想起「翡翠の魔導書」   作:風に逆らう洗濯物

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想起「魔族の伝承」

 想起「魔族の伝承」

 

 コレは記録、遠い世界。どこかの誰かの、記憶のカケラ。

 

 ー◇────ー

 

 宝珠は砕いてはならぬ。

 アレらは〇〇のカケラなり。

 もしも、砕いてしまったならば、

『鍵』砕いて、宝珠とせよ。

 もしも、それでも足りぬなら、

『扉』を砕いて、宝珠とせよ。

 宝珠を護り、宝珠を恐れよ。

 いつでも我は、諸君を見守っている。

 

 ──────

 

「ふむ……なるほどわかった」

 

 額に一本の角。爬虫類を思わせる瞳をした一人の女魔族を前に俺たちは、息を呑む。

 今まさに話しているのは、『砂塵の魔族』ローザス。かつての魔王軍の一員にして、話を聞くに『空の塔』を管理する管理人だ。

 今回、俺たちが砂漠で道に迷ったのは、何も『勇者』が方向音痴だった訳じゃなく。彼女が塔を隠していたかららしい。

 

「しかし、いまだに『宝珠』と、呼んでくれる人間がいたとはな……」

 

 しみじみと呟くローザス。長生きな彼女の時代では、『コア』の事をそう呼ぶ人々もいたのだろう。『宝珠』と言う呼び方を教えてくれた村長に感謝しつつ、この様子なら許可を出してくれるんじゃないか? と、期待を込めて彼女の言葉を待つ。

 

「しかし、塔に近づけるわけにはいかない」

「んな!? なんで!?」

「お主らが人間だからだ!」

 

 複雑な表情の彼女に、その剣幕に、意味が分からず立ちすくんでいると、『魔導士』が肩を叩き、一歩前に出る。

 

「そうですね……なら。私とこの子なら……どうです?」

「ぬ……お前は……。その『魔力』の動き……。『魔術』を使っているのか?」

「えぇ、似て非なるモノですが……」

 

「ふむ……」と小さく呟く彼女に、風向きが変わったのを感じ、様子を伺う。

 そうして僅かな時間、思考を回していた『魔族』はその瞳を彼らに向けて口を開く。

 

「あいわかった、お前であれば都合もいい。それに、そっちのちっちゃいのも。特別だ」

 

 そうして、自分だけで納得した彼女は大事な事は何も告げず、足早に砂漠へと消えていこうとする。

 思わず口を開こうとして、

 

「いってらっしゃ〜い!」

 

 呑気に手を振る『勇者』に、口を閉じる。

 頷いた『魔道士』と『魔族』マオが後に続き、砂塵に消えるのを見届け、振り返った少女はふと首を傾げ、こう言った。

 

「さて、この後……どうしよっか?」

 

 ……本当にコイツは。何を考えてるんだ……? 

 

 ──────

 

「今代の……」

 

『空の塔』へと向かう道中。女の魔族が口を開く。どこか言葉を探す様子の彼女は、一歩足を止めると、幼子。マオを見ながら言葉を紡ぐ。

 

「今代の勇者は、争いを好まないとは、聞いていた……」

「ええ」「うん」

「たまに、魔族と共に行動しているとも……」

「ええ」「? ……」

「彼は、ラッシーは、楽しんでいましたか?」

「ええ、渡したい物をやっと渡せたと」「……幸せそうだった」

「そっか……。そうであったか……」

 

 しみじみと、私たちの言葉に頷く彼女に、名も知らなかった魔族へ思いを馳せる。

『文化の都』アンクル。そこでピンチを救ってくれた一人の『道化師』を……

『道化師』ラッシー。魔力で物を操る術を得意とする『魔族』であり、時に『勇者』を救ってきた彼らの仲間。

 穏やかな光と共に、消えて行った彼だが、暇さえあれば『人間』の街で行動していたと言う特徴もあり、『魔族』としては、よく思っていないのではないかと、話題にあげるのを避けていたのだが。

 こうしてみると、彼は『魔族』からも『人間』からも好かれていたのだ。と感じ、畏敬の念が湧いてくる。

 それと同時に、彼女が、『空の塔』に人間を近寄らせたがらない理由がわかってしまった。

 

「『魔力変異』ですか……?」

 

 あの事件の後、書籍を探し回り、ようやくとある古文書から発見した文言だ。

 それによると『魔力変異』とは、強力な魔力に当てられた人間が、時に異形に、時に魔族の様にその性質を変化する事になるらしい。

 

「うむ……。彼の場合は、その肉体が耐えきれずとも、どうにかしてその意識をあの人形に宿したが。あの小娘達……『勇者』達では、そこまで耐えれるか分からん」

「ええ、その通りですね……『魔力』の解放を行っていない彼女達では。肉体が耐えられない」

「ふむ……理解しているのだな。なら、結構」

 

 フッと前を向き、ローザスが目の前の砂丘に手をかざす。目には見えない力が動いているのを感じ、隣のマオが、忙しなく中空の何かを目で追っているのに感心する。

 

「『ワレモトム』『タエヌスナノ』『ミチビキヲ』『デザート・アースターダ』」

 

 聞き取れない発音に、耳を澄ませている間に。

 気づけば、目の前の砂丘に一つの道が現れていた。

 人一人しか通れなさそうな僅かな道は、すぐにも崩れて来そうな見た目の不安定さと異なり。一切の外敵を寄せ付けない要塞としての役割も持っている様で、その砂壁からわずかな『魔力』の流れを感じさせる。

 

「では、行くぞ」

「ええ」「うん」

 

 こうして私達は、砂の中へと消えていくのだった。

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