とある後戸の摩多羅神   作:一般通過龍

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汝(魔神)の欲するところを為せ

平安時代初頭。

 

ある墓所で惨劇が起きていた。

 

寺院と寺院のつまらないいざこざ、公家と貴族の派閥問題で即身仏として認められなかった、ある高僧の乾いた遺体が再起動を果たして、虐殺ジェノサイドを起こすという異変が起きたからだ。

 

だが自業自得といえるだろう。

本気で衆生しゅじょうを救うために、今ある財産や立場等を全て放棄して即身仏になるほどの覚悟と行動をした高僧を仏として認めずに破戒僧として貶めた故に。

 

『みんな』に望まれた通りに衆生の意見を聞いて悪を成す仏として僧正が動き出す。

 

蘇った木乃伊ミイラを斬れと叫んだ者は周りにいる兵隊ごと、彼の術式で作成された土の巨腕によって握りつぶされて死んだ。へらへら媚びて金品を積んだ者は地面の中に生き埋めにされて、彼が味わった即身仏の辛さを追体験させられた。

 

身も世もなく泣き伏して許しを乞うた者も死んだ。木乃伊が自儘じままに振るう血まみれの爪牙そうがの対象にならない例外はないように見える大暴れだ。

 

いっそのこと、そういう悪神であれば悪神なりのなだめ方はあっただろうに。迷い仏として動き出した僧正には善悪、役割が決められてない。変幻自在に方向性を変える故になだめ方は存在しないに等しい。

 

誰が五秒前と五秒後で言っている事が180度違う神様の行動を予測して、生き延びることが出来るのだろうか?災害に遭ったと思って諦めるしかない。

 

だが、生き延びた人間はいた。同じ『魔神』が僧正を止めに入ったからだ。

 

『魔神』に助けられたのは貴族の付き人の幼い少年だった

 

(助けてください。神様・・・・・)

 

その幼い少年は家族に口減らしとして捨てられて、貴族に拾われたのはよかったものの、外見の良さからそういう用途としても扱われていた人間だった。

 

少年には味方がいなかったともいえる。家族だけではなく、住んでいた村中の人間に虐められていたからだ。彼の存在意義は周りの人間のストレスを解消させるサンドバッグだ。その『役割』は口減らしで捨てられて、貴族に拾われた後も続いた。唯一、彼が心を開けたのはいるかいないのか分からないある神様だけだった。

 

何故、少年がいるかいないのか分からない神様を信じているのかは、ある体験にあった。

 

お前はもういらないと。壊れた物をゴミ箱に入れるよう感覚で家族に捨てられて、今にも死にそうな体で山の中を彷徨っている時に、何故か地面に落ちていた神様が描かれている紙を拾って、祈った瞬間に背中を起点に『謎』の力が体内を循環したと思うと体力が回復して、怪我が治るという現象が少年がその神を信仰するきっかけだった。

 

神様の絵が描いてあった紙の正体は、ある『魔神』の生誕の場所になった神社仏閣が現役で活動していた時に、そこにいる信者達が、崇め奉っている神の力を引き出すために作った霊装であった。使用者の魔力を必要とせずに効果が発揮できる点を見るに、性質はニコラウスの金貨のような魔道書に近い霊装といえる。

 

ただ欠点があった。いくら魔道書に近い性質を持っているといえども、対象の『魔神』の力の供給に耐えきれずにすぐに崩壊するのだ。一回限りの使い捨てのマッチのような霊装だが、誰でも『魔神』の力を限定的に使えると見たら破格の性能をしているいえるだろう。

 

まだ文字は読めなかったが、勝手に崩壊した紙に描いてあった神様は自分を救ってくれた神様だと確信した少年は元気よく都に向かった。

 

現実はこんなモノだったが。

 

それでも周りにいる大人達のように腐らずに、神に対する信仰を捨てずに真面目に頑張って、本来あるべき宗教家として活動していた少年の願いに神様が応えた。

 

『よかろう。助けてやるとも』

 

どこからか声が響いたと思うと、少年の目の前の空間に『後戸』が現れたのと同時に僧正を吸い込んで消えていった。

 

『私は摩多羅神。貴様のような扱いを受けている人間達の味方でもある側面が存在する『秘神』だよ。覚えておくのはそれだけで構わん』

 

一瞬だったが、謎の声の出所になっている『後戸』の中に広がる暗黒の宇宙と思わしき異界には女神に見える女性が見えた気がする。

 

それからの少年の人生は神の加護がついているように上手くいきはじめていった。僧正に殺された先輩達のように腐らず、信仰していた神に助けて貰ったという奇跡のような体験をしたのに驕らず、衆生に救いを施す立派な宗教家として大成したのであった。

 

 

「これ以上暴れてもらっては世界が壊れるし、壊れてしまった世界を修復するのもめんどくさいから、『後戸の世界』を通して無理矢理『隠世』に引きずり込んだよ。『僧正』」

 

仏に成って衆生を救うという目的を達成するため、様々な情報の取得を実行に移すために、その木乃伊は全てを蒐集し、分析し、理解していた。当然のように、自分をこの『位相』に連れてきた目の前の存在も理解していた。

 

「なるほど、お主が慈覚大師円仁じかくだいしえんにんに語りかけた摩多羅神という謎の神の正体か」

 

自身と同じ存在の魔神を見上げながら僧正が語りかける。

 

「そうだとも。円仁という僧侶に障碍の神として立ち塞がった摩多羅神の正体がこの私、摩多羅隠岐奈である」

 

先輩の魔神としての風格を見せるように、尊大な態度で椅子に座った摩多羅隠岐奈が『隔世』の宙に浮いていた。

 

 


 

学園都市第十五学区のランドマークともいえる、様々な色彩でライトアップされた巨大な六角柱の高層ビル。カーボンファイバー、カーボンフレーム、カーボンナノチューブ・・・・。人工ダイヤを筆頭とした色々な素材が組み込まれて作られたダイヤノイドという建物で騒ぎが起きていた。

 

魔術師サンジェルマンのせいで人間達がダイヤノイドを自由に出入りすることが出来なくなったのである。

 

 

「入れないってどういう訳よ」

 

「知らないよ」

 

「やべえ、列車の方も止まっているじゃん。最終下校だっつーのに」

 

ダイヤノイドは駅ビルも兼ねているから、屋内に閉じ込められている人間達だけに限らず、屋外にいる人間達にも大きな影響を与えて騒ぎが起こりかけていた。

 

「ひっ、ぎゃあああああああああああああああっ!?」

 

そんな人間達を見渡すようにダイヤノイドから少し離れた場所の公園で僧正とネフテュスがいた。

 

最初はダイヤノイドの近くの場所で自分達を捕捉して動き出したサンジェルマンや上条当麻がどう対応するかを観察しようとしたが、紛れ込んでいた群衆の中にいた一人の人間が木乃伊の姿の僧正に驚いて絶叫したから、騒ぎの中心が自分達になる前に移動したのだ。

 

 

「ところでネフテュス、摩多羅隠岐奈はどうした?学園都市に一緒に来たのではないのか?」

 

パキパキと乾いた皮膚を割りながら僧正がネフテュスに話しかける。

 

「摩多羅隠岐奈なら学園都市に存在する置き去りチャイルドエラーと呼ばれる子供たちを救うために道祖神として動き回っているわ」

 

どうやら、摩多羅隠岐奈はネフテュスと一緒に後戸の世界を経由して学園都市入りした時に、ダイヤノイドの近くにいかずに独自に動き始めたらしい。

 

「相変わらず神としての『自分』の役割に忠実すぎる魔神じゃ。儂らは『鏡合わせの分割』の術式が体に馴染んでいないのに動き回るとは大丈夫かのう?」

 

人々からそう在れと望まれた通りに動いている自分にもブーメランが飛んできて突き刺さる言葉ということを自覚しないまま、僧正が摩多羅隠岐奈を心配していた。

 

「そこのところは大丈夫。すぐに馴染んでいたのを確認しているわ。ただ、『鏡合わせの分割』に何かアレンジを加えたのか、私達と共通の内部構造になってなかったけど」

 

会話をするネフテュスと僧正の目には摩多羅隠岐奈の襲撃によって学園都市の暗部関連の施設が次々と破壊される光景が映っていた。

 

 

 

そこはどこかの研究施設だった。人を人と思わないえげつない人体実験をやりまくっていた場所だった。勿論、研究者も外道という言葉が似合う存在で『木原』もいた。

並の能力者や風紀委員ジャッジメント警備員アンチスキルを簡単に返り討ちに出来る戦力を保有していたために悪事が暴かれても、平気だと思っていた人間達が大多数だった。

 

だが、相手が悪かった。なにしろ魔神がカチコミをかけてきたからだ。神に人間が敵うことはない。蹂躙されるだけ。そんな当たり前の事実を確認するような空間が魔神によって作り上げられていた。

 

ある研究者は燃やされて死んだ。溺死した。空間ごと切断された。人智を超えた魔神という存在の圧倒的身体能力で壊された。

 

『秘神』が繰り出す多種多様の謎の攻撃で外道共がいる暗部の研究施設は壊滅状態に陥った。

 

「隠岐奈ちゃん、子供を大事にして守る道祖神という側面を出して動いているけど、助け出した後はどうするの?」

 

丈の短い白のチャイナドレスを着た、古代中国由来の『尸解仙』と思われる魔神娘々ニャンニャンが疑問を持って、摩多羅隠岐奈に問いかけた。

 

悲惨な状況に遭った、遭う前の置き去りという存在を助け出すのはいいけど、面倒は見切れるか?という当たり前の質問だった。

 

「そうだな。丁度いい機会だし、保護した子供を私の眷属、二童子に作り変えるよ。後で回収する子供たちは相応しい保護者がいる場所に心当たりがあるから、そこに置いていく。駄目だったら『後戸』を利用して管理するよ」

 

ドレンチャー=木原=レパトリのところに置いて保護してもらおう。それ以外の場所で置き去りを無事に保護できる場所も、ある超能力者に教えてもらったから大丈夫なはずだ。

 

いっそのこと『後戸の世界』を幻想郷に造り変えて、そこに保護した子供たちや魔神達全員で引きこもるのもいいかもしれないな。アレイスターが『隠世』を解析したみたいに『後戸の世界』も解析して壊す可能性があるという不安要素がなければのことだが・・・・。

 

原作の流れを完全破壊する羽目になるが、アレイスター=クロウリーの『隠世』の侵入と破壊に一番ブチ切れて、殺す気満々で激しく攻撃を仕掛けていた僧正を見習って、『人間』を見逃さずに追撃して確実に殺しておくべきだったか?

 

「子供を二童子に改造するのか〜。それ、やっていることはここにいた人間達の研究の人体実験と同じじゃない?」

 

ぶかぶかの袖から飛び出ている宝貝パオペイを振り回しながら摩多羅隠岐奈と一緒に建物内を暴れ回っていた娘々が『後戸の世界』に保護されている二人の置き去りを見て、摩多羅隠岐奈に物申した。

 

魔神が保護した二人の少女は、能力開発を受けていなかった。

それ故に丁礼田舞ていれいだまい爾子田里乃にしださとのという二童子の素材にピッタリだと摩多羅隠岐奈に目をつけられていた。

 

「同じではないさ。ちゃんと愛情をもって、可愛がってやるとも」

 

研究所に築き上げられた大量の人間達の死体を見ながら、こんな奴らと一緒にされるとは心外であると、隠岐奈は娘々に不満げな表情を見せていた。

 

「ところで隠岐奈ちゃん。わたし、飽きちゃったからこの作業を辞めるね」

 

「いつの間にか勝手に着いてきて一緒に暴れたと思ったら、すぐに離脱するとは・・・」

 

摩多羅隠岐奈が自分より自由に動き回っている娘々を見ながら、ため息をついていた。

 

そんな彼女の様子を気にすることなく、娘々が神様として振る舞う摩多羅隠岐奈に助言をした。

 

「突然のことで、僧正からも言われていると思うけど、わたしからも摩多羅隠岐奈という魔神に言いたくなったことがあるからはっきり言うね。隠岐奈ちゃんは神としての『自分』の役割に忠実しすぎる。後、真面目にならなくても摩多羅神には色々な側面があるから何をやっても人間から望まれた『神様』としては脱線しないとわたしは思うわけよ。だから肩の力を抜いて自分をさらけ出しても問題なし!」

 

振り回していた宝貝パオペイを仕舞った娘々の口から出てきたそのような言葉を聞いた摩多羅隠岐奈は驚きのあまりに一時停止してしまった。

魔神や摩多羅神であることに自覚を持って、らしく・・・活動していた彼女にとっては、自由に動いても人間に望まれた『神様』としてのイメージは崩れないという意見は新鮮でよほど衝撃的だったらしい。

 

驚愕の表情を顔に浮かべていた摩多羅隠岐奈だが、段々と喜色の表情に変化していった。口元を手で隠していても小さく笑っていると分かるぐらいだった。

 

この世界物語の中心点たる主人公の上条当麻は、一瞬前まで自分をボコボコにしてきた悪人で世界の敵だったやつでも納得いかなかったら即座に救済しに行く、自由を超えた自由なテレマを持つ存在。

アレイスターやエイワスが言っている言葉の汝の欲する所を為せ、それが汝の法とならんを一番体現してるといえる。

 

上条当麻を見習って、私も好きなように自分の《意思》に忠実に動くとするか!これを新しい行動方針にしよう!!そのほうが摩多羅神こと摩多羅隠岐奈らしい私といえるでは!?

 

「私も今からこの作業をすぐに切り上げて、世界や学園都市中を自由に動き回ることにするぞ。娘々!」

 

「ちょっと、うざっ!!隠岐奈ちゃんの素の性格はこういう行動を取るの!?」

 

喜びの感情を溢れさせながらバンバン!と娘々の肩を叩きながら、私も他の魔神達のように現し世で動きます宣言をした。『秘神』であった。

 

その後、二柱の魔神は廃墟になった研究所にラミネート加工のカードを落として去って行った。

 

落としていったカードには藍花悦あいはなえつと書いてあった。

 

「隠岐奈ちゃん、なんでわざわざ別人の名前を使った証拠を残していくの?そんなにこそこそする必要なんてないと思うけど」

 

「この名前の持ち主の人間に頼まれたからだよ。代行者を通してだけどな」

 

 

 

路地裏である巨漢の不良筋肉少年が携帯電話を片手に報告を行っていた。

 

「そっちの言う通りに『藍花悦』の名前が書いてあるカードを目的の女性にいくつか渡してきたよ。あれは何者だ?何もしていないのに、忌々しい根性野郎や学園都市第六位の力を持つアンタより強そうに見えたぜ」

 

『・・・・・』

 

「知る必要はない!?内臓潰しの横須賀よこすかさんをナメているのか!」

 

 

その日、暗部の天敵『藍花悦』によって学園都市は多少綺麗になった。真実を知るモノはごく一部しかいない。

 

 

 

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