魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~ 作:月想
地獄から帰って参りました。
なんか新キャラ出たらしいじゃないですか?
心梅とは何だったのか←
二次創作なんてそんなもの、今回もそういう話です。
「大好きなお姉ちゃんですわよ心梅ぇ~♥️ハグしてくださいましキスしておくんなまし~!♥️」
「どちらもお断りですの。」
「んむぅいけずですわぁ~!」
すっかり元気にあしらわれるその姿に、呆れではなく安心のため息を吐き出す。
つい先日まで3つ埋まっていたベッドも、今や使っているのはただ1つだけ。
「入院していた前より元気なくらいですね、百花さんは。」
「1年分は眠っていた気がしますもの!それはつまり1年オ○禁したことと同意!忙しくなりますわよぉぉ!!」
「やっぱり一生眠っててください。心梅さんの為にも。」
「よよよ...お痛わしやお姉さま...」
大分余計に元気ハツラツの百花さんを見れば分かる通り、"シオちゃんズ"の三人が目を覚ました。
マゼンタから始まり、こないだの私で全員が真化を取り戻したトレスマジア。
その力で、漸く彼女たちにかかった呪縛を解くことが出来たのだ。
私にとっての命の恩人。
目覚めた時は本当に感動的だった。
涙ながらにおかえりを伝える心梅さんを、優しく百花さんが抱き締め。
不思議そうに周りを見渡した後、みち子を見つけ嬉しそうにおはようと告げる蘭朶さん。
そして、そのみち子は目の前で微笑むホリィさんに照れたような笑顔を見せた。
どう謝ろうかと考えていたのが吹き飛んでしまうくらい、幸せな光景。
また取り戻した日常を噛み締め、決意を新たにする。
...そこまでは、よかったのだが。
「み"っち"ゃ"あ"ぁ"ぁ"ん"ん"っ!!
この"お"ん"な"な"に"っ...!?ごろ"ずっ!?ころすねぇぇ...!!」
「物騒な方ですねぇ~...私怖いですぅ~みち子様ぁ~。」
「...なんだ、地獄か。」
「店長、現世っす。てか修羅場っす。」
「ほらー。だからこうなるって真珠アドバイスしましたよね?」
うん。全部台無しです。
感動的な再会シーンなど5分も持たなかった。
重傷から目を覚ましたみち子の眼下に広がったのは、まさにお手本のような修羅場。
漸く対面を果たしたホリィさんと蘭朶さんの仁義なき威嚇合戦であった。
眠れる最愛のみち子を正妻ポジで看病しようと思ったら、まるで知らない馬の骨が自分より正妻面で座っていたのである。
彼女たちの心中を察すれば動揺するのは当然なのだが、それにしても殺気立ち過ぎである。
特に蘭朶さんの方。
普通にチビる。
こりすがお昼寝中でよかったのだわ。
「それ私のなのだわ…」
「こりゃ失敬。対岸の火事ってつい物見しちゃうわよね。」
「お前が堂々としてると、だんだん店長が可哀想に思えてくるぜ。」
「アンタも背中には気をつけなさいよね。」
何やら偉そうに元ロード団したっぱが喚いているが、私にその心配はない。
だって二人とも私のこと覚えてないし!
「うぅっ...うてなぁ...キウィ~...っ」
「だ、大丈夫だよ小夜ちゃんっ!すぐに二人とも助けるからねっ!」
「なにモノローグで自爆してはるん?」
二股の板挟みなんて出来るうちが華なのよ!
...と言いたいところだけど、流石にこの状況は羨ましがれないか。
「ころすっ...!みっちゃんに近付かないでっ...!」
「あなたこそ危ないので離れてくださ~い。みち子さまがまた体調を崩してしまいますよぉ~?」
蘭朶さんホリィさんの間にまったく交流がないからか、お互いに縄張りを侵された肉食動物みたいになってる。
蘭朶さんはあらゆる部分で予想通りの反応だし、ホリィさんは冷静なように見えて異様に煽りが強い。
ところで、蘭朶さんのベッド横に果物ナイフを放置したバカはどなただろうか。
ドラマのワンシーン張りに似合ってるんだけど。
「待つんだお前たちっ!まずは落ち着け!話せば!分かるっ!」
「「みっちゃん(みち子さま)は黙ってて(ください)!!」」
「すみませんでしたぁっ!?」
意を決して割って入ろうとするみち子だが、二人の迫力にあまりにもあっさりはね飛ばされてしまう。
大体話せば分かるとかどの口が言うのか。
目覚めて即悪夢の事態だったことは同情するが、そもそも全部みち子のせいである。
「よっわ。」
「元悪のカリスマ、修羅場に散るっと。」
「貴様ら他人事だと思って!?というか殺すな助けてくださいっ!?」
冷や汗気味に遠くから見守るはるかたちとは違い、事情を知るエノルミータ勢はしたり顔で傍観中。
私の知る限り、彼女は蘭朶さんにもホリィさんにも"告白"と取れる発言をしている。
しかもかなり印象的なシチュエーションでだ。
みち子はただ自分にとって大切な存在であることを伝えただけだろうが、二人からしたら裏切られたようなもの。
怒られるべきなのはみち子であって、二人ではない。
矛先が恋敵にだけ向いている辺り、二人の愛の深さは本物だと言っていいだろう。
「どーすんだよ小夜?」
「どうするも何も、こればっかりは説得とかそういう問題じゃないでしょ?」
「でもこのままだとホントに刺されちゃうわよ?みち子さんが。」
「ナイスボート?」
たまネモに言われて一応考えてみるが、やっぱり第三者がどうにか出来るとは思えない。
せめてナイフだけでも今のうちに取り上げようと、トランスアイテムを構える。
「小夜様小夜様。わたくしにいい考えがありますの。」
「コンボイ?」
耳打ちして来たのは唯一みち子ハーレムに参加してない百花さん。
失敗する未来しか見えない前フリに訝しみながら、とりあえず聞くだけ、そのいい考えとやらを聞いてみる。
「...ほほう。それはちょっとおもしろ...じゃなくて良さげな案ね。」
「でしょうでしょう。わたくし、全面的協力をお約束致しますわ。」
これがなんとなかなかの名案。
変態じゃなければ是非エノルミータに入れたい発想力である。
百花さんと合意の握手を交わし、私は修羅場のど真ん中へ進み出る。
まあ、みち子には確かに借りがあるし。
楽しんでついでに人助けが出来るなら、一肌脱ぐのも悪くないだろう。
「その勝負...この水神小夜が預かったわっ!」
「...は?」
久しぶりに腕が鳴るわね!
―――――――――――――――――――――――
『"花嫁は私だっ!チキチキ!仁義なき正妻戦争ーーっ!!"』
「うーわ久しぶりやなこの感じー...。」
威勢のよい小夜の"タイトルコール"と共に金銀の煌びやかなテープが宙を舞う。
ド派手な開幕演出に相応しい設備がそこには備えられていた。
司会席にゲスト、解説、判定員席が並ぶ中央奥側。
その手前にメインステージが置かれ、左右には観覧用の客席が設けられている。
今すぐにでもテレビ放送が出来そうな本格的なスタジオセット。
しかし、勿論ここはテレビ局などではない。
その証拠に客席を埋め尽くしているのは一人残らずメイドさん。
ちゃんとメイド服を着ている辺り、心梅の苦労が偲ばれる。
『どうもみなさんこんにちは!本日司会進行を務めます、水神小夜です!解説はこちらの方!』
『え、あ。天川薫子です、よろしゅうおたのもうします~。』
さも当たり前のように自己紹介を済ませる小夜に薫子。
小夜はともかく、薫子までが特にツッコまずに状況を受け入れていることについては、彼女の疲れた瞳から察して欲しい。
彼女たちの一段下には"審査員"たちが同じように腰を下ろしていた。
左から順にマキナの膝上で寝息を立てるこりす、冷や汗を流すネモ、そしてたぶん怒ってる心梅。
三者三様の感情をガン無視し、小夜はつつがなく審査員の紹介を終えていく。
そして最後に、小夜の左隣にスポットライトが当たる。
『そして最後はスペシャルゲストのご紹介です!シオちゃんズリーダーことバイト戦士こと二股王!田中みち子さんです!』
『とりあえず弁護士呼んでもらってもいいですか?』
顔を覆って縋るように呟くみち子。
その弁護士は不倫裁判用だろうか、それとも名誉毀損裁判用だろうか。
メイドさんたちの黄色い声援に辟易としつつ、僅かに残った力で隣の小夜を睨み付ける。
「どういうつもりだ貴様...!」
「あなたが優柔不断で決められないって言うから、
小夜の指差す先。
メインステージにて既に両雄は並び立っていた。
どちらも可愛らしいエプロン姿。
だがその瞳は殺気立って、隣の敵を全力で威嚇している。
天花寺ホリィに多田蘭朶。
彼女たちは今、"キッチンスタジオ"という名の戦場にいた。
『ルール説明を致します。本企画は"みち子の伴侶はどちらが相応しいか"という判定を、お題にどれだけ対応出来るかの実力勝負で決定しようというものです。ホリィさん、蘭朶さんにはいくつかの課題に取り組んでもらい、それを審査員が点数化し公平に優劣を付けます。』
「待てよもしかしてこのポジション貧乏くじィ!?」
淡々と説明される企画趣旨。
百花のいい考えとは、"テレビ番組風に茶化しつつ勝負をさせよう"という穏便なのか悪趣味なのか際どいモノだったのだ。
あのまま死人が出るよりかはマシだが、公平ならば誰しもが納得出来るわけではない。
"点数低くしやがったらただじゃおかない。"
そんな意図マシマシの視線が、ネモに自らの身の危険を嫌でも予感させた。
「待ってくれ二人とも!私にとってお前たちは」
「みっちゃん、うるさい。」
「すみませんがぁ、そこで黙って見ていてくださいねぇ。」
「せめて話くらいさせてくれぇ...。」
みち子は尚もこの争いを止めようとするが、二人にはみち子への怒りもある。
やはり聞く耳持たず、開始のゴングをただ待つのみという心積もりのようだ。
『それでは早速参りましょう!最初の対決は、"愛妻料理対決"!!』
小夜の進行に合わせ、背後の大型モニターにババン!と第一回戦のタイトルが表示された。
『いい伴侶と言えば料理が上手いこと!お二人には制限時間1時間以内で得意料理を作って頂きます!審査員が試食し、より点数の高い方が勝者となります!』
『料理なら私が作るが。』
『余計なこと言わんと流れに身任せた方がええよ、刺されてまうよ。』
合図と共に二人のテーブルに不必要なくらいの量の食材が並べられる。
メイドさんたちの一糸乱れぬスピード準備。
数秒にして、ステージは食材の見本市と化す。
得意料理の対決に伊勢海老やらトリュフやらが必要とは思えないが、そこら辺は盛り上げ重視の演出と割り切ろう。
『二人にはそれぞれ、料理上手なアシスタントをお付けします!ただし、調理自体は任せないこと!パシりだと思ってどうぞ。』
「誰がパシりよ!?」
「よぉーし!お家のお手伝いの成果を出しちゃうからねー!」
『はるか。雑用超えたらアカンよー。』
続いて審査員席下のゲートから現れたのは真珠とはるか。
意外にも料理上手で知られる二人は、それぞれのサポート相手の隣に移動する。
「蘭朶さん!がんばりましょうね!」
「よ、よろしく...」
「ホリィさん、こんなに早く共演出来て感激ですっ!」
「ふふっ。頼りにしていますよぉ。」
はるかの陽の気に当てられて陰が垣間見えている蘭朶に対し、嬉しそうにする真珠とホリィの相性は良好そうだ。
この仲の良さが結果にどう左右するのか。
大して興味がないのを皆がひた隠す中、小夜だけがワクワクとした表情で手持ち銅鑼を手にしたのだった。
『それでは第1回戦!スタートです!!』
見事に響く銅鑼の音。
料理対決、その幕が切って落とされる。
「「...!」」
料理対決における重要な注意事項。
それは何と言っても"制限時間"だ。
下処理や盛り付けまで含めれば、1時間なんて一瞬で過ぎ去ってしまうもの。
そんな中で何を選び、どう行動するか。
その辺りのセオリーをテレビ番組で把握済のアシスタント組。
すぐに動けるよう身体に緊張を走らせる。
が、しかし。
「「...」」
肝心の指示が
というか、先程からホリィも蘭朶も黙って突っ立っているだけだ。
実況に向け気合いを入れていた小夜も戸惑う程の静寂。
番組なら立派な放送事故。
流石にマズいと思ったのか、真珠がそれとなくホリィに話し掛ける。
「あのー...ホリィさん?とりあえず、何作るかだけでも教えてもらえます?」
「へ?...あ~。そうですねぇ...何がいいと思いますかぁ?」
「得意料理を作るんじゃ...?」
「お話したじゃないですかぁ~、あまり経験がないと~。」
「......あー。」
あれだけバチバチに睨み効かせてるから失念していたが、確かに以前"家事は得意ではない"と聞いた覚えが真珠にはあった。
自分が教えるとも言った。
「このシチュエーションは想定してなかったんだけど...?」
一気に身体が冷えるような感覚。
ぶっちゃけみち子の生き死にはどうでもいいが、ホリィは真珠にとって憧れの人。
助けられるなら助けたい。
慣れないながらに頭をフル回転させながら、チラリと敵陣営の動きも観察してみる。
「蘭朶さん、えっと...何、作ります?」
「......"ハンバーグ"、とか...どう、かな?」
「いいと思いますハンバーグ!あたしも妹たちによく作りますからっ!」
「えへ...あたしも、たまに...」
"ハンバーグだとぉ!?!?"
と真珠に戦慄走る。
意外や意外。
敵はまさかの彼女に作って欲しい料理ランキング常連のド定番、ハンバーグを作ろうとしている。
しかも、あっちはちゃんと経験ありき。
ゆっくりとだが食材を触り出した蘭朶たちに焦りは更に加速する。
「クールよクールになるのよ真珠...!ホリィさんあれです!"肉じゃが"作りましょう!」
「肉じゃがですかぁ。家庭的でいいですね~。」
目には目を歯には歯を。
定番には定番をぶつけるしかない。
半ば強引に舵を切り、真珠...ではなくホリィ陣営は肉じゃがの作成に取り掛かることとなった。
『漸く両人が動き始めましたね。薫子さん、それぞれ何を作ると思いますか?』
『両方肉料理っぽいけどなぁ?ま、あんま凝ったもん出して失敗してもなんやし。オススメは家庭でも出しやすい定番料理やない?』
『なるほど。ちなみに、薫子さんは恋人に作って欲しい料理とかありますか?』
『そやねぇ...ウチははるかが作った物なら何でも、って何言わせんねんっ!///』
オチはともかく、実況も始まり何とか軌道には乗れた正妻戦争。
ぎこちないながらに料理を作っていき、このまま上手く審査に向かうはず。
そう思えたのは、開始からたった5分の間だけであった。
「あ、あのぉ...蘭朶、さん?包丁、危ないですよ...?」
「隠し味、入れないと...」
「隠し、あじ...?」
「えへ...」
カメラが捉えたのは包丁を片手に、それをもう片方の腕に当てようとする蘭朶の姿であった。
驚愕するはるかの表情と合わせ、完全に雰囲気はサスペンスホラー。
マキナはこりすの目を隠し、心梅は元チームメイトの異常行動に悲鳴を上げそうになり。
ネモは病欠で退場しようとしてメイドさんに捕まっていた。
「ホリィさん!?この混ざってるうにょうにょなんです!?」
「たぶん何かの魚かとぉ。美味しそうだったのでぇ~。」
「こっちの明らかに内臓なお肉は!?」
「たぶん...鶏ですかねぇ~?」
「肉じゃがには鶏も魚介もいれませんよ!?」
「そうなんですねぇ~。」
「頷きながらどんどん変なの追加しないで下さいよぉ!?」
もう片方はと言うと、こちらはこちらで違う地獄が広がっていた。
よく"料理を失敗する者は勝手なアレンジをしがち"と聞くが、もはやアレンジというレベルではない。
詰め放題のセール品よろしく、雑にあらゆる食材が鍋に放り込まれていく。
味のバランスなどお構い無しのようだ。
『これは、その...想像以上ですね。』
『以下の間違いやろ。いつからアシスタントは介護員になったん?』
『バカめ。二人がまともに料理など出来るわけがないだろう。』
阿鼻叫喚の審査員席の上方、司会席でも小夜と薫子はドン引き状態。
何を威張っているのかとツッコミたくなるが、みち子はみち子で目が死んでいる。
最早どっちが勝とうがお嫁さん失格だと思うのだが、勝負は最早止まらない。
審査員の悲痛な願いは届かず、両陣営の料理がついに各机に並んだ。
「愛情たっぷりの肉じゃがですよぉ~。」
「ハンバーグ...普通の...。」
「ぜぇっ...ぜぇっ...!」
「はぁっ...はぁっ...!」
余裕そうに料理を紹介する当人たちに対し、アシスタントだった真珠とはるかは息も絶え絶え。
壮絶な戦いだった。
変なもんを入れさせない為にあらゆる動きを監視し阻害し。
真珠なんて最後はもうほとんど調理をやってしまっていたが、指摘する者などいなかった。
少しでも犠牲を減らす為に。
身を粉にして働いた彼女たちこそ、真のヒロインであったと。
小夜は内心で感動の涙を流していた。
"お前のせいだぞ。"と一斉に皆から送られる視線には気付いていないようだ。
『それでは審査員の皆さん、実食をお願いします!』
『あんたやっぱり鬼やね。』
「嫌だっ!?アタシはまだ死にたくねぇ!?死にたくないっ!死にたくなーーいっ!!」
再度逃走を図るネモ。
しかしガッチリとメイドさんに羽交い締めにされ、手足の自由さえ奪われてしまう。
憐れネモ。
真珠が叫ぶ間もなく、その開いた口に蘭朶のハンバーグが容赦なく突っ込まれた。
「死にたくなむぐぅっ!?......あれ?」
『お?』
「...普通に、うまいんだが?」
『なんとなんと!蘭朶さんお手製ハンバーグはネモ審査員に高評価!普通においしー!』
不思議そうにハンバーグを今度は自分から口に運ぶネモ。
やはり悪くない味だったようで、恐れなくそのまま咀嚼を繰り返す。
言われてみれば、このハンバーグについて言えば見た目は普通。
普通というか、十分美味しそうな外観をしていた。
デミグラスソースはよく煮込まれた黒寄りの色で、ハンバーグはナイフで切ると肉汁が適度にあふれ出して食欲をそそる。
心梅とこりすも恐る恐る食べてみるが、やはり見た目通りの味であったようだ。
「はぁ~...よかったぁ...!」
安心からその場にへたり込むはるか。
彼女の献身的なサポートもあり、異物混入ハンバーグは回避出来ていたらしい。
「ってことは、こっちも...?」
ネモの視線はホリィの肉じゃがへ。
定番の豚肉とじゃがいも、にんじんにしらたき、グリーンピースはギリギリ確認出来る。
問題はそれ意外だ。
よく分からない形状の肉や魚介によく分からない葉っぱ。
よく分からない質感でよく分からない形の物は練り物だろうか?
とにかく、肉じゃがとは名ばかりのごった煮。
出来れば食べたくはないが、隣のメイドさんの眼力が食べることを強いてくる。
「......匂いは、まあ...。」
香り自体は和風だしな普通の匂い。
迷う視線は疲れ果てて俯く真珠へ。
「真珠があんなになるまでサポートしたんだ...アタシは、お前の頑張りを信じるぜっ!」
考えようによっては、これも最愛の人が作った料理の1つ。
愛で恐怖を乗り越え、ついにネモはその肉じゃがに箸をつけ口に運び。
そして。
「ウ"ッ...!」
声にならない叫びを上げ、息絶えた(比喩)。ネモは後に語る。
"宇宙を見た。"
コズミック肉じゃが事件と名付けられたこの悲劇は、たまネモの新たなトラウマとなったことは言うまでもない。
ほぼ不戦勝だが、第一回戦料理対決は蘭朶の勝利。
点数は30点満点中16点。
大方の予想通り、心梅とこりすが辛口であった。
「自信は、あったのですがぁ~...。」
―――――――――――――――――――――――
気を取り直して。
ネモの回復を待ち、程無くして第二回戦が開始される。
メインスタジオもそれに合わせ、さっきまでのキッチンとは大幅に違う姿となっていた。
『気を取り直して参りましょう!第二回戦はこちら!"バブみ爆発賢母対決"ー!!』
小夜の進行に合わせ、照明がスタジオ内を照らし出す。
ぬいぐるみや積み木などが辺りに散らばる一室。
その中心に普通より
ベッドに目を瞑れば、洋画に出てくるような"赤ちゃん部屋"そのもの。
第二回戦はこの場を用いて実施されるようだ。
『結婚すればそれでハッピーエンド...なんてことはございません!その先の"子育て"こそ本番!腕の見せ所!お二人にはこれから順番に
『え、わざわざ赤ちゃん連れてきたん?誰の?メイドさんの?』
結婚=家族を持ち家庭を営むこと。
確かに重要な要素ではあるが、そんな簡単にレベルなど計れるものなのか。
そもそも、赤ちゃんを巻き込むのは倫理的にどうなのだろうか。
会場の常識人たちは訝しむが、相変わらず小夜は微塵も気にする様子がない。
「あれ?お前そんなとこ座ってていいのか?」
「小夜に言われたに決まってんでしょ。なんかこりすは別に仕事があるとかで、真珠が代わりに審査員することになってんの。」
「ほーん。人手不足。」
「ぁに言ってんのよ。スーパーアイドルのスーパーなコメント力に震えなさいよね。」
「炎上待ったなし。」
「燃えてこそアイドルみたいなとこあるわよね...。」
いつの間にか隣に陣取っていた真珠をそんなもんかとあしらいながら、何やら引っ掛かるようなそうでもないような。
ネモの違和感は明るみに出ないまま、無情にも企画はそのまま進行してしまう。
『それでは赤ちゃんに登場してもらいましょう!カモン!赤ちゃんっ!』
ヴイーン...と静かに開くステージ内扉。
スモークの中からゆっくりと歩いて来るシルエットは小さくはあるが、赤ちゃんにしては
その姿を見留め、ほぼ全員が驚愕する。
「こ、こりすだあれェーーっ!?!?」
「...チューチュー。」
水色の赤ちゃん服によだれ掛け。
手に持ったガラガラにちゅぱちゅぱと音を立てるおしゃぶり。
完璧な赤ちゃん装備を装着し現れたのは、いつも以上に目が死んでやさぐれた表情のこりすであった。
どう見てもめちゃくちゃ嫌そうである。
『なんと!赤ちゃん役には我等がフェイバリットリトルシスターこと、こりすが志願してくれました!可愛いですねぇ!私がママになりたい!なんちゃって!』
『志願しとる目やないやろ視線だけで死人が出るわ。』
小夜は興奮してまったく気付いていないが、こりすのギラついた瞳は一直線に小夜を睨み付けていた。
勿論立候補などしていない。
小夜からの希望があったのは言うまでもないだろう。
いつものようにおもちゃで釣られた部分はあるが、今回は
『こりすがいなくてずっと寂しかったし...。』
とか。
『こないだまで、こりすの可愛い姿を見られなかったから...。』
とか。
チクチクこりすの良心に訴えかける物言いをしてきたのが小賢しい。
自己の尊厳的に赤ちゃんプレイなどやらせてもやりたくないこりすだったが、今回だけはタイミングが悪かった。
結局頷いてしまい、見事な赤ちゃん姿を披露することとなったのである。
『チュパチュパ...。』
物凄く嫌々にベビーベッドまで歩いていき、心から面倒くさそうに身体を横たえる。
本人には絶対言えないが、元々の愛らしさと合わせてかなり似合ってしまっている。
思わず吹き出してしまった真珠。
彼女の命はもう長く無いだろう。
『赤ちゃんが配置に付きました!それでは最初の挑戦です!先行、ホリィさん!お願いします!!』
「はぁ~い。」
会場の雰囲気がドン引きから回復しきれていない中、先程の扉から今度はホリィが現れる。
格好はさっきまでと変わっていないが、動きやすいように長い髪を後ろ手に結んでいる。
「ポニテだ...。」
どこかの魔王様が人知れず萌えを感じていたが、ホリィにそれは伝わない。
戸惑いながら、とりあえずベビーベッドに近付いていく。
「あのぉ~?」
「キッ。」
『おやおや。どうやら赤ちゃんはご機嫌斜めのようですね?』
『誰のせいや誰の。』
ホリィを睨み付けるこりす。
こうなった原因はお前たちだ、お前たちが悪い。
そういう憎しみの籠った瞳。
手を出せば噛みつかれそうな勢いだ。
ホリィは困りつつ、こりすが投げ出したガラガラを手に取り振ってみる。
『まずは赤ちゃん大好きガラガラ攻撃!しかしこりすにはまったく効果がないみたいです!』
『当たり前やろ。何歳児やねん。』
「困りましたねぇ~。」
どうしたものかと悩むホリィ。
周りを見渡し、今度は近くにあった哺乳瓶を拾い上げる。
中身は牛乳だが、勿論哺乳瓶から飲むなどプライドが許さない。
断固拒否して嫌がって、この女を心底困らせてやろう。
黒アリスモードになったこりすはそう意地悪くほくそ笑むが、直後にホリィが意外な行動に出た。
「いい子、いい子ですよぉ~。」
こりすを抱き上げ、優しく抱いてあやし始めたのだ。
こりすも最初は拒もうとしたのだが、絶妙な揺れに囁くような声。
落ち着く匂いに豊かな胸から来るふかふかな感触。
憎しみも消えるような、異様な程の心地よさ。
『ば、"バブみ"だぁーー!!ホリィ選手お題通りとんでもないバブみを発揮していまーすっ!!』
『けっ。どうせ胸やろ胸。』
驚くべきことに、ホリィは既に特殊スキル"バブみ"を修得済だったのだ。
流石は魔性の女。
あれだけ非協力的だったこりすが最早自分から抱きついている状態。
すかさず哺乳瓶を取り出し、彼女の口にあてがう。
「ミルクでちゅよぉ~。」
「...チューチュー」
「いっぱい飲めてえらいえら~い。」
「キャッキャッ。」
『赤ちゃんだ!?完全に赤ちゃんになってしまっています!天花寺ホリィ...恐ろしい人...!』
黒歴史を現在進行形で紡いでいるにも関わらず、こりすはもうすっかり赤ちゃんモード。
成すがまま、されるがままに赤ちゃんして、ついにはホリィの子守唄で気持ちよく眠ってしまったのだった。
『圧巻のパフォーマンスでした!審査員の皆さん、判定をお願いします!』
「お気の毒ですが、見事としか言えませんわね。10点。」
「流石ですホリィさん!10点!」
「こりすが可哀想過ぎる。7点。」
「勝手に減点してんじゃないわよ!」
「いったぁ!?」
結果として、ホリィの得点は合計27点。
かなりの高得点となった。
後攻に強いプレッシャーをかける形だが、蘭朶もただ負ける気はない。
彼女にしては力強い表情で、ホリィと入れ替りでセットへと入って来る。
「蘭朶...。」
「大丈夫だよ、みっちゃん。アタシ...負けないから。」
「ツインテ...。」
ホリィに対抗するように、蘭朶は髪をツインテールにして登場。
地雷系感がスゴいが、これはこれでいい。
やっぱり本質的に二股思考なみち子。
そんな二人の間をマキナが
「赤ちゃん役、変えるの...?」
『そうなんですよ。
「本人...?」
何だか物凄く嫌な予感がする。
蘭朶が、みち子が。
そして心梅が寒気を感じてビクッと大きく震えた。
思い出したくもないので考えないようにしていたが、言い出しっぺは小夜以外にもう一人いたはず。
企画が始まる前も始まった後も、あの眼鏡の姿を誰も見ていない。
頼む。
どうか間違いであって欲しい。
三人の祈りを一身に受け、ついに奴がその姿を現した。
「ばぶぅ!♥️ばぶばぶばぶぅー!ですわ!♥️
わたくし赤ちゃんでちゅのぉ!♥️」
「いっそ殺してくださいまし…!」
「Oh...強く生きろよ先輩。」
こりすとは色違いの赤ちゃん服。
無駄にいいスタイルをそれに押し込め、一切の恥ずかしさも見せずにばぶばぶ言う特級のど変態。
満を持して登場した百花は、気持ち悪いくらい速いハイハイで以て蘭朶に近づく。
「蘭朶ママぁ!わたくちおなかすきまちたのおっぱいおっぱい吸わせて欲しいでちゅの!あとオシメもしっかり替えてお股をやさしくふきふき♥️してくだちゃいま」
「フ"ン"ッ!!」
「めぎゃぁっ!?!?」
あまりにあれな発言で迫る変態が怖かったのか、それともいい加減我慢の限界だったのか。
蘭朶の渾身の右ストレートが顔面に突き刺さり、変態眼鏡赤ちゃんは沈黙する。
コイツは会場の9割が身内であることを忘れているのではないだろうか。
メイドさんたちと心梅に新しいトラウマを植え付け、変態は強制退場。
蘭朶も一応赤ちゃんを殴ってしまったことになる為、残念ながら失格扱い。
正当防衛と擁護する声もあったが、彼女の方にも再チャレンジする気力は残っていなかった。
恐るべし、桃森百花。
全員をいたたまれない気持ちにさせながら、第二回戦はホリィの勝利で決着となるのだった。
「百花...殺すっ...!」
「アイツだけもう一度眠らせるとするか。
一生な。」
―――――――――――――――――――――――
『さあ、正妻戦争もいよいよ最終戦!ここまでの熾烈な争いを振り返って、薫子さんいかがですか?』
『0か100しかないんか?もうちょいバランス良く出来んの?先が思いやられるなぁ。』
多方面に被害を与えたこの女同士の仁義なき戦いも、最終局面を迎える。
現在戦績は1対1。
この最終戦を獲ったものが、正式に田中みち子の正妻の地位を手に入れるのだ。
「いや、私は認めていないが...」
罪悪感からか相変わらず萎らしいみち子。
座席はゲスト席から、審査員席の中央に変更されている。
「実際どうなんすか?シスタ、じゃなくてホリィさんと蘭朶さん、どっち好きなんです?」
「だからどっちと聞かれてもな...。」
正直に言えば、みち子は天花寺ホリィに恋愛感情を抱いている。
そもそも好みだったから。というあれな理由もあるが、秘密を抱えている時から彼女の内面を理解し、その魅力に心奪われていたのは間違いない。
しかし、蘭朶に対してそういう感情がないかと言われれば嘘になる。
死を望む程に辛い時期に自分を支え、嘘偽りない愛情を注いでくれた。
彼女の魅力は自分が一番よく知っていると胸を張って言える。
世話を焼くのも楽しくて、ずっと側にいて欲しいと思える。
「決着着いても納得いかないんじゃないっすか?」
「それは...そうだろうな。」
「はぁ...しゃーない。」
煮え切らない、というより
ネモは諦めたように笑うと、立ち上がってこの戦いの中止を進言しようとする。
『お待たせしました!両者の準備が済んだようですので、これより最終戦!"魔性の女!セクシーアピール対決"を開始しますっ!』
だがタイミング悪くアナウンスが入り、会場の準備が既に完了したことを告げた。
セットは先程の子ども部屋から、怪しいネオン輝くダンスフロアに。
中央の"お立ち台"は段差が作られており、ちょうど審査員席と同じくらいの高さとなっている。
『最終戦は何より大事な女性としての魅力、つまりセクシーさを競って頂きます!』
『いきなりR指定のお話するやん。魔法少女的にはNGやね。』
「え、えっちなのはダメだよぉ!?///」
料理、子育てと来て最後は"夜の営み"。
セット的にそんなにそのままなことはしないと思うが、魔法少女的にはえっちなのはNGらしい。
何を今更とか、その魔法少女が主催ですよとか言ってはいけない。
それより視界の隅で全裸で磔にされている百花については放置していてもいいのだろうか?
あちらの方がよっぽど卑猥だが、彼女たち全員が視線を合わせようとしない。
きっと外でつい見掛けてしまったGみたいな扱いなのだろう。
「おいたわしや、お姉様...」
『セクシー競うて、どないするん?』
『いい質問ですね!それではこれより、トップアイドルによるデモンストレーションを行いますっ!』
「トップアイドル...?」
確かにホリィはトップアイドルだったが、それではデモンストレーションではなく本番だ。
不思議に思うみち子の横で、ネモは気付いていた。
トップアイドルの後ろに、"(自称)"と付くことに。
「み、見んじゃないわよばかネモっ...///」
「真珠ぁー!?///」
ステージに現れたのは露出激しい水色のランジェリーを身に付けた真珠だった。
よく似合っているのもあるが、恥じらう姿がより一層ネモの心を擽る。
顔を真っ赤にしながら、真珠が始めたのは付け焼き刃にしてはしっかりした"ポールダンス"であった。
お立ち台の支柱を巧みに扱い、くねりくねりと艶やかなダンスを披露する。
派手さはないが、普段から鍛えていないと叶わない体幹を酷使する動作。
真珠のアイドル根性が成立させるその真剣な動きがネモを、この場にいる全員を魅力していく。
「もう二度とやんないわよ、まったく...///」
ダンスを終えると、会場が割れんばかりの喝采で包まれる。
満更でもない顔をして、真珠は舞台袖まで下がっていった。
「ま、たま...///」
そしてそれを見ていたネモもまた、メイドさんに担ぎ出されていった。
鼻血を出して倒れたところを見るに、真珠のセクシーアピールは彼女に効果抜群だったようだ。
『素晴らしいパフォーマンスでしたね!これで皆さんにも彼女の魅力が伝わったかと思います!』
『あぁ、まぁ...確かにやらしいだけやなかったけども。』
『判定基準はシンプル!どちらがよりセクシーだったかを、当人であるみち子さんに選んで頂きます!』
『え!?待ってくれそんないきなり直接なっ!?』
『それでは、最終戦を開始します!先行は蘭朶さんですっ!』
最終戦を判定するのは審査員ではなく、まさかのみち子本人だった。
迷う暇も与えられず、セクシー対決開幕のゴングが鳴り響く。
「みっちゃん...見ててね...。」
「ら、蘭朶おまえ!?///」
黒と白のランジェリーを着て登場した蘭朶。
ところどころを拘束具のような金具で縛られ、彼女自身が空けたピアス穴と合わせてアブノーマルな魅力を引き立たせている。
日常とは違う刺激的な姿に、自然とみち子の胸は鼓動を早める。
『それでは、ミュージックスタート!』
「れろ...」
蘭朶のパフォーマンスがスタートする。
ポールを愛おしそうに下から上に舐め上げ、ダウナーの彼女からは想像もつかないような激しいダンスを始めた。
腰を振り、身体を大きく使い、髪を振り乱して。
その姿は獣のように荒々しい。
真っ白な彼女の肌に汗が浮かび、ライトを浴びて艶やかに煌めく。
生と死を同時に表すような、相反する印象と動作。
それもずっと、みち子の目を見たままでやってみせた。
普段の気が抜けのんびりとした蘭朶とは正反対のパフォーマンスに、みち子は思わず頬を赤く染めた。
「みっちゃんなら...アタシ、なにされてもいいよっ...///」
「っ...!///」
そして最後の瞬間。
ポーズを決め、ダンスをまとめ上げた彼女はみち子にだけ聞こえるよう、"誘い"の言葉を口にする。
照れながらはにかむその姿は、みち子の知る蘭朶の笑顔で、一番素直で美しいように思えた。
自分の為に、必死で慣れないことをしてくれた。
みち子の心にはっきりと蘭朶への恋心が芽生えた瞬間だった。
『蘭朶さん、ありがとうございました!ギャップ萌えの極致!みち子さんにも効果は抜群だったようですね!』
『刺激強いわぁ...これウチら見てて平気なん?』
会場の反応も上々。
眠っているこりすと"破廉恥ですわぁ!?"と退場していった心梅以外には好評のようだった。
『続いては後攻!ホリィさん、よろしくお願いします!』
熱気冷めやらない中、息つく間もなく後攻のホリィがステージに立つ。
紫の大胆なランジェリー姿。
目を惹くのはやはり彼女の豊かな谷間。
ヒップも大きく、腰のクビレにも余念がない。
高い身長に加えてこの見事なスタイル。
彼女自身が持つ生来のエロティックさに、みち子はゴクリと唾を飲み込んだ。
「みち子さまぁ...私はもう、あなたのモノですよぉ。」
「ホリィっ...///」
スローテンポのBGMが鳴り響く。
蘭朶とは真逆の、ゆったりとした動作。
しかしそれは彼女の破壊力抜群の身体をまざまざと見せつける為。
柔軟さ、包容力。
どれだけ柔らかく、甘く、そして心地よいか。
自分をまるで商品を紹介するかのように見せびらかし、下品な程に媚びる。
大きな乳房でポールを挟んだり、内腿をこすりつけたり。
蘭朶にあった少女らしさとは違う、成熟した大人の雌としての魅力。
それをただひとつの愛を手に入れる為だけに惜しみ無くさらけ出す。
「お好きに、なさってくださぁい...///」
「ブッ..///」
ダンスが終わると共に、ホリィもまた最後のアピールをみち子へ送る。
嘘偽りのない、彼女からの好意と劣情。
所詮生娘のみち子には耐え切れる物ではなかったようで、鼻血を吹き出して意識を失ってしまった。
『いやぁえろい!すごい!私も今度誰かにやってもらおう!』
『言うとる場合か。みち子はん倒れてしもたやないの。』
「みち子さま!」
「みっちゃん!」
倒れたみち子に駆け寄るホリィと蘭朶。
幸せそうに気絶した姿を確認し、これでは判定は期待出来ないと理解する。
「仕方ありませんねぇ...」
「手っ取り早く、終わらせる...」
そう瞳で語りながら、二人は同時に星とハートのトランスアイテムを構える。
最終戦は引き分け。
サドンデスという名の真の決戦が、
まさに今。
始まろうとしていた。
―――――――――――――――――――――――
「うっ...」
みち子が目を覚ますと、そこは瓦礫の山だった。
...というのは些か誇張し過ぎだが。
立派なスタジオは最早見る影がなくなっていた。
砕けたモニターに、席があった部分は潰れて場内は慌てて避難するメイドさんでごった返していた。
「皆さん落ち着いて避難を!お姉様はほっておいて構いませんわっ!」
「ちょ心梅っ!?いくらギャグ要員でも全裸で流れ弾喰らったら速攻でお陀仏ですわよ!?」
「桃森家の為ですの...!」
「家督争い!?」
縛られた百花のすぐ横を、黒いエネルギーの刃が通り過ぎる。
その放たれた方向を追うと、漸くこの惨状の張本人たちが見つかった。
「あなたは、邪魔...!」
「それはこちらの台詞ですよぉ...!」
交差する二つのデスサイズ。
白と黒、正反対の色合いの死神が互いの感情を爆発させながら激しくぶつかり合う。
「シスタ、ベルゼルガ...!?」
「やっと起きたのね、みち子。」
いつの間にか背後に立っていた小夜。
真剣な表情で戦いを見つめるそのまた後ろにははるかや薫子、エノルミータの面々もいた。
「お前たち何故止めない!?今の二人では殺し合いになりかねないんだぞ!?」
「それはそうよねぇ...。」
「や、やっぱり止めないとじゃないかな!?」
「ダメよ。私たちにその権利はないわ。」
真珠やはるかは現在進行形でボロボロになっていく建物に不安を募らせているが、小夜はぴしゃりとその意見を否定する。
「わけが分からない!なら私がっ」
「勝手にすれば?
「っ...!?」
冷たく言い放たれるが、みち子に返せる言葉はない。
血で作り出した二つ目の鎌を狂ったように振り回し一気に削りきろうとするベルゼルガ。
シスタはそれを紙一重で防ぎ後退し、巨大化させた鎌を乱暴に叩き付ける。
衝撃でパラパラとコンクリートが落ちてきて、みち子の綺麗な黒髪を白く汚した。
「見なさい。そして聞きなさい。彼女たちの想いをね。」
「二人の、想い...」
魔力の刃と血の刃を放ち合い、それぞれ1つが撃ち漏れて互いの頬を浅く裂く。
それでも二人は気にした様子もなく、また標的目掛けて一直線に飛び、駆け出す。
「あたしはお前を許さない...!ボロボロのみっちゃんを捨てて、裏切って...!みっちゃんがどれだけ傷ついて!どれだけ寂しがってたか知らないでしょ...!!」
「あなたに何が分かるんですか...一緒にいたくてもいられない気持ちを、あの方に縋るしか出来ない弱いあなたが...!」
血を操作し獣の牙のようなものでシスタを噛み砕こうとするベルゼルガだが、シスタは身体を縮小させそれを回避。
死角から大きさを戻し首をはねようとする。
「あの方には助けが必要なんです!あなたのような足手まといでは枷になるだけ...!支えられないのならば私が排除します...!」
「足手まといじゃ、ない...!」
しかし位置を予想したのか、ベルゼルガは振り返ることもなく体勢を変える。
空を切る鎌はそのまま地面に突き刺さり、すかさず放った蹴りで後方へシスタの得物を吹っ飛ばすことに成功する。
「あのブランが、シスタと渡り合っていますわ...。」
本来実力で劣るはずのベルゼルガがシスタと互角に戦えている理由。
それはひとえに、"想いの力"の影響である。
「分かる?みち子。あの二人は今すごく怒ってる。でも、それをあなたに向けはしない。」
「...」
「何故なら、あなたを愛しているから。彼女たちの怒りは純粋な愛故に互いを認められないという、あなたへの思い遣りから来るモノなの。自分の都合で暴れているわけではないのよ。」
この状況の原因は間違いなくみち子だが、彼女たちに聞けば二人共に"彼女のせいではない"と答えるだろう。
ベルゼルガは散々傷つけ今更支えると言い出したシスタが気に食わない。
シスタは足を引っ張るだけの、庇護される対象であるベルゼルガが邪魔になると思っている。
互いに"どの面を下げて側にいるつもりだ。"と怒り吠えているのだ。
「尤もらしいこと言って、上手いこと責任逃れしてるだけだよな?」
「コクリ。」
「面白がったんは小夜に非ぃあるしなぁ。内心どないしよって焦っとるやろ。流石に。」
「そこうるさいわよっ!?」
必死に今までふざけていた分を取り戻そうとしているのはともかく。
言っていることは間違っていないはず。
そう自分を鼓舞し、小夜はみち子に諭すように話続ける。
「理解した?その上で、あなたはどうするの?このままどちらかが倒れるのを傍観する?それとも力ずくで止める気かしら?」
「私は...」
心などとうに決まっている。
どちらかを失うなど許容出来るはずがない。
ただ、それは自分のわがまま。
だからこそ、伝えなければいけない。
そのわがままを受け入れてもらうには、それに相応しい"誠意"を見せるしかないのだ。
「彼女たちに負けない"献身"を示す...!」
決意した表情でみち子は二人の元へ走る。
「いい加減...トんで...!!」
「あなたこそ、潰れなさい...!!」
業を煮やした二人は決着の一撃を放とうとする。
全霊の魔力を込め、互いの鎌を巨大化。
天井を貫く程の赤と黒の刃が閃き、敵の首を狙い定め魔力という涎を絶え間無く滴り落とす。
回避など関係ない、全力のぶつけ合い。
周りも何も考えないその狂気の一撃を今、振りかざす。
「死んで...!!」
「死になさい...!!」
「殺すなら私を殺せぇぇーーっ!!!」
「「っ!?」」
命を刈り取る死神の鎌。
その間に、無防備なみち子が飛び込んだ。
呆気に取られながら、最愛の人を手に掛けられないと二人は刃を静止させようとする。
それでも止まらない刃に、思わずみち子は目を瞑る。
「!......っ?」
しかし、数秒経っても心臓の鼓動は止まっていない。
恐る恐る目を開くと、左右には痛そうにお尻をさするホリィと蘭朶の姿があった。
「何をなさっているんですかぁ!?」
「み、みっちゃんが死んじゃうところ...!」
物理的に止められないと察した二人は変身を無理矢理解除。
地上に落下し、派手に尻餅をついたというわけだった。
いつも通りの顔に戻った二人に少し安堵した後、みち子は再びその表情を険しくする。
彼女からすれば、ここからが本番だからだ。
「二人とも、よく聞いてくれ。」
「みっちゃん...?」
「みち子さま...?」
戸惑う二人の瞳を順番に見つめ。
自らの衣服に手をかけ、そして。
勢いよく、
「本当にッッ!!すみませんでしたあぁぁーーーッッッ!!!!」
「みち子さまあぁぁっ!?!?///」
「はだか...えへ///」
「よし、RECよ。」
「やめいアホ。」
選ばれたのは、"全裸土下座"でした。
一糸纏わぬ姿から繰り出される完璧な角度での土下座。
地面に頭を擦り付け、誠意の謝罪を叫ぶ。
奇しくも公共の場に全裸が二人いることになってしまったが、変態と違ってみち子は至って真面目である。
「二人の一途な気持ちを裏切ってしまって、本当に申し訳ないと思っている!だが、どうか互いに傷つけ合うことだけはやめてくれ...!私にとっては蘭朶もホリィも、命より大切な存在なんだ…!ずっと側にいて欲しい存在なんだ...っ!」
ホリィがいたからこの世界を好きになれた。
蘭朶がいたからこの世界で生きていたいと思えた。
二股であることは確かだ。
だが、そこに不純な気持ちは持ち合わせていない。
たとえ嫌われたとしても、二人が何より大切なのは変わらない。
その気持ちだけは、絶対に嘘偽りではないのだ。
「わがままなのは分かってる!だけど、もし許してくれるなら...これからも一緒がいい!大好きなんだ、お前たちが!二人とも愛している!!」
言い訳せず、取り繕わず。
みち子はわがままで素直な自分の心を告げた。
「今の告白、勢い以外最悪じゃない?」
「しー!ダメだよ真珠ちゃん...!」
「悪いかどうか決めるのは、彼女たちよ。」
史上最低のプロポーズ。
罵倒されるのも見放されるのも覚悟の上。
ギュッと目を瞑るみち子。
それに対する二人の答えは。
「...あたしも、ずっと大好きだよ。」
「言うまでもなく、お慕いしております...。」
それぞれの上着を脱ぎ、みち子の裸を隠すように被せる。
二人は顔を同じように赤く染めて、それぞれがみち子の手を片方ずつ握った。
「あたしのこと、好き...?」
「ああ...!」
「私のことを、愛してくれますかぁ?」
「ああ...!」
「なら、いいよ...。」
「我慢して、差し上げますねぇ。」
二人は互いに見つめ合った後、苦笑いを浮かべる。
こんな姿を見せられたら、これ以上殺し合うわけにはいかない。
その気持ちだけは相手と同じで、通じ合ってしまったことが分かったからだ。
「いい、のか?本当に...?」
「みち子さま程のお人であればぁ、妻が複数いてもおかしくはないと思うので~。」
「でも、これ以上はダメだよ...?増えたら、死ぬ。あたしが。」
「はい。分かっているのでどうかそれだけは勘弁してください。」
再度深く深く土下座し、それを二人が左右から助け起こす。
二人の温もりを感じて、みち子も自然に頬を紅潮させる。
「上手く纏まったようね。」
「礼は言わんぞ。」
「いらないわよ、私たちの仲でしょ?」
「殺し殺されの仲か?」
「だとしたら、その相手を庇うあなたって破綻してると思わない?」
「見ての通りだ。」
近付いてくる小夜に対し、みち子は嬉しげに二人を抱いて見せつけてくる。
調子のいいことだと呆れつつ、すれ違い様に小夜は小声で呟いた。
「あなたは幸せになっていいの。いつかなんて、考える必要はないわ。」
「!......そうかも、しれないな。」
転生者と憑依者。
その違いはそこまでないように見えて、"深刻"であるとも考えられる。
だから小夜と違い、みち子には"遠慮"があったのだ。
それでも、責任を果たせなくなる恐怖を抱えていた彼女の背中を押せるのは、近しい立場の小夜しかいなかった。
ふざけながらも、そこには確かに彼女の思い遣りがあったのだ。
小夜のそんな不器用な優しさを理解して、みち子は僅かに微笑む。
「お前もさっさと取り戻せ。二股仲間としては、応援してやる。」
「余計なお世話よ、二股魔王様。」
今の小夜には、左右にあったはずの温もりがない。
空を切る腕を下ろし、拳を握り締める。
小夜は人知れず覚悟を決めた。
もう、終わりにしよう。
いい加減、我慢の限界なのだから。
「あの...もし?わたくしいつになったら降ろしてもらえますの?...くしゅんっ!」
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◼️□Next episode◼️□
第4部最終回前編
『
次回は気長に待ってください←
まほあこの二期よりは早く投稿している、はず。
読了ありがとうございました。