、ネモ...?」
「可愛い///」
「は...?///」
「料理上手いし、服のセンスいいし...スタイルよくて、いい匂い、する...///」
「な、何言ってんのアンタぁ!?///」
ストレートに浴びせられる恋人からの賛辞。
下手に露出させられるよりも効果覿面なそれに、真珠のキャパは限界を迎えつつあった。
「泣き虫なのも守りたくなるし、がんばり屋で、面倒見がいい。歌だってホントは上手い...それに何より、こんなアタシを好きでいてくれるから...アタシは、そんな真珠が好きだよ...っ///」
「っ...ネモっ...///」
ネモがお題をクリアし、次は真珠の番。
だが最早そんなことは二人の頭にはない。
何回目かのガチ告白にドキがムネムネの二人は、衝動のまま唇を重ね合わせる。
そんな様子をしっかりと録画(高画質)。
推しカプの仲睦まじい様子に、ついつい試練突破判定を下してしまうピーチ婦人なのであった。
『やっぱロコルベなんですわねぇ!///』
―――――――――――――――――――――――――――――
一方その頃。
はるかと薫子ペアは順調に探索を続けていた。
道中桃クイズに出会すこともあったが、謎に植物知識豊富なはるかにより難なく突破。
しっかりとこのアトラクションの本性を避け、楽しむに至っていた。
『参ったわ...いざとなったら何話せばええか分からん...。』
尤も、薫子については別だ。
待望の二人きりだと言うのにそれらしい会話は出来ず適当な相槌を返すだけ。
以前はくだらない話を雑にして、笑い合うことが出来たというのに。
今は自分の一挙手一投足が全てはるかからの印象を左右すると錯覚してしまう。
恋愛とはかくも不自由なモノなのかと、文学的な感想で自分を誤魔化すようになっていた。
「おぉっ。またクイズかなぁ?」
「また桃関連やったら呆れるわ。桃に偏り過ぎやないの、こんアトラクション。」
それなりに慣れてきたマシンの急な一時停止。
予想通りモニターにはゲームマスターのピーチ婦人の姿が映る。
『クイズトラップですわね。』
「さぁ来ぉい!」
「何でそないノリノリなん...?」
『Q.子どもを作る為にはセ○クスが必要ですが、最も着床率が高い体位は次のうちどれでしょう?』
「桃じゃないのぉ!?///」
「何で理科から保健体育に変わってんねん!?///」
桃は桃でも桃尻の方でした。
桃さながらにピンク色のクイズに狼狽する二人。
その姿が見たかったと婦人は心の中でガッツポーズ。
あまりに順調に進めるもんだからアプローチのし方を変えざるを得なかったらしい。
「そんなの知らないよぉっ!///」
「あ!?はるか待っ!?」
恥ずかしさから暴れてしまい、誤ってポチっと押されるAボタン。
すぐに不正解のブザーが鳴り、マシンの背後からバケツが飛び出す。
無防備な二人の背中に容赦なく水が浴びせられた。
「びゃあっ!?///」
「つめたっ!?///」
『正解はCの』
「言わんでええっ!どないしてくれるんやこのビショビショっ!?///」
『アトラクションとは元来そういうものです。スプ○ッシュマウ○テンとか。』
「不可抗力と悪意はちゃうやろがっ!?」
悪びれる様子もないピーチ婦人に激怒する薫子。
理不尽かつ下ネタのぶっ込み具合に言い知れぬ既視感を覚える。
「うぅっ...びちょびちょだし、これじゃ透けちゃうよぉ~...///」
「なぁっ...!?///」
白い服を着ていたのが功を奏し、見事に鮮やかで可愛らしいブラジャーを透けさせるはるかを、薫子は怒りも忘れて凝視。
ダメだと分かっていても目が離せないその魅力に、何故このアトラクションがオススメなのかを本能的に理解してしまう。
『照れとるはるかも可愛えぇっ...!///』
いつしかツッコミも忘れて探索を再開。
操作しながらもチラチラとはるかを盗み見ては脳内保存を繰り返す。
乙女というより思春期。
そんな煩悩に負けるような精神では、当然危機回避もままならず。
「ま、待た止まっちゃった...。」
「今度はなんや...?」
『"写真"の試練ですわ。』
「写真...?」
『そのモニターにはカメラ機能が付いてますの。お題に適した写真を撮影することが出来れば、報酬として宝のヒントを差し上げますわ。』
しばらくして、再び停止するマシン。
通常のアトラクションなら面白いポーズでも取ればいいのだろうが、既に二人はこの桃森百花という人間が普通ではないことに気付いていた。
経験がそう物語っていた。
この人、たぶんアズールと同じタイプの人間だと。
『お題は"今にも蕩けそうなセクシーツーショット"ですわ!』
「誰がやるかこの
『では罰ですのね。』
「「ぬばぁっ!?///」」
バシャンッ!とまたしても背後からかけられたのは程々に温まったローションだった。
ぬとぬとのべとべとになるはるかと薫子。
ちなみに彼女たちがローションという存在を認識したのは大体アズールのせいである。
「何を、しとんねんっ!?///」
『拒否すれば当然罰ですとも。あ、ちなみにこちらの試練はクリアしない限り移動出来なくなるタイプですので。』
「理不尽が過ぎるやろっ...!///」
やはり信じるのではなかった。
最初に小夜の友人と聞いた時点で話を素直に聞くべきじゃなかった。
やっぱり変態じゃないか!
薫子は激しく後悔するが、時既に遅し。
一刻も早くここを出たいがお題をクリアしない限りは出して貰える気がしない。
大体何なんだ蕩けるセクシーって。
デザートか何かなのか。
「っ...あたし、やるよ...///」
「は、はるか...?」
「あたしがガンバれば、薫子ちゃんを守れるって言うならっ...!///」
「はるか...!?///」
「くらえっ!う、うふんっ!☆///」
「ぎゃー!!///」
美しい献身の先に辿り着いたはるか渾身のセクシーポーズ。
当然はるか大好きな薫子には効果抜群で、うてなさながらに鼻血を吹き出してしまう。
しかし。
『子ども騙しですわね。』
「何でぇ!?///」
失敗判定のブザーが鳴り響く。
他人から見ればあまりにド定番なポーズ過ぎて却ってセクシーよりギャグを感じてしまうのだ。
そんなものでこの変態魔人を満足させることなど到底不可能。
「じゃ、じゃあ...///」
「ま、待ってはるか...?///」
胸元をはだけさせ、小さいが確かにある谷間を恥ずかしさで紅潮する顔と共に撮影。
またしても特効な悩殺攻撃に、薫子は理性が吹き飛びそうになる。
『純情な少女がまるでパ○活アカのような写真を...たまりませんわね!でも足りませんっ!まだまだ足りませんわぁ!///』
「そんなぁっ...///」
『わたくしは二人にお題を出したんですのよ!お一人では足りないのが道理ですわ!///』
「や、やめて!あたしがガンバるから...薫子ちゃんだけはっ...///」
自分も死にそうなくらい恥ずかしいのに、決して薫子を庇うことを止めないはるか。
そんな彼女に本日何度目かの胸キュンをしつつ、薫子もまた覚悟を決める。
はるかが薫子を守りたいと思うように、薫子もはるかを大切に想っている。
彼女を守る為なら、たとえ全裸であってもなることを厭わない。
それが愛するということである。
「ウチも...ウチも、はるかの為やったら...///」
「薫子、ちゃん...っ///」
上着を脱いで下着姿になる薫子。
釣られるように、はるかもまた透けていた服を脱ぎ捨てる。
『はい!もっと寄って!もっと密着して!ぬちゃぬちゃびくんびくんっ!!///』
「や、やぁっ...!///」
「は、はるかっ...!///」
「かおるこちゃ...あたし、へんっ...ぞわぞわするのっ...///」
「うちも...うち、もっ...!///」
お互いにぐちゃぐちゃの身体を寄せ合い、敏感な部分が擦れ合う。
思考を失い言い知れない興奮を共有し、身体と同じように心まで絡み合っていく二人。
そうして撮影された写真は、まさに"蕩けるようなセクシーショット"となるのであった。
―――――――――――――――――――――――――――――
「あっという間に夕方ね。」
楽しい時間とはすぐに過ぎてしまうもの。
一日中遊園地をあちらこちらと遊び歩いた小夜たちは、いつの間にか日が沈み始めていることに今漸く気付いた。
「じゃあ、最後はやっぱり"あれ"かな。」
「そうね。そうしましょう。」
定番でありながら、その魅了は落ち着いた雰囲気と辺りの景色にある、燻銀のアトラクション。
疲れて眠そうなこりすとキティもゆっくり出来る最後の目玉に、彼女たちは向かうことにした。
「見て見てこりす!さっきのコーヒーカップが本当にカップみたいな大きさよ!」
「コクリ。」
"観覧車"。
ゆっくりと高くなっていく景色を見てはしゃぐキティを、こりすは優しい表情で見守る。
夕焼けは眩しい程に輝いて、それがより今日という日の終わりを強調するようで、楽しかった時間の終わりを嫌でも意識してしまう。
観覧車には四人でではなく、それぞれこりすとキティ、小夜とシャノンという組み合わせで乗ることにした。
そうしたいと言い出したのはキティだ。
だからきっと、何か話したいことがあるのだとこりすは分かっていた。
警戒はせず、彼女は黙って友だちが話をしたくなるタイミングを待つ。
「...今日は、本当に楽しかった!アトラクションはまあまあだったけど、お姉ちゃんに甘えられて、サヨは優しかったし...何よりこりすと一緒だったから!」
「コクリ。」
最初の頃は想像もしなかった、キティの心からの素直な言葉。
こりすもまた、嬉しそうに同意する。
だが、次第に笑顔を曇らせていくキティ。
本題はこれからのようだった。
「...ワタシね、やらないといけないことがあって日本に来たの。だから、それが終わったら...帰らなくちゃ、いけなくて。たぶん、いられても今年中だと思う...。」
「!...。」
それはこりすも分かっていたことだ。
留学生ということは、いつかは帰ってしまうに決まっている。
だが、そんなに早いとは思っていなかった。
子どもの二人にとって、その距離はあまりに遠い。
やっと出来た本当の友だち。
その別れはあまりに性急だった。
「だから、今言っておきたかったの。ワタシと、友だちになってくれて...」
「ヒシ。」
「こりす...?」
キティの言葉を遮り、こりすは震えるその手を優しく握る。
お礼を言うなんて、それこそ友だちには不要だ。
そんなもう二度と会えないような挨拶、こりすは欲しくなんてなかった。
何故なら。
「友だちは、ずっと友だち...?」
「コクリ。」
「でも...一緒にいられたの、少しだけで...それよりずっと長く離れちゃうのに...」
「ブンブン!」
「始めに、あんなにひどいこと言ってたのに...?」
「ブンブン!」
「っ...友だちでいてくれるのっ...?」
「コクリ!」
確かに仲良くなるには時間がかかって、今日のように楽しい時間を過ごせたのは数える程。
だが友情に時間や機会の多さは重要ではない。
キティはママや小夜に負けないくらい、自分を大切に想ってくれている。
そしてそれは自分も同じ。
ならば、たとえ遠く離れていようと関係ない。
「こりすぅ~っ!」
「ヨシヨシ。」
涙を溢すキティを抱き締め、あやすように撫でる。
小夜たちやママがそうしてくれたように。
涙を流す程の友情を知った主を誇らしげに見つめつつ、人形とロボット犬は静かに心の中で微笑むのだった。
「綺麗な夕焼けね。」
「うん、本当に綺麗...。」
そうまとめるとここで話が終わってしまいそうだが、勿論姉組にも混み合った話があった。
妹たちと比べ、少し大人なお話だ。
二人は対面に座り、静かに窓からの景色を眺める。
小夜は外の景色を指しての言葉だったが、シャノンはずっと小夜から目を離せないでいた。
巡って来た絶好の機会。
分かれて入ろうと提案したのはキティだが、そうでなければシャノンが言い出していた。
今日こそ、小夜に想いを伝えたい。
一度は"ガールフレンドにする"と言ったことはあるが、きっと真面目に受け取ってくれてはいない。
しかし、今はその時より真剣に彼女のことが好きになっていた。
だから、改めて伝えたい。
どんな結果になったとしても。
卑怯かもしれないが、今日はそれが目的だったと言える。
だって小夜はいつも誰かに囲まれて、二人きりになること事態難しいのだから。
不利な自分はこれくらいのハンデで許されるはず。
そうして自分を奮い起たせ、今度こそと呼び掛ける。
「ねぇ、サ」
「今度はみんなで来ましょうよ。うてなやキウィも一緒に。きっと楽しいわ。」
「...そう、ね。」
「お化け屋敷でうてなの反応を見たいわ。レストランのデザートはキウィが喜びそうだし。」
だが、ダメだった。
言い出そうとして、俯く。
二人きりでも、小夜にとっては違うのだ。
これだけしても、自分は決して勝つことは出来ないのだと分かってしまった。
「...サヨは、本当にウテナとキウィが好きだよね。」
「え?...ふふっ、そうね。あの二人はどうしたって特別なの。それだけのことをしてくれた人たちだから。」
またその顔だ、とシャノンは思う。
優しくて愛らしい、自分が一番好きな小夜の表情。
今日一日過ごして分かった。
彼女はあの二人を忘れることなんてない。
いつも、どんな時でも。
心には自分じゃない、別の誰かがいる。
自分の入る隙などないのだと、この顔を見る度に思い知らされる。
「シャノンにはいる?そういう、特別な人。」
「......いないよ。アタシには、いない。」
君だと、そう素直に言いたかった。
でも、そう言えばきっと自分の大好きなその表情はどうしようもなく曇ってしまうだろう。
知り合ってまだ短いが、小夜がうてなとキウィの二人を天秤に掛けて悩んでいるのは分かっていた。
二人を同じくらい愛してしまっている罪悪感を、シャノンは感じ取っていた。
だから自分がここで告白してしまえば、一人を切った事実が更に彼女に選択を迫ることになってしまう。
それは良くないことだ。
シャノンの好きなサヨがいなくなってしまうくらいなら、彼女の取る選択肢はこれしかない。
「でも、サヨのことは大切で好きだよ。...アタシにとって、
「シャノン...私も、こんなに一緒にいて安らぐ友だち他にいないわ。あなたに会えて本当に良かった...。」
「はは...お別れみたいに言わないでよ。まあ、アタシもそう思うけど。」
二人はいつもと変わらずに笑い合う。
一人が心で泣いて、もう一人の笑顔を守った。
その事実を小夜が知ることはないだろう。
だが、それでいい。
それでいいのだと、シャノンは笑う。
こうして、細やかな恋は花開くことなく摘み取られた。
この日、シャノンとあと
実らずとも、果たされる愛がある。と。
―――――――――――――――――――――――――――――
「......。」
「~...。」
キウィちゃんと二人並んで、とぼとぼと遊園地内をあてもなく歩く。
何故こんなに落ち込んだテンションになっているのか。
別に、小夜ちゃんを見失ったわけじゃない。
むしろその逆だ。
「...うてなちゃん。」
「どうしたの、キウィちゃん...。」
「アタシ、よくわかんないけどさ...。」
「うん...。」
「...アイツ、スゴかったね。」
「...うん。」
全部、聞いてしまった。
観覧車に入っていく二人に焦って、変身して。
魔法で空から中の会話を盗み聞きした。
会話の内容は、普通で。
というか、私たちからしたら嬉しい内容だった。
けれど、分かってしまった。
シャノンさんが、あの時本当は何て言いたくて。
何で、それを言わなかったのかということを。
「アタシたちには、出来なかったもんね。」
「うん...。」
私たちには出来なかった、相手の為に自分の気持ちを抑えるということ。
考えなかったわけじゃない。
例えば、私かキウィちゃんが『自分は愛してない。』と伝えていたら。
そう話せていたら、小夜ちゃんが思い悩む必要なんてなかったはずだ。
傷ついたとしても、きっと前を向いて歩けたはず。
そんな考えるだけで絶対に出来ないことを、シャノンさんはやってのけた。
愛するからこそ、身を引く。
そして私たちは疑っただけ。
彼女にそこまでさせた、小夜ちゃんの気持ちを。
だから今日、私たちはきっと。
シャノンさんに負けたのだと思う。
そう思わずにはいられなかった。
「...うてなちゃんはさ、アタシがいない方がいい?」
「え?」
「アタシ、二人のジャマ...?」
いつもとは違う、弱々しい声に潤んだ瞳。
キウィちゃんはきっと、私以上にさっきの光景がショックだったんだ。
そういう愛の示し方もあるって知って、戸惑ってる。
「...正直、三人一緒ってどうすればいいかまだ分かってなくて。キウィちゃんにドキドキする気持ちが、小夜ちゃんへの裏切りになってしまうような感覚は、まだあるよ...。」
「そっか...。」
「でも、ね?私...キウィちゃんを可愛がる小夜ちゃんも、小夜ちゃんに甘えるキウィちゃんも見てるとぽかぽかして、大好きなんだ。だから、邪魔なんてことない。ずっと一緒にいたいって、それだけは絶対に言えるよ。」
「うてなちゃん...。」
だから素直な気持ちを伝えた。
私たちが三人でいるから、私たちが好きな私たちがいる。
今の私にはそれしか言えないけど、欲張りなのが私らしいって、そう受け入れられるようになってきたから。
「...アタシも、ラブラブなさよちゃんとうてなちゃんがすき~。」
「あはは...照れくさいけど、ありがとう。」
私もそう言ってくれるキウィちゃんが好きだよ。
とは恥ずかしくて言えないけど。
「うてなちゃんはさぁ、アタシのこと好き~?」
「え...す、好きだけど...あの...///」
「じゃあしてく~?」
「え...?」
「ホテルえっち。」
「え"っ。」
すっかり調子を取り戻したキウィちゃんに、お城みたいな外装のホテルに引っ張られる。
これやっぱりラブなホテルだったんだ。
改めて最低だね、百花さんって。
「は、初めては三人一緒にねっ!?」
今日は私とキウィちゃんにとって、とても大切な一日になったんだと思う。
私たちはこれからどうしていくのか。
それを決めなくちゃならない日は、きっともうすぐそこまで来ている。
そんな予感がしていた。
「というか、何か忘れてるような...。」
役割を完全にすっぽかしたせいで、ブチギレの薫子ちゃんと真珠ちゃんにお説教された上に更なる無茶振りを強要されたのは、また別の話だったりします。
ちゃんちゃん。
―――――――――――――――――――――――――――――
「で、そっちはどうだったの?」
「最高にcuteなsistersでシタ!ワタシも早く子どもが欲しいデース!」
「それは相手を見つけてからでしょ。」
三姉妹揃っての帰り道。
テンションは疎らで、それでも安らかな雰囲気がある。
「でも、良かったのデスカ?本気だったのでショウ?」
「...いいの。時には引く方が正しい時もあるんだよ。」
「...よくわかんないの。欲しいものは欲しくて我慢できないよ?」
「はいはい。キティは可愛いままでいな?」
「もうっ!子ども扱いしてるでしょー!」
失恋したシャノンを気遣うアレクシアに、不満げなキティ。
普通の女の子、家族としての日常をただ過ごす。
「というか、何でサヨだったの?」
「キティにはまだ早い。」
「ふふっ、シャナはグランマ大好きデスからネー!」
「どうしてグランマ?」
「ちょ、アレックスあんたね!?///」
辛いことや悲しいことがあっても、幸せな日常は終わることはない。
そう思っていた。
この時までは。
「随分と楽しそうですね。使命を疎かにして過ごす平和はいかがですか?」
「...ヴァーツ。」
背後に浮かぶ白い影。
彼女たちを嘲笑う姿に、かつてのマスコットとしての面影はない。
「役目なら果たします。そんなことを、わざわざ言いに来たのですか。」
「睨まないでくださいよ。それに、悪いのはあなたたちなんですよ?」
「何を言って」
「どういうお気持ちですか?
ヒロインたちの友情は、かくも容易く手折られたのだった。
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◼️□next episode◼️□
「嘘つき...友だちだって、言ったのに...!!」
こいつ最初からずっと見てたんですよ。
次回は5/25(日)0:00投稿予定です。