魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~   作:月想

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「ロボ子なのだわ。でも実はマキナというお名前だったのだわ。」
「えぇ...。」
「姿も人間に出来るのだわ。」
「えぇ...ずる...。」
「おっぱいもあるのだわ。」
「しゅごい...。」

いつもご愛読ありがとうございます。
というわけで、ロボ子はマキナでした。
登場した時にそのくらいの設定出しとけこの(ry
まあしばらく彼女の出番はない(!?)ので考えます。
連載再開したし、この小説もいらんのでは?


第46話『繋結(コネクト)

「ふふ...うふふ。これは...とっても。とっても、気分がいいですねぇ。」

「ベー、ゼ...?」

 

闇の繭から生まれ出たその姿。

それは小夜のよく知る、本来のマジアベーゼに酷似していた。

愉快そうに口端をニヤリと歪め地上を見下す様子は、まさに漫画で見た悪そのもの。

しかも髪は長く伸び、力の象徴である星の模様もかなり多い。

所謂、"絶好調モード"に相違ない。

小夜にとっては見慣れながらも、もう見られるはずのない姿。

何故、どうして?という疑問に思考を支配されかけながら、何とか彼女は最愛にして最推しの人に絞り出すような声を上げる。

 

「ベーゼ...?ど、どうしたの...なんで...大丈夫、なの...?ねぇ...ベーゼ!!」

「んん?......()()()()()()()()?」

「「!?」」

「......は...?」

 

ただ音がしたから視線を向けてみた。

そんな毛ほども興味がないような声で、ベーゼは小夜に問い掛ける。

あり得ない。

ベーゼが、うてなが。

嘘でも小夜にそんなことを言うはずがない。

事態に困惑するはるかと薫子ですら、それが明らかな異常であると認識した。

目を見開き、気の抜けた声を発する小夜。

身体は震え、頭は理解を拒む。

嘘だ、嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ。

 

「嘘、よ...嘘、でしょ...?私、小夜よ...?ベーゼ、うてな...!!私、私は...!!」

「知りませんよあなたなんか。私が興味があるのは魔法少女だけですから。ただの有象無象なんてどうでもいいです。」

「っ...!?」

 

底冷えするような冷ややかな視線と、面倒そうな声音。

分かりたくなくても、分かってしまった。

最早ベーゼの、()()()()()()()()()()()()

今まで築いて来た絆や愛は、薄汚れた闇で塗り潰されたのだ。

もう、小夜の声はベーゼに届かない。

それだけで、小夜の心を砕くには十分だった。

涙を流し震えながら、その場に崩れ落ちてしまう。

 

「うんうん。上手くいったみたいですね。」

「ヴァーツさんですか。あなたの言いなりになるつもりはありませんが、今は気分がいいので感謝くらいして差し上げましょう。」

「それはどうも。感謝ならこちらもしていますよ。その証に()()()()()です。」

 

張り付いた笑顔でベーゼに近づき、ヴァーツは"支配の鞭(フルスタ・ドミネイト)"に手を翳す。

すると、大量の魔力を注がれたそれは長大かつ禍々しい漆黒に変化。

まるで獲物を探す蛇のように地面を這い進んでいく。

 

「これは...なるほど。そういうことですか。」

 

得心のいった様子のベーゼが鞭を強く握ると、這う速度は更に速くなりついにその毒牙の対象を見つけ出す。

 

「...!?だ、ダメ...!キウィ...!!」

「まずは、ひとつ。」

 

遅れて気付いた小夜はまたも呼び掛けることしか出来なかった。

鞭はピシャリと気絶したキウィを叩き、彼女をその邪悪な魔力で包んでいく。

キウィだけではない。

次はこりす。その次は真珠、ネモ、そしてロボ子。

小夜を除いたエノルミータ全員を闇が覆い、その身体がベーゼの元へ運ばれていく。

 

「さあ、目覚めなさい。私の可愛い可愛い、()()()()()()。」

 

キウィたちのトランスアイテムが黒い輝きを放ち、その主をヒロインの姿に変えていく。

だが、違う。

姿は今までと変わらないが、その身体から溢れる力はヒロインとはとても呼べない邪悪なもの。

真の"ヴィラン"として生まれ変わったレオパルトたちは、恍惚とした表情で彼女たちの新たな王に傅いた。

 

「ベーゼちゃぁん...早く、早く命令してぇ?アタシもう、ぜんぶぜーんぶ壊したくて殺したくてたまんなぁーい。」

「ふふっ。まだその時ではありません。破壊するに相応しいヒロインを見つけたら、その時は期待していますよ?」

「あっ...///」

 

ベーゼのペットに向けるような愛撫に頬を紅潮させるレオパルト。

そのうっとりとした様子に、最早言葉を交わさずとも彼女たちが変質してしまったことが分かった。

あまりの仕打ちに駆け寄ろうとするはるかだが、小夜はもう何も見えなくなった様子で項垂れている。

 

「もうここに用はありませんね。それではごきげんよう。ヴァーツさん。」

「はい。お疲れ様でした、ベーゼさん。」

「ま、待って!?」

「待ちぃやこら...!!」

 

はるかと薫子の言葉を無視し、ベーゼたち"エノルミータ"は開いたゲートの中へと順に消えていく。

 

黙って見送ることしか出来なかった、何よりも大切なモノたちの背中。

取り残されたヴァーツが視界に映り、砕けた小夜の心に唯一残る"怒り"が烈火の如く燃え上がる。

 

「ヴァーツ...お前...!おまえぇ!!みんなに!私の大切な人たちに!!何をしたのっ...!!」

「あるべき形へ戻しただけですよ。まあ、あなたにはもう関係ない話ですけど。」

 

憤怒の叫びもどこ吹く風。

ヴァーツは片手間に返事をしつつ、自身の身体から"目映い光"を世界に向けて放つ。

一瞬目が眩むが、小夜たちに異変は見られない。

 

「では、今までお疲れ様でした。はるかさん、薫子さん。これで本当にさよならですね。」

「待て言うとるやろこのぼろ雑巾!!」

「絶対...絶対に好きになんてさせないっ!あたしは!」

「あ。忘れるところでした。」

 

ベーゼと同じようにゲートへ消えようとするヴァーツ。

はるかたちの呼び掛けに一度応じたように見えたが。

振り向き様に、手に込めた魔力を一人の少女へと向ける。

 

「あなたは死んでください。邪魔ですから。」

「あほっ...!?」

「小夜ちゃあぁんっ!?」

「!......っ?」

 

無防備な小夜へと放たれた、必殺の一撃。

反応出来ず、恐怖から目を閉じる小夜。

しかし、襲って来るはずの痛みはなかった。

恐る恐る目を開ける彼女の頭上から、ポタポタと生ぬるい何かが垂れてくる。

 

「ぁ...あぁ...!?」

「こいつ、は...やらせ...ん...っ」

「いやあぁぁっ...!?」

 

ドサリと倒れ伏したのは、かつて小夜を害したはずのイミタシオ。

変身が解けてなおその身を盾とした、みち子だった。

 

「なんでっ...どうして...!?」

「おまえの...あね、なら...きっと...こう、した...っ」

「っ!?だからって...私なんかをっ!!」

 

身体に空いた孔から夥しい血が流れる。

小夜は必死に手で塞ごうとするが、みち子の顔からどんどん生気が失せていくのが分かった。

 

「またあなたですか。本当に...本当に邪魔ですね。」

「こんのっ...!!」

 

ぬいぐるみらしくない、不快に満ちた表情を浮かべるヴァーツ。

みち子ごと小夜をなきものにしようと魔力を貯めるが、その頬を薫子の投げつけた瓦礫が掠める。

 

「はぁ。あなたたちには感謝しているんです。僕に始末させないでくださいよ。」

「上等やちり紙っ...!変身せんでもあんたなんか○✕△□してっ!!」

 

沸点を振り切って激怒する薫子の罵詈雑言も、ヴァーツからすれば負け犬の遠吠え。

空いていた手を気怠そうに薫子たちに向ける。

絶体絶命の状況。

しかし、その僅かに稼いだ時間が分水嶺だった。

 

()()()()()()()()()()()()()。」

「!?」

 

突如真後ろに現れたヴァーツの知らないゲート。

そこから何本もの真っ黒な腕が伸び、ヴァーツのあらゆる場所を拘束した。

 

「しまっ、た...!ヴェナリータ...!?」

「相変わらず詰めが甘いね。ボクらに明確な差がないのはお前が一番分かっていたはずなのに。」

 

腕の主はヴァーツに瓜二つの黒いぬいぐるみ。

ヴェナリータはそのぽっかりと空いた口を裂けたように開き、笑った形に固定する。

初めて焦りを表すヴァーツを嗤いながら、ズルズルとゲートへの引き摺り込んでいく。

 

「ヴェナっ...?ヴェナ待って...!私!私はどうしたらっ...!?」

「...。」

 

みち子の血にまみれ、すがるようにヴェナへ呼び掛ける小夜。

余裕がないのか、ヴェナは答えることのないままヴァーツと共にゲートに入る。

入り口が小さくなり、その顔も僅かに見えるだけとなる。

 

「ヴェナぁぁ...!!」

「小夜。」

 

喉を潰す痛々しい叫びに、黄色く輝く眼がただ一言を返した。

 

「キミを信じるよ。」

 

次の瞬間、ゲートは二体のぬいぐるみを飲み込み、そこにはいつも通りの空が浮かぶ。

戦いの後に残ったのは、無力でしかない、ただのか弱い少女たちだけだった。

 

「信じる...?この...何もない、私を...?」

「小夜ちゃん...っ...薫子ちゃん、救急車!!」

「お、おうっ!」

 

――――――――――――――――――――――

 

夢を、見た。

とても、幸せな夢だ。

 

『さよちゃぁ~ん♥️ばぶぅ~♥️』

 

私の部屋。

私は疲れているのか、布団の中心ですやすやと寝息を立てて眠っていて。

そこにいつも通り、キウィが甘えて抱き着いてきた。

 

『ゲシッ!』

『いったぁ!?おめこりす何すんだアタシのぷりぷりフェイスにぃ!?』

『シッシッ。』

 

ベストポジションを取られたこりすがキウィに武力行使。

キウィを追い出して私の左隣に寝転がる。

人形モードのロボ子も一緒だ。

 

『ホント、あんたたちってバカ家族よね。』

『見てるアタシらはなんなんだよ。』

『そりゃああれじゃない?親戚。』

『宝くじ当たったら増えるポジかよ。』

 

それを冷やかす声は真珠とネモだろう。

内容とは裏腹に優しい声音から考えるに、苦笑いでもそれなりにほっこりしているのが分かる。

 

『小夜ちゃん、いつもお疲れ様。ゆっくり、休んでね?』

 

そして、右隣。

私を慮り、温かく柔らかな声で囁いてくれる。

添い寝をしているのは、うてなだ。

今日はみんながいるからか、スケベモードではないらしい。

優しい、本当に優しいいつものうてな。

 

『しゃあねぇな~。ちょい詰めろよこりす~。』

『スピー。』

『真珠もなんだか眠くなってきたんだけど。』

『座布団あるだろ?』

 

何気ない会話。

彼女たちらしい、心がぽかぽかする言葉。

いつの間にか当たり前になっていた奇跡。

 

『大好きだよ、小夜ちゃん。』

 

あまりにも幸せな日々。

幸せな光景。

 

だから、すぐに()()()()()()()()

 

「......。」

 

射し込んだ日差しが鬱陶しくて、つい目を覚ましてしまった。

視界にはいつもの天井。

左右を見る必要はない。

だって、みんなはもういないから。

 

「...。」

 

目が覚めたからと言って動く気にはならず、枕元にあるスマホを掴んで画面を眺める。

時刻は8時30分を過ぎたところ。

日付はあの"最悪の日"から、二日経ったことを示していた。

 

「......。」

 

画面に表示された着信履歴をスワイプで消去し、寝返りを打って布団にくるまる。

昨日も今日も、私はずっとこうしている。

食事が喉を通らない以外は、健全だと思う。

トイレや風呂を済ませられるだけまともだろう。

表情はずっと、自分で分かるくらい動いてないけれど。

 

「...。」

 

手持ち無沙汰で、スマホに保存された画像フォルダを開く。

ほとんどがみんなとの思い出のそこには、()()()()()()()()()()()()()楽しげに笑って映る、私やはるか、薫子の写真だけが残されていた。

 

私だって、バカじゃない。

その写真がいつ、どこで、誰と撮影したものなのかくらい覚えている。

うてなたちの、うてなたちと過ごした思い出だけが、綺麗にさっぱりと消されていた。

どういう仕組みなのかは知らない。

まるで、最初からすべてが夢だったかのように。

すべてが私の妄想だったと言わんばかりに、あらゆる痕跡が消し飛ばされていた。

 

一緒に撮った写真も、もらったプレゼントも。

いつかのぬくもりも。

今はもう、何もない。

 

「.....。」

 

はるかたちも、これにはもう気付いているのだろうか。

病院にいる時に気付いていればよかったと、少し後悔する。

 

そういえば、みち子たちは目を覚ましただろうか。

一命を取り留めたと聞いて安心した後、逃げるように病院からは離れてしまったから。

はるかからの連絡は、それ関連の連絡だったりするのかな。

 

着信を、返す気はない。

何を言われても、きっともうどうしようもない。

私の力も、仲間も、愛すらも。

全てを奪われてしまった。

私が水神小夜だろうが、それはもうどうでもいいことだ。

 

この私には、もう何も残っていないのだから。

 

――――――――――――――――――――――

 

『ごめんなさいがさいしょ。そしたら、ともだちになってあげる。』

 

「小夜ちゃん...。」

「はるか?...もしも~し?はるかぁ~?聞こえとる~?変やねぇ。もしかして、立ったまま寝とるんかなぁ~?...ってんなわけあるかい!」

「わあぁぁっ!?かおるこちゃゆすっ!揺すらないでぇ!?」

 

物思いに耽るはるかを無理矢理現実に引き戻す薫子。

平日の昼間にも関わらず、二人は学校ではなく水神神社を訪れていた。

比較的素行がいい二人には大変珍しい欠席ではあるが、今はそれどころではないというのが共通の結論だった。

この神社にいるのも、これからの対応について小夜と一度話しておきたかったからだ。

 

昨日は漸く正体を知ることとなった、シオちゃんズの容態を見守っていて時間が取れなかった。

合間の時間に電話やSNSでの連絡も試みたが、結局小夜が応じることはなかった。

 

二人も写真等の異変については気付いていたので、小夜の心中は察するに余りある。

だが、だからこそ話さなければならないと思ったのである。

気まずい気持ちもありつつ、意を決して小夜を訪ねて来たのだが。

 

「どないしたん?急にぼーっとしはって。」

「うん...このご神木、昔登って小夜ちゃんに怒られちゃったことがあって。」

「罰当たりな子やねぇ。というか、え?どこからどう登れたん...?」

「小夜ちゃんにはホントに、本当にたくさんのことを教えてもらったなぁ。」

「...幼なじみ言うより、お姉はんみたいやね。」

「あはは。あたし長女なんだけどねー。」

 

ふと立ち止まったのは思い出のご神木。

懐かしい気持ちに、今は少しピリリとした痛みのような感覚が被さってくる。

色々言いたいことはある。

でも、やっぱり彼女は昔から変わっていないなと。

そんな感想を抱いて、はるかはいよいよ小夜宅へ歩を進めることにした。

 

「あら?はるかちゃんに薫子ちゃん。学校、もう終わったの?」

「あ、えと。」

「共通の知人が事故に遭ってもうて、学校は午前で早退したんです。幸い大事ない様子でしたさかい、ついでに小夜はんのお見舞いもと。」

「それは大変だったのね。でも、お知り合いが無事でよかったわ。お見舞いありがとう。ちょっとあの子の様子を見てくるわね?」

 

小夜ママが小夜の部屋に向かったのを見計らって、はるかは小さく安堵のため息を吐く。

口が回る薫子が一緒でよかった。

本当に頼れる相棒である。

ありがとうと小さく感謝しつつ、小夜ママが帰ってくるのを待つ。

しばらくすると、慌ただしい足音がこちらに向かっているのが分かった。

 

「ふ、二人ともごめんなさい。小夜ったら、いつの間にか部屋を抜け出していたみたいで...」

「え!?」

「体調が悪いと言うより、何かかなりショックなことがあったのか、ごはんもまともに食べてなくて。話を聞こうにもずっと塞ぎ込んでしまって...二人は、何か知ってる?」

「それは...」

「もし知っているなら、あの子の力になって欲しいの...迷惑かもしれないけど、仲の良い友達は()()()()()()()()()()()()。」

「そ、そんなこと...!」

「はるか。」

「っ...勿論、です。あたしたち、小夜ちゃんの親友ですから。ちょっと、心当たりを捜して来ますね?」

「本当にありがとう。小夜を、よろしくお願いします。」

 

娘想いの母親から出た言葉に違和感を感じる二人。

それをグッと飲み込み、いなくなった小夜を捜しに街へ出る。

 

そういえば、うてなの時も似たような流れになったはず。

意外と似た者同士なカップルだなと、無理矢理思考を明るめに保とうとする。

ファミレス、カラオケ、マジメイト。

思い出が詰まっているはずの場所を順に巡るが、小夜は一向に見つからない。

一縷の望みを託し最後に向かったのは、何の変哲もない、いつもの公園。

何度も戦いの舞台となり、ベーゼとアズールにとっても印象深い、普通であって普通ではない公園。

 

「いた...!」

 

果たして、ついに捜し人を見つけることが出来た。

少しやつれているようにも見えるが、あれは間違いなく水神小夜その人だ。

ブランコを揺らすでもなく腰掛け、ひたすらに下を見続けている。

 

「小夜、ちゃん...?」

「!......。」

 

また逃げられてしまうかもと恐る恐る声を掛けるはるか。

小夜は二人に気付き一旦は驚きの色を浮かべるが、すぐにまた俯いて何も答えることはしない。

最早逃げる気力すらないということだろうか?

 

「さ、捜したよ?小夜ちゃんのお母さんも心配してたし...出掛けるなら、ちゃんと言ってからじゃなきゃ!小夜ちゃんにしてはうっかりさんだねぇ!」

「責めに、来たの...?」

「え?」

 

躊躇いながら、何とかいつも通り接しようとするはるか。

漸く開かれた小夜の重い口から出たのは、あまりにも弱々しくか細い音だった。

 

「私が、嘘を吐いていたから...エノルミータだったから...許さないって、言いに来たの...?」

「ち、違うよ...あたしは...」

「...はぁ。今はそないなことええ。...いや、ちょっとはよかあらへんけど。そこで言い争ってる場合やあらへん。それはあんたにも分かるやろ?」

「...。」

 

言い淀むはるかの代わりに話し合いをしに来たと薫子は伝える。

友人が軒並み宿敵だったという衝撃に対する怒りや悲しみはないとは言わないが、それ以上に納得してしまう部分が多かった。

妙にうてながエノルミータに肩入れしていた理由も分かったし、何より各々の人物像が完全に一致していた。

悪いところもあれば、良いところもある。

変身していながらも、彼女たちの心が嘘を吐いていたようには思えなかった。

傷つけ合ったこともあれば、助け合ったこともある。

最早単純な敵同士ではないと、はるかと薫子は認識していたから。

だからこそ、今のこの状況を何とかしなくてはならない。

その想いが、二人を小夜の元へ向かわせたのだった。

 

「小夜ちゃんにも、小夜ちゃんの理由があったんだよね?...あたし、怒ってないよ。だから、今は一緒にどうすればみんなを助けられるかを考えようよ。」

「......考えるって、どうしようもないじゃない...。」

「は...?」

 

親友にある意味で裏切られていたにも関わらず、はるかはその純真さで以て小夜を責めないと宣言する。

今は一緒に困難に立ち向かおうと呼び掛ける。

 

しかし、小夜の口から漏れた声は、その心が完全に折れてしまったということを二人に嫌でも実感させた。

 

「私にはもう、何も残っていないんだもの。」

「っ!」

 

光を失った瞳に涙を溜め、無表情のまま小夜は全てを諦めていた。

そのあまりにらしくない姿は、二人に悲しみよりも先に怒りを抱かせる程のモノだった。

 

「あんたなぁ...!」

「ッ...!」

「っ...?!」

 

堪らず薫子がその弱りきった身体を掴み上げようとするが、それよりも先にパシン!という乾いた衝撃音が響いた。

頬を打たれた小夜は痛みに顔を歪めた後、戸惑った表情ではるかを見上げる。

 

「いい加減にしてよ...。」

「はる、か...?」

「いい加減にしてよっ...!!小夜ちゃんが、そんなこと...小夜ちゃんは、そんなこと絶対に言わないっ!!」

「っ!?」

 

激情のまま小夜の肩を掴み、ブランコから地面に力任せに押し倒す。

薫子はいきなりのはるかの行動に驚く様子も見せず、ただ黙って見守るつもりのようだ。

 

「何もないとか、どうしようもないとかっ!!そんなカッコ悪いこと小夜ちゃんが言うわけないっ!!うてなちゃんが、キウィちゃんがっ...あたしが大好きな小夜ちゃんがそんなこと言わないでよっ...!!」

 

幼なじみの小夜にとっても、このように感情のままに怒るはるかは見たことがなかった。

いつも優しく明るい彼女からは想像も付かない激怒。そして、泣き顔だった。

 

「あたしショックだった...!魔法少女になってくれなくてっ!それがエノルミータだったからで...!でも...アズールでも、小夜ちゃんだったから...っ!!アズールにたくさん助けてもらったよ...!慰めてくれて、勇気も分けてくれてっ!!悪者でも、優しい小夜ちゃんのままだって分かったからっ!!だから、あたし...やっぱり好きでよかったって、思えてたのにっ...!!」

「はる、か...」

 

気にしていないわけがなかった。

どれだけ取り繕ったところで、はるかの気持ちを裏切っていたことに変わりはない。

だが、はるかの知っているアズールは確かに"小夜だった"と納得出来たから。

アズールにも、小夜にも感謝していて、どちらも大好きだと思えたから。

だから辛くないと胸を張れたというのに。

 

「それがっ!今のその姿は何なの!?ちょっと変身出来なくなったくらいでっ!思い出をなかったことにされたくらいで!!そんな簡単に折れちゃうの!?アズールじゃなくたって!小夜ちゃんは小夜ちゃんでしょ!?みんなが大好きな小夜ちゃんは絶対に弱くなんかないっ!!諦めたりなんかしないっ!!みんなが覚えてなくても!大好きだって気持ちを小夜ちゃんはまだ覚えてるんでしょ!?だったら...!だったら...小夜ちゃんが諦めたら、本当に全部無くなっちゃうんだよっ...?」

「っ!...私、は...」

 

情けない姿を見せるんじゃないという叱責は、いつからか"諦めるな"という嘆願へ。

感極まって俯くはるかに、小夜は同じく涙に濡れた瞳を向ける。

そんな小夜の変化に気づいたのか、はるかは泣きじゃくった顔を拭い凛としたヒロインとしての表情を見せる。

 

「っ...思い出も、絆も。紡いできたモノなら、まだあたしたちの"ここ"にあるよ。無くなってなんかない。消させない!繋げてみせる!この想いがある限り、あたしは魔法少女マジアマゼンタなんだから...!」

 

かつて最も魔法少女らしいと評した親友。

この絶望的状況においても、心に一片の陰りはなく。

色を失った小夜の瞳に熱を宿す程に、その姿は希望の光を放って見えた。

 

「はるか、そこまでにしとき。二人とも泥だらけになってまうよ?」

「う、うん...。」

「...。」

 

頃合いを見て二人を助け起こす薫子。

穏やかな表情のまま、小夜に大して付け足すように言葉を紡ぐ。

 

「まあ、色々言いはったけど。うちら変身せなアカンのやったら、そもそも魔法少女になんてなってないんよ。うちも、はるかも、小夜は同じやって信じとる...。きっと、うてなもな。小夜は、どないしたい?」

「私...私は...」

 

寄り添うような薫子の言葉に、小夜は漸く本当の答えを絞り出そうとする。

 

その時だった。

 

「な、なにっ!?」

「駅前の方や...!」

 

()()()()()()()()()()()()

絵に描いたような、"悪"による蹂躙が始まった合図だった。

 

――――――――――――――――――――――

 

『グゲゲゲゲ!!』

「きゃあぁーーっ!?魔物よっ!?エノルミータよぉーっ!?」

「......何よ、これ...。」

 

地獄絵図、とまでは行かないが。

かつてこの世界で見たことがないような。

それこそ、作り物としか思えないような。

そんな圧倒的理不尽が、今私の目の前に広がっている。

 

街に溢れ返るヒト型の"魔物"。

破壊される見慣れた風景。

逃げ惑う罪の無い人たちは、皆一様に恐怖に染められた表情を浮かべている。

 

そして、最後に。

それを私にとっての地獄へと引き上げる一手が、あった。

 

「ひひっ!逃げてコケて赤ちゃんみたいに這いつくばってさぁ~!ばっかみたぁ~い!おもろぉ~!」

「クスクス...。」

「コワス、ノダワ。」

「ロコの歌を聴かないヤツなんて生きてる意味ないのよねー。」

「いい気分だぜェ...!」

 

魔物を暴れさせていたのは、私の最愛の仲間たちだった。

間違いはない。

見間違えるはずがない。

だから、どうしても信じたくなかった。

私の大切なみんなが、あんな風に。

あんな、心から気持ち悪いと思える嗤いを浮かべているなんて。

ベーゼだけがいないのが、せめてもの救いに思えた。

 

「大丈夫ですか!?早く、早く逃げてくださいっ!!」

 

「また会うたな雑魚棒人間っ...!!」

『ギャアァァー...!?』

 

悪夢のような状況に膝を折る私と違って、二人は今出来ることを必死に実行していた。

 

はるかは逃げ遅れた人の救出。

薫子はどこからか拝借した金属バットで弱い魔物を蹴散らしていく。

変身せずともヒロイン。

二人の言葉に一つの偽りもないことがよく分かる。

でも、私は...。

 

「お。ちっこいのはっけ~ん。」

「まま、どこ~...?」

「...っ?ま、まさか...!」

 

未だに足が動かない私の視界に、何かをふらふらと探す小さな女の子が映る。

見えたのは女の子だけじゃない。

その子に嬉々として()()()()()()、レオパルトの姿もだ。

 

「ばぁん。」

「危ないっ!」

「ちっ...んだよ邪魔すんなよ~。」

 

間一髪。

飛び込みながら女の子を抱え、レオの放った弾丸を何とか回避する。

回避すると言っても当たらなかっただけ。

今ので膝や腕を擦り剥いたし、危機的状況には何の変わりもない。

 

「な、なぁに...?」

「ここから早く離れて!お母さんは後で私が捜してあげるから...!」

「ほんと!?おねえちゃんみつけてくれる!?」

「ええ!だから今は走って...!」

「うんっ!」

 

レオパルトの射線に自分の身体を被せ、女の子を何とかその場から逃がそうとする。

駆け出させることは出来たが、子どもの足ではすぐに安全圏に抜け出すことは出来ない。

女の子を背に庇うようにして、私は変わり果ててしまったレオと向き合う。

 

「お願いレオっ!こんなことは止めてっ!あなたはこんな酷いことをする人じゃないわ...っ!」

「あぁ?気安く呼んでんじゃねーぞ雌ブタ。」

「づっ...!」

 

躊躇い無く放たれた銃弾が頬を掠め、鋭い痛みと共に傷口が灼熱を帯びる。

でも今は、身体よりも心の方が痛い。

その痛みを感じない為に、とにかく女の子の盾になることだけを意識する。

やけっぱちも上等だ。

もう何も残っていないなら、死んだって構わないはずだ。

何かを守れたというだけまだ意味もある。

そうやって、立ち上がったフリをする。

 

「アホがクズになったらいよいよ終わりやなぁ!!」

「んだよ、まだ増えんのかよ。」

 

反対側から投げられたバットを苦もなく撃ち落とすレオ。

投げつけた当人はそれでも怯むこと無く駆けつけると、私と並んで女の子の盾になってくれた。

 

「薫子...?」

「悪口でも何でも使うて気ぃ逸らすんや!後ははるかがあんじょうやってくれはる...!」

「はるか?」

 

チラリと後方を窺うと、女の子を抱き上げて走り出すはるかの姿が見えた。

二人がいれば、女の子一人を守るくらい出来るかもしれない。

その考えが甘かった。

 

「めんどっちぃなぁ。じゃあ、まとめて爆ぜろや...!」

「まずっ!?」

「薫子っ...!」

 

躊躇いもなければ、矜持もない。

頭に来ればまとめて吹き飛ばすだけ。

レオパルトの判断は早かった。

私たち目掛け、銃弾ではなく小型のミサイルを撃ち放つ。

当然、生身で受け切れる威力ではない。

はるかは咄嗟に女の子を庇い屈み込み、私は薫子の手を引いて少しでも爆撃から距離を取ろうとする。

 

一瞬の間を置いて、閃光。

その轟音に耳は音を拾えなくなり、身体は数m宙を舞った。

 

「かはっ...!?」

 

直撃は免れたものの、背中を強く打ってしまった。

叩きつけられたのがコンクリートではなく花壇で助かった。

痛みに耐えながらチカチカする視界を左右に向かわせて、はるかと薫子を捜す。

 

「くそ、が...っ」

「おねえちゃん、だいじょぶ...?」

「っ...へい、きだよっ...怪我は、ない...?」

 

二人ともボロボロだが、目に見えて深刻な傷は無さそうだ。

女の子も無事。

流石だはるか、ナイスはるか。

 

「ぁ...ぐっ...」

 

でも、もう限界だ。

ヒロインでない私たちの身体は傷ついて、もう立つことすら出来ない。

霞んでいく世界に、こんな簡単に人は死んでしまうのかと驚く。

こんなに自分は弱いのかと涙を流す。

これまでの幸せも、絆も、奇跡も。

全て失って最後に見る景色がこれなのか。

 

「レオ、は...っ」

「げっ。まだ生きてんのか~。ゴキブリじゃん、ぶりごき。」

「レオは...あなたは、こんなことしない...。」

「はぁ?」

「...だって、あなたが興味あるのは最高で最愛な1だけ。それ以外がどうなろうとどうでもいい。自分の一番に全てを使うのが、レオパルトなの...。」

「小夜、ちゃ、ん...?」

 

最早入るはずのない力が、腹の底からどんどん涌き出ていく。

 

この景色だけは、ダメだ。

だって、気持ち悪い。

キモすぎる。

私の理想のヒロインたちが、こんなにチープな悪役をやっている。

悲しいとか、絶望とか。

その前にもっと出すべき感情がある。

 

「アリスは可愛くないおもちゃなんて欲しがらないし、ロボ子は人間より人間らしいのが魅力じゃない...。」

「あんた...っ」

「なぁにブツブツ言って」

「ロコは歌を聴かない人には何がなんでも聴いてもらおうと食い下がるし、ルベルは悪役なんて柄じゃない常識人なの...!みんな、みーんなっ...!あり得ない似合ってない気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いっ!!」

「な、なんだぁ...?」

 

"怒り"だ。

この、素晴らしい芸術に泥を塗りたくるような行為。

キレなきゃダメだろ小夜。

こんなの全然可愛くない、えろくない。

こんなのまほあこじゃない!

エノルミータじゃない!!

 

「何があるべき姿よ...あなたには関係ないよ...!解釈違いにも程があるっ...!」

 

ヴァーツ!

あのくそったれぼろ布雑巾ヤロウ...!

絶対に許さない!

許してたまるかっ!

思い出がなくなったとか、もう変身出来ないとか!

そんなこともうどうでもいい!

とにかくムカつく!アイツは何も分かっていない!!

 

「やれるもんならやってみなさいよ...。」

「は、はぁ...?」

「殺せるもんなら殺してみろって言ってんのよ...!何度でも生まれ変わって、何度でも今のあなたたちを否定してあげる...!可愛くないえろくないヒロインじゃない!!そんなの許せるわけがない!!どんな手を使ってでも、私はあなたたちを取り戻す...!!必ず、絶対っ!!その為だったら...」

 

『ボクは、小夜挟みのはるか×小夜×薫子が一番好きだ。今からでも魔法少女になって、あの二人を堕としてくれると個人的には嬉しい。どうかな?』

 

かつて拒否した、あの大好きな変態の言葉を思い出す。

今更心変わりする気なんてない。

でも、もし。

もしそのチャンスが与えられたとしたら。

今の私は、きっと!

 

「魔法少女にだってなってやるわよ...っ!!」

 

「では、()()()()()()()()...?」

 

「...へ?」

 

カラカラと。

私の目と鼻の先に転がってくる、多少見慣れた"ハート型のブローチ"。

なんだか、すごく変身アイテムに似ている気がする。

沸騰した頭を急速冷凍され目をパチパチさせていると、先程の声の主がこちらに近付いて来た。

 

「いらないんですかぁ~?タイミングは完璧だったと思うのですがぁ。私、悲しいですぅ...。」

「あ、あなたまさか...!?」

「はるか!これ!?」

「うんっ!やれるってことだよね...!」

 

女性としては高い身長に、紫色の長い髪、涙を浮かべた垂れ目、特徴的な喋り方。

そしてついでに爆乳。

何故彼女が。と困惑している私の元に、同じようにトランスアイテムを渡されたらしいはるかたちがやって来る。

 

「話しは後や!今はあのアホをぶっ叩いて土下座させるんが先決や!!」

「薫子ちゃん私情ぉ!?...でも、行こう小夜ちゃん!あたしたちが一緒なら、きっと!」

「薫子、はるか...。ええ!いつかのお誘い、不承不承ながら受けさせてもらうわ!」

 

三人で円になってアイテムをかざし、それぞれの顔を見つめる。

泥だらけ、傷だらけで。

でもその表情は明るく、瞳は輝いてその奥には確かな炎が咲いている。

絶望の先で垂らされた希望の糸。

どんなにか細い糸でも、私には分かる。

はるかは、薫子は。私は!

この奇跡は、絶対に途切れたりしない!

 

「あ!この子お願いしますね!」

「え。」

「こんにちわぁ!」

「こ、こんにちはぁ~...。」

 

「「「"変身(トランスマジア)"っ!!」」」

 

――――――――――――――――――――――

 

「何よこの光は...!?」

 

普通の少女たちが突如放った目映い輝きに、悪役としては100点の台詞を返すロコムジカ。

その定番の反応に答えるように、小夜たちは強く変わった"自身の名"を高らかに謳い上げる。

 

「マジアマゼンタ!」

「マジアアズール!」

「マジアサルファ!」

「魔法少女トレスマジア!Vっ!2ぅーっ!!参上ぉぉっっ!!!」

 

今ここに復活を遂げた正義の使者。

その名も"魔法少女トレスマジアV2"。

背景爆破もちゃんと決まり、上々の滑り出しである。

 

「トレスマジアV2だとォ...!?」

「で、何よV2って。」

「二期始まったん?」

「だってだって!なんかこう、ブイツー!!って感じしない?!」

 

普段ならマゼンタの天然で済ませる二人だが、今日に限っては彼女の言いたいことが分かってしまった。

見慣れているはずの魔法少女の姿に"変化"があったからだ。

 

それぞれのカラーリングに()()()()()()()()()()

マゼンタは金色、アズールは銀、サルファは赤みがかった銅。

パッと見の印象はさほど変わらないものの、その身に宿る力が以前とは違うことを、何より本人たちが実感していた。

 

「そのトランスアイテムは、()()()()があなたたちの危機を知り、託したモノ。馴染むのに時間はかかりますがぁ、彼女たちの想いがそれを補ってくれるはずですぅ。」

「シャノン...。」

 

アズールは奇跡を託してくれた親友を想い目を伏せる。

経緯も理由も分からないが、今もどこかで自分を案じているのだろう。

その想いが、愛が。

傷ついたアズールの心を癒していく。

 

他二人もまた、救いの手を差し伸べてくれたかつての強敵に想いを馳せていた。

マゼンタは"最強"を身近に感じて誇らしげに胸を張り、

 

「え、うち余りもん...?」

 

サルファは接点のない振り分けに若干の気まずさを感じていた。

往々にしてイエロー枠はそんなもんである。

 

「って言うとる場合か!今はエノルミータや問題は!!」

「そうだったぁ!?」

「まずは掃除からかしら!」

 

戦場の真っ只中であったことを思い出し、トレスマジアは各々手近な魔物たちへ接近。

使い慣れた槍、剣、拳で以て瞬く間に殲滅していく。

 

「マゼンタスピアー!」

「アズールソード!」

「サルファナックル!」

「ぐぬぬ!いきなり出てきてあたしのかわいいザコジャコ共をよくもぉー!」

「あれそういう名前だったの?」

「可愛がってねェだろ、名前的に。」

 

10分とかからず街に蔓延る魔物たちを退治したトレスマジア。

後はお前たちだけだと言わんばかりにエノルミータ幹部の正面へと降り立つ。

 

「ウォーミングアップは終いや。」

「もうやめて!こんなの全然みんならしくないよ!」

「ムカつくムカつくムカつく~!!三人まとめてあたしが蜂の巣に」

 

『お待ちなさい、レオパルトさん。』

 

「っ!?」

 

その場の全員の脳に響く、酷く愉快そうな声。

アズールやレオパルトがその名前を呼ぶより先に、"彼女"は現れた。

 

「随分と面白いことになっていますねぇ。」

「ベー、ゼ...!」

「ベーゼちゃあぁん!♥️」

 

エノルミータの背後から、漆黒の翼をはためかせ舞い降りる悪魔。

悪の総帥となった、マジアベーゼが漸くその姿を見せたのだ。

想い人にして主人であるベーゼの登場に興奮するレオパルト。

だが、そんな従順な下僕に視線を送ることもなく、ベーゼはその目を険しい表情のアズールへと向けていた。

 

「いい......いい、ですね...」

「やっとご登場なのね...マジア、ベーゼ!!」

「いぃぃですねぇぇ!!私は待っていたのですあなたたちのような魔法少女を!!有象無象ではない本物の正義のヒロインをぉぉ!!」

 

恍惚とした表情で狂ったように叫ぶベーゼ。

トレスマジアはその身体から放たれる圧倒的魔力に、肌が全身が粟立つのを感じる。

 

「何の魅力もないパンピーを痛ぶるのは何一つ!全然!まったく!つまらないですから。街で暴れていればもしかしたらと思っていましたが、まさかこうも上手くいくとは。」

「っ...ベーゼはそんなことの為に街をこんなにしちゃったの?!なんでそんな酷いことが出来るようになっちゃったの?!」

「......とはいえ、極力手傷を負わせることはするなと命じていたはずですが。」

「ひっ...!?」

 

マゼンタの叫びが届いたというわけではないのだろう。

忠実な行動が出来なかった下僕たちに対し、ベーゼは凍ってしまいそうな程冷ややかな瞳で睨み付ける。

べた惚れであるはずのレオですら震える威圧感。

エノルミータ幹部は全員蛇に睨まれた蛙状態となる。

 

「私の躾不足は認めましょう。その点は謝罪致します。」

「謝罪やと...?謝るなら全部や、全部...!今のあんたの姿は見てられへん!そんなもん見せられて、こいつがどんだけ傷つくか!ホンマに分からんくなったんかベーゼ...!!」

 

言い訳されて更に気が立ったのか、友人の変わり果てた姿が辛かったのか。

サルファは俯いてしまったアズールを指してベーゼを糾弾する。

肩を震わせ顔を拭うアズール。

マゼンタとサルファはアズールを支えられるようにと両脇へ控えた。

仲間の悲壮な覚悟を受け止める準備は出来た。

大丈夫!私たちがついてるよ!

そんな想いを込め、その手をアズールの

 

「思ったよりベーゼちゃんだった...!どうしよう解釈一致寄りではないかしら...!?」

「「喜んどる場合かぁ!?!?」」

「はぁんっ!?///」

 

胸に思い切り叩き付けた。

気持ち良さそうな声で反応するアズールの顔は、紅潮して涎をも垂らしていた。

拭ってたのそれかい。

身内の恥と早とちりの恥で顔を赤らめつつ、二人は見事なツッコミを入れる。

一言一句一致。

マゼンタも分かってきたようだ。

 

「...ま、まあいいでしょう。私はあなたたちを歓迎しますよ、トレスマジアV2の皆さん。正義の味方として、是非私を楽しませてくださいね?」

「サルファ!あたしたち今すっごく気を遣われてない!?」

「分かっとるから言わんといて!恥ずいねんうちも...!///」

「胸が、ジンジンするわ...っ///」

 

冷や汗を浮かべつつ会話の軌道修正を図るベーゼ。

すっかりいつも通りの雰囲気を何とかシリアスに戻すべく、睨み合う両者。

 

「さぁ、遊んで差し上げなさい。私の可愛い下僕たちよ。」

「爆ぜろくそったれマジア!!」

「ダメっ!!」

 

開幕と同時に乱射される銃火器の嵐。

サルファは反射的にシールドを展開しようとするが、彼女に庇われたトラウマからか、マゼンタが思わず前に飛び出ていってしまう。

誰もフォローが出来ず、マゼンタに炸裂する爆撃。

 

「...って、あれ...?何とも、ない?」

「マゼンタそれは!?」

 

無惨な姿になるはずだったマゼンタを救ったのは、その手に生み出されたハート型の"盾"だった。

彼女とその仲間を守るように魔力の壁が生み出されている。

 

「あたし盾出せたのぉ!?」

「キャラ被りやねんけどぉ!?」

「きっとオールの想いがマゼンタに()()()()()()()()のよ!」

 

V2がV2足る所以を知る三人。

構わずレオパルトは攻撃を続け、そこにロコとロボ子の攻撃も加わるが、障壁はまったく崩れることなくトレスマジアを守り続ける。

 

「わはは!へーきへーき!二人ともこれ無敵バリアーだよバリアー!」

「小学生かしら。」

「せやけどこんままやと埒が明かへんっ!」

「あーもうなんなのあの硬いの!?何とかしなさいルベル!!」

『へいへい。』

 

ビクともしない盾に鼻高々のマゼンタ。

その油断を突くように、彼女たちの背後に悪の影が迫る。

 

『隙ありだぜェ!』

「しまっ!?てうぉぉっ!?!?」

『んだそりゃあ!?』

 

ルベルがサルファの影からクナイを突き刺そうとした瞬間、サルファの靴が()()()()()()()()()()()()()()、ロケット噴射で彼女の身体を宙に打ち上げた。

本人も相手も驚き動揺する程の勢いだ。

 

「あんガキ並みのじゃじゃ馬やね!せやけど...!」

「あいつこっち来てるわよ!?」

「げっ!?」

「ビッ!」

「クダクノダワ。」

 

だがサルファはそれで終わらなかった。

噴射を更に強め、一直線にエノルミータへと向かっている。

サルファナックルには既に必殺に至る量の魔力が込められていた。

 

「砕かれるんはそっちやぁぁ!!」

「!?」

「ぐべっ!?」

「ぎゃっ!?」

 

ぶつかり合うサルファナックルとロボ子。

しかし拮抗はせず、ロボ子はエノルミータを巻き込む弾丸となって後方へと吹き飛んだ。

 

『ロコぉ!?』

「どや!一網打尽や!」

「やったぁ!カッコいいよサルファ~!!」

「せ、せやろか...///」

「ふっ。トゥーピュアピュアガールね。」

 

幹部を蹴散らし再び合流するトレスマジア。

もう勝ったつもりの彼女たちを嘲笑うように、"真打ち"がその鞭を振るう。

 

「この揺れは...!?」

「これ、()()()()()()!?」

 

『ハアァァナアァァ~!!』

 

足に伝わる凄まじい震動。

それがベーゼの操る魔物の仕業だと、気付いた時には手遅れだった。

 

「くっ...!」

「しもうた...!?」

「いやぁ!?」

「ふふっ!いい悲鳴ですよ!トレスマジア!」

 

花が変化したと思われる巨大な魔物。

その蔓に絡め取られ、三人はその動きを完全に封じられてしまう。

 

興奮した様子で舌舐りするベーゼ。

よく見ると、ついでにエノルミータも一緒に捕まっていた。

 

「「なんでじゃあぁぁ!?!?」」

「あぁ、すみません。ちょっと今日はこう、鞭の調子がよくないようでして。」

「嘘ですよねベーゼ様ぁ!?」

「ベーゼちゃんのお仕置きさいこぉー!♥️」

「ムスゥ...。」

 

ベーゼは不満そうな幹部たちに構わず魔物へと命令。

善悪問わず、ヒロインたちのあんなとこやこんなところを締め上げていく。

 

「こ、のっ...!どこ、入ってん...!?///」

「ぁんっ!?だめっ...お股はぁ!?///」

「んっ!流石ねベーゼっ...!///」

 

「はぁ~すっごいえっち♥️///」

 

目の前で嬌声を上げるヒロインたち。

巨乳を揉むように縛られているアズールだが、ぶっちゃけ下手人のベーゼと同じくこの状況を楽しんでしまっていた。

端的に言うとネタとおもちゃ付き(ry

...という冗談はさておき。

マゼンタやサルファは動けず、自分もまたこのままだとぽっくり逝ってしまいかねない危機的状況。

もう少しこの様子を見ていたい気持ちを抑え、アズールは自身の内に眠る新たな力を探し当てる。

 

「燃え盛れ、()()!」

「何ですって...!?」

『バナアァァ!?』

 

アズールの魔力が炎へと変わり、自身を縛る蔓を焼き払う。

アルジェントの力を発現したアズールは、同じように蔓を燃やし仲間たちの解放に成功する。

 

「助かった...!」

「決めるわよ二人とも!」

「友情パワー爆発だね!!」

 

三人はステッキを合わせ、滾る魔力を一つに集中。

魔物ごとベーゼに照準を向ける。

 

 

「これで頭を冷やしなさい!」

「景気よく行こけ!」

「あたしたちの絆でっ!!」

「え、ちょっ。ロコたちまだ捕まっ」

 

「「「"マジカル・ユナイト・バースト"おぉぉっっ!!!!」」」

 

「「「いやあぁぁぁっっ!?!?」」」

「ムスゥ...。」

「ナノ、ダワ。」

「素晴らしい...!これが、これがトレスマジアV2の力...!!」

 

トレスマジアの合体技は輝く光の束となり、魔物を貫いてエノルミータを遥か彼方に吹き飛ばしていく。

幹部たち全員が悲鳴を上げる(不満そうにする)中、ベーゼだけは一人好戦的な笑みを隠せずにいた。

 

「次は...!次はこうは行きませんよ...!首を洗って待っていなさい!トレスマジアぁぁ!!」

 

お手本のような捨て台詞を残し、ベーゼはエノルミータと共に星になった。

たぶんその辺に墜落しているであろう。

 

「最後だけV2が抜けたわね。」

「何であないハマっとるん...?」

「魔法少女の時より生き生きしてたよね...。」

 

天職ってああいうのを言うんだろうかと複雑な気持ちを抱えつつ、三人は一旦の勝利を確信し変身を解除する。

 

「はるか、薫子。改めて、本当にごめんなさい。そして、ありがとう...。」

「小夜ちゃん...ううん!こっちこそ、戻ってきてくれてありがとう!」

「色々言いたいことはあるんやけど。ま、ファミレス1ヶ月奢りで許したるわ。」

「二人とも...ありがとう。でもファミレスってまさか毎日じゃないわよね?ねぇ...?」

 

心からの謝罪と感謝を伝える小夜。

正義のヒロインたちの器の大きさに改めて敵わないなと思いつつ、心に決めた一つの誓いを口にする。

 

「もう何があっても挫けない。どんな手を使ってでも、私は私の愛を取り戻すわ!」

「しゃあない、手伝ったるわ。」

「きっと大丈夫!あたしたちが一緒なら!」

 

最後に残った絆を噛み締め、小夜はまた一歩前へと踏み出す。

その足がいつか、無くしてしまった未来へ辿り着くことを信じて。

 

まずはシスタから話を聞かなくては。

子どもの相手に四苦八苦する彼女に声を掛けようとした三人の頭上に、いつの間にか()()()()が迫っていた。

 

「話は後ですわ!皆様、早くワタクシのところへ!」

「「「へ、ヘリコプター!?」」」

 

どこか見覚えのあるお嬢様然とした少女が、ヘリの窓から身を乗り出し、小夜たちを手招きしていた。

どうやら、ファミレスはしばらくお預けのようである。

 

「おねぇちゃんもままなのぉ?」

「順調に行けばですがぁ~...///」

 

――――――――――――――――――――――

 

◼️□Next episode◼️□

 

「ロコちゃん!あたしとアイドルバトルだよっ!!」

 




魔法少女にはならないと言ったな?
あれは嘘だ。
4部のテーマは『原点回帰』です。
一応はそうなのです。
それではまた来月で。

※11/27追記
はよ書け思とるでしょ?
まさかのインフルなう。今年の漢字は『病』です。
というわけで遅れます。すまない、すまない...。
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