想起「翡翠の魔導書」   作:風に逆らう洗濯物

2 / 24
想起「魔王の手記」

 

 

 コレは記録、遠い世界。どこかの誰かの、記憶のカケラ。

 

 ー◇────ー

 

「なぜ。アンタは『魔物』を生み出すんだ」

 

 決戦の最中、そんな事を問いかけてくる酔狂な奴がいた。

 力無き人の身でありながら、『勇者』の真似事をした『特異点』。

 我と同等かそれ以上の神秘を、その手に宿してしまったソレは、その神秘を一点にかき集めながら問いかけてきた。

 

「クク……我とて貴様らを害する為にやっているのではない」

 

 奴の手に現れるのは、光り輝く神秘の剣。その模造品。かつて『勇者』と共にあり、この世界から失われたはずのそれは、不相応にも『特異点』のその手元に顕現していた。

 

 ……まったく、理解していない。

 その力が何故、『勇者』なき今も現れるのか。

 その力が何故、『魔力』と呼ばれているのか。

 その力は、『何処から来ている』のか。

 

「なら、我も一つ問おう。貴様は、何故。我と戦うのか」

 

 愚かな『特異点』はその問いに対して考えるそぶりも見せず、その切先を我に向ける。

 それはいつの日かの繰り返しであり、遠い誰かを思い起こさせる。

 

「人々の為。そして道半ばにして伏した仲間の為だ!」

 

 強大な魔力に呼応するようにその存在感を増す『剣』は、目の前の獲物を喰らわんとその身を強く、鋭く変質させる。

 脈動する様に光脈が巡り、紋様を描くそれは確かに神秘的であり、その手に持つ者を『英雄』たらしめるのだろう。

 

「ソレがその決意の証だと?」

「ああそうだ、友が。『勇者』が残してくれた、希望の光だ!」

 

 正義を、それ以上に決意を感じさせるその瞳を前に、忌々しさからその剣を睨みつける。

 

 ふざけた事を……

『勇者』は決してソイツに頼らなかった。

『勇者』は争いを好まない優しい奴だった。

『勇者』はオマエの様に強くなかった! 

 

「我は……私は。貴様を『勇者』とは認めん」

「構わない、俺もお前を『魔王』などとは思っていない」

 

 ニヒルに笑う一人の戦士を前に、捨てた過去がにじり寄ってくるのを感じる。

 

「なぁ、もうやめにしないか。アイツはこんな事、望んでない」

 

 何もわかっていない脳天気な顔のまま、その『剣』を携えた男はそう呟く。

『勇者』にも劣らぬ百戦錬磨の戦士を前に、この距離まで詰め寄られたのだ。私が何をしたところで奴の勝利は変わらない。

 

 ──それなら、何も殺さずともかまわないじゃないか。

 

『勇者』のため、人と魔の共通の敵となった私の役目ももう終わり。後は隠居でもして、遠くどこかでささやかな幸せを掴んでもらえれば……

 

 そんな事を思っているのは想像するのも難くない。

 

 ──だからこそ

 

「……ふざけるな!」

 

 コイツは勘違いをしている。

 私が、そんな小さな事の為に、『魔王』を名乗っているのだと。

『魔王』がなぜ、『勇者』と分かりあう事ができなかったのかを、私が、何故『勇者』の夢を壊さなくてはならないのかを! 

 

「『私は魔を滅ぼす者』『光へと換え』『この法則を蝕む者』」

 

 私の言葉を理解できず、『特異点』が首を傾げる。『剣』は光脈を弱め、新たに言葉を紡がんと、更に一歩踏み出したその身体ごと。

 

「『蝕みの光天』」

 

 私を中心に発生した光の波に飲まれ、その『剣』と共に消滅した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。