魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~   作:月想

46 / 53
ご愛読ありがとうございます。
今回で賛否両論の三部最終回となります。
かなり反省点が多い作品となりましたが、いかがだったでしょうか?
私事ですが、来週でまほなり投稿一周年となるようです。
ここまで書くことが出来たのは、今こうして読んで頂ける皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。


第44話『あこがれの魔法』

『グランマ!きたよ!!』

『いらっしゃい、アレックス。少し背が伸びたかしら?』

 

ワタシの祖母は、日本人だ。

アメリカに住んでいるのにも関わらず、常に和服を着ていた、まさに大和撫子な人だ。

そんなことを言ったらあの人は謙遜するだろうけど、年老いたにも関わらずその姿は凛として美しかった。

パパやママとは違うその物腰がどうにも不思議で、小さい頃はよくグランマの家を訪れていた。

 

『グランマ!グランマ!きょうもみせて!!』

『はいはい。本当に好きなのね。』

 

グランマの持っている"コレクション"。

それがもう一つの目的だった。

 

『【悪は許さない!私が相手よ!】』

『ふわぁ~~っ!!』

 

日本の魔法少女アニメ。

グランマが日本で見ていたものを嫁ぎ先のアメリカにも持って来ていたらしい。

子どもが見るにはちょうどいいからと見せられたそれに、ワタシは見事にハマってしまったわけだ。

 

『ねぇグランマ。』

『うん?』

『ワタシも、なれる?まほーしょじょ。』

『ふふっ、魔法少女よ。...そうねぇ。アレックスは、ママやパパや、シャナのことは好き?』

『うん!だいすき!グランマもだいすきだよ!』

『なら、きっとなれるわ。』

『ほんとぉ!?やたーっ!!』

 

そうして頭を撫でてくれたグランマの真意は未だに分からないけれど。

ワタシの夢は、この時初めて魔法少女になった。

 

『あ、アレックス...!あれ、なにっ...!?』

『分からない...!だから走って...!』

 

キティが生まれて少し経った頃。

小学生だったワタシは、シャノンと共に得体の知れない化け物に襲われた。

別に深い森に探検に向かったり、地下迷宮に迷い込んでしまったわけじゃない。

ただ、公園で遊んでいただけ。

急に辺りが静かになったと思ったら、何の前触れもなく"ソイツ"が目の前に立っていた。

わけが分からなくて、怖くて。

次の瞬間、ワタシは妹の手を引いて脇目も振らずに全力で駆け出していた。

 

『こわいよぉ...!おねえちゃぁんっ...!』

『大丈夫!シャナはお姉ちゃんが絶対に守るからっ...!』

 

いくら走っても少しの人気も感じられない。

シャノンがワタシを日本式に"お姉ちゃん"と呼ぶ時は、本当に困り果てて助けて欲しいサインだった。

アニメから出てきたような怪物に怯えていた心も、妹の泣き叫ぶ声と流れる涙に塗り潰される。

"許せない"という、怒りの感情。

この化け物は、いったいどんな理屈で妹を泣かせたのか。

そこにどんな正しさがあるというのか。

そんなもの、あるはずがない。

ならば許してたまるか。

こんな酷い理不尽。

これが"悪"だと言うのなら、ワタシは。

正義の味方に憧れるワタシが、倒さなくてはならない。

 

『シャナ...!合図をしたら向こうへ走って!』

『で、でもおねえちゃんは...!?』

『いいから!言うことを聞いてっ...!!』

 

咄嗟に石を拾い、走り迫る化け物へ振り向く。

石でどうにかなるなんて考えていなかった。

ただ狙いを自分に絞れればそれでいい。

その後は何とでもしてやる。

今考えると無謀にも程があるけれど、それだけ怒りが漲っていたのだろう。

頭に血が昇っていたというわけでなく、ただ漠然と()()()()()と思っていたのだ。

果たして、その予感は予想外の形で当たることになった。

 

『え...!?』

『素晴らしい勇気ですね!でも、石で立ち向かうのは止めておきませんか?』

 

化け物とワタシたちを隔てるように造られた、"光の壁"。

それが魔法少女のよく使うバリアーに似ていることと、ふよふよ浮かぶ変な白い生き物を視認するのは、ほぼ同時だった。

 

『どうせなら、"ハート"で勝負!なんてどうでしょう?』

 

差し出されたハートの何か。

考えるより先に身体が動く。

 

今でも昨日のことのように思い出せる。

その日、ワタシは夢を叶えてしまった。

魔法少女マジアオールになって。

"憧れ"を叶えてしまったのだ。

 

『アレックス!今日はどんなヒーロー活動するの?!』

『今のワタシは正義の味方マジアオール。本名で呼ぶのはダーメ!』

『あのね。きてぃも、おてつだい、すりゅよ?』

『キティはシャノンと一緒にここで見ていて?二人がいるだけで、ワタシは頑張れるから!』

 

初めは本当に小さな人助けしかしなかった。

お年寄りの重そうな荷物を運んで上げたり、逃げ出したペットを追い掛けたり。

まさに"親愛なる隣人"という感じ。

そんな小さな活躍でも、妹たちははしゃいで喜んでくれて。

あの子たちが憧れてくれている感覚が、堪らなく嬉しかったのを覚えている。

 

でも往々にして、ヒーローがいるところにはトラブルが自ずと舞い込んでくる。

人助けは事故からの救出や強盗の捕縛等、次第に危険なモノへと変化していった。

そして、ついに現れたのだ。

本物の、"悪"が。

 

『アレクシアさん!また奴らが現れました!』

『OK!すぐに向かうわ!』

 

数年経って初めて現れた、本物の悪の組織。

ワタシは毎日を戦いの中で過ごすことになった。

モンスターや幹部たちはひっきりなしに暴れ、平和を脅かす。

自然にマジアオールは親愛なる隣人から、"平和の守護者"へとその立場を変えた。

妹たちを連れて行くわけにいかず、寂しい思いをさせてしまったが。

正直、この時のワタシは現状を楽しんでいたように思う。

まさに憧れた魔法少女そのものだったから。

命懸けの戦いのはずが、本人にはごっこ遊びと変わらなかったわけだ。

 

だから、判断を間違えることになった。

 

『マジア、オール...ッ!貴様だけは、絶対に...!!』

『......あなたたちは、法の下で裁かれるべきです。願わくば、罪を認め少しでも無垢なる自分へと戻れるよう、祈ります...。』

 

ついに打倒した敵の首領。

許されるわけがない犯罪者で、殺人者。

改心の余地などほぼないだろうとは思っていた。

でも、自らの手で終わらせることは間違いだとも思っていた。

それは"憧れた彼女たちなら"、と。

ワタシに夢をくれたヒロインたちならきっとそうするだろうという、子どもの浅さが滲み出る感想だった。

ワタシは確かに勝利した。

警察に引き渡せばそれで終わりのはず。

そう楽観視して、奴等を生かしてしまった。

それがどれだけの間違いか、考えることもせずに。

誤った選択の報いが来るのは、存外にすぐだった。

 

『姉、さん...』

『シャノン!?どうしたのその怪我は...!?』

『キティが...アタシたちの、妹が...っ!』

『......え...?』

 

戦いを終えて久しぶりの日常をのんびりと過ごしていたある日。

キティが、誘拐された。

最初は既に天才少女として有名になりつつあったことから、身代金目的で拐われたのかと思った。

だが、傷付いたシャノンが告げた犯人は違った。

 

『アイツらだ...さっき、脱獄したって...アタシ、何も出来なくてっ...!』

 

ワタシへの復讐。

理由はそれだけだった。

ワタシの正体がバレたわけではなかったが、どこかでワタシを応援していたシャノンとキティを見ていたようだ。

わざわざ脱獄までして狙ったのは、一番幼いキティだった。

本当に、本当に悪というのは反吐が出る。

 

そこからの記憶は朧気だ。

奴らのアジトを回って魔力を辿り、居場所を突き止め。

気付いた時には一人残らず切り裂いていた。

打たれて赤く腫れた頬と、震えながら泣いて、助けを呼ぶキティの姿だけは、忘れられなかったけれど。

放心状態のまま、キティを抱えて家族の所へ戻った。

 

『ママぁぁぁ~っ...!!』

『あぁキティっ!よかった...!無事で、本当にっ...!!』

 

抱き合うママとキティ。

それを見て拳を握り締めるシャノンとパパ。

大好きな家族にこんな顔をさせたのは、間違いなくワタシの甘さだった。

 

『ごめ...ごめん、なさい...っ!ワタシが...ワタシのせい...ですっ...!!』

 

その場に崩れ落ち、自分の情けなさに止めどない涙を流す。

善とは、悪とは。

"正義の味方"とは何なのかを痛感した瞬間だった。

綺麗事では全てを救うことなど出来ず、半端な覚悟では一番大切なモノを傷付けてしまうだけ。

だからワタシは誓ったのだ。

もう二度と、悪には容赦しないと。

 

潰しても、潰しても。

奴等はウジのようにしつこく涌いてくる。

逃げることも出来た。

全てを投げ捨て、一般人に戻ることも可能だっただろう。

だが、それは絶対に許されない。

この世にはどうやっても必ず悪が生まれる。

その悪はワタシが魔法少女だろうが、アレクシアであろうが構いはしない。

いつかきっと、ワタシの何より大切なモノを脅かす。

 

なら、ワタシは戦う。

戦って、倒して、潰して。

見ただけで悪が恐怖し二度と立てなくなる程震えて、許しを請うような。

そんな"最強"になってみせる。

鋼よりも何よりも強固で、揺るぎない"正義"。

それがワタシだ。

 

妹たちが魔法少女になるのを受け入れたのはあくまで自衛の為。

彼女たちは、甘い。

まるでかつてのワタシのように。

いつか取り返しのつかないミスを犯してしまう。

だから、ワタシが全てを裁きましょう。

一片の曇りも、あなたたちには近付けさせない。

絶対的正義とは。

この、マジアオールただ一人なのだから。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「通じた...!」

 

土煙で見えない視界、その先に落ちていったオールに初めての手応えを噛み締めるベーゼ。

変化した自分の姿にはまだ慣れないが、"深化"の力は間違いなくあの最強に通用する。

その名の通り希望の魔法使いとなったベーゼは、その希望を繋げる為容赦ない追撃を決意する。

 

「油断はしない...!早く、トドメを...!」

 

剣の宝石が、再び黄色から紫色に変化する。

それと同時に、ベーゼには()()()()()()()()()()()()()()ように見えていた。

というより、彼女にとっては実際に止まっていた。

 

無敵とも思えるこの力。

だが、それでも相手は世界最強。

僅かに感じる胸騒ぎを払拭すべく、止まった世界を真っ直ぐにベーゼは駆けていく。

剣に魔力を纏わせ、放つのではなくその迸るエネルギーを直接ぶつけようとする。

しかし。

 

「な、ァっ...!?」

 

懐に飛び込んだはずの彼女に、鋭い蹴りが突き刺さった。

まるでタイミングを読んでいたかのようなカウンター。

ベーゼは驚愕し、腹部に走る痛みに血を吐き出しながら、瓦礫の山へ転がっていった。

 

「認めましょう...あなたは強い。ですが、最強はこのワタシです。」

 

身体に細かい傷はあれど、その威光は翳る様子がない。

マジアオールは先程までと変わらない力を漲らせ、最強はあくまでも自分であると言い放つ。

 

「っ...ぐ...なんで...っ?」

「恐くなりましたか?ならば逃げても構いませんよ?逃げられればの話ですが。」

「っ...!?」

 

何故動けるのかと問い掛けるベーゼだったが、いつの間にか自身の足に巻き付いていた"煌めく細い綱"に遅れて気付く。

希望から一転、その最強たる由縁に再び寒気を感じる。

たったの一度。

それだけで全てがバレてしまったのだ。

 

「知っていますか?神話にはどこまでも伸びて獲物を逃さない、魔法の綱があるそうです。これはそれを模倣した物ですが...あなたには、そう。()()()()()()()と言った方がいいでしょうか。」

「っ...。」

 

足に巻かれた綱はベーゼの動きを阻害することはないが、そのもう片端はオールの右腕に巻かれている。

反対から引っ張られても抵抗をまったく感じないこの不思議な綱。

ベーゼにとって、繋がっているだけのこれが何より厄介な存在だった。

これがある限り、"時間停止魔法"はオールに通用しない。

そういうルールごと、()()()()()()()()からだ。

 

「悔やむことはないですよ?あなたの台詞から考察したわけでなく、攻撃を放つ直前にはもう気付いていましたから。あなたの知る魔法少女の力をその身に()()()()使()()()。それがその姿の能力ですね?」

「やっぱり、分かりますよね...アレクシアさん、ですから...。」

 

ベーゼが憧れ、夢見た魔法少女たちの能力をコピーし、自分の力にする。

それが希望の魔法使い(ホープフル・ウィザード)の能力だった。

様々な世界観、独自のルールを持つ力を好きに選べるこの力はあまりに破格なモノだが、相手がベーゼと対等以上の魔法少女オタクとなると話は別。

マジアオールはベーゼの想定以上の速度でそのカラクリを理解し、的確に弱点を突いてきた。

ベーゼが最初に使用した"時間停止魔法"は発動者に触れたモノを例外なくその対象から外してしまう。

つまり、綱が二人を繋いでいる限りはオールの時間を止めることが出来ないのだ。

 

「それでも...!」

 

宝石を黄色に変化させ、またもや光速の斬撃を放つベーゼ。

しかし、その刃が金色の鎧を傷付けることはなかった。

先程と違いオールは完璧にベーゼの動きを読んで攻撃を防ぎ。

更にはその速度を苦にせず何度も切り結んでみせた。

 

「くぅっ...!?」

「その姿の弱点を教えてあげましょう。」

「レリーズ...!」

 

()()()()オールの背後を取ったベーゼだが、すぐに繰り出された裏拳を避けきれず、鈍い音を立てて再び地面を転がった。

 

「"一度に使える能力は1つ"ということ。」

「ぅ...あっ...」

「そして、もうひとつ。」

 

宝石が元の青色に戻ったことを確認し、痛みに呻くベーゼを掴み上げるオール。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を見つめ、その口元を更に歪めた。

 

「"使っているのがあなた"だということです。ウテナ。」

「がっ!?ぁっ...!?」

 

力任せに地面に叩き付けられ、血を飛び散らせる。

立ち上がれなくなったベーゼの姿を見下ろして自らに勝てない理由をつらつらと語っていく。

 

「先程の魔法、例えにはちょうどいい。クロウカードを再現しようとすればそれだけで50種類以上はあるわけですが。

あなた、それを1枚1枚()()()()()()()()使()()()()()()()()ことが出来るのですか?」

「がふっ...ぅ...」

「今も頭の中で数多の魔法少女たちが浮かんでは消え、選び出すことすら出来ないでいるはず。あなたが魔法少女を心から愛するウテナだからこそ、その能力を扱うには知識があり過ぎるのですよ。」

 

魔法少女を愛するが故に得た能力が、反ってその愛故に上手く機能していない。

致命的な欠点を指摘され、ベーゼの手足からみるみる力が抜けていく。

ベーゼとて、自分の最善が"使役"であることなど承知している。

だが、やはり単体の出力では二重変身と同じ奇跡を扱うことは出来なかった。

だからこその苦肉の策。

精一杯の選択だった。

 

「そして何より、それを補うだけの経験も、センスも...!ベーゼ!あなたにはありません!!」

「ぁ、ぎっ...!?」

 

魔力を帯びた剣で斬り上げられ、踏み留まることも出来ずに地面に激突。

奇跡の反撃は一瞬だけ。

その力の差は、未だ残酷なまでに隔てられていた。

 

「いくら愛しても、所詮は夢、虚構。血濡れた現実で振るい続けた正義に...ワタシに、敵うはずがありません。」

 

その言葉はまるで、ベーゼではなく自分に言い聞かせているように響いて。

消えかけていたベーゼの意識を、"未練"という形で繋ぎ止めるのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「っ...またこれかぁ~...。」

 

気が付いての第一声は、自分でも驚くくらいの呆れ声だった。

見渡す限りのだだっ広い空間。

そこにポツンと立っている私。

10分くらい前も似たようなとこにいたよね?

やられるの早過ぎないかな?

 

「大丈夫です、問題ありません...。」

 

なんつって。

ちょっとしたゲームキャラクター体験だ。

 

いい加減慣れてきてしまった感のあるこの世界は、"私の心の中"。

であれば当然、いるのは私だけ。

()()()()()()()()()()、私がいるはずの世界だ。

そう思い意識を集中すると、目の前に影が現れて、次第にヒトの形を為していく。

つい先程見たばかりの、悪魔にも似た破廉恥な姿。

相変わらず酷いと心の中で(いや今いる場所が心の中なんだけど)赤面しつつ、声を掛ける為その後ろ姿に近付く。

休日のお父さんさながらに寝転がりながらテレビを見て、ポテチを摘まむ姿はそれはそれはリラックス...って。

 

「痛ぶるならもっと破けっての。これじゃBlu-ray買った意味がな」

「人の中で何やっとんじゃこらあぁぁっ!?!?」

「ぐひぃっ!?」

 

無茶苦茶寛いでた欲望(わたし)の尻を、回し蹴りで思い切り蹴飛ばす。

現実で私が死にかけてるのに何やってんだこいつ。

ポテチとテレビとBlu-rayどっから出てきた。

おまけに独り言まで酷い。

全年齢向けアニメに何期待してるんだ内なる私よ。

 

「いっだあぁぁっ...い、いきなり何すんですか!?いいところで邪魔をしてっ!」

「まだ中盤でしょうに。大体私がピンチなのにアニメ見てるとかおかしいでしょう。常識ないんですか?」

「あるわけないでしょう?あなた(わたし)に。」

「言うに事欠いてコイツ...!」

 

お尻さすってる割に顔だけは得意気なの本当にムカつく。

自分自身への怒りを何とか抑え、出かかった言葉を飲み込む。

すると、とりあえず言い合いをする気はないのか、あちらから本題に話を進めてくれた。

 

「それで?あの流れで惨敗したあなたが何の用です?あまりに恥ずかしくて内に籠ることにしたとか?」

「そんなわけないでしょう。」

「なら、さっさと戻って今度こそ息の根を止められてはどうです?私は忙しいんですよ。」

 

口の減らない私だなぁ。

そのまま再び寝転がろうとするのを、逃がさずに腕を掴んで止める。

アニメを7話まで見といて忙しいわけないだろ。

 

()()()()()()()()()()()()()()。一緒に戦ってください。」

「...あなた、バカですか?私が素直に了承するわけないでしょう。」

 

掴んだ腕を振り払い、敵意を返すもう一人の私。

これくらいは予想通りなわけだけど。

 

「私はこのままで終わるわけにはいかないんです。」

「そりゃあ、あれだけカッコつけてこの様では引っ込みが付かないに決まって」

「いやそこではなく。このままじゃ私、()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃないですか。」

「は...?」

 

呆然とする私。

私なんだから説明なんかいらないと思ってたのに。

これだから二流は。

思わず溜め息が出たが仕方ない。

私は思慮の浅い欲望(わたし)に向かって、懇切丁寧な説明を始める。

 

「いいですか?マジアオールは世界最強の魔法少女。その始まりは小さなお手伝いや慈善活動だったと言います。それをコツコツ重ね次第に犯罪者を逮捕するようになり、ついには悪の組織を打倒し、国を、そして世界を救い守り続けている。彼女は紛れもない、正義のヒロインなのです。それがあのように微塵の悪も許さなくなってしまったのには理由がある。ある意味で闇堕ちのこの状況...もうどう考えても"出戻り"の流れでしょうが!!

だってあのアレクシアさんですよっ!?あんなに魔法少女好きな人がこのまま分かりやすい敵役で終わるなんて許せないじゃないですかぁっ!?その為なら喜んで壁になりますとも!!敗北はヒロインを強くするっ!(確信)見失った自分を異邦の地にて取り戻し!迷いも曇りもない彼女がこれからも世界を照らし続ける太陽となる。あぁ、なんと素晴らしい!尊いっ!!女神っ!!デカパイバブみ魔法少女さいこぉぉーーっ!!!」

 

「え、長。というか、うっさ...。」

 

途中から自分でも何言ってるか分からなかったが、要約すると"まだ諦められない"になるはず。

 

「というわけで、さっさと力を貸してください。」

「何で今ので"理解出来ましたね?"って顔出来るんです?」

 

手を差し伸べるけど、強情な欲望(わたし)はまだ受け入れようとしない。

それでもめげずに腕は固定。

睨み合いが続き、漸く動きがあった。

考えるポーズを取って数秒。

その後お返しとばかりに溜め息を吐いて、めちゃくちゃ嫌そうに私の手を握った。

 

「やはり分かってくれましたか私!」

欲望(わたし)に引かれるくらい気持ち悪い自覚を持ってください。というか出来れば負けてください。正直恐いです。」

 

またまたぁ。

そんな"逆らうと何されるか分かったもんじゃない。コイツ、マジヤベーゼ。取り敢えず言うこと聞いとこ。くわばらくわばら。"みたいな態度しちゃって。

マジアオールの魅力にうずうず来てるくせにまったくもう。

 

「精々乗っ取られないよう気を割くことです。まあ、私は返り討ちに合うことを祈りますが。」

「素直じゃないんだからぁ~。このこの。」

「リアルで誰にも出来ないダル絡みやめなさい。それで?手を貸すと言っても、あの化け物相手にどう勝つつもりなのですか?」

 

勿論作戦なら考えている。

内なる私と協力出来るなら、この身に宿る魔力を100%引き出せるはず。

相変わらず魔法少女召喚祭りは叶わないだろうけど、頭に浮かんだこの"妄想"を再現することくらいは出来るだろう。

何せ"希望の魔法使い"なのだ。

奇跡も魔法もあるんだってことを見せてやる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()だよ。」

「......あなた、本当にバカですね。」

 

呆気に取られながらも、どこか嬉しそうな表情を見せる欲望(わたし)

そんな最後まで嫌味しか言わない協力者を得て、私の意識は戦場へと戻っていくのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「...!?」

 

二度圧倒したはずのベーゼから、再び凄まじい魔力が立ち昇る。

今度こそ意識は落としたはず。

そう確信していたオールを嘲笑うように、ベーゼはスクッとその場で立ち上がってみせた。

 

「どこにそんな力が...!」

「さあ、行きますよ...根こそぎ貰うんで覚悟してください...っ」

 

魔力がベーゼの身体を包み、その姿を僅かに変化させる。

通常形態を思わせる悪魔の角が天を突き。

背中からは魔力が溢れ出て、黄色くスパークするそれは光の翼にも見える。

握る剣は鮮やかな桜色の魔力を纏って、槍のように長く延長された。

そして、先程まで忙しなく一色に変化しようとしていた宝石は、ついに壊れたかのように"虹色"の輝きを放っていた。

 

「全身、全霊...!全、力...全開っ...!ぶっ壊れても、勝ぁぁつッ...!!」

「なっ!?」

 

目と鼻の先に飛び込んで来たベーゼ。

その瞳と頬には()()()()()()が浮かんでいた。

 

「パワーアップしても、真似事なのには変わりありません!」

 

その出力はオールをして悪寒を感じさせるものだったが、振るわれる槍捌きには見覚えがあった。

いくら強力でも所詮はコピー。

一つしか出来ない物真似では届かないと、オールは同じように槍を作製し、一歩も引かずにベーゼと打ち合う。

一進一退。

技術を考えれば時間の問題な均衡。

だが、そんなことはベーゼも承知済。

ここからが"真打ち"である。

 

「どっっせぇぇいっっ...!!」

「ゴハっ...!?!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()し、槍に気を取られていたオールの横っ面を殴り抜けた。

ついに直撃を許したマジアオール。

一度に二つの能力を使用された戸惑いと痛みに、思考を塗り潰されながら地上に落ちていく彼女を、ベーゼは有無を言わせぬスピードで追撃する。

 

「ぐっ...!トレス、マジアッ...!」

「それだけじゃありません...!!」

 

何とか意識を保ち地上で体勢を立て直したオールに、今度は"黒い影"が忍び寄る。

背後から迫るそれに気付いたのは、()()()()()()()()()()()()()時だった。

 

「これ、は...!?」

「まだまだぁっ!!」

 

ベーゼの腕から伸びる魔力の鞭が、周囲の残骸を叩き上げ巨大な"ぬいぐるみ"へと変化させた。

ぬいぐるみたちは一斉にオールへと襲い掛かるが、オールもまた分身を作り出し対抗。

ぬいぐるみをバラバラに切り裂いていく。

 

「こんなもので!」

「詰めが甘いのはそっちです...!!」

 

勝ち誇るのも束の間。

バラバラになったぬいぐるみの五体が独立して動き、その先端からレーザーを放つ。

圧倒的数の暴力に、あの最強の分身たちが一瞬で溶け消え去っていく。

一人取り残されたオール本人は、目の前で起こったあり得ない逆転に驚愕。

瞳を見開いて逃げることも出来ないまま、ただ呆然とベーゼを見つめていた。

 

「すぅぅぅ..."フォルティッシモ・シュトラール"ぅぅーーっっっ!!!!!」

「しまっ...」

 

剣を銃形態に変化させ、無防備なオールに狙いを定める。

込めるのは音の力。

放つのは閃光の一矢。

らしくない大声と共に放った一撃は、確かにオールを捉え凄まじい爆音と共に炸裂した。

 

「ハァっ...!ハァっ...!」

 

額に大量の汗を滲ませながら息を整えようとするベーゼ。

明滅する意識とふらつく身体を制御し、地上に降り立つ。

 

「ぅ...あぁっ...!こんな、ことで...負けてっ...たまるもん、かあぁぁっ...!!」

 

土煙の先にいた最強には、明らかなダメージが刻まれていた。

黄金の鎧には各所に罅が入り、白い肌に傷と共に鮮血の跡が見える。

剣を突き立てその場に立つだけで精一杯。

そんな状態にも関わらず、彼女の心はまだ折れていなかった。

未だ衰えぬ魔力を爆発させ、オールは真っ直ぐに倒すべき敵へ突進していく。

その姿を見て、ベーゼは焦るどころか喜色を含んだ笑みすら浮かべていた。

 

「エノルミータの力まで...!マジアベーゼ、力を隠していたのですか...!?」

「今にも頭が弾け飛びそうですよっ!!でも、動ける...!戦えるんですっ!!これは虚構じゃない、私が()()()()()()()()ヒロインたちの力ッ!頭なんかなくったって、身体が勝手にやってくれるんですッ!!」

 

至近距離で斬り合うベーゼの剣は、いつの間にか"二振り"となっていた。

無意識に憧れを再現するその力は、熟達したオールの剣技すら押し込んでいく。

 

「こん、なっ...!こんな奇跡みたいな力がっ...!?」

 

まるでアニメのような、みんなの力を結集させた強化形態。

こんなことはあり得ないと認めるわけにいかない非現実に、今まさに自分の最強が手折られようとしている。

 

このままでは、負ける。

分かっていても退がる足は止まらず、呼吸は乱れて魔力も力も抜けていく。

 

「ワタシは最強なのにっ...!?」

 

最強でなくてはならないのに。

そうでなければ、何も守れないと理解したはずなのに。

負けてしまったら、今までの全てを否定しなければいけなくなる。

 

「ワタシの、正義がっ...!?」

 

正義じゃなくなる。

ただの非常で間違った独善。

大好きなアニメによくあるような敵役そのものになってしまう。

 

そして考えてしまった。

奇跡と力を以て自分を乗り越えようとしている彼女なら、自分が取り零してきた悪ですら或いは救えたのではないか。

現実がどうしようもないのではなく。

ただ間違っていて、弱くて。

()()()()()()()()()()()()

ワタシが憧れてしまったから、これまでの犠牲を生んでしまったのではないか、と。

それを考えない為にも被っていた"最強"という名の仮面が剥がれ、剥き出しの心を罪悪感が襲う。

一気に力が抜け、ベーゼの斬り上げについに黄金の剣も弾き飛ばされた。

絶望の色に染まろうとする瞳を向けられたベーゼは、無防備となったその身体へ躊躇いなく。

 

「疲、れたぁっ...!!」

「ぇ...?」

 

刃を振るうことはなかった。

崩れ落ちたオールと同じ目線になるように、その場で尻餅を衝いて息を吐く。

困惑するオールに対し、その表情はいくらか安らかに思える。

 

「...何故、手を止めたのですか...。」

「話したかったんです。決着の前に。」

 

怒りすら滲ませるオールへ笑顔を向け、ベーゼは一方的に会話を始める。

 

「私、やっぱり問答無用の断罪が正義だとは思えません。でも、だからってマジアオールを否定するのは違うなって。反省したんです。」

「今さら、何を...」

 

真っ向から全否定していたくせに。

反射的に出る嫌味にそれどころじゃないとセルフツッコミをしながら、オールはいつの間にか会話に乗ってしまっていた。

 

「だってあなたは、アレクシアさんですから。私の友達で、魔法少女が大好きな。」

「...。」

「私が言った反論なんて、本当はアレクシアさんだって分かってることなんでしょう?でも、そうできない理由があった。冷徹にならなくちゃ守れないモノが、あったんですよね?」

 

うてなはアレクシアの過去を知らない。

悲壮な決意がどこから来るのかも分からないはずだ。

 

「そうやって心で泣きながら、最強になっていったんですよね。」

「何故そんな...分かったような口を...!」

「魔法少女談義。」

「は...?」

「楽しかったです、アレクシアさんと魔法少女について話すの。私と同じくらい魔法少女が好きな人に会ったことなかったから。本当に嬉しくて...だから信じられるんです。あなたの魔法少女愛は本物だって。」

「っ...!」

 

うてなはただ()()()だけ。

自分と同じく魔法少女を愛する、アレクシア・ハートフィールドという友人を。

それだけの"憧れ"を持つ者が、進んで手を汚すことなどあり得ないと。

ただの予想で、願望。

でもそれはうてなにとっての確信だった。

 

「マジアオールは正義の味方です。憧れた通りにいかなくて、辛くて悔しくて。でもあなたは歩き続けて世界のヒロインになった。何よりも大切な子たちの憧れになったんじゃないですか。だから、間違ってるだなんて思っちゃダメです。疑わなくていいんですよ。」

「どう、して...」

 

うてながこういう結論に至ったのには、実は身近な誰かさんの影響があったりした。

慈愛に満ち、そのくせ責任感が強く自分を犠牲にしてしまうタイプ。

アレクシアもそうなのだと気づいた時には、あれ程怒り狂っていた解釈違いも気にならなくなっていた。

うてなはもう、マジアオールを倒すべき敵とは見ていなかったのだ。

 

「最初みたいにそのご立派...じゃなくて。胸を張っててください。私は私で、勝手に"私の正義"をぶつけますから。」

「あなたの、正義...?」

「"推し"です。私の大好きで大切なヒロインたち。彼女たちの輝きが、私にとっての正義なんです。」

 

そう語る表情はどこまでもいきいきとして、幸せに満ちたものだった。

 

「だから、アレクシアさんはアレクシアさんが()()()()()()()()()()()()()()()()()をぶつけてください。どっちの推しがスゴいのか、正々堂々"喧嘩"しましょう。」

「.......けん、か...。」

 

言いたいことは言えた。

そう満足し立ち上がって、ベーゼはキョトン顔のオールに手を差し伸べる。

怒り、困惑、呆然。

様々な感情を往き来したオールが最終的に浮かべた表情は。

 

「...っ...ふふっ...ははっ...!あははっ!」

 

涙を滲ませながらの、大爆笑だった。

本当に変な魔法少女だと彼女は笑う。

何も事情を話していない、ベーゼから見れば自分は大切なモノを容赦なく傷つけた下手人でしかないはず。

それをここまで肯定し、理解されては毒気も抜かれるに決まっている。

何より危険な存在で、今まさに自分を脅かす敵。

そう言い聞かせても、オールの目にはもうどうやっても目の前にいる少女が悪には見えなかった。

ただの、友達にしか見えなくなっていたのだ。

 

「殺し合いではなくケンカですか!この私と、しかも推し談義!」

「ケンカも言い合いも普段はしないというか出来ないんですけど...き、今日はがんばりますっ!」

「ワタシも初めてです...だから、手加減は期待しないでくださいね、()()()。」

 

ベーゼの手を取って立ち上がるその姿は、うてなのよく知る優しいアレクシアそのものに戻っていた。

笑い合って、距離を取り。

真っ直ぐにお互いを見据える。

 

「こっちも全力でいきますよ、アレクシアさん!」

 

二振りの剣を重ね合わせ、一本の長大な剣へと変化させる。

身体に秘めた全ての魔力を注ぎ込まれ、剣は風と雷、そして絶対零度を纏って荒れ狂う。

 

「覚悟してください! こちらの憧れは年季が違います!」

 

対するオールは最も使い慣れた剣。

それも巨大なエネルギー刃を持つ大剣を造り上げる。

全ての魔力がスパークし、その刀身にはかつてない程の力が集まっていく。

 

お互いの全霊を、少しの躊躇いもなく。

でも、とびきりの笑顔を絶やさずに。

魔法少女に憧れた二人は、大好きという気持ちを込めて、今。

それぞれの正義を撃ち放つ。

 

「魔法少女同士のぶつかり合いと言えば...!やっぱりッ!!」

「極太ビームの、撃ち合いデースッッ!!」

 

振り抜いた剣から射出された、あこがれの魔法。

黄金と虹色の輝きは真正面から衝突し、拮抗した。

周囲を消し飛ばさんとする威力のぶつかり合いを意に介さず、二人はそのエネルギーの波に()()()()()()

 

「私がっ!!」

「ワタシが...!!」

「「勝つんだあぁぁーーーッッ!!!!」」

 

身を焼き焦がす魔力の中、己の剣に愛を込め。

最後の一撃を振り抜いた。

弾けた魔力は空へかかる橋のように昇っていき。

戦場に立つ影は、ただ一つ。

 

「どうでしたか? 私の、大好きヒロインたちは。」

 

勝ち誇る少女は花のように笑い、倒れ伏す少女もまた、満足そうな笑顔を見せる。

 

「ワタシの完敗です。魔法少女、マジアベーゼ。」

 

正義と正義のぶつかり合い。

その最終決戦を勝利したのは。

"悪"と呼ばれた少女の、愛するモノを信じる心だった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「はぁぁ~っ...!極楽ねぇ~...///」

「そ、そうだね...本当に天国...えへへ///」

 

たわわぁぁーー!!

そう叫びたい気持ちを抑えて今はチラチラと視線を送っては揺れている"幸せ"を脳内保存という形で噛み締める。

傷だらけの身体に"温泉"はかなり染みるけど、痛みと幸せなら今のところ圧倒的に幸せで胸は一杯だ。

 

「先生、恐かったわね~...。」

「え。あ、あぁ。あんなに怒ってたの初めて見たかも...。」

 

小夜ちゃんに話を振られ、視線をおっぱいから何とか顔に移動させる。

あ、キレイ。可愛い。

...じゃなくて。

あのジャスティスティールとの決戦から数時間。

すっかり日が落ちた旅館で、私は小夜ちゃんと二人きりで温泉に入っていた。

何とか修学旅行に戻ることが出来たというわけです。

 

小夜ちゃんはヴェナさんに転移で。

私ははるかちゃん、薫子ちゃんと徒歩でここまで辿り着いた。

全員の魔力が尽きていたからみんな怪我をしたままで、それを見た先生が心配のあまり大激怒したんだった。

あんなに熱血な面があるなんて意外だった。

 

そんなわけで、こっぴどく叱られた後クラスのみんなに遅れる形で温泉に入ることになったのでした。

ちなみに二人きりなのは、薫子ちゃんの怪我が本当に大丈夫かはるかちゃんがチェックしている為。

断じて気を遣われているわけではないと思う。

 

「んん~っ!気持ちいい~!///」

 

だからそんな扇情的かつリラックスした姿を見ても"そういう合図"ではない。

白く美しい双丘がプカプカしていたり、綺麗な腋やうなじが見えても不健全な意図はないのです。

ふえへへ。

 

「シャノンも明日から合流出来るそうよ。」

「よかった。アレクシアさんも、百花さんから命に別状はないって。」

 

アレクシアさんは連絡した百花さんが駆け付けて、桃森グループの病院へ連れて行ってくれた。

まさかヘリコプターで送迎とは。

友達想いなことよりお金持ちな方に目が向いてしまう登場のし方だった。

 

シャノンさんとキャサリンちゃんは、そのままナハトベースで治療中。

一緒にキウィちゃんたちもこりすちゃんが回復させてるみたいだけど、説得にはそこそこ苦労したんだとか。

恨み言じゃなく、ほとんどキウィちゃんの"それ、浮気ですよね?"発言だったらしい。

ある意味らしくて安心しちゃった。

 

気になるのは街の修繕をやらされてた蘭朶さんと心梅さんだけど。

私たちの印象、今のところ下がってく一方だよね。

挽回する方法について、一度小夜ちゃんと話し合わなきゃ。

 

「そろそろ上がらないとはるかたちが来ちゃうわね。二人きりにしてあげないと。」

「え、あ...そう、だね...。」

 

儚き我が桃源郷。

早過ぎる眼福の終わりに心の中でため息を吐く。

小夜ちゃんは私を見て少し笑うと、近付いて私の肩に寄り掛かってきた。

きて、くれた。

 

「さ、ささ小夜ちゃんっ!?///」

「...大変、だったわね。」

「......うん。でも、何とかなってよかった。」

 

誰も欠けることなく、友情を失うこともなかった。

今までで一番辛い戦いだった気もするけど、乗り越えて得られたモノもあった。

 

「うてな。あなたは最強の魔法少女に勝った。"本物"の魔法少女として。すごいわ、本当に。」

 

本物の魔法少女。

私たちが憧れた、私たちの約束。

アレクシアさんに認められた以上、もう向いてないや畏れ多いなんて言葉は使えない。

 

「うん...なったよ、私。魔法少女に。」

 

私は、マジアベーゼは辿り着いた。

悪でありながら、正義を成せるヒロインに。

だがそれは、一方で。

 

「なら、()()()()()()()()()。ベーゼ。」

 

この関係を終わりにする。

エノルミータとトレスマジア、その戦いの決着を意味しているのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

ジャスティスティールとの決戦から、1ヶ月程が過ぎた。

季節は秋から冬に移り変わり、もうすぐ12月になろうという今日。

私たちは連れ立って、空港まで足を運んでいた。

シャノンたちがアメリカに帰国するのだ。

修学旅行からそんなに一緒に過ごす時間もなくて、"せめて年内は日本にいてはどうか?"と提案したけれど、三人で話し合って決めたと困った笑顔で言われてしまった。

 

『映画の撮影も終わったし、エノルミータを倒さないって決めたなら、もうここにいていい理由もないから。』

 

そんなことはないと反論したかった。

でも、それが彼女たちの選択なら無理強いは出来ない。

せめて笑顔で別れようと、私は引き留める言葉を飲み込んだ。

 

「みち子なしでお二人がいるの、何だか珍しいですね。」

「みち子様はアルバイトがお忙しいらしく。アレクシアの友人として、わたくしたちが同行しないわけにはいきませんもの。」

「巻き込まれた...みっちゃん、どこ...?ここ?」

 

不本意かつみち子成分を求めてあらぬところを探る蘭朶さんはともかく。

関係者ほぼ全員が見送りに参加し、別れを惜しんでいる。

 

「モモ~っ!電話しマース!メッセしマースっ!ワタシたちの絆はforeverデ~ス!!」

「うおぉ~んっ!もろちんですわアレクシア~!週一でプライベートジェットしますわぁ~!!わたくしたちズッ友ですのよぉ~!!」

「ぐ、ぇっ...くる、じ...っ」

 

泣きながら抱き締め合う高校生コンビ。

よく知らないけど本当に仲が良かったんだな。

爆乳に挟まれた蘭朶さんが圧死しそうなのは気になるけど、微笑ましい光景だ。

 

「その...本当に、ごめんなさい。三人には特に酷いことをしてしまって。」

「あぁ...まあ、なんだ?いいよ別に。ヤリ合った相手と仲良くすんの、アタシら慣れてるからさ。」

「申し訳ないと思うなら、次の映画ちゃんと真珠にオファーしなさいよね。ハリウッドデビューも出来る器よ、真珠は。」

「はは...thanks、マタマ、ネモ。」

 

頭を下げるシャノンを笑って許すたまネモ。

みち子のことといい、二人の器のデカさは留まるところを知らない。

平幹部にしておくには惜しい程だ。

一方、キウィはそれはそれは分かりやすくムスッとしたままシャノンを睨んでいる。

簡単に許してもらえるとは思ってないはずだが、それでも落ち込んだ様子のシャノン。

そんな姿を見て心が決まったのか、キウィは頭のお団子をポフポフしながら、一歩前に進み出る。

 

「...まあ、見る目があんのは認めてやんよ。でもぜぇっったいさよちゃんはやらんっ!!」

「特殊なツンデレだなぁ、オイ。」

「自己中なだけでしょ。」

「キウィ...ありがとう、サヨをよろしくね。」

「ふんっ!言われんでもよろしくヤるってぇの~!」

 

一番心配な仲直りは何とか済んだようだ。

キウィも何だかんだ言って優しい。

 

「今度日本に来たら一緒に遊ぼうねぇ!妹たちも喜ぶよ、きっと!」

「ふ、ふん...お子ちゃまがワタシ様と遊ぶなんて十年早いのよ!」

「ちっこいのに態度だけは大きい子やねぇ。姉はんたちを見習って、もうちょい素直になってもろてもええんよ?」

「うっさいわね!アンタこそ背も胸もちっこいくせに!」

「胸は今関係ないやろ!?こんガキシバき回したろかこらぁ!?」

「薫子ちゃん相手子どもぉ!?!?」

 

一触即発なのは別の組み合わせだった。

あまり絡みのなかったキティちゃんとはるか薫子コンビだが、意外とあれはあれで味わい深いやり取りが見られたのかもしれない。

みんな、これから本当に仲良くなれるというところだった。

今生の別れでなくても、やはり悲しいことは悲しい。

 

「あ~!そういえばわたくしお土産を買うのを忘れてましたの~!」

「...あー。言われてみたら真珠も忘れてたわー。」

「みんなで見に行こっか!」

「せやねぇ。」

「は?土産なぞ渡す筋合いはな」

「はいはい、少しは空気読めよなァ。」

「みっちゃん...どこなの...?」

 

突然、何やら示し合わせるようにその場を離れていく百花さんたち。

残されたのは三姉妹と私、うてなにこりすだけだ。

...本当に気が利く友人ばかりで、涙が出てくる。

 

「こりす...ワタシ、絶対連絡するね...国際通話、は無言になるから...ビデオ通話と、メッセージと...。」

「コクリ...。」

 

最初に会話を始めたのはキティちゃんとこりすだった。

お互いに俯いて、必死に悲しい気持ちを堪えているのが分かる。

 

「ワタシ...ワタシもっと、こりすと一緒にいたかった...それでもっとたくさん遊んで...ありがとうとごめんなさいって、たくさんっ言いたかった...!」

「...。」

 

ぽろぽろと零れる涙が抱き締めたアーサーを伝って、彼もまた泣いているように見えた。

こりすはうるうるとし始めた瞳を拭って、鞄から1体の"ぬいぐるみ"を取り出す。

 

「!...これ、ネロアリス...?」

「コクリ。」

「くれ、るの...?」

「コクリ!」

 

キティちゃんに差し出されたのは、ちょうど抱き締められるくらいの大きさの、お手製ネロアリスぬいぐるみだった。

間に合わせる為に私も少しは手伝ったけど、ほとんどはこりすの手作り。

こりすにとっての友情の証、最大限のプレゼントだった。

 

「...ワタシも、これ。」

「!」

「"チェシャ"って言うの。猫型で小さいから、その...」

「..."子猫(キティ)"?」

「うんっ...キティ、だよ。」

 

代わりにこりすが渡されたのは、アーサーによく似た"猫型ロボット"だった。

親友同士、考えることは同じだったのね。

 

「友だち...。」

「うん...うんっ...!ずっと、友だち...っ!」

 

お互いが寂しくないようにと手作りしたプレゼントを大事に抱えて。

二人はさよならのハグをした。

それを見守るアーサーとロボ子も、自然と触れ合いさよならを告げていたように思う。

 

「アタシたち、しばらくヒーロー活動はお休みすることにしたよ。」

「そう...怪我は大丈夫?」

「サヨは心配性ね。ただゆっくり考える時間を作りたいってだけだからさ。」

 

順番的に、今度は私の番だ。

いつもの調子でシャノンと会話を始める。

なるべく真剣にならないように、気を抜けるようにと。

でも、お互いその辺りは不器用で。

すぐに言葉に詰まってしまう。

先に取り繕うのを止めたのはシャノンだった。

 

「...それでも、アタシやっぱり、守りたいモノがあるから。これからも戦うよ。サヨがくれたたくさんの思い出があれば、いくらでも頑張れるって思うんだ。」

「シャノンっ...ええ、きっと。きっとあなたなら出来るわ。」

 

どちらともなく抱き締めて、言葉にならない感情を伝え合う。

最初は戸惑ったけど、一緒にいる内に仲良くなって、人となりと過去を知って。

憎み合った瞬間はあったけど、今はこうして分かり合えた。

過ごした時間は短くても、彼女は一生私の大切な人だ。

 

「ウテナ、ヴァーツには注意してください。」

「...はい。」

 

そして、最後はあの二人だ。

アレクシアさんはいつもの口調ではなく、毅然とした態度でうてなへ忠告をしている。

結局最終決戦で姿を見せなかったヴァーツの行方は分からず、何が目的なのかも判明していない。

彼女が警戒するのは当然だろう。

 

「本当はワタシも残り、共に備えるべきですが...あれはあらゆる意味で危険です。妹たちを守りながら戦うのは...」

「大丈夫です、アレクシアさん。私たちは、負けませんから。」

 

沈鬱な表情のアレクシアさんを元気付けるように、うてなははっきりと"心配無用だ"と告げる。

その顔は別人に思える程自信に満ちていて、見る者に彼女の成長を、否応なしに理解させてしまう。

 

「ふふっ。そうでしたね。()()()()は、確かにここに刻まれてしまいましたから。」

 

そんなうてなの姿に安心したようで、アレクシアさんは微笑んで手を差し出す。

笑顔でその握手を受け入れるうてな。

 

「ありがとう、ウテナ。友人として、先輩として。あなたのことを応援しています。」

「アレクシアさん...はい!私も、ありがとうございました!」

 

ぶつかり合い、分かり合う。

まさに王道の関係性。

最初はやきもきしたりしていたが、何ともクリーンなやり取りで推せる。

まほあこでこんな美しい関係が見られるとは思ってなかった。

 

そんな()()()()()()()()のか、アレクシアさんはシャノンと何やら目配せ。

握手したその手を引っ張り、うてなを引き寄せる。

シャノンもまた私にずいっと近付き、そのまま。

 

「「へ...?///」」

 

姉妹揃って、それぞれの頬に"キス"をプレゼントした。

 

「え、えぇっ...!?///」

「な、ななな何してっ!?///」

「I love you!サヨ、二人に飽きたらいつでも呼んでね?アタシ、諦めるのを諦めることにしたから!」

「ワタシも()()()()ウテナを推すことにしマシタ!いつでもアメリカへ遊びに来てくだサーイ!」

 

茶目っ気たっぷりにウィンクしてみせるシャノンとアレクシアさん。

ストレート過ぎて惚けることも出来ないその言葉に、私もうてなも大混乱だ。

 

「う、うてな!?鼻の下伸びてるわよ!?///」

「小夜ちゃんこそ顔真っ赤だよ!?やっぱり飽きられてるの私!?///」

 

嫉妬と興奮でもうわけが分からない。

お別れそっちのけで大騒ぎの私たち。

みんなが呆れて戻って来るまで、その痴話喧嘩は続いた。

シリアス雰囲気はどこへやら。

爆笑を絶やすことのないまま、嵐の留学生たちは故郷へと戻って行くのであった。

 

「ホント、思春期って厄介よね!」

「コクリ。」

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「うぅっ!こりすぅ~っ...!!」

「もう、笑ってお別れしたんだから泣かないの。」

「そうデース!またすぐに会えマース!」

 

泣きじゃくるキティを宥めながら、二人はそれぞれの思い出を回顧する。

 

異邦の地で敗北し誇りを傷つけられたはずなのに、その晴れやかな気持ちは決して翳ることはない。

勝利以上に意味のある敗北だと、全員が理解していたからだ。

自分の正義を、憧れたモノを見つめ直し。

彼女たちはまたどこかで、誰かの為に戦い続けるのだろう。

ジャスティスティール。

最強の魔法少女チーム。

 

「失礼しました。"元"最強でしたか。」

「「「!?」」」

 

乗り込んだ飛行機内。

客は勿論、乗務員すらいないその空間の中心に、それは待ち構えていた。

 

「二人とも外へ...!?」

 

咄嗟にアレクシアは妹たちを外へ突き飛ばし、転がりながら機外へ飛び出す。

飛行機の厚い外壁を何でもないように破り、ヴァーツは三姉妹を追い掛ける。

 

「ヴァーツ...!?いったいどういうつもりでっ!?」

「役立たずのあなたたちのことなんて、本当はどうでもいいんですけどね?」

「ならどうして追って来るの!?」

「僕も珍しく、()()()()()()()()()()ので。有り体に言えば、"八つ当たり"ですよ。」

 

広い飛行場内を走る三姉妹。

ヴァーツはマスコットとは思えない速度でそれを追尾する。

このままでは埒が開かない。

アレクシアは覚悟を決め、妹たちを逃がす為変身し戦おうとするが。

 

「お探しなのは"これ"ですか?」

「な!?いつの間に...!?」

 

胸元にしまっておいたはずのトランスアイテムが、何故かヴァーツの手元で輝きを放っていた。

それも、数は3つ。

シャノンとキティも、自分のトランスアイテムがなくなっていることを確認する。

 

「もう必要ないですよね?ここでいなくなる、あなたたちには。」

 

三人が驚愕している間に、ヴァーツの手が魔力を帯びる。

ミシミシと悲鳴を上げるトランスアイテム。

ヴァーツがそれを破壊しようとしていることに気付き、アレクシアたちは声にならない悲鳴を上げる。

その時だった。

 

「ーー!」

 

ぼろり、と。

トランスアイテムを握っていたヴァーツの腕が切り裂かれ、地に音もなく落下する。

トランスアイテムは地を転がり、主人の元に導かれるようにして戻っていった。

 

「逃げなさい。あなたたちにはまだやるべきことがあるはずです。」

「あなたは...!?」

 

三姉妹とヴァーツの間に割って立つ、一人の死神。

シスタギガントはアレクシアたちを庇うように背を向け、その場を離脱するよう促す。

 

「どうして...?」

「行きなさい。早く!」

「っ...!」

 

トランスアイテムを握り締めたまま、アレクシアたちは全力で駆け出していく。

それをつまらなさそうに見逃したヴァーツは、視線をシスタへ向けおどけた様子で斬られた腕を弄んでみせる。

 

「ひどいなぁ。恩マスコットの腕を切っちゃうなんて。僕も痛くないわけじゃないんですよ?」

「ヴァーツ様...あなたには感謝しています。あの地獄から私を救い出してくれたのはあなただった。」

 

ヴァーツに対して感謝を述べながらも、シスタは鎌を構えて一歩一歩、歩を進めていく。その恩人を切り裂いて、全てを終わらせる為に。

 

「でも、今の私にはあの方との未来が、何よりも守るべきもの。だから...裏切り者らしく、あなたには消えてもらいますねぇ?」

「残念です。ええ、本当に。まったくもう。」

 

決意に満ちた瞳には、もう偽りの涙は流れていない。

幼い頃から知る彼女の変化に、ヴァーツは心底呆れたような声を出す。

 

「"ヒト"というのはどうしてこんなにも。

愚か、なんでしょうね。」

 

その命を虫のように刈り取る為。

魔法少女を支えるはずだったマスコットは、()()()()()()()()()()()を、静かに哀れな罪人へ向けるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

      ◼️□next season◼️□

 

 

 

     次回

      【第4部・最終章前編】

                開幕。

 

 

 "魔法少女VS悪の組織、決着。そしてー。"

 

 

      『三人の魔法少女(トレス・マジア)編』

 

 

      8月より連載開始。

 

 

 

      

【挿絵表示】

 

 

------ 愛を、

           取り戻せ。 ------

 

 

 

 




一月お休みを頂き、8月より第4部(最終章前編)の投稿を開始します。8/10(日)0:00が濃厚です。
アラカルトを1話挟み、全10話(つまり11話)予定。
最終章後編は12話予定。
終わりが見えて来ましたが、計算すると後一年はかかる見込みです。
もうしばらくこの自己満にお付き合い頂けると幸いです。
三部最終回なので、感想どしどしお待ちしてます←

P.S.
AI先生にオリジナルキャラ、形態のイメージ画像を描いてもらってます。
一昨日うてなの形態を追加したので、気になる方は週一くらいのペースで覗いてもらえると新しい姿が見られるかもしれません。
※7/14追記
たまネモやこりすのイラスト作成がムズ過ぎるので追加はあまり出来そうにないです。すみません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。