説教が終わった上条当麻は、屋上に造り出した桜の木を『後戸』に仕舞った摩多羅隠岐奈をじっと見つめて警戒していた。
相変わらず気安く話しかけてくるが、彼女の纏っている空気と口調が段々と変わっていく。
「上条当麻。貴方が世界の中心点ということはあながち間違った認識ではないですよ。この摩多羅神が保証するぞ?」
その雰囲気は、先程までにお巫山戯をして反省させられていた人物と思えないような変貌ぶりだ。
「・・・・まだそんなことを言っているのか。そんなのは、デタラメだ」
「文字通りに神の視点を持っている存在の言葉をちゃんと信じろよ、上条当麻。そもそも中心に立つとは、お前の自発的な行動や何かの偶然が重なった結果、とは限らんだろう?例えば誰かがそうなるようにけしかけ、上条当麻という存在を担ぎ上げたとしたら?というか、実際に体験して見ているではないか。世界という大きいスケールの定義を勝手に決めることができる存在を」
「・・・・・・」
「やっと気づいたか、察するのが遅いぞ」
この世界に存在する全てが摩多羅隠岐奈の背後の空間に日本の四季を思わせる四つの色を持つオーラとなって、集まっていることを少年に幻視させながら、『秘神』は語る。自分達がどういう存在かを。
「つまりは『魔神』だよ。この場合は私だけでなく、真なる『グレムリン』に所属する『魔神』達ということだがな」
私達だけでなく、『人間』アレイスター=クロウリーも上条当麻を中心点として目を付けて担ぎ上げていて、インデックスと上条当麻が出会うことになったのは、コロンゾンの策略だがな。
学校の屋上に冷たい風が流れていた。
上条当麻が通っている学校で行われている防犯オリエンテーションの喧騒がずっとずっと遠くから、空虚に響いてくる。
対峙する上条と『秘神』の間で、纏う空気が更に変わっていく。二人を挟んでいる空間がグニャアと歪んでいるようだ。
そのせいか、この場所に滞空回線は展開されていない。
少年の警戒の密度が膨らんでも摩多羅隠岐奈は気にしなかった。いや、むしろ歓迎しているようだ。上条当麻がどう動いても問題ない、期待通りという、と言わんばかりに。
「そもそも『グレムリン』とは科学と魔術の混成部隊の事でも、オティヌスを筆頭とする北欧系の魔術集団の事ではないぞ。『グレムリン』、既存宗教色がないプレーンな妖精の名、あらゆる宗教、神話のあらゆる魔神達が平等に参画できる組織。それが真の『グレムリン』だ」
『秘神』は告げる。
おそらく学園都市もイギリス清教も知らないと思われる『グレムリン』の本当の意味を。
「そして、本当の意味で完成された真なる『魔神』達は、世界の支配にも敵対者の殲滅にも興味がない。真の全知全能とは呼べないが、『世界』を自由に改変することで必要なものを作って、簡単に渇望を満たすことが出来るから。これは私も当てはまるぞ。自分にとって都合の良い世界を造りたいという願望があるが、その世界の対象は外でなく、摩多羅隠岐奈という内なる『後戸』世界に向いている故に。ただ、隠世という『位相』からある理由で現し世に出現する際に揃って、全員弱体化したがな」
摩多羅隠岐奈は屋上に設置されている柵をコンコンと軽く叩く。それは自身も弱体化しているということを示すための行動だ。
「・・・・・」
上条当麻は自身の強さを自由に変えて調整できる、摩多羅隠岐奈を見ていることで、彼女が語った魔神達が弱体化している事実に疑問を抱き、信じてないが。
まぁ、本来の鏡合わせの術式の効果を考えると、見方によっては弱体化と言えない最悪の変貌といえるから、少年の考えていることは正しい。そして『後戸』という特殊な力を持つ摩多羅隠岐奈によって、アレイスターによって内部構造を改竄された『魔神』達は弱体化してない二つの姿を限定的に取り戻せるから、そういう意味でも正しい。
「考えてみないか?『魔神』という全能の立場を。金銭、名誉、地位、過去、事実・・・・・さらには失われた命まで。『しあわせの世界』を身を持って体験したお前なら戦う理由が失われてしまうことが分かるだろう?」
言われてみれば、そこは不思議な所であった。
オティヌスには魔神になる、戻るという理由があった。それは『自分だけが知る、自分だけの世界』に帰るという渇望に基づいたものだった。つまり『魔神』の領域に上り詰めるために、オティヌスは人の世でもがく必要があったのだ。人間社会で我を通すために暴力という存在が必要だったのだ。
では、すでに『魔神』として存在を確立させている摩多羅隠岐奈や彼女と共に歩む他の『魔神』達には、何がある?
よほどのことがない限り、『魔神』は人と争う理由がない。攻撃されても微動だにしないのなら、反撃する理由がない。
いや、そもそも戦闘が発生するのかが分からない。大抵の存在は足切りされて勝負の土俵に立つことが出来ないからだ。
上条自身がオティヌスが見せた黄金色の『しあわせの世界』に第三者の存在がなければ、抗えなかったように。
それほど、『不足を満たす』ことが出来る、魔神は強い。そもそも魔神は『破壊』よりも『創造』が得意な『生み出す』側の存在だ。オティヌスが色々な『位相』を造って、上条当麻に地獄を見せてきたように・・・・。世界の重要な歯車たる『魔神』には、それが出来て当たり前と言うべきか。
・・・・・・なら、『魔神』は『今』、何をしたいのだろう?
不足を容易に満たせる真の『グレムリン』に所属する彼女達は、どんな不足に今、苛まれているのだ?
「簡単な事だよ。有限を極めてしまったら無に還るように、無限を手に入れてしまったら、満たされて渇望が消失する。仏教で言えば、悟りの境地だな。私は『僧正』を筆頭とした『魔神』達と違って、魔境の領域に入っていると定義しているが。これは摩多羅神が障碍の神としての側面。釈迦を悟らせまいと誘惑して、大自在天とよく混合されている魔王マーラ、叡智を獲得しようとする人間を妨害して、世の中に汚泥を撒き散らす『大悪魔』と同じような役目を持っているから、個人的にそう思っているかもしれないな。一端くらいは理解したか?上条当麻」
そう語りながら摩多羅隠岐奈は、セフィラの管理人で深淵に潜むコロンゾンと同じように樹を登る人間達に立ち塞がる障碍の神として行動していた過去を思い出していた。
「いいや、俺にはサッパリだよ。オティヌスの『理解者』なんて気取っているが、俺が知っているのは一人の女の子の話だけだ。『魔神』なんてどでかいくくりの話なんてサッパリ分からない」
「それを聞く度にこう思うよ。『魔神』としては、質が低いといえるが、『理解者』を得たオティヌスが羨ましいと。真の『グレムリン』の『魔神』達に感謝しろよ、上条当麻。15センチほどの大きさになったとはいえ、北欧の魔神が完全に消滅しなかったのは、忌々しいと思いつつも『僧正』がお前のために奇跡を起こしたからだ」
真の『グレムリン』メンバー全員で現し世に出て、さっさと上条当麻に『採点者』になってもらえるようにすぐに介入するべきだという提案を却下するから、アレイスターに唾をつけられて、オティヌスに横槍を入れられて、泥棒猫をやる羽目になるのだ。先に目を付けていたのはこちらなのに。
そのおかげで摩多羅神という存在に足りなかった要素の一つである、二童子と出会えた時点でプラスマイナスゼロになったからいいとするか。
「その『僧正』という『魔神』に伝えてくれ。打算があったとはいえ、オティヌスの命を救ってくれてありがとうと」
ふむ・・・・。『僧正』に対して上条当麻が好感覚を抱いたか。原作知識を知っている身では驚愕の変化ともいえるな。
「了解した。『僧正』に伝えておくよ。ただ、彼奴は難儀な性格をしている故に、ありがとうという言葉に『仏になれなかった者に感謝するのではない』と、返してくるのが目に見えているけどな」
『僧正』に対する伝言を上条当麻から預かった摩多羅隠岐奈は、真の『グレムリン』が抱えている問題を少年に明かす。
「私達が抱えている問題に薄々気がついていると思うから、さっさと明かすぞ。力を持て余したことで、強いだけの馬鹿な連中になっていることだ。すり合わせるために『グレムリン』という協議会を造ることになったほどな」
さりげなく自分含めた『魔神』達を愚弄しながら、少年が心の中で思っていた疑問に『秘神』は答える。
魔法名、という言葉を上条は思い出す。
魔術師が胸に刻む、『自らが道を外れてでも叶えたかった最初の願い』。皆が叶うがないと自嘲しながらも、それでも手を伸ばす事を諦められなかった宝石のような輝き。
長い長い一生をかけてでも達成するか分からなかったものが、実際にはほんの数秒でなんとかなってしまったとしたら?
後に残った『力』はどうすればいい?
これはゲームで何でも出来るチートモードを得たら、どんなに面白い、難しいといえるゲームでも最終的に虚無感を得てしまうとモノと似たような感じなのか?
「話は変わりますが。上条当麻、運命というものを信じていますか?」
また、摩多羅隠岐奈の喋り方が変わった。今度は柔らかい口調だ。
「うん、めい?」
「フフッ、『人間』が原型制御で作った科学サイドという欺瞞に満ちた、実質魔術サイドな学園都市の科学に毒された貴方の頭では、難しいようですね。分かる人が見たら、超能力は超科学や自分だけの現実といった適当な用語を偽装に使った、アレイスター=クロウリーが新しく作ったなんちゃって魔術で学園都市はテレマ僧院なことがすぐに分かるのに。失礼、話が脱線しました。上条当麻は常にこう感じていますよね、自分は不幸を背負う人間だと」
「・・・・・・」
「世の中にはどうしようもない運命というものがあります。個人の選択を超えた強大なレールというものが。結局はそれは、人間達のあずかり知らぬ所で『魔神』と『魔神』の意見がぶつかり合っているからにすぎません。そもそも『魔神』は特定の個人を害しようという気概はありませんけどね。いや、『魔神』という存在でなくても、一定以上の巨大な存在になれば、どうしても周りに影響を与えてしまいます。本当に困ったことですよ」
運不運、というと上条は自分以外では『聖人』の話を思い出す。中には自分自身が常に幸運を引き当ててしまうが故に、周りにハズレくじばかり引かせてしまうのではと危惧している者さえ。
「同じことですよ。『聖人』も。全員、強大な運命という法則に縛られた奴隷です。これは『魔神』にも当て嵌まる『法則』かもしれません。ギリシア神話のクロノスが自身の子供に討たれるという予言を覆せなかったように」
だが『秘神』は上条が考えていることを見抜いたと思うとあっさりと切り捨てた。
彼女が『魔神』も運命に縛られた哀れな存在と自嘲している理由は、神様より上の領域に足を踏み入れた経験から生まれたかもしれない。神様の向こう側の存在、『未踏級』。それを例えたら、北欧神話の神々がフェンリルに災いを齎せられるという『法則』そのものといえる。
「ただ、運命論でいえば唯一の例外は貴方になりますかね?幻想殺しのおかげで私達『魔神』の曖昧な力もなんだかんだで、一律で均されていますし。おかげで大きな波もなく上条当麻は、常に不幸でいられると訳ですね。その件については、幻想殺しというギフトを生み出した存在としては申し訳なく思います」
段々と彼女を代表とした真の『グレムリン』に所属する『魔神』達の真意が分かってきた。
では。
それならば。
「・・・・・だったら何で俺に声を掛けた?この世界ではなく、自分達の世界にしか興味はないんだろ」
「真の『グレムリン』は自分達を収めることが出来る『枠』を欲してきました。神のスケールならミミルの首、人のスケールに合わせるなら、豊聡耳神子、いや?そういう名前でしたっけ?おかしいですね、性別や姿もはっきりと思い出せない・・・・。それはそれとして、厩戸皇子、現代人に分かりやすく言えば聖徳太子。それを支えた側近のある渡来人みたいな存在を欲しているのですよ。上条当麻、私達にとって、貴方がそれに当たります」
彼女は『後戸』という『魔神』達を収めることが出来る『枠』を持っていたが、自身の自我を安定させて『魔神』より上の存在になりたいという目標抜きでも、上条当麻に本命という『枠』を見出していた。
余談になるが、聖徳王のことを彼女が正しく認識できないのは、摩多羅隠岐奈を構成する素材になった、ある転生者に原因がある。『我こそが天道だ。我の後に道が出来る』等と彼?彼女?の行動に振り回されて、和とは一体何なのか?と苦労した人生を思い出したくない故に厳重に自身の一部の記憶を封印した。『後戸』の力を使っても引き出せないように。
ただ、彼女が実際に聖徳王と直接出会うとその時代を生きた人間、転生者としての記憶が完全復活するかもしれない。
「つまり、安心ですよ。私達が求めているのは。通り一遍に皆々様に迷惑を掛けていないか、皆を均等に幸せにしているかどうか。良くも悪くも世界に影響を与える『魔神』達を無事に『採点』出来る視点の存在を求めているのです。真の『グレムリン』全体が、世界をどうするべきかを見えていない部分もあるけど、そこに上条当麻という明確な方向性を持つ軸を外側から用意できたら、安心して内側の世界に幸せに引きこもることが出来るというわけです」
「安心・・・・?『魔神』達は黙っていれば勝手に引き籠もって、俺達の知らない場所で幸せにやっていくそれだけの存在だったのか・・・・?でも、世界に影響を及ぼすとはいえ、なんで人間を気にかけるんだ?」
「理由なんかありませんよ。ただ、そういうものです。強いて言うなら心のささくれの問題というべきですかね」
「改めて言うが、何故俺を選択した・・・・・?」
「王冠を載せた竜の王、『従える力』を持つ世界を統べる王で事象の中心にいる神浄の討魔ですからよ。そもそも幻想殺しという付属物は上条当麻の魂の輝きに誘蛾灯の如く引き寄せられて、今の形になりました。つまり、貴方はそもそも世界を見渡す採点者、その歯車たる『魔神』を最初から想定して生まれてきた存在です。その証拠を今から見せてあげます」
そう言うのと同時に摩多羅隠岐奈は上条当麻の背中に『後戸』を展開すると、少年の体に隠された『何か』に刺激を与えて、右腕を切り落とさないまま引き出した。
何か見えないモノが摩多羅隠岐奈に向けて勢いよく襲いかかる。
ただし、それは口調を変えた彼女に余裕を持って片手で掴み取られた。
「こちらの方が出てきたか、成長して変質しているがまだまだ青くて弱い。完成されてない霊媒なし状態のエイワスでも簡単に握りつぶせるわけだ。幻想殺しや上条当麻が持つ本来の能力と比べるまでもない」
そして、かつてのバゲージシティで見せたオティヌスと同じように摩多羅隠岐奈の握力は容易く『何か』を握りつぶして殺戮した。
この口ぶりから察するに、どうやら彼女は『何か』の正体を知っていたようだ。それこそ幻想殺しと神浄討魔は別物なのに同一視してしまったオティヌスよりも。
「証拠を見せてやれなくて恥ずかしい限りだよ。幻想殺しが蓋になっているから自覚していないと思うが、お前は能力者だよ。それも『魔神』を殺すことが出来る強さのな。神様以下で所詮天使止まりのレベル6とは比較するのが烏滸がましいくらいにね」
オティヌスを対話による解決で救って『理解者』になるのは、この身に刻まれた知識によって理解できていたが、『魔神』の視点では、あのような結末が訪れたのが本当に信じられん。てっきり、病認定して世界を癒やすために、殺害、抹消するかと思っていたよ。
しかし、左方のテッラは幻想殺しや上条当麻の謎によくぞ気がつくことが出来たな。パナケアに値する『神の薬』という肩書きで、人が神を超えるエピソードである『光の処刑』という特徴的な術式を使う魔術師だから、気がついて当たり前といえば当たり前だがな。
「俺が能力者・・・・?幻想殺しだけではないのか・・・・?」
彼女が超能力や科学に対して詳しい理由は、インド神話に登場する神々さえも服さざるを得ない超能力を持つリシの要素があるからかもしれない。そして北斗七星繋がりもあるが、星に関する神として取得した占星術にある。古代では、占星術こと天文学は科学として扱われていたからだ。そういう意味では彼女という『魔神』は、科学サイドの『魔神』、アレイスターが目標としているレベル6以上の存在、神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くものこと、SYSTEMでもおかしくはない。
ついでに『火花』の正体を説明する。古代天文学だと星空はこの世界の写し絵で、星空を見れば世界で何が起きるか分かる。つまり惑星と星という決まった運命によって人の行動が影響を受け縛られる。占星術、魔術において基礎の基礎すぎて『火花』を逆に知らない人物が多い理由がよく分かるだろう。
魔術を使う際に『位相』を差し込んだり、弄ることで惑星の諸力が乱れて、幸運・不幸が発生して、人間は影響を受ける。だが、摩多羅隠岐奈は『魔神』である以前に、星に関する神仏を多く内包している『秘神』だ。彼女は『火花』を完全に無くすとは言わないが、流れくらいなら、コントロール出来ると断言している。
「その辺の話は今は説明しなくても問題ない。説明しなくても、お前自身が自分の能力にいずれ気がつくだろうしな。それよりも私達、真の『グレムリン』の問題を解決してくれるのを手伝ってもらえるか?妥協は出来るが、『魔神』より上の領域に入った、私の自我を安定させるという個人的な目的も。勿論、ただとは言わん。採点をお前に任せる以上、許容の範囲なら身内に甘くなるように世界を調整するし、私という美人な神様を自分の所有物、恋人にする権利もやる。つまり恋文の内容が本当になるというだ。二童子も紹介する。わがままなお前のことだ。上条当麻好みの『しあわせの世界』を造ってあげてもいいし、寺子屋、学校から無事に卒業出来るように勉強をサポートしてやるよ。そして、神浄討魔よ、その魂魄や本質に刻まれた第一の目的を思いだせ。お前なら私達真の『グレムリン』に所属する神々の採点と調整も難なくこなせるだろう」
時折、妖しく微笑みながら、語る彼女はどこまで秘匿された謎を知っているのか?自身を全知全能ではないと否定しているが、本当に全知全能のように感じる。
胡散臭く感じているが、彼女が明かした情報を鵜呑みにして、持ちかけた提案を正しいと受け取るのか、間違っていると否定した方がいいのか、どちらを取ればいいのだ。
「それにこれは、上条当麻にとっても悪い提案ではないだろう?先ほど私は、世界を揺るがす事件はお前の手の届く範囲で起きていた、と言ったよな。しかし結果に至るまでにどれだけ多くの人間達が傷つき、倒れていった?お前は事件の発生から解決まで担ってきたが、たった一度でも100点満点を取れた事はあるか?ないだろう。それはお前自身が納得していないのが、『外側』から見ても、『内側』から見てもよく分かる。・・・・ですが私達『魔神』を採点して、自分好みに世界へ手心を加えていけば、話は変わってくるはずだ」
それはそうだろう。
オティヌスを思いだせ。たった一人の『魔神』であれだけの事ができたのに、今度は有史以来全世界の『魔神』達が一斉に無条件で力を貸すと言っているのだ。願掛けに神頼み、ちっぽけな少年の声を神々の定めたレールに乗せると。しかも副作用も交換条件もなく、どこか遠く離れた場所から一方的に。
彼女は『魔神』達は弱体化していると言っていたが、それが嘘でも本当でも構わない。どちらにせよ、大抵の事件なんて一瞬で終わる。というか、そもそも事件なんて発生さえ許されるのか?
「世界に問題なしと言ってくれることで『魔神』達を安心させてくれる『採点者』になれば、上条当麻という存在は人間のままで、幻想そのものにならずに神の力を手に入れることが出来る。お前の世界はお前のものだ。北欧の魔神が見せた『しあわせの世界』顔負けの世界を作れ。上条当麻の選択肢は世界に通用するレベルのものだから容易いはずだ」
上条当麻はこれまでのことを考える。記憶は奪われ、オティヌスに殺されたけど、一応はここまでやってこられた。それでも今日まで繋げていけた。だけど目の前にいる『秘神』が言う通りに100点満点の結果だったと断言できるか。自分でも満足できない結果があったはずだ。
「さあ、『採点者』として、『魔神』の祭壇を手に入れろ、上条当麻」
そして人を堕落させる悪魔の誘惑に相応しい神様の提案に少年は・・・・・。
「その提案は残念ながら断るよ」
オティヌスの黄金の世界でどれだけ救われなかった人達の笑顔を見て、『魔神』の力で心が折れそうになっても、再びわがままを貫き通したように上条当麻は行動した。
その返答に摩多羅隠岐奈は期待通り、思った通りと言いたいくらいに良い笑顔を浮かべていた。
「障碍の神を目の前にした対応、上条当麻としての振る舞いとして、100点満点だ!!『採点者』として合格!!ここで話に乗っていたら右腕を切り落として、幻想殺しと神浄討魔の部分だけを持っていっていたよ。本当に、あまりにも素晴らしすぎて、上条当麻そのものも手に入れたくなった!!」
自身が纏っていた真面目な雰囲気を解いて、砕けた言葉遣いと態度に切り替えた摩多羅隠岐奈は、言葉を続けようとする上条当麻より先に動いた。
「二童子出番だぞ!!上条当麻を『後戸の国』ならぬ後戸空間送りにしろ!!」
「「はいはーい!!」」
上条当麻の背後から二人の少女の声が元気よく響いたと、両脇をガシっと力強く逃さないように固定する。
「何をするんだ・・・・?まさか・・・・?」
丁礼田舞と爾子田里乃に捕まった上条当麻が冷や汗を流しながら尋ねる。最悪の想像が思い浮かんでくる・・・・。さながら、今の少年の気分は絞首台に立たされた死刑囚の気分だ。
「何って?恋文に書いた通りに親睦を深めるためのデートだよ。ただしオティヌス形式の戦闘という名のデートだがな!!勿論、私以外の『魔神』達も参加するぞ。ハーレムで良かったな!!」
摩多羅隠岐奈が取った選択はオティヌスを見習って、真の『グレムリン』メンバー全員で上条当麻に無限に戦闘を仕掛けて、『採点者』兼『理解者』になって貰おうという行動だった。
「嫌だ・・・・嫌だ・・・・嫌だ・・・・」
背後の空間に展開された『後戸』から放出される『魔神』達の気配を感じながら、少年は若干の幼児退行を起こしながら、必死に力ずくで抵抗しようとする。
だが残念。人外の力には叶わない。
「僕達もお師匠様と一緒に上条勢力に加わりますから大丈夫だよ!」
「私もハーレムに加わるわ!」
嬉しくない、人員追加宣言を聞いた上条は遂にお家芸ともいえるあの言葉を悲鳴の代わりに大声で放つ。
「不幸だァァァァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「お決まりの不幸だ宣言いただきました!!これも合格です!!」
二童子と同じように笑顔を浮かべながら摩多羅隠岐奈も上条当麻の身体を拘束した。
いや、彼女達だけではない。銀の義手、浅黒い肌をした手、木乃伊そのものな乾いた手、チョコレート肌の手、絶対必中で相手を拘束する能力を持つ縄みたいな形状をした宝貝等、色々な『魔神』達が『後戸』に引きずり込もうと上条を拘束していく。
そして、摩多羅隠岐奈のせいなのか、夜ではないのに、何故かギラギラと光っている北斗七星に明るく照らされた少年が『魔神』達によって『後戸』の空間に引きずり込まれると同時に、現世と『後戸』の世界を繋ぐ扉が閉まった。
これもまた運命。上条当麻が一人で屋上で摩多羅隠岐奈と出会った時点で既に決まっていた、残酷な結末だった。
滝壺理后のAIMストーカーの進化した姿と言える能力・・・・。それが摩多羅隠岐奈のあらゆるものの背中に扉を作る程度の能力です。
(隠れた力や性質等を後戸経由で引き出したり、逆に本来の力を隠したり、他の所に後戸経由で突っ込んだり等の色々な媒体で能力を応用してやりたい放題しているおっきーを見ながら)
そして、惑星と星によって人の行動が影響を受け縛られるというリアル魔術の基礎である「惑星と星によって人の行動が影響を受け縛られる」っていう表現、禁書世界の魔術の『火花』そのものに見えますよね。これが『火花』の元ネタと自分は睨んでいます。