想起「翡翠の魔導書」   作:風に逆らう洗濯物

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想起「マオの成長記録」

 

 

 コレは記録、遠い世界。どこかの誰かの、記憶のカケラ。

 

 ー◇────ー

 

 マオは賢い子だ。

 魔族であり、見た目相応の年では無い筈だが、その成長には目を見張るモノがある。

 人間の国は何かが合わないらしく、体調を崩しやすいのは変わらないままだが、魔族領に近づくにつれ、歩き回れる程度には回復することができた。

 そんな状態でも少しずつ人間の言葉も理解し、少なくとも生活に困らない程度には喋る事ができる様になった。と言えばその聡明さは伝わるだろうか。

 特に、『魔力』に対する直感は凄まじく、お陰で『魔導』の研究も、飛躍的に進めることができた。

 後は、境界の村「マジエント」を越えれば、彼女を家に帰す事ができるだろう。

 

 ──────

 

「ついた──! ……けど……」

「なんつーか……こんなだったか?」

「同意。なんだか悄悄としてる」

 

 商人たちの馬車を乗り継ぎ、ようやっと辿り着くなり村を見渡す『勇者』たち、その様子をマオと共に後ろから眺め、私は首を傾げた。

 道中。少女達が思い出話に花を咲かせながら教えてくれたが、ここ、『マジエント』周辺は土壌に恵まれず砂漠が形成されている。

『忍』の知識を頼りに、水分をよく含む『花サボテン』を食べて食い繋ぎ、巨大な芋虫状の魔物を『戦士』が叩き切りながら進んだと言う冒険譚はワクワクするものであったが、それを思えば、荒廃しているのは間違っていないはずだ。

 むしろ、その話に出てきたサボテンが見つからず。

 私にとっても馴染み深い雑草の類が道中含めて、散見される。今の方がよっぽど自然豊かではあるはずだが……

 

「せんせー、みんな行っちゃうよ?」

 

 不安げに袖を引く幼子にハッと思考を止め、足を進める。

 何かが起きているのは間違いないが、まずやるべきなのは思考ではない。

 

「大丈夫。一緒に行きますよ」

 

 知り合いの店を見つけたらしく、騒がしく駆け込む少女達を指差しながら。

 微笑み。私達は足を進めたのだった。

 

 ──────

 

「えー!? 雨が止まらない──ー!?」

 

 そう叫ぶのは我らが『勇者』その人である。

 ようやっと追いついた私達ですら、その声量に思わず耳を塞ぐのだが、おっとりとした雰囲気の女性は、空のお盆を片手に笑顔で話を続ける。

 それどころか、他の席の客達もどこか嬉しそうに『勇者』の方に意識を向けているようだ。

 

「そうなのよぉ。でもよかったわぁ。貴女達が来てくれたならもう安心ね!」

「ん、任せて欲しい。『空の塔』。いい修行になる」 

 

『忍』の言葉にワッと盛り上がる人々。

 

「っとなりゃ! 祭りだ! 狩りにでも行くか!」

「おうよ! 久しぶりにお天道様が見れるってなりゃウチの猫様も喜ぶぜ!」

「ネイティさん! 嬢ちゃん達にエール追加!」

「バーロー!! サボテンジュースに決まってんだろ!」

「ガハハハ!」

 

 と、嬉しそうな笑い声が店中に響き渡り、ようやく彼女達が話していた事が理解できる。

 土地の豊かさなんて関係なく、ともすれば街に住む人々以上に活気よく、彼らはこの地で生きてきたのだろう。

 この騒がしさを知っていれば確かに、違和感も覚えよう。

 

「おーそこの兄ちゃんよくきたな! 今からサービスタイムだぜ!」

「お嬢ちゃんもね! パインジュースでいいかい?」

 

 いつの間にか客側から店員側に移行した数人に「あらら」と呟き、きっちり勘定をとり始める女性に圧倒されながらも、とりあえず『勇者』たちの席に座り、『戦士』に話しかける。

 

「これまた……凄い人達ですね」

「だろ? 気のいい人達なんだ」

 

 どこか誇らしげな戦士の様子に、あぁ、似たような人種だったなと同意は諦め、『勇者』に頭を撫でられつつもジュースを飲んでご満悦な幼子の方に目を向ける。

 ……まぁ、この子が笑顔なら別にいいか。

 

「それで、『空の塔』と言うのは?」

 

 お冷に手をつけながら問いかける私に、ちょっと待てとジェスチャーをしながら肉に齧り付く戦士。

 

「んーこれこれ! んで、『空の塔』だったか? そうだなぁ、まぁわかりやすく言うと『ダンジョン』だよ」

 

『ダンジョン』それは、彼ら勇者一行が『魔王』を倒す旅の道すがら壊して回っていたと言う『魔物』の巣窟である。

 無尽蔵に『魔物』が湧き出すその場所は、ごく僅かな例外を除いて、発見次第破壊する事が推奨され、内部で『魔道具』を発見できる他。『コア』を破壊する事ができれば、報奨金が出ると言う冒険者にとっては夢のある場所だ。

 私とて、興味が無い訳では無く、訪れた事があるが、既存の動物に類似性の無い生き物達や、室内であると言う特徴に、断念したものだ……

 

「しかし、そこに挑む。と言うのは?」

「あぁ、それは……」

「それは! 『天の宝珠』を回収するためであるなぁ! ガハハ!」

「うお!? 村長さん!?」

 

 横割りから現れ、鉄ぐし片手に豪快に笑う偉丈夫。

 視界の端で勇者達と騒がしく話していた男が、会話に乱入してきた事に驚く戦士を他所に、酒の入ったジョッキをコチラにやり、言葉を続ける。

 

「ホレ、一杯!」

 

 飲め。と言う事らしい。

 まぁ、飲めない訳ではないが……コレが飲みニケーションという奴だろうか? 

 鼻につく匂いに、相当酒精が強いのを感じつつ、仕方なしに鉄串をサッと受け取り胃に入れ、豪快に酒で流し込む。

 

「んん……どうです?」

「ガハハハ! 陰気臭い見た目の割にやるでは無いか!!」

 

「ヒューヒュー!」という歓声が頭に響くが、アルコールが入った頭が、むしろ心地よい音量にシャットアウトしてくれて思わず頬が緩む。

 

「ククク……これでも地元では。二丁目の安酒ソムリエと……「んで、『天の宝珠』であったな?」……クク、えぇ」

 

 この御仁……酒飲みの対応に慣れきっている! 

 愉快なやり取りをする私を、珍しいモノを見たと目を見開く戦士を他所に、村長は串モノを食らいながら説明してくれた。

 

『天の宝珠』とは、要はダンジョン『コア』の事であるらしい。

 前回、私以外の勇者一行は、少ない雨に加えて、度重なる魔物の襲撃に苦戦していたこの村へ立ち寄り。偶然にも砂塵に隠れた『空の塔』を発見した。ソコで見つけた壁画にピンとキタ勇者が、報酬の前払いとして村長から譲り受けていた綺麗な漬物石を最奥にある台座に置いたところ天に光が伸び、雨が降り出した。

 とそう言う話であった。

 

「それはまた……凄い話ですね……」

「おうとも! 嬢ちゃん達はすげぇのさ!」

 

 いえ、ダンジョンコアを漬物石にしていた貴方が……と言う言葉は飲み込みつつ、思考する。

 話を聞く限り、『空の塔』はごく僅かな例外にあたるダンジョンだ。

 それも、一歩間違えば大事となりかねない特級のダンジョンである。

 ──かつて、とある活火山を棲家にする一族がいた。彼らはその火山を霊山と呼び、その地にあるダンジョンを鉱脈として利用しつつ、魔物を狩っていた。それを、外から来た冒険者がハナで笑い、ダンジョンコアを破壊してしまったが為に、数年の時を経て大噴火につながってしまったと言う。

 

 そして、今回の終わらない雨。

 ダンジョンコアの有無が逆転しているが、非常に酷似している。

 しかし、ではどうすればいいかは、全くもって思い浮かばない。

 村長のように『コア』を取り外せば良いのか……

 それとも自然に任せ、降り止むまで待てばいいのか……

 果たして……。

 

「魔導士さん! 大丈夫!?」

 

 少女の甲高い声にハッとする。

 ソコには驚いたように肩に手を置く少女と、心配そうにこちらを見る仲間達。

 視界の隅では、先ほどの偉丈夫が料亭の女将に説教を受けており、「いやぁ? 大丈夫だと思うぞ?」なんて悪びれなく返している。

 

 ……これは、勘違いさせたらしい。

 心配する皆に、謝罪と共に曖昧な笑みを返した私は、まずは一杯。少女の差し出す水を飲み干し、一度思考を打ち切るのだった。

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