想起「魔導士の手記」
コレは記録、遠い世界。どこか誰かの、記憶のカケラ。
ー◇────ー
『魔力』、それは万能の力。
あらゆるものに含まれ、世界を形作る普遍的な力である。
そして、それを何かしらの媒体を経由して、操る高貴なる者こそが『魔導士』だ。
だが「私」に言わせてもらうならば『魔導士』とは、魔力をエネルギーとして認識し、それを扱うただの『技術者』である。
間違っても神が与えた特別な力ではないし、血に宿る不思議で気高い物ではない。
しかし同時に、夢を見るに足りる将来性は十分にあるエネルギーと言えよう。
魔力は熱と違い、流動的ではない。
熱のようにただ少ない場所へ拡散していくのではなく、より多い場所へ集まり、結合する。
そう言った特徴があるが故に、人々の言う『魔法陣』は構築できるし、容易に自然物の同位体を再現することだってできる。
魔力は偉大だ。無限の可能性を感じる……
だからこそ、この世から消し去らなくてはならない。
──────
「魔王だ、魔王が出たぞ!」
「街を、人々を守れ!」
『守護の盾!』
『ウォール・ディメンション!』
何百、何千と言う人々が暮らす「マジエント」の城壁を前に、鎧を纏った守衛達がその剣を構え、一人の男に対峙する。
彼の名は「 」、この街に魔導を伝えた伝道師であり、かつては『勇者』と共に『魔王』を討った英雄
──だった。
そう、英雄だったのだ。
神々の拵えた『勇者』、そして『魔王』と言う『魔力を扱う超常の存在』を否定し、人々にその力を解放した人類史最高の英雄。『魔道王』その人であったのだ。
それが10年前。新たな『魔王』が現れるにはあまりにも早すぎるその年に、彼は……。狂った。
王都を中心とする『魔導』の研究施設。および彼の弟子とも言える者達を全て、その魔法によって消し去り、その地を去った。
理由を問いに向かった使者は消し飛ばされ、なんの関係もない人々や、復興に苦しむ無辜の魔族すら被害にあった。
『魔王』との戦いを経て、『勇者』を失った人々には対抗する手段はもう存在せず、後はただ神に祈るのみ……。
そうならなかったのは、この「マジエント」が『人と魔族が共存する地』であった為に他ならない。
人々の善意が、魔族達との友好が。かつて『勇者』が愛したその光景が一つとなり強大な敵に立ち向かおうとした結果。新たなる国。『魔道國』として、『魔王』に対抗しようとしているのだ。
そこに『魔王』が現れたのは必然。故に、全勢力を持って撃退。あわよくば封印を行う準備を行なってきた。
「手を休めるな! ここで、魔王を食い止めるのだ!」
幾重にも紋章が刻まれた巨大な盾が、蒼穹より現れる半透明の壁が、ただ一人の歩みを遮らんと展開される。
あれらはかつて勇者の扱ってきた神器を再現した盾であり、魔王の居城を絶対のものとして来た最高位の結界、その模造品である。
「よし! このまま封印をッ!?」
これには流石の魔王と言えど、苦戦は必須。その間に封印を行わんと、あげた声が、
『収束せよ……』
耳につくガラスの砕け散る様な音にかき消される。
伝令が魔導士隊に指示を出す声が遠く聞こえ、目の前の信じがたい光景がゆっくりと脳裏に焼きついていく。
『光となりて……我がもとへ……』
砕け散ったその破片が、不気味な光の粒となって男の前に集い始める。
その光が空間に干渉しているのか、半透明の壁がゆっくりと歪み初め、男の眼前の光球と反比例する様に、弱々しく点滅を始める。
「ッ……!! 門を閉じろ! はやく!」
「閉門!! 閉門!!」
『妖精の風!』
『ロックフォール!!』
『砂塵の嵐!』
『アクアドラグーン!』
危機を感じた人々が各々の最善を尽くし、後ろに背負う者達を守らんと、持てる力の全てを駆使して『魔導』を操る姿を見た男は……
「愚かな……『蝕みの光』」
ほんの一瞬、悲しげな顔をして、その光を解放したのだった。
──────
そして残るは街の残骸。
門は溶け落ち、人は消し飛び。一条のクレーターが地平へ伸びる。魔力残らぬ不毛の地。
そこに佇む男は何を思うのか。
その答えは神すら知り得ないだろう。