コレは記録、遠い世界。どこかの誰かの、記憶のカケラ。
ー◇────ー
右を見ましょう。左を見ましょう。
ソコにあるのは砂一面……
そんな時は、上を見ましょう。
時には星が、時には太陽が。
あなたの道を教えてくれます。
それでもダメなら、下を見ましょう。
誰かの残した目印が、時に貴方を導いてくれます。
悩む事はありません。悲観する事もありません。
道は必ず、続いているのですから。
──────
「あづ〜」
おおよそ、女性の出すべきではない声を上げながら戦士にもたれかかる少女に、『魔導』で涼しくしたコートで幼子を匿いつつ、声をかける。
「『勇者』さん……『空の塔』は……まだですか?」
ピキピキと、珍しく額に筋を浮かべた私に、「ぴぇ〜!?」などと奇声を発する『勇者』に熱風をぶつけてやりたくなるものの、我慢する。
「ジ、じーくぅ……なんか怒ってるよぉ……なんでぇ?」
ヨヨヨとオーバーに泣き真似をしながら縋りつく『勇者』に若干鼻を伸ばす『戦士』。
普段なら微笑ましいで済まされる状況だが、ここは砂漠。……事の重大さを知ってもらわなくてはなるまい。
手に持った『砂漠の歩み方』などと言う、何の参考にもならない紙切れを握りつぶしながら歩み寄り。捲し立てるように口を開く。
「……なぜ、怒っているか、ですか?
いいですか? マオはまだ病み上がり。
本来では、今回の用事が終わるまでは、あの村で休ませてあげる予定だったのを……
あ・な・たが、「塔の上って綺麗だよー!」なんて言い出すから! 着いてきてしまったんですよ?
それでも、置いていこうとした私に貴女……「すぐ着くから大丈夫、大丈夫〜」と、そう言ったんです覚えていますか?
それが、な・ぜ? 日が暮れそうになっているんですか????
そもそも、な・ぜ? 村長の案内を拒否したんですか?」
「わ、わぁ……」としか言えず、いよいよもってガチ泣きしそうな『勇者』を前に、『忍』が肩を叩き、首を振る。
「残当。でも、その辺にしとくべき」
「ですが……」
尚も言葉を続けようとする私に、彼女はコートの中に手を突っ込み、幼子の頭を撫でる。
「この子が。怖がってる」
「む、……。そうですね、失礼しました」
深い深呼吸をし、思考を覚ます。
それも、そうだ。
何より、頼られる側の大人が狼狽しては、子供も安心する事はできない。
幸いにも、マオは体調自体は良さそうだ。
改めて、落ち着いて。
握りつぶした紙切れを眺めてから、なんとなしに、足元を見渡す。
「おや……コレは……」
「ん、目印。しかもなんらかの『術』で砂避けがしてある」
「『術』……」
『術』の付与というのはかなり希少である。
まず考えられるのは、『魔力』を扱う専門家、いわゆる『魔導士』あるいは『貴族』に依頼をし高額な対価の元行う方法。
しかし、この目印のように大量消費するには向かない方法だ。
次に考えられるのは、本当にコレ専用に調整された『魔道具』による付与。あるいは、それ自体の複製だが、あの村にはそのような物は無かったはずだ。
つまり最後に考えられるのは……
「『魔族』の集落ですか……」
「ん、そうだと思う」
人間よりも、『魔力』に長けた種族。『魔族』による魔術の付与。コレしかない。
と、なると。尚の事、『勇者』がマオを必要と感じた意味がわからない。
我々は人間だ。一歩間違えば人攫いならぬ、魔族攫いに間違えられかねない。
いくら、敵対の意思がないとは言え。無駄な争いに繋がりかねない選択をするとは、思わなかったのだが……
「大丈夫なのですか? 彼女は……」
「『勇者』。だけど……」
「あぁ、アイツだからこそ、問題ねぇよ」
「村だぁ! やった──! マオちゃん、いえーい!」
「い、いえーい」
能天気に走り出す勇者にギョッとしてみれば。
いつの間やら幼子片手に走り出す少女。
手を繋いで走っていくその姿は間違っても人攫いになど見えず……
「はは、かまいませんね」
「ん、いい加減慣れるべき」
「ちがいねぇな」
二人の後を追って、ゆっくりと村に入るのだった。