想起「翡翠の魔導書」   作:風に逆らう洗濯物

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想起「始まりの継承」

 

 

 コレは記録、遠い世界。どこかの誰かの、記憶のカケラ。

 

 ー◇────ー

 

 汝。如何なる理由あろうとも、この契約を履行せよ。

 我。ここに汝の願い聞き届け、空想を描く力を授けん。

 いずれ訪れる汝の空想が、この世界を満たす時。

 我は標を辿り、汝の元へ現れん。

 

 ──────

 

 歪んだ空の真ん中で、私と魔族ローザスは、黒い霧の様なモノと対峙していた。

 

『■=€€=■』

 

「くッ……マオ!」

 

『継承』は確かに上手くいっていた。

 雲つくばかりに高く伸びる『空の塔』。

 最上階が巨大な祭壇となっており、八方を囲う柱の間から、流れる雲海を覗き魔力の流れを見定めたことで、最も効果的な位置に補助用の『魔導具』を設置。一部の魔力を変換し雲を晴らす事に成功し、後は残った魔力を『収束』し、幼子の治療を行うだけ。

 

 そうして、彼女が祈り、私が『収束』を起動した瞬間。ソレは起こった。

 ──無尽蔵な魔力の奔流。

 突然明滅する様に、濁った光を発し始めた『宝珠』から、霧の様な魔力が溢れ出したかと思うと、その足元にて祈りを捧げていた幼子を覆い隠す様に収束し、その姿を闇へと消した。

 

 そして現れる黒い影。

 

 まるでノイズが走る様に認識できない実体に、大きく広がる捻れた翼。人に限りなく近い四肢は分厚い鱗に覆われ、その両手が結晶化し黒曜石の様な鉤爪を光らせていた。

 その存在に理解が及ばず、何を失敗したのか、考察しようとして……

 

「馬鹿ッ。伏せよ!」

「ッ『障壁』」

 

 片腕が振るわれる。

 何も感じさせない自然体から振るわれたその一撃は、障壁に接触し……

 

「は? ッ!!?  ぐ、『障壁』!」

 

 一度、二度。三度。

 明らかに質の違う衝突音がその場に響く。

 振るわれたのはたった一撃。しかし、その片腕がノイズに覆われ、複雑に変光する度に音が生じ、結果的に壁が砕け散る。

 しゃがんだ拍子に宙に残されたフードが、何の抵抗もなく断ち切られ。空を裂く轟音とソレに伴う衝撃波に体が吹き飛ばされる。

 

 咄嗟に張った障壁に体をぶつけ、隙を晒しそうになるのを堪え、体を転がす。

 視界の端では、再び大振りの一撃が振るわれ、衝撃が走り砕け散る音と共に、障壁と。儀式場を支える柱が砕け散る。

 

「やむなしッ! はぁ! 『アース・ブレイク』!」

 

 ゆっくりと、獲物を刈り取るための爪を振るう『敵』に、背後から岩を纏い肥大化した腕を振り抜くローザス。

 十分な威力を持っているはずの一撃は、ヤツの頭部を打ち据え……

 

 ──その実体にノイズが走る。

 確かに頭部に命中していたはずのソレは、『敵』の手の中に収まり、ミシリと嫌な音を響かせる。

 

「ッ! ハッ!」

 

『魔族』がもう片腕を押さえつける『敵』に叩き込めば、また実体が揺らぎ、その二発共に翼で受け止められていた。

 そうして、砕けた羽を気にも止めず、中段の姿勢をとった影から、強力な刺突が振るわれる。

 

「『障壁』!」

「ッオオ!」

 

 一瞬の抵抗。瞬間に砕け散る障壁を蹴って、『魔族』が宙を舞う。

 天井を蹴って、柱を蹴って。3次元的軌道で余波を交わすと、一瞬。私の隣に着地する。

 

「『宝珠』を狙う」

「手数は任せます」

「了解ッ『アラウンド・ブレイク!』」

 

 僅かな意思疎通。しかし、その一瞬で理解できたのは経験の賜物か。

 3次元的な軌道を再開した『魔族』が、天井を、柱を、床を砕きながら中心に陣取る敵に突撃する様を見て、私も走り出す。

 

 ここまでの数撃で分かったことがある。一つは、アレが魔力変異では無いこと。あくまで実体のある存在から変異を起こすソレとは違い、ヤツはその存在自体が明らかに、不安定だ。

 そしてもう一つが、何らかの術で、被弾の際自身の動作を確定し直している事。その際、僅かな時間を消費し、再計算を行なっている。

 

 ……ゆえに。

 

「『炎弾』『停滞』『装填』『魔力弾』」

 

 何発も、何発も、敵の動きを見極めながら、空中に魔力弾を待機させる。

 彼方此方に散らばる岩の破片を縫う様に、まっすぐに標的へ向け射線を通す。

 奴が動き出すより早く、少しずつ準備を済ませる。

 タイムリミットは、奴の羽が回復するまで。

 ソレまでに……

 

「く……ゆくぞッ! 『ロック・フォール』!」

「『射出』」

 

 後数歩。敵の背後の祭壇がもう直ぐ見えると言う所で、岩の弾丸が動き出す。

 一斉に。僅かな誤差をかけて、ただ一点。『敵』に向かう弾丸は、その多くを弾かれながらも、時折、『敵』の実体をブレさせる。

 

 ソレに合わせた『魔族』の一撃が、腕を、翼を僅かに削り、一瞬の反撃に吹き飛ばされ……

 煩わし気に振るわれた腕に裂かれそうになり、頭をズラすようなノイズに、その攻撃が止まる。

 そんなギリギリの攻防を横目に見ながら、怯む事なく姿勢を低く、駆け抜けて。

 

「ッ『私は魔を操り』『ここに……』」

 

 その手に掴んだ『宝珠』をそのまま、敵に向ける。

 既にあたりの弾丸は消え、同時に放たれた敵の鉤爪を、このまま受ければ。『魔導』を放つより早く挽肉になるだけだろう……などと笑いながら。

 

 言葉を紡ぐ。

 

「『集める者』!」

 

 瞬間。『敵』の放った鉤爪が、吸い込まれる様に、『宝珠』へと振るわれる。

 ブレるようなノイズが走り。何度も歪む敵は軌道を変えるべく、何パターンもの一撃を振るうが、その全てが、『宝珠』に収束し、空中でひび割れた宝珠が、その存在を削りながら、『敵』の魔力を吸い取っていく。

 

 そうして、何通りもの現実が書き換わり、魔力がその場から尽きると共に、甲高い音を響かせた『宝珠』はガラスの様に砕け散るのだった。

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