コレは記録、遠い世界。どこかの誰かの、記憶のカケラ。
ー◇────ー
「なぜ。アンタは『魔物』を生み出すんだ」
決戦の最中、そんな事を問いかけてくる酔狂な奴がいた。
力無き人の身でありながら、『勇者』の真似事をした『特異点』。
我と同等かそれ以上の神秘を、その手に宿してしまったソレは、その神秘を一点にかき集めながら問いかけてきた。
「クク……我とて貴様らを害する為にやっているのではない」
奴の手に現れるのは、光り輝く神秘の剣。その模造品。かつて『勇者』と共にあり、この世界から失われたはずのそれは、不相応にも『特異点』のその手元に顕現していた。
……まったく、理解していない。
その力が何故、『勇者』なき今も現れるのか。
その力が何故、『魔力』と呼ばれているのか。
その力は、『何処から来ている』のか。
「なら、我も一つ問おう。貴様は、何故。我と戦うのか」
愚かな『特異点』はその問いに対して考えるそぶりも見せず、その切先を我に向ける。
それはいつの日かの繰り返しであり、遠い誰かを思い起こさせる。
「人々の為。そして道半ばにして伏した仲間の為だ!」
強大な魔力に呼応するようにその存在感を増す『剣』は、目の前の獲物を喰らわんとその身を強く、鋭く変質させる。
脈動する様に光脈が巡り、紋様を描くそれは確かに神秘的であり、その手に持つ者を『英雄』たらしめるのだろう。
「ソレがその決意の証だと?」
「ああそうだ、友が。『勇者』が残してくれた、希望の光だ!」
正義を、それ以上に決意を感じさせるその瞳を前に、忌々しさからその剣を睨みつける。
ふざけた事を……
『勇者』は決してソイツに頼らなかった。
『勇者』は争いを好まない優しい奴だった。
『勇者』はオマエの様に強くなかった!
「我は……私は。貴様を『勇者』とは認めん」
「構わない、俺もお前を『魔王』などとは思っていない」
ニヒルに笑う一人の戦士を前に、捨てた過去がにじり寄ってくるのを感じる。
「なぁ、もうやめにしないか。アイツはこんな事、望んでない」
何もわかっていない脳天気な顔のまま、その『剣』を携えた男はそう呟く。
『勇者』にも劣らぬ百戦錬磨の戦士を前に、この距離まで詰め寄られたのだ。私が何をしたところで奴の勝利は変わらない。
──それなら、何も殺さずともかまわないじゃないか。
『勇者』のため、人と魔の共通の敵となった私の役目ももう終わり。後は隠居でもして、遠くどこかでささやかな幸せを掴んでもらえれば……
そんな事を思っているのは想像するのも難くない。
──だからこそ
「……ふざけるな!」
コイツは勘違いをしている。
私が、そんな小さな事の為に、『魔王』を名乗っているのだと。
『魔王』がなぜ、『勇者』と分かりあう事ができなかったのかを、私が、何故『勇者』の夢を壊さなくてはならないのかを!
「『私は魔を滅ぼす者』『光へと換え』『この法則を蝕む者』」
私の言葉を理解できず、『特異点』が首を傾げる。『剣』は光脈を弱め、新たに言葉を紡がんと、更に一歩踏み出したその身体ごと。
「『蝕みの光天』」
私を中心に発生した光の波に飲まれ、その『剣』と共に消滅した。