魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~ 作:月想
中途半端な時間に投稿となりすみません。
間に合わないかと思ったら間に合ったと思わせてやっぱり間に合いませんでした←
三部最終決戦、いよいよ本番です。
小夜とうてなの選択は如何に。
相変わらず燃え寄り注意です。
「やあぁぁっっ!!」
「一番槍、というやつデスネ?その意気はExcellent。」
気合いを込めた"
ぶつかり合う二振りの槍。
一進一退に見える攻防だが、マゼンタの表情には既に焦りの色が浮かんでいた。
「...!(どうして押し切れないの...!?)」
油断していたわけではない。
事実として、トレスマジアは一度マジアオールを撃退している。
その時も同じように打ち合い、確かにマゼンタが勝ったはず。
だというのに、今は拮抗させるので精一杯だった。
少しでも気を抜けば弾き飛ばされてしまうだろう。
必死なマゼンタに対し、オールは涼しい顔。
考えるまでもない。
前回までのは
あの苦戦した様子も全て演技。
現実は非情で、真化すらしていない彼女に自分の全力は軽くいなされる。
自信や希望が次第に薄れていくのを感じながら、それでもマゼンタは踏み込むことを止めない。
「マゼンタちゃんっ!」
最前線でぶつかり合う仲間を援護しようと、ベーゼがその能力で周囲の無機物や木を魔物へと変化させる。
通常の敵であれば数的有利を決定付けられる能力だが、今回ばかりは相手が悪かった。
「的が増えるだけだと学んでくだサーイ。」
「一瞬で...!?」
空間に造り出された数多の武器が魔物の軍勢に放たれ、容赦なくその身体を粉々に引き裂いていく。
片手間ですらない圧倒的殲滅力。
全滅した配下たちを前に、ベーゼは思わずその動きを止めてしまう。
「動揺はオススメしまセーン。」
「ベーゼ...!」
「っ!?ご、ごめんサルファちゃん...!」
隙を見逃さずベーゼを射抜かんと放たれた弾丸を、寸での所でサルファの拳が打ち払う。
ベーゼの謝罪を聞き切る間も無く、サルファはオールに肉薄。
マゼンタと引き剥がすべくその拳をオールの横っ面目掛け振り抜いた。
「ボクシングがお好みデスカ?」
「ウチが好きなんは何でもアリのストリートファイトや...!!」
渾身の一撃を身体を反らして回避、槍を投擲し防いだマゼンタを大きく後ろに弾いたと思えば、両手に金色に輝く籠手を装着しサルファとのインファイトを開始する。
高速で繰り出される拳、意表を突く蹴り技の乱打をプロボクサー顔負けの動きでかわし、カウンターを放つことでサルファの攻撃の手を潰して次第に防御に専念せざるを得なくする。
「腕っぷしに自信があると言っても、所詮は井の中のfrog。」
「調子に...!!」
「ゲコゲコデース!」
「がふっ...!?」
痺れを切らして大振りになった所に炸裂する右ストレート。
土手っ腹を捉えた一撃に血を吐きながら、サルファは後方に吹き飛ばされてしまう。
「サルファ!?」
「くっ...ならこれはどうですか!?」
「ンン?」
サルファの救援に向かうマゼンタを守る為、ベーゼはオールを対象とした悪夢の再現を試みる。
杖から放たれオールへと繋がろうとするその魔力の糸は、彼女に触れることすらなく溶け消えてしまった。
「まったく...効かない、の...?」
「その程度の魔力干渉、ワタシには効きまセンよ?」
自らの能力を全て完封され、震え出すベーゼの足。
後退りながらマゼンタとサルファに合流する彼女に何もせず行かせ、オールはただ不敵な笑みを浮かべる。
「強い...これが、マジアオールなんだ...っ」
「三人掛かりでこのザマ...無茶苦茶やアイツ...!」
「っ...二人とも!出し惜しみなしでやるしかないよ...!」
あまりの強さに戦慄するトレスマジア。
マゼンタは不安と恐怖を振り払いながら、"最後の切り札"を切るべく仲間たちに呼び掛ける。
それに頷き、三人はそれぞれの武器を重ね全身全霊の魔力を込めていく。
「思い切りが良いのは認めマース。but。」
「「「"マジカルユナイトバースト"ッ!!」」」
三人の絆の象徴。
一度は最強の魔法少女チームを退けた、トレスマジアの合体必殺技。
マジカルユナイトバーストが再びオールに迫る。
大質量の魔力の塊を前に、最強の魔法少女は造り出した自らの剣をただ上段に振りかぶって。
「それは負けフラグデース。」
少女たちの願い諸共、絆の一撃を
「......なんや、それ...っ」
「アタシたちの、全力だったのに...!」
「つよ、すぎる...!」
起死回生の切り札すらオールには通用しない。
あまりの実力差に放心状態のトレスマジア。
皹の入った剣を愉快げに眺め霧散させるオールだったが、次の瞬間その余裕な表情に僅かな狂いが見えた。
「カルコス...やはり、あの子には早すぎましたか...。」
「っ...?」
唐突に呟いた言葉の意味が分からず、困惑するベーゼたち。
そんな彼女たちに視線を戻し、オールは屈託のない笑顔で大袈裟な拍手をしてみせた。
「トレスマジア、そしてエノルミータ。どちらも素晴らしい力デース。間違いなく、今まで見た中で一番の魔法少女、ヴィランと言えるでショウ。」
「散々圧倒しておいて...っ」
「嫌味やなぁ...。」
「No。心からそう思ってマース。」
"それでも自分には敵わないが。"
言外の意に毒づくトレスマジア。
あくまでも本心だと返し、オールは話を続ける。
「危険な相手だと認めているからこそ、ヴァーツの
「細工...?」
「!...アンタ、まさか!?」
その意味にいの一番に気付いたのはサルファだった。
彼女の誇りを傷付けた、あの暗く薄汚れた力。
遅れてベーゼも、今まで彼女やエノルミータが対峙してきた様子のおかしい魔法少女たちを思い出す。
「呪い...憎悪の欠片...!」
「どうしてそんなモノをヴァーツが持っているのかは知りませんが、確かにあの子たちの魔力は膨れ上がった。二人がかりならエノルミータを全滅出来ると思ったのですが...想定以上に、彼女たちは手強いようデスね。」
「そんな...大事な妹でしょ!?どんな後遺症があるかも分からないのにっ!?」
「だからこそデス。今のアルジェントやカルコスだけで勝利するのは難しかったでショウ。しかし、あの子たちは決して引こうとはしなかった。当然デス。大切な友人こそが、倒すべき敵だったのですから。」
「それはっ...」
"私だって、あなたの友だちじゃないんですか?"
出掛かった言葉を飲み込んだベーゼを一瞥するオールだが、その感情を推し測ることは出来ない。
「そのまま戦っていれば敗北し、命を落とす可能性すらあった。だからアレを利用したのデース。」
「...アンタは、どないなんや?」
「What?」
「アンタも、あの胸糞悪いもんに頼っとるんかって聞いとるんや...!」
「......プッ。アハハ!!」
あれだけの強さが普通であるはずがない。
むしろ、そうであって欲しい。
願いにも似たサルファの当然の疑問に吹き出し、心底可笑しそうに声を上げて笑うオール。
「フフッ...Sorry!ニッポンの魔法少女はジョークも一流デース!流石、本場は違いマース!」
「な、何が面白」
「面白いに決まってマース!だって...いったいどこに
「「「っ...!?」」」
笑みを一転させ、貫くようにトレスマジアを睨みつける。
今まで僅かに見せていたアレクシアとしての雰囲気が完全に消え、"最強"の冷酷な圧が初めて顔を覗かせた。
緊張が走る中、オールはゆっくりと三人に近付いていく。
「ワタシにあんなモノは必要ありません。一点の穢れも、ワタシには許されない。最強とは。正義とは。常に潔白でなくてはならない。だからワタシは、あなたたちを赦さない。エノルミータを見逃さない。ヴァーツさえも例外ではない。あなたたちを裁いた後、アレの企みは必ず潰すと約束しましょう。」
「そんなの...そんなの!正義なんかじゃない...!」
協力関係にあるヴァーツですら見逃す気はないと語るオール。
あまりに非情な正義にベーゼは異を唱えるが、冷たい瞳は罪人を真っ直ぐに捉え揺らぐことはない。
「ウテナ...ワタシの、大切な友達。残念ですよ。このような形でお別れになるとは。」
「っ...アレクシアさん...私は...!」
「マジアベーゼ。アナタは特に危険です。野放しには出来ない。せめて全力で、一思いに消してあげましょう。」
言葉が既に届かない程に、オールの心は正義という厚い氷に覆われてしまっていた。
一方的に別れを告げ、彼女の身体を眩い光が包み込む。
「"
それがトレスマジアの終わり。
その始まりであった。
―――――――――――――――――――――――――――――
「キウィ...真珠...ネモ...っ」
アズールは傷付き倒れた仲間たちを見つめ、その悔しさに顔を歪める。
京都からここまで、ゲートを開くには魔力が足りず、ヴェナリータが迎えに来てくれなければそもそも駆け付けることも出来なかっただろう。
それでも、"もっと早く着いていれば"と悔やまずにはいられない。
腕の中で気絶するキウィの温かさがいつもと変わらなく感じるからこそ、その甘えた声が聞こえて来ない事実に憤ってしまう。
「すまないね、アズール。すぐに迎えに行きたかったんだけど、少し邪魔が入ったんだ。」
「...いいえ、来てくれて助かったわ。ヴェナ、みんなをお願い出来る?」
「移動くらいなら。アジトに攻め込まれると安全な場所に逃がすことも出来ないよ。」
「十分よ。アリスとロボ子は...?」
「無事だよ。それどころか、ここに来てその才能を開花させたようだ。」
「そう...なら、よかったわ。」
仲間たちをヴェナに任せ、妹分が壁を乗り越えたことに少しだけ笑顔を見せる。
これで後顧の憂いはなくなった。
再びアルジェントを視界に納め、表情を険しい物へと変える。
「サヨ...アズールぅ...!!」
「"
憎悪の籠った瞳を睨み返し、アズールはその姿を"凍刃羅刹"へと変える。
二振りの愛刀を構え、真っ直ぐにアルジェントへ突撃した。
「こんなこと...許さないわ...!!」
「許さない、だと...っ!」
アルジェントは炎と岩の魔法から造り出したマグマの剣で迎え撃つが、怒りに昂る魔力を叩きつけるようなアズールの乱打に、次第に押されていく。
二刀の絶え間ない攻撃に対し、傷付き使えなくなった片腕を庇っての打ち合い。
負けて尚レオたちがアズールを支えているようにも感じられて、アルジェントの神経を更に逆撫でする。
「そこ...っ!!」
「ッ!?」
それが隙となり、アズールの鋭い蹴りがアルジェントの正中線を捉える。
勢いよく壁に叩きつけられたアルジェントは、既に満身創痍のようにも見えた。
「まだよ!今までの分...全部倍にして返してあげるわ...!」
「っ...ハハ...まるでアタシが悪者みたいな言い方ね...っ」
怒りを露にして吼えるアズール。
そんな義憤を嘲笑うように、アルジェントは立ち上がり、口調とは裏腹の悲壮感溢れる表情を浮かべる。
「ねぇ...どんな気持ちで聞いてたの...?事件の話...アタシたちの、トラウマをさ...。」
「っ...それは...」
目の前の敵が、途端に友人の姿に変わって見えていた。
シャノンがアズールに、小夜に問い掛けていた。
"悪に癒えない傷を負わされたことを嗤っていたのか"。
"あの時の慰めるような言葉も全て、皮肉や冗談のつもりだったのか"、と。
「アタシ、言ったよね...?話すのは、サヨが初めてだって...」
「シャノン、聞いて...私はっ」
「好きだったから。」
「っ...?」
「本気でアタシ...サヨのことが好きでっ...愛してたから...!だから話したのにっ!分かって欲しかったのに!!」
「シャノン...っ!」
予想外の告白。
否、分かっていたはずだった。
だからこそ、小夜にとっては致命的だった。
シャノンがどれだけ自分を信用していて、悩みを打ち明けてくれたということに、どれだけの意味があったのか。
お互いに知らなかったとはいえ、確かに自分には選ぶ"タイミング"があった。
取り繕わず沈黙するか、自分もまた悪であると話してしまうか。
どちらもコミュニケーションとしては間違っている。
だが、誠実さでは勝る。
その点で小夜の選択は最悪だ。
自分を棚に上げ、綺麗事で慰める。
最初に裏切ったのは自分だったと、心はすぐに受け入れてしまったのである。
「遊園地の日...本当は告白するつもりだった...でも出来なかった。アタシじゃ、サヨを一番幸せに出来ないって分かったから。アタシ、自己中なのにさ...告白するだけでサヨが悲しむって思ったら、何も出来なくて...それくらい、アタシ...好きでっ...!」
目の前にいるのは間違いなく友人のシャノンだった。
その言葉も表情も、紛れもない本物。
思い出の裏の真実はアズールの戦意を奪い、その心を罪悪感で満たしていく。
「なのに...アンタはそれを、裏切った...!ずっと嗤っていたんでしょ!?アタシの想いも!傷も!面白可笑しく馬鹿にしてっ!悪魔みたいに楽しんでたんだっ!!」
「違う...違うのシャノン!話を...っ!?」
涙を流すその顔が憎悪に染まった瞬間、"異変"が始まった。
アルジェントから黒いエネルギーが溢れ出し、主の姿を大きく歪めていく。
神官然とした衣服は溶け消え、大胆に露出した素肌に直接有機的なパーツが付与される。
腕には鳥のような翼、頭には山羊のような巻角。
身体には一部鱗のようなものが生え、その素肌を焼くように燃え盛る炎が纏わり付いている。
魔法使いから、属性を司る"精霊"そのものへ。
"
『コロシテ、ヤル...!』
「しまっ...!?きゃああぁっ!?!?」
予備動作なしに造り出される炎の嵐。
呆気に取られていたアズールは防ぐ余裕すらないまま、その地獄に身を晒すことになった。
「やってくれたね、ヴァーツ...。」
アズールの悲鳴と映し出された"別の地獄"を横目に、ヴェナリータは苦々しげに呟いた。
―――――――――――――――――――――――――――――
「この姿になるのは久しぶりです。なので、手加減などは期待しないように。」
トレスマジアの前に、神々しき"最強"が降り立った。
黄金に輝く鎧を身に纏うも、所々から美しい素肌が艶かしく露出している。
けれどその姿に下品さは感じず、むしろその神聖さには、思わず膝を折って懺悔しそうになってしまう。
膨大なエネルギーを表すように、背中には雄大な光の翼を備えている。
これが最強の魔法少女。
その真の姿。
『"ゴッデス・オブ・コンビクション"』だった。
「ちょっと大胆、だね...。」
「見られて感激...なんて思っとらんよな?」
「あはは...流石に...恐い、かな...。」
通常形態ですら歯が立たなかった相手の真化。
かつては憧れの魔法少女だった存在が、今や絶望の象徴となって目の前に立っている。
興奮することも喜ぶことも出来ず、力無く笑うベーゼは震えていた。
サルファやマゼンタの軽口も、平静を何とか保とうとする精一杯の抵抗だった。
「逃げ出さずに立ち続ける、その気概は認めましょう。」
「というか、日本語ペラペラやないの。」
「むしろお姉さんだけカタコトな方がおかしいような...。」
「リスペクトだって言ってたからね...来るよ、二人とも。」
オールは微笑んだまま自身の翼を一度大きく羽ばたかせる。
舞い落ちる無数の羽根が、その姿を変貌させていく。
女神に付き従うように並び立ったのは、一人一人違う武器を携えた
「容赦なしにも程があるやろ...っ!」
「では、始めましょうか。」
「っ..."
トレスマジアが悲鳴を上げる間も無く、一斉に分身たちが襲い掛かる。
すぐにベーゼが対抗するように自身の軍勢を召喚するが、全てを抑え切ることは出来ない。
一人ずつ漏れて、トレスマジアとぶつかり合うこととなった。
「ご丁寧に武器まで合わせて...!」
「でも、何とかっ...!」
「う、ぐっ...!?」
不幸中の幸いと言うべきか、分身の力は通常形態のオールと同じくらいで一方的に負けるような力量差はない。
だがそれはトレスマジア本人であればの話。
分身の質の差は言うまでもなく、均衡はあっという間に崩れ去った。
「"
「ベーゼ...!そない無茶したらまた...!」
「いい、からっ...私がやるから、二人は本体をっ...!!」
自らの悪夢を操る諸刃の剣を、消される度に補充し続けるベーゼ。
暴走の衝動に苦しみながら、仲間の為に血路を開こうとする。
「今っ...サルファ!!」
「おうっ!!」
そして一瞬、奇跡的に戦局がトレスマジア側に傾くタイミングがあった。
その僅かな隙を見逃さず、マゼンタは自身が対峙していた分身諸共、サルファの敵を凪払う。
サルファの翼が煌めき、一条の閃光がオール本体目掛け一直線に突き抜けた。
「...!」
千載一遇のチャンスに放つ、全身全霊の一撃。
目にも止まらぬ光速の拳。
構えてすらいなかったオールに防ぐことは不可能。
そのはずだった。
「うっ...が、はっ...」
「サルファ...っ!?」
ベーゼとマゼンタが見たのは、拳を難なく受け止める円形の盾と、
流れ出る血に、光を失い霧散する翼。
仲間を失ったことを理解するのに、時間は必要なかった。
「天使が神に敵うとでも?」
「ッ...!許さ、ないっ...!!」
「待ってマゼンタちゃん...!?」
衝動のままオールに突撃するマゼンタ。
オールは乱雑にサルファを放り捨てると分身を殺到させ、数の暴力でマゼンタを大きく弾き飛ばした。
「あぐぅっ...!!」
「義憤で勝てるのであれば苦労しませんよ。」
「っ!?」
痛みに呻き見上げる先には、断罪の女神が既にその鎌首を振り上げ、絶望の瞬間を待っていた。
無慈悲に振り下ろされる刃。
反応すら出来ず、刎ねられるはずだったマゼンタの命。
しかし、飛び散ったのは彼女の血ではなく。
「うち、が...まも、る...っ」
「ぁ...ぃゃ...いやあぁぁぁっ!?!?」
自らの身体を盾とした、マジアサルファの鮮血だった。
「そんなっ...やだ...やだやだやだよぅ...!薫子ちゃん...!薫子ちゃぁぁん...っ!!」
変身も解け意識を失った薫子の傷口から、夥しい量の血が流れる。
マゼンタは親友の命が消えかかっていることに動揺し取り乱すが、魔力の消費も省みず治癒魔法を行使。
真化形態を失いながらも、何とか傷口を塞ぐことに成功する。
「自己犠牲に癒しの力。魔法少女に相応しい資質でした。とても、残念です。」
「うっ...!」
隙だらけの背中に一撃放ち、マゼンタの意識をも刈り取るオール。
はるかの身体から転がり落ちるトランスアイテムを見留め、三度その剣を振り上げた。
「やめろぉぉぉっっ!!」
「...!」
咆哮と共に襲い掛かったのは、ただ一人残されたベーゼ。
その姿は暴走寸前、身体を半分真っ黒に染めながらの、まるで獣のような突進だった。
「なん、でっ!ナンデ、こんなコとをっ...!!」
「醜い姿ですね、マジアベーゼ。言ったではないですか。正義の為だ、と。」
無軌道に襲い掛かる黒い泥のような何かを事も無げに切り払うオール。
冷ややかな視線でベーゼを見つめ、その姿を見下す。
「特にそう。
「ナニ、を...っ!」
魔力を無理矢理引き出し、吐き続けるような戦い。
たとえ一時的に対抗することが出来たとしても、それは時間の問題だった。
「ぁっ...!?」
「自暴自棄、というやつですね。」
力が一瞬抜けたかと思えば、ベーゼの姿が通常形態へと変わりその場に座り込んでしまう。
気付けば分身たちも全て消され、戦場にはオールとベーゼの二人だけ。
オールは友人であったはずのベーゼを始末するべく、ゆっくりとその無防備な身体に近付いていく。
「っ...サルファちゃんっ...マゼンタ、ちゃん...っ」
ベーゼは一人、重なるように倒れた仲間たちの姿を目に写し、深い悲しみと絶望を抱いてしまう。
その姿は酷く弱々しく、あれだけ漲っていた魔力も今や変身を維持するだけで精一杯だ。
満身創痍の彼女を見下ろし、金色の衣を纏いし"神"がわずかにその腕を振り上げる。
「その名の通り、悪として裁きましょう。せめて安らかに。さようなら、マジアベーゼ。」
―――――――――――――――――――――――――――――
「シネ...!シネエェェ...!!」
「くぅっ...!」
どうすれば。
いったいどうすればいいの?
身体中から走る火傷の痛みと、アルジェントの憎しみの叫びが脳を刺激する。
揺れる視界にズキズキと鼓動している心。
この状況を何とかする術を考えたいのに。
あらゆるモノがそれを邪魔して、まともに戦うことすら出来ない。
いや、そもそもだ。
そもそも私は、戦う気があるのだろうか。
始めは仲間を傷つけられたことへの怒り、かつてアルジェントにされた所業を思い出して憎しみにも似た激情があった。
でも、それは長く続かなかった。
ぶつかる程に強く"理解"してしまった。
目の前にいるのは敵のマジアアルジェントではなく、大切な友だちのシャノン・ハートフィールドであると。
そのシャノンをこんな風にしてしまったのは、間違いなく私だ。
私が彼女の想いを考えなかったから。
私はきっとたくさん、彼女の前でうてなやキウィの話をした。
それがどれだけ辛いことか、嫉妬深い自分には分かったはずなのに。
なのに、彼女は私の為に、私を想うからこそ結ばれない選択をした。
今の幸せを崩さない為に、あのシャノンが自分の願望を抑えて笑ったのだ。
私には、到底出来なかったことだ。
うてなが暴走し、トラウマを植え付けられたのは誰のせいか。
何度もキウィを泣かせ、彼女らしくない葛藤を与えてしまったのは誰か。
全て、全て私が我が儘だったせいだろう。
私が身を引いて、マジアアズールになっていれば。
そもそもこんなことにもならなかったのではないか。
私が知らなかっただけで、シャノンたちは本来のまほあこにも登場する予定で。
小夜にとっての相手役になるはずだったら?
私には、その正誤は分からない。
分からないからこそ、間違っている可能性を否定出来ない。
仲間たちが傷つき、シャノンが苦しみながら私を殺そうとする。
それらが全て自分のせいじゃないなんて、どうやったら言い切れる?
誤った私が、シャノンを倒したとして。
それのどこに正しさがあるの?
「......。」
「アズール...!?」
気付けば、私は決意を込めていたはずの二刀を取り落とし、無防備な身体をアルジェントに晒していた。
ヴェナの驚く声が聞こえるが、返事をする暇はなかった。
「サヨォォォォ...ッ!!」
「がふっ...!?」
放たれたのは炎で、水で。
風に雷、地面そのものだった。
あらゆる属性を織り混ぜた魔力の塊を防ぎもせずに喰らい、勢いよく血を吐き出す。
感じられない程の痛みに、意識が途切れては叩き起こされてを繰り返し。
自分が倒れていることに気付く頃には、真化は解けて立ち上がることすら出来なくなっていた。
「ぅ...ぁっ...」
「サヨ...アズール...シ、ネ...ッ」
薄れる視界に映ったのは、ボロボロと涙を流しながら、青く燃える炎を構えるアルジェントと。
「...しょうがないか。」
つまらなさそうに溜め息を吐く、ヴェナリータの姿だった。
―――――――――――――――――――――――――――――
「っ...?」
「え...。」
二人の視界が、死の瞬間の地獄から何もない真っ白な空間に変わる。
呆然とする小夜とうてなだが、すぐにお互いの姿を見つけ駆け寄る。
「うてな!?」
「小夜ちゃん!?ど、どうして!?」
「それはこっちの...って、まずここはどこよ!?」
先ほどまで別々の戦場にいたはずの二人。
会話の内容的に走馬灯やら幻覚ではないと分かるものの、他に予想しようがなくただ困惑することだけしか出来ない。
『少しは落ち着いたらどうなんだい?』
「頭に直接声が!?」
「この声...ヴェナね!?」
心底呆れたような不愉快な声が聞こえたと思えば、何もない空間からニュッと真っ黒な何かが顔を出した。
何となくデジャブを感じつつ、その何かが"ヴェナである"と小夜はすぐに言い当てる。
ヴェナとしての形を成したそれは、ふよふよと二人の間に移動する。
「ここは君たち
「避難、所...?」
「外では、私はまだ死にかけてるってこと...?」
「そういうことになるね。時間はあまり気にしなくてもいいけど、一日ゆっくり寝て考えるとかはオススメしないよ。」
いとも簡単に語られるとんでも空間。
何故そんなことをヴェナに出来るのか等聞きたい疑問は山程生まれたが、それより聞かなくてはならない話題があったのを、うてなは聞き逃さなかった。
「小夜ちゃん...死にかけてる、って...?」
「...うてなは、どうなの?」
「まずはお互いに、状況の共有をしてはどうかな。」
ヴェナに促され、二人はぎこちなく別れてからの話を説明し始めた。
互いの報告が進む程に表情は暗くなり、沈鬱な空気がその場を包む。
「私...全然敵わなかった...小夜ちゃんに大見得切ったのに、何も出来なくて...はるかちゃんも薫子ちゃんも、守れなくて...っ」
「...私も...みんなが戦ってくれたのに...シャノンへの罪悪感に押し潰されて、そのまま...」
完全に負けてしまったと諦め、どちらともなく懺悔を始めてしまう二人。
そんな後ろ向きな姿勢に珍しく苛立った様子を見せ、ヴェナはその両手を長々と伸ばし。
「そい。」
「「いっったぁっっ!?!?」」
俯いた後頭部二つを、真上から勢いよく殴り付けた。
唐突な暴力に仲良く踞るうてなに小夜。
精神世界の割に痛みの概念があるのは理不尽だと思う。
「な、何するんですかぁっ!?」
「ついに正体現したわねこのラスボスっ!?」
「暗いんだよキミたち。ボクの体より真っ暗な思考だ。それじゃあ
「は...?」
「逆襲...?」
思いも寄らないヴェナの言葉に気の抜けた声を上げる二人。
それに更に機嫌を悪くしつつ、ヴェナは仕方ないとばかりにまたもや深い溜め息を吐く。
「キミたちに負けてもらっては困るんだ。言ったはずだよ?小夜、うてな。キミたちの可能性はJ.S.Tを凌駕するとね。」
「それは...でも...。」
「これだけピンチになっても糸口すら掴めないのよ?"深化"なんて、私たちには...。」
結局辿り着くことなく最終決戦となってしまった新たなる力。
ヴェナリータ程にその可能性を信じられない二人は俯き、またもや諦めムードが場を支配しようとする。
「だからこの空間を作ったんだよ。一人きりで答えを見つけられないのなら、二人でならどうだい?」
「うてなと一緒でも...」
「それで分かるなら簡単なんですけどね...。」
「だから
ヴェナが指し示す方向に、二つの"人影"が現れる。
それは少しずつ見覚えのある姿になり。
そして。
「マジア、アズール...!?」
「ベーゼちゃん...!?」
ある意味で新鮮で、一方で親しみ深い。
「な、何で...!?」
「本物!?...なわけない、か...。」
「これはキミたち自身。キミたちの本質を写し取った"鏡"のようなものだ。」
ニコリと微笑むアズールに、艶かしく笑うベーゼ。
"自分って端から見るとこんな感じなのだろうか"と、少し釈然としない気持ちで自身の鏡を見つめる二人。
「...って、本質を見つめて意味があるわけ?確かあなたが言ってた深化は」
「究極の擬態...本質を騙すという話でしたよね...?」
いるべきでない場所に居続けたが故に拓けた、二人だけの可能性。
本質すらねじ曲げる強い想いが云々。
ヴェナからされた質問から考えると、自分の本質と向き合うのはむしろ逆効果に思える。
「残念だけれど、今日は私と話に来たわけではないの。」
「わっ!?喋った!?...私ってこんな感じなんだ...。」
「私も私には興味がありませんから。そうでしょう?私。」
「何か無性にムカつくなぁ...この私。」
喋るマジアアズールに人知れず懐かしさを感じる小夜。
うてなについては自分自身と何度か大喧嘩をした経験からか、うんざりとした表情を浮かべている。
「私が話すべきなのは。」
「あなたですよ。」
「うてなさん。」「小夜さん。」
「へ?」「え...?」
さっきまでは自分が相手で、正直に言えば不快感の方が強かったが、今目と鼻の先にいるのは二人にとってまさに"憧れ"の存在。
欲望に全力疾走な彼女たちに我慢など出来るはずもなく。
「あ、あのっ。握手とか大丈夫かしら...!?///」
「よ、良かったらサインを...///」
しっかりとオタク気質を発揮していた。
うてなに関してはどこから色紙とサインペンを取り出したのか。
ヴェナに無言のげんこつを喰らい、頭を冷やすことに。
そうして漸く、気を取り直しての対話が始まったのであった。
「小夜さんのお悩みですが。まずは友人と戦うことについて、ですかね。」
「友だちと戦うこと自体はよくあるのだけど...今回はそれとは違う、憎しみをぶつけられるような戦いで。彼女がそうなったのは、私のせい...だから、戦うこと自体に躊躇いがあって。」
「なるほど。罪悪感ですか。」
小夜の言葉に頷き、ベーゼは何やら考えるように顎に手を当て目を瞑る。
やがて上手い助言が見つかったのか、ニヤリと笑って再び口を開いた。
「私は非道な正義とか悪堕ちとかは基本好きではありませんが、改心...つまり"光堕ち"に関してはそう嫌いではありません。」
「そ、そうなの...?」
本当に雑談する感じなんだろうか?
うてなというより本当に原作のベーゼと話してるみたいで緊張するんだけど。
そういう場合じゃないと分かっていても気が抜けてしまい、少しずつ焦りを募らせる小夜。
そんな真面目な性根を楽しんでいるのか、ベーゼはクスクスと笑いつつ話を続ける。
「ですのでまあ、いつも通り。
「信じる...?」
「今のアルジェントは本当のアルジェントではない。それが小夜さんの認識なのでしょう?」
「それは、まあ...。」
「ならば彼女が真の魔法少女として輝けるよう、少し手助けをしてやればいいのです。」
「手助けって...」
「鞭でこう思い切り、お尻を叩くのは如何です?」
「それはいつものベーゼちゃんでしょう!?」
それっぽいアドバイスが始まったから真剣に聞いていたものの、最終的にいつものドSをオススメしてきただけだった。
それじゃあ何の解決にもならないとツッコむが、ベーゼは更に愉快そうに笑ってみせる。
「そうです。
「!」
原作の、大好きなマジアベーゼを思い出す。
エッチで酷い所業ばかりするドSな彼女だったけれど、必ずヒロインたちが屈せずに逆転してくれるという"信頼"があったからこそ。
それはきっと、真似をしていただけのルシファアズールも同じだった。
大好きな世界の、大好きなヒロインたち。
彼女たちの魅力を引き出し、特等席で見守る。
たとえ相手がキャラクターとして見知ったヒロインじゃなくても、シャノンの魅力を小夜は知っている。
家族思いで、本当は優しくて。責任感が強くて、辛い経験があっても立ち上がって、大切なものを守ろうとする。
それが彼女の本質で、自分はそれをとても愛おしく思える。
ならば、今まさに憎悪に飲み込まれ自分を殺そうとする相手であっても、自分は自分の姿勢を貫いて彼女を信じることは出来るはずだ。
いつもとは違う、そう勝手に決めつけていた私が間違っていて。
戦うことが傷つけるだけだと履き違えていたのだ。
答えはもっと、非常にシンプル。
「
「ふふっ...そうですね。あなたはもっと愛するべきでしょう。ご自分と、あなたのしてきたことを。」
「私の、してきたこと?」
「すぐにご自分を責めてしまう責任感はヒロインとしては好ましいですが、卑屈である必要はありません。」
"彼女は恐らく言えないでしょうから"、とうてなを横目に前置きをして。
ベーゼは今までの嗜虐的な笑みではない、年相応の可憐な笑顔で言った。
「素晴らしかった。あなたの道のりは、本当に。アズールとしての姿も、そんなあなたに導かれた彼女たちも。私の大好きな、理想のヒロインたちで。ずっと見てましたから。だから、誇ってください。今までの全てを。間違ったなんて、そんな風に思う必要は絶対にないんです。」
「っ...!」
「私は大好きですよ。あなたの物語が。」
「ベーゼ、ちゃん...。」
あこがれに抱き締められ、自然と涙が溢れ出す。
一度は乗り越えたと思っても、何度も甦ってくる根本的な罪悪感。
それが本当に今、許された気がした。
きっと決定的に変わってしまった、愛する世界。
それでも、"私は好きだ"と。
一番言って欲しい人から、その言葉をもらえた。
小夜の中で、何かが変わった瞬間だった。
きっと今なら、絶対に今なら。
「私、
「それでこそアズールです。楽しみにしていますよ?」
「ええ...任せてちょうだい!」
一人の少女は答えを得た。
では、もう一方の少女はどうだろうか。
「何でちょっといい雰囲気なんだあっちの私...」
「あの、うてなさん?」
「あっ!?いやえと余所見してたわけでなくアズールさんを直視しちゃうと色々とまずいというかえへへおっきぃって違くてぇっ!?///」
「(汗)」
見ての通り、恥ずかしい程に取り乱してしまっていた。
「なんというか、現実より少し素直になってるみたいね。」
「いや、ぁの...その姿のアズールさんをまじまじと見るのは初めてで...ちゃんと向き合ってしまうと、深化どころではなくなってしまう...と言いますか/// 」
「それだけ好きになってもらえるのは、私もとても嬉しいわ。」
「ぇ、えへへ...///」
凛々しく微笑む姿はまさに理想の魔法少女。
真っ直ぐな言葉にうてなもにやけが止まらないものの、段々その表情が曇っていくことをアズールは見逃さなかった。
「どうして、そんな辛そうな顔をするの?」
「...私、見ての通りオタクで、スケベだし...本当は魔法少女になんて、向いてないんです...アズールさんみたいに、カッコよくはなれません...。」
何度も向き合い、或いは見て見ぬフリをしてきたうてな自身の本性、性根。
それが未だに彼女を苦しめていた。
どれだけ憧れようと、自分は清廉潔白な正義の味方にはなれない。
マジアオールに改めて自身を危険だと断じられ、更に自信を失っていたのだ。
アズールはそんなうてなの様子を悲しげに見つめるが、すぐに気を取り直して笑顔に戻る。
「私はカッコよくなんてないわ。」
「そんなこと」
「相応しくないと言うなら私だってその...マゾ気質というか...こういうの、身体は正直って言うのよね///」
「あ、あぁ~...(照れてる。かわよ。しゅき。)」
自身の"Mな本性"を話し、自らのダメージも厭わずうてなを励まそうとする。
それもある意味Mらしいとか思ってはいけない。
アズールには、どうしてもうてなに伝えなくてはいけないことがあるのだ。
「本質を変えるのは難しいわ。だってそれは、"自分が自分じゃなくなる"ということ。マゾなことやサディスティックでスケベな欲求を封じ切るなんて出来ないのよ。」
「そう、ですよね...。」
「でも、感じることが悪いだなんて私は思わない。だって、その感情も力に出来るのが、私たち魔法少女でしょう?」
「それ、は...」
「大丈夫。うてなさんはもう、その感覚を
かつてロードエノルメと対峙した時。
殺意の衝動に塗り固められることなく、愛と夢を力に変えて奇跡を起こしたのは他でもない、うてな自身だったはず。
無意識であっても、確かに一度は全てを呑み込めていた。
彼女に足りていないのは"自信"だけ。
ならばせめて、背中を押すのが憧れの責任だとアズールは考えていた。
「今までたくさん悩んで、苦しんで。それでもあなたは逃げなかった。どうして?」
「それは...憧れ、だったから...ずっと、ずっと...本当に魔法少女が好きで、夢見てたから...。」
「そうよ。あなたの憧れは、誰が何と言おうと"本物"だった。あなたの中の欲望は否定出来ない。でも、欲があるからこそ人は夢を見て、何かに憧れを抱くの。否定する必要なんてない。全てをあなたの"願い"の為に使いなさい。あなたが望むカッコいい魔法少女になりたいと、素直にそう願えばいい。うてななら出来るわ。いつだって私は信じてるから。」
「っ...あはは...私、本当にいつも助けてもらってるよね...。」
小夜がベーゼに抱かれたのと同じく、うてなもまたアズールの温もりに包まれる。
自分が躓き諦めそうになるのを、幾度も無償の愛で支えてくれた。
小夜ちゃんはやっぱり小夜ちゃんなんだな、と思うのと同時に。
だからこそ、"もう止めよう"と心に誓う。
「ありがとう。だけど、もう大丈夫だよ。自分が相応しいなんて、やっぱり胸を張っては言えないけど。憧れたこの気持ちだけは、絶対に誰にも負けない。だからなるよ。私たちの憧れた、本物の魔法少女に。それで今度こそ...あなたを守ってみせるから。」
「!...そのお顔とその言葉は、あっちの私に見せて聞かせて欲しいわね。」
「そ、それはぁ~...また、タイミングがあればで...///」
背中ならずっと前から支えて、押されていた。
愛する人に、大切な仲間たち。
自分が否定しても、それを絶対に許さない人たちがいる。
それだけで十分だった。
みんなの信じる、自分を信じる。
それもまた立派な自信で、心から誇れる願いだと悟って。
うてなはゆっくりと、最愛の憧れから身体を離していく。
「いってらっしゃい、うてな。」
「...ううん、違うよ。」
アズールの見送りを受け取らず、うてなは彼女を待つ小夜の元へ。
見つめ合う二人。
もう何も憂いはないとお互いに通じ合う。
「口上は、あれでいいよね?」
「ええ。ヴェナよりよっぽどセンスがいいわ。」
手を繋ぎ、空いたもう片方の手をそれぞれベーゼとアズールに向ける。
少し驚いて見せた後、彼女たちもまた頷き合い、差し出された手を握り返す。
「「私に力を!!」」
「ベーゼっ!」「アズール...!」
『『"
光に包まれ空間から飛び立った4つの影を見つめ、ヴェナはその口を大きく開いて歪める。
そしてポツリと、歌うように呟いた。
「ボクの勝ちだ、ヴァーツ。」
―――――――――――――――――――――――――――――
「...!?」
命を絶つはずだった剣が空を切る。
確かに目の前で膝をついていたはずのベーゼが、
最早動く魔力すらなかったはずなのに、オールが反応も出来ない速度で移動したと言うのだろうか。
オールは意味の分からない状況に、初めて冷や汗を垂らす。
振り下ろす瞬間に聞こえた、あの"言葉"。
真化の呪文に似た、知らない響き。
「...?ハルカに、カオルコまでいなくなっている...!」
周りを見渡して漸く気付いたが、完全に沈黙していたはずのあの二人まで姿を消していた。
胸騒ぎは更に強くなっていく。
何か取り返しのつかないミスをしてしまったような気がして、焦りながらもベーゼの魔力を辿って捜す。
「!...何故こんな距離に...それに、この魔力量は...!」
オールでもすぐには移動出来ない程遠くに、彼女はいた。
傷ついた友を戦闘に巻き込まれない位置まで移動させ、治癒の魔法を発動させる。
「っ...ベー、ゼ...?」
「あん、た...」
「もう、大丈夫。」
意識を取り戻した二人に優しく微笑むその顔には、いつもあったはずの不安や後ろめたさは微塵もない。
はるかと薫子には何がどうなっているかも分からない。
でも、分かる必要なんてなかった。
目の前で誇らしく輝く笑顔は、ずっと彼女にして欲しかった表情だったから。
「後は、任せて。」
「...うんっ...任せ、た...!」
「いいとこ...譲ったるわ...。」
だから信じて送り出せる。
彼女たちもまた笑顔を浮かべて、夢を叶えた魔法少女の背中を押す。
そうして少女を決意を固め、独り戦場へと舞い戻った。
「っ!?...嫌な予感が、的中したようですね。」
「...。」
文字通り
その姿は先程までとは明らかに違っていた。
特徴的だった角は綺麗さっぱり無くなり、魔力解放時と同じ長さの髪をポニーテールに纏めている。
服装は肘の部分までしか袖のない白いコート。
対照的な色合いの黒いコースレットにガーターショーツ、ブーツにアームカバーを身に付けている。
そして、その右手にはメカニカルな意匠の片刃剣を携えていた。
刀身と柄の間には宝石が埋め込まれていて、刃は宝石と同じ青色に輝いている。
従来のマジアベーゼのいずれとも似ていないその様子。
しかし、オールはその凛々しい表情に言い知れない既視感を感じていた。
「ここは聞くのがお約束でしょうね。」
表情は笑っていても、その目は鋭くベーゼを睨み付ける。
最強の魔法少女は今、目の前の敵を"脅威"だと本能的に認めてしまっていた。
「それは、何なのですか。」
「マジアベーゼ。"
悪から、希望へ。
一度魔に染まった少女は、それでも夢を追い続け。
ついに光へと抜け出し、奇跡の使い手へと変貌を遂げたのだった。
「私たちの理想。
「私を、超える?」
その直前までの絶望を忘れたかのような言葉に感じるのは憤りか、それとも嘲笑か。
否。
彼女の身体を走るのは、激しい"武者震い"だった。
最強と呼ばれ悪を殲滅し、絶対的正義となったこの身。
決して争いが好きなわけでも、暴力衝動があるわけでもない。
だが、未だかつてない自身に比肩し得る力を目の前にして。
今彼女はどうしようもなく、興奮してしまっているのだった。
「ならば、覚悟はいいですねっ...!!」
瞬時に造り出される数多の分身体。
遠距離近距離問わず武器を装備し、一斉にベーゼへと襲い掛かる。
目を覆いたくなるような絶望。
しかし、ベーゼは眉一つ動かさず。
その代わりのように、構えた剣がその輝きを"紫"へと変化させた。
「な、に...っ!?」
次の瞬間、ベーゼを包囲していた軍勢が
ベーゼが何かをしたのか、その一部の動作すらオールにはまったく見えていなかった。
まるでコマやページを飛ばすように、"分身がいなくなった"という結果だけを認識していた。
驚愕すると同時に自らも黄金の弾丸を放ちベーゼを射抜こうとするが、それよりも先にベーゼの剣の刀身と宝石が今度は"黄色"に輝いた。
「
「なっ...ぁ!?」
雷光では済まされない、オールですら見るのがやっとの超光速。
弾丸を回避し、雷を纏った剣でオールの片翼を易々と切り裂いてしまった。
訳も分からず墜落するオール。
女神すら翻弄する奇術の担い手は、不敵な笑みでその唖然とした姿を見つめていた。
「言ったはずです。あなたの相手は、
―――――――――――――――――――――――――――――
一瞬にして、世界は氷結した。
気付けばアルジェントの蒼炎は凍りつき、吐く息は雪のように白い。
油断すれば口が氷で固まってしまいそうな程の極寒。
「アズー、ル...!!」
憎悪を燃やすアルジェントから隠れることもせず、彼女はそこで微笑んでいた。
氷で作製された豪奢な玉座。
その上に鎮座する姿は、今までのアズールとは似ても似つかない、まさに"悪魔"とも言うべき装いであった。
身体は露出の激しい、青みがかった黒いレザー素材の衣服で包まれ。
胸部は乳輪をわずかに隠す四角いビキニを貼り付けているだけ。
髪型もストレートから、ふんわりとしたウェーブロングヘアーに。
角は真化形態と同じく天に刃向かうように鋭く上向いているものの、頭の左右から突き出たそれは鬼というよりも西洋の悪魔。
それに似合う漆黒の翼が背中に生え、中途半端に露出した臀部からは尖った尻尾が覗いていた。
「フフッ...アハッ...♥️」
そして、それらを以てしても視線を奪われてしまうような、淫靡で恍惚とした笑顔。
見る者全てを発情させるような色気に、同じくらい香る死の気配。
名実共に真の意味で"エノルミータの女王"となったアズール。
その名も。
「"
「ア...!?」
彼女が囁くと同時に、ガクンとアルジェントの膝が地面に落ちる。
飛び掛かる体勢から四つん這いとなり、すぐに立ち上がろうとするが、足がまるで地面に縫い付けられたように動かない。
「ナ、なん、でっ...!?」
予想外の事態に、皮肉にも僅かに冷静さを取り戻したアルジェント。
困惑し焦るその様子を楽しんでいるのか、アズールはケラケラと笑って喜んでみせる。
「素直な子は好きよ...いいわ、
「っ!?」
今度は自分の認識を超える速度でアルジェントは立ち上がっていた。
思わずグラつくが、下半身は地面から直立不動。
少しの膝の曲がりも許されないようだった。
「あんた...っ!?」
「あんたではなく...
「アズールさま!...はっ!?」
何かに気付いたアルジェントだが、言われるがままに倒すべき相手を様付けして呼んでしまった。
アズールは心底愉快そうに笑って、アルジェントを手招きする。
驚愕と恐怖を交えた表情で、アルジェントはゆっくりと玉座へと近付いていく。
「あらあら。ダメよ、怖がっては。あなたは正義の味方なのでしょう?」
「っ...怖がって、なんか...!」
目を見開き動揺する少女の頬を、女帝は正反対の愛おしげな表情を浮かべ、ゆっくりと撫で上げる。
「
「うっ!?」
言われた通りの姿勢になるアルジェント。
アズールはその背中に当たり前のように自身の足を乗せ、居心地のよい位置を探る。
「あまり楽ではないのね。少し高いのかしら?」
「ぐっ...どこまでアタシをバカにしてっ...!」
「するに決まっているでしょう。こうまでしないと話せないなんて、ヒロインとして情けないとは思わないの?」
怒りに燃える反抗的な目に、口調とは裏腹の喜悦に満ちた声が漏れる。
顔を紅潮させ、舌舐りをして。
その手に"氷の鞭"を顕現させる。
「
「ぇ...あっ!?」
足を退け、アルジェントに臀部を向けるよう指示するアズール。
戸惑いの声も虚しく、露出した美しい肌色を晒け出す。
悪魔はそんな、柔らかく瑞々しいそれを軽く撫でた後。
勢いよく、冷たく固まった鞭を叩き付けた。
「ーーーッッッ!?!?!?」
「アハッ...ウフフ!♥️」
あまりの痛みに声にならない叫びが響く。
痛みと恥辱に悶え苦しむ姿に興奮を抑えきれず、恍惚とした様子で何度も何度もアズールは鞭を振るう。
逃げ出したい、復讐したい。
そんな欲求が溢れるが、それでもアルジェントは手足を動かすことすら出来ない。
それが、『
絶対遵守の力、『コキュートス・ベーゼ』。
相手を自分の言いなりに出来る、という認識で間違いはない。
強力な反面実は発動条件が存在するものの、
そんな理不尽な程強大な力を以て、アズールはアルジェントの尊厳を弄ぶ。
それは何故なのか。
「あっ...がっ...こん、な...ふざ、けてぇっ...!」
「ふざける?私は、本気よ。」
「あぎっ!?」
「先程まで憎しみに身を任せ、獣同然だったあなたが。」
「ぎひぃっ!?」
「今は恥辱を感じ痛みに怒り、自分自身を取り戻している。」
「あぁぁっ!?///」
「全て
鞭打ちは悪魔にとっての愛撫だった。
こんな行為で自分を取り戻してしまったことによる情けなさからか、アルジェントの頬も赤く染まり涙も滲み始めていた。
身を捩り、興奮を享受するアズール。
彼女にはもう、1ミリの躊躇いもなくなっていた。
「なん、で...サヨっ...こんなっ...!///」
「...愛して欲しいなら、叶えてあげるわ。」
「っ...?」
シャノンとしての言葉を聞き、アズールはその手を止め、一転して険しい表情となる。
玉座から立ち上がり、縛りを解かれ踞るアルジェントを見下す。
「本当のあなたなら、ね。」
「何、言って...!」
「意地っ張りで、カッコつけで。ドライなくせに世話焼きで、優しくて...そんなあなたが真の魔法少女として奮い起つ。その様が私は見たいの。」
命令することなく、悪魔は少女の再起を待つ。
見定めているのだ。
愛するに足るかどうかを。
「戦う理由を履き違えないで。あなたは失恋した怒りをぶつけたいわけじゃない。悪に踏みにじられた恐怖と後悔に、復讐したいわけでもない。ただ
「っ...!」
直接聞いたわけでなく、これはただの小夜の予想だ。
だが、きっとそうだという確信がある。
強すぎる責任感が故に焦り、憤り。
いつしか歪んでしまった正義。
それを彼女は新天地での出会いやふれあいを経て少しずつ修復していった。
今のアルジェントは、あの不必要に残虐な彼女とは違う。
「あなたが私を許せないのは何故?戦わなくてはならないのは、何故?...何故、悪の組織エノルミータの王であるこのルシファアズールに、刃を向けるのか。」
「......焚き付けるなら...立てるくらいは加減、しろっての...っ」
仰々しく問い掛けるアズール。
それは"やり直し"の合図だった。
彼女が、
思い出の文化祭で培った、精一杯の演技だった。
アルジェントはアズールの真意を理解し、尻の痛みに文句を言いつつフラフラと立ち上がる。
その獣のように変化していた身体は、"憧れの姉とお揃いで"と願った、いつものコスチュームに戻っていた。
身体から漏れ出て来た黒いモヤを、彼女自身の足が踏み抜く。
「アタシ...アタシは!もう二度と家族を傷つけさせないって誓ったの!絶対に私の大切なモノを守るって...だから!たとえ相手がサヨでも、悪だと言うならアタシは戦うっ...!アタシは正義の味方!マジアアルジェントだあぁぁっっ!!」
立ちはだかるアルジェント。
その身体は魔力の光に包まれ、銀色に輝く神官の姿となっていた。
アズールは満足そうに頷いた後、両手に全魔力を集中させ始める。
妖艶な笑みで、身体を興奮で身震いさせ。
快感に満たされた心を晒け出して。
「もっと!もっと見せてっ!!大好きな、あなたの勇姿をぉぉぉぉっっ!!///♥️」
「勝負よ...!ルシファ、アズールぅぅぅっ!!!!」
あらゆる属性を含んだ全霊の魔法が、アズール目掛け放たれる。
それを迎え撃つように飛び出した魔力は、氷と焔、対照的な見た目となってアルジェントの魔法とぶつかり合う。
溶けるくらいに情熱的な焔の愛に、あらゆるものを縛り跪かせる氷の愛。
彼女の魔力は、
だから、勝敗は既に決まっていた。
「...サヨ...ありがと...っ」
爆発の後、傷つき倒れたシャノンを抱き上げる。
謝罪でも憎まれ口でもなく、感謝を口にした友人をアズールは優しく抱き締めた。
「素敵だったわ...だから、今はゆっくり休んでね。悪い夢は、もう終わったのよ。」
こうしてまた一つ、少女の憧れを問う戦いが幕を閉じた。
アズールもまた変身を維持出来ず、小夜となって地面にへたり込む。
「後はあなた次第よ...うてな。」
ボロボロになったナハトベースを見渡した後、空を見上げて少女は祈る。
最愛のあこがれが、最強を乗り越え勝利することを。
正義か、悪か。
決着の時は間近に迫っていた。
―――――――――――――――――――――――――――――
◼️□next episode◼️□
次回、第3部最終回。
『あこがれの魔法』
次回、三部最終回となります。
投稿は6/22か29(日)0:00予定です。
合わせて第四部の告知があります。
一応一月程間を空けて投稿開始予定ですので、ご了承頂けると幸いです。