魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~ 作:月想
今年も宜しくお願い致します。
エタらない限り...(小声)
色々とオリジナリティなこととシリアスなことを気にしてますが、わりと最初からですね。
諦めます←
では一発目、どうぞ。
「ちょっとくらいいいじゃない!」
「ダメです。何回言わせる気なんですの?」
バタバタと何に使っているのか分からない機材をメイドたちが操作し、何となく忙しそうでシリアスな雰囲気を醸し出している某秘密基地。
中心となる会議室では、年長者と駄々っ子による"押し問答"が繰り広げられていた。
「荷物を取ってすぐ戻ればいいでしょ!?なんで真珠が真珠の家に帰っちゃダメなのよ!?」
「ですから。
「ぁんですって!?」
ベーゼの縛りから真珠が解放され、丸々三日が経過した。
小夜歓喜の奪還第1号となった真珠だったが、身柄の安全を保証される代わりに一度の外出も許されない状況が続いていた。
つまり、
勿論基地内は設備が整っていて、生活にはまったくと言って不自由がない。
むしろ下手なホテルより住みやすいくらいで、無料でご馳走まで出てくる。
聞く側としては羨ましい身分なのだが、本人からすればそうとは限らない。
馴染みのない環境で基本的に一人にされ、学校に行けないばかりか家にまで帰れない始末。
真珠の精神的ストレスは他人には測れないレベルにまで達していた。
"ほんの少しでいいから家に帰して欲しい。"
そうごねた結果がこの口論だった。
「...はぁ。ひょこひょこと素直に帰って"待ってました!"とベーゼたちに捕まったら全てが水の泡になるんですのよ?あなた、小夜さんにまた同じ苦しみを与えるおつもり?」
「っ...それは...」
心梅とて意地悪で真珠を軟禁しているわけではない。
まあ正直、元ロード団である真珠のことは大嫌いなのだが。
それはそれ。
あくまでも"再洗脳"を防ぐ為の外出禁止指示だった。
小夜の名前を出され、口ごもる真珠。
「......というか、親が心配するじゃない...。」
「ノープロブレム。あなたのお母様には"アイドル強化合宿"に当選したとお話し、快諾を頂いておりますわ。"あの音痴を何とかしてくれ。"と泣きながら頼まれたくらいですの。」
「音痴じゃないし!?というかやるならやりなさいよ強化合宿望むところよお願いしまぁぁす!?」
「嫌ですわ。」
「ウソつき!けちぃ!金持ちぃー!!」
イジると途端に切れを増す芸人体質に呆れつつ、心梅はそのうんざりした目をモニターへ移す。
このバカに構っている場合ではない。
司令官としての勤めを果たさなくては。
なにせ今は、緊張感溢れる
――――――――――――――――――――
「んぶぅ~っ!?♥️///」
「アズールそれダメな顔ぉー!?!?」
緊張感、溢れてます。
ヒロイン的な意味で。
謎の触手モンスターにあちこちを縛られながら口まで塞がれ、アズールは子どもには到底見せられない表情で矯声を上げていた。
慣れ過ぎて別の心配に意識を割かれたマゼンタだったが、その隙を突かれてルベルブルーメの"影縫い"を許す。
すかさず浴びせられるミサイルの雨を、寸でのところでサルファが防いだ。
「っ...大丈夫かマゼンタ!?」
「ごめんサルファ...!でもアズールがっ!?」
「んむっ、ひぅ~っ!?♥️///」
「あれは平常運転やほっとき!!///」
「ふふっ...美しい。いいですねぇ、アズール。」
マゼンタとサルファを部下たちに任せ、マジアベーゼは自身の魔物に弄ばれるアズールの姿に恍惚の笑みを浮かべていた。
彼女の情けない表情と、ついさっきまで見せていた凛々しい姿が重なる。
綺麗なモノを壊したい。
そんな破滅的感情に身悶えする性分のベーゼからしても、何故かアズールだけは別格だった。
自分でもよく分からないこだわり、熱情。
少し冷めるような気がして、触手を今度はマゼンタたちにまで伸ばす。
「こないなもんっ!」
動けないマゼンタに代わりサルファが触手を殴り潰すものの、僅かに疎かになった注意が命取り。
ルベルが影を伸ばし、サルファまでまとめて動きを封じてしまった。
「ちぃっ...!?」
「サルファ!?」
「おっちねぇぇ!!」
ルベルごと爆破することも厭わず、レオパルトはミサイルに加えあらゆる銃火器による一斉掃射を行う。
守りに特化出来るはずのマゼンタも、間に合わなければ意味がない。
無防備なまま直撃を浴びる二人。
煙が晴れた先には、無惨に服を焼かれボロボロになった魔法少女の姿があった。
「呆気ないものですね、トレスマジア。」
「ぅっ...」
「ごふっ...!」
虫の息となった二人を触手で絡み取り、その憐れな姿に口端を歪める。
ベーゼは勝ちを確信したようで、既にその思考はこれからどのようにヒロインを辱しめるかで一杯になっていた。
真珠を奪還してからも、エノルミータの愉快的悪事は続いていた。
目的は勿論"トレスマジアを誘き寄せる為"で、トレスマジアとしてもそれは望むところだった。
倒しさえすれば元に戻せる。
単純明快な解決法に希望を見出だした三人にとって、まさにチャンスが増えるようなものだったのだから。
しかし、そう上手くはいかなかった。
トレスマジア側の思惑を知ってか知らずか、仲間が減るリスクを防ぐ為エノルミータの
必ず全員で行動し、戦闘時は必ず二人以上で相手をする。
今回ネロアリスが高みの見物を決め込んでいるのも、万が一の場合にすぐ援護を行う為だった。
人数で劣るトレスマジアにとって、これは非常に厄介。
結果として、"圧敗"と言える程のピンチに陥っているのだった。
「っ...そない、不安なん...?」
「はい?」
「悪の組織言うても、寂しがり屋さんなんやね...。」
「...ああ、ロコさんのことですか。」
"仲間を奪われ恐がっているのか。"
サルファの強がるだけの挑発に、ベーゼは素っ気ない声を返す。
「
「ベー、ゼ...!なんで、そんなっ...」
『あんな弱いヤツ、いない方がマシだろ。』
ベーゼの真珠への侮辱に抗議しようとするマゼンタ。
それに被せるように、影からルベルが顔を覗かせた。
「うるさいだけで何も出来ないバカ。昔から嫌いだったよ。清々するね、いなくなってくれて。」
「あんた...!」
「んむぅぅっ!!」
「アズール...?」
決してルベルからは出ないはずの、あまりに惨い拒絶の言葉。
傷を厭わず激怒するサルファたち。
しかし、それは先程までとは違うアズールの悲鳴に掻き消された。
快感に歪んでいた表情は険しいモノへと変化し、縛られていた身体に力を漲らせる。
右腕を強引に動かし、口に侵入した触手を力ずくで抜き出した。
「ごほっ!げほっ...ハァ、ハァ...。」
「ほう...。」
「...誰よ、あなた!」
「ハァ?名前なんざとっくに」
「違うわ。ルベルはね、絶対にロコを嫌いだなんて言わないのよ...。」
「何を知った風に…」
「よく知ってるの。それがあなたたちの素晴らしいところで、一番の輝きだったから。だから、今のあなたを私は認めない。これ以上黙ってられるもんですか。真化出来ないからってなんだってのよ。今すぐ終わりにしてやるわ。身内の恥を灌ぐのは、リーダーの仕事だもの。」
豹変したアズールにベーゼは瞳を輝かせ、レオパルトたちは言い知れぬ寒気を感じる。
ルベルも言い返そうとした口を噤んでしまった。
自身を散々弄んだ魔物を一瞬で粉砕し、アズールは怒り心頭の面持ちで着地する。
「またワケわかんないことをよぉー!」
恐れを振り切るようにアズールへ砲撃を浴びせようとするレオだったが、爆発音が木霊することはなかった。
覚えていないが故に、レオはまたしても同じミスを犯した。
『動けなきゃその偉そうな口も...!』
「やめなさいルベルブルーメ!」
『っ!?』
次策として影縫いを仕掛けようとするも、ベーゼはそれを制止。
次の瞬間にはルベルが近寄ろうとした範囲を厚い氷が覆っていた。
「それがあなたの本気ですか、マジアアズール...!」
「来なさい、エノルミータ!」
「ビシ...!」
「行くのだわ。」
興奮した様子のベーゼに合わせて、ネロアリスはロボ子を突撃させる。
光の刃と氷刃が幾度もぶつかり、美しい火花を散らす。
その光景はものすごくバトル物っぽく、とてもさっきまでの触手プレイと同じ人だとは思えなかった。
拮抗するアズールとロボ子。
痺れを切らしたアリスがぬいぐるみたちに奇襲を命じようとした、その時。
「...止めです。退きますよ、皆さん。」
ベーゼの口から出たのは退却命令。
困惑するトレスマジアを他所に、エノルミータの面々はスムーズに開かれたゲートに飛び込んでいく。
「待ちなさいベーゼ...!逃げるの?!」
「今日は十分楽しめました。またお会いしましょう。次はもっと激しく...ふふっ...」
舌舐りと捨て台詞を残し、ベーゼもまた姿を消した。
静寂に包まれる戦場。
残されたアズールは、またしても届かなかった手を悔しそうに見つめ、拳を固く握る。
打開策を見出だせないまま、今日も決戦は引き分けとなったのだった。
「あの~...アズール...?」
「どうしたのマゼンタ?」
「どうしたもこうしたも...はよこれなんとかせんかいっ!?///」
遠慮がちにかけられた声に振り向くと、そこには未だバッチリと触手モンスターに拘束された仲間たちの姿があった。
ベーゼのことなのでわざと魔物をそのままにしたのだろう。
最後の抵抗とばかりにマゼンタたちのありとあらゆるところをまさぐっている。
サルファに至っては触手に嫌いなタコを想起して、すっかり怯え切ってしまっている。
ボロボロなヒロインたちが恥辱と快楽に痙攣する光景。
そんな趣深い景色に、元エノルミータ総帥の評価はこの一言。
「流石ね、ベーゼ!」
「あんたやっぱクビやぁ!?///」
「んむごぉー!?♥️///」
――――――――――――――――――――
「ふぅ...何とか戻れたわね...。」
這う這うの体で基地まで戻って来た三人。
行きも帰りも飛行とはいえ、自力なのは変わらず多少の消耗はある。
加えて、今日はマジバトル的にもセクシーバトル的にも激戦だった。
三人共に疲れ切った様子なのも致し方がないことだ。
「くっ...うてな、キウィ...みんなごめんなさい。また助けられなか」
「謝るならこっちが先やろがぁっ!!」
「ごふっ!?」
シリアスに机を叩いて悔しがる小夜の腹に、薫子の見事なドロップキックが突き刺さる。
派手に倒れる小夜だが、数秒してムクリと平気そうに立ち上がった。
プロレスラー顔負けのキックといい、最近変身前から人間離れし始めている女子中学生たちである。
「何をするの薫子!愛をぶつけるなら二人きりの時にすべきではなくて?!///」
「うっさいわ変態っ!はよ助けんかったこともやけどあんた前半遊んではったやろ!?嬉しそうに声上げてからに...!」
「誤解よ!私はベーゼたちの動きを観察していたのであって、気持ちよかったのは不可抗力だわ!」
「一緒やぁ!?やっぱり喜んでるやん認めてはるやぁん!?」
大分開けっ広げにどうしようもない小夜に対して、薫子の怒りは有頂天状態。
ゲシゲシと小夜の尻を蹴り突ける様は芸人と言うより輩にしか見えなかったが、やられている小夜はどこか気持ち良さそうにしている。
"トレスマジアは正義の味方、女の子の憧れです。"
そう死んだ目で呟きながら、はるかは二人の仲裁に入る。
三人組の時には既に不健全でしたよね、とは言ってはいけない。
「ま、まあまあ。今日は小夜ちゃんのおかげで助かったわけだし。そもそもあたしがもっと早く真化しておけば、あんなピンチにはならなかったよ。ごめんね、二人とも。」
「っ...はるかは何でそない小夜ばっか...」
「薫子ちゃん?」
薫子の不満そうな表情に気付くも、当の本人はそれ以上口を開くことをしない。
気まずい沈黙が会議室を包む中、さっさと反省会をしてしまおうと心梅が場をまとめようとするが...。
「あんたたち何ふざけてんのよ...!真面目に戦ってないんじゃないの!?」
「真珠...?」
静寂を破ったのは心梅ではなく、苛立たしげに一部始終を見守っていた真珠だった。
普段とは違う声の張り様に、小夜は尋常でない雰囲気を感じ取る。
「はるかも薫子も、ほとんどがエノルミータだからって手抜いてんじゃないわよね!?助ける気がホントにあるわけ!?」
「あんなぁ...うてなもおるのにウチらがそないなことするわけないやろ。第一誰が真珠はんを助けたと思うて」
「一人だけ助けられても迷惑だってのよ...!」
「あんた...!」
「ま、待って薫子ちゃん!真珠ちゃんも落ち着いて!さっきはあんな話してたけど、みんなを助けたいのはホントだよ!小夜ちゃんだって辛いけど、頑張って普段通りにしてくれてるだけなの。真珠ちゃんが帰って来てくれた時の小夜ちゃんの反応、覚えてるでしょ...?」
「っ...」
ヒートアップする二人をはるかが嗜めるが、真珠は気まずそうにしながらも非を認める様子がない。
はるかの優しさを受け取った上で、小夜は沈鬱な表情で真珠に語りかける。
「大丈夫よ、はるか。...真珠、ごめんなさい。見ていたんでしょ?さっきの戦いを。
「あ...」
「そういうことかい...。」
二人が遅れて気付き、真珠はその質問に押し黙ることで応える。
最愛の人から告げられた、"嫌い"という全てを否定する言葉。
今のネモは正気じゃない、あんなことを言うはずがない。
分かっていても、ショックなことに変わりはなかった。
その上、今の真珠はただでさえ隔離生活で精神が荒れている状態。
ショックが重なり取り乱してしまっても、それは仕方のないことだと言える。
あくまでも自分に寄り添ってくれる小夜の優しさに幾分か罪悪感を感じたのか、真珠は泣き出しそうな顔で懇願を始める。
「真珠にも何か手伝わせて...!変身出来れば真珠がネモをっ」
「変身は出来ませんわ。それも何度も説明したでしょう?」
「っ...!」
トランスアイテムに確認された未知の"汚染"。
真珠自身からは祓われたそれは、未だ彼女のアイテムを蝕んでいる。
はるかが真化の力で解呪を試みたが、結果は失敗。
一人の力では祓い切れないというのが心梅たちの結論だった。
みち子たちが目覚めないのも同様の理由からだと考えられている。
汚染されたアイテムを使えば恐らく、またしても洗脳されてしまうのだろう。
そうでなくても悪影響があるとしか思えない。
だから、今の真珠はあくまでも一般人でいるしかない。
分かっていても頷けない現状が、真珠の心を苦しめ続けていた。
「真珠...ネモは必ず、私たちが救ってみせる。だからお願い。今は耐えて...。あなたがまたいなくなったら、私...」
「っ...分かってるわよ...分かってんのよそんなことっ...!」
「真珠!?」
小夜の顔には自分と同じ、大切なモノを奪われた悲しみが見て取れた。
だからこそ居たたまれなくなって、真珠は感情を爆発させその場から逃げ出してしまう。
呼び止める声も虚しく、会議室は再び重々しい空気に支配されてしまった。
――――――――――――――――――――
「何やってんのよ...これじゃホントにバたまじゃない...。」
逃げ出したとはいえ、この広い基地で真珠が一人になれる場所など1つしかない。
今は仮の"自室"となっている部屋のベッドで、膝を抱えて座るというテンプレートな落ち込み方をしていた。
よく考えずとも分かったはずだった。
はるかと薫子は超が付く程のお人好しで、エノルミータでさえ"友だち"だと思ってくれている。
小夜については言うまでもない。
単純な苦しみでは真珠の2倍。
うてなもキウィも、大切な居場所も失って。本人は語らない、トレスマジアになるまでのことなんて、どれだけ辛かったかも想像出来ない。
自分はそんな彼女たちを責めるような人間だったのか。
ガキだガキだと言われて来たことを思い出し、激しい自己嫌悪に襲われる。
「ネモっ...」
何で側にいないのかと、ついその名前を呟いてしまう。
気付けばいつも悪態を吐きながら、それでも側にいてくれた幼なじみ。
いつの間にか最愛の人になっていたその影が近くにないことを実感し、ポタポタと涙が溢れる。
情けない気持ちと寂しさが心を一杯にして、俯いたまま動けなくなる。
そうしてしばらく過ごしていると、暗かった部屋に突然光が満ちた。
つまり、
「だ!?誰よ勝手、に...?」
「失礼しますねぇ~。」
「シスタ!?というか、天花寺ホリィさんっ...!?」
泣きっ面のまま入口に吠えようとする真珠だったが、そこにいたのはシスタギガントこと天花寺ホリィ。
あの唯我独尊な真珠が唯一
「あのっ...えと...!?」
「畏まる真珠さんは新鮮ですねぇ~。」
シスタの正体については間接的にみち子から明かされていた為、既知の事実ではあるのだが。
"ロコムジカになる前から憧れていたアイドルが、実は今までタメ口聞いてた嘘泣きシスターでした。"
という事実は受け入れ難いというか、めちゃくちゃ失礼な態度をしていたので非常に気まずい。
故に今まで考えることを拒んでいたのである。
この基地内にいることも知っていたが、意識してホリィを避けていたわけだ。
そんな彼女が逃げようのない場所までやって来てしまった。
自信家でありながら小心者の真珠らしく、先ほどまでの落ち込み様を忘れ、どう弁解したものかと四苦八苦しているのだった。
「す、すみませんでしたっ...!」
「何がですかぁ?」
「何がってえっと...色々失礼なこと言ったり、というかタメ口だったし...」
「お気になさらず~。対等な仲間として接していただけですからぁ。」
「あの、ホントのホントにホリィさん、なんですよね...?」
「メイクが雑で分からないということならぁ、悲しいですねぇ~...。」
「違います違いますっ!ず、ずっとファンなんです...!」
「知ってますよぉ。よくアジトで話されていましたから~。」
「~っ!?///」
ホリィさんの魅力はうんたらかんたら。
この時はこういうパフォーマンスが云々。
歌声はこんなイメージで等々。
本人を前にしてなかなかのヲタク振りを発揮していたことを思い出す。
まさに大噴火。
露出でなく、まともな理由で真っ赤になった真珠は今やかなり貴重である。
このまま話していたいファン気分が抜けない中、僅かに生き延びているクレバーな部分が"用もなくあのホリィが自分を訪ねて来るわけがない"と思考。
とりあえず理由を聞くことを思い付いた。
「その...どうして...?」
「色々と、お困りのようでしたのでぇ。」
タイミング的に察せられることではあったが、やはり会議室でのあれこれを見られていたらしい。
あのホリィさんが心配してくれたというのはファン心理としては嬉しい限りなのだが、真珠は急速に心が冷え切っていくのを感じていた。
「......困ってたらなんだって言うんです。真珠のことはほっといてください...。」
「少し調子が出てきましたね~。」
心配されればネモが帰って来るのか。
俯いて八つ当たり気味に言い返す真珠に、ホリィは微笑んだまま。
真珠にはその笑顔が嘘なのかどうかも分からない。
ホリィはベッドの縁に座り、"こういうのは向いていないと思いますが。"と前置く。
「何も出来ないというのは、辛いですよねぇ。」
「...。」
「会いたくても会えず、助けたくても力がない。」
「何なんですか...」
「私も、同じです。」
「同じって...」
「私も、みち子様が苦しんでいるのに、何も出来ないんです。」
どこが同じなんだと怒鳴ることは出来なかった。
真珠の目には、本当に悔しそうな表情でスカートを握り込むホリィが映っていた。
シオちゃんズがまだ目を覚まさないことは知っている。
ホリィがみち子を付きっきり看病していることも。
自分が彼女の立場であれば、その胸中は聞く必要もないくらい理解出来る。
大切な人が目の前に見える分、ホリィの方が辛いかもしれないと思える程に。
「助ける力がないのは、悲しいです...。」
「そうですね...。」
「でも、望みはあります。小夜さんが約束してくれましたから...。」
「いざとなると、なんだかんだ頼りにはなりますよ、アイツ。」
「...だから、ずっと考えるんですぅ。みち子様が起きたら、何をして差し上げようかと~。」
「料理とか?」
「お恥ずかしながら、あまり得意ではありませんねぇ。」
「教えますよ、真珠でよかったら。」
共感から少し話しやすくなったのか、話題は恋人と何をしたいかというちょっとしたガールズトークへ。
何でもない会話に、二人は徐々に笑顔を取り戻していく。
「真珠さんは、ネモさんと何かしたいことはないんですかぁ?」
「うーん...幼なじみで、大体のことは一緒にやってるんで。今さらこれっていうのはあんまり。」
「羨ましい限りですねぇ。...本当に、あなたたちは仲が良くて。」
「えー、ケンカばっかりしてたじゃないですか。あの時って、特に変な感じだったし。」
「とても仲睦まじく見えましたよぉ。お互いを知っているからこそ、言えることもありますし~。」
「本人からするとケンカなんてしたくないですよ?一回ロードさまとしてみれば分かります。」
「ふふっ、ある意味のケンカなら経験済ですねぇ。」
ロード団だった二人がこうして素のまま恋ばなをしているだなんて、あの時からはとても想像出来ない。
久しぶりの楽しい時間を過ごし、真珠がすっかり調子を取り戻したところで。
「真珠さん、こちらを使ってくださぁい。」
「!...これ!?」
ホリィが差し出したのは、彼女が使っている星型の"トランスアイテム"だった。
「戦うことなら、まだ出来ますよぉ。諦めるのは、試してみてからでもいいんじゃないでしょうかぁ~。」
「っ...でも...」
確かにシスタのトランスアイテムなら汚染を受けていないし、真珠が使用しロコムジカになることも可能だろう。
さっきごねていた変身が可能になるにも関わらず、真珠はすぐにそれを取ろうとはしない。
"それも分かっていた"と言うように、ホリィはやはり微笑んだまま真珠の返答を待つ。
「...恐いんです。ネモが、真珠のこと嫌いって言いました...真珠が戦って、それでも元に戻らなかったら...?変になったのは、もしかして真珠で...ネモはずっと、本当は...そう思ったらっ...こわくて、こわく、てっ...!」
肩を震わせ不安を吐き出す真珠に、いつかあの嘘つきなシスターがしたように頭を撫でる。
以前までの彼女であれば絶対にしないその動作は、過去と決別し未来を望むことの証だった。
ぎこちないそれに、"大丈夫。"という想いを込める。
「みんな知ってますよぉ。たまネモは公式だと~。あなたたちのラブラブ具合は、みんなが保障してくれますからぁ。」
「たまネモって...言わないでください...っ」
少しおどけた言葉に真珠が何とかツッコんだことに安心し、まだ慣れない"本心を伝える"ということを試みる。
「あなたたちこそ、私が初めて見た"嘘偽り無いモノ"だったんですよぉ。」
「歌詞みたいな言い回しですね...。」
「受け売りですからぁ~。...あなたたちのやり取りには、隠し切れない愛情があるように見えました。言葉は否定していましたが、いつも心は相手のことでいっぱいで。だから私も、
彼女たちをスカウトしたのは、自分のような偽物に騙されるような子どもで"扱いやすい"と思ったから。
自分の仮面に気付かず、やれ憧れだの理想だの。
滑稽だと嘲笑いながら、心の底では罪悪感を抱えていて。
でも、ある日気付いた。
真っ直ぐにお互いを思い遣っているのに、言葉はそれを否定するものばかり。
自分とは真反対のその姿こそ、まさしく"善意"が存在するという証明なのではないかと。
素直に本心を言えない甘酸っぱさは純粋さの証。
彼女は自分の笑顔に騙されているわけでなく、ただ"信じていたい"と思っているだけだと。
その心は、きっとかつて自分も持っていたはずだったと。
その穢れを知らぬ輝きに、
「あなたたちのおかげで、私はみち子様を愛することが出来たんです。だから絶対に、あなたたちは幸せになってください。そうでなければ、私悲しくて泣いてしまいますから。」
「ホリィさん...。」
再び差し出されたトランスアイテムを、真珠は今度こそその手に取った。
涙を拭って見る馴染みの星は、普段より一層輝いて見える。
「大丈夫。あなたは間違っていませんよ。」
「...はいっ...アイドル、阿古屋真珠!ファン1号を絶対に取り戻してきます!」
トランスアイテムを持ち飛び出していく真珠を見送り、ホリィは大きく伸びをする。
本当に向いてないことをした。
喋り方だって、気を抜くとすぐに甘えた感じになってしまうし。
このままここで寝てしまおうかとも思ってしまう疲労感だった。
「あ!忘れてました!」
「!?ど、どうしたんですかぁ~...?」
横になりかけた身体を無理矢理に固定する。急に戻って来た真珠はよりキラキラとした瞳で、腰の限界に挑むホリィを見つめていた。
「デビューしたら絶対にコラボしてくださいねっ!真珠、絶対にトップアイドルになりますからっ!!」
「っ...」
それだけ言って、また忙しなく部屋を後にする真珠。
呆気に取られた後、ホリィは堰を切ったように笑い出してしまった。
"この自分をまだアイドルとして見ている人間がいるのか。"
"トップアイドルになっているとすると、自分はとっくに越されてしまっているではないか。"
なかなか失礼な後輩だなと苦笑いし、そんな未来も悪くないと夢想する。
ホリィの中で、また新たな幸せが生まれた瞬間だった。
「アンチエイジング...頑張らないとですねぇ。」
――――――――――――――――――――
「ふふっ...ウフフっ...。」
触手責め翌日の放課後。
一日の学校生活を終え、柊うてなは帰路に着いていた。
艶やかな笑みは今日の調教を思い出してのものではなく、苦しむトレスマジアを思い浮かべてのもの。
次はどのように痛め付け、貶めようか。
そう想像するだけで興奮を抑え切れなくなる。
すっかり欲望に染まってしまったうてなだが、一応はまだ未成年。
実家には必ず帰宅しなければならない。
帰ったとしても、すぐにゲートでナハトベースに移動する予定だが。
"今日はスライムでベトベトにしよう。"
そうメニューを決めて、家の前まで辿り着いた時だった。
「おかえりなさい、うてな。ご飯にする?お風呂にする?それとも、ア・ズ・る?♥️」
「......はい?」
家の前に仁王立ちして待ち構えていたのは、脳内で何度も辱しめた愛しのヒロイン。
マジアアズールは物凄く得意気な顔で、定番の台詞と聞き慣れない単語を発した。
わけが分からず冷や汗を垂らすうてな。
「アズールだけにねっ!」
「......何してんです?」
渾身のダジャレに清々しいドヤ顔。
ただでさえ寒い空気が一層冷え込み、悪の総帥が正義の味方の常識を疑う珍事態に。
「変身しなさいうてな。
「...あぁ、なるほど。そこまでしますか、あなたたちは。」
マゼンタやサルファがいないことに気付き、漸く得心がいったらしいうてな。
少し不満そうにしながらも、アズールに応えてベーゼへと変貌を遂げる。
何故急にアズールが一騎討ちを仕掛けたのか。
それを説明するには、時間を"昨日"まで巻き戻す必要がある。
『ごめんっ!真珠がバたまでしたっ...!』
意気消沈だった会議室に少し変わった謝罪が響く。
飛び出して行ってから30分程して、幾分スッキリした顔の真珠が戻って来た。
その殊勝な態度と手に握られたトランスアイテムに驚く小夜たち。
真珠はアバウトに"ホリィのおかげ"だと告げて、すぐに話を本題へと進める。
『作戦があんのよっ!』
ネモを取り戻す為の天才的作戦。
それを思い付いたからこそ、真珠は部屋を飛び出して来たのである。
"あの真珠が頭脳派に?"
小夜は訝しんだが、その内容を聞いて"一理ある。"と納得してしまう。
はるかと薫子は正義の味方としてどうなのかと引いていたが、司令官(自称)からはGOサインが下った。
"正義は我にあり。勝った方が正義なんだよ。"
終わったはずの正義の魔法少女編再来。
戦慄する小夜たちだったが、背に腹は代えられない。
今成すべきことは一刻も早く友だちを救い出すこと。
はるかと薫子は断腸の思いで、真珠の作戦を呑むことにした。
「おう面貸せや団子三兄弟。」
「あぁん...?」
そして翌日即決行となり。
サルファはキウィの家に。
「おかえり、こりすちゃん。今日はあたしと遊んでもらうよ。」
「ジリジリ...。」
マゼンタはこりすの家に陣取っていた。
要するに真珠が提案したのは、"待ち伏せタイマン大作戦"である。
エノルミータ側はこちらの詳細を忘れているだろうが、こちらはしっかり覚えている。
学生である以上一度家に帰る必要があるわけで、帰る直前まで団体行動する程の危機感も今の彼女たちにはないはず。
つまり、
何ですって?
短絡的な上にやり方が悪役?
変身前に攻撃するくらい卑怯?
うるさいと言わせてもらおう。
恋人が洗脳されてるのに汚いだの倫理だの言ってる場合か!
小夜と真珠は意気投合して叫んでいたが、二人については元から悪役なのでなんの説得力もない。
そんなベーゼもご立腹の作戦だが、実際上手くいけば今日全ての決着が着くという画期的なモノなのは確か。
見落としというか穴というか、ロボ子を忘れているので1ヶ所だけ1対2が発生してしまうけれど。
だがまあ、マゼンタがそれに気付くのはもう少し後なのでギリギリセーフとしよう。
恙無く配置に付くトレスマジア。
加えて、
「遅いわよ、バカネモ。」
「...何の用だ、負け犬がよ。」
見慣れた玄関前に、見たことのない冷たい表情のネモが現れた。
怯むことなくメイクの決まった顔をネモに向け、真珠はトランスアイテムを構える。
「やる気か、アタシと。」
「...。」
動揺もせず、つまらなさそうにこちらを見る瞳に押し黙ってしまう。
しかし、既に覚悟の上。
真珠は大きく息を吸い、開戦の狼煙を今上げる。
「心梅先輩!おねがいしまーーすっ!!」
「は?」
『OK。Cチーム!GOGOGO!!』
「な、はぁっ!?」
予想していた呪文の代わりに聞こえたのは、まるでテレビ番組の撮影前みたいな呼び出しの声。
それを合図に突如背後から覆面の"メイド服集団"が現れ、ネモをグルグル巻きにした上に黒塗りの高級車へと手際よく運んでいく。
「ぶむぅっ!?んんむっ!?」
「ネモ、かくほぉーー!!」
しっかり拉致、ではなく保護を完了し基地へと出発する真珠たち。
まずは第一段階終了。
これから始まる"本番"を想い、真珠はそのアイドルフェイスを僅かに険しくさせた。
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「ぶほぉっ!?な、なにすんだこのやろぉォ~!?!?」
雑に目隠しとガムテープと縄を外されたと思えば、真っ暗な空間に蹴り入れられてしまった。
悪役ながらかなり恐怖を感じた上に、蹴られた背中が痛い。
拘束されてる最中も何回か蹴られたと思うのだが、真珠とは別の私怨を感じずにはいられない。
懐に忍ばせておいたトランスアイテムを取り出し、警戒するネモ。
すると、突如として部屋の照明が灯され"真っ白で何もない空間"が視界に広がった。
「うお眩しっ!?」
「眩しいでしょうね。アイドルは常に輝いてるんだから。」
明暗の差で目を抑えるネモの前にいたのは、口調とは裏腹に真剣な面持ちの真珠だった。
部屋の出入口は強固に施錠され、床や壁の材質もよく見れば変わった造りになっている。
「ここはね、心梅先輩が趣味で作った"檻"みたいなもんなの。魔法でも傷つけられない中身で、
「...ハッ。そこまでしてアタシをヤりたいってか?」
「嫌いなんでしょ、真珠のこと。ならあんたもスッキリ出来るんじゃない?」
さながら"デスマッチ"の舞台となった部屋で、真珠とネモはそれぞれのトランスアイテムを構えて向かい合う。
一見互角に思えるが、他人から借りたアイテムでは真化まで行えるかが不明。
真珠の方が実は分が悪い。
その点を踏まえてネモを基地内に拉致した上閉じ込めたわけだが、勿論真珠は自分の力でケジメを着けるつもりである。
『『
同時に変身を終える二人。
ロコムジカとルベルブルーメ。
常に隣り合っていた二人が、今は向かい合わせになって睨み合う悲劇。
ロコはそんな逆境にもめげず、ニヤリと口元を歪め。
「ミュージック、スタート!☆」
「...はぁ?」
聞き慣れた十八番の楽曲が、どこからともなく空間に広がっていく。
ロコはラヴリー ラヴリーロ・コ♡ みんなキュンキュンメロメロリン♡ 超絶キュートなミラクルガール! その名はロコロコ ロコムジカ♡(ロコちゃーん!)
「......」
いつもの歌を、いつもの歌声で。
自信満々に歌い始めるロコを、ルベルは呆気に取られただ見つめる。
ついでに状況をモニターしている心梅とメイドたちも、その歌唱力に唖然としていたりする。
聞こえるわあなたのハート どくどくバクバク鳴ってるわ 恋してもいいのよロコに 恋愛NGだ・け・ど(笑)
「ごめんね…あなたの気持ち嬉しいけれど…
ロコはみんなのアイド」
「ふざけてんじゃねーぞ。」
「っ!?」
サビ前の台詞に被せるように、ルベルはクナイを躊躇いなくロコに放った。
鋭い刃が無防備なロコの肌を浅く裂く。
急な痛みに転んでしまうロコ。
「アタシと戦いたいんだろ?ふざけて下手くそな歌聴かせてんじゃねェぞ...!」
「っ...乱暴なオーディエンスね。仕方ないから、また最初からやったげるわよ。」
凄むルベルに構わず、立ち上がったロコは再びラブロコのメロディーをスタートさせる。
苛立つルベルはすぐにでも攻撃しようとクナイを手に取るが、ロコは防御をしようともしない。
ロコはラヴリー ラヴリーロ・コ♡ みんなキュンキュンメロメロリン♡ 超絶キュートなミラクルガ
「うるせぇっ!!」
「きゃっ...!」
先ほどの倍のクナイを投げつけられ、上着を破かれた衝撃でロコは再びバランスを崩す。
手足には赤い傷跡が増え、見た目以上の痛みがある。
それでも、ロコは歌うことを止めようとしない。戦う素振りなど少しも見せない。
何度も音楽を流し、歌って。
その度にルベルの容赦のない凶刃を身体に受ける。
最早最初の1小節すら歌わせてもらえない。
「いい加減にしろよ...!」
「ぅっ!?」
バシン!という乾いた音が響き、もう10度目にもなる楽曲中断を迎える。
クナイで傷つけるだけでなく、直接的な暴力にルベルは走った。
ロコの頬を打ち、倒れた彼女の身体を蹴り上げる。
「このまま嬲り殺しにしてやるよ...!」
「っ...さい、わね...」
痛みに呻きながら、それでもロコは立ち上がった。
近付くルベルをただ押して離し、血を流しながらも尚マイクを構える。
ロコはラヴリー ラヴリーロ・コ♡ みんなキュンキュンメロメロリン♡ 超絶キュートなミラクルガール! その名はロコロコ ロコムジカ♡(ロコちゃーん!)
ここで"変化"が訪れた。
上着がズタズタにされ下着同然の姿になったからか、歌声が美声になったのだ。
これには心梅たちは勿論、ルベルもまた驚いたようだったが、だからと言ってその心は未だ闇に包まれたまま変わることはない。
「死んじまえよロコ...!!」
クナイに魔力を込め、今までの比じゃない量をロコに向け放つ。
ロコ諸共周囲を爆破するような攻撃。
歌う彼女は反応することも出来ず、吹き飛ばされて宙を舞った。
「っ!.......」
カラカラと転がるトランスアイテム。
力無く倒れるその傷だらけの身体は、元の阿古屋真珠に戻ってしまっていた。
動かなくなった真珠に勝利を確信したルベルは邪悪に嗤おうとするが、
戸惑う視界に、苦しげな声を上げながら立ち上がろうとする真珠が映った。
「なんなん、だよ...っ」
「っ...ハァっ...ハァっ...」
「なんで、そんな...」
「ロコは、らぶりー...ラブリー、ロコ...っ」
「何でそこまでして...!」
既に変身は解けマイクも音もないというのに、それでも真珠は歌い続けようとしていた。
足はステップも踏めず震え、呼吸も覚束ない。
しかし、その顔はアイドルらしい笑顔のまま。
理解が出来ない。
気持ち悪い。
ならばさっさと始末してしまえばいい。
だが、動かない。
ルベルの手は、もうクナイを投げることが出来なくなっていた。
肩を震わせ、その場に座り込む。
分からない。分からないが、絶対にこんなことをする為に自分は生きて来たわけじゃないと思える。
言い知れない不快感は、真珠ではなく。
「何なんだよ...何だってんだよ真珠ァっ!?」
「...あんたのアイドルに、決まってんでしょーが...。」
「は...?」
ルベルの叫びに初めて応えた真珠。
フラつきながら、ゆっくりとルベルに近寄っていく。
「アイドルってのはね、見てくれるファンがいて...初めてアイドルなのよ...」
「何、言って」
「真珠を一番最初にアイドルにしてくれたの、アンタだったでしょ...?」
『"うた、へただねぇ!"』
幼少の頃、真珠の歌を聴いて初めて
下手だと言いつつ最初から最後まで聴いてくれたのはネモだけで。
真珠の夢を聞いてくれたのも、ネモだけだった。
どんなに下手でも、荒唐無稽でも。
ファンだと言って支えてくれるネモがいたから、真珠はずっとアイドルでいられた。
真珠らしくいられたのだ。
「だから、決めてんのよ...アンタの前では、真珠は絶対にアイドルのままでいるって。たとえ死ぬ直前だって、誰よりも輝いて...アンタを夢中にさせてやるってね...!」
「っ...わけわかんない、ことっ...!」
「そっちが覚えてないから何だってのよ...知らない...!だって真珠は覚えてる!アンタを、ネモを愛してるってことをね!!アンタが何度忘れたって、何回だってファンにしてやるって言ってんのよこのばかねもっ!!」
「...!」
泣きながら精一杯の笑顔を向ける真珠。
しかし、泣いているのはルベルも同じだった。
胸を熱くする数々の思い出。
真珠と共に過ごしてきた人生と、そこにあった様々な喜びが甦る。
何故こんな大事なことを忘れていたのか。
何故こんなにも美しい光を、自分は見失っていたのだろうか。
ルベルの変化に気付き、大粒の涙を浮かべながら真珠は彼女を抱き締める。
「っ...っ...どこまで、あほなんだよっ...」
「いつまでも悪ぶってんじゃないわよ、ばか...。」
「ごめ、ん...ごめんっ...またま...アタシ、こんなっ...!」
お互いぐちゃぐちゃの表情で言葉を交わすが、最早言葉が無くとも伝わっているのだろう。
確かめるように、二人は強く抱き締め合う。
一件落着。
そう全員が安心した時。
「うっ...ああぁァァっ!?」
「な、なに!?どうしたのよネモ!?」
突然苦しみ出すルベルの身体から、
得体の知れないそれは、真珠諸共ルベルを握り潰すかのように包んでいく。
「クッソ...!せいぎょ、できねェ...!?離れろ真珠っ!このままじゃ...!」
溢れ出したそれは、ルベルを蝕む"呪い"そのもの。
トレスマジアのように祓われることなく自分を取り戻した彼女を、再びねじ曲げてしまおうと抵抗しに出てきたのだった。
このままでは真珠まで巻き添えにしてしまうと、離れるように叫ぶルベルだったが。
「冗談じゃない。誰が離れてやるもんですか...!」
「ばかっ!?アタシはお前が」
「アンタがいなきゃダメなのは真珠も一緒だって言ってんのよ...!!」
真珠は決してルベルを離さなかった。
凄まじい圧力に軋む身体。
それにも構わず、真珠はルベルを抱き締め続ける。
「アンタはずっと"最前列"なんでしょ!?ファンなら黙って最推しを信じなさいよねっ!!」
「んむっ!?///」
重なる唇。
真珠の想いに応えるように、二人のトランスアイテムが目映い輝きを放つ。
勿論真珠に考えがあったわけではない。
でも、いつか誰かが言っていたのだ。
'ヒロインの力は、想いの力"だと。
ならば解決出来ない道理はない。
二人の愛は今この瞬間、世界中の何よりも強い想いなのだから。
「「っ!?」」
光が爆ぜ、彼女たちを覆っていた暗闇が一瞬にして晴れる。
まさに、愛の奇跡。
普段通りの姿に戻ったネモを見て、真珠はすぐに自慢気な表情を浮かべる。
「ね?さいっこーでしょ?あんたのアイドルは。」
「...あぁ。大好きだ、真珠。」
お互いに後で思い出し悶えることを承知で、再び熱いキスを交わす。
二度と忘れないようにと、記憶に深く刻むような。
長く激しいキスだった。
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「あーあー。あともうちょいやったんやけどなぁー。」
作戦決行後の会議室。
顔をガーゼだらけにした薫子が、誰に聞かせるでもなく不満を吐き出している。
結果として、待ち伏せタイマン大作戦はそこそこの成功を納めた。
大目標であるネモの奪還は無事完了したものの、トレスマジアはいずれも失敗。
三人共に死闘を演じて何とか退却して来たのだった。
「あたしはにんげんあたしはにんげんあたしはにんげん...」
反応もまたそれぞれ。
前述したように薫子は宿敵との殴り合いが不完全燃焼で不満そうだし、はるかは相当怖い目に遭ったようで、何やらうわごとを呟き続けている。
ちなみに小夜はというと。
「ふふっ...やはり流石ね、ベーゼ...。」
大分満足そうにしていた。
何があったかはある意味聞かない方がいいだろう。
露骨に嬉しそうにしていたからか、八つ当たり気味にはるかと薫子には尻を蹴り上げられていた。
それにもまた喜んでいるようなので、たぶんもう救うことは出来ないんだと思う。
すっかりドMが定着してしまったらしい。
「いたっ...ちょっと!もっと優しく貼りなさいよ!」
「仕方ねぇだろ。そっちこそちょっとは我慢しろよな。」
「誰のせいだと思ってんのよ!?」
「だからそれは謝っただろ!?」
勿論、ニヤニヤしているのはSMプレイだけが理由ではない。
向かい席で見慣れたイチャつきを見せるカップル、たまネモの復活が何より嬉しいのだ。
漸く掃除が終わったようなスッキリ感。
やはり二人揃ってなんぼだなと、いつもは呆れるケンカですら愛おしく思える。
堪らず、小夜はラブラブな二人をまとめて後ろから抱き締める。
「ちょっ!?」
「なんだよ急に!?」
「間には入らないから、その代わり愛でさせなさい!」
「「意味わかんないんですけど!?」」
狼狽する二人を無視し、小夜はたまネモを抱き締めたまま、器用にスマホのシャッターを切る。
画面には撮ったばかりの、確かに残った三人の写真が1枚。
感動のあまり泣き出してしまう小夜に苦笑いを返しつつ、たまネモもまた帰って来られた幸せを噛み締める。
「やはり、愛は強いですねぇ。」
呟くホリィは穏やかな笑顔で、未来の後輩を見守っている。
"純愛ですわね...。"とうっとりした様子で頬を染めている心梅を含め、ほとんどが幸福な心持ちの中。
「うちも...。」
未だ結ばれぬ想いを胸に。
何かを決意した様子で、薫子は落ち込むはるかの背中に近付いて行くのだった。
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◼️□next episode◼️□
「やっぱり...小夜が好きなん...?」
世にも珍しい泣けるまほあこはここだけ←
泣きはせんな流石に。
シリアルが止まりませんね。
次回は来月だろうなぁ...。