想起「魔族マオの契約書」
コレは記録、遠い世界。どこかの誰かの、記憶のカケラ。
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甲は、乙に対し、人里に入るに充分な身分を要求し、乙はこれを用意する。
甲は、乙に対し、いかなる理由があろうとも、危害を加える。あるいはソレに類する行為をしてはならない。
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「うわっぷ」
「ん? なんだその紙」
パッと広がって『勇者』の顔に引っかかったかと思うと、手の上で魚の形になって、ぴちぴちとその存在を主張し始める紙に首を傾げつつ手を伸ばす。
「オヤ? なんと珍しい紙ですネ?」
「ん、『魔族』の使う契約書。裏の奴らが大好き」
近づいてくる手を威嚇するかのように、虎を形作る紙を指差してアサハが言う。
……想像以上に物騒なブツである。
ソレがわざわざ『勇者』の手元に舞い込んできたってことは……
「そこの変な集団! ソレをコッチに渡せ!」
厄介ごとである。
……て言うか変な集団って……
「マー! 失礼ですネ! これでもこのチンチクリンは『勇者』ですヨ!」
「その通り。横のは山賊とかじゃないから、安心して欲しい」
……変な集団だったわ。どっからどー見ても。
すれ違ったら絶対振り返る自信あるもんコイツら。
「な、『勇者』!?」
「バカ、こんなとこにいるわけあるか!」
「そもそも最近は三人組だって聞くぞ!」
「かまうな、かかれー!」
一瞬怯んだかに見えた男達であったが、そこは荒れくれ者。なんであれ構わんと特に考える事なく襲いかかってくる。
人数は十人弱。ここに居るのが一般人ならソレはもう役に立っただろうが……
「どう考えても俺の出番すらねぇ……」
死角から現れた少女に、一番後方いた集団が気絶させられ、襲い掛かろうとした瞬間に盛大に靴が脱げてすっ転んだり、看板が吹っ飛んできてぶつかったり。
何とか目の前に来た男も、少女の右ストレートで地に沈む。
百回戦っても、絶対結果は変わらなそうな一方的な戦いがそこにはあった。
「正義はかーつ!」
「いえーい」「オホホホ」
気絶する男達を前に決めポーズをする仲間達に懐かしいものを感じつつ、意識のある男を締め上げる。
「んで? お前らは何なんだ? ちょーっと話聞かせろよ」
「は、はいぃ」
──────
その日の夜。燦々と光る満月の下で、正しく夜の闇に身を隠す『忍』を連れて、ある建物の前にたどり着く。
「闇オークションねぇ……」
「当然。この規模の街ならよくある事」
『勇者』と『道化師』はいない。
今回は二人に街の一角でショーを始めてもらう事で一般人の注目を集め、日中の騒ぎはその予行練習だったとして人々の安心も買う。
そして、その裏で俺たちが奴隷の解放を行う。と言う完璧な作戦だ。
……まぁソレは建前で、血生臭いことからは避けてもらったのだが。
彼女は最後まで、「えー! みんなでいこーよ!」と駄々を捏ねたが、問題はない。
話を聞く限り、昼間のレベルの連中しか居らず手こづる事はない。
「提案。そろそろ行くべき」
「ああ、そのつもりだ」
かろうじて聞き取れる声量で呟きながら『戦士』が眺めるのは見取り図。事前に『忍』が集めた情報によれば、街の中心にある博物館。その正面にある大階段。その裏が隠し階段になっていて地下にホールが存在するらしい。
だが、ソレとは別に搬入口として裏口も存在する。
ソレこそが日中に契約書を拾った路地に近い、この屋敷だ。
普段は締め切られたこの屋敷は、今日に限っては解錠され、正体のわからぬ荷車が出入りを続けていたという。
そして現在。
屋敷の玄関先で暇そうにあくびをキメていた2人組をそれぞれ確認すると、フードを深く被り、堂々と歩み寄る。
「よお、そろそろ交代の時間だぜ?」
「お、悪いな、暇で暇でしょうがなかったんだ」
「おいおい、誰か通ったらどうすんだ、真面目にやれよ!」
酒場にいる時並に無遠慮に、それでいて声は抑えめに話す俺の視界の先で、何かを言おうとしたもう一人の見張りが音も無く気絶させられるのを見て、ニヤリと笑みを深めつつ肩を抱く。
「誰も来やしねぇよぉ! なあ!! ……?」
「わりいな」
そう言って後ろを向こうとした男の首を捻りあげる。
泡を吹いて倒れ伏す男に、やりすぎたかと首を直しつつ、その懐から入館証とも言うべき仮面を拝借する。
確かに交代の時間ギリギリに来てやったが、そんなお仲間っぽく見えたんだろうか……
ともかくこれで、数分後に現れる本物の見張りに引き継いでやって、裏に引っ込めば潜入成功だ。
倒れた男たちはいい感じに『忍』が隠して、さらに探索を進めてくれる。
その事に、違和感を抱くようなら大したもんだが、あの様子じゃあトイレに行ってるとでも言えば通じるだろう。
そうして、数分後。無事に引き継ぎが終わった俺は労いの言葉と共に屋敷に引っ込むのだった。