コレは記録、遠い世界。どこかの誰かの、記憶のカケラ。
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この度は、本商品をご購入いただきありがとうございます。
本商品は、百年以上前に討伐された『美の魔族』。
その魔族の屋敷から発見された姿見です。
この鏡をご利用いただくと、いつまでも若々しくいられるとの伝説があります。
是非ともお試しください。
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蝋燭で照らされたステージを囲うように、さまざまな礼服に身に纏った人々が座り込む。
その手には番号の書かれた木札。
何の飾りもついていないソレを手に、
男…『魔導士』はステージを見上げる。
ここは地下オークション会場。
あまり褒められた場所では無いが、『魔力』を帯びた商品が取り扱われることもある貴重な場だ。
可能性は決して高くないが、こう言う場所で手に入れた商品から新たな発見を行える事もあり、かつて購入した魔道送風機からは『風』の変換について学ぶことができた。
今回もそう言った逸品を見つけられれば……と期待したが、やれ動く埴輪だの、名画家の人物画だの。用途はわかるが『魔力』の「ま」の字も無い商品ばかり続いては、そろそろ札も投げ捨てたくなる。
気づかれていないつもりであろうが、舞台裏も騒がしくなっており、もしや、正規軍にでも嗅ぎつけられたのでは?と邪推する者たちが一人、二人。暗がりを抜けて立ち去って行く。
…まぁ、その心配はないのだが。
そうこうしているうちに、商品は残すところ後二つ。
客足も遠のき、一角の資産家のみとなった頃に、ソレは姿を現した。
──アレは生きている
私はそう錯覚した。
被せられた布の上からでもわかる。脈動するような『魔力』の鼓動。
地下ゆえに計算され尽くした天窓から差し込む月光を受け、今か、今かと解放を望むソレに言い得ぬ悪寒の様なモノを感じる。
「いよいよ!本日の目玉商品のご紹介でございます!こちらは…」
進行役が長々とした口上を紡ぎ、その見事な口車に興奮した女性客が「はやく!ソレを見せてちょうだい!」と、叫びながら。その布を剥ぎ取ろうとするのを見て。
「『障壁』」
──思わず、そう呟いた。
瞬間、解放される吐き気すら感じる濃厚な『魔力』。
到底、人間には耐える事のできないソレを受け。ステージで破裂する肉塊を半透明な壁越しに見ながら。
二の舞は踏むまいと、眼前の障壁に『収束』を付与し……失策を悟った。
「ッ……!」
次々と収束する。夥しい数の肉塊。
再生を繰り返しながらも、何とか人の形を保とうとするソレらは徐々に、徐々に圧縮され捻れた四肢を作り出す。
頭部は真っ平なまま、肩や胸。関節といった部分に苦悶の表情を浮かべた顔を持ったソレが、収束を続けながら手を伸ばし、ある一点。姿見へ触れようとするのを確認し、ソレへ向けて駆け出す。
……こんな狭い密室では、『魔導』は使えない。私が得意とするのは『光線』。言い換えれば『熱量』である。
こんな密室……コンクリートの箱の中で使えば、際限なく熱が籠り上の建物に干渉……その後、爆発的な火災が発生するのは間違いない。
ソレが街の中心で起こるのだ。すぐに鎮火しに来るのは間違いないが。問題は、熱源が地下にある事に他ならない。
良くて、全焼。最悪の場合、収まることなく燃え続けるだろう。
「私では……無理、ですね」
そうして無理矢理に『鏡』を確保した私は、『障壁』を用いて追跡を防ぎつつ、狭い階段を駆け上がって行った。
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今回の不幸は三つある。
一つ目は、鏡の特性を理解していた。『道化の魔族』……旧魔王軍『道化師』ラッシーがこの場にいなかったこと。
二つ目は、魔力の譲渡に耐えうる筈の『魔族』がこの会場から連れ出されていたこと。
そして三つ目は……よりにもよって『収束』を得意とする『魔導士』が、『魔力』に指向性を与えてしまったことである。