想起「文化の都ガイドライン」
コレは記録、遠い世界。どこかの誰かの、記憶のカケラ。
ー◇────ー
衣・食・住!
そのどれもが、人間にとって絶対必要なものと言われています。
そしてそのどれもが手に入るのが
『文化の都』アンクル!!
円形に広がったニ層の外壁は皆様を守り、安全を約束します!
もちろん! 街道、広場は取引自由!
申請していただければ、皆様の商売を応援いたします!
博物館に入ってみれば!
名品たちが、皆様をお待ちしています!
さらにさらに!
博物館外周を登っていただくと!
燦然と輝く文化の光が皆様をお待ちしております!
──────
何かが悲鳴を上げるような、世界が歪むような音を聞き、道化が……少女が……弾かれたように顔を上げる。
視線の先には、何の変哲の無い街並み。
時間の影響もあり、まばらになり始めた人影に、馬車通り過ぎるための切り通し。
そしてその中心部たる、何も無い大広場……。
……何もない?
「オーっと……コレは……」
珍しく思考顔の道化が、視線をやる先には巨大な平地。
そこにあった筈の噴水広場は愚か、街のシンボルであった博物館すらもその姿を無くしている様子に、チラリと私を一瞥する。
「まぁ、ワタクシが、なんとかしますヨ?」
肩をすくめ、ひょうきんな雰囲気を醸し出した『道化師』は、しかし、真剣な眼差しで私の目を見て首をふると駆け出していった。
─『魔族』を倒すための『剣』は、私の背中で
『魔力』を発しながら眩く輝いていた。
──────
「な、なんだこりゃあ」
「推測。『道化師』と同じような『操魔術』では?」
「いや、そりゃわかるけどよ?」
ボロ布を見に纏った少女を抱えながら、朱色基調のパステルカラーに染まった空を見上げる『戦士』。ソレに付き添いつつ街を見つめる『忍』は、あちこちから飛んでくる石人形を砕きつつ、その結合部に使われている物に気づき顔を顰める。
「悪趣味。肉で繋げは人になるとでも思ってる?」
動きを止めた人形から垂れるのは、誰のものかもわからない血肉。
不格好に不足部位を補う形で人形を形作るソレは、『魔力』由来の発光をしながら、足元の地面に染み込んでいった。
「とにかく、この子は安全な場所に届けねぇと……いや、でもどこだ?」
「ん。なんなら私達が一番安全」
「だよなぁ」
寝心地の悪さは勘弁してくれと、片手に衰弱した少女を抱えながら、もう片方の手で盾を構え、弾きながら街を進む。
見たところ、街の中心ほど苛烈になっているようで、『勇者』達がいる外壁広場にはそう敵が居なさそうだ。なら、そちらに向かえば、合流も難しくないかもしれない。
あるいは、途中の宿屋で『魔導士』に協力を仰げるかもしれない。
そうして歩き出したその先で、見えない壁にぶつかった俺は、途方に暮れつつ、少女を寝かせ、防衛戦と洒落込むのだった。
──────
「『変換』、『固定』」
街の中心に位置する博物館の大階段に、肉の焦げる異臭が充満していた。
「『変換』、『焼却』」
無表情にその手を翳すコートを羽織った男の周囲には、赤く染まった瓦礫の山。ある一定の範囲に到達した浮遊する石人形が、ひとりでに発火し地に落ちる。
ソレの繰り返しの中で男は、欠損の目立つ石段を歩き続ける。
「来なさい。こちらです。獲物はこちら……」
少しでも広く、射角が取りやすい場所へ……その一心で階段を登り続ける。
ここは『文化の街』と呼ばれる複層構造の商業都市だ。
その一環として、文化の展示と言う手段をとり始めたこの街は、中心に博物館という巨大な建造物を設けている。
それは、人々の営みを見下ろすと言う。悪趣味極まりない趣向から来たものではあるが、関係ない。
「ッ……『障壁』」
逃げ続ける獲物に業を煮やしたらしく、その片腕を振い、弾丸の様に石段の一部を打ち出して来たのを間一髪で受けきり、足は止めずに更に上へ。
博物館前面から始まり、両脇に伸びるこの階段は、半円を描く様に建物を囲い、最上段に程近い建物の裏手で合流する特徴的な構造をしている。
その合流点、あるいは屋上の展望台であれば、遮る物もない水平方向に向けて、最大火力をぶつけられる筈だ。
そうして。高く、高く。上を目指して……
「……やはり、ですか」
目の前の、途切れた石段に深い溜め息をつくのだった。