想起「翡翠の魔導書」   作:風に逆らう洗濯物

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想起「道化師へのファンレター」

 

 

 コレは記録、遠い世界。どこかの誰かの、記憶のカケラ。

 

 ー◇────ー

 

「道化師さんへ

 

 先月は愉快なショーを見せていただきありがとうございます。

 こんな不思議な鏡までいただいて……

 

 先日もご学友と一緒に、ぬいぐるみを持ち寄って楽しく過ごさせていただきました。

 最近は体調も良くなり。久しぶりに学園に通う事ができています。

 

 えぇ、安心してください。

『月夜の晩には、おもちゃ達と遊ぶ事』

 決して忘れてはいませんわ。

 彼らも、ワタクシと過ごしてきた、大事な大事な家族ですものね。

 

 また、近いうちにお越しください。ワタクシの家族達が歓迎いたしますわ。

 

 ──────

 

「オホホホ……。……この『魔力』、そうですカ、貴女はソコに居ましたカ……」

 

 パステルカラーに染まる空の下。寂しげに呟く道化が一人。

 遠く、博物館の傍にある石段を這いずる様に登る異形を見た彼は、自身の身体が軋むのを気にも止めず。街の中心へと駆け抜ける。

 

 彼の身体は、決して頑丈ではない。

 中身は『魔力』の、生物ではない模造品。

 当時の『魔王』の気まぐれから生まれた人形だ。だからこそ、今代の『勇者』とは、一番に友好を結び、今日もこの場所に来る事ができた。

 

 そんな彼が柄にもなく、危険へ向かっていくのには理由がある。

 

 それは彼が『魔族』として知れ渡ったとある事件。その核心に至る魔道具の気配が……

 そして、そんなこと以上に懐かしい『魔力』が感じられたからに他ならない。

 

「モウ……いいんですヨ……!」

 

 その魔力に、いつかの記憶が甦る。

 彼女は不幸で優しい少女だった。

 正体不明の病。いや、『魔力』を過剰に生成する異常。に倒れ。

 青春の多くを無駄にしながらも、人里離れた屋敷で過ごし。

 迷い込んだ力無き人形を、嬉しそうに歓待した。

 

「アナタが、見せたかった劇ハ……」

 

 屋敷にあった物でショーをしてみれば、キラキラとした目で見つめ。

 真似するように、人形達に手をかざしては。

 首を傾げる様を、人形に真似されていた彼女は……

 あの日を境に、姿を消した。

 

「アナタのオトモダチが、見せてくれマシタ!」

 

 罪なき少女を『魔女』と謳い、屋敷に火を放った『人間』共。

 悲しみに、怒りに暴れる『魔族』を前に、勇敢にもオモチャの剣を取り。

 人形達と共に、立ち向かってきた『英雄』達。

 そんな記憶……。

 

「ダカら……もうイイんですヨ」

 

 気づけば、異形は止まっていた。

 身体には、光の糸が絡まり、前に進もうとした姿勢のまま、動く事が出来ず。固まっている。

 その正面には、一人の『道化師』。

 片足は外れ、岩の欠片が突き破り。光の糸が繋ぐようにかろうじて支えている。

 その傍らには、不格好な騎士の人形。並び立ったその手には、黒い筒を抱えている。

 

「ッァアァ!」

 

 異形が唸る。その手が『道化師』へと伸び……その先から、身体が解けていく。

 

「これは……」

 

 魔力が徐々に弱まっていくと同時に、その光を朱から、赤へと変化させる空を見て、私は目の前の存在を観察する。

 道化と、人形。そして小さな筒。

 

 ……アレは武器ではない。

 材質は紙で、年季の入ったその筒は、リボンらしきボロ布が巻きつけられている。

 一切の『魔力』を感じさせないソレは、どこからどう見ても、異形を滅ぼすには足りない。

 

 薄ピンク色のリボンは耐えかねた様に千切れ、騎士から道化に手渡されると同時に、スルスルと地に落ちる。

 

「卒業……おめでとうございマス」

 

 そうして受け取った道化が、僅かな動作で、花と共に紙を取り出し……

 解け、赤に染まった異形の中から、人間の手が伸びてくる。

 

 それは赤いドレスを見に纏った半透明な少女。どこか、学生服の様な、品を感じさせる少女は涙を流しながら微笑み。口を開く。

 

《遅すぎ……ましてよ?》

「スミマセン……」

 

 魔力の糸が彼らを支える様に集まり……

 大小様々な光となって、空へ登っていった。

 

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