とある後戸の摩多羅神   作:一般通過龍

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ゴール地点がよく分からないまま、完全にライブ感で書き始めた一発ネタに近い小説が完結できるとは・・・・・。


禁断の扉の向こうは神々が住む世界

「いい加減に起きる時間ですよ、上条当麻。私の領域ホームである『後戸の世界』は現し世と違って時間と空間の概念に囚われていませんが、ずっと眠っていては困ります」

 

摩多羅隠岐奈の声が耳に滑り込んできた。

 

その時の彼女は優しい、母性を感じさせる雰囲気を出していた。

 

「まあ、私達、真なる『グレムリン』はオティヌスも知らなかった世界である『隠世』という『後戸の世界』と似たような性質を持つ『位相』で永遠という言葉が生温いと言えるほど、その世界で長時間暮らしていました。おかげで待つことには慣れています。眠りたかったら、死ぬまで寝ていてもいいんですよ。後で生き返らせますから」

 

「・・・・・」

 

ようやく、上条当麻は仰向けに倒れて寝ていることを自覚した。しかも摩多羅隠岐奈に膝枕をしてもらいながら。

 

寝ていた自分を上から覗き込んでいた、摩多羅隠岐奈の手を借りて立ち上がると、そこには奇怪な光景を少年の目の前に広がっていた。

 

「何だ、ここ・・・・」

 

何度も言っていますよ・・・・・・・・・・。私という世界そのもの、『後戸の国』と。『後戸の神』である摩多羅神である私から見ても、国というにはスケールがデカすぎて『後戸の世界』と呼ぶのが相応しいと思っていますが」

 

 

彼女という人物を象徴する宇宙世界ともいえる『後戸の世界』は、宙に色々な銀河や星々が浮かんでいた。時折、数多の『後戸』の扉が開いて、日本の原風景で見れる四季折々の幻想的な景色を覗かせている。

 

中でも一際目立つのは北斗七星だ。星神である彼女が着ている北斗七星や星座が描かれている前掛けをこの世界は反映しているのだろうか?

 

上条に分かったのはここまでであった。

 

何故、『後戸』の中に広がる世界に、『後戸』があって、扉が開くのと同時に日本の四季の景色が姿を見せるのかが、少年には分からなかった。おそらく摩多羅隠岐奈という神様は日本の四季を司る神格、側面もあるのか?と推測は出来たが。

 

「どうだ、私の世界は?感想を言ってくれ」

 

口調を変えた摩多羅隠岐奈に感想を求められた。

 

一言で言えば、奇妙で奇怪な世界だが、美しい光景だ。

 

上条当麻が暮らしている、元の世界で見ることができる、星の散らばる夜空を優に上回る幻想的な光景であった。それほど、『後戸の世界』は漆黒を照らす、神秘の光に満ちていた。

 

「綺麗だ・・・・・」

 

「そう言ってくれてありがたいよ」

 

上条当麻に『後戸』に広がる自分の世界を綺麗だと言って貰えた摩多羅隠岐奈は満更でもなさそうに笑顔を浮かべていた。

 

「摩多羅隠岐奈に聞きたいことがある」

 

「何だ、言ってみろ」

 

「俺はここに来るまで、ダース単位でいる『魔神』達が見せてきた世界と戦闘で幾千億も死にまくっているんだろう?」

 

「全員で戦闘行為は仕掛けていたが、今のところはそこまで死んでないよ。あくまでも、私達、真の『グレムリン』は上条当麻に自分達を理解してもらうために『魔神』達の世界を見せていただけだ。そもそも、オティヌスと違って心を折るつもりはないしな。後、残っているのは相互理解のために各『魔神』とタイマンで戦うことだけだ」

 

『魔神』達は、全員で上条当麻に戦闘を仕掛けたのはいいが、寄ってたかって攻撃するのは駄目だろ、貴重な反撃が貰えないと言った理由で順番に一人ずつ戦うことにしたのである。

 

 

 

ダース単位でいる『魔神』達と相互理解するために戦う。

いつになったら終わるのだろう?

とんでもない絶望が上条当麻を襲いかかってきた。

 

 

・・・・・だがやるしかない。オティヌスの時と違って、元の世界は無事だが、この世界から脱出するすべは上条当麻は知らない。隣にいる摩多羅隠岐奈の力を借りれば、上条当麻が生まれた世界に帰還することが可能だが、あっさりと断られるのが予想できる。

 

断片的にしか、真の『グレムリン』に所属している『魔神』達を形成した背景を覚えていないが、逆に考えたら、その分だけ早く終わるはずだ。

 

 

「ところでなんで、ずっと右腕を握っているんだ?」

 

関係ないことだが、先ほどからずっと恋人繋ぎをして『後戸の世界』を一緒に歩いていた摩多羅隠岐奈に上条当麻は疑問を抱いた。

 

幻想殺しイマジンブレイカーは、全世界の魔術師達の願いや祈りが具現化したモノとはいえ、幻想殺しを形成した大部分の祈りの力の大元は『魔神』達だ。つまり上条当麻神浄討魔含めて幻想殺しは私の物でもある。恋文ラブレターに書いてあった内容そのままだから疑問を持つことはないよ」

 

もっともらしいことを言って、摩多羅隠岐奈は上条当麻に対する独占欲や好意を隠していた。彼女なりのツンデレだろう。隠しているつもりだけど、もしかしたら、対象の少年にはバレバレで伝わっているかもしれない。

 

摩多羅隠岐奈を構成する材料となった転生者由来の原作知識や神浄討魔や幻想殺しを求める『魔神』としての側面もあるかもしれないが、上条当麻が不幸な人生に負けず、様々な障碍を乗り越えて活動していたことが、障碍の神や被差別民の神、疫神等の色々な神格の要素を持って司る『秘神』としての彼女の好感度を稼ぎまくったのだろう。

 

「それではボスラッシュならぬ『魔神』ラッシュの開始だ。最初に上条当麻が相対することになるのは『僧正』だ」

 

『秘神』にそう言われた少年は覚悟を決めて、『僧正』がいる世界に繋がる『後戸』を潜る。

 

 

二童子お前達、こっそりと上条当麻を皆に気づかれずに全力でサポートしろ。上条当麻が最後に戦うことになるのは、この摩多羅隠岐奈故で、いくら待つことに慣れているとはいえ、さっさと私以外の『魔神』達の戦闘を終わらせてほしい気持ちがあるからな」

 

「りょーかーい!」

 

「お師匠様が気に入りまくっている上条当麻を全力でサポートしてきまーす!」

 

二童子お前達も同様か、それ以上に気に入っているよ。それこそ我が子のように可愛いと思って愛している」

 

呼び出した丁礼田舞と爾子田里乃をよしよしと撫でて、愛でるのを終わらせた摩多羅隠岐奈は、二童子に上条当麻をサポートさせるため、『僧正』がいる場所に繋がる『後戸』を開いて、上条当麻と同様に潜らせた。

 

 

「しかし、よく考えたら『魔神』という存在は、悲哀を感じる出生や過去をしている輩が多いな。私も第三者から見たら、そう感じるのだろうか?」

 

そういう独り言を呟いた彼女は、『後戸の世界』に広がる星々を見ながら、『後戸』そのものになって、この世界と同化した。

 


 

 

右のこぶしをぶっ壊しかねない勢いで握り締めながら、上条は決死な表情で、真の『グレムリン』に所属する『僧正』に宣言する。

 

「分かった・・・・・分かったのぜ・・・・。来い!『僧正』!!その幻想をぶっ殺してやるからかかってこいやァァァあああああああああああ!!」

 

どうやら、上条当麻という人間は変なテンションになってしまったらしい。黒一色の世界で『魔神』オティヌスと戦った時と大幅に違う理由は、親睦を深めるために純粋に戦闘バトルしようぜ!と軽いノリで攻撃されて、戦い続けたのもあるが、全力で気配を遮断して背後で踊っている、二童子のサポートを受けたこともあるだろう。

 

 

つまり、不良漫画でよくある展開ともいえる、不良同士が正々堂々と決闘することで、相互理解して仲良くなるという感じに『理解者』を作ろうとした『魔神』達のノリに上条当麻は完全に乗せられたのである。

 

 

「ほっほーい!!言われずともなあ!!さあ、戦おう、真なる『魔神』達を知ろう!なあに心配することはない。お主のことを心配して考えた摩多羅隠岐奈の手によって、儂らはお主の右手、幻想殺しイマジンブレイカーで殴り倒せるレベルまでセルフであえて弱体化したからのう!!だが、攻撃力は据え置きじゃ!!そして、その全てを終えて両者の距離をゼロまで縮めた時、お主は儂らの『理解者』になり、上条当麻神浄討魔は真の『グレムリン』の『採点者』という役を負うのじゃ!!」

 

「『僧正』ォォォおおおおおおおおおお!!」

 

お互い共に変なテンションになって、『後戸』の世界で再現された『僧正』という『魔神』が生まれた時代と場所で、背中に『後戸』が展開されている両者は戦闘に入った。

 

 

 


 

 

 

「隠岐奈ちゃんて、気に入った相手には結構なツンデレぶりを見せるよね〜。皆もそう思わない?」

 

娘々の言葉にダース単位でいる『魔神』達が全員頷く。

 

「それ故に本当の意味で気に入られてしまった矮小な人間には、同情するがのう・・・・。ツンデレの障碍の神ツンの部分が強すぎて、大抵の存在は摩多羅隠岐奈の被差別民の神デレの顔が姿を見せる前に押し潰される。例外的に上条当麻には最初からデレを見せているが」

 

「あら?『僧正』が言えたことではないと思うけど?『これがお主に見せる儂の愛情表現じゃあー!!』と言いながら、他の『魔神』より誰よりも長く上条当麻と戦い続けて、押し潰していたのは、どこの誰だっけ?」

 

「ネフテュス、ご老体にツッコむな。オティヌスと同じように上条当麻という『理解者』を手に入れたが、『僧正』が自身にブーメランが返ってくる発言をする癖は完全になくなっていない。気にするだけ無駄だ」

 

真の『グレムリン』の『魔神』達は上条当麻との戦いで憑き物が落ちたように落ち着いていた。

 

そして、摩多羅隠岐奈と上条当麻の二つの存在を『後戸の世界』のどこかにある場所で観戦していた。

 

 

摩多羅隠岐奈と上条当麻は向かい合っていた。

 

「割と早い段階で二童子あの子達の存在に気が付いたのは問題ないが、何故途中からサポートをしてもらうことを断ったんだ?別にお前にとって損はなかったはずだ」

 

「そりゃ、彼女達のサポートはありがたかったよ。でも、相互理解のために一対一で戦おうと言ったのはそちらだよな。だから、正真正銘一対一で戦うために断ったんだ」

 

彼らがいたのは、第七学区の高校、その屋上だった。

少年にとって、日常の象徴。だが本物ではない。『後戸』の世界で摩多羅隠岐奈がわざわざ、しつらえた偽りの高校だ。その証拠に高校の敷地から出たら、彼女の世界が広がっていて、すぐに現世ではないと気が付くことが出来る。

 

「神様から見ても、お前は変な人間だな。自分のことを普通や当たり前といった言葉を使って、表現しているが異常だよ。二童子あの子達のサポートを受けたままだったら、あまり死なないで、もっと早く『魔神』達との戦闘を終わらすことが出来たのかもしれないのに」

 

「俺や『魔神』達の背中に展開している『後戸』によるサポートだけで充分だよ。そして、どうしてもアンタと戦う必要があるのか?俺には摩多羅隠岐奈という神様が自分の目標を既に達成しているように見えるよ」

 

「まあ、そうだな。お前が私以外の『魔神』達と一兆以上も超える戦闘を繰り返していた間、『魔神』より上の領域にいる時の私の自我をある程度安定できるようになったよ」

 

上条当麻が『魔神』達と戦っている間、摩多羅隠岐奈はあらゆる神々や謎、神秘を内包して秘匿する『後戸』という法則ルールそのものの状態をずっと維持していたのである。何度か自我が消し飛びそうになったが、世界の基準点の幻想殺しを持つ、中心点でもある上条当麻神浄討魔が『後戸の世界』にいたことで、自我を保つことが出来た。

 

ただ、そのやり方は大部分の存在が頭おかしいのでは?とツッコむ代物だった

 

最初は幻想殺しを『第三の腕』に取り込んで『神上かみじょう』に至った右方のフィアンマと同じようなやり方をしようと思った彼女だったが、逆転の発想として、上条当麻の背中に展開されていた『後戸』を通して、少年の身体の中に『後戸』という『自我』を入れてならすという、とんでもない方法を取ったのである。

 

この方法を取った理由は上条当麻に成り代わろうとした神浄討魔と自律した思考を保って、学園都市第二位のコントロールから外れた未元物質ダークマター等、暴走して本体を乗っ取ろうとした存在があるだろう。

 

人間は環境によって様々な能力を、意図して確率を変動させながら、生み出して生きていく。

 

しかし、では。

 

卵が先か鶏が先の話になるが。

 

最初から存在する能力の方が対象をじっと眺めていたらどうなる?

 

能力者や魔術師が操って振るう力そのものに、観測者として自我と確率を操る力があったら、逆説的に本体だけでなく、周りの環境まで影響を与えることになるのでは?

 

 

そう考えた摩多羅隠岐奈は『後戸』という能力そのものになって、上条当麻と融合したのである。

 

つまり、上条当麻が『魔神』達を『理解者』にして、摩多羅隠岐奈の自我を安定させることが出来たのは、少年の一時的な能力の一つになった『後戸』が確率を操る観測者として活動していたからだ。

 

 

中にいるモノと競合して大失敗する可能性がある、一か八かの作戦だったが、彼女の計画は大成功したのである。それほど摩多羅隠岐奈を持つ『後戸』という力が異質だった可能性もあるが。

 

運が良いのか悪いのか、神浄討魔の要素が摩多羅隠岐奈に入ってしまったが。逆もしかり、摩多羅神の要素が上条当麻に入った。

 

「だが、戦う理由がなくなったとはいえ、どうしても上条当麻と一対一で戦ってみたい。勝ち負け関係ない戦闘だ、すぐに終わる。神様の願いわがままを叶えてもらってもいいか?」

 

「別にいいぜ。アンタの願いを受け止めて戦ってやる」

 

幻想を壊してきた少年が神様の願いという幻想を肯定した。

 

 

 

『後戸の国』で闘争という能が始まり、人間と対象の人間と同じ土俵に立った神が一緒に舞う。

 

 

 

上条当麻の前方に『後戸』が展開された。

 

『後戸』が展開されたのと同時に彼女の長い金髪がフワァと浮かび上がり、大量の百足が髪の毛から湧き出てくきた。摩多羅神が須佐之男スサノオと習合されている故に須佐之男の伝承を再現出来るのだろう。

 

彼女の髪から生まれた百足が糸を吐いてきた。糸の正体は蚕から取れる絹糸だった。須佐之男だけでなく、養蚕の神としての要素もあった術技だったか。

 

「秘儀『神秘の玉繭』

 

糸は幻想殺しで消せたが、コンマにも満たない時間でいつの間にか屋上を埋め尽くすほど増えた、百足達による数の暴力は、流石に捌き切ることは完全に出来なかった。左足、右足、左手と、蚕の性質を持った百足達が上条当麻を糸で絡め取って、『後戸』で繋がっている根の国に招待しようとする。

 

そこに引きずり込まれたら、最後、確実に死ぬだろうという確信が上条にあった。

 

玉繭たままゆにされそうになった上条当麻は、完全に身動き出来なくなる前に、先に前進して、幻想殺しで根の国に繋がる『後戸』の扉部分を触って、消失させた。

 

「対処の仕方としては正解だ。次は穢那天神えなてんしんでもある摩多羅神としての攻撃だ」

 

穢那天神とは、出産のときに胎児を包み込んでいる胎盤、胞衣えなを神格化した神とされる。

女性の不浄性を強く連想させる物を逆手に神聖化した神で、不浄な物を浄化する力を持つ火神とされて、生殖能力を神格化した地母神とされる。

 

「秘儀『穢那の火』

 

穢那の火が一瞬で『後戸の世界』全体に広がる。屋上を埋め尽くしていた百足達は、不浄なモノと見なされて、焼き尽くされた。逆に言えばそれ以外のモノは炎に包まれたままだが、不浄認定されずに完全に焼かれなかった。絹糸に包まれた上条当麻はそもそも炎に包まれなかった。不浄かどうかは本人が決めるのだろうか?

 

「絹は神の衣、清浄な糸と呼ばれる。不浄ではないことは養蚕の神でもある私が保証するぞ」

 

ただ、無理に絹を剥がしていたら、『ドラゴン』要素を持っている上条当麻神浄討魔を穢那天神の火が不浄なモノと見なして焼いていたがな。

 

自身に向かって走ってくる上条当麻を目の前に摩多羅隠岐奈は余裕そうだ。

 

『秘神』の姿が光に包まれていく。いや、摩多羅隠岐奈の身体そのものが光を発している。

 

 

「後符『絶対秘神の後光』

 

違う!!これは摩多羅隠岐奈の身体があまりにも美しすぎて、光が発せられているように見えるだけだ!!

 

上条当麻の直感はそう判断をした。

 

だが、実際に彼女が光を放っているのはどういうことだ!?周りの物体に影が形成されているのではないか?矛盾している!!

 

生物、無生物関係なく、彼女の美しい姿を輝かすべく存在感を薄めて、消失していく!あらゆる存在、世界そのものが彼女の美貌に歓喜している!!

 

そして、あらゆるモノから色が消失していく。摩多羅隠岐奈の美貌に、自身は相応しくないと思って絶望し、彼女の美貌を引き立てるために光を無数に提供していく。『後戸の世界』に広がった穢那の火も光になって彼女に集っていく。

 

この光という名のレーザーに当たったら、自身も色を失うのと同時に光になって、摩多羅隠岐奈の美貌を輝かせる後光になって取り込まれるだろう。

 

だが、上条当麻がした対応はただ一つ。摩多羅隠岐奈に向かって走るだけ。

 

それだけで、レーザーが上条当麻に当たらないように自発的に避けていく。おそらく、光が勝手に少年を彼女という神様の美貌に惹かれた同志と認定して避けているのだろう。

 

尚、この時の摩多羅隠岐奈を知覚したり、後光に当たった相手は『美しすぎて耐えられない』という感想を抱いて、魂ごと身体が焼かれて消失するという効果があったが、上条当麻が平気だった理由は似たような体質を持つ『魔神』キメラと戦っていたおかげもあった。

 

 

上条当麻が、摩多羅隠岐奈の眼前に迫ってくる。後、もう少しで少年が自慢とする右手の射程圏内に彼女を収めることができる。

 

 

「秘儀『七星の剣』

 

『秘神』の後光に負けず、彼女の頭上でずっと光り輝いていた北斗七星が七条の光になって対象に降り注ぐ。

 

降り注いだ先は上条当麻でなく摩多羅隠岐奈の右手。

 

宙に掲げていた右手に北斗七星から放たれた光が収束していく。掌に生み出されたのは北斗七星と黒い竜が意匠された剣。倶利伽羅剣くりからけん要素がある七星剣。

 

ただ、摩多羅隠岐奈が持っている七星剣は破邪や鎮護の力だけでなく『ドラゴン』の力も宿っていた。

 

竜。財宝を『秘匿』する番人。

善悪の二元論を丸ごと横断する存在。神もまた、和魂と荒魂という、善悪の二元論を横断する。

 

摩多羅神と密接に関わっている北斗七星、それは龍神、天龍座と呼ばれる。そして、摩多羅神と習合している不動明王は北斗七星に関係あり、倶利伽羅竜王という竜の姿を化身として持っている。

 

迫ってくる上条当麻の右腕の拳に向けて、摩多羅隠岐奈が北斗七星から生成した七星剣を振り下ろす。

 

幻想殺しが宿ったけんと『ドラゴン』が宿ったけん

 

使い方によっては、世界の良くない部分を優しく癒やす、冷たく切り取ることが出来る二つの力がぶつかる。

勝ったのは━━━━。

 

 

幻想殺しだ。

幻想殺しが上条当麻の能力を抑え込んで、幻想のような『超人』から普通の人間と、少年が自身を自称できるスペックにしていることを考えると、『ドラゴン』に幻想殺しが勝利したのは至極当然の結末だ。『秘神』が少年と同じ土俵に立たず、自身の力を全力で出していたら話は別だったが。

 

 

七星の剣が幻想殺しによって、弾き飛ばされた挙げ句、空中分解して消失していく。

 

上条当麻の右拳が摩多羅隠岐奈の顔に迫る。

 

だが、

 

「なんだ、自慢の右手で殴らないのか」

 

上条当麻は自身が放った右拳を摩多羅隠岐奈の顔面に当たる直前、ギリギリで止めていた。

 

「摩多羅隠岐奈。アンタは、最初から俺を殺す気なんてなかっただろ?」

 

「殺意を感じさせる攻撃をしていたし、この世界に引きずり込んで、お前に地獄を体験させたりしたぞ。私を思い切り殴る理由はいくらでもあるはずだ。何故殴らなかった?」

 

「アンタが優しい神様だからだよ。真の『グレムリン』の皆も言っていたぜ。摩多羅隠岐奈は人間のことを誰よりも真摯に自分なりに考えて行動していた神様だと。それに元の世界の学校の屋上でゲンコツをしてしまったから、それで問題ないだろ?」

 

「元の世界のゲンコツでチャラにするのか・・・・。そして、私は優しくはないよ。摩多羅隠岐奈という神様は基本的に善性ではあるが、善人とは決して言えない」

 

自然体になった摩多羅隠岐奈と上条当麻が『後戸の世界』で再現された、北斗七星を中心とした星々の光に照らされた、とある高校の屋上で会話をする。

 

「俺が断言する。摩多羅隠岐奈という神様は優しい神様だと。実際、先ほどの攻撃は、上条当麻という人間に土俵を合わせていたとはいえ、こんな頭を持つ自分にも分かりやすい攻略法があった。そして、『後戸の国』ならぬ世界に俺を引きずり込んだのは元の世界で暮らしている人間達を筆頭とした全部の存在のことを考えた結果、真の『グレムリン』によって発生する被害を減らすためもあるためにそうしたのだろう。最後にアンタは攻撃こそすれど、俺を一回も殺さなかった。攻撃も『魔神』達と比べて手加減していた。これだけでアンタが優しい神様だと確信できる」

 

上条当麻が摩多羅隠岐奈が優しい神様だという証拠を並べていく。

 

証拠を並べられて、上条当麻に優しい神様だと断言された彼女という神様は━━━━。

 

「そこまで私の行動の意味や本質を見抜いていたとは・・・・。完全に負けたよ。上条当麻」

 

反論できずに白旗をあげた。

 

どうやら自分の内なる《意志》に忠実に動くと決めても、彼女という神様は根っからして、優しい神様でありたいと願っていたようだ。だから、被差別民の神として上条当麻を気にかけて、『魔神』達との戦闘をサポートしていたのだ。

 

「戦闘も終わったし、私の『理解者』と呼べるレベルまできたな。お礼に願いを叶えてやろう。今の私なら、どんな願いも叶えられるぞ。失った記憶を取り戻すことも、最初の『理解者』になった『魔神』オティヌスの身体と力を元に戻すことも、世界全体を優しい世界にすることも、神を超えた神である絶対秘神の力で叶えられない願いは存在しない」

 

「元の世界で言った通りに改めて断るよ。願いはない、『当たり前』の日常さえあればいい。しいて言うなら元の世界に帰ることくらいだ」

 

「無欲といえばいいのか・・・・。もう一度言うが、神様から見ても本当に変な人間だな、お前は」

 

呆れた顔で摩多羅隠岐奈が元の世界に繋がる『後戸』を展開する。

 

「何か困ったことがあれば神々を頼れよ。いつでも手伝ってやる。そして、私が『後戸』を利用して作る、異界である幻想郷をいつか観に来てくれ」

 

「分かった。でも、なるべく神様達の手は煩わせないようにするため、そうならないように頑張るよ。そして、アンタが造る幻想郷という場所は文字通りに幻想的で美しそうな場所だ。ちゃんと観に行くよ」

 

『後戸』の宙に広がる綺麗な星々を摩多羅隠岐奈としばらく、一緒に見たと思うと、『後戸』に向かって歩いていく。

 

散々な日だったが、好みのタイプとはいえ、恋人にするのには、恐れ多くて釣り合いが取れないと思ってしまう。摩多羅隠岐奈という神様から恋文ラブレターを貰えて、知り合えただけでお釣りが来る良い日だった。

 

そう考えて、上条は元の世界に繋がる『後戸』を潜って、現世に帰っていった。

 

 


 

 

幻想郷━━━━。

 

そこは世界に必要とされないで、忘れ去られた存在が辿り着く神秘的な場所。

 

本来は東方Project世界にあって、とある魔術の禁書目録世界にはない異界だが、『魔神』より上の領域に入った摩多羅隠岐奈の力によって、完全なる無から生成された。そのおかげでもう一つの世界とも言える広大な異世界と呼べるレベルになっていた。最早『位相』とはいえないだろう。

 

勿論、世界の強度もばっちり。『魔神』のような世界を壊せる強さを持つ存在が暴れ回っても壊れない。

 

そこで、真の『グレムリン』の神々は元の世界から招いた妖物や人間達と一緒に仲良く神社で宴会をしていた。

 

 

 

「しかし、儂らが存在していたゴム紐みたいな世界に、平行世界や並行世界、完全なる異世界とも呼べる外の世界が無尽蔵に存在することは驚いたぞ」

 

「私も驚いたぞ。知識として知っていたが、時空因果律制御機構タングラムと輪廻女神サリナガリティーナが本当に存在することに」

 

大きな桜の木々の下で神々が座って、桜の花を見ながら思い思いに食事をしていた。大多数の神々や妖怪、人間達が酒を飲んでいたが『僧正』だけが酒を飲んでいなかった。幾ら破戒僧認定されて、そう在れと歪んでも、衆生を救おうとした高僧としての自分としての気持ちが残っていたように、酒は飲まないと決めているのだろう。

 

「それにしても世界の完全なる外側の場所にこの幻想郷を造るなんてやるじゃない。絶対に観測出来ないここだったら、隠世を『人間』に壊されたような事態が起きないわ」

 

タングラムやサリナガリティーナ、未踏級と同じ規模になった『後戸』を移動手段に使うことで、真の『グレムリン』の神々は、自分達が暮らしていた世界から、文字通りに新天地と呼べる外の世界、異世界や平行、並行世界に行くことが出来るようになったのである。

 

そんな『魔神』達の願いを全て叶えた立役者の一人である摩多羅隠岐奈は、アレイスター=クロウリーに壊された隠世の二の舞にならないように誰にも観測出来ない場所、世界の外側に幻想郷を造った。

 

「お師匠様凄いわ!」

 

「絶対秘神の肩書きは伊達ではありませんね!」

 

「皆のもの、崇めるがいい!!この究極の絶対秘神であり、幻想郷を造った龍神でもある、摩多羅隠岐奈という賢者を!!」

 

周りから褒められて、いい気分になっている摩多羅隠岐奈だった。

 

そんな風に鼻を高くしている摩多羅隠岐奈の元に『魔神』娘々が、ある人物を連れてきた。

 

「わたしと同じ仙人達を連れてきたよ。隠岐奈ちゃん!」

 

「前に娘々が語ってくれた、地仙や天仙の連中か?どんな仙人だろうが、威風堂々たる神秘である私の威光には負けることが確定だがな!!」

 

「変わった仙人だから、摩多羅神の威光には負けないと思うんだ。それに・・・・隠岐奈ちゃんにも関連がある人物だから、誰なのかがすぐに分かってサプライズにならないけど、楽しみにしてもいいよ」

 

「ほう、それは・・・・。楽しみにするよ」

 

しかし、誰だ?私と関連がある仙人なんて・・・・。摩多羅神という神格の判定がデカすぎて、逆に心当たりがありすぎる故に分からないな。

 

「いつの間にか『秘神』と名乗る偉そうな神になっているなんて驚いたよ。聖徳王の近臣であった渡来人がな」

 

「貴方様は!?もしや!!」

 

『魔神』娘々が連れてきたある人物を見た瞬間に、ある意味、摩多羅隠岐奈の人間時代とも呼べる、彼女の核となった転生者としての記憶が完全復活した。

 

「我こそが天道だ。我の後に道が出来る。人間時代のお前には、聞き覚えがある言葉だろう?」




これにて完結です。
プロットを組み立てないで、アドリブで書いていましたが無事にゴールすることが出来ました。
気が向いたら後日談とか書くかもしれません。
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