魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~   作:月想

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お久しぶりブリーフ(挨拶)
エタったと思った?残念でした。
モチベ低下からのコロナと大変でしたが、漸く新章投稿となりました。
色々考えも変わったので投稿ペース等変わります。
詳しくは後書きで。
では、エノルミータVSトレスマジアの決戦をどうぞ。


第45話『決着』

「寒っ...。」

 

吐く息は白く、空気は妙に澄み切って。

ストーブだろうか、どこか煤っぽい臭いも漂って来る。

外に出るとよりいっそう感じる"冬"の訪れに、私は付けていたマフラーを更にキツくし必死に暖を取ろうとする。

 

「地球温暖化はどうしたのかしら...。」

 

夏は無駄に暑いくせに、冬は何故こうも勤勉に満遍なく寒いのか。

地球温暖化なんて問題になるなら、冬が未だに生き残っているのはおかしい。

というか四季なんて本当に必要?

春と秋だけでイージャン。

そんな何の実りもない愚痴を心で呟きながら、私は学校へと重い足取りを向かわせる。

 

「12月、か。」

 

あの戦いから1月半程が経過した。

シャノンたちはもう日本にいない。

暗躍していたヴァーツもあれから姿を見せず、私たちが変身することもしばらくなかった。

平和な時間はあっという間に通り過ぎ、気付けば今年はもう残り一月もない。

 

「あ...さ、小夜ちゃん。おはよう。」

「おはよう、うてな。今日も寒いわね。」

「うん。お布団から出られなくて寝坊しちゃいそうだったよ...。」

「同じく。布団を被ったまま登校する方法が必要よね。」

「重そうだね、それ。」

 

同じ様に防寒対策MAXのうてなと合流し、二人並んで通学路を歩く。

冬生まれは寒さに強いと言うが、11月はまだギリギリ秋扱い。

分かりやすく震えているところを見るに、彼女も寒いのは苦手みたいだ。

 

「さよちゃんうてなちゃんおは~。あっためてぇ~。」

「おはようキウィ。暖かいけど、重いわ。」

「おはよう、キウィちゃん。出来れば、歩くのは歩いて欲しいな...?」

 

後ろから寄り掛かられ、密着した身体からは人肌の暖かさが届く。

動く気がないとばかりに掛けられる体重に狼狽える私たち。

キウィは挨拶で力を使い果たしたのか、ホールドはそのままにうつらうつら船を漕ぎ始めた。

私たちは左右からキウィの頬をぷにぷにとつつく。

こうやって刺激を与えキウィを起こすことが、私とうてなのルーティンとなっていた。

 

「ぷへぇ~。」

「あ!小夜ちゃんうてなちゃんおはよぉー!キウィちゃん...は変顔の練習中?」

「必要ないやろ。元から福笑い顔やし。」

「んだとひんにゅーばかがよぉ!!」

「あ、起きた。」

 

春夏秋冬、いついかなる時も元気に挨拶してくるはるかに、私たちよりキウィを覚醒させるのが上手い薫子。

今日は全員集合の登校になるようだ。

いつも通りの道を、何気ない会話をしながら進んで行く私たち。

キウィと薫子のケンカも、今や日常の大切な風景。

ずっと続けていたい、穏やかな日々。

だけど、私はもう知っている。

()()()()()()()()()()()()()()ことを。

 

「明日も寒いかしら。」

「...寒いんじゃないかな。寒くてきっと...今日と一緒だよ。」

 

エノルミータとトレスマジア。

どちらかが無くなる。

それが、今日。

今日はその、約束の日だ。

 

―――――――――――――――――――――――

 

三色の光が一直線に青空を飛び駆けていく。

魔法少女たちはいつになく真剣な面持ちで、軽口を挟む様子もない。

 

"決着をつけましょう。"

 

エノルミータからの宣戦布告は、ベーゼの口からマゼンタとサルファに伝えられた。

聞いた瞬間に少しの動揺はあったものの、二人はすぐにそれを受け入れてしまえた。

一年近く続いたこの不思議な距離感。

もう続けてはいられない状況だと彼女たちも理解していたのだ。

宿敵との決着、分かり合う為の挑戦。

そして約束を果たすこと。

それぞれの願いを胸に、トレスマジアは正義の味方として負けられない大一番へと臨む。

 

「お。きたきた~。」

「おっそいわね。正義の味方が遅刻してんじゃないわよ。」

「ビビって足が向かなかったんだろ。」

 

今まで幾度も主戦場となってきた人里離れた森の中。

陣取るように待ち受けていたのは、お馴染みのエノルミータの面々。

いつも通りの憎まれ口を叩く幹部たちだが、その目は少しも笑っていない。

正義を蹂躙する悪であろうとする覚悟が、その表情に現れていた。

 

「来たわね、我が宿敵トレスマジア。」

 

その幹部たちが傅く王は、圧倒的な威圧感を隠すことなく、鎮座した氷の玉座から敵を見下ろしていた。

 

「今日は記念すべき日よ。正義が悪に砕かれ、隷属する瞬間。想像するだけで身悶えしてしまうわ。」

「そんなことにはならないよ。勝つのは、あたしたちだから。」

 

アズールの冷ややかな目と嘲笑いにも怯まず、マゼンタは毅然とした態度を崩さない。

そんな姿が好ましかったのか、アズールは更に笑みを深め、次の瞬間にはその表情を冷酷なものへと変化させる。

二つの陣営にとって、それが開戦の合図だった。

 

「さあ行くのよ我が下僕たち。私の為に、トレスマジアを蹂躙なさい。」

「勝つよ、二人ともっ!!」

 

アズールとマゼンタの発破を皮切りに、一斉に"真化"を果たすヒロインたち。

玉座から動かないアズールを除き居並ぶ全力の姿。

しかし、ただ一人だけは事情が異なる。

 

『"深化(ラ・イデアーレ)"!』

 

マジアベーゼは激闘の末に得た力を出し惜しみせず初手にて発動。

白く輝くヒロイックな衣装をはためかせ剣を構える。

 

トレスマジアVSエノルミータ。

その実態は3対6のハンデ戦。

元から圧倒的不利な魔法少女たちは、勝つ為の作戦をこの日の為に練ってきた。

その第一矢が、この深化ベーゼによる"速攻"だった。

 

「ごめんね、みんな...!」

 

剣に填められた宝石が紫色に輝き、時間停止の魔法を発動しようとする。

口とは裏腹に容赦なくそのチート能力で頭数を減らす算段のベーゼ。

決まってしまえば不利は覆り一気に有利となる。

しかし、それを許すエノルミータではなかった。

 

「やっちまえアリス!」

「コクリ。」

 

レオパルトの指示に頷き、真化したネロアリスは慣れた手つきでペンを走らせる。

 

「あ!?」

「ちっ...!」

 

()()()()()()()()()()魔法を中止するベーゼ。

宝石はデフォルトの青へと戻り、ベーゼの思うように動かなくなっていた。

 

「ニヤリ。」

「最初から、アリスちゃんのお話の中だったんだ...!」

 

アリスは本の中身をベーゼたちへと見せ、口端を吊り上げて嗤う。

そこにはトレスマジアの登場から、マゼンタの驚愕時の台詞まで。

全てがこれまでの状況と符号する物語が描かれていた。

始めから仕組まれていた"罠"。

正々堂々でないからこそ、悪としての本気が垣間見える。

勝ちに来ているのはエノルミータも同じだった。

 

「体が、動かへんっ...!」

「おらおらくたばれトレスマジアぁ!!」

『ヴォワ・フォルテッ!』

「きゃあぁっ!?」

 

アリスにより身動きを封じられた三人へ、レオとロコの銃撃と音撃が襲い掛かる。

身を守ることも出来ずモロに攻撃を浴びるトレスマジア。

痛みに晒され消耗する心と身体。

速攻を仕掛けるどころか、このままでは即全滅は免れない状況となってしまった。

 

「ピンチ、でも...!予想外じゃ、ないっ!!」

「...?」

 

苦しむトレスマジアを見下す格好のアリスに届いたのは、()()()()()()()()()()()()だった。

訝しむ間もなく、ベーゼの姿が少々禍々しいモノへと変化した。

虹色の煌めきを放つ宝石に呼応するように空間に亀裂が生じ、アリスの強固な縛りが破られていく。

 

「やられたのだわっ...!?」

「!」

 

本とペンがロボ子の姿へと戻り、アリスもその衝撃で通常の姿へとパワーダウンしてしまった。

ベーゼが自身の内に眠る魔力を爆発させることで、力ずくでアリスの能力を打ち破ったのだ。

 

「今、だぁっ...!」

 

無理矢理な魔力の制御に少なくないダメージを負うベーゼだが、千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。

フラついた意識を必死に保ち、今度こそ時間停止の魔法を発動させる。

凍りついたように動かない世界。

ベーゼはそれを一直線に駆け、小さな強敵を優しく、だが確かに捉え抑えた。

 

「ごめんね、アリスちゃん...。」

「ぁ...!アリスぅぅーー!!」

 

パタリと倒れ、動かなくなるアリス。

レオの悲痛な叫びが、ネロアリスの戦闘不能を全員に証明していた。

レオにとってベーゼは愛する者ではあるが、この時ばかりは怒りが勝った。

疲労から膝を付くベーゼに銃口を向け敵討ちを果たそうとするが、それを横から黄色の閃光が阻む。

 

「あんたの相手はウチや...!」

「邪魔なんだよくそひんにゅー...!」

 

宿命のライバル対決。

サルファはレオに得意な近距離戦闘を強いるが、手の内が分かっているのはお互い様。

レオもまたそれに対応し、サルファの拳を捌いてはレーザを合間合間に放って少しずつ体勢を整えていく。

 

『油断大敵ってなァ!』

「う、ぐっ!?」

 

再び無防備となったベーゼを縛る幾重にも重なった影。

ルベルは影分身と影縛りの合わせ技で完全にベーゼの動きを封じてしまう。

 

『さっきのチートはもう使わせねェ!やっちまえロコ!ロボ子!!』

「ナイスよルベル!」

「アリスちゃんの仇なのだわっ!!」

 

魔法の切り替え、発動すら出来ないベーゼに向かい魔力を放つロコとロボ子。

昂る力が込められた一撃がベーゼに迫る。

 

「"スペランツァ・ジャヴェロット"ッ!」

 

間一髪で差し込まれた槍が、ベーゼの窮地を救った。

マゼンタはロコたちへ一気に肉薄すると、ベーゼから引き離すようにつばぜり合いを始める。

 

「マゼンタ!ここで会ったが百年目!どちらが真のアイドルか決着を着けるわよ!!」

「アイドルはロコちゃんでいいと思うよ!!」

 

ロコはライバルの誘いに応じて交戦を開始。

ロコ単独では不利と判断したのか、ロボ子もまたマゼンタ迎撃へと目的を変更する。

激しくぶつかり合いながら何とか合流を果たすマゼンタとサルファ。

マゼンタ&サルファVSレオ・ロコ・ロボ子の構図が出来上がっていた。

 

「二人、ともっ...」

 

アリスがいないとはいえ数的不利は拭えないことを案じるベーゼ。

しかし、今はただ仲間を信じるのみ。

こうなることもまた、()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

「ぶんぶんぶんぶん蚊でも飛んでんのかぁ?!軽いんだよひんにゅーマジアっ!!」

「ちぃっ...!」

 

これで何度目になるかも分からないライバル対決。

一見すると拮抗する両者だが、ただ一度勝利を得た経験の差は予想以上に大きかった。

得意な近距離にも関わらずサルファの攻撃は回避され防がれ、明確なダメージをレオパルトに与えられずにいた。

その間にもレオの放つ弾丸は少しずつサルファの肌を削り、着実に傷を蓄積させていく。

 

『ヴォワ・フォルテ!』

「ビームなのだわ!」

「っ!?う、ぐぅ...!」

 

サルファがレオとタイマンを行う以上、残り二人を一手に引き受けることになるマゼンタ。

真化したロコに真化と同等のエネルギーを秘めるロボ子。

サルファたちとは逆に遠距離戦を強いられたマゼンタは、魔力を帯びた槍で二人の攻撃を辛うじて防ぎ切るが、その迸るエネルギーに押し出され思わず膝を付いてしまう。

 

「マゼンタ!?」

「隙アリぱんち!!」

「がはぁっ...!?」

 

仲間のピンチに気を取られたサルファの隙を見逃さず、パンチではなくビームを土手っ腹に浴びせるレオ。

派手に吹き飛び転がるサルファにマゼンタが駆け寄る。

 

「サルファ...!今治すから...!」

「っ...すまん...」

 

衣装が破けた箇所を覆うように、治癒魔法のリボンがサルファの身体に絡み付く。

苦しそうな表情を多少弛め、サルファはゆっくりと立ち上がった。

 

「マゼンタ...あれ、やんで。」

「!...どうしても?」

「こんままやと埒が明かん。一気に片付けたる。」

「でも...」

「うちは、あんたを信じる。あんたは、うちを信じられへん?」

「っ...そんな言い方、ずるいよ。」

 

何かを決意したサルファの笑顔。

マゼンタは躊躇いながらも、サルファの両手両足に治癒のリボンをバンテージのように巻いていく。

 

「無茶はしないでね...?」

「無茶やない。頑張るだけやっ!!」

 

雷の翼を更に大きく展開し、先程とは比べ物にもならない輝きを放つ。

次の瞬間、サルファは文字通り"閃光"と化した。

 

「ぶっ!?」

「レオ!?」

 

すぐ側を風が吹き抜けたかと思えば、レオが視界から消える程の距離へ吹き飛ばされていた。

動揺するロコへ振り下ろされた踵落としを、ロボ子が何とか受け止める。

 

「割れたの、だわ...!」

「もう軽いとは言わせへんよ...!!」

 

金色に輝くサルファの一撃は堅牢なロボ子の腕をひしゃげさせ、ロボ子自体も軽く地面にめり込ませてしまう。

急なパワーアップを果たした敵に愕然とするロコたちだったが、一方でサルファの顔には滝のような汗が流れており、更に四肢からは鮮血が飛び散っていた。

 

「アンタまさか!?」

「そのまさかや...!」

「アタシのきゃわいいお顔をぶん殴るたぁどゆ了見じゃぼけぇ!!」

 

殴られた側にうっすら涙を浮かべ、それでも立ち上がったレオは怨敵目掛けて極太のレーザーを放つ。

サルファは直ぐ様ロボ子を蹴り飛ばしレーザーに向き直ると、雷の如き速度で直進。

恐るべきスピードでレーザーを切り裂き、そのままレオの腹に先程のお返しとばかりに拳を叩き込んだ。

 

「ぐっべぇ...っ」

「ぶち抜かれんだけ感謝しぃや...。」

 

胃の中の物を吐き出し踞るレオ。

血が滴り落ちる拳を、癒しの魔力が回復させていく。

これがサルファたちの秘策。

数で勝るエノルミータを打倒する為の諸刃の剣。

限界を超える魔力を引き出し、一時的に身体能力を大幅に強化。

その無理矢理による自傷ダメージをマゼンタの回復魔法で逐一治癒。

傷と治癒のいたちごっこの間に勝負を決してしまおうという無茶も無茶な作戦だった。

傷を癒せるとは言え、痛みは確実にサルファの心を疲弊させ、失った魔力は戻らない。

自らを捨て石にしているとまで言えるこの作戦は、しかし無駄撃ちとはならず。

明確に戦況を逆転させるに至ったのだった。

 

『ヴォワっ』

「遅い...!」

「きゃあぁっ!?」

『ロコ!?』

 

光速を物にしたサルファには遠距離攻撃など当たりようがない。

音波攻撃を意に介さず、拳を振り抜く衝撃だけでロコを地面に転がしてしまう。

最愛の相方の危機に気を逸らしてしまうルベル。

実はそれこそトレスマジアの狙いだった。

 

「今!」

『あっ!やべっ!?』

 

ルベルの注意が逸れる瞬間を待ち続けていたベーゼが、ついにその綻んだ縛りを破り解き放たれた。

エノルミータ側と距離を取るマゼンタの側に降り立ち、そこにフラついた様子のサルファも戻って来る。

 

「二人とも、ありがとう...!」

「作戦成功、やな...っ」

「やっぱり辛そう!無茶しないでって言ったのに...!」

 

傷だらけのサルファを治療しようとするマゼンタだが、搔き乱されたエノルミータ側もいつの間にか一箇所に集合していた。

 

「わりぃ!ベーゼに逃げられた!」

「何やってんのよばかルベル!」

「ケンカはダメなのだわ。」

「くっそぉ~...きもちわるっ...うぷっ」

「ちょ!?吐かないでよ!?」

「やってる場合か!こうなったら"あれ"でいくしかねェ!」

「ぶちかますのだわっ!」

 

既に満身創痍の両陣営。

これ以上長引くことをお互いが望まない状態となっていた。

先に動いたのはエノルミータ。

ルベル本体はロコの影に一体化しその身体を纏わり付き、分身たちは一斉にヲタ芸を開始。

ロボ子は四肢と頭を分離させてエネルギーを射出口にチャージ。

レオもまた自慢のクローアームに壊れんばかりの魔力を溜め始めた。

 

「...!来るみたいだよ!」

「サルファちゃん、いける...?」

「当たり前や...!いっちょかましたる...!」

 

"切り札"のぶつけ合いを覚悟したトレスマジアもまた、自らの得物を杖に戻し全霊の魔力を解放。

交差する杖を軸に三人の魔力を一体化させていく。

 

「おっちねトレスマジアぁぁ!!」

「くたばるんはそっちや!!」

「勝つのはロコたちよ!」

「絶対に負けない!負けたくないっ!!」

 

それぞれの想いを込めた全力の一撃。

これまでの関り合いが頭に浮かんでは消え、あらゆる感情が渦巻き更なる力へと変わっていく。

 

『『『『"エノルムカノン・マキシム"ぅぅぅーーッッ!!!』』』』

『『『"マジカル・ユナイト・バースト"ぉぉぉーーッッ!!!』』』

 

激突するエノルミータの合体技と、トレスマジアの合体技。

白と黒の煌めきが爆ぜ、爆炎が戦場全体を飲み込んでいった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「はえー。これ作品間違えてやがりませんの?」

「お腹、空いた...。」

「...。」

 

人知れず行われた正義と悪の一大決戦。

だがしかし、そこには唯一招かれた来賓の姿があった。

 

シオちゃんずの面々は目下で行われる戦闘を眺め、それぞれの感想を漏らす。

ガチ過ぎる戦闘にドン引きするパンタノペスカに、そもそも興味がないベルゼルガ。

ただ一人真剣に戦況を見守っていたイミタシオは、爆煙が晴れた先の景色を見留めニヤリと笑ってみせる。

 

「...見事だ。」

 

息を切らしながらもその場に立ち続けていたのはトレスマジアの三人だった。

対するエノルミータ陣営は皆一様に地面に倒れ伏し、戦闘不能となっていることが分かる。

 

「よくあの戦力差を覆しましたわねぇ。」

「それだけ真剣に対策を練っていたということだろう。始めにアリスを仕留めたことと言い、エノルミータへの理解が深い。」

「ベーゼ様の仕業ですわね。」

「ああ。だが、そういう意味では()()()()()()()だろうな。」

 

遠目からも疲労が見て取れるトレスマジア。

その姿を煽るように、パチパチと乾いた拍手が戦場に響いた。

 

「大健闘ねトレスマジア。まさか私の可愛い下僕がまとめて倒されてしまうなんて。あの子たちも、私の指示なしでよく頑張ったのだけれど。」

「次はあんたの番や...!」

 

余裕綽々のルシファアズールに対し、サルファは憤りを込めて突撃。

玉座ごとアズールを砕くべく拳を振り下ろす。

 

真化(ラ・ヴェリタ)。』

「っ...!」

 

しかしその一撃は玉座にも、アズールの柔肌にも触れることはなかった。

真化を果たしたアズールの刀に難なく受け止められ、拮抗する力に身動きも取ることが出来なくなる。

 

「く、そ...っ!」

「随分辛そうねサルファ。あまりにも軽くて力加減が大変よ?私はもっとお話していたのに。」

 

汗を流し苦悶の表情を浮かべるサルファに対し、アズールは愉快そうに笑い腰掛けたまま雑談を楽しむ余裕を見せる。

光の翼が消えかけているのを目にし、アズールはもう空いているもう片方の手でサルファの頬を撫でる。

 

「ほら。がぁんばれ、がぁんばれ...♥️」

「ナメ、んなぁ...っ!!」

 

挑発が効いたのか、再び輝きを強める翼に満足そうに頷き、今度は添えた手に氷の魔力を集中させる。

サルファは身を捩り身体を離そうとするが、時既に遅し。

 

「メディカルチェックといきましょうか。」

「があぁっ!?」

 

ゼロ距離から放たれる吹雪に吹き飛ばされ、マゼンタたちの遥か後方に消えるサルファ。

唖然とする二人を見下したまま、ゆっくりとアズールは玉座を降りていく。

 

「悪の総帥に立ち向かう力は、まだあなたたちに残っているのかしら?」

「やっとたどり着いたんだもん...!あたしたちは負けたりしないっ!」

 

怯むことなく槍を振るうマゼンタ。

しかし、激戦の疲労は確かにその身体に蓄積した。

魔力を込めて放たれる突きや凪払いも、明らかにスピードや威力が落ちている。

消耗がまったくないアズールにとっては、ただ風が吹いているに等しい些末事だった。

笑みを崩さず回避し時には受け止め、段々後退し疲労を深めるマゼンタを楽しげに見つめる。

 

「気持ちだけで押し切れると思っていて?」

「はぐぅ...!?」

 

魔法でも斬撃でもない、ただの膝蹴りが鳩尾に炸裂し、膝から崩れ落ち踞るマゼンタ。

止めを刺すことなく、アズールは次なる目標を見据えて歩み寄る。

 

「マゼンタもサルファも、気力体力共に限界じゃない。あなたは、どう?ベーゼ。私をあまりガッカリさせないでね?」

「っ...!」

 

仲間たちの仕返しをすべくアズールに斬りかかるベーゼ。

二人の時とは違い刀と剣が激しくぶつかり合い、空間を金属の弾ける音が支配する。

やはり深化の力は強い。

そう思ってしまうのは端から見ればの話だ。

本人たちにしか分からない、()()()()()()()()()()善戦ではないという現実。

 

「もう使えないのね、能力が。」

「それでも私は...!」

 

そう。

既に希望の魔法使い(ホープフル・ウィザード)の能力を扱うだけの魔力がベーゼには残っていなかった。

これはある意味でエノルミータ側の作戦。

彼女たちもまた、勝利の為に自らの身を犠牲にしていたのだ。

トレスマジアが簡単に倒される相手でないことを承知で、アズールに届くまでにいかに"消耗させるか"を軸に戦いを組み立てていた。

数を一気に減らしたとはいえ、ベーゼは力を十全に発揮出来ず残り二人は風前の灯火。

戦況がどちらに傾いているかは明白だった。

 

「まだや...まだ、終わらん...!」

「ふふっ。あの子たちと私では訳が違うの。」

「アズールちゃんが一番強いのなんて、そんなのあたしだって分かってるよ...!」

「いいえ。分かっていないわ。私とあの子たちにいったい何の差があるのか。それはね?」

 

満足に動かない身体を無理矢理に駆使し三人でアズールと切り結ぶトレスマジア。

強大な壁であるアズールを侮っていたわけではない。

ただ宿敵たちが余力を残せる相手ではなかっただけ。

だが、それでも。

それでも正義の味方が負けるわけにはいかない。

使命感に奮い立つ彼女たちの攻撃を受け止め弾く度、アズールの刃はより鋭く、強くその動きを変えていく。

 

「私はね?あなたたちが大好きで、大好きで大好きで大好きでぇ!!愛しているのぉ...!!"深化(ラ・イデアーレ)"!」

「「「っ!?」」」

 

アズールから放たれる、愛の告白にして絶望の言の葉。

闇を放ちその姿を真のエノルミータ総帥へと変じたルシファアズールが、ついにその姿をトレスマジアの前に顕現させた。

 

「"絶対隷奴女帝(アブソリュート・エンプレス)"。"まずは感想を聞こうかしら?"♥️」

「ちゃんと服着てよぉ!!///」

「これみよがしに見せつけはるなぁ羨ましいっ!!」

「好き!可愛い!えろい!結婚したぁぁい!!///」

 

シリアスぶち壊しで素直な感想を口にするトレスマジア。

喋った後に一斉に困惑と羞恥に苛まれる彼女たちだが、これが絶対隷奴女帝(アブソリュート・エンプレス)の絶対遵守能力だった。

『コキュートス・ベーゼ』、"氷獄の接吻"と名付けられたそれは相手をアズールの思いのままに操ってしまう凄まじいチート能力。

しかも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というおまけ付き。

彼女の憧れであるトレスマジアにとって、致命傷と言えるまでに特効の能力であった。

 

「ふふっ、期待通りの反応ね。じゃあ次は..."動くな"。」

「なっ...」

「動け、へんっ...」

「どう、して...」

 

アズールの命令通り瞬きすら出来なくなり制止する三人。

動けない彼女たちを物色し、アズールはまず最初の獲物としてサルファを選択する。

 

「マジアサルファ。"私を愛しなさい"」

「っ!?...あ、アズール...うち、もう我慢出来へんっ...///」

 

怒りの表情から、恋する乙女の表情へ。

目の前に迫るアズールの色香に魅了され、サルファはモジモジと身を捩りアズールに愛撫をねだる。

 

「可愛いわ、サルファ。あなたもまた真の愛を知り、ヒロインとして成長してきた女の子。あぁ、愛おしい。あなたの純粋で一途な気持ちを、汚れを知らない身体を。私は今好きに味わって、蹂躙することが出来る...。」

「んっ...やぁっ...///」

 

サルファの身体に触れ、耳元で甘く囁き。

その白い首筋に舌を這わせる。

快感に溺れるサルファの姿に、一人は頬を赤らめ目を逸らそうとし、もう一人は鼻息荒くガン見していた。

最早サルファには1ミリの抵抗も叶わない。

 

「"ゆっくりお休みなさい"。」

「...///」

「サルファ...!?」

 

ガクリとその場に倒れ伏し、その姿が通常の魔法少女衣装へと戻ってしまう。

完全に屈服させたサルファを眠らせ、戦闘不能に陥らせたアズール。

舌舐りと共に次なる獲物へと向かう。

 

「マジアマゼンタ。あなたは、そう。純粋無垢、慈愛に満ちながらも立ち向かう勇気も併せ持つ、真の魔法少女があなたよ。そんなあなたを私は心から尊敬し、愛している。」

「アズール、ちゃん...あたし、は!」

「"私をママだと思って甘えなさい"」

「ばぶぅ!まま、ちゅきぃ!」

「ぶっ!?///」

 

突然赤ちゃん言葉でアズールの胸に抱き着くマゼンタ。

あまりのシリアスブレイカー振りに吹き出すベーゼ。

断っておくが、これは一応善と悪との最終決戦である。

マゼンタやサルファも、出来ることならこんな痴態は晒したくはなかった。

 

「がんばり屋さんなあなたには、癒しと甘い夢こそが抗いようのない毒になるわ。」

「まんま、おっぱい。」

「ふふっ、おねだりが上手な子ね。いっぱいちゅーちゅーして、いっぱいお昼寝しましょうね。」

「ちゅ...ちゅー。」

 

衣装をはだけさせ露出したアズールの乳首に吸い付く赤ちゃん。もといマゼンタ。

頬を染めながら本当に母乳を与えているような素振りのアズールに、『魔法少女の尊厳がっ!許せないっ!酷いっ!私だって吸いたiってそうじゃなくてぇ!?』と人知れず葛藤するベーゼ。

(気持ちだけ)お腹いっぱいになったマゼンタは、やはり赤ん坊のように眠りに落ち。

凛々しい真化姿を失って、その場に倒れ込んでしまった。

 

「最後は、あなたよ。」

「あ、アズール...っ///」

 

マゼンタとサルファを失い、独りアズールの接近を待つしかない悪の名を持つ魔法少女。

どうにかしなくてはならない焦りと、自分はいったい何をさせられるのだろうという期待。

魔法少女としての責任感とうてなとしての欲求に板挟みとなり、ベーゼの呼吸は荒くなって視線もかすかに震えていた。

 

「ベーゼ...あぁ、ベーゼ!私はあなたが好き!何よりも愛してるっ!今すぐあなたと繋がりたい愛し合いたい!!あなたを想うだけで私イっちゃいそうよ!そのくらい好きで好きでたまらないっ!!」

「だ、め...!言わないでそんな、私...嬉しく、なっちゃうから...!///」

 

アズールは命令をしなかった。

ただ自身の想いを吐き出し、動けないベーゼを強く抱き締める。

だがそれで十分だった。

この世で最も抗い難い誘惑に、ベーゼの心は今にも折れそうになる。

 

「私の力はね?相手を好きになればなる程効果が増すの。だから、あなただけは絶対に私に抗うことが出来ない。今あなたを苦しめ、その信念を捨てさせようとしている呪いこそ、私の愛。辛くて、気持ちよくて。頭がおかしくなりそうでしょう?」

「っ...ハァ...ハァ...っ///」

 

声、感触、温かさ。全てを間近から届かせて脳を麻痺させていく愛。

興奮を抑えられずその手をアズールの豊かな胸に伸ばすベーゼ。

 

「んっ...いいわ、ベーゼ。もう正義なんてどうでもいいでしょ?私と、気持ちよくなりましょう?あなたのいるべき場所に、私の隣に立って。悪に溺れ、一生愛し合いましょう...///」

 

ベーゼの愛撫に興奮したアズールが、最後の誘惑を彼女の耳に囁く。

どんどん近付いていく二人の唇。

吐息を吸い合う距離で見つめ合い、潤んだ瞳にお互いを映す。

最初から勝てるわけがなかった。

二人はもう、確かに愛し合っていたのだから。

あこがれをも凌駕する愛に、ベーゼはついに屈した。

()()()()()()()()()()()()

 

「!...ベーゼ?」

「......ダメ、だよ。私は、こんなんじゃ...こんなの、あなたが望まない...!」

 

唇が触れ合う直前。

ベーゼの腕がアズールの肩を掴み、密着していたその身体を離す。

目を見開いて驚愕するアズールに、ベーゼを苦しげに、しかし確固たる決意でその最大の誘惑をはね除けてみせた。

 

「なっ...どうして!?」

「アズールの言った通りなら、私は絶対に勝てないはず。でも、私は今こうしてあなたを拒絶してる。なら、答えはひとつ。()()()()()()()()()()()()()()()()。魔法少女を、あこがれを忘れた私なんて好きじゃないってことなんだ...!」

「っ!?」

 

絶対遵守の愛も、本人が真に願うからこそ効力を発揮するモノ。

その僅かな綻びにベーゼは気付いていた。

アズールが憧れ、愛しているのはベーゼらしいベーゼ。

スケベでドSだけど何よりも魔法少女が好きで、何故魔法少女が素晴らしいかを理解している彼女だからこそ、アズールはベーゼにフォーリンラブなのだ。

そんなアズールの愛を裏切ることなどベーゼに出来るわけがない。

それこそが絶対遵守。

守るべき愛だと、ベーゼは知っていた。

 

「私はあなたに勝つ!勝って、本物の魔法少女を証明する!あなたを、絶対に私のモノにする!隣に来るのはアズールの方だよっ!」

「うて、な...。」

 

七色に輝く剣を手に"告白返し"。

完全に復活したマジアベーゼの気迫に圧倒され、アズールは思わずその名前を呟く。

 

「さあ、決着を着けよう!エノルミータ総帥っ!ルシファ、アズール!!」

「...ふ、フフッ...アハハッ!さいっこーよマジアベーゼ!!私やっぱり、あなたが大好きでしょうがないみたいっ!!」

 

輝き迸る虹色の魔力を剣に集中させるベーゼに対し、アズールは歓喜の声を上げて闇の魔力を絶対零度のエネルギーへと変換する。

互いの瞳と頬に浮かぶ無数の星は、二人のフルパワーが解き放たれようとしている証だった。

 

「私のモノになりなさいっ!!マジアベーゼぇぇぇ!!!」

「魔法少女は負けないっ!勝ったら本番えっちだやったあぁぁぁ!!!!」

 

正義も悪も、憧れも欲望も何もかもを込めた決着の一撃。

虹色の極光と冷たく美しい闇はぶつかり合い、拮抗し。

扱う者の願いに応えるように、光が闇を飲み込んでいくのであった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「ハァっ...ハァっ...」

 

まるで最初から平地であったかのように木々が吹き飛んだ戦場で、ただ一人立つ者がいた。

魔法少女、マジアベーゼ。

すでにエネルギーを使い果たし、その姿は通常の魔法少女衣装に戻っている。

維持するので精一杯とはいえ、彼女は確かにこの決闘の勝者である。

ベーゼは足を引き摺りながら、倒れ伏す自らが打倒した宿敵に近付く。

 

「はぁ...完敗ね...。」

 

エノルミータ総帥、ルシファアズールは何とか変身を維持しながらも、身体を動かす様子がない。

動けないというのが正しいか。

自らを覗き込むベーゼが視界に映り込み、彼女はどこか憑き物が取れたような、スッキリとした表情で敗北を認めた。

 

「だ、大丈夫...?」

「あなたがやったんじゃない。疲れてるだけ、死んだりしないわ。」

「そっか。...ねぇ、アズール。」

「何かしら?」

「私、魔法少女だったかな?」

「......ええ。ちゃんと、魔法少女よ。」

 

微笑みながら差し出された手を握り、ゆっくりと身体を起こす。

これまでの色々なことが思い起こされるようで、この一言二言には言葉以上の想いが込められていた。

 

今日、ついに悪の組織エノルミータは打倒された。

彼女たちの永遠に続くかと思われた引っ張り合いも、これで最後。

 

「私たちエノルミータは、あなたたちトレスマジアに降ふ」

「アズール!っ!?」

「!......ベーゼ...?」

 

これで全て、終わったはずだった。

アズールの背後から放たれた、真っ黒な闇の魔力。

気付くのが早かったベーゼが咄嗟にアズールを庇い、弾丸はベーゼに直撃。

そのダメージで変身が解け、うてなの姿に戻ってしまった。

 

「うてな!?どうして...誰が!?」

「ぅっ...ああぁぁぁぁ!?!?」

 

駆け寄るアズールだったが、突如うてなから先程の弾丸と同じ色の魔力が噴出。

恐ろしい勢いでその身体を包み塗りたくり、球体上の繭を形成する。

わけも分からず狼狽するアズール。

そんな彼女の頭上に、"元凶"が現れた。

 

「いやぁ、我ながら上手いこと出来ましたね!ベーゼさんなら絶対にあなたを庇ってくれると信じてましたよ!」

「ヴァー、ツ...!」

「お久しぶりですね、アズール!」

 

宙に漂う真っ白なぬいぐるみ。

ヴァーツは初対面時とまったく変わらない笑顔のまま、アズールへ挨拶をする。

今すぐに八つ裂きにしてしまいたい。

そんな衝動があっても、今のアズールには戦う力すら満足にない。

怒りと焦り、不安を抑え冷静になろうとする程に頭が真っ白になっていく。

 

「無事トレスマジアの勝利に終わったようで、僕としても非常に鼻が高いです。それでは、敗北した悪者にはさっさと退場してもらいましょうか。」

「っ!?」

 

どの口が言うのかと突っ込む隙さえ与えず、アズールに向けて更に強力な魔力弾を発射。

身動きも出来ずそのまま直撃すると思われたそれは、彼女の目の前で"大剣"に掻き消された。

 

「宿敵同士の戦いに水を差すとは、騎士としては見過ごせんな。」

「イミタシオ...?」

「シオちゃんかっこいい...♥️」

「エロのないキャラ退場とか誰も得しませんわ。アズール様は逸材なのだから、もっと丁重に扱ってくださいまし。」

 

戦いを見守っていたシオちゃんズの介入があり、アズールは何とかその命を繋ぐ。

ヴァーツはイミタシオを視界に収めると、その笑顔を真顔に変えて幾分か不機嫌そうな声を出す。

 

「またあなたですか。邪魔なんですよね、いつもいつも。」

「いつもいつも私の守ろうとするモノを狙うのが悪い。マスコットならもう少し言葉を選べよ白いの。」

 

ヴァーツの憎まれ口に怯まないイミタシオ。

煽り返しながらも、大剣を構える姿勢は崩さない。

 

「まあ、いいでしょう。順番が前後するだけですから。」

「来るぞ二人とも!」

 

弾丸がいくつも精製され、イミタシオたち目掛けて乱射される。

イミタシオは魔法殺しの大剣で先程と同じく弾丸を消し去ろうとするが、それが()()()()()()()()むしろ確かな重さを持って押し返してきた。

 

「なに...!?」

「シスタにあの力を与えたのは誰だと思いますか?」

「今までのはわざとだったのか...!」

 

魔法ではなく、呪いの弾丸。

イミタシオが形態を使い分けなければ対応出来ないことを理解してのフェイント。

雨のように降り注ぐ無尽蔵のそれを、必死にシオちゃんズは防ごうとする。

本当なら逃げるべき状況だが、動けないアズールを守る為に回避を選択することは出来なかった。

パンタノペスカとベルゼルガの土と血の壁も耐えきれず崩れ落ち、抜け出した弾丸は容赦なく彼女たちの身体を傷つけていく。

 

「ごめ...シオ、ちゃ...っ」

「無念、ですの...」

「ペスカ、ベルゼルガ...!」

 

最初にベルゼルガが倒れ、すぐにパンタノペスカも後を追う。

ただ一人残されたイミタシオはその鎧を破壊されながら仲間たちとアズールを守ろうとするも、全てを捌き切れず仲間たちは倒れながら更に傷つく形となってしまう。

絶え間無く放たれる攻撃に、真化している暇もない。

 

「逃げてイミタシオ!このままじゃあなたたちが...!」

「うるさい!お前には生きていてもらわねば困る!私はあの子に、そう誓ったんだ...!」

 

彼女の目的。

失った妹へ奇跡を譲渡すること。

その方法は未だに分からないが、奇跡を掴んだ小夜には幸せでいて欲しい。

いつしか妹と重ねて見てしまっていた小夜を失うのは、今のイミタシオにとって同じ苦しみを再び味わうことと同義だったのだ。

アズールの言葉を遮り、イミタシオは尚も剣を振るい続ける。

しかし、それにも限界が来てしまった。

 

「ぐっ...!?」

 

バギンッ!と派手な音を立て、魔法殺しの大剣が砕け折れる。

がら空きになった身体に弾丸が直撃し、ついにイミタシオもその場に倒れ込んでしまった。

 

「ぁ、あっ...!」

「呆気ない最後でしたね。偽物の騎士では何も守れないということでしょう。」

 

動かなくなったシオちゃんズから興味をなくし、ヴァーツは再びアズールへ照準を合わせる。

シオちゃんズに向けたのと変わりない、あまりにもオーバーキルな数の弾。

一斉に放たれるそれに、今度こそ終わりを覚悟するアズール。

 

「させるかぁ...!!」

「ん...!」

 

それを救ったのは、トレスマジアに敗北し気絶していたはずのエノルミータの面々だった。

既に真化も維持出来ない状態で、無理矢理に魔力を拡げ障壁を作り出す。

 

「気張れよおまえらぁ~...!!」

「ロコを誰だと思ってんのよ...!」

「ホントに疲れる職場だぜエノルミータはよォ...!」

「なのだわ...!!」

「みんな!?ダメよ、やめてっ!やめなさいっ!!」

 

みるみる衣装が消えていく仲間たちの後ろ姿。

魔力がなくなった状態で攻撃を喰らえば命にも関わる。

自身より彼女たちを案ずるアズールの命令を、けれど彼女たちは聞かない。

アズールが逆の立場ならば、きっと同じことをする。

そんな彼女に呆れながら、でもそんな彼女が好きだから。

最早悪の組織ではなくなっても、恋人として、友だちとして、家族として。大切なモノを守りたい。

想いの力だけで盾となり続け、最後の弾丸を受け切った時。

全員が意識を失い、元の少女の姿に戻ってしまっていた。

 

「死に損ないが...。」

「させないっ!きゃあっ!?」

 

生身の身体を貫こうとした一撃を、アズールはその身を盾として防ぐ。

ついに変身を維持できなくなる小夜。

衝撃でトランスアイテムを手放してしまい、地面を何度か転がる。

 

「っ...。」

「小夜、ちゃん...?」

「!?...ぁ...。」

「嘘、やろ...?」

 

危機的状況下で、更に悪いことは続く。

マゼンタとサルファが目を覚ました。

エノルミータ全員が、その()()()()()()状況で。

ヴァーツによる地獄絵図に、大切な友だちが実はエノルミータだったという真実。

理解の追い付かない二人に、ゆっくりと魔の手が迫っていく。

 

「な、何!?」

「しまっ...!?」

 

動揺する二人の隙を突き、影から飛び出す二つの白い腕。

そのまま二人の胸を貫いたように見える腕だが、彼女たちの身体に外傷はない。

しかしその手にはある意味で命よりも肝要な、魔法少女の源であるトランスアイテムが握られていた。

 

「きゃあぁっ!?」

「あぐっ!?」

 

用済みとばかりに投げ捨てられるはるかと薫子。

状況を眺めるしかなかった小夜のトランスアイテムもまた、影から伸びる腕に掠め取られてしまっていた。

ハートが2つに星が1つ。

3つのトランスアイテムを手にしたヴァーツは、嬉々とした様子で三人を見下す。

 

「これが欲しかったんですよ。ついでに、あなたたちのアイテムも返してもらいますね?はるかさん、薫子さん。エノルミータ打倒、おめでとうございます!」

「ヴァーちゃん...!!」

「舐めんのもええ加減にせぇよあんた...!」

 

最大の煽りを飛ばし、ヴァーツは小夜のトランスアイテムをうてなが包まれた闇の繭へ投げ入れる。

次の瞬間、閃光がその繭から迸り。

中から溶け出すように溢れる"闇"。

いつか見た悪夢の再現。

闇が泥から、どんどん人の形を成していく。

そうして、呆然とする小夜たちの目の前に現れたのは。

 

「ふふ...うふふ。これは...とっても。とっても、気分がいいですねぇ。」

 

小夜のよく知る、()()()()()()()姿()()()()マジアベーゼだった。

 

――――――――――――――――――――――

 

◼️□Next episode◼️□

 

「私にはもう、何も残っていないんだもの。」

 




何故今章がトレスマジア編なのか、それは次回分かると思います。
投稿頻度ですが、ぶっちゃけ月一ペースぐらいで考えて頂ければ。
モチベが最早「完結させないとキャラが可哀想。」「自分で続き見たい。」という自己満になっているので、気が向いた時に執筆するペースとしたいです。
エタらないことこそジャスティスな方針となりますので、楽しみにしている方がいれば申し訳ないです。
原作も復活しないし、二期もまだだし。
ゆっくり長く楽しんで頂ければ幸いです。
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