魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~   作:月想

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タイトルで期待しましたね?これがメンタリ(
残念ながら過去最高にシリアスです。
なんか色々と伏線を撒き始めています。
話を盛り上ける為には仕方がないのです...。


第6話『逆境アズール』

「季節のスペシャルさくらんぼパフェでお待ちのお客さま~?」

「はいあたしですっ!わぁー!おいしそ~!」

 

放課後、ファミレスにて。

トレスマジア恒例の、作戦会議が開催された。

わたしも魔法少女になってから2ヶ月近く経つし、そろそろ二人とお話するのにも慣れてきた。気がする。

 

「ん~!おいしぃ~!」

「あんなぁ...。もうちょい緊張感持って話さへんか?作戦会議なんやろ、一応。」

「ほうはは?もぐもぐ」

「飲みこんでから喋りや...。」

 

マイペースなはるかちゃんに、しっかり者の薫子ちゃん。

二人のいつも通りのやり取りが続いている。

 

「いい加減、アイツら何とかせんとアカンで。こない長引いたこと今までなかったやろ?」

「ごくん。...それだけ、あの子たちが強いってことじゃない?」

「強いんやなくて変なんや!」

 

薫子ちゃんが語気を強める。

今日の話題はトレスマジアの敵、エノルミータ。

その中でもわたしたちが知る幹部である、あの三人のことだ。

 

「変、かぁ。あのネロアリスって子、どう見てもまだ子どもだよね。あたしたちと戦ってる時も、まるでお人形遊びしてるみたいに楽しんでる感じだし。」

「遊ばれる身にもなって欲しいわ...。あの、アホ丸出し団子女はともかく。一番はあのアズールや。」

「レオパルトも強敵だと思うけどなー。」

 

ルシファアズール。

わたしたちが最初に出会った強敵。

水と氷を操る、和風の衣装と鬼の角がかわ...じゃなくて、特徴の女幹部。

 

「何がしたいのかさっぱり分からん。うちらを痛めつけるだけで倒さずに済ましたり、反対にマリーノに痛めつけられたり。どちらにせよ満足した顔しくさって...!」

「あはは...。こないだの水責めはキツかったねー...。」

 

戦うこと自体を楽しんでるというか、わたしたちとのやり取りを楽しんでる、のかな?

常に余裕そうなのに、わたしの攻撃には当たったり...。

 

「一番ムカつくんは、あれがまるで本気出しとらんってことや。」

「あたしたちじゃ、倒せないってこと...?」

「分からん...。でも、いつまで向こうがお遊び気分かも分からんやろ。だから、問題やって言っとんのや。」

「...っ。」

 

魔法少女を、()()()()()()()()()()

彼女は確かにそう言った。

じゃあやっぱり、アズールの目的は...。

 

「うてな。ちょお聞いとる?うてな!」

「はい...?」

「はい?やなくて。さっきから何も言わんし。どないしたんぼんやりして。」

「ご、ごめんね...話し合いの最中なのに...。」

「気になってたんだけど、その大事そうにずっと持ってるチラシはなぁに?」

「あ、これは...。」

 

ずっと眺めたままのチラシ。

自然と笑顔になりながら、このチラシについて説明する。

本当はすぐに誰かに話したかった、そんな嬉しい出来事を。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「こ、これ!魔法少女展のチラシ...っ!?」

「一緒に、行ってくれないかしら。うてなが良ければだけど...。」

 

どことなく遠慮がちにチラシを見せる小夜さん。

 

『魔法少女展』

 

リアル、二次元問わず、魔法少女の歴史を衣装や原画等、様々な展示で感じることができる、まさに魔法少女好きの為にあるようなイベント。

会場限定グッズもあって、もちろんわたしも初日に参戦するつもりだったんだけど...。

 

「わ、わたしで...いいんですか...?」

「うてながいいから誘ってるの。」

「じゃ、じゃあ...はい...ぜひ...///」

「ありがとう!今から楽しみだわ。」

 

こういうの初めてで、なんだかちょっと恥ずかしい。

相手はあの小夜さんだし...。

 

「でも、意外でした...。小夜さんも魔法少女、好きなんですね。」

「女の子なら誰でも一度は通るものじゃない?可愛くて、かっこよくて。わたしだって憧れはあるのよ?」

「そ、そうなんですね...っ!」

 

は、初めてだ!魔法少女が好きな、お友だち...!

色々話したい!好きな魔法少女とか!好きな魔法少女アニメとか!

......と、爆発しそうな気持ちを亀甲縛りで抑えつける。

鎮まれわたしの本能...!

急なオタクテンションは常人にはあまりにも痛過ぎる。

ましてや相手はあの小夜さん。

絶対に嫌われたくない。

 

「ふふっ。そういう話も、その日にたくさんしましょうね。」

「っ!は、はいっ!///」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「えへへ。ということがその、ございまして...///」

「ほぉー。あの小夜がなぁ。ちょい意外やわ。」

「小夜ちゃん魔法少女好きなの!?じゃあなんで魔法少女になってくれないの!?

まさかあたしのこと嫌い!?(涙)」

「またその話かいな...。」

 

確かに。よく考えば、好きなのにやらないってよっぽどの理由だよね。

や、やっぱり彼氏さんとその。色々忙しかったり...///

 

「...まあ、でも。今の状況を打開するには、悪くない手ぇかもなぁ。」

「へ?」

「人数が増えれば単純に戦力アップになるし、それが小夜ならかなり期待できるやろ。」

「そうだよ!それに小夜ちゃんならきっとすごく可愛いしっ!」

 

それは、そう。同意せざるを得ない。

思わずうんうん頷いてると、薫子ちゃんが魔法少女らしからぬ悪い顔でわたしの方を見つめてくる。

あれ?それだといつもとあんまり変わらないような...。

 

「毎回思てたんやけど、なんやうてなには甘いよなぁ。小夜は。」

「そ、そうかな...?」

「はるかじゃダメやけど、うてなから頼まれたら断れんのと違うか?」

「え、えぇ~...?」

「あたしがダメなのは確定なの...?(涙)」

 

いや、彼氏さん云々ならわたしから頼んでも特に返答は変わらないのでは...?

 

「む、無理だよぉ~...。もしそれでわたしまで嫌われちゃったら...辛いというか、悲しいというか...もう死んじゃうというか...。」

「待って、ねぇ待って。嫌いなの?(泣)」

「つべこべ言わずに腹決めぇや!ええか!小夜をしっかり堕としてき!」

「そ、そんなぁ~...っ!」

 

話すんじゃなかった...。

激しく後悔しながらも、手に持ったチラシを眺めては、結局にやけてしまうわたしなのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「よし...。準備できた...。」

 

鏡を見て、服にしわがないかとか、変じゃないかとかを確認する。

ちゃんと30分前には待ち合わせ場所に着く時間。

行こう。

別に。別にただ、一緒にお出掛けするだけ。

で、でででデートじゃないし...っ。

き、きんちょーしてっ、ないしっ!

 

「い、イテキマースっ!?」

「気をつけてね~。」

 

待ち合わせ場所に向けて歩きながら、今日の予定を確認する。

魔法少女展を一緒に見る。...終わり。

 

「さ、さすがに一緒にごはんくらい...マジメイト、は小夜さん大丈夫かな...?カラオケはまだハードルが...。」

 

あれこれ考えながら道を行く、その時。

 

「!これ、魔物...?」

 

頭に響く感覚。

近くで魔物が現れた合図だ。

待ち合わせと小夜さんの顔がちらつくけど、見逃すわけにはいかない。

 

変身(トランスマジア)!」

 

一目につかないよう路地に隠れ、変身を終える。

こういう時飛べるタイプの魔法少女でよかったと思う。

いつもより速度を増して気配に近づく。

そこでわたしの目にしたモノは。

 

「フ...ッ!」

「え...?」

 

魔物から()()()()()()、ルシファアズールの姿だった。

 

「邪魔よ...!」

 

氷の剣を手に、女の子を庇いながら魔物たちを切り裂いていく。

その姿はまるで、氷上を華麗に舞っているようで...。

気付けば辺りを囲んでいた魔物は全て凍りつき、砕け散っていた。

 

「あ、あの...?」

「!...あら、ずいぶん遅い到着ね。正義の味方さん。」

 

わたしを見た途端、いつもの調子で不敵に笑うアズール。

でもその腰には、不安そうにずっと女の子がしがみついていて。

 

「なぜ仲間の魔物を...。」

「仲間?あんな意思も誇りもないモノをわたしと一緒にしないで欲しいわね。」

 

彼女たちが操っているわけじゃない?じゃ、じゃあいったい誰が...。

 

「さ、あなたたちの大好きな魔法少女が助けに来てくれたわよ。早く行きなさい。」

 

そう言って優しく女の子をわたしの方に向かわせるアズール。

 

「だ、大丈夫だった?ケガはない?」

「うん...あのね。わるもののおねーちゃんが、まもってくれたの。」

 

アズールはわずかに微笑んだかと思えば、すぐに表情を厳しくして飛び立つ。

 

「ま、待って!あなたは...っ!」

 

あなたは、本当は。

()()()なんですか...。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「す、すみません小夜さん...っ!!せっかく誘ってもらったのに、遅れちゃって...っ!」

 

魔物のせいで待ち合わせ時間にすっかり遅れてしまった。

小夜さんには事情を話せるものの、待たせてしまったのは事実。

まずは謝らないと。

や、やってしまった...。せっかく念入りに準備したのに。

 

「そんなに謝らなくても大丈夫よ?わたしもちょっと遅れてしまって、今来たばかりだし。...それに、聞いたわよ?お休みの日に大変だったわね。お疲れさま。」

「あ、あはは...。バレてました、か。

ありがとうございます...///」

 

魔物騒ぎがあったこと、小夜さんにはお見通しだったみたい。

改めて小夜さんの姿を見る。

こないだの巫女服もよかったけど、今度はすごく大人っぽくて。

同い年なのにお姉さん味を感じる。

相変わらず、ずるい。

 

「あのその...!ききキレイっれす...!///」

「そう?少し恥ずかしいけど、ありがとう。うてなも素敵だと思うわ。」

「そんな素敵だなんて。えへへ...///」

「さあ、少し遅れてしまったし。急ぎましょうか。」

「は、はい...。」

 

そう言いながら、わたしの手を引いて駆け出す小夜さん。

そういえば、小夜さんと初めて会った時もこうやって...。

 

「うてな?どうしたの、ぼーっとして。着いたわよ?」

「って早い!回想してる暇もなかった...。」

「回想?」

 

会場前の看板が目に写る。

二次元とリアルの有名な魔法少女が入り乱れる中、センターを飾るのは我らがトレスマジア。

見ようによっては大抜擢だが、この街のイベントだからだろうか。

マゼンタの笑顔はいつも通りキラキラで可愛いし、サルファも普通に笑顔なのが今や貴重に思える。

二人とも非常に推せる。

問題は、残りのもう一人だ。

 

「きゃーはずかしぃ...///」

「そんなこと言って。ノリノリのいい笑顔じゃない、このこの。」

 

普段とは似ても似つかない満面の笑顔。

わたしことマジアマリーノも、畏れ多いことに二人と並んでセンターを張っていた。

 

「こ、これはその...早く笑わないとサルファちゃんのイライラゲージがスゴくて、ですね...。」

「あ、ああ...。それは...大変だったわね。」

「はぃ...。」

 

完全にヤの付く人みたいな剣幕だった。

あれはトラウマになる。なった。

 

「まあ、あなたのことだからカメラの前でひたすらマゼンタに可愛いポーズでもしてもらったんでしょうけど。」

「な、何で分かるんですかっ!?」

「マゼンタと言えば。この前はるかから『小夜ちゃんあたしのこと嫌いなの!?あの時のあれは嘘だったの!?』って問い詰められたのだけど。何か知ってる?」

「あ、あー。...発作です、いつもの。...あの、あの時のあれって...?」

 

そんな裏話兼雑談をしながら列に並ぶ。

すると、わたしたちの後ろにも列ができていくんだけど。

 

『あ、この子!今朝の襲われてた子だ。』

 

お母さんと手を繋いでいる女の子。

先程送り届けてきたばかりのあの子だ。

魔法少女展に行く予定だったんだ...。

やっぱり、魔法少女は女の子のあこがれなんだなぁと、勝手に感動していた時。

 

「あれ~?」

「ん?」

 

女の子が小夜さんを見て、気の抜けた声を上げる。

そしてそのキョトンとした顔のまま、小夜さんの腰に抱き着いた。

 

「あ!こら、なのは?いきなり抱き着いたらお姉さんびっくりしちゃうでしょ?」

「ふふっ、大丈夫ですよ。...知ってる人と、間違えちゃったのかな?」

「しってるおねーちゃんだもん!」

 

小夜さんは女の子と同じ目線で何かジェスチャーをしてるみたい。

女の子ははしゃぎながら、お母さんのところへ戻った。

 

「あのね、しーっ!なんだよ?」

「ふふっ、優しいお姉さんでよかったわね。ごめんなさいね、娘が急に。」

「大丈夫ですから。可愛い娘さんですね。」

「ふふっ、ありがとう。」

 

にこやかにお母さんとお話する小夜さん。

すごいなぁ、初対面なのにあんなに自然に。

わたしですか?気配を消すのは得意なので...。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「しゅ、しゅごいー!!宝の山だ人類の至宝だぁー!!」

「気持ちは分かるけど少し落ち着きなさい?(汗)」

 

会場内にはさっそく魔法少女所縁の品々が展示されていて、先程からうてなのテンションは有頂天だ。

一歩歩くごとに立ち止まり、展示ガラスに貼り付く勢いで展示品を見つめている。

大丈夫かな?警備員さんがチラチラしてる気がする...。

 

こりすもキウィも、家族旅行でいないこのタイミング。

運良くこの展示会が開催されることを知って、思わずうてなを誘ってしまったけど。

楽しそうにしてくれて、本当によかった。

 

ちなみに、わたしもそれなりに楽しんでいる。

これでも前世はアニヲタだったのだ。

幼い頃からアニメは何でもよく見ていたとも。

もちろん、魔法少女物は欠かさずチェック済だ。

 

「あ、これ。ミラクルみみるの原画みたいね。確か、追い詰められた時の作画が無駄によかった覚えがあるわ。」

「分かるんですかっ?!」

「え、ええ...。多少はね。わたしが好きだったのは、あの回。ライバル枠の女幹部がみみるを庇って...」

「分かりますっ!!あれは熱いシーンでしたよね!!」

 

そういえば、こんな風にアニメの感想とか好きなシーンとか言えるの、久しぶりだな。

って言っても、相手はいつもあの変態で残念な先生だったけど。

 

「あ、これ。トレスマジアの衣装じゃない?」

「ぐ...っ!?推しの衣装を間近で見れて幸せなはずなのにまるで黒歴史を晒されているような苦しみが!?」

「難儀な子ね...。しかし、リアルな作りだわ。」

 

幾度となく本物を間近(意味深)で見てきたわたしでも見分けがつかない、精巧な出来だ。

 

「まさか!あなたたちっ...、変身して脱ぎたての衣装を...!」

「いや流石にレプリカですよ。...待てよ?わたしが加入する前に二人が脱いでいた可能性が微粒子レベルで...?」

「言っておいてなんだけど、それはないわ。」

 

先生、知ってる?

私今、推しとデートしてるんだよ?

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「いやぁよかったですね!ミラクルみみるリバイバル上映!エピソードのセレクトもなかなかでしたっ!」

「そうね。相変わらず妙なところで作画が細かくなっていたけど...。」

 

みみるが縛られる時とか、倒される時とか。

ちなみに作画が良くなる度にうてながテンションを更に上げていた気がする。

まさかマジアベーゼを作り上げたのは、全年齢対象のミラクルみみるだった...?

 

「さあ!最後は待ちに待ったグッズコーナーですよ!小夜さんは何を買いますか!?わたしは会場限定アクリルスタンドと、記念メダルと、ミニフィギュアとぉ。パンフレットはかかせないですよねぇー!」

「そうね。わたしはマリーノのグッズを買うわ。」

「それはやめてくださぃ...。」

 

テンションの高低差で風邪を引きそう。

それくらい急速に落ち込むうてな。

 

「どうして?せっかく売ってるのに、もったいないじゃない。」

「恥ずかしいですし、どうせ売れ残る不良債権ですし...。」

 

会場限定グッズにはトレスマジアのものもあり、順調に捌けているように見える。

確かに、三人のうち一人だけ売れ残るのは辛いと思うが。

 

「不良債権というわけでもないみたいよ?」

「え?」

 

指差す方向には、先ほど話した女の子がいて。

 

「いらっしゃいませ。何にしますか?」

「あのね、まりーのくださいっ!」

「あ...っ///」

 

その他にも、ちらほらとマリーノのグッズを購入している人はちゃんといる。

 

「わたしの推しなんだから。人気者に決まってるわよ。」

「お、推し...///」

 

照れながらも、嬉しそうに自分のグッズを眺めるうてな。

...そんな顔を見ていると、間違っているのはわたしなのか?って。そう思ってしまう。

うてなちゃんをベーゼにすることは、本当に彼女の為になるのだろうか。

愛だと、好きだと言うのなら。

今の彼女の笑顔を奪うことを...。私は...。

 

「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ。」

「マリーノのグッズを①から⑫までお願いします。あと記念パンフレットも。」

「やめてさよさぁぁん~!///」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「たくさん買ったわね。」

「その、取材でちょっと、お金が入りまして...///」

「ああ、魔法少女だとそういう利点もあるのね。」

 

大満足で魔法少女展を後にして、ちょうどお昼時のレストランに入る。

 

魔法少女はアイドルのような扱いをされていて、雑誌の取材やグラビア撮影なんかを受ける機会が結構ある。

前まではそんな様子をファンとして追いかけるだけだったんだけど、今となってはわたしも例外じゃないわけで...。

 

実際の戦いよりも緊張して、正直つらい。

けど、一応お仕事な為、『お給料』がもらえてしまうのだ。

オタク学生に突然社会人張りのお金を渡したら、どうなるかなんて分かりきっているわけで。

ここ一月で魔法少女グッズがそれはもうすごいことに...。

 

「親御さんも知らない秘密のお仕事だものね。際限なく使っちゃうか。」

「な、なんかやらしい言い方されてる...。」

 

小夜さんは顎に手を当てて少し思案する。

 

「よし。はるかと薫子に言って見張ってもらいましょう。うてなの将来が心配だわ。」

「えぇっ!?」

 

そ、そんな殺生な...!?

確かに散財はよくないけどわたしの頑張ったお金だから...!?

 

「不満そうな顔をしないの!中学生には過ぎたお金なんだから。親御さんが管理出来ない以上、自制心が大事なのよ。」

「.....じゃ、じゃあ...。」

「?」

 

今の今まで忘れていたけど、わたしには薫子ちゃんから託された(押し付けられた)ミッションがあった。

勇気を出せ、柊うてな。

 

「さ、小夜、ちゃんが...魔法、少女になって、み、見張って、欲しいな...///」

「...ちゃん?」

「な、ナンチャッテー!///」

 

自分でハードル上げ過ぎたぁーー!!

勧誘とちゃん付けを同時になんてわたしには無理だよぉぉ!?

これで堕ちる(確信)。じゃないよ薫子ちゃん...!

 

「...ふふっ、嬉しいわ。うてなからそう言ってもらえて。」

 

あれ...?意外と好感触...?

 

「でも、それはできないの。ごめんなさいね。」

「っ...な、なんで...?小夜、ちゃんも、魔法少女、好きなんだよね...?」

「好きよ?でも、自分がなるのとは話が別。魔法少女になってしまったら、出来なくなることも多いでしょ?」

「できなくなること...?」

「そうね、例えば...恋とか。」

「こっ!?///」

 

恋っ!?や!やっぱり小夜さんはもう彼氏さんとあんなことやこんなことをっ!?

 

「人を好きになるのは魔法少女でもできるけど、好きな人と好きに時間を過ごすのには制約がかかるでしょ?わたしは私のしたいことをする為に生きるって、そう決めたの。決めたん、だけど...。」

「小夜さんの、したいこと...。」

 

それは、その...。

巫女服で。神社で。背徳の...!?

 

『もう、しょうがない人ね...///』

 

「ピュッ。」

「何で鼻血っ!?」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「あはは!恋人なんていないわよ。うてなったら思春期なんだから。」

「やめてぇー笑わないでぇ...///」

 

鼻血が止まって、

ではなくレストランで食事を終えてからも、小夜さんはずっと同じことで笑っている。

勢いで今お付き合いしてる人がいるのか聞いたのが間違いだった。

すぐによからぬ妄想をしていたことまでバレて...。

結果はこの通りである。

 

「はぁ...。」

「ごめんごめん、言い過ぎたわ。ほら、マジメイトで何かプレゼントしてあげるから。」

「扱いが拗ねた子どもだぁ...(泣)」

 

やっぱり、小夜さんからしたらわたしはまだまだ妹みたいなものなのかな...。

 

「あ、あの。恥さらしついでにもうひとつ聞いてもいいですか...?」

「恥さらしって...。まあ、いいけど?」

「小夜さんは、どうしてわたしに優しくしてくれるんですか?」

「......え...?」

 

目を見開いて驚く小夜さん。

そんなに変な質問だったかな...?

 

「薫子ちゃんが、小夜さんはわたしにだけ優しいって言ってて...。そう、なんですか?」

「...推しだからよ。さっきも言ったでしょう?」

「いや、それは光栄なんですけど...///わたしが魔法少女になる前から、ずっと気にかけてくれてました、よね。入学式の時も助けてくれて...。」

「...。」

 

特別扱いしてないってすぐ言われると思ってたのに。

小夜さん、何でそんなに悩んで...?

やがて何かを決意したように、先ほどまでは違った表情で話し始める。

 

「...うてなは、知らないだろうけど。知ってるはずがないのだけど。あなたに"助けられた"から、今の私がいるのよ?」

「助けた?わたしが...?」

「知るはずがないって言ったじゃない。でも、本当よ?私にとって、うてなは特別。だから、恩返しのつもりなんだと思う。」

 

小夜さんの言ってることは、難しい。

わたしが小夜さんを助けられたことなんてないし。

恩返ししなきゃいけないのは、むしろわたしの方で。

 

なのに、嘘を吐いてるなんて少しも思わなかった。

まるで、知らない自分に気付いたみたいに。

そういうものなんだって受け入れられた。

 

「あとはやっぱり、ほら。好きになって欲しかったみたい。うてなちゃんに。」

「......え?」

 

小夜さんの言葉を反芻する。

スキ、すき、好き。

わたしの頭は真っ白になって、『友だちとしてですよね?』とか。

言うべき台詞を何もかも吹き飛ばしてしまう。

そうしてわたしが時間を無駄にしている間に、小夜さんはさらに言葉を続ける。

 

「でも、もうやめにするわ。私はわたしに戻らないと。じゃなきゃ、うてなたちが幸せになれない。私の大好きな、大切なうてなたちじゃなくなってしまうから。」

「な、何を言ってるんですか...?やめるって」

「ごめんね、"柊さん"。ここまでにしましょう。今日は、楽しかったわ。」

「ぇ...。」

 

待って。ちゃんと話して。

そんなまるで、友だちじゃなくなったみたいな。

そんなこと、言わないでよ。

意味が分からない、急だよ、そんなの。

言葉は浮かぶだけで、一音も口から出ることはない。

わたしはただ、呆然とその背中を見つめ続けるだけだった。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「はぁ...。」

 

何が、いけなかったんだろう。

何が小夜さんを怒らせてしまったんだろう。

小夜さん、怒ってたかな...?

怒ってるんじゃなくて、悲しんでた?

 

ずっと考えてる。

帰ってからもずっと。

何を間違えてしまったのか。

 

「せっかく、仲良くなれたのに...っ」

「すみませんうてなさんっ!!」

「ギャーーっ!?」

 

突然の大声に魂が抜ける勢いで悲鳴を上げる。

何かと思えば、宙に浮かぶ白いぬいぐるみが目に映る。

 

「ヴァーツさん...?お、お久しぶりです...。」

「挨拶してる場合じゃないんですっ!エノルミータが!」

「え!?」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

『はるかさんも薫子さんも別々に出動中です!うてなさんは近くの公園をお願いします!』

 

そう言われて変身し、公園までやってきたわたし。

突然、三ヶ所にエノルミータの反応があり、二人が向かった場所には大量の魔物が発生していたらしい。

わたしも覚悟して公園に飛び込んだんだけど。

 

「来たわね。マジアマリーノ。」

「ルシファアズール!?あなた一人、ですか...?」

 

待ち構えていたのは、あのルシファアズールただ一人。

今朝会ったばかりの、本日二回目の敵幹部。

しかしその表情は似ても似つかない、冷徹なものへと変化していた。

 

「邪魔者はここには来ないわ。」

「邪魔者って...じゃあ、他の魔物はあなたが!?」

「そうよ。あなたと決着を着ける為にね。」

 

アズールはいつもの鞭ではなく、朝と同じ氷の剣を手に構える。

 

「ま、待って!わたし...わたしはあなたと話がしたいっ!女の子を守ってくれたあなたと戦うなんて」

「黙りなさい。」

 

振るった剣から冷気が放たれ、わたしを掠めてすぐ横の木を凍らせる。

 

「いつまで魔法少女ごっこをしているつもり?

分かっているんでしょ?

あなたがいるべきなのは"こっち"。」

「ち、違っ」

「違うわけがない。

あなたは、悪の組織エノルミータを統べる者。

それが未来、それが運命。

あなたの本当の名前は、"マジアベーゼ"。」

「マジア、ベーゼ...?」

 

何を、言って。

 

「あなたに魔法少女への憧れなんてない。

あったのは魔法少女が抗い、傷つき。

その誇りを抱いたまま力尽きる様への喜び。

快楽だけ。

それがあなたの本性よ。」

「そんな、こと...っ」

「ないわけないわよね?あれだけ仲間を傷つけておきながら、まだ自分を魔法少女だなんて思える破綻者なんだから。」

「っ!もう、やめてよ...っ!」

 

わたしは思わず公園の遊具をパンダに変えて、アズールを襲うように指示する。

 

「話し合いはどうしたのかしら。正義の味方さん。」

「っ!?」

 

パンダは彼女に触れることもなく、凍りついたのち砕け散る。

 

「マリーノ。今日、あなたを消してあげる。

そしてこの世界に、ベーゼが戻るのよ。」

「意味が、分からないっ!」

 

アズールも、小夜さんもっ!

何でちゃんと話してくれないの...っ!

今度は滑り台を象に変える。

勇敢に突進する象だが、一瞬にして氷の塊へと変えられてしまう。

 

「分からない?今まで手を抜いてあげていたことを。

生物を作り出すあなたと、水分を操るわたし。

相性は最悪に決まっているじゃない!」

 

公園にあるもの全てを動物に変え操る。

しかし、体内には必ず水分が必要。

動物に変えた時点で、アズールには勝てない。

気付けば、公園はまるで更地のよう。

わたしの目の前に、アズールが迫ってきていた。

 

「多少強引にいきましょうか。」

「や、やめ...っ!?」

 

アズールはわたしを押し倒し、衣装を無理矢理に引き裂く。

露出した胸を手に掴み、乱暴に弄ぶ。

 

「い、いやぁ...っ!やめ、て...!」

「するのは好きでもされるのは嫌い?なら、一度壊してしまおうかしら。」

 

アズールはもがくわたしを抑えつけ、首に手を当てる。

 

「苦しみなさい。憎みなさい。

そうして魔法少女なんて毒を吐き出して。

空っぽになった中身に、私が"あなた"を注ぎ込んであげる。」

「ぁ、ぐぁ...っ...や、め...っ」

 

どんどん強くなる力。遠のく意識。

力が抜けて、血の気も引いていく。

 

「さ、よ...ちゃ...っ」

「...!?」

 

不意に出た言葉、名前。

途端に絞められた首が楽になり、呼吸が可能になる。

わたしの右手は反射的に鞭を動かす。

 

「ぐ...っ!」

「かはぁっ!はぁっはぁ...っ!」

 

空気を取り戻した肺が波打ち、体全体が脈打つ。

脳が震えて視界がボヤけるが、目は逸らさずその敵を見つめ続ける。

 

「...っ」

 

鞭で両手を縛り上げて拘束した、その敵。

その両目には、悔しさでも情けなさでもない。

悲しみの涙が、確かに溢れ流れていた。

 

「アズー、ル...。」

「はっ...はは...っ。なに、やってるのかしら...。本当に...私は...。」

 

その表情は、先ほどまでの冷徹で卑劣な、悪の女幹部ではなく。

よく知るわたしの、大切な友だちの。

あの悲しそうな顔とよく似ていて。

 

「アズール、さん...。」

「は...?」

 

気付けばわたしは、鞭を外してアズールの手を握っていた。

 

「わたしと、"魔法少女"をやりませんか?」

「なにを、言って...」

「確かにわたしは、魔法少女より、悪者の方が向いてると思います。

でも、そんなわたしを、『推し』だって。

そう言ってくれる人がいました。

嬉しかった、本当に。

だから分かるんです。

わたしはやっぱり、魔法少女にあこがれてた。

この気持ちは、上っ面だけの嘘じゃないんだって。」

「......」

 

アズールの言うことは、正しいのかもしれない。

わたしの本質は悪で、はるかちゃん薫子ちゃんと一緒にいるべきじゃないのかもしれない。

だけど、わたしはわたしのあこがれを信じたい。

小夜さんの好きなわたしを信じていたい。

 

「今朝の女の子、覚えてますよね?

あの子にはきっと、アズールさんがあこがれの"ヒロイン"なんです。あなたは悪者なんかじゃない。

二人への酷い仕打ちも、さっきの言葉も。

全部、わたしの為なんですよね...?

よく、分からないけど...。

わたしじゃないわたしの為にした、優しさだって。

そう、思うんです。だから...」

「...やめてよ...っ」

 

アズールさんは瞳を濡らしながら、わたしから離れていく。

 

「なんで...そんなこと言うの...?あなたは、ベーゼじゃないのに...間違ってるのに...あんなに幸せそうでっ...そんなに、真っ直ぐで...これじゃ、まるで...っ!!」

 

震えながら紡がれる言葉はわたしには難しくて。

でも、そこには確かな激情があって。

 

「マジアベーゼが...わたしの、憧れが...っ!私の大好きな物語の方がっ!!"間違ってる"みたいじゃなぁい...っ!!」

 

深い『絶望』があった。

 

「...っ!」

「待ってアズールさん...っ!?」

 

背を向けながら飛び去っていく、その姿。

また、この景色だ。

日に二度も、魔法少女になるべき輝きを掴めなかったわたしは。

何もなくなった公園で一人、ただ静かに涙を流すことしか出来なかった。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「レオパルト。ルシファアズール。ネロアリス。以上3人が我が組織の新しいメンバーさ。」

「どいつもこいつも弱っちそうね~!ロコたちが魔法少女狩りしてる間に、こんなのしかスカウトできなかったワケ~?」

「いやぁロコ。てめーよりは使えんじゃねえの?」

「ハァ!?」

「ケンカはいけませんよぉ。」

「...。」

 

玉座にもたれ掛かるその姿。

その表情には一片の油断もなく。

ただ冷酷に、映し出された雛たちを見つめる。

 

「ルシファアズール、か...。」

 

異変は加速する。

光を"増した"凶星が降り注ぐまで、

あと僅か。

 

――――――――――――――――――――――――――

◼️□next episode◼️□

 

「ちょ!なにすんねんお前ぇっ!?」

「うっせばーかばーか!アズールちゃんの×××はアタシが拭くんだよ!」

「サルファちゃん××××触ろうとしたのぉ!?」

「たわわぁ...///」

「おう全員今すぐ永眠させたろかコラァ!?」

 




主人公の感情については次話で本人が話します。
分かり辛いですよねぇ...。
これうてなちゃんが主人公なのでは?と思ったあなた。
当たり前だよなぁ()
叡智&ギャグ少なめですみません。
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