『後戸の国』。
真のグレムリンを筆頭とした愉快な仲間達と一緒に幻想郷を造った摩多羅隠岐奈が、いつも住んでいる異空間。許可を得た存在や気心が知れた者にしか訪れることができない神域。
そこには神様としてのプライドや外面等を全て投げ捨てて、上条当麻に土下座で謝っている摩多羅隠岐奈がいた。
何故摩多羅隠岐奈が第七学区にある病院に送られたはずの上条当麻に土下座をしているのだ?
理由は簡単。聖徳王との会談が終わった後に外の世界。現し世の学園都市で絶賛大暴れしている自分の
人間性が欠けた。いや、完全に人外の精神性を見せることもあった。本来の『魔神』摩多羅神なら罪悪感など発生しなかった可能性もあったかもしれない。だが、今の彼女は違う。上条当麻との出会い。聖徳王との再会で蘇った
違う。百貌とも呼べるくらいに色々な側面や属性を持つ摩多羅神としての顔を大きく見せるようになったのが正しいか。勿論、神様でもない一人の女の子としての顔も出てくるようになった。
ただし、神様として振る舞ってない、摩多羅隠岐奈という名前を持つ女の子としての顔はレア中のレアで人前では滅多に見せていないが。今のところ、彼女が見せる側面の顔を全部と言っていいくらいに知っているのは、上条当麻や娘々やネフテュスを筆頭とした一部の存在だけだ。
「私の障碍の神としての側面が迷惑をかけてごめんなさい・・・・・」
そんな彼女は絶賛上条当麻に対して謝りながら、声音を震わせていた。いや、物理的に震えて崩れている。彼女の身体全体がテクスチャーエラーを起こしたゲームのキャラクターの様に見えるからだ。
「はっはっ。かつての私を現し世で暴れまわる傍迷惑な『魔神』と非難していた真のグレムリン。その内の一柱の『秘神』様が自身の発言がブーメランとして返ってきたことで、ダメージを喰らっているのを見るところは笑いどころだな」
上条当麻の肩に乗っている15センチの大きさのオティヌスのいじりも兼ねた笑いに摩多羅隠岐奈は何も答えない。
ただ、酷い言われようだな。真実だから何も言い返せないけど。と言わんばかりに姿が余計にぶれていく。
男性のような姿、性別不明な中性的な姿、小さい子供のような姿、少女のような姿、大人びた姿、上条当麻という少年の理想である寮の管理人のお姉さん系の姿、ストレートなロングヘアの姿、天然パーマロングヘアの姿、『後戸』そのもの等・・・・・・・・。
そこには『人間』に負けず劣らずの色々な摩多羅隠岐奈としての姿を見せていた『秘神』がいた。
彼女は分霊とも呼べる存在が現し世で大暴れすることにショックを受けて、完全に自身が持つキャラ、摩多羅隠岐奈としての属性を崩している最中だった。まさか『僧正』パニックの代わりとして自身が代わりにパニックを起こす『魔神』になるとは予想ができなかったのだ。
今の彼女の心情は頻繁に移り変わる自身の姿に匹敵するくらいに滅茶苦茶になっているだろう。それこそ理想送りを当てたら、問答無用で新天地送りになるくらいに。
尚、
「おい人間。なにか言って慰めてやれ。このまま放っておくと摩多羅隠岐奈が持つ『魔神』としての無限の可能性が暴走して、増殖するぞ」
今の摩多羅隠岐奈の状態は、ショックのあまりに一種の量子重ね合わせ状態になっていた。ただ、これは危険な状態だ。
彼女は多世界解釈や無限の可能性という概念を体現できる体質がある『魔神』。鏡合わせの術式。無限に形を変える宿神こと星宿神や無限を司るシヴァ神のような神格を習合して内包した『秘神』。等の色々な無限と関連がある、まさに無限という概念そのものな神様だ。
だから、この状態の彼女を放っておくと、クロウリーズ・ハザードならぬ摩多羅隠岐奈・ハザードが発生するだろう。それは10億8309万2867通りもの『分岐先』、IFの姿
「まあ・・・・・。上条さんも羽目を外してやらかしたこともあるし、誰でもやらかすことはあります。とりあえず落ち着いたらどうだ?」
第三次世界大戦が無事に終了した時に多数の少女をくっつけながら、酔っ払いのような振る舞いをして学園都市に帰還した過去を思い出している上条当麻がしたことは摩多羅隠岐奈の頭を撫でることで落ち着かせることだった。
何故撫でようとするのか?それには理由があった。こういう行動を取ったら、彼女は高確率で冷静になるのだ。かつてのオティヌスを筆頭とした面倒な性格をしている存在も深く観察すれば、動きが解析できる少年だ。色々な側面を持つ摩多羅隠岐奈も観察すればできるというのか?できるだろう。どの側面を前面に出そうが、共通する本質が彼女にある。良くも悪くも真面目ということだ。例えそれがふざけているように見えても。
事実、上条の予想通りに『魔神』の
色々な側面を見せる摩多羅隠岐奈という『秘神』は、一見すると本質が無数に存在する理解しにくい神様に見えるが、何があっても一切ブレない軸となっているたった一つの本質を捉えることができさえすれば、本当に分かりやすい人物と言わざるを得ない。
色々な神様達の生い立ちや性格をじっくり時間をかけて理解していたとはいえ、『魔神』の『理解者』という肩書きは伊達ではないというべきか。もしかしたら、少年の認識の中では摩多羅隠岐奈という女の子は、オティヌスやインデックスとは違う独特な立ち位置を築いているかもしれない。
「で・・・・・。何でこんなことをしたんだ?」
上条当麻は現し世にある学園都市で暴れ回るもう一人の摩多羅隠岐奈を映す『後戸』を時折見ながら、摩多羅隠岐奈に話しかける。
「それはな・・・・・。お前のためでもあったのだよ」
大多数の存在によく見せる外見と口調になった摩多羅隠岐奈が車椅子に座りながら語る。自身がこんなことをした理由を。サーティーンデスの襲来の裏で起きた死者の復活現象『リバース』等の情報や真相も包み隠さずに。
「後は、馬鹿をやっている私を回収しただけで終わる。迷惑をかけてすまなかったな」
摩多羅隠岐奈が抵抗も覚悟した上で『後戸』を通して、もう一人の自分を回収しようとしたが、それを止めた者がいた。上条当麻である。
「別にいいよ。代わりに俺が止めてくる。上条当麻と戦うことで障碍の神としてのアンタも満足して大人しくなりそうだしさ」
実際にそれは正しいのだろう。障碍の神としての摩多羅隠岐奈は試練や障碍を乗り越えて生きていく存在が大好きだ。数多の障碍を超えて逞しく人生を生きてきた上条当麻のような人間とも戦うのが好きな神様だ。地獄を見せる愛情もあると。彼女が持つ被差別民の神としての側面がちょっと待てよと制止させていたから、辛い人生を生きてきた人間と戦う事例は滅多に起こらなかったが。
「いや、私がやらかしことなのだ。私がケリをつけるのは妥当な事柄だろう?」
「だったら、手伝ってくれるだけでいいよ」
「分かった。私はサポートに回るとしよう」
本当は自分自身でやらかしを納めたかった摩多羅隠岐奈だったが、上条当麻の我儘さを知っていたためにすぐに身を引いたのであった。まあ、他人を立てることもできると知っているが、我儘じゃあない上条当麻は上条当麻らしくないなという厄介ファンみたいな思考もしていたから、あの時の屋上での問答の回答で満足したかもしれない。
上条当麻が障碍の神としての摩多羅隠岐奈と戦うために学園都市に繋がる『後戸』を潜って、しばらくした後━━━━。
「相変わらずだな。人間は・・・・・」
「だが、それでこそ上条当麻だと思わないか?」
「それもそうだな」
そこには『後戸の国』で上条当麻良いよね・・・・・と仲良く後方理解者面をする二柱の神様がいたのであった。
地上に投下される黄金色をした破壊の光に対して、
世界が動いた。
ある魔術師の行動に合わせるように。
世界が動く前に防御術式をわざと解いていた摩多羅隠岐奈の顔に金髪の少年の拳が直撃する。
その正体はレイヴィニア=バードウェイの案内でサーティーンデスがどんな魔術師なのかを観察するために、わざわざ学園都市に侵入してきた魔術師トールの攻撃だった。
その少年は摩多羅隠岐奈という神様を経験値稼ぎの相手として丁度いいと思って全能神トールとしての術式を発動させたのだ。
事実、その考えは正しい。摩多羅神は障碍の神である。人間達に試練を与える神でもある。やらかしやうっかりもあるが、障碍の神としての彼女は対象が障碍を乗り越えることができるように調整する。つまり、わざわざ相手の土俵に立つ振る舞いをするのだ。戦闘の経験値を狂ったように求めるトールという魔術師にとっては有り難い相手だったのだ。
ただし、残念なことがあった。トールという魔術師は
「つれないねぇ」
「お前に対してはそういう気分ではないからな。だがな、北欧の神の名前をした人間よ。私自身が障碍になることは叶わないが、代わりの障碍を用意してやろう」
人間に望まれたから神として応えることにする。摩多羅隠岐奈が魔術師トールの目の前にどこからもなく召喚したのは、テンプレートな外見をした一体の鬼だった。その鬼は全能神の術式を使用中のトールと殴り合える性能をしていた。『後戸』の力で。
摩多羅隠岐奈が使役する鬼の正体は、かつての彼女が二童子の代わりに従えていた鬼だった。そもそも摩多羅神は統一された形の信仰がない神様だ。変貌しまくる故に無形で無貌な神様と例えることができる。容易に一括りにできない。曼荼羅で描かれている摩多羅神は二童子を加えて三位一体と言われるが、四体の鬼を従える姿が描かれていることもある。全国規模で共通しているかもしれないのは、神社ではやたら表に出てくる秘神で寺では秘仏とされてたくらいだ。
もしかしたら、神仏習合の化身とも言えるくらいにあらゆる神仏や宗教や神話とも関わりが彼女にあり、色々な側面がある理由はそこにあるかもしれない。
アニェーゼ部隊と同じように死者の復活現象『リターン』の真相を探るように命じられた新たなる光を中心とした魔術サイドと『魔神』たる自分の大暴れを止めにきた
学園都市第一位
第三次世界大戦の時よりエネルギーの総量や純度が増した黄金の光に、対抗すべく
おそらくエイワスにやられた時のように、ベクトル操作による『反射』を容易く貫通されて死ぬだろうと。学園都市第一位は考えていたが、それは正しい。例えクリファパズル545という魔術アドバイザーがいても、摩多羅隠岐奈の魔術は『反射』を容易く貫通してくるだろう。全次元、全元素、全位相を完全に掌握して、世界を自由自在に歪め、破壊し、創造する事が出来る神様の力は世界に留まる存在に理解できるようなものではないからだ。
セルフ弱体化で力の大部分をセーブしていても、世界の全てを把握できる全知に等しい叡智は健在。その演算能力は
『反射』を攻略する数多の手段を彼女は保有しているが、『後戸』という塩試合成立メーカーの能力を知っている者がいたら、『後戸』だけで充分では?と思うだろうが。
私の能力は本当につまらん。『後戸』だけで殆どの相手を完封できるから。あらゆる能力や魔術に対処できるから。例え、対象の力を没収して私のモノにできなくても、背後の扉を閉めて隠すだけで、相手は力を失って無力になるからな。
科学が生み出した一種の神様。総体という一つの存在の別側面を各個体が出力してる
『少しの間だけ、ミサカネットワークを掌握させてもらうぞ』
『ちょっと!?/return』
『後戸』の力で総体とミサカネットワークの全てを掌握した摩多羅隠岐奈によって、
曖昧で世界の隅々まで行き渡っている見えない力。地球規模まで拡大した虚数学区という『位相』が、学園都市を塗り潰そうとする十字教の『位相』と衝突する。学園都市第一位のベクトル操作能力で解き放たれた透明な力と『秘神』の魔術で顕現した黄金の光が相殺した。
今ここに、学園都市第一位の称号を持つ
窓のないビルの中にいる『人間』はどう焦っているのかな?と。
実際に、本来の想定とは違う進化ツリーを辿っていく
そもそも摩多羅隠岐奈はアレイスター=クロウリーのことは被差別民の神や障碍の神としては好感覚だが、個人的には嫌い寄りの感情を抱いていたし、
個人的に嫌う理由は事実陳列罪になるくらいに色々あるが、主な理由はこれだろう。被害者意識強いくせに他人には自分が受けた仕打ちと同じことするからだ。いじめられっ子がいじめっ子に転身するように。
そこは被差別民の神としても減点なところだった。
例えば能力者という存在。
アレイスター=クロウリーは、物理法則にスパイスを加えて、制約を課すことで火花が散らないクリーンな能力を使う人間として能力者を作ったかもしれないが、普通に悲劇の種の発生源になっているからだ。
『隠世』という『位相』で学園都市に蔓延る悲劇を観測していた時の彼女は本当に呆れ果てていた。大人も子供も関係なく、悪い意味で平等に、涙を流していたからだ。
しかも、いずれ訪れる未来では、上条当麻のせいで学園都市はこんな街になったと屁理屈を突きつける魂胆。そして、後に大悪魔コロンゾンに正論パンチで論破される予定。はっきり言って彼女は全力でため息を吐いた。その気になれば世界一治安が良い平和な都市にすることもできたはずなのに。
『人間』は、全ての宗教・魔術的概念は不要と主張しているが、彼女という『魔神』は、全ての『位相』を撃滅し、宗教・魔術的概念は無くすことはできないと、とっくの昔に理解していた。
天文学分野はそれこそ農業とかに超有益で、何より月の満ち欠け程度なら誰もが一言説明されただけで納得出来る、目に見えて触れないのに理解出来る科学。ところが、数学、それこそ方程式だのそう言う方面に行くと、素人では何でそうなるのか分からなくなる。それでいて、凄い建物を建てようとすると数学を駆使する事になり、実際にそうなるから魔術として扱われることになる。
摩多羅隠岐奈はその時代を知っていた。
だから、正式な英語名が
全く・・・・『人間』は己の本末転倒さを理解できているのか?気づかないから、
皮肉にもアレイスター=クロウリーが提唱する全ての男女は星である。あらゆる人は怪物を創り、神になれる。という概念は『魔神』達がその身で一番体現している言葉かもしれない。
そもそも『魔神』とは世界を構成する
破戒僧で在れと望まれた故に、そう行動することを決めた『僧正』。生贄の制度・・・・・糞と考えていた人間達によって生まれて、生贄関連の儀式を壊す活動をしていた『魔神』ネフテュス。オリジナルのケツァルコアトルと間違えられた征服者、スペイン人の魔の手からアステカ帝国を守るために作られた『魔神』テスカトリポカ。等・・・・・。
それはかつての『魔神』オティヌスや魔神のなりそこないのオッレルスも例外ではない。彼らも魔術師達に個々の願いを背負わされたのだから。
『秘神』摩多羅隠岐奈として活動している彼女もそうだ。色々な側面が『魔神』摩多羅神として形作っているとはいえ、彼女の核となった本質の一つは誰もが差別なく、笑いあえて仲良く暮らせる世界を造ってほしいという人間達の
そう考えると『魔神』という人間達に望まれて生まれた偶像のカタチを悪神と受け取るか、善神と受け取るかは第三者に委ねられる。
たった一人の命を救うために自身の存在を
そして、意識的にせよ無意識的にせよ、共通する思考として本人達も人間達のために存在する神様らしくありたいと願っているのもある。勿論、摩多羅隠岐奈もそうだ。
・・・・・『忘れられた神』のような、
世界を容易く作り変えることができる強大な力を所持しているくせに、自身から見れば砂上の楼閣に見える小さな世界に住んでいる人間達のために真のグレムリンという協議会をわざわざ作って、『魔神』は一柱だけ存在すれば良かったという意見が出てくるほどに人間達が住む世界の運営に真剣に悩みながら、大人しく引き籠もっていたのだから。
再びこちらに向かってきそうだった、
「摩多羅隠岐奈。戦闘狂としての気質もある障碍の神様としてのアンタとも全力で戦いにきたよ」
障碍の神としての彼女を完全に満足させるために
ありふれた
だけど、本体の『後戸』のサポートで人間としての意識がはっきりとある少年だった。
次回で書き終わると思います。
後日談というよりサーティーンデス戦を前座としたEXボスとしての摩多羅隠岐奈戦という感じですね・・・・。上条さん視点の物語では。