とある後戸の摩多羅神   作:一般通過龍

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秘匿された思惑

「念の為にもう一回確認するぞ。お前達は本当に私の二童子になる覚悟があるんだな?今なら然るべき場所に保護してもらうように図るぞ」

 

「うん、僕達は隠岐奈様の眷属になる覚悟があるよ」

 

「いいのか?二童子になるということは『超絶者』という存在みたいに別の自分になることと等しいことなんだぞ。今の自分を捨てたくなければ止めとけ」

 

「『超絶者』という存在がなんなのか分からないけど、私達を劣悪な環境から救ってもらった貴方に恩返しをしたいから、それが恩返しになるならそうするわ」

 

『後戸の世界』で魔神摩多羅神こと摩多羅隠岐奈と後に丁礼田舞ていれいだまい爾子田里乃にしださとのという二童子になる前の少女達の会話があった。

 


 

 

上条当麻と浜面仕上と藍花悦という肩書きを捨てた加納神華という三人の主役ヒーローによって魔術師サンジェルマンが撃破されてダイヤノイドの異変が解決した同時間帯。

 

ダイヤノイドという建物がある近くの公園で三柱の魔神達がいた。

 

一人は魔神『娘々ニャンニャン』。

丈の短い白のチャイナドレスと、やたらとぶかぶかの両袖。そして衣服の白を通り越して、完全に青ざめた顔色の少女。

頭には帽子、額に特異な符を付けた彼女の正体については、古代中国由来の仙人の一種の『尸解仙しかいせん』と言えば分かりやすいか。

 

魔神になった経緯は本人曰くステップアップのため。これを近代魔術風にいうと自らの位階を上げるためになる。

 

尚、まともな性知識を持っていない裏事情があることを知っている摩多羅隠岐奈は、娘々という人物は生前に何かしらの問題を抱えていて、そのことで追い込まれてしまったことで魔神に成り果ててしまった過去があるのでは?と考察している。

 

一人は魔神『僧正』。

 

枯れた古木のように固められた皺の数々と、痩せこけた体を覆い隠し、輪郭を膨らませる紫の法衣に彩られた高僧。

杖のように地を突く剣や法衣の上に重ねた絡子らくすのギラギラとした黄金はしたたる欲を感じさせる。

 

六道輪廻を越えて衆生しゅじょうを救おうとして一代で仏になろうとしたが、それを疎んだ周囲の妨害によって失敗して魔神になってしまったモノ。

 

一人は魔神『ネフテュス』。

 

チョコレート色の裸身を真っ白な包帯で覆い尽くした、長い銀髪の麗人。瞳の色は気紛れに変わり、まぶたの下には涙滴型の刺青が彫られている。エジプト神話においてオシリス神の崩御の際に大粒の涙を流したとされる女神だが、不思議とそれ以外のエピソードを全く持たない存在。

 

そんな彼女の正体はある王の墓に生贄として捧げられた人間達が死ぬ間際にせめて生きていた証をなんとか残そうとして足掻いた結果、骸の山から生まれた存在。

 

この三柱が誰かを待つように公園の出入り口を見ていた。

 

しばらくすると公園の出入り口に重なるように『後戸』が出現したのと同時に、ゆっくりと扉が開かれて魔神達が待っていた人物達が暗黒の宇宙とも呼べる秘匿された世界から現れる。

 

親が子供を引き連れるように、真ん中にいる女性が横にいる二人の少女の手を自身の右手と左手で片方ずつ繋いで仲良く歩いてきたのであった。

 

左右横にいる少女達に対して保護者のような振る舞いをしているのは『魔神』摩多羅神こと摩多羅隠岐奈。

 

金髪ロングヘアの上に冠を被っていて、緑色のスカートと北斗七星や星座が描かれている前掛けをオレンジ色の狩衣と組み合わせている服を着た女性で、ロングブーツを履いている。

 

他の魔神達と同じように彼女にも死の記号が入っている。魔神ネフテュスと同じように多くの人間達の骸と知識と記憶が素材となって形成された神だ。その中に転生者がいて、摩多羅神を構成するコアになっていることから摩多羅隠岐奈も転生者ともいえるかもしれない。

 

そんな彼女が持つ肩書きは後戸の神、障碍の神、能楽の神、宿神、星神、地母神、土地神、竈の神、養蚕の神、岐の神、吉兆を告げる神、鬼子母神、奇神、夜叉神、守護神、護法神、祟り神、疫病神、荒神、被差別民の神等の多岐にわたる。そして道教、仏教、神道、ヒンドゥー教、民間信仰に存在する色々な神格の要素をシンクレティズムこと神仏習合で持っている、本当に『謎』が多い『秘神』だ。勿論、内包している神格を数えたらきりがない。例として一部を挙げたら北斗星君、泰山府君、稲荷神、歓喜天、荼枳尼天、スサノオ、妙見菩薩、毘沙門天、弥勒菩薩、不動明王、大日如来、摩訶迦羅天、大国主、穢那天神、アメノウズメ、サルタヒコ、春日神かすがのかみ等だ。

 

ちなみにやろうとすれば摩多羅神はゾロアスター教のミスラ、インド神話のミトラやリシ、十字教のデウス、メタトロン、聖母マリア信仰とも関連づけることが出来る。

 

あまりにも当たり判定が大きすぎて、ここまできたら彼女という神格は神仏習合という概念の化身ともいえるだろう。

 

 

 

摩多羅隠岐奈の右手を握っている少女は海松色の髪をしている。

頭に風折烏帽子をかぶり、笹色のドレスの様な服で、白の色がある襟と前掛けはリボンの意匠が凝らしてある服装をしていた。

 

摩多羅隠岐奈に仕える二童子の片割れ丁礼田舞ていれいだまい

 

その少女と似たような服をしていて、補色の関係になっているもう一人の少女は薄茶色の髪と紫の瞳を持っていて、摩多羅隠岐奈の左手を握っている。

 

同じように摩多羅隠岐奈に仕える二童子の爾子田里乃にしださとの

 

 

この二人は、摩多羅隠岐奈が置き去りチャイルドエラーに本人の許可をとって自分の力を注ぎ込んで二童子に変化させた存在。この製造方法は『超絶者』を造る神装術と似たような技術といえる。

 

 

「あの三柱がお師匠が所属している『真のグレムリン』の皆さん?」

 

「そうだな。私と同じ魔神で一名を除いたら先輩の魔神達だ。舞と里乃、挨拶をしなさい」

 

『後戸の世界』から律儀に歩きながら魔神達が占拠している公園に入ってきたのは、摩多羅隠岐奈とその眷属とも呼べる二童子だった。

 

「僕は丁礼田舞。お師匠様に仕える二童子です」

 

「私は爾子田里乃。舞と同じ二童子よ。『秘神』のお師匠様に仕える身として皆様とよく顔を合わせることになるわ。よろしくお願いします」

 

丁礼田舞がぎこちなく自己紹介する横で、爾子田里乃が自然体を保ちながら笑顔で主と同じ魔神に自己紹介と挨拶をした。

 

二童子に挨拶された三柱の魔神達の反応は・・・・。

 

「お主達が仕える主人と同じ仏教関係の魔神の僧正じゃ」

 

「私はネフテュス。必要な犠牲生贄として扱われて死んだ存在に異を唱える女神よ」

 

「隠岐奈ちゃんと同じ魔神で娘々。こちらこそ長い付き合いになると思うからよろしく!」

 

魔神達はフレンドリーに挨拶と自己紹介を二童子に返した。

 

「二童子の里乃ちゃんや舞ちゃんに誤解を与えないように伝えたいことがある。隠岐奈ちゃんが言った後輩の魔神はあそこにおる僧正というジジイだ」

 

「えっ!?てっきり僧正様が一番年上の魔神で娘々様が年下だと思っていました!」

 

「意外だね〜、舞。ということはお師匠様も魔神達の中では若輩の部類に入るのかな?」

 

唐突に娘々が二童子に近づいたと思うと、魔神達の年齢に関する話で花を咲かせていた。

 

仲良く話す娘々と二童子を気にしている人物がいた。ジジイと呼ばれて若輩扱いされている僧正ではない。摩多羅隠岐奈である。彼女は自分はすごいんだぞー。偉い神様なんだぞーと主張するための要素として年齢を気にしている故に、同一視しづらいが、摩多羅隠岐奈という存在を形作った存在の前世の自分を含めた人間達や摩多羅神を構成する要素の神格、世界改変等で最低でも137億歳以上あると自己申請して年齢を盛っていた。

 

そういうところが娘々にかわいらしい部分と見られて、隠岐奈ちゃん呼ばわりの原因の一つになっていることは彼女は気づいてない。

 

 

「もしかして年齢のことを気にしていた?それなら諦めた方がいいわ。娘々から見たら私以外の魔神は大体が若輩扱いになるから」

 

ネフテュスに図星を指された摩多羅隠岐奈が不満を漏らす。

 

「それでも娘々には隠岐奈ちゃん・・・呼ばわりはやめてほしいな・・・・。第三者から見たら、『秘神』摩多羅隠岐奈という神としての威厳がないように見えてしまうから」

 

「ジジイやババアと呼ばれるよりはマシじゃない?」

 

「確かに・・・・。娘々に少女扱いされてちゃん付けされる現状は恵まれている部類なのか・・・・?」

 

翁信仰や隠岐奈という名前のおかげで関連づけて、僧正みたいにジジイやババア呼ばわりされる可能性があったのか・・・?しかしその方が威厳がでるのでは?でも、ちゃん付けしても許される親しまれやすい神様と人間達が畏れ崇め奉るたてまつる、凄い神様は両立できるから問題ないのでは?

 

真剣な表情で自身の扱いに対して真面目に悩んでいる摩多羅隠岐奈を見て、ネフテュスは娘々がちゃん付けしながらよく絡んで行動する理由が分かったような気がしたのであった。

 

 

 

娘々と二童子達の話が終わったのを見て、真のグレムリンに所属する魔神達がこれから抱える問題を僧正が提起する。グレムリンメンバーが全員揃ってない状況だが問題ない。

 

「『隠世』は失われ、わしらはこうして現し世の盤上に立たざるを得なくなった。アレイスター、『原石』、そして上条当麻。色々やるべきことは山積している、というか、やる必要のない仕事を積み上げられてしまったというべきかもしれんが・・・・盤に立つ以上は黙って静観という訳にもいくまい。番が来れば否応なく動かねばならん。時の流れに身を委ね、立ち止まるという選択が許されない以上は、立ち位置に気を配る必要がある」

 

本当に魔神という存在が持つ視点は凄い、アレイスター=クロウリーや上条当麻だけでなく『原石』という異能の秘密を知ることができるからな。これに原作知識という名の神の知識を知っている私の叡智を上回る存在はいないだろう。

 

いや、よく考えたら普通にいるな。世界の過去現在未来に関する全ての事柄を確認することができる、世界の完全な縮小模型という霊装を作り出した。クリスチャン=ローゼンクロイツことヨハン=ヴァレンティン=アンドレーエ。

悔しいことだが薔薇十字団の開祖となった彼奴あやつは普通に私を上回る叡智を持つ可能性がある達人の魔術師といえる。

 

「これは名人同士の指し合いに近いかのう。わしらが駒として強力過ぎるせいもあるが、一見無意味な一手一手で局面全体が狂う可能性があるのじゃ」

 

だから下手に盤を動かすな、とは『僧正』は言わない。老人はそこまで人格者ではない。

 

『隠世』があったら、魔神達は盤を動かさない行動を選び続ける選択肢を取るだろう。だが、秘匿された世界から表舞台に引きずり出された彼らはこの世界を歩いて動かす資格持ちのプレイヤーになってしまった。

 

いうならばこれは真のグレムリンの魔神達とアレイスターがどのように盤上の世界を動かすかの読み合いだ。

ただ、イギリス清教のトップの最大主教アークビショップローラ=スチュアートこと大悪魔コロンゾンが盤上に理想送りを持つ上里翔流という駒を投入して、実質三つ巴の状況を作り上げてくる状況がやってくることを『魔神』と『人間』は知らない。

 

その未来を知っているのは摩多羅隠岐奈のみ。彼女はこれから起こる展開や原作知識を秘匿していた。自分に都合のよい世界を造るための材料として利用するために。

 

 

「じゃから可能な限り、動かす場合はこちらから手を指したい」

 

 

どの陣営が相手を出し抜けて一番の利益を得るかの駆け引きか・・・。この勝負を私好みの結末に導くのは大変だ。二童子がいるとはいえ、実質一人で動いて自分好みの物語に塗り替えようとする予定の私を見るものがいたら、マダム・ホロスと同じことをやっているといえるだろうよ。

 

私は正しい意味での全知全能を持っている神ではない。『原典』ともいえる世界では多くの人物キャラが知らない情報で出し抜かれたり、足を掬われた。それはこの世界でも変わらなかった。これから訪れる未来でもそうなるだろう。私、摩多羅隠岐奈も例外ではない。気をつけて行動しよう。

 

 

 

これからの行動方針を決めるために、抱えている問題の種を考えて整理してみる。まずはアレイスター=クロウリー。あの『人間』は『失敗の呪い』もあるし、どうせ我々、魔神達を殲滅することはできんだろう。何人かの魔神達が殺されるかもしれんが、影響はないに等しい故に別に無視しても構わん。

 

大悪魔コロンゾンの計画は『黄金の夜明け』を壊滅させたきっかけの一つになったアンナ=シュプレンゲルの体を乗っ取ったマダム・ホロスが潰すからこれも無視。残った詐欺師汚物の後始末は、主人の体を取り戻そうとしている聖守護天使エイワスがやるから放置しても問題ない。

 

こう考えると私が介入しなくても普通に世界は回るな。

 

理想送りワールドリジェクター関連の問題も無視でいいか・・・・。

自由に暴れ回っても問題ない『後戸の世界』を所持しているせいか〈新天地〉には興味がわかん。理想送りが宿った上里翔流という少年自身にも同じことが言える。アレが持つ名前の本来の意味は、神の右席の右方のフィアンマが目指した『神上』寄りだ。

 

神を在るべき郷に翔ばすために今いる場所から流されてもらう。それ故に『神郷かみさと』。実にシンプルな真名だ。中に潜むモノがいないのも納得する。だから私には理想送りが通用しないと思えてしまう。既に『後戸』という摩多羅神が在るべき郷と一体化しているから。

 

となると・・・・ひとまずの狙いは上条当麻神浄討魔幻想殺しイマジンブレイカーになるか。これを手に入れることに専念しよう。

 

 

 

仲間の魔神達とも異なる思惑で動こうと決めた彼女、摩多羅隠岐奈は誰にも気づかれないように、一瞬だけ悪い顔になると妖しく微笑んだ。

 




摩多羅神について調べていたら摩多羅隠岐奈に後方のアックアが持つ聖母崇拝の特性が入りそうになっている件。
おっきーは聖母マリアだった・・・・?
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