想起「翡翠の魔導書」   作:風に逆らう洗濯物

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想起「塔の壁画」

 

 

 コレは記録、遠い世界。どこかの誰かの、記憶のカケラ。

 

 ー◇────ー

 

 彼らは何かに祈っていた。

 祈る様に座り込む無数の人々。

 中心に居る何かは、その全身を覆う様な黒いモヤを、人々に分け与えていた。

 

 黒いモヤを纏った人は、剣を持つ人々と争い、次々と地へ沈んで行く。

 

 そうしてモヤは溜まっていき、空や地が破れる様に崩れ去った。

 

 

 荒れ果てた土地を前にして。

 人々は手を取り合い、豊かな自然を取り戻して行った。

 

 そうして蘇った土地には、小さな祭壇が描かれている。

 

 ──────

 

「ここまでが、我が受け継ぐ魔族の歴史だ」

 

 おそらく、ダンジョンコアの手間。

 多くの人間が、休憩地点としてしか認識していないその場所で、壁の一部を指でなぞりながら『魔族』はそう語った。

 劣化が激しく、ところどころ崩れたその壁画は、読み取ることが難しいものも少なくないが。話を聞いてから見れば、確かにそう描かれているのが理解できる。

 

 魔王と言うべき、力を持った存在が、戦う力を求めた人々に力を与え、『人間』と『魔族』の戦いが始まった。

 その戦いで『魔力』は一箇所に沈澱し、その土地では天変地異とも言うべき現象が起こり始めた。

 そこで危機感をもった人々が協力し、土地を興し、その地の魔力を循環させる『宝珠』を安置した。

 

 ……非常にあり得る話だし、流れとしても理にかなっているのだが。少し違和感を感じる。

 そんな小さな引っかかりに唸る私を他所に、彼女は話を続ける。

 

「そして、今回。マオ嬢をお呼びしたのは、他でもない。貴女にはこの地の『魔力』を『継承』していただきたい」

「いのるのー?」

「うむ、見たところ、貴女は今、『魔力』が枯渇状態にあるご様子。全てとは言いませんが、出来るだけ『継承』していただく事で体も楽になるかと」

「たすかるー!」「……馬鹿! 危険すぎます!」

 

 元気の良い幼子の声にハッと視線を上げ、会話に割り込む。聞くだけでも無茶のある作戦だ。

 この土地一帯の『魔力』を一人の『魔族』に吸収させるなど、正気ではない。

 ポーションを一気飲みするのとは違うのだ、たとえ『魔族』であっても『魔力変異』を起こしても不思議ではない。

 

「いや、ソレがそうでも無いのだ。お前、自分の『魔術』がどう言うものか忘れてないか?」

「私の魔術……? いえ、私のは『魔導』と言って……」

 

 私の術。『魔導』は『魔術』とは異なる体系の技術だ。

『魔力』を増幅し、思うがままに生み出すのが『魔術』だとすれば、『魔導』はその逆。

『魔力』を消費し、定められた形に再現するのが『魔導』だ。

 そんな力で、『継承』を再現したとすれば……。

 

「そうか……むしろ魔力が際限なく消費されていく?」

「うむ。さらに言えば、お前の匙加減で『魔力』を残す量も調整できる」

 

 ま、上手くいけばだがな? と、ウインクを決める『魔族』の言葉に納得し、思わず肩の力が抜ける。

 

 あまりにも、都合の良い話だ。

 偶然迷った砂漠の先で、塔の現状を知る魔族に出会い、魔力異常を知り。

 運良く、魔力を消費する者と、魔力が不足してる者がおり。

 さらにその場所には、魔力を扱うに十分すぎる触媒『宝珠』が存在している。

 まるでお膳立てされているかの様な現状だが、だからこそ。

 むしろ、信用できる。

 

「いいでしょう。やりますよ」

 

 頷き、祭壇の間に足を踏み入れた私は、成功を確信し、作業に取り掛かるのだった。

 

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