コレは記録、遠い世界。どこかの誰かの、記憶のカケラ。
ー◇────ー
『魔物』の『生物類』の中には、生物として何かを間違えたのではないか、と首を傾げる欠陥生物が生まれる事があります。
その一つが『鮫属』の魔物です。
ヤツらは陸海空全ての領域に存在し、極限まで『魔力』と馴染んだその全身を生かして、水を泳ぐようにさまざまな場所を泳ぎまわります。
『魔力』に対する感知能力もかなり高く。一度目をつけられると、逃げるのは困難と言えるでしょう。
しかしながら、ヤツらには致命的な欠陥が存在します。
ヤツらは。…目が見えないのです。
その為。進路上に壁があってもお構いなし、その魔力に程近い軟体を打ちつけては、死に体のまま捕食されていくのです。
そんな『鮫属』ですが、絶対に遭遇を避けなくてはならない場所があります。
それは『霊地』、いわゆる、霊山、霊海と言う様な『魔力』の豊富な土地です。
ソコにいるヤツらは、テンションが上がっているのか縦横無尽に飛び回ります。
右から左、上から下と。いつも以上の速度で飛び交うヤツらは、最早災害と言っても差し支えないでしょう。
決して近寄らない事をおすすめします。
──────
「せんせー、右斜め前!」
「『障壁』」
「『ロック・バレット』」
パキャ……。っと言う軽い音と共に、無色透明な壁に色が付いていくのを見ながらうんざりとして、隣の魔族に声をかける。
「コレは、何なんですか? デカい虫か何かですか?」
「魚だ。それも接触すれば身体が削れる程度の鱗を持った」
「……。なるほど。『鮫』ですね」
砂丘の間を歩く事数分。
ようやく塔らしきものが見えた辺りで、彼女が前方に岩の弾丸を打ち出し始めた時は何かと思ったが、こうして正体がわかってみると、その判断を称賛せずには居られない。
こう言った『魔力』が高まっている場所に群れで現れる。と言った習性を持つ『鮫属』の魔物だ。実際に見るのは初めてだが……なるほど。『魔力』を研究する同志がコイツにやられ続ける訳だ。
コイツは研究者には対処しきれない。仮に対処できるなら、そいつは冒険者でもやった方が稼げるだろう。
「ひだり! みぎ! うえ!」
「『障壁』『障壁』……埒が開きませんよ」
新しく張った壁が次々と、ペンキを撒いた様に塗り潰されていく。
いよいよもって前に進めなくなった事に顔を顰めつつ隣を見ると、同じように顔を顰めた女性が岩を打ち上げながら言葉を紡ぐ。
「『ロック・フォール』……ふむ、前来た時より増えておる……そちらの術でどうにかできないか?」
「殲滅は得意分野ですが……『障壁』……走り抜けるより先に補充されるオチかと」
「ふむ……『ロック・バレット』……なら、仕方なし、岩で道を作るとするか……」
彼女のその言葉に、まぁ、できるよなと納得しながら『魔導』を行使する。
「ええ……『障壁』……ちょうど四方は囲ったので。任せます」
「あい、わかった。『ワレモトム』『ユルガヌイワノ』『ミチビキヲ』」
彼女が両手を地面に向けて振るうと共に、規則的な魔力の流れが発生するのを感じ取る。
側の幼子は、ソコに生じているであろう『魔術』の公式……『魔法陣』を認識しているのは間違いなく。ぐるぐる〜と、面白そうにしながら見守っている。
「『ロック・アースターダ』」
そうして、地中より現れるのは岩の洞窟。
岩の塔まで真っ直ぐに続くソレは、頑丈そうではあるが……反響し、奥から聞こえる激しい追突音から察するに、いつ崩れるか分かったものじゃなかった。
「ふぅ……急ぐぞ」
「ええ」「おんぶすいしょー」
「なら、私が」
幼子を背負った魔族においてかれない様に、私も全力で駆け抜けるのだった。
──────
「ふむ、これはこれは……『飛翔』」
可視化されるほど凝縮された青色の魔力を認識し、上着内の『変換』術式をフル稼働させる。公式は『浮力』。
水の中にいる様に全身を『魔力』が包んでいるからこそできる芸当に、内心苦笑いしながら、上へ伸びる塔をゆったりと飛翔していく。
「ほぅ、お前の術は、空も飛べるのか?」
「いえ、偶然。噛み合いがよかっただけですよ」「ぷかぷかするー」
塔の中は一種の『結界』の様になっていた。
術式的意義を感じさせる文字列が壁一面に広がり、神秘的にも光を放っている。
節目節目。一定の高さには、まるで雲の様に足場が設置されていることから、本来であれば、その雲島一つ一つに存在する守護者を討伐し、先へと進むのであろうが……
「今回は、そのまま向かうとしましょうか」
「うむ、そうするとしよう」
今のこの状態であれば、ソレは不要だ。
製作者には悪いが、今回はそのまま。上へ向かわせてもらうとしよう。